平成 30 年度 修士論文
郊外駅前商業地の特有性に関する時空間分析
-店舗の遍在性と固有性に着目して-
Spatiotemporal analysis on the distinctiveness of commercial areas in front of suburban stations -Focusing on ubiquity and uniqueness of stores-
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 建築学域
17886429 隣 誠也
指導教員 吉川 徹
1. 序論
1.1 研究の背景と目的
1.2 既往研究の整理と本研究の位置づけ 1.3 本研究の流れ
2. 設定
1.1 対象駅の選定
1.2 対象駅の選定とその分類 1.3 商業特性の指標の設定 1.3 商業特性の布置
3. クラスター分析 1.1 分析方法と結果 1.2 考察
4. 重回帰分析 1.1 構築 1.2 結果 1.3 考察
5 結論
1.1 得られた知見の整理
1.2 現状の課題整理と今後の展望
6. 参考文献一覧
7. 付録
1. 序論
1.1 研究の背景と目的
0.
本研究の目的は、郊外として一括りにされがちな、近代以降に成立した市 街地=「郊外」どうしの商業特性における差異を分析し、その要因を歴史的 要因にかぎらず空間的要因からも捉えることである。より具体的にいいかえ れば、街の歴史の厚みにそれほど差のない郊外どうしでも
(a)なぜユニークな街もあればユビキタスな街もあるのか (b)なぜ立地している商店の店舗数に違いが生まれるのか というふたつの商業的な特有性における差異について (A)どのような歴史的/空間的要因に起因するのか (B)歴史的/空間的要因のどちらかの影響力が大きいのか という観点から分析することである。
1.
現在の日本国内における市街地の形成過程は、その時期に着目すると、大 きく 3 パターンに分けられる。1つ目は、城下町や宿場町等を起点にする近 世までに成立していた市街地 ( 近世市街地 )、2つ目は、鉄道の発展を背景に 近代以降成立した市街地 ( 近代市街地 )、3 つ目は、ニュータウン計画や大規 模宅地開発あるいは高速道路整備、さらには自動車を前提としたスプロール 等によって 1960 年代以降に成立した市街地 ( 現代市街地 ) である。このうち、
近世市街地の多くは、街のアイデンティティとして参照可能な歴史をもって いる。これに対して、近代市街地と現代市街地の多くには、そうした歴史が 欠落している。それは、近世市街地がたとえば下町や山手あるいは地方都市 の中心市街地として特有の名称で呼ばれているのに対して、近代市街地と現 代市街地は往々にしてたんに「郊外」と一括りにされがちであることからも 窺える
1)
。こうした郊外の様相は、ほかの街にもあるもので溢れ個性を欠いて いる街としてネガティブに捉えられることが多い2)
。しかしながら、たとえば首都圏の郊外を考えてみても、行政主導の団地開 発やニュータウン事業による市街地、私鉄による民間開発によって形成され た駅前市街地、学園都市構想のもとで造られた市街地など、実際には郊外の 内実は多岐にわたる
3)4)5)
。このように郊外の来歴を整理してみると、歴史を 欠いたどこにでもあるような街として認識されがちな郊外にも、それらの特1)塚田修一他:『国道 16 号線スタディー ズ』,青弓社,2018.05
2)三浦展:『ファスト風土化する日本-
郊外化とその病理-』,洋泉社,2004.09
3) 山 口 広 他:『 郊 外 住 宅 地 の 系 譜 - 東京の田園ユートピア』,鹿島出版会,
5
市街地の特有性には、歴史的要因による部分が少なくないことが予想され る。しかし、街の歴史の有無や長短そのものは、ひとつの事実でしかない。また、
さきほど確認したように、街の歴史の厚みにそれほど差のない郊外どうしで も、市街地の特有性には差異があると考えられる。こうした見地に立てば、
建築学の観点から重要なのは、どうして歴史的な要因が街の特有性に影響を 与えるのか、歴史的な要因と空間的な要因ではどちらのほうが特有性の獲得 に対して影響力を持つのか、などを分析することである。こうした分析がな ければ、歴史の影響を過大に見積もり、同時に、近代市街地以降の歴史を欠 いた多くの街を、均質的でどこにでもある街として過小に評価することにな る。あるいは、近代市街地以降の多くの街には特有性がないことが仮に正し くても、その原因を歴史的要因だけに帰着させることになり、結局は空間的 なパースペクティブを欠くことになる。そうではなく、私たちが取り組む必 要のあることは、街の歴史の厚みにそれほど差のない郊外どうしでも市街地 の特有性には差異があるのだとすれば、その差異はどうして生まれたのかを 探ることではないだろうか。
2.
ここまで、特にことわりもなく「市街地の商業的差異」という言葉を使っ てきたが、本研究においてそれが具体的になにを指すのを明確にしたい。
差異とは、ようするに市街地
A
がほかの市街地とは異なるということであ る。ではなにが異なるのだろうか。むろんそれは見方によるが、さしあたっ て直感的によく理解できるもののひとつは、「この街にしかないもの」がどれ だけあるのかという指標だろう。「この街にしかないもの」がたくさんある街 は、たしかに他の街と比べて差異があるといえそうである。ただし、このと き肝心なのは、「どれだけ」という言葉がなにを指すのかということだ。この 点を明確にするために、簡単な思考実験をしてみよう。市街地X の特徴を
市街地 X(この街にしかない商店の店舗数,この街にある全商店の店舗数)
と標記するとする。まず、次のような 3 つの市街地を考える。
市街地
A
(7
,10
),市街地B
(70,100
),市街地C
(700
,1000
) これら 3 つの市街地の「この街にしかない商店の店舗数」の比率は、すべて 0.7 である。このことから、3つの市街地には差異がないと判断することは妥当だ ろうか。あるいは、次のようなべつの 3 つの市街地市街地
A(100,200),市街地 B(100,500),市街地 C(100,1000)
を想定したとき、3 つの市街地の「この街にしかない商店の店舗数」は、す べて
100
店舗であるから、3つの市街地の商業特性は同じものであると判断す ることは妥当だろうか。1. 序論
ごく率直に、これらふたつの判断は、市街地どうしの差異を正しく反映で きているとはいえない、といっていいだろう。ここから分かることは、市街 地の商業的差異を考えるとき、「この街にしかない商店」の比率と店舗数の、
どちらか片方だけを考えるだけでは、正しく差異を捉えられないということ である。市街地の商業的差異を把握するためには、「この街にしかない商店」
の比率と店舗数の両方を考慮しなければならない。
ただし、ここでもういちど、そもそも「この街にしかない商店」の観点の みで市街地の商業的差異を考えてよいのか、ということについて立ち止まっ て考える必要がある。そのために、そもそも私たちは街に対してなにを望ん でいるのかという原点にさかのぼる必要がある。どういうことだろうか。
よくいわれるように、「ほかの街にもあるもの」は、街を均質化すると考え られる。その意味で、「この街にしかないもの」は、街をユニークな存在にす るだろう。しかし他方で、私たちはつねに「この街にしかないもの」を望む わけではない。いつでも、どこでも、だれでも一定の質の物が手に入りサー ビスを享受できることが生活を豊かにすることは、郊外ショッピングモール 等の新興巨大商業施設を論じる際に、しばしば指摘されてきた
6)7)8)
。その うえで、私たちが「ほかの街にもあるもの」に飽きることもまた事実である。だからこそ、「この街にしかないもの」にも私たちは価値を見出す。
私たちは「この街にしかないもの」だけを望むわけではない。また「ほか の街にもあるもの」ばかりでは飽きてしまう。私たちの「この街にしかない もの」と「ほかの街にもあるもの」に対する欲望は、便利であることと飽き ることのあいだで、互いに抜き差しならない関係にある。いってみれば、私 たちはこのユビキタスさとユニークさをともに求める欲望の往復運動のなか にいる。私たちは、どこにいても同じことをしたいと望みながら、ここでし か味わえないことをしたいとも望んでいる。そうである以上、市街地の商業 的差異を考える場合には、私たちはこの相反する 2 つの立場を求めているこ とを踏まえる必要がある。ユビキタス性(遍在性)とユニーク性(固有性)
をともに捉える指標を考えなくてはならない。
こうした観点に立つと、「この街にしかない商店」の観点のみで市街地の商 業的差異を考えることの危うさが浮き彫りになるだろう。「この街にしかない
6)東浩紀,大山顕:『ショッピングモー ルから考える ユートピア・バックヤード・
未来都市』,幻冬舎,2016.01
7) 若 林 幹 夫 他:『 モ ー ル 化 す る 都 市 と 社 会 巨 大 商 業 施 設 論 』,NTT 出 版,
2013.10
8)速水健朗:『都市と消費とディスニー の夢 ショッピングモーライザーションの 時代』,角川書店,2012.08
7
互いに独立しているからである。したがって、さきほど「市街地の商業的差 異を把握するためには「この街にしかない商店」の比率と店舗数の両方を考 慮しなければならない」と述べたが、私たちはこの言及をつぎのように修正 する必要があるだろう。
市街地の商業的差異を把握するためには、「この街にしかない商店」の比率 と、「この街にしかない商店」「ほかの街にもある商店」両方の店舗数を考慮 しなければならない。
具体的には、本研究では、議論を簡単にするために「この街にしかない商店」
「ほかの街にもある商店」を包括するための指標として「この街にある全商店」
の店舗数を考える。つまり纏めると、本研究は市街地の商業特性の差異を、「こ の街にしかない商店」の比率と「この街にある全商店」の店舗数の観点から 議論していく。このふたつの観点は、冒頭で示した研究の目的における(a)(b)
と正しく対応している。
ややくどいが、ひとつ次のことを確認しておく。本研究の目的は、ここま での議論で整理したような市街地の商業特性の差異が、どのような歴史的/
空間的要因によって生まれるのか、その影響力は歴史的/空間的要因のどち らのほうが大きいのかを探ることである。したがって、
「この街にしかないものに溢れている街」=「個性的/魅力的」
あるいは
「ほかの街にもあるものばかりの街」=「没個性的/魅力がない」
とは考えない。繰り返すが、私たちの商店への欲望は、遍在性と固有性に対 して二重に向けられている
9)
。したがって上記のような志向は、そもそも無 意味だといっていい。私たちがこれから考えることは、商業的差異による市 街地の性格づけではない。商業的差異の生まれる要因の分析である。3.
ここまでの議論を整理し、本研究の目的と問題意識を簡潔に纏める。
20 世紀以降に成立した市街地の多くは、郊外として一括りにされることが 多く、郊外どうしの違いについて議論されることは、たとえば地方中心市街 地と比べて少ない。けれども、じつは郊外の形成過程は多岐にわたることから、
郊外どうしにも差異があると考えるほうが自然である。ここでいう差異は、「こ の街にしかない商店」の比率と「この街にある全商店」の店舗数というふた つ指標によって計量することとし、こうした差異が発生する歴史的/空間的 要因を分析することが、本研究の目的である。
1. 序論
9)このあたりは、レム・コールハースが
「ジェネリック・シティ」と呼び議論して いる問題意識に影響を受けている。
レム・コールハース(著),太田佳代子(訳),
渡辺佐智江(訳):『S,M,L,XL+: 現代都市 をめぐるエッセイ』,筑摩書房,2015.05
1.2 既往研究の整理と本研究の位置づけ
0.
本研究とかかわりの深い既往研究を (a)郊外の市街地特性に着目した研究
(b)商業特性におけるユニーク|ユビキタス性に着目した近年の研究 のふたつの観点から整理し、本研究の立ち位置を明らかにする。
1.
郊外の市街地特性に着目した近年の研究は、下記のように纏められる。
阿藤ら
10)
は、首都圏郊外の中でも停滞傾向にある大規模な駅前商業集積地 として本厚木駅と小田原駅を主成分分析とクラスター分析によって選定し、これらの店舗構成と店舗立地特性の時系列変化を、特に業態別立地動向に着 目して分析した。ただし、分析対象が限定されているため、より広範囲の郊 外市街地を対象に含めることが望まれる。
相ら
11)
は、駅前再開発や駅改良工事などにより駅周辺の商業構造や歩行者 流動が変化したと予想される都内駅前の 6 つの商店街を対象に、商店街にお ける床面積の増減と立地傾向の変化に着目することで、駅前空間の用途変化 などを多時点分析した。ただし、商業施設の業種の区別はしていない点と分 析対象の数に課題が残る。石橋ら
12)
は、多摩田園都市を対象に、民間が設置・運営した生活関連施設(地域住民が日常生活で利用する施設)の自然発生の経緯を多時点で調査・分 析したが、娯楽にまつわる商店で対象外である。
宋ら
13)
は、東京都心から30km 圏にある鉄道駅周辺地区を対象に、 TOD(鉄
道整備を中心とした生活の利便性向上と過度な自動車利用の抑制を目指す都 市整備)の定義に基づく評価指標によって対象地区を主成分分析で類型化し た。ただし、商業的評価が手薄で、分析対象から外れる郊外が少なくないこ とが課題として挙げられる。中野ら
14)
は、近年中高層住宅建設の増加が著しい首都圏郊外の駅前商業地 区を対象に、住宅建設と世帯動向の分析を通じて、世帯推移と公共施設整備 や商業集積との関係性を論じている。しかし、考慮されている商業特性は事 業所数のみであり、商業地区の内実を分析していない。長瀬ら
15)
は、異路線の近距離駅間の土地利用等の調査から駅間商業地の連 続性を把握し、これにたいして歴史面での考察を加えることで、発展経緯や、10)阿藤卓弥,大村謙二郎,有田智一,
藤井さやか:『首都圏郊外における鉄道駅 前商業集積の停滞実態とその課題 - 本厚木 駅・小田原駅前地区を対象として -』,日 本都市計画学会都市計画論文集,No.41- 3,pp.1037-1042,2006.10
11)相尚寿,貞弘幸雄,浅見泰司:『用途 別の建物床面積と立地傾向の変容傾向に よる大都市圏駅前商店街の類型化』,日本 都市計画学会都市計画論文集,No.45-2,
pp.23-29,2010.10
12)石橋登,谷口汎邦:『多摩田園都市 における生活関連施設の立地経緯につ いて - 土地区画整理事業の組み合わせに よって作られた郊外住宅計画に関する研 究その 3-』,日本建築学会計画系論文集,
Vol.74,No.635,pp.41-50,2009.1 13) 宋 俊 煥, 出 口 敦:『
TOD
の 観 点 か らみた東京 30km 圏の鉄道駅周辺地区 の評価と類型』,日本建築学会計画系論 文 集,Vol.78,No.684,pp.413-420,2013.2
14)中野卓,出口敦:『首都圏郊外の駅 前商業地区における世帯動向の実態と居 住環境の課題に関する研究』,日本建築 学 会 計 画 系 論 文 集,Vol.83,No.745,
pp.435-445,2018.3
15)長瀬健介,中井検裕,沼田麻美子:『異
9
1. 序論
中村
16)
は、東京中心部から 20 ~ 60km の同心円状に「近郊整備地帯」が 設定されている茨城県、千葉県及び埼玉県内の駅を対象に、鉄道駅周辺の土 地利用の違いから乗降客数の動向を分析している。しかし、商業特性につい ては説明変数として考慮されておらず、また郊外を対象にするうえで神奈川 県を除くことに疑問が残る。隋ら
17)
は、福岡市内の駅のうち 1 日の乗降客数が 2 万人以下の小規模鉄 道駅を対象に、最近隣尺度と最近隣空間的随伴尺度の指標を用いて、店舗お よび業種別の立地パターンを分析している。したがって、これと近しい分析を、首都圏の中・大規模鉄道駅において行うことは意義のあることと考えられる。
以上の整理から、郊外の市街地特性に着目した研究は、商業特性の内実を 分析する場合は分析対象が少なくなり、分析対象が多数ある場合は主に居住 環境の分析となることがわかる。また、商業特性を考える場合も、業種や娯 楽にまつわる店を扱う研究は少ないといえる。
2.
商業特性におけるユニーク|ユビキタス性に着目した近年の研究は、下記 のように纏められる。
まず、小林ら
18)
や山家ら19)
に代表されるように、商店のユニーク|ユビ キタス性に着目している近年の研究では、少なくない割合で景観や街のイメー ジにまつわる研究がおこなわれている。こうした研究は、本研究の目指す方 向とは直接の関係を持たないが、郊外における景観やイメージの差異を論じ ることも、有意義な研究であることが示唆される。本間ら
20)
は、 「非効率的だが多様な施設= “ 従来店 ”」と「効率的だが画 一的な施設= “ コンビニ ”」の競合関係をネスティッドロジットモデルを用い て明らかにした。また、岸本ら21)
は、チェーン店と独立店による競合環境・非競合環境・部分的競合環境それぞれの最適配置と均衡配置をライリー・ハ フ結合モデルによって分析している。いずれの研究も、都市が未成熟の場合 は独立店が有利であり、成熟してゆくとチェーン店が有利になるが、チェー ン店どうしの競争が激しくなることで独立店が客足を取り返すことがあるこ とを明らかにしている。こうした数理モデルを介して得られた知見と、実証 分析による結果をたがいに突き合わせることは有意義だと考えられる。
16)中村隆司:『鉄道駅周辺の土地利用 と駅乗降客数の動向に関する研究』,日本 都市計画学会都市計画論文集,Vol.50,
No.3,pp.1324-1329,2015.10
17)隋洪キン,趙世晨:『鉄道駅周辺にお ける小売店舗の立地動向及び業種分布に関 する研究』,日本建築学会計画系論文集,
Vol.78,No.683,pp.141-148,2013.1
18)小泉光司,岸本達也,小場則夫:『街 路の統一感と建物の独自性に着目した横 浜元町通りにおける景観分析 - 個性的な 街路景観創出を目的とした VR を用いた 景観分析 -』,日本建築学会計画系論文集,
Vol.74,No.636,pp.393-400,2009.2 19)山家京子,石井啓輔:『商業集積地に おける表層の雑多性に関する研究 - 指標作 成と用途断面の混在度との比較 -』,日本建 築学会計画系論文集,Vol.72,No.614,
pp.161-166,2007.4
20)本間健太郎,宇野求:混在する “ 多 様な施設(従来店)” と “ 画一的な施設
(コンビニ)” の競合モデル,日本建築 学 会 計 画 系 論 文 集,Vol.78,No. 694,
pp.2565-2571,2013.12
21)岸本達也,鈴木亜衣:競合環境にお けるチェーン店と独立店の配置に関する研 究,日本建築学会計画系論文集,Vol.76,
No.663,pp.903-909,2011.5
山家ら
22)
は、東京都区部の商業集積地域を対象に、建物用途の断面方向に おける現れの種類と割合からみた特徴と混在度に基づき、均質性と固有性に 関わる特徴的断面の抽出を行った。ただし、用途の違いによる均質性|固有 性を論じているため、同じ用途どうしの均質性|固有性は論じていない。末繁ら
23)
は、チェーン店は生活インフラとしては不可欠な存在だが商店街 の個性の観点では魅力低下を招くと指摘したうえで、世田谷区尾山台地区の 商店街を事例対象に、商店街の店舗構成変遷調査と商店主への直接調査を通 じて、商店街の個性を形成する店舗構成の変化予測を試みている。チェーン 店の存在が商店街の魅力を低下させるかどうかはやや議論の余地があると考 えられるが、こうした研究をよりマクロな範囲で行うことは有益だと考えら れる。鈴木ら
24)
は、秋葉原を対象に、業種の混在の実態と変化と業種の混在によ る街の更新、混在のタイプによる事業変化を 3 次元の地図を作ることで分析 している。ただし、この研究の変化の要因分析は、やや定性的であることを 踏まえる必要がある。以上の整理から、商業特性におけるユニーク|ユビキタス性に着目した近 年の研究は、まず街の景観・イメージにかんする論文が多く、商業特性に着 目した論文は、理論モデルを用いたもの以外は全体的に定性的な分析であり、
また分析対象が限定的であるといえる。
3.
ここまでの議論から、郊外の市街地特性に着目した近年の研究では、多数 の地域を対象に商業特性の内実を分析する研究は少なく、商業特性における ユニーク|ユビキタス性に着目した近年の研究では、市街地の商業的な固有 性|遍在性の要因を実証的・定量的に分析する研究は少ないことがわかる。
本研究は、郊外の市街地として首都圏の駅前商業地を対象に、生活関連の商 店から娯楽にまつわる商店について、市街地の差異を「この街にしかない商店」
の比率と「この街にある全商店」の店舗数というふたつ指標によって計量化 することで、その発生要因の分析を定量的におこなう。これは、これまでの 既往研究で試みられてこなかったアプローチであり、新規性があると考えら
22)山家京子,東國肇:『用途断面の特 徴と混在度からみた検討 - 商業集積地お ける均質性と固有性 -』,日本建築学会計 画系論文集,Vol.71,No.602,pp.113- 119,2006.4
23)末繁雄一,松尾采佳:『店舗構成変遷 と商店主への商業継続意向調査を通した 商店街の個性の持続可能性予測 - 東京都世 田谷区尾山台地区の事例 -』,日本都市計 画学会都市計画論文集,Vol.53,No.3,
pp.618-624,2018.10
24)鈴木淳,後藤春彦,馬場健誠:『秋 葉原における商業集積の重層的混在に関 する研究 - フロアー・マップを用いた業 種立地の変化の分析』,日本建築学会計画 系 論 文 集,Vol.80,No.712,pp.1307- 1317,2015.6
11 11
1. 序論
1.3 本研究の流れ
2 章では、対象駅・商店の抽出方法と商業特性の定量化について述べ、ク ラスター分析と重回帰分析のための諸準備を行う。
3章では、クラスター分析を用いて郊外駅前商業地の特有性を大まかに分類・
推察する。
4 章では、定量化した商業特性を目的変数に重回帰分析を実行し、その結 果を考察する。また、得られた回帰式の予測値と実測値に大きな誤差のある 駅について、その推察される原因を述べる。
5 章では、結論として得られた知見と解決が必要な課題を整理する。
2. 設定
2.1 対象駅の選定
0.
本節では、分析の対象となる駅の選定条件について述べる。
1.
対象駅は、つぎの 5 つの条件を満たす 74 駅とした【表 1】【図 1】。
(a)駅の開業年度が 1906 年から 2000 年までであること
これは、1906 年に施行された鉄道国有法で対象となった駅は近世市街地で あると判断し、また 21 世紀の開業まもない駅前市街地は街としての安定性を 未だ欠くと判断したためである。
(b)2016 年度の乗降客数が 6 万人を超えていること
これは、駅前商業地を分析する観点から駅の規模が一定以上であることが 望ましいと判断し、本研究では、駅の規模を乗降客数に見立てたためである。
また、乗降客数の下限を 5 万人とすると 131 駅が該当し、それに伴って整備 が必要なデータ数が膨大になるため、6 万人とした。
(c)東京 23 区と横浜都心部を除く首都圏 1 都 3 県に属していること これは、旧東京市と横浜都心部は近世市街地にあたると判断したためであ る。なお横浜都心部とは、横浜市都市整備局が指定しているエリアを指し、
主に横浜市中区・西区が該当している
25)
。(d)各駅の 600m 圏内に (a) ~ (c) を満たさない駅が存在しないこと (e)各駅の 600m 圏内に (a) ~ (d) を満たす駅がひとつ以上存在する場合、
開業年度が古いほうを採用し、開業年度が同じ場合は乗降客数の多い ほうを採用する
25)横浜都心部グランドデザイン URL『http://www.city.yokohama.lg.jp/
toshi/kikaku/gd/pdf/gd.pdf』
15 15
2. 設定
【表 1 対象駅の一覧】
【図 1 対象駅のプロット図】
本厚木、登戸、上大岡 三鷹、和光市 川口
武蔵小金井、綱島、国立 大和、菊名、本八幡 北浦和、相模大野 長津田、橋本、調布
志木、川越、
海老名 西船橋
南越谷
南浦和、北朝霞、新百合ケ丘 あざみ野、東戸塚、新浦安 武蔵浦和、海浜幕張 淵野辺、中山、仙川
府中、秋津
ひばりヶ丘、分倍河原 武蔵新城、中央林間 田無、金沢文庫
鴨居、たまプラーザ
湘南台、浦安 新杉田、新松戸、二俣川 京王多摩センター
朝霞、保谷
小田原、西八王子、鶴川 聖蹟桜ヶ丘、元住吉 清瀬、武蔵中原 横須賀中央
南柏、東小金井
東大宮、鷺沼 港南台、東川口、戸田公園 南大沢、ふじみ野
乗降客数 1900〜 1920〜 1940〜 1970〜2000
20万〜
14万〜20万
10万〜14万
7万〜10万
6万〜
開業年度
町田 溝の口、武蔵小杉
西川口、青葉台
2.2
対象商店の選定とその分類0.
本節では、分析の対象となる商店の抽出方法と、抽出された商店の分類方 法について述べる。
1.
まず、本研究における商店を定義する。本研究における商店は、『座標付き 電話帳 DB テレポイント(2018)』に記載され、その業種コードが「娯楽と 食事関係」「大型総合店舗」「生活関連店」のいずれかに該当し、かつ業務内容・
管理主体が「行政施設」「人員派遣型サービス業」「冠婚葬祭関連」「新聞配達 業務」にあたらないものとして定義する。
対象商店は、選定された駅を中心に描かれる 600m バッファ内(以下「駅 勢圏」と呼ぶ)に含まれる商店とする。これは、TOD(鉄道整備を中心とし た生活の利便性向上と過度な自動車利用の抑制を目指す都市整備)で用いら れる駅勢圏が 600m と設定している
26)
ことに拠っており、実際にこの基準 に沿って駅勢圏・徒歩圏を設定している論文は多くある27)
。この結果、分析 の対象店舗は 26,128 店舗となった。2.
以上のように抽出された商店を、つぎのふたつの観点から分類する。
(a)ユビキタス性|ユニーク性の観点
「ほかの街にも存在する商店」を意味する〈遍在店〉と「この街にしかない 商店」を意味する〈固有店〉に分類する。具体的には、『座標付き電話帳 DB テレポイント(2018)』に記載されている店名に、「△△ 〇〇店」など多店 舗展開していると判断できる商店を〈遍在店〉、そうではない商店を〈固有店〉
と定義する。
(b)業種内容の観点
「娯楽と飲食にまつわる商店」を意味する〈娯楽店〉と「日常生活にまつわ る商店」を意味する〈生活店〉に分類する。具体的には、『座標付き電話帳 DB テレポイント(2018)』の業種コードが「娯楽と食事関係」にあたる商店 は〈娯楽店〉、「大型総合店舗」「生活関連店」にあたる商店は〈生活店〉と定 義する。
26)海道清信:『コンパクトシティ 持続 可能な社会の都市像を求めて』,学芸出版 社,2001.8
27)たとえば、佐藤栄治,吉川徹,山田 あすか:『歩行換算距離を用いた施設配置 と住み替えによる地域生活持続可能性の 検討 - 地形条件と高齢化を勘案した地域施 設配置モデル - その 2』,日本建築学会計 画系論文集,Vol.73,No.625,pp.611- 618,2008.3、などが挙げられる。
17 17
2. 設定
2.3 商業特性の指標の設定
0.
1 章で議論したように、本研究は、市街地の商業特性の差異を「この街に しかない商店」の比率と「この街にある全商店」の店舗数の観点から定量化・
分析する。本節では、その具体的な定義を確認する。
1.
「この街にしかない商店」の比率は、固有店の店舗数
Q u
を総店舗数Q a
で除 した値として定義し、今後は〈固有店比率:R u
〉と表現する。したがって、R u = Q u Q a と表される。
2.
一般に、市街地の規模が大きくなるにつれ、商店の店舗数は多くなること が予想される。したがって、商店の店舗数をそのまま扱うと、規模要因の説 明力が過大に見積もられる可能性がある。そもそも「市街地の規模が大きい から商店の店舗数が多い」のか「商店の店舗数が多いから市街地の規模が大 きい」のかのどちらなのかは一概にはいえず、量(店舗数)を規模(乗降客 数)で説明するのはややトートロジーであることが否めない。以上の議論から、
本研究では、店舗数を乗降客数で除し、さらにその値の自然対数をとること で規模要因の影響力を抑制する。自然対数をとる根拠は、「感覚量は物理量の 対数値で近似される」とするヴェーバー・フェヒナーの法則に基づいている。
この法則は、元々は光学の分野で用いられている法則であるが、都市解析の 分野でも磯野ら
28)
、吉見ら29)
の研究などで用いられていることを踏まえ、本 研究でも採用した。以上を纏めると、「この街にある全商店」の店舗数は、総店舗数
Q a
を乗降 客数N p
で除した値の自然対数をとった値として定義し、今後は〈規模補正店 舗数:Q p
〉と表現する。したがって、28)磯野雄人,岸本達也:立ち寄り利用 を考慮した公共図書館の利用モデルと最 適配置の特性,日本都市計画学会都市計 画論文集,Vol.46,No.3,pp.415-420,
2011.10
29)吉見美咲,山田崇史,岸本達也:地 方都市における買物地の訪問行動の特性 - 郡山都市圏における Web アンケート調査 に基づく実態分析 -,日本都市計画学会都 市計画論文集,Vol.50, No.3,pp.1316- 1323,2015.10。
Q p = Q a N p
log ( )
と表される。
2.4 商業特性の布置
0.
本節では、前節で設定した〈固有店比率〉と〈規模補正店舗数〉の指標を 用いて、対象駅の性質を定性的に考察する。
1.
業種ごとに、縦軸に〈固有店比率〉、横軸に〈規模補正店舗数〉をとり、対 象駅を布置したものを【図 2】から【図 4】に示す。その際、〈固有店比率〉と〈規 模補正店舗数〉はそれぞれ z 変換によって基準化している。
〈娯楽店〉の布置に着目すると、おおむね、
R u
> 0 ならば繁華街、R u
< 0 な らば住宅街であることが予想される。〈生活店〉の布置に着目すると、R u
> 0 ならば小規模商店からなるオールドタウン、R u
< 0 ならば大規模な開発市街 地やニュータウンであることが読み取れる。また、横須賀中央・菊名・西船橋駅など、商業特性に著しい特徴のある駅 があることが散見される。
さらに、〈娯楽店〉は
R u 、Q p
ともに全体的に 0 に近い値で固まっているの に対して、〈生活店〉は相対的に離散して配置されているのがわかる。以上のような定性的な考察が可能であることから、R
u ,Q p
は郊外市街地の 特性を分析する指標として、それほど的外れなものではないといっていいだ ろう。こうした定性的な仮説をふまえ、3 章ではクラスター分析によって首都 圏の郊外駅前商業地の分類をより細かく吟味・考察し、4 章ではR u ,Q p
の郊 外における差異をもたらす要因を重回帰分析によって明らかにする。19 19
2. 設定
【図 2 商業特性による布置(全店舗)】
横須賀中央 小田原
府中 武蔵新城
元住吉
たまプラーザ 本八幡本厚木
西八王子
聖蹟桜ヶ丘 ひばりヶ丘 西川口
田無 町田 大和浦安
川越 東大宮
調布 清瀬
湘南台
港南台 北浦和
志木 仙川
相模大野 国立
辻堂 上大岡
金沢文庫
新杉田
川口 朝霞
橋本 南柏
淵野辺 保谷 中山
京王多摩センター 新松戸
青葉台 溝の口
海老名 二俣川
綱島 三鷹
武蔵小金井 武蔵小杉
鷺沼 戸田公園南浦和 東川口
武蔵中原 南越谷
ふじみ野 東小金井
中央林間
南大沢 東戸塚 新百合ヶ丘
新浦安 海浜幕張
秋津 鴨居
武蔵浦和 分倍河原
登戸
鶴川 北朝霞 あざみ野 菊名
西船橋
和光市 長津田
-3 -2 -1 0 1 2 3
-4 -3 -2 -1 0123 4
R u
Q p
全店舗
横須賀中央
小田原
府中 武蔵新城
元住吉 たまプラーザ
本厚木 本八幡 西八王子
聖蹟桜ヶ丘 ひばりヶ丘
西川口
田無
町田 大和
浦安
川越 東大宮 調布
清瀬
湘南台
港南台
北浦和
志木
仙川相模大野 国立 辻堂
上大岡
金沢文庫 新杉田
川口 朝霞
橋本
南柏 淵野辺
保谷
中山
京王多摩センター
新松戸
青葉台 溝の口
海老名 二俣川
綱島
三鷹
武蔵小金井 武蔵小杉
鷺沼 戸田公園
南浦和 東川口
武蔵中原 南越谷
ふじみ野
東小金井 中央林間
南大沢 東戸塚 新百合ヶ丘
新浦安海浜幕張 秋津 鴨居
武蔵浦和 分倍河原
登戸
鶴川
北朝霞 あざみ野
菊名
西船橋
和光市 長津田
-3 -2 -1 0 1 2 3
-4 -3 -2 -1 01234
R u
〈娯楽店〉
Q p
【図 3 商業特性による布置(娯楽店)】
21 21
2. 設定
横須賀中央 小田原
府中 武蔵新城
元住吉
たまプラーザ 本厚木
本八幡
西八王子
聖蹟桜ヶ丘 ひばりヶ丘 西川口
田無
町田 大和
浦安
川越 東大宮
調布 清瀬
湘南台
港南台 北浦和
志木 仙川
相模大野 国立
上大岡辻堂 金沢文庫
新杉田 川口 朝霞
橋本 南柏 淵野辺
保谷
中山
京王多摩センター 新松戸 青葉台
溝の口
海老名 綱島二俣川
三鷹
武蔵小金井
武蔵小杉
鷺沼 戸田公園
南浦和 東川口
武蔵中原
南越谷 ふじみ野
東小金井 中央林間
南大沢 東戸塚 新百合ヶ丘
新浦安 海浜幕張
秋津 鴨居
武蔵浦和 分倍河原
登戸
北朝霞 鶴川
あざみ野 菊名
西船橋 和光市
長津田
-3 -2 -1 0 1 2 3
-4 -3 -2 -1 0123 4
R u
Q p
〈生活店〉
【図 4 商業特性による布置(生活店)】
3. クラスター分析
3.1 分析方法と結果
0.
本節では、クラスター分析の分析方法と結果について述べる。
1.
郊外駅前商業地の商業特性を大局的に分類・考察するために、ユークリッ ド距離によるウォード法でクラスター分析を行なった。変数は〈娯楽店〉〈生 活店〉それぞれの〈固有店比率〉〈規模補正店舗数〉であり、合計 4 つの変数 を選択した。これを、距離係数が 10 の線で分けられる 5 つのクラスターで 分け、順にⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴと名付けた。結果は【図 4】に示す。
また、これらのクラスターごとに、クラスターに含まれる駅を開業年度 10 年刻みで分類した個数を集計し、折れ線グラフで表した【図 5】。
25
3. クラスター分析
【図 5 クラスター分析の結果】
【図 6 開業年度別の駅の開業数(クラスター比較)】
10 15 20 30
0
距離係数新杉田、淵野辺、国立、三鷹、金沢文庫、中山 仙川、川口、南柏、朝霞、武蔵小金井 、南浦和 保谷、戸田公園、東小金井、東川口、中央林間
25
横須賀中央、小田原、府中、西川口、本厚木 武蔵新城、大和、元住吉、本八幡、浦安 ひばりヶ丘、湘南台、清瀬、北浦和、東大宮 聖蹟桜ヶ丘、西八王子
海老名、橋本、海浜幕張、新百合ケ丘、東戸塚 南大沢、新浦安、ふじみ野、武蔵浦和 鴨居、秋津、北朝霞、登戸、分倍河原、鶴川 あざみ野、西船橋、菊名、和光市、長津田 町田、調布、田無、川越、新松戸、上大岡、志木 たまプラーザ、相模大野、港南台、武蔵小杉 武蔵中原、 溝の口、綱島、二俣川、南越谷 京王多摩センター、青葉台、鷺沼
0 1 2 3 5 6 7 8
4
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 駅の開業数
Ⅰ
Ⅱ
辻堂、
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
3.2 考察
0.
本節では、クラスター分析の結果をうけ、クラスターごとに考察を述べる。
1.
クラスターⅠは、開業年度が古く主に住宅地として発展してきた市街地が 多い。〈娯楽店〉〈生活店〉ともに
R u
、Q p
は 0 に近い値をとる傾向がある。クラスターⅡは、開業年度が比較的古く繁華街として発展してきた市街地 だと考えられる。〈娯楽店〉は
R u
、Q p
ともに 0 より大きく、〈生活店〉はR u
が 0 より大きい傾向がある。クラスターⅢは、海老名駅前の大型商業施設ビナウォークの開業が 2002 年で京王線橋本駅の開業が 1990 年であることを考慮すると、早くとも 1970 年以降に繁華街として発展してきた市街地だと考えられる。〈娯楽店〉〈生活店〉
ともに
R u
、Q p
は 0 より小さい傾向がある。クラスターⅣは、比較的開業年度が古い交通結節点の役割を担う駅が多く、
相対的には住宅中心の市街地と推察される。〈娯楽店〉〈生活店〉ともに
R u
は 0 より小さくQ p
は 0 より大きい傾向がある。クラスターⅤは、開業年度に偏りがみられず職住ともに発展してきた街で あり、たまプラーザ・相模大野・上大岡・京王多摩センター・辻堂など、私 鉄やディベロッパーなどの民間資本が開発の中心を担ってきた駅が多くみら れる。〈娯楽店〉〈生活店〉ともに広く分布しているが、R
u
、Qp
ともに 0 より 小さい(座標系でいう第 3 象限に位置する)駅は少ない傾向がある。以上から、首都圏郊外の駅を中心にした市街地は、20 世紀初頭に形成され た住宅市街地と繁華街、平成前後に開発された繁華街、交通結節点としての 役割が大きい市街地、主に私鉄による沿線開発の中心として成立した市街地 の、大まかに 5 つに分類できることが示唆された。
クラスターごとの結果と考察を【図 6】から【図 10】に纏める。
27
3. クラスター分析
【図 7 クラスターⅠのまとめ】
0 1 2 3 5 6 7 8
4
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
新杉田、淵野辺、国立、三鷹、金沢文庫、中山 仙川、川口、南柏、朝霞、武蔵小金井 、南浦和 保谷、戸田公園、東小金井、東川口、中央林間 横須賀中央、小田原、府中、西川口、本厚木 武蔵新城、大和、元住吉、本八幡、浦安 ひばりヶ丘、湘南台、清瀬、北浦和、東大宮 聖蹟桜ヶ丘、西八王子
海老名、橋本、海浜幕張、新百合ケ丘、東戸塚 南大沢、新浦安、ふじみ野、武蔵浦和 鴨居、秋津、北朝霞、登戸、分倍河原、鶴川 あざみ野、西船橋、菊名、和光市、長津田 町田、調布、田無、川越、新松戸、上大岡、志木 たまプラーザ、相模大野、港南台、武蔵小杉 武蔵中原、 溝の口、綱島、二俣川、南越谷 京王多摩センター、青葉台、鷺沼
・開業年度は比較的古い .
・多くは住宅地 .
・〈娯楽店〉〈生活店〉ともに R u , Q p は0 に近い値をとる .
Ⅰ
Ⅱ
辻堂、
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
【図 8 クラスターⅡのまとめ】
0 1 2 3 5 6 7 8
4
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
新杉田、淵野辺、国立、三鷹、金沢文庫、中山 仙川、川口、南柏、朝霞、武蔵小金井 、南浦和 保谷、戸田公園、東小金井、東川口、中央林間 横須賀中央、小田原、府中、西川口、本厚木 武蔵新城、大和、元住吉、本八幡、浦安 ひばりヶ丘、湘南台、清瀬、北浦和、東大宮 聖蹟桜ヶ丘、西八王子
海老名、橋本、海浜幕張、新百合ケ丘、東戸塚 南大沢、新浦安、ふじみ野、武蔵浦和 鴨居、秋津、北朝霞、登戸、分倍河原、鶴川 あざみ野、西船橋、菊名、和光市、長津田 町田、調布、田無、川越、新松戸、上大岡、志木 たまプラーザ、相模大野、港南台、武蔵小杉 武蔵中原、 溝の口、綱島、二俣川、南越谷 京王多摩センター、青葉台、鷺沼
・開業年度の古い駅が多い.
・繁華街の性質が強い .
・〈娯楽店〉〈生活店〉ともに R u ,Q p が0 より大きい傾向 がある .
辻堂、
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
29
3. クラスター分析
0 1 2 3 5 6 7 8
4
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990
【図 9 クラスターⅢのまとめ】
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
新杉田、淵野辺、国立、三鷹、金沢文庫、中山 仙川、川口、南柏、朝霞、武蔵小金井 、南浦和 保谷、戸田公園、東小金井、東川口、中央林間 横須賀中央、小田原、府中、西川口、本厚木 武蔵新城、大和、元住吉、本八幡、浦安 ひばりヶ丘、湘南台、清瀬、北浦和、東大宮 聖蹟桜ヶ丘、西八王子
海老名、橋本、海浜幕張、新百合ケ丘、東戸塚 南大沢、新浦安、ふじみ野、武蔵浦和 鴨居、秋津、北朝霞、登戸、分倍河原、鶴川 あざみ野、西船橋、菊名、和光市、長津田 町田、調布、田無、川越、新松戸、上大岡、志木 たまプラーザ、相模大野、港南台、武蔵小杉 武蔵中原、 溝の口、綱島、二俣川、南越谷 京王多摩センター、青葉台、鷺沼
・1970 年以降に発展 .
・駅前開発の性質が強い.
・〈娯楽店〉〈生活店〉ともに R u , Q p が0 より小さい傾向 がある .
辻堂、
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
0 1 2 3 5 6 7 8
4
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990
【図 10 クラスターⅣのまとめ】
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
新杉田、淵野辺、国立、三鷹、金沢文庫、中山 仙川、川口、南柏、朝霞、武蔵小金井 、南浦和 保谷、戸田公園、東小金井、東川口、中央林間 横須賀中央、小田原、府中、西川口、本厚木 武蔵新城、大和、元住吉、本八幡、浦安 ひばりヶ丘、湘南台、清瀬、北浦和、東大宮 聖蹟桜ヶ丘、西八王子
海老名、橋本、海浜幕張、新百合ケ丘、東戸塚 南大沢、新浦安、ふじみ野、武蔵浦和 鴨居、秋津、北朝霞、登戸、分倍河原、鶴川 あざみ野、西船橋、菊名、和光市、長津田 町田、調布、田無、川越、新松戸、上大岡、志木 たまプラーザ、相模大野、港南台、武蔵小杉 武蔵中原、 溝の口、綱島、二俣川、南越谷 京王多摩センター、青葉台、鷺沼
・比較的古い駅が多い .
・交通結節点の性質が強い.
・〈娯楽店〉〈生活店〉ともに R u は0 より小さく Q p は0よ り大きい傾向がある .
辻堂、
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
31
3. クラスター分析
【図 11 クラスターⅤのまとめ】
0 1 2 3 5 6 7 8
4
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
新杉田、淵野辺、国立、三鷹、金沢文庫、中山 仙川、川口、南柏、朝霞、武蔵小金井 、南浦和 保谷、戸田公園、東小金井、東川口、中央林間 横須賀中央、小田原、府中、西川口、本厚木 武蔵新城、大和、元住吉、本八幡、浦安 ひばりヶ丘、湘南台、清瀬、北浦和、東大宮 聖蹟桜ヶ丘、西八王子
海老名、橋本、海浜幕張、新百合ケ丘、東戸塚 南大沢、新浦安、ふじみ野、武蔵浦和 鴨居、秋津、北朝霞、登戸、分倍河原、鶴川 あざみ野、西船橋、菊名、和光市、長津田 町田、調布、田無、川越、新松戸、上大岡、志木 たまプラーザ、相模大野、港南台、武蔵小杉 武蔵中原、 z 溝の口、綱島、二俣川、南越谷 京王多摩センター、青葉台、鷺沼
・開業年度の偏りは小さい .
・商業、住宅ともに発展 .
・民間資本による開発 .
・〈娯楽店〉〈生活店〉ともに R u ,Q p が0 より小さい駅は ない .
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
4. 重回帰分析
4.1 構築
0.
本節では、重回帰分析の具体的な分析方法について述べ、用いる説明変数 を整理する。
1.
3 章までの議論をふまえ、本章では〈固有店比率〉と〈規模補正店舗数〉を 目的変数として重回帰分析することで、郊外の商業特性の差異を定量的に明 らかにする。目的変数は〈固有店比率〉〈規模補正店舗数〉それぞれに〈娯楽店〉
〈生活店〉〈業種区別なし〉が該当するため、合計 6 つ存在する。
本研究は、下記に纒める説明変数を用いて、赤池情報量規準による変数増 減法を適用した重回帰分析をおこなう。このとき、多重共線性に注意するため、
選択された変数どうしの VIF(分散拡大係数)の値が 2 未満である組み合わ せを採用し、そのなかで R-squared が最も高い回帰式を推定式の結果として 用いることとした。
2.
重回帰分析に用いる説明変数を、それを表す記号と定義、データの出典と 併せて【表 2】に纏めた。
Y
d (開業年度ダミー)は、駅の開業年度が 1970 年以降かどうかを表すダ
ミー変数である。これは、チェーン店のような商業形態が広がり始めたと考 えられるのが 1970 年以降であり、遍在店の増加と大きく関係があると考え、開業年度とはべつに説明変数として加えた。
R
L
は、市街地に存在する全店舗のうち、〈生活店〉にあたる店舗がどれだけ 占めるのかを表す変数である。35
4. 重回帰分析
記号 定義 出典
Y
駅の開業年度Y d
Yが1970 年以降なら1,それ以外は0P
乗降客数 国土数値情報 駅別乗降客数データ(2016 )U E
〈娯楽店〉遍在店の店舗数U L
〈生活店〉遍在店の店舗数U A
遍在店の全店舗数R L
〈生活店〉の比率国土数値情報 用途地域データ(2011 ) 位置参照情報:国交省 街区代表点(2017 )
P B
人口 国勢調査 500mメッシュ(2015 )E B
全従業者数 経済センサス(基礎)500mメッシュ(2014 )T
東京駅からの所要時間T d
Tが60分以上なら1,それ以外は0S T
乗り換え駅があれば1,なければ0商業市街地面積を
街区代表点の個数で除した値
国土数値情報 鉄道時系列データ(2017 )
座標付き電話帳DBテレポイント(2018 )
NAVI TIME 経路検索
A B
【表 2 説明変数の一覧】
A
B
は、商業市街地に含まれる街区代表点の個数で駅勢圏内の商業市街地の 面積を除した値である。ただし、商業市街地とは、2011 年度の用途地域が「商 業地域」「近隣商業地域」のいずれかに該当する範囲を指す。この指標は、よ うするに 1 街区あたりの商業市街地の面積を表しており、この値が大きいほ ど市街地の街区の目が粗いことを示し、小さいほど街区の目が細かいことを 示す。
P B
とE B
は、それぞれ人口と全従業者数を表しており、この値は 500m メッ シュ単位で集計された各数値を駅勢圏で面積按分することで算出している。
T
は、東京駅を平日 19 時 12 分から 30 分までに出発する経路のなかで、各駅までの到着に要する時間が最短ものとした。出発を平日 19 時 12 分とし たのは、社会生活基本調査(2016)における関東大都市圏出社平均時刻が
4.2 結果
0.
本節では、重回帰分析の結果を纒める。
1.
重回帰分析の結果を【表 3】【表 4】に示す。PRCは偏回帰係数、S-PRCは 標準偏回帰係数、
Pr
はp
値を表している。PRCS -PRC Pr PRCS -PRC Pr PRCS -PRC Pr
Y
Y
d-0.0670 -0.2175 0.0266 -0.0916 -0.3355 0.0000 -0.0778 -0.2899 0.0002
P
U
E-0.0015 -0.3522 0.0005
U
L-0.0011 -0.5721 0.0000
U
A-0.0005 -0.4061 0.0000
R
L-0.9020 -0.4601 0.0000 -0.4928 -0.2638 0.0000 -0.7466 -0.4373 0.0000
A
B0.0000 -0.2494 0.0179 0.0000 -0.2890 0.0005 0.0000 -0.3345 0.0001
P
B0.0000 0.2819 0.0313 0.0000 0.1493 0.1363 0.0000 0.1692 0.0939
E
BT0 .0038 0.3706 0.0024 0.0018 0.2000 0.0330 0.0022 0.2466 0.0093
T
dS
T定数項
0.9998 0.0000 0.8187 0.0000 0.9858 < 2e-16
AIC
R-squared 0.5623 0.7408 0.7389
-349.47- 406.12- 407.75
説明変数
目的変数|〈固有店比率〉
〈娯楽店〉 〈生活店〉 全店舗
PRCS -PRC Pr PRCS -PRC Pr PRCS -PRC Pr
Y Y
dP U
EU
LU
AR
L-2.7826 -0.3429 0.0005 1.4164 0.1950 0.0646
A
B-0.0001 -0.3553 0.0002 -0.0001 -0.3962 0.0002 -0.0001 -0.4038 0.0001
P
BE
B0.0000 0.3807 0.0001 0.0000 0.4273 0.0001 0.0000 0.4405 0.0000
T0 .0134 0.3126 0.0004 0.0134 0.3486 0.0004 0.0132 0.3404 0.0003
T
dS
T-0.4204 -0.3893 0.0000 -0.4225 -0.4371 0.0000 -0.4200 -0.4301 0.0000
定数項
-5.4369 < 2e-16- 7.5441 < 2e-16- 6.1708 < 2e-16
AIC
R-squared 0.5479 0.4386 0.4493
説明変数
目的変数|〈規模補正店舗数〉
〈娯楽店〉 〈生活店〉 全店舗
-138.82- 139.21- 141.14
【表 3 重回帰分析の結果(目的変数が
R u
)】【表 4 重回帰分析の結果(目的変数が
Q p
)】37
4. 重回帰分析
4.3 考察
0.
本節では、重回帰分析の結果を考察する。まず目的変数が〈固有店比率〉
の場合を考察し、つぎに〈規模補正店舗数〉、最後に両者を比較して考察をお こなう。また、得られた重回帰式から算出される予測値を縦軸に、現実の実 測値を横軸にとり、予測値と実測値が大きくずれている駅に着目して、その 原因を分析する。
1.
目的変数が〈固有店比率〉の場合
(a)開業年度ダミーは、業種形態(〈娯楽店〉か〈生活店〉かどうか)を問 わず負の相関を示している。これは、開業年度が 1970 年以降の駅ほど、業 種によらず固有店比率が低いことを表している。説明変数として、開業年度 が採用されず開業年度ダミーが採用されたことを踏まえると、固有店比率に 対する街の歴史の長短の影響力は非線形に働くことがわかる。
(b)遍在店の店舗数は、業種形態を問わず負の相関を示している。これは、
遍在店の店舗数が多いほど、業種によらず固有店比率は低くなることを表し ている。ここから、遍在店の店舗数が増える速度は、固有店の店舗数が増え る速度よりも大きいことが推測される。また、採用される説明変数の業種形 態は、目的変数の業種形態とすべて一致している。これは、特定の業種形態 における遍在店の店舗数が、すべての固有店比率に対して大きい影響力を持 つわけではないことを表している。ここから、固有店と遍在店の影響関係は、
業種形態ごとに分かれていることが窺える。さらに、〈生活店〉の標準偏回帰 係数のほうが〈娯楽店〉のそれと比べて大きい。これは、〈娯楽店〉よりも
〈生活店〉のほうが〈固有店比率〉に対する遍在店の店舗数の影響力が大きい ことを示している。その理由として、私たちが日常生活に必要とするものは、
娯楽にまつわるものと比べ、多岐に渡らず需要予測が立てやすいため、多店 舗展開しやすいことが考えられる。これを、遍在店のような店舗形態の広が りと密接に関係のある変数である開業年度ダミーの標準偏回帰係数において も〈生活店〉のほうが〈娯楽店〉よりも大きいことと併せて考えれば、固有 店の店舗数が増える速度に対する遍在店の速度の超過が、〈娯楽店〉に比べて
〈生活店〉においてより大きくなっているという推察に至る。
(c)生活店の比率は、業種形態を問わず負の相関を示している。これは、
街全体で〈生活店〉の占める割合が大きいほど、業種によらず固有店比率が 低いことを表している。このことは、先ほど述べた、固有店の店舗数が増え る速度に対する遍在店の速度の超過が、〈娯楽店〉に比べて〈生活店〉におい てより大きくなっているという推測をべつの角度から補強する結果となって いる。
(d)1 街区あたりの商業面積は、業種を問わず負の相関を示している。こ れは、街区の目が細かい街ほど、業種によらず固有店比率が高いことを表し ている。この理由として、街区の目が細かいほうが地価は上昇しにくく賃料 が低めに抑えられ、一般に資本に乏しい固有店でも出店しやすいこと、ある いは遍在店に必要なだけの広い空間が少ないことが考えられる。
(e)バッファ内人口は、業種形態を問わず正の相関を示している。これは、
駅付近の人口が多い街ほど、業種によらず固有店比率が高いことを表してい る。この理由として、標準的な日常生活に必要な需要から外れるようなマイ ナーな需要であっても、あるていどの人口があれば商業的に成り立ち固有店 出店の余地が生じるからだと考えられる。
(f)東京駅からの所要時間は、業種形態を問わず正の相関を示している。こ れは、東京駅から離れるほど、業種によらず固有店比率が高いことを表して いる。ここから、次のことが考えられる。首都圏中心部に近い場所だと、固 有店の需要は都心で充足するため駅まわりは生活需要を満たす店舗が集まり やすい。逆に、首都圏都心部から遠いと、駅を中心とした商圏が自立し固有 店の需要が高まる。