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道路投資と地域経済 : 地域間相互関係を考慮した実証分析

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道路投資と地域経済 : 地域間相互関係を考慮した

実証分析

著者

林 亮輔

雑誌名

経済学論究

63

4

ページ

59-75

発行年

2010-03-25

URL

http://hdl.handle.net/10236/3730

(2)

道路投資と地域経済

地域間相互関係を考慮した実証分析

Road Infrastructure Investment and

Regional Economies

An Empirical Analysis Considering the

Interrelations among Regions

林   亮 輔

∗∗

Today, with the expansion of economic activities, the interdependent and competitive relationship among regions has been strengthened. Under such a situation, in order to estimate the effect of providing road infrastructures, it is essential to consider the “straw” effect and the spill-over effect. This paper estimates the impact of building and maintaining roads on regional economies by considering the interdependent relationship among regions. It concludes that the economic effect of interregional roads in the metropolitan area differed from region to region as a result of the “straw” effect or the dispersion of economic activities.

Ryosuke Hayashi   JEL:H54

キーワード:道路投資、地域経済、ストロー効果

Key words: Road infrastructure investment, Regional economy,   “Straw” effect * 本稿は、日本財政学会第 65 回大会(京都大学)での報告論文に加筆、修正したものである。報 告に際して、討論者の中里透先生(上智大学)、座長の奥野信宏先生(中京大学)、亀田啓悟先生 (関西学院大学)、下山朗先生(釧路公立大学)から数多くの有益なコメント及びアドバイスをい ただいた。また、論文の作成過程において、本稿を審査して下さった先生方、指導教授である林 宜嗣先生(関西学院大学)、高林喜久生先生(関西学院大学)、前田高志先生(関西学院大学)か ら数多くの貴重なコメントをいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。なお、本稿につい ての責任は、すべて筆者に帰する。 ** 関西学院大学大学院経済学研究科博士課程後期課程。 E-mail:[email protected]

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I. はじめに

今日、地域は他の地域と相互に関連を持ちながら経済活動を行っているこ とから、特定地域で整備された社会資本の便益が、他地域の市場を拡大すると いったスピル・オーバー効果を発揮したり、逆に、経済力に差が存在する地域 間の交通インフラ整備は、「ストロー効果」によって経済力の弱い地域にとっ てはむしろマイナスの影響を及ぼす可能性も考えられる。しかし、Aschauer (1989)、浅子・坂本(1993)、吉野・中島(1999)など、社会資本の生産力効果 に関する国内外の研究の多くは、地域経済が閉鎖的であるとの前提で行われて おり、社会資本が行政区域を越えて発揮する効果を組み込んだ研究は、Blum

(1982)、Vickerman(1989、1991)、Kruguman and Venables(1995)、Martin and Rogers(1995)、中里(2001、2003)に見られるくらいである。 そこで本稿では、効果が行政区域を越えて及ぶことの多い道路をとりあげ、 自地域内の道路整備の効果だけでなく、経済力に差が存在する複数地域が道路 で結ばれた場合、民間経済活動に影響することにより道路整備の効果が地域毎 に異なる可能性について実証的に検証する。 本稿の構成は次の通りである。第II節では、道路整備が地域経済に及ぼす 影響とその経路について論じ、それを組み込んだモデルの定式化を行う。第 III節では、推計式を定式化し、道路整備の効果を検証する。第IV節では、分 析から導かれる政策的インプリケーションを提示するとともに、本稿の残され た課題を示す。

II. モデルの考え方

II–1. 道路整備による地域経済への影響 道路整備の効果を分析する際には、道路を次の2種類に区分して考える必 要がある。一つは、生活道路のように、その効果が地域内に限定されるもので あり(このような道路を以下では地域内道路とする)、いま一つは、行政区域 を越えて地域間を結ぶ道路である(以下では地域間道路とする)1)。後者の主

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たる役割は地域間の連結にあるが、同時に、地域内で完結する経済活動に対し ても便益を与えることになる。 地域内道路は輸送コストの低下を通じて、地域経済にプラスの影響を及ぼす と考えられるのに対し、地域間道路は以下の経路で地域経済に影響を及ぼす可 能性があり、地域経済に及ぼす影響は地域内道路のように単純ではない。 企業の立地条件が異なる2地域を結ぶ地域間道路が整備されるとしよう。こ のとき、企業にとっては、①地域間の輸送コストが低下し、その結果、②消費 地との近接性という企業立地の制約が緩和され、③道路整備水準や集積の経済 といった企業活動環境の有利性を考慮した立地行動が促される可能性がある。 また、消費者側では、①地元市場での消費という制約が緩和され、②消費活動 が広域化(商圏の拡大)する可能性もある2) つまり、地域間道路の整備は、企業立地や消費活動に関する市場の不完全性 を発生させる移動(輸送)コストを軽減することによって、企業や消費者がよ り有利な行動をとることを可能にするが、その効果は地域によってプラスに作 用する場合もあれば、マイナスに作用する場合もある。この効果を決定づける のは、地域間道路によって連結される地域の、経済に関する相対的な力関係と 考えられる3) II–2. 先行研究 地域間の相互関係を考慮して、道路整備と地域経済との関連を検証した先行 研究としては、中里(2001、2003)が存在する程度である。中里(2001)は、 道路を地域内と地域間に区分し、それぞれの道路が地域経済にどのような影響 を及ぼすかを、1960年から88年までの都道府県データをもとに検証してい る。その際、地域間道路整備が地域経済の成長にプラスあるいはマイナスのど 2) 坂口(1991)において述べられているように、九州では「フェニックス族」、「かもめ族」と呼ば れる、高速バスや鉄道を利用して福岡県に買い物に行く消費者が近年増加している。 3) 地域経済学において、地域間相互作用を分析する際に多く用いられるグラビティ・モデル(重力 モデル)では、地域間の人や物の移動量は関係する地域事象の総量と移動時間に依存すると考え ている。そこで分析の対象となるのは相互作用の大きさ、つまり人や物の流れの規模である。し かし、本稿で検証しようとするのは、経済活動の地域間移動の方向であり、移動が地域にとって プラス(成長)の効果を与えるのかマイナス(衰退)の効果を与えるのかである。

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ちらの影響を及ぼすかについては、地域間道路によって結ばれる地域の相対的 な所得水準に依存するとしている。 推計の結果、地域内道路整備については地域経済の成長に有意な影響が見ら れない一方、地域間道路整備は所得水準の低い地域の経済成長に対して有意な プラスの影響を及ぼしており、地域間道路整備が市場規模の拡大を通じて地域 経済にプラスの影響を及ぼすと結論づけている。この推計結果は、地域経済に 対する道路整備の影響が、地域内あるいは地域間といった道路の性格によって 異なること、そして、地域経済に対する地域間道路整備の影響は、周辺地域と の関係によって異なることを示唆している。 II–3. 本稿の特徴 本稿における実証モデルの考え方は中里(2001)に依拠しているが、いくつ かの点で異なっている。第1は、地域間道路によって連結される地域間に存在 する経済力格差の「大きさ」を、モデルに明示的に組み込んだことである。ス トロー効果や分散効果といった資源の地域間移動において重要な意味を持つの が、生産要素にとっての有利性の地域間格差であり、本稿では、これを経済力 格差と表現している。経済力格差を発生させる要因としては、経済規模、地域 経済が収穫逓増の局面にあるか逓減の局面にあるか(これは地域経済の規模に 依存する)、地域が持つ集積の経済・不経済、地域の地理的条件など、さまざ まなものが考えられるが、こうした多くの要因から生じる格差を総合的に集約 した指標として、本稿では、中里(2001)と同様、就業者1人当たり域内総生 産(所得水準とする)を採用する。また、中里(2001)は「自地域の所得水準 が周辺地域の所得水準よりも高い場合」と「自地域の所得水準が周辺地域の所 得水準よりも低い場合」の2つのタイプに地域間の関係を区分し、地域間の所 得格差によって生じる地域間道路整備の効果を検証している4) ところが、大阪府と和歌山県のように経済力格差がきわめて大きい地域間 と、和歌山県と奈良県のように格差が小さい地域間とでは、地域間道路整備が 地域経済に及ぼす影響は異なる可能性がある。例えば、自地域と周辺地域が地 4) 中里(2001)、108 頁。

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域間道路で結ばれたとき、経済力の強い(ここでは、所得水準の高い)地域へ と企業が転出したり、消費が流出するという「ストロー効果」の度合いは、図1 のように経済力格差の大きさに依存する可能性がある。つまり、周辺地域A、 Cと自地域との間では強いストロー効果が生じ、周辺地域B、Dと自地域との 間ではストロー効果は弱いか、あるいは生じない可能性があると考えられる。 中里モデルのように、自地域と周辺地域の経済力の大小によって地域間関係を 2タイプに区分するだけでは、こうした可能性を認識できない。 第2は、地域間道路によって連結される地域の広がりを考慮したことであ る。中里(2001)では自地域と関連する周辺地域の数にかかわりなく、自地域 との所得格差を周辺地域の平均値との比較で表している。しかし、自地域に比 べて所得水準が高い周辺地域が1つある場合と複数ある場合とでは、地域間道 路整備による「ストロー効果」や「分散効果」の度合いは異なると考えられる。 そのため、本稿では周辺地域の数を考慮に入れて推計を行う。 第3は、推計に用いる地域間道路の対象を変更したことである。中里(2001) においては、地域間道路は自地域内の部分のみを範囲としている。しかし、自 地域とつながりのある周辺地域内にある地域間道路が整備されれば、自地域の 経済に影響を及ぼす可能性が考えられることから、地域間道路の延長は自地域 だけでなく周辺地域の部分も加えることとする。 図 1  相対的な所得水準によるストロー効果 ๟ ㄝ ࿾ ၞ #    ๟ ㄝ ࿾ ၞ $    ⥄ ࿾ ၞ    ๟ ㄝ ࿾ ၞ %    ๟ ㄝ ࿾ ၞ &    注) 1)図中の数字は各地域の就業者 1 人当たり県内総生産を表している。    2)矢印は地域間道路整備による企業の流れを例示したものである。    3)矢印が太ければ企業の流出効果が強いことを示している。

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第4は、推計結果の読み取りにおいて、集積の不経済による事業所の転出 の可能性を考慮したことである。道路整備のストロー効果や分散効果は企業の 立地環境の地域間格差によって発生するが、経済活動の規模が大きいことが企 業の立地環境において必ずしも優れているわけではない。というのも、地域に よっては集積の不経済が発生し、そこから逃れるために事業所を移転したくて も、輸送コストがかかるために、大消費地から生産現場を移動させることが困 難である場合も考えられる。このような場合、図2に示すように、地域間道路 が整備され、輸送コストが低下すれば、高地価や交通混雑などの集積の不経済 が発生している地域から、より良い立地環境を求めて企業が流出する「分散効 果」が生じる可能性も存在する5) 図 2  ストロー効果と分散効果 ⥄ ࿾ ၞ    ๟ ㄝ ࿾ ၞ $    ๟ ㄝ ࿾ ၞ &    ಽ ᢔ ല ᨐ  ๟ ㄝ ࿾ ၞ #    ⥄ ࿾ ၞ    ๟ ㄝ ࿾ ၞ %    ࠬ ࠻ ࡠ ࡯ ല ᨐ  注) 1)図中の数字は各地域の就業者 1 人当たり県内総生産を表している。    2)矢印は地域間道路整備による企業の流れを例示したものである。

III. 実証分析

III–1. 相対的な所得水準を表す変数 本稿では都道府県データを用いて、道路整備が地域経済に及ぼす影響につい て検証するが、第II節において述べた通り地域間の経済力格差の大小を考慮 するために、地域間の所得格差を、 5) 近畿圏における滋賀県の好調な企業立地は、高速道路によってこのようなケースが発生している ととらえることができる。

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  タイプ1:自地域の所得水準が周辺地域の所得水準に比べて非常に高い場合、   タイプ2:自地域の所得水準が周辺地域の所得水準に比べてわずかに高い 場合、   タイプ3:自地域の所得水準が周辺地域の所得水準に比べて非常に低い場合、   タイプ4:自地域の所得水準が周辺地域の所得水準に比べてわずかに低い 場合、 の4つに分けて検証を行う。 自地域と周辺地域の関係をこのような4つのタイプに区分する際、「非常に 高い(低い)」あるいは「わずかに高い(低い)」の判断基準が必要になるが、 その基準として、地域間道路によって自地域と連結される周辺地域との所得 水準格差の平均値を用いることにする。つまり、ある特定地域(自地域)と道 路で結ばれる他地域(周辺地域)が複数あるとき、自地域との所得格差の平均 値よりも、各周辺地域との格差が大きい場合は「自地域の所得水準は非常に高 い」と判断するわけである6) 推計には、表1に示した方法で得られた所得水準格差の値を説明変数に用 いる。なお、表中のyitt期(初期時点)におけるi地域(自地域)の所得 水準、y˙iti地域の周辺地域の所得水準、AYtは対数化した所得水準格差の 平均値である。 表 1  タイプ別にみた地域間所得格差 定  義 説明変数に用いる地域間所得格差 タイプ 1 ln(yit)− ln( ˙yit)≥ AYt ln(yit)− ln( ˙yit) = Y 1it

タイプ 2 AYt> ln(yit)− ln( ˙yit) > 0 ln(yit)− ln( ˙yit) = Y 2it

タイプ 3 ln( ˙yit)− ln(yit)≥ AYt ln( ˙yit)− ln(yit) = Y 3it タイプ 4 AYt> ln( ˙yit)− ln(yit) > 0 ln( ˙yit)− ln(yit) = Y 4it 6) 図 1 を例にとると、自地域と周辺地域 A、B、C、D との所得水準格差の絶対値の合計は 24 であることから、自地域と周辺地域との所得水準格差の平均値は 6 となる。つまり、所得水準 の差の絶対値が 6 以上の場合を「非常に高い(低い)」、6 未満の場合を「わずかに高い(低い)」 と考えるのである。こうして、タイプ 1 に属する周辺地域は A、タイプ 2 は地域 B、タイプ 3 は地域 C、タイプ 4 は地域 D ということになる。

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推計では、yitに自地域の就業者1人当たり県内総生産、y˙itに地域間道路 で連結される周辺地域の就業者1人当たり県内総生産、AYtに全ての地域間 における就業者1人当たり県内総生産の差の平均値のデータを用いる。なお、 周辺地域としては自地域に隣接する都道府県だけではなく、県庁所在地間の距 離が100km以内にある都道府県として定義している7)。というのも、例えば 大阪府と滋賀県は隣接してはいないものの、企業の立地や市場としては同一圏 域ととらえるほうが望ましいからである8) III–2. 推計式 道路整備が地域経済に及ぼす影響を検証するために、地域の生産関数を推 計するのであるが、本稿でも中里(2001)と同様、Barro regression(Barro (1991))を基本的な枠組みとした推計式を用いることとする。Barro regression では、各地域の経済成長率を初期時点の所得水準やその他の社会経済変数で 回帰することによって、新古典派成長モデルが想定する「地域間所得格差の収 束」の検証が可能であるが、同時に、道路整備の影響を検証しようとする本稿 においては、初期時点の所得水準はコントロール変数としての役割を果たすこ とにもなる。 推計式の作成に当たって、本稿では以下の4点を考慮した社会経済変数を 用いる。 ①道路はその性格によって地域経済成長に及ぼす影響が異なることから、「地 域内道路」と「地域間道路」に区分する。 ②地域間道路整備が当該地域の経済成長にプラスあるいはマイナスのどちら の影響を及ぼすかについては、地域間道路によって連結される地域間の経済力 格差の大きさに依存する可能性があることから、中里(2001)と同様、「所得 水準格差」と「地域間道路」の交叉項を社会経済変数に用いる9) 7) この定義は、三井・竹澤・河内(1995)に従っている。 8) 時間距離が望ましいという考えもあるが、時間距離は地域間道路整備によって決まる内生変数で あるため、地理的距離を採用した。 9) 「地域間道路」のみを社会経済変数に用いた場合、仮に経済力格差がない地域間と経済力格差が 非常に大きい地域間の期間内における道路の増分が同じであるとすると、社会経済変数には同じ 値が用いられる。この場合、地域間道路の延長が地域経済に及ぼす影響を正確にとらえられな い、もしくは、その効果が過小になる可能性が考えられる。

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③地域間道路には、自地域内に位置する地域間道路と表1に示したタイプ 毎の周辺地域内に位置する地域間道路の総和を用いる10) ④前述した通り、自地域に比べて所得水準が高い周辺地域が1つある場合 と複数ある場合では、地域間道路整備による「ストロー効果」や「分散効果」 の度合いが異なると考えられることから、「所得水準格差」の変数には表1に 示したタイプ毎の「所得水準格差」の総和を用いる11) 以上のことから推計式は, 1

T[ln(yi,t+T)− ln(yit)]

= α + β ln(yit) + γDIN F RAit

  + θ1[(IIN F RAit+ IIN F RAY 1it)∗ SUMY 1it]

  + θ2[(IIN F RAit+ IIN F RAY 2it)∗ SUMY 2it]

  + θ3[(IIN F RAit+ IIN F RAY 3it)∗ SUMY 3it]

  + θ4[(IIN F RAit+ IIN F RAY 4it)∗ SUMY 4it]

  + φDhyogo+ εit

となる。

上式におけるyiti地域の初期時点の所得水準、DIN F RAiti地域の地域

内道路の整備水準、IIN F RAiti地域の地域間道路の整備水準、IIN F RAY 1it

IIN F RAY 4itは表1におけるタイプ1からタイプ4に該当する地域の地 域間道路の整備水準の総和、SU M Y 1itSU M Y 4itはタイプ1からタイプ4 に該当する地域の所得水準格差の総和、Dhyogoは兵庫県ダミー(兵庫県は1、 それ以外は0)である12)。なお、T は初期時点からの経過年数を表す。 この推計式では、βの符号が有意にマイナスとなれば、新古典派成長モデル 10) 例えば、a 地域の周辺にタイプ 1 に属する b 地域と c 地域が存在する場合、a 地域のタイプ 1 の「地域間インフラ」の変数には、a、b、c 地域の地域間インフラの和を用いる。 11) 例えば、a 地域の周辺にタイプ 1 に属する b 地域と c 地域が存在する場合、a 地域のタイプ 1 の「所得水準格差」の変数には、a 地域と b 地域の就業者 1 人当たり県内総生産の差と、a 地 域と c 地域の就業者 1 人当たり県内総生産の差を合計したものを用いる。 12) 推計期間が 1990 年から 05 年であることから、阪神大震災による影響を考慮するために兵庫県 ダミーを用いた。ただし、1990 年から 95 年までの期間のみ兵庫県ダミーは用いない。

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が想定する「地域間所得格差の収束」が生じていると考えられ、γの符号が有 意にプラスとなれば、地域内道路整備が地域経済にプラスの影響を及ぼしてい ると考えられる。 また、θ1、θ2の符号が有意にプラスとなれば、地域間道路整備によって経 済力の強い自地域に周辺地域からストロー効果が生じており、有意にマイナス となれば分散効果が生じていると考えられる。そして、θ3、θ4の符号が有意に マイナスとなれば、経済力の弱い自地域から強い周辺地域へのストロー効果が 生じており、有意にプラスとなれば分散効果が生じていると考えられる。 III–3. 推計データ 推計は1990年から05年までの期間を対象とし、他の地域と道路で結ばれ ていない北海道、沖縄県を除く45都府県のデータを用いて行う13) 地域の経済力を表すyitには、「就業者1人当たり県内総生産」のデータを 用いる。道路については地域内と地域間とに区分する必要があるが、本稿では 都府県を1つの地域として捉えていることから、地域間道路には高速自動車 国道(高速道路)と一般国道を、地域内道路には都道府県道と市町村道を用い る。ただし、一般国道は地域内の経済活動に貢献すると考えられることから、 地域内道路にも加えた。 本稿では道路整備が地域経済成長に及ぼす影響を検証する目的から、道路整 備は期間内における道路の「実延長(1km2当たり)」の増分を用いる。つま り、DIN F RAitには「期間内における一般国道+都道府県道+市町村道の実

延長の増分」、IIN F RAitおよびIIN F RAY 1itIIN F RAY 4itには「期間

内における高速道路+一般国道の実延長の増分」である。

13) 1990 年から 95 年までの期間を推計対象にした場合、推計に用いるデータは 5 年× 45 都府県 からなる 225 のパネル・データではなく、45 都府県からなるクロスセクション・データであ る。なお、1990 年以前については、さらに遡っての高速道路データが存在しないために分析が できない。

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III–4. 推計結果 推計は1990年から05年までの期間を対象とするが、推計期間あるいは大 都市圏と地方圏といった地域特性の違いによって、道路整備が地域経済に及ぼ す影響が異なる可能性もあることから、1990年から95年、1995年から2000 年、2000年から05年の大都市圏と地方圏に区分して推計を行った14)。結果 は表2に示されている15) 推計結果から以下の点が明らかになった。 ①1990年から95年の地方圏において、初期時点の所得水準の係数が有意に マイナスとなっており、新古典派成長モデルが想定する地域間格差の縮小傾向 が見られる。 ②地域内道路整備は地域経済にプラスの影響を及ぼすと予想されるが、1990 年から95年の大都市圏において、地域内道路の係数は有意にマイナスであり、 予想と逆の結果となった。この理由として、推計期間がバブル崩壊直後であっ たことから、地域内道路整備が地域経済に及ぼす影響を正確に検証できなかっ た可能性が考えられる。また、他の推計期間では、大都市圏、地方圏ともに地 域内道路の係数は有意ではなく、地域内道路整備は地域経済に影響を及ぼして いるとは言えないという結果が得られた。その理由としては、地域内道路がす でに充足しているために、道路の限界生産力がほとんど無視できるほどである か、経済効果の乏しい地域に整備された可能性が考えられる。 ③1995年から2000年、2000年から05年の大都市圏における地域間道路 (タイプ2)の係数が有意にマイナスであった。このことは、大都市圏におい 14) 大都市圏には東京都、愛知県、大阪府の他に、三井・竹澤・河内(1995)においてこれらの周辺 地域に指定されている 13 府県を、地方圏にはその他の 29 県を分類した。期間については、経 済対策で行政投資(一般政府を中心とした固定資本形成と用地費)が増加した 1990 年から 95 年、横ばいであった 95 年から 2000 年、減少した 2000 年から 05 年に区分した。 15) 推計方法は最小二乗法(OLS)である。なお、推計式の説明変数に含まれる DIN F RAit

IIN F RAit、IIN F RAY 1it∼IIN F RAY 4itは対象期間内における道路の増分であること から、道路整備が地域間格差の是正といった政策目標を反映して決定されている場合、説明変数 に内生性が生じている可能性が考えられる。内生性が生じていると OLS 推定に問題が生じる ことから、Wu-Hausman の定式化検定を実施した結果、説明変数に内生性が生じているとは 言えないという結果が得られた。

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表 2  推計結果 係数 1990 ∼ 1995 1995 ∼ 2000 2000 ∼ 2005 地方圏 大都市圏 地方圏 大都市圏 地方圏 大都市圏 定数項 0.077(4.13)※※※ (−1.57)−0.056 (1.76)0.047※ (0.74)0.033 (−0.62)−0.019 (2.02)0.152※ 初期時点の 所得水準 −0.037 ※※※ (−3.56) (1.41)0.025 (−1.32)−0.019 (−0.58)−0.013 (1.16)0.018 (−1.81)−0.069 地域内 インフラ (0.40)0.009 −0.038 ※ (−2.25) (−0.05)−0.002 (0.49)0.007 (−0.95)−0.041 (1.45)0.051 ラ フ ン イ 間 域 地 タイプ 1 −0.182 (−1.22) (0.52)0.012 (0.47)0.457 (1.04)0.150 (0.99)4.079 1.311 ※ (2.15) タイプ 2 (0.60)0.294 (−0.55)−0.052 (−0.85)−3.141 (−2.33)−2.247※※ (−0.40)−2.634 (−3.23)−6.016※※ タイプ 3 (−1.12)−0.127 (2.95)0.193※※ (−0.40)−0.266 (0.24)0.069 (0.62)0.999 (−2.67)−1.822※※ タイプ 4 (0.52)0.129 (2.13)0.418※ (0.59)2.040 (1.01)0.739 (−0.28)−2.192 (2.14)5.206※ 兵庫県ダミー ─ ─ ─ (−2.58)−0.013※※ ─ (−1.62)−0.011 補正 R2 0.39 0.69 − 0.07 0.44 − 0.11 0.41 注) 1)括弧内は t 値を表す。    2)なお、※は 10%有意水準で有意、※※は 5%有意水準で有意、※※※は 1%有意水準で有 意であることを示している。 て自地域の所得水準が周辺地域に比べてわずかに高い場合、地域間道路整備は 自地域の経済成長を低める方向に作用したことを示している。この理由として は、所得水準は高いものの集積の不経済が存在する自地域から周辺地域に工場 等の事業所が転出(分散)し、自地域において資本装備率が低下することで労 働生産性の上昇が抑えられたことが考えられる。林(2007)は、大阪府におい て事業所が過度に集中して立地し、集積の不経済が発生していることを明らか にした16)。しかし、本稿では結果の読み取りとして集積の不経済の存在を指 摘しているにすぎず、集積の不経済の存在と本モデルの推計結果との関連性に ついてはさらに検討を進める必要がある。しかし、いずれにせよこの期間にお ける地域間道路整備は分散効果を通じて、大都市圏に属する経済力格差が比較 16) 林(2007)、21 頁。

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的小さな地域間の所得格差を縮小することとなった。 ④地域間道路(タイプ1、3、4)の係数に関して、大都市圏においていくつ かの有意な結果が得られた。具体的には、1990年から95年の大都市圏におい て、地域間道路(タイプ3、4)の係数が有意にプラスとなり、自地域の所得 水準が周辺地域の所得水準に比べて非常に低い場合、あるいはわずかに低い場 合、この期間における地域間道路整備は分散効果を通じて自地域の経済成長率 を高める方向に作用し、大都市圏に属する地域間の所得格差を縮小したと考え られる。 また、2000年から05年の大都市圏において、地域間道路(タイプ1、4)の 係数が有意にプラスとなり、タイプ3の係数が有意にマイナスとなった。地域 間道路(タイプ2)の係数が有意にマイナスであることを併せて考えると、こ の期間においては、図3に示すように、大都市圏に属する地域間の経済力格差 が大きな場合には、ストロー効果を通じて所得格差を拡大させ、地域間の経済 力格差が小さい場合には、分散効果を通じて所得格差を縮小したと考えられる。 以上の推計結果から、道路整備が地域経済に及ぼす影響は、期間あるいは 大都市圏や地方圏といった地域特性によって異なることが明らかになった。ま た、地方圏では道路整備が地域経済に影響を及ぼしていないのに対し、大都市 図 3  大都市圏における地域間インフラ整備効果(2000 年∼2005 年) ⥄ ࿾ ၞ    ࠲ ࠗ ࡊ     ⥄ ࿾ ၞ    ࠲ ࠗ ࡊ    

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注) 1)図中の数字は各地域の就業者 1 人当たり県内総生産を表している。    2)矢印は地域間道路整備による企業の流れを例示したものである。

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圏では、当該期間中の地域間道路整備が、より有利な立地環境を求めて立地す るという市場メカニズムに近い形での企業立地を可能にしたことによって、企 業の集積、分散が促されたことを示している。 なお、大都市圏において最終期間にストロー効果が観察された背景には、大 都市における大規模事業所の立地を規制していた工場等制限法が2002年に廃 止されたことによって、地域間道路整備の効果がより明確に現れるようになっ たことが一因としてあげられる。

IV. おわりに

民間経済活動が広域化し地域間の相互依存関係や競合関係が強化されてい る今日、中長期的な地域経済活性化に資する社会資本整備のあり方を検討する ためには、複数地域間の人的、物的交流を踏まえた研究が不可欠である。そこ で本稿では、地域間の相互関係を考慮した上で、1990年から05年までの期間 を対象に、道路整備が地域経済に及ぼす影響について検証した。その結果、以 下の点が明らかになった。 大都市圏、地方圏ともに地域内道路は当該地域の経済活動にプラスの影響を 及ぼすことはなかった。また、地域間道路についても、地方圏においては分析 対象とした1990年から05年の全期間中、道路整備は地域経済成長にプラス の効果を発揮していない。 これに対して大都市圏においては、(2000年から05年の期間においてでは あるが)地域間道路によって結ばれた地域間の経済力格差が大きい場合、経済 力の強い地域へのストロー効果による格差の拡大が、地域間の経済力格差が小 さい場合、分散効果による格差の縮小が生じる。つまり、広域経済圏を形成し ている大都市圏においては、地域間道路の整備によって、移動(輸送)コスト という障害が小さくなるため市場メカニズムに近い形での企業立地が可能に なり、企業の集積、分散が生じたのである。地方圏において地域間道路がスト ロー効果も分散効果も引き起こさなかったのは、大都市圏に比べて広域的な地 域経済圏の形成が進んでおらず、インフラ整備による輸送コストの低下という メリットを享受できない構造になっている可能性も考えられる。したがって、

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地域間道路整備によって地方圏における経済活性化を図ろうとするなら、道路 以外のネットワーク形成をはじめとした地域経済圏域の一体化にまで踏み込ん だ政策を実施する必要がある。地方圏においても大都市圏と同様に経済活動の 広域化が進めば、地域間道路整備の効果が生まれるだろう。 しかし、地域間道路の整備は、一方でストロー効果によって広域経済圏内部 での地域間格差を拡大させる可能性があることから、道州制といった行政区域 の拡大によって、経済拡大のメリットを全体で享受できる仕組みも必要になる かもしれない。 最後に、本稿の課題を挙げる。 ①推計期間を1990年から05年としたが、この期間はバブル崩壊による影 響が大きいため、交通インフラ整備が地域経済に及ぼす影響を正確に検証でき なかった可能性がある。地域間インフラとしてきわめて重要な役割を果たすは ずの高速道路について都道府県別データが存在しないといった制約はあるが、 推計期間をバブル前にまで遡って検証することも必要である。 ②周辺地域として三井・竹澤・河内(1995)において定義されている100km 隣接地域を用いたが、交通網がより発達した今日では、相互に関係を持つ地域 が広域化している可能性がある。周辺地域の定義を工夫する必要があるかもし れない。 ③本稿では、大都市圏と地方圏に分類して分析を行った。しかし、同じ地方 圏でも仙台、広島、福岡といった地方中枢都市を含む地域と含まない地域とで は、地域内道路、地域間道路の地域経済に及ぼす影響が異なる可能性があるた め、地域分類をさらに細かくすることも考えられる。 参考文献 ・浅子和美・坂本和典(1993)「政府資本の生産力効果」『フィナンシャル・レビュー』 第 26 号、97∼102 頁。 ・林亮輔(2007)「集積の利益と地域経済成長−最適空間構造の実証分析−」『関西学 院経済学研究』第 38 号、1∼24 頁。

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・林宜嗣(2004)「公共投資と地域経済−道路投資を中心に−」『フィナンシャル・レ ビュー』74 号、52∼64 頁。 ・三井清・竹澤康子・河内繁(1995)「社会資本の地域間配分」『郵政研究レビュー』 第 6 号、205∼261 頁。 ・森川正之(1997)「機械工業と地域経済の発展」『通産研究レビュー』第 10 号、64 ∼90 頁。 ・中里透(1999)「社会資本整備と経済成長」『フィナンシャル・レビュー』第 52 号、 67∼84 頁。 ・ (2001)「交通関連社会資本と経済成長」『日本経済研究』No.43、101∼116 頁。 ・ (2003)「社会資本整備と経済成長−道路投資を対象とした実証分析−」『ESRI ディスカッションペーパーシリーズ』No.51。 ・坂口光一(1991)「「福岡一極集中」と九州の高速交通体系」『高速道路と自動車』第 34 巻第 10 号、12∼16 頁。 ・吉野直行・中島隆信編(1999)『公共投資の経済効果』日本評論社。

・Aschauder D.A.(1989)“Is public expenditure productive?”, Journal of

Mon-etary Economics, 23, pp.177-200.

・Barro Robert(1991) “Economic growth in a cross section of countries”,

Quarterly Journal of Economics, 106, pp.407-443.

・Blum U.(1982) “Effects of transportation investments on regional growth: a theoretical and empirical investigation”, Papers and Proceedings of the

Regional Science Association, 49, pp.169-184.

・Easterly William and Sergio Rebelo(1993) “Fiscal policy and economic growth”, Journal of Monetary Economics, 32, pp.417-458.

・Krugman Paul and Anthony Venables(1995)“Globalization and the inequal-ity of nations”, NBER Working Paper, No.5098.

・Martin Philippe and Carol Rogers(1995) “Industrial location and public infrastructure”, Journal of International Economics, No.39, pp.333-351. ・Vickerman R. W.(1989) “Measuring changes in regional competitiveness:

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・ (1991)“Other regions’ infrastructure in a region’s develop-ment”, in Infrastructure and Regional Devolopment, Pion Limited, pp.61-74.

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参考資料 ・国土交通省道路局『道路統計年報』。

・内閣府経済社会総合研究所『県民経済計算年報』。 ・東洋経済新報社『地域経済総覧』。

表 2  推計結果 係数 1990 〜 1995 1995 〜 2000 2000 〜 2005 地方圏 大都市圏 地方圏 大都市圏 地方圏 大都市圏 定数項 0.077 ※※※ (4.13) −0.056 (−1.57) 0.047 ※ (1.76) 0.033 (0.74) −0.019 (−0.62) 0.152 ※ (2.02) 初期時点の 所得水準 −0.037 ※※※(−3.56) 0.025 (1.41) −0.019 (−1.32) −0.013 (−0.58) 0.018 (1.16) −

参照

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