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「市民農園の外部効果について農地との比較分析 -東京都区部を対象として-」

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市民農園の外部効果について農地との比較分析

―東京都区部を対象として―

要旨 日本の都市の特徴の一つとして、都市の内部に農地が残存していることがあげられる。近 年、この都市の内部に残存した農地を再評価し、保全する動きが強まっており、その手段の 一つとして、自治体による市民農園の開設が拡大している。しかし、土埃や堆肥の臭い、農 薬の飛散など、農地が近隣に及ぼす影響は無視できない。さらに市民農園については、それ ら以外に、利用者による路上駐車やごみの投棄など近隣への迷惑行為の発生も聞かれる。本 研究では、東京都区部を対象に、ヘドニック・アプローチを用いた実証分析によって、住宅 地に存在する農地が近隣に及ぼす正・負の外部効果を明らかにした上で、市民農園の外部効 果を市民農園以外の農地と比較して計測した。その結果、都市住宅地内の農地は近隣に負の 外部効果をもたらすこと、加えて、市民農園はそれ以外の農地と比較して、より大きな負の 外部効果をもたらすことが明らかになった。 2012 年(平成 24 年)2 月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU11015 武内香澄

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2 目次 1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 2. 先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 3. 農地・市民農園の外部効果についての仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 3.1 農地の外部効果についての仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 3.2 農地と比較した際の市民農園の外部効果についての仮説・・・・・・・・・・・6 4. 分析対象とデータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 5. 農地の外部効果について、距離・建蔽率・公園の有無に着目した計測・・・・・・・8 5.1 推定式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 5.2 推定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 6. 農地と市民農園の外部効果の比較計測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 6.1 推定式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 6.2 推定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 7. 市民農園の外部効果について、運営方法に着目した計測・・・・・・・・・・・・12 7.1 推定式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 7.2 推定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 7.3 市民農園の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 8. まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

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3 1. はじめに 日本の都市の特徴の一つとして、都市の内部に農地が残存していることがあげられる。都市と 農村を峻別し、都市が都市として純化して形成されてきた欧米に対し、日本では市街化された区 域内に多くの農地が残り、東京のような世界的な大都市においても産業として農業が存在する1 これは都市計画の失敗2や農地所有者の意向に偏った農地優遇税制3の結果と言えるが、この都市 の内部に残存した農地を再評価し、保全する動きが高まりを見せている。特に、近年注目を集め ている市民農園4の普及はこうした流れに位置づけられ、農地保全の一環として自治体が開設す る市民農園の数は年々増加している。図1-1 は、特定農地貸付法及び市民農園整備促進法に基づ き開設された市民農園の数の推移を示すグラフであるが、右肩上がりで増加しているのが分かる。 平成22 年 3 月末現在、全国で 3596 農園を数え、このうちの約 7 割が自治体によって開設され ている。自治体による市民農園の開設5が進む一方で、市民からの利用需要も大きく、高倍率の 抽選6を経なければ利用できない状況である7 こうした農地保全の観点から、農地は「多面的機能」をもつという为張がしばしば聞かれる8 環境保全機能や防災機能、景観形成機能など、農地は農作物の供給に留まらずに様々な機能を有 1 後藤(2003) 第一章 2(3) 参照。 2 1968 年に制定された新都市計画法にもとづき、「すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的か つ計画的に市街化を図るべき区域」(法第 7 条第 2 項)として市街化区域の設定が行われた。市街化区域内農地は、10 年 以内に非農業的利用に転換されるべきものと位置づけられ、1970 年の農地法改正によってその転用は農業委員会に届け 出さえすれば自由に行えることになった。農地所有者は自らの農地が市街化区域に編入されることを望み、また、線引 きを行う自治体も、市街化区域について10 年以内に市街化することが義務付けられたわけではないためにその面積を抑 制するインセンティブは弱く、市街化区域は多くの農地を取り込んで広く設定された。(後藤(2003) 第三章 1(1)) 3 市街化区域内農地については、自由な開発が許される代わりに「宅地並み課税」の対象とされていたが、自治体の施 策や長期営農継続農地制度によって実質上先送りされてきた。1991 年の生産緑地法改正によって、三大都市圏特定市及 び政令指定都市の市街化区域内農地のうち「宅地化する農地」については1992 年度から宅地並み課税がされるように なったが、一方の「保全する農地」である生産緑地については農地課税になっている。特定市や政令指定都市以外では、 市街化区域内農地もすべて農地課税である。(寺井(2001)) 4 市民農園とは、一般に、都市住民等の農業者以外の人々がレクリエーションを目的として農作業を行うための施設を 指す。我が国における歴史的展開については、工藤(2009)が詳しい。 5 以後本稿において、特別な言及の無い限り「市民農園」とは、自治体が開設する者を指す。 6 平成22 年度に募集を行った農園の倍率は東京都全体では 2.2 倍、区部では 2.5 倍であった。(東京都農業振興事務所 調べ) 7 このような利用混雑の要因として、利用料金が廉価であることが指摘できる。東京都区部の市民農園について言えば、 1 区画面積は約 10~15 ㎡が標準的であるが、その利用料金は年間 3000 円から 7200 円のものが大半である。 8 枚挙に暇がないが、代表的なものとして後藤(2000)など。 図 1-1 市民農園の開設状況

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4 するという。しかし、近隣住民にとって、農地は果たしてそのような単なるアメニティと呼べる だろうか。土埃や堆肥の臭い、農薬の飛散など、農地利用が近隣に及ぼす影響は無視できないは ずである。さらに市民農園となると、農作業に不慣れな市民が農地を扱うために、近隣はより一 層の影響を受けかねない。農園利用者による近隣への路上駐車やごみの投棄などの迷惑行為も発 生している。 このように、それが正であるか負であるかは論者によって異なるが、農地に外部性があること 自体は広く为張されており、外部効果を計測した研究も様々になされている。しかし、その多く が農地のもつ総合的な外部効果を計測するにとどまり、正の外部性・負の外部性の両者を比較考 量した研究は尐ない。さらに、市民農園については外部性に着目した研究はなされていない。 本研究は、市民農園が近隣に及ぼす外部効果を定量的に計測することを目的とする。そのため の前提として、市民農園に限らず農地一般の外部効果について考察することが重要と考える。よ って、東京都区部を対象に、ヘドニック・アプローチを用いた実証分析によって住宅地に存在す る農地9が近隣に及ぼす正・負の外部効果を明らかにし、その上で市民農園が農地に比べてどの 程度の外部効果を近隣に及ぼすのか計測を行うこととした。その結果、農地の外部効果は周囲の 空地・緑地量に応じて異なり、空地効果や緑地効果といった正の外部効果があることが明らかに なったが、相対的に正の外部効果は小さく、農地のもつ外部効果は総合的には負であることが示 された。さらに、市民農園は農地に比べ大きな負の外部効果を持つことが明らかになったが、現 行において、指導員の設置や利用者数の設定は市民農園の外部効果に対して統計的に有意な影響 を与えているとは言えなかった。 なお、本稿の構成は次の通りである。第2 章で先行研究について検討を加えたのち、第 3 章 で農地及び市民農園のもつ外部効果について仮説を提示する。第4 章では分析対象とデータに ついて説明する。第5 章では、第 3 章の仮説に基づき距離・建蔽率・公園の有無に着目して外 部効果の計測を行った。第6 章では市民農園の外部効果について農地と比較計測を行い、第 7 章では、第6 章で明らかになった市民農園の負の外部効果についてそれを抑制する観点から、 指導員の有無や利用者数によって市民農園の外部効果が変化するかを計測した。そして、その結 果を受けて、現在の市民農園における利用者の行動や自治体の運営方法について、ヒアリング結 果と併せて問題点を考察した。最後に第8 章で、それまでの結果及び考察から、市民農園の負 の外部性に対処する政策の必要性を指摘した。 2. 先行研究 農地の外部効果を計測した研究は様々になされているが、ここでは本研究と同じくヘドニッ ク・アプローチを用いたものと、本研究の为眼の一つでもある農地の正の外部性・負の外部性の 両者を比較考量した研究について簡単に検討する。 9 以後本稿において、特別な言及の無い限り「農地」とは、市民農園であるか区別せず、土地利用が農地利用のものを 指す。

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5 環境に対する関心の高まりを背景として、近隣環境の価値をヘドニック・アプローチを用いて 計測する研究は数多く行われてきており、その中には、農地の外部効果を計測したものもいくつ か存在する。 仁科(1986)は、为に世田谷区を対象とした分析から、樹木は正の評価を受ける一方、農地の評 価は負になる傾向があるという結果を導き出し、農地自体は近くに住んでも自然豊かとは見られ ないと考えられることを指摘している。廣政・深澤(1992) は、札幌市の住宅地を対象とし、500m メッシュデータを用いた分析において、農地と樹林や自然植生、公園などを合わせた「緑地」に ついて、限界評価が負になるこことを報告している。丸山・杉本・菊池(1995)は、千葉市全域の 住宅区域を対象として、1km メッシュのデータを用いて農地の外部効果を計測した。結果から、 「農地」と「緑地」は別個の要因として取り扱われるべきであり、「緑地」は正の限界評価を持 つが「農地」の限界評価は負になると結論づけている。飯澤・駒井・栗崎(1999)は、世田谷区の 住宅地を対象として、GIS を用いて詳細な面積データを使用した分析を、また原・加藤(2005) は、人口100 万人を超える政令指定都市の中から計 7 都市と広域を対象とし、1km メッシュの データを使用した分析を行っている。いずれの結果からも農地は周辺地価を下げる、つまり、近 隣住民にとって農地がディスアメニティと評価されていることが報告されている。 このように、いずれの研究も農地の評価は負であることを示しているが、これらの研究で求め られた値は、正の外部効果と負の外部効果の両方が混じりあった値である。つまり、農地の外部 効果は総合的に負であることは示されているが、果たして、農地が正の外部効果を持つのか、持 つとすればそれがどの程度なのかということは分析されていない。また、農地が負の外部効果を もつということは明らかであるが、その要因についてもほとんど指摘がなされていない。加えて、 対象区域が1つの行政単位に留まっている点や使用したデータの詳細性について限界があると 言える。 一方、農地の正の外部性と負の外部性の両方に着目した数尐ない研究として、寺脇(1997)が注 目される。CVM(仮想状況評価法)を用いたこの研究では、純便益評価額ではなく、WTP(公 益的機能に対する支払意志額)とWTA(公害的機能に対する補償受容額)とをそれぞれ独立に 質問することで、正・負両方の外部性を貨幣的に評価することを試みている。伊丹市を対象に行 われた研究から、年間世帯当たり正の評価額1671 円、負の評価額 895 円、よって準便益評価額 796 円であると導出した。しかし、この研究では評価者が農地の近隣住民かどうかは考慮してい ないため、これが農地の近隣住環境に及ぼす影響を評価したものだとは言えない。 なお、市民農園については、外部性に着目した研究はなされていない。 本研究では、農地や市民農園について①外部性の要因が何かを具体的に念頭に置きつつ、②東 京都区部10を対象に、③東京都から借用した土地利用現況調査データをもとにGIS を使用した ミクロな集計レベルで、外部効果を計測することとした。 10 東京都区部23 区中、区内に農地が残るのは 10 区であったため、後述の通り分析では当該 10 区を対象とした。

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6 3. 農地・市民農園の外部効果についての仮説 本章では、農地及び市民農園がもつ外部効果について考察する。3.1 では農地のもつ正・負の 外部効果の要因について分析し、3.2 では農地と比較して市民農園に特有の外部効果の要因とな りうる特徴について分析し、続く実証分析で検証すべき仮説を立てた。 3.1 農地のもつ正・負の外部効果についての仮説 農地が近隣住環境11に及ぼす外部効果には、正に働くものと負に働くものの両方が考えられる。 正の外部効果の要因の为なものとしては、空地効果や緑地効果がある。負の外部効果の要因とし ては、土埃、虫や雑草の発生、堆肥の臭い、農薬の飛散等が考えられる。 例えば、公園と比較すると前者は農地特有とは言えないが、後者は農地特有もしくは農地につ いて顕著であると言える。つまり、農地の外部効果については、農地以外の土地利用に代替され るものもあれば、農地特有のものもある。 その上で、正・負の外部効果はそれぞれ別の要素に起因するのであるから、影響の表れ方、農 地からの距離や立地条件によって差が出ると想定される。具体的には、空地や緑地は、公園等の 他の土地利用で代替可能なため、空地・緑地に乏しい地域では農地の正の外部効果が大きく現れ る反面、空地・緑地が多い地域では農地の正の外部効果はあまり発揮されないと考えられる。一 方、農地特有の土埃や堆肥の臭いなどは、農地との距離が近ければ近いほど受ける影響が大きく なると考えられる12 3.2 農地と比較した際の市民農園の外部効果についての仮説 前節では、農地一般についての外部性を考えたが、農地所有者が自ら耕作する農地と一般市民 が農作業をする市民農園とで比べた場合、元来は同じ農地利用であるものの、近隣に及ぼす外部 効果には違いがあるのではないだろうか。 市民農園についても、空地効果や緑地効果などの正の外部性や、土埃や虫や雑草の発生、堆肥 の臭い等の農地一般がもつ負の外部性をもつと考えられる。しかし、市民農園は、一般的に農作 業に不慣れな市民が自宅から離れた農地を利用するために 手入れが行き届かない、および、肥 料や農薬の扱いが悪いといった問題が見受けられる。したがって、市民農園は一般の農地以上の 程度の負の外部効果を有する可能性があると考えられる。加えて、農園に自家用車で来園するた めの騒音や、路上駐車、農園内外へのゴミの放置など、一般の農地にはない外部性も市民農園は 有していると考えられる。 一方、市民農園も一種の集客施設であるので、一般の農地よりも外観が意識されて整備、管理 11 農地の影響は、農地から一定程度離れた地域(周縁地域)には及ばないと考えられるので、周縁地域については分析 の対象外とした。また、農地に接する土地(隣接地)については、隣接地特有の影響(建築物がないことによる日当た りや風通しの良さ、土埃や虫・雑草、堆肥の臭い、農薬などが自らの敷地に直接に及ぶ、等)があると考えられる一方、 農地の隣接地だけを対象とした分析は困難であるため、これについても今回の分析の対象から除外し、農地には接して いないが農地から一定の距離内にある近隣地域を対象とした。 12 正の外部効果、負の外部効果ともに、自らの土地にまで直接に及ばずとも、日常生活で頻繁に通行するに際して、そ の影響を被ることを想定している。

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7 されることも考えられ、それが顕著な場合には、緑地効果や景観の点で一般農地以上の正の外部 効果をもつと推測される。 4. 分析対象とデータ 第 3 章で示した仮説について、以下第 5 章以降で、資本化仮説13に基づいてヘドニック・アプ ローチを用いた実証分析を行うが、本章では、本研究における分析対象及び使用したデータにつ いて説明する。 本研究を通して分析の対象となる地域は、東京都23 区のうち、区内に農地が残る足立区・板 橋区・江戸川区・大田区・葛飾区・杉並区・世田谷区・中野区・練馬区・目黒区の計10 区にお ける住居系地域である。その中で、平成23 年の地価公示の標準地である 550 地点をサンプルと して分析を行った。 データとしては、平成23 年の地価公示で公表されている標準地に関する情報に加え、東京都 から借用した土地利用現況データをもとにGIS を用いて集計した周辺の土地利用状況を示すデ ータを使用した。 詳細を説明すると、平成23 年地価公示からは、地価公示価格に加え、土地属性を示すデータ として敷地面積・台形及び不整形地か否か・前面道路幅員、利便性を示すデータとして最寄駅ま での道路距離・最寄駅から最寄りの山手線駅までの時間距離14、そしてエリア特性を示すデータ として指定建蔽率及び所在行政区を採用した。さらに、同じくエリア特性を示すデータとして東 京都から借用した土地利用現況データからGIS を用いて、半径 500m 圏内の商業施設用地面積・ 半径500m 圏内の厚生医療施設用地面積・半径 500m 圏内の教育文化施設用地面積・半径 500m 圏内の公園緑地面積を集計した。以上が本研究を通して使用する基本となるデータセットである。 以下、この基本となるデータセットに加えて各章で使用したデータセットについて、説明する。 第5 章では、農地が近隣15に及ぼす外部効果について、農地との距離及び周囲の空地・緑地量 の変化に応じた変化を計測するために、農地との距離に関するデータと周囲の空地・緑地量に関 するデータを必要とする。そこで、農地との距離に関するデータとして、半径50m 圏内の農地 面積及び半径50~200m 圏内の農地面積を、土地利用現況データをもとに GIS を用いて集計し た。また、周囲の空地・緑地の量については、直接求めることが困難なため、代理指標として指 定建蔽率及び近隣における公園の有無を採用した。指定建蔽率については上述の基本となるデー タセットに含まれる情報であり、近隣における公園の有無に関するデータとしては、同じく土地 利用現況データをもとにGIS を用いて、半径 200m 以内に公園があるか否か集計した。第 5 章 で使用する変数の基本統計量は表5-1 に示す。 第6 章では、市民農園とそれ以外の農地について外部効果を比較計測するために、対象地域 13 非市場財である住環境の価値が、地価に反映(資本化)されて土地所有者に帰着するという仮説。 14 最寄駅名をもとに、インターネットサービス「乗換案内」を使用して集計した 15 本研究において、近隣地域の範囲は、矢澤・金本(1992)及び矢澤・金本(2000)に倣い、半径 200m 圏とした。

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8 である10 区の市民農園16について所在地と農園全体面積の情報を各区の公表資料及び調査によ り収集し、GIS を用いた集計により、半径 200m 圏内の市民農園を除く農地面積、及び、半径 200m 圏内の市民農園面積というデータセットを新たに作成、使用した。第 6 章で新たに使用す る変数の基本統計量は表6-1 に示す。 第7 章では、指導員の設置や区画数の制限が市民農園の負の外部効果を抑える機能を有する かを検証するために、上述の基本となるデータセット及び第6 章で新たに作成したデータセッ トに加えて、対象地域である10 区の市民農園について区画数及び指導員設置の有無に関する情 報を各区の公表資料及び調査により収集し、GIS を用いた集計により、最寄市民農園の区画数、 及び、最寄市民農園の指導員設置の有無というデータセットを作成、使用した。なお、第7 章 で新たに使用する変数の基本統計量は表7-1 に示す。 5. 農地の外部効果について、距離・建蔽率・公園の有無に着目した計測 第3 章で述べたとおり、農地は、空地効果や緑地効果に代表される正の外部効果と土埃や堆 肥の臭い等による負の外部効果の両方を併せもつと想定される。農地の外部効果を、ヘドニッ ク・アプローチにより定量的に計測した研究は散見されるが、そこで求められた値は、正の外部 効果と負の外部効果の両方が混じりあった値である。つまり、既往の研究で農地の外部効果は総 合的に負であることは示されているが、果たして、農地が正の外部効果を持つのか、持つとすれ ばそれがどの程度なのかということは分析されていない。また、既往の研究から、農地が負の外 部効果をもつということは明らかであるが、その要因についても特に論じられていない。 よって、本章では、農地の正・負の外部効果が様々な条件に応じて別々に変化するという第3 章の仮説に基づき、農地からの距離や周囲の空地・緑地量の変化に応じて農地の外部効果の合計 量にどのような変化がみられるか、ヘドニック・アプローチを用いて分析する。 5.1 推定式 農地が近隣地価に与える影響が、農地からの距離や周囲の空地・緑地量によってどのように変 化するかを検証するため、以下のように推定式を設定した。 P = Xα + Zβ +ε P は被説明変数(地価(¥/㎡))のベクトルであり、X は農地に関する変数行列、Z は地価を説明 するその他の変数及び定数項の行列である。なおεは誤差ベクトルを表し、α、βが推定すべき パラメータである。 为な説明変数となる農地に関する変数X に以下の 5 変数を用いた。まず、農地が 1 ㎡あたり につき近隣に及ぼす外部効果が農地からの距離に応じてどのように変化するかを観察するため の説明変数として、半径50m 圏内の農地面積(㎡)と半径 50~200m圏内の農地面積(㎡)を 用いた。周囲の空地・緑地量に関する代理指標の一つである指定建蔽率が農地の外部効果に与え 16 実際の呼び名としては、区民農園が一般的である。

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9 る影響を観察するための説明変数としては、指定建蔽率(%)と半径 200m 圏内の農地面積(㎡) 17との交差項を用いた18。周囲の空地・緑地量に関する代理指標のもう一つである公園の有無が 農地の外部効果に与える影響を観察するための説明変数として、半径200m 以内に公園がある ことを示すダミー変数(有りが1、無しが 0)と、半径 200m 以内に公園があることを示すダミ ー変数と半径200m 圏内の農地面積(㎡)との交差項を用いた19 地価を説明するその他の変数Z には、土地属性をコントロールするために地積(㎡)、台形・不 整形地ダミー(台形・不整形地は1、整形地は 0 )、前面道路幅員(m)を、利便性をコントロー ルするもために最寄駅までの道路距離(m)、最寄駅から最寄りの山手線駅までの時間距離(分)20を、 その他のエリア特性をコントロールするために半径500m 圏内の商業施設用地面積(㎡)、半径 500m 圏内の厚生医療施設用地面積(㎡) 、半径 500m 圏内の教育文化施設用地面積(㎡)、半径 500m 圏内の公園緑地面積(㎡)、指定建蔽率(%)及び行政区ダミー21を採用した。 なお、使用した変数の基本統計量は表5-1 の通りである。 表5-1 基本統計量 17 指定建蔽率(%)との交差項に用いる近隣農地面積について、半径 50m 圏内の農地面積(㎡) と半径 50~200m 圏内の 農地面積(㎡)に分けて推定したところ、どちらも正の値の係数が計測され、かつ、半径 50m 圏内の農地面積(㎡)との交 差項の係数が半径50~200m 圏内の農地面積(㎡)との交差項の係数より大きい、という仮説と整合的な傾向が見られた が、係数の値はいずれも有意にはならなかった。従ってここでは、50m の区切りをなくして、半径 200m 圏内の農地面 積(㎡)との交差項を採用した。 18 後述するように、指定建蔽率(%)自体はエリア特性をコントロールする説明変数として採用している。 19 半径200m 以内に公園があるダミーとの交差項に用いる近隣農地面積について、半径 50m 圏内の農地面積(㎡) と半 径50~200m 圏内の農地面積(㎡)に分けて推定したところ、どちらも負の値の係数が計測され、かつ、半径 50m 圏内の 農地面積(㎡)との交差項の係数の絶対値が半径 50~200m 圏内の農地面積(㎡)との交差項の係数の絶対値より大きい、と いう仮説と整合的な傾向が見られたが、係数の値はいずれも有意にはならなかった。従ってここでは、50m の区切りを なくして、半径200m 圏内の農地面積(㎡)との交差項を採用した。 20 対象地域である10 区はすべて山手線の外側に位置するため、都心へのアクセス指標として、最寄駅から最寄りの山 手線駅までの時間距離(分)を採用した。 21 足立区を除く9 区についてダミー変数を設けた 変数 観測数 平均 標準偏差 最小値 最大値 半径50m圏内の農地面積 550 157.995 439.838 0 3474.813 半径50~200m圏内の農地面積 550 2675.843 4658.652 0 24834.29 指定建蔽率×半径200m圏内の農地面積 550 147157.7 246980.6 0 1304863 半径200m以内に公園があるダミー 550 0.449 0.498 0 1 200m以内公園ダミー×半径200m圏内の農地面積 550 1418.733 3606.617 0 25297.9 地価 550 393825.5 122749.7 162000 875000 地積 550 181.593 84.353 53 594 台形・不整形地ダミー 550 0.058 0.234 0 1 前面道路幅員 550 5.456 1.622 3 16.1 最寄駅までの道路距離 550 838.436 520.688 120 3600 最寄駅から最寄りの山手線駅までの時間距離 550 12.162 4.379 0 26 半径500m圏内の商業施設用地面積 550 56854.86 26093.66 8662.318 162975.3 半径500m圏内の厚生医療施設用地面積 550 7205.286 10062.87 0 172563.2 半径500m圏内の教育文化施設用地面積 550 44637.93 28526.63 714.2543 274213.9 半径500m圏内の公園緑地面積 550 39434.07 66460.16 0 441763.5 指定建蔽率 550 55.436 5.859 40 60 板橋区ダミー 550 0.071 0.257 0 1 江戸川区ダミー 550 0.115 0.319 0 1 大田区ダミー 550 0.075 0.263 0 1 葛飾区ダミー 550 0.067 0.251 0 1 杉並区ダミー 550 0.115 0.319 0 1 世田谷区ダミー 550 0.195 0.396 0 1 中野区ダミー 550 0.049 0.216 0 1 練馬区ダミー 550 0.164 0.370 0 1 目黒区ダミー 550 0.042 0.200 0 1

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10 5.2 推定結果 推定結果は表5-2 の通りである。半径 50m 圏内に存在する農地は、半径 50~200m 圏内に存 在する農地に比べ、負の外部効果を大きく持つことが有意に示されている。これは、農地の負の 外部効果が農地から離れるにつれて弱まるという第3 章の仮説と整合的である。 また、指定建蔽率の上昇と半径50m 圏内の農地面積及び半径 50~200m 圏内の農地面積の増 加はいずれも地価を有意に下げるのに対し、指定建蔽率と半径200m 圏内の農地面積との交差 項の係数は、有意に正である。一方、半径200m 以内に公園があるダミーと半径 200m 圏内の 農地面積との交差項の係数は、有意に負である。建蔽率の高いところでは農地の負の外部効果が 小さくなる、若しくは、周囲に公園があるところでは農地の負の外部効果が増大する、とは考え にくい。むしろ、建蔽率が高いところに代表されるような空地・緑地の尐ないところでは農地の 正の外部効果が大きくなり、一方、近隣に公園を有するところに代表されるような空地・緑地が 確保されているところでは農地の正の外部効果が小さくなる、と考えられる。つまり、この推定 結果から第3 章の仮説通り、農地は空地効果や緑地効果といった正の外部効果を有することが 示された。 しかし、半径50m 圏内の農地面積及び半径 50~200m 圏内の農地面積の係数の絶対値に比べ、 指定建蔽率と半径200m 圏内の農地面積との交差項及び半径 200m 以内に公園があるダミーと 半径200m 圏内の農地面積との交差項の係数の絶対値は小さく、前者を上回ることはないため、 農地の総合的な外部効果は常に負になると言える。 表5-2 推定結果 注)***、**、* はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。 被説明変数 : 地価(\/㎡) 係数 標準誤差 半径50m圏内の農地面積(㎡) -22.939 6.327 *** 半径50~200m圏内の農地面積(㎡) -9.234 3.567 *** 指定建蔽率(%)×半径200m圏内の農地面積(㎡) 0.167 0.072 ** 半径200m以内に公園があるダミー 7262.2 4781.689 200m以内公園ダミー×半径50m~200m圏内の農地面積(㎡) -1.864 0.798 ** 地積(㎡) 216.436 24.859 *** 台形・不整形地ダミー -10488.79 7962.452 前面道路幅員(m) 7162.874 1253.825 *** 最寄駅までの道路距離(m) -49.629 4.400 *** 最寄駅から最寄りの山手線駅までの時間距離(分) -5806.947 615.680 *** 半径500m圏内の商業施設用地面積(㎡) 0.346 0.087 *** 半径500m圏内の厚生医療施設用地面積(㎡) 0.295 0.184 半径500m圏内の教育文化施設用地面積(㎡) 0.041 0.069 半径500m圏内の公園緑地面積(㎡) -0.014 0.033 指定建蔽率(%) -2317.631 462.199 *** 板橋区ダミー 72797.02 9087.73 *** 江戸川区ダミー 93976.72 8626.297 *** 大田区ダミー 125635 9198.634 *** 葛飾区ダミー 45214.95 9140.659 *** 杉並区ダミー 144719 8542.622 *** 世田谷区ダミー 237896.7 7586.491 *** 中野区ダミー 159043 10568.73 *** 練馬区ダミー 86005.99 7739.285 *** 目黒区ダミー 324216.4 11649.710 *** 定数項 410267.9 31018.22 *** 観測数 自由度調整済み決定係数 550 0.8786

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11 6. 農地と市民農園の外部効果の比較計測 第3 章において、一般市民が農作業をする市民農園を農地所有者が自ら耕作する農地と比べ た場合、元来は同じ農地であるものの、近隣に及ぼす外部効果に違いがあるのではないかという ことを論じた。そこで、本章では、今までまとめて扱ってきた農地を、市民農園とそれ以外の農 地とで分けて、ヘドニック・アプローチによってそれぞれの外部効果を比較計測する。 6.1 推定式 市民農園を除く農地が近隣地価に与える影響と、市民農園が近隣地価に与える影響を比較する ため、以下のように推定式を設定した。 P = Wα + Xβ + Zγ + ε P は被説明変数(地価(¥/㎡))のベクトルである。W は、市民農園を除く農地の外部効果に関す る説明変数ベクトルであり、具体的には半径 200m 圏内の市民農園を除く農地面積(㎡)を表す。 Xは半径200m 圏内の市民農園面積(㎡)を表す説明変数ベクトルである。Xは、市民農園の外部 効果に関する説明変数ベクトルであり、具体的には半径200m 圏内の市民農園面積(㎡)を表す説 明変数ベクトルである。Z は第 5 章と同じく、地価を説明するその他の変数及び定数項の行列で あり、説明は省略する。εは誤差ベクトルを表し、α、β、γが推定すべきパラメータである。 なお、使用した为な説明変数の基本統計量は表6-1 の通りである。 表6-1 为な基本統計量 6.2 推定結果 推定結果は表6-2 の通りである。これは、半径 200m 圏内に市民農園ではない農地が 1000 ㎡ 存在すると、地価を約¥2,400/㎡下げる効果を持つのに対し、半径 200m 圏内に 1000 ㎡の市民 農園が存すると、地価を約¥7,200/㎡下げる効果を持つことを示している。有意水準は 10%と低 いものの、市民農園はそうでない農地に比べ、近隣により大きな負の外部効果を及ぼしているこ とが明らかになった。 変数 観測数 平均 標準偏差 最小値 最大値 半径200m圏内の市民農園を除く農地面積 550 2718.762 4854.645 0 26097.26 半径200m圏内の市民農園面積 550 115.075 519.209 0 4753

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12 表6-2 推定結果 注)***、**、* はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。 7. 市民農園の外部効果について、運営方法に着目した計測 第6 章で、市民農園はそれ以外の農地に比べて大きな負の外部効果をもつことが明らかにな った。この負の外部効果が、第3 章で議論したように、利用者が農作業に不慣れであるために 手入れが不十分であることや、自家用車での来園による騒音や路上駐車、農園の近隣へのゴミの 投棄に起因しているとすれば、一部の市民農園で実施されているように、指導員の設置が対策と して有効だと考えられる。加えて、利用者の数が尐ないほど、負の外部効果も軽減されるのでは ないかと考えられる。 よって、本章では、市民農園が近隣に及ぼす負の外部効果の対策という観点で、指導員の設置 や区画数の制限が市民農園の負の外部効果を抑える機能を有するかを、ヘドニック・アプローチ を用いて検証した。 7.1 推定式 市民農園が近隣地価に与える影響が、当該市民農園における指導員の有無や区画数によってど のように変化するかを検証するため、以下のように推定式を設定した。 P = Wα + Xβ + Zγ + ε P は被説明変数(地価(¥/㎡))のベクトルであり、W は市民農園を除く農地の外部効果に関する 説明変数ベクトルであり、具体的には半径200m 圏内の市民農園を除く農地面積(㎡)を表す。X は市民農園の外部効果に関する説明変数行列であり、具体的には、半径 200m 圏内の市民農園 被説明変数 : 地価(\/㎡) 係数 標準誤差 半径200m圏内の市民農園を除く農地面積(㎡) -2.440 0.496 *** 半径200m圏内の市民農園面積(㎡) -7.168 3.753 * 地積(㎡) 219.995 25.008 *** 台形・不整形地ダミー -11232.58 7991.402 前面道路幅員(m) 7266.993 1257.914 *** 最寄駅までの道路距離(m) -49.077 4.433 *** 最寄駅から最寄りの山手線駅までの時間距離(分) -5588.768 610.635 *** 半径500m圏内の商業施設用地面積(㎡) 0.349 0.087 *** 半径500m圏内の厚生医療施設用地面積(㎡) 0.276 0.185 半径500m圏内の教育文化施設用地面積(㎡) 0.056 0.069 半径500m圏内の公園緑地面積(㎡) -0.013 0.030 指定建蔽率(%) -1922.67 414.536 *** 板橋区ダミー 71332.17 9075.647 *** 江戸川区ダミー 93651.7 8637.701 *** 大田区ダミー 123466.4 9167.966 *** 葛飾区ダミー 41153.94 9087.536 *** 杉並区ダミー 144724.6 8559.927 *** 世田谷区ダミー 235812.4 7516.93 *** 中野区ダミー 155580.3 10573.75 *** 練馬区ダミー 89626.67 7830.585 *** 目黒区ダミー 321511.2 11608.58 *** 定数項 388278.5 28428.05 *** 観測数 自由度調整済み決定係数 550 0.8765

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13 面積(㎡)、半径 200m 圏内の市民農園面積(㎡)と当該市民農園指導員設置ダミー22との交差項、 及び半径200m 圏内の市民農園面積(㎡)と当該市民農園区画数との交差項の 3 変数である。Z は 第 5 章及び第 6 章と同じく、地価を説明するその他の変数及び定数項の行列であり、説明は省 略する。εは誤差ベクトルを表し、α、β、γが推定すべきパラメータである。 なお、使用した为な説明変数の基本統計量は表7-1 の通りである。 表7-1 为な基本統計量 7.2 推定結果 推定結果は表7-2 の通りである。 半径200m圏内の市民農園面積と当該市民農園指導員設置ダミーとの交差項の係数は正であ り、半径200m圏内の市民農園面積と当該市民農園区画数との交差項の係数は負であることから、 指導員の設置は市民農園の負の外部効果を抑制させる、また、区画数の増大は市民農園の負の外 部効果を増大させる、という傾向はみられるものの、半径200m 圏内の市民農園面積の係数も 含め、三者の係数の値は有意ではなかった。 この結果から、市民農園の負の外部効果に対して、指導員の有無や利用者の数は統計的に有意 な影響を与えているとは言えないことが示された。つまり、第3 章の議論に含まれていない負 の外部効果の要因があるのではないかと考えられる。 表7-2 推定結果 注)***、**、* はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。 22 指導員が設置されている場合は1、設置されていない場合は 0 をとる。 変数 観測数 平均 標準偏差 最小値 最大値 半径200m圏内の市民農園面積×指導員ダミー 550 41.717 367.668 0 4753 半径200m圏内の市民農園面積×区画数 550 10959.86 62451.78 0 700440.3 被説明変数 : 地価(\/㎡) 係数 標準誤差 半径200m圏内の市民農園を除く農地面積(㎡) -2.447 0.498 *** 半径200m圏内の市民農園面積(㎡) -5.919 9.347 半径200m圏内の市民農園面積×指導員ダミー 3.001 7.049 半径200m圏内の市民農園面積×区画数 -0.025 0.075 地積(㎡) 219.353 25.092 *** 台形・不整形地ダミー -11343.41 8007.731 前面道路幅員(m) 7297.11 1261.381 *** 最寄駅までの道路距離(m) -49.175 4.445 *** 最寄駅から最寄りの山手線駅までの時間距離(分) -5599.963 612.070 *** 半径500m圏内の商業施設用地面積(㎡) 0.348 0.087 *** 半径500m圏内の厚生医療施設用地面積(㎡) 0.275 0.186 半径500m圏内の教育文化施設用地面積(㎡) 0.056 0.070 半径500m圏内の公園緑地面積(㎡) -0.013 0.030 指定建蔽率(%) -1926.415 415.368 *** 板橋区ダミー 70964.09 9125.003 *** 江戸川区ダミー 93698.27 8653.341 *** 大田区ダミー 123439.4 9186.56 *** 葛飾区ダミー 41191.28 9102.861 *** 杉並区ダミー 144930.4 8587.188 *** 世田谷区ダミー 235825.9 7529.817 *** 中野区ダミー 155531.9 10593.54 *** 練馬区ダミー 89719.31 7853.194 *** 目黒区ダミー 321452.1 11631.36 *** 定数項 388693.8 28486.98 *** 観測数 自由度調整済み決定係数 550 0.8760

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14 7.3 市民農園の現状 市民農園がなぜ、農地一般に比べてそれほど大きい外部効果を近隣に及ぼしているのか。指導 員の有無や利用者数に依らないような、負の外部効果の発生要因が存在するのか。これを解明す べく、区の担当者や農園の近隣住民へのヒアリングを行った。その結果、大きく分けて以下の4 つの側面に問題があることが分かった。 (1)農園利用者による問題 農地利用上の問題としては、手入れが行き届かないことによる雑草や虫の発生、扱いが良くな いことによる堆肥の臭いや農薬の飛散がある。 さらに、農園利用上の問題として、自家用車での来園による騒音や路上駐車、また農園の近隣 へのゴミの投棄が指摘されている。 これらは、農園利用者の技術的問題などにも起因するが、総じて農園の近隣住民への配慮の欠 落が根底にあると見られる。農地所有者の場合、通常はその農地の近隣に住んでいるため、農地 の外部性は自らも被ることになるし、また近所付き合いなどから、なるべく負の外部効果を抑え ようとするインセンティブが働くと考えられる。耕作者の負の外部効果抑制インセンティブの違 いが、農地と市民農園の外部効果の違いに繋がっているのではないだろうか。 (2)自治体による問題 自治体は、先に述べたような利用者による近隣への迷惑行為に対処すべく、利用規則を設けて これらの行為を禁止している。しかし、この利用規則に違反しても、明文上もしくは運営上、罰 則が科されることは稀である。よって、契約関係にある自治体と農園利用者の間でモラルハザー ドが起きていると言える。 さらに、そもそも自治体による農園利用者の決定方法にも問題があると言える。各市民農園に は、区画数以上の応募があるが、これに対して自治体は原則として抽選によって利用者を決定し ており、きちんと農園の手入れができる人を優先する等の工夫はされていない。また、利用者の 募集に際して応募条件に「熱意のある方」「利用規則を守れる方」などと定めながら、実態では 利用規則は抽選を経て当選者にのみ配布されており、応募の段階では利用規則の周知はなされて いない。つまり、利用者にスクリーニングがかけられていないことが指摘できる。 (3)利用混雑による問題 近年では市民農園人気に伴い、利用者抽選の倍率が上昇しているため、知人の名義を借りて複 数応募する不正が横行しているという。そうした中には、複数区画に当選し、隠れて何区画も利 用しているうちに、一人では手に負えなくなって耕作を放棄するケースも多く、各自治体が頭を 悩ませている。つまり、区画数は一定でも、人気が高ければ高いほど負の外部効果を招きかねな いような問題行動が起こりやすくなると言える。

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15 (4)市民農園への用地提供の制度による問題 現在、自治体が開設する市民農園の用地は、ほとんどが私有地農地である23。農地所有者は自 治体への無償貸与と引き換えに、固定資産税等の免除を受けることができる。近年では、農地所 有者の高齢化に伴い、自分では耕作できない農地を自治体に市民農園用地として提供するケース は増えており、今後も続くと見込まれる。 これを踏まえると、免税される農地所有者と安価で農園を借りられる利用者は効用を得るのに 対し、その周辺住民だけが農地が市民農園となることによる負の外部効果の増大という損失を被 っている、という対立の構図が浮かび上がる。 以上の問題点の指摘は、前節までで明らかになった、市民農園がそれ以外の農地に比べて大き な負の外部効果をもち、また、指導員の有無や利用者の数が市民農園のもつ負の外部効果に対し て統計的に有意な影響を与えているとは言えないという結果の説明として整合的と言えよう。 8. まとめ 本研究の結果、東京都区部の住宅地において、農地は近隣に負の外部効果をもたらすことが確 認された。その上で、市民農園は、それ以外の農地に比べより大きな負の外部効果をもたらすこ とが明らかになった。一方で、指導員の有無や利用者の数が、市民農園のもつ負の外部効果に対 して統計的に有意な影響を与えているとは言えない。この理由としては、農園利用者による近隣 への配慮に欠けた迷惑行為のみならず、自治体の運営方法や市民農園の用地に係る制度など、市 民農園のもつ負の外部効果に対して影響を与える要因が多岐に存在していることが考えられる。 ただし、市民農園の外部効果について第6 章の実証分析で得られた係数の値は有意水準が 10% と高いとは言えないうえ、第7 章の分析では農地との差は統計的に有意ではなかった。また、 どのような要因がどれくらいの外部効果をもつのかは明らかになっていない。これらについては 今後の課題と言える。 そのような限界があるが、本研究で得られた知見から、市民農園の開設及び運営に当たっては、 近隣に及ぶ外部効果を十分に考慮する必要があると言える。市民からの要望や、所有者が耕作で きなくなった農地の保全といった観点のみに基づいて市民農園が開設されることは、近隣住民に とっては、言うまでもないが、好ましくない。そして、開設された市民農園においては負の外部 効果を抑制する若しくは内部化する政策が検討されるべきである。 先も述べたように、市民農園の外部効果については、量・要因とも十分には明らかになってい ないため、それに対処する具体的な政策を提言するには至らないが、考えられる政策手段として は、利用者決定方法を改善する、指導・管理を徹底する、規則違反への罰則を強化する、農園需 要者や用地供給者にピグー税を課す、等があげられるだろう。利用混雑が発生している現状を考 23 農地が存在しない区においては、廃校になった小学校の跡地や公園の一部を開墾する事例もある。(e.g. 渋谷区、品 川区、江東区等)

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16 えると、a.農園利用者若しくは農地供給者、若しくはその両方にピグー税を課す、又は、b.自治 体が負の外部性の抑制に責任を持ち、農園管理や規則違反の取締りなどを徹底させて、その費用 を利用者にチャージする、若しくはc.それらの組み合わせ、といった政策のもと、課税や内部化 費用のチャージによって利用料金が上昇すれば、現在のような利用混雑も緩和されると考えられ る。その場合、負の外部効果の減尐に合わせて、現在の利用者抽選によって生じる死荷重の減尐 も達成できる。 自治体は、市民農園が近隣に及ぼす外部効果の量及び要因を踏まえ、その対策にかかる費用も 考慮したうえで、市民農園の開設及び運営に関する政策を実施することが求められている。 謝辞 本稿の作成にあたり、ご指導いただきました福井秀夫教授(プログラム・ディレクター)、安 藤至大客員准教授(为査)、西脇雅人助教授(副査)をはじめ、関係の諸先生方に深く感謝いた します。データ収集やヒアリングに際してお世話になりました、東京都都市整備局や各区の方々 にも心より御礼申し上げます。そして、一年間、たくさんご支援をいただきますとともに、多く のことを学ばせていただいた、まちづくりプログラム及び知財プログラムの学生の皆様に、厚く 御礼申し上げます。

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17 参考文献 飯澤智香子・駒井正晶・栗崎直子(1999)「都市における緑地整備の効果:緑地の種類別貨幣価値 の計測」『第22 回日本計画行政学会全国大会論文集』pp.37-42 大江靖雄(2009)「体験型市民農園にみる都市農地利用と市民参加―新しい農村地域資源管理に向 けて―」『食と緑の科学』 第 63 号, pp.9-17 工藤豊(2009)「わが国における市民農園の史的展開とその公共性」『日本建築学会計画系論文集』 第74 巻, 第 643 号, pp.2043-2047 後藤光蔵(2000)「都市農地の保全」『武蔵大学論集』第 47 巻, 第 2 号, pp.33-61 後藤光蔵(2003)『都市農地の市民的利用』日本経済評論社 寺井公子(2001)「市街化区域内農地に対する「宅地並み課税」の効果」『都市問題』, 第 92 巻, 第 11 号, pp.69-81 寺脇拓(1997)「都市農地の及ぼす正負の外部経済効果の計測」『農村計画学会誌』 Vol.13, No.3, pp.216-227 仁科克己(1986)「地価への反映を利用した居住環境価値の計測」『国立公害研究所研究報告』第 88 号, pp.211-221 原直行・加藤弘二(2005)「ヘドニック法による大都市農地の外部効果の計測」『香川大学経済論 叢』第78 巻, 第 1 号, pp.33-49 廣政幸生・深澤史樹(1992)「ヘドニック・アプローチによる都市農地の外部性評価 」『北海道農 業経済研究』第2 巻,第 1 号, pp.27-35 丸山敦史・杉本義行・菊池眞夫(1995)「都市住宅環境における農地と緑地のアメニティ評価―メ ッシュ・データを用いたヘドニック法による接近―」『農業経済研究』第67 巻, 第 1 号, pp.1-9 矢沢則彦・金本良嗣(1992)「ヘドニック・アプローチにおける変数選択」『環境科学会誌』第 5 巻, 第 1 号, pp45-56 矢沢則彦・金本良嗣(2000)「ヘドニック・アプローチによる住環境評価 GIS の活用と推定値の 信頼性」『季刊住宅土地経済』2000 年春号, pp.10-19」 渡辺章(1991)「市民農園整備促進法について」『農村計画学会誌』Vol.4, No.4, pp.56-60

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