金沢大学十全医学会雑誌 第
8 4
巻 第4
号3 7 8‑3 91 ( 1 9 7 5 )
多発性硬化症 の
1
剖 検例(金沢大学医学部神経精神医学教室:主任 山口 成良教授 ) い金沢大学医学部病理学第一講座:主任 梶川欽一郎教授 )
故 大 塚 伊 崎 倉 知 小 山 細 川 北 川
良 作 公 徳 正 佳 善 子 邦 仁 正 信 ★
(昭和50年5月1日受付)
本論文 の要 旨は昭和
4 9
年9
月8
日.第2 8
回北 陸医学会神経精神科分科会 (第6 9
回北陸神 経精神科集談会)お よび昭和4 9
年1 2
月2 3
日,第2
回臨床神経病理懇話会 にて発表 した・欧米 に比 し多発性硬化症
( MS)
の頻度 が 低 い と云 われ るわが国 において も,最近,MS
の剖検 例 の 報 告 が増 しっつあ る.1 9 7 3
年厚生省特定疾患 ・多発性硬化 症 調査班りによ り報告 されたMS
患者数 は3 8 6
例,M
s の疑 い
2 6 2
例 ,D占 vi c
病6 6
例 ,剖検数 で はMS 24
例,MS
の疑 い2
例 ,D占 vi c
病1 4
例 と な って い る . しか し従来 の報告者 が指摘 してい るよ うに ,わが国 のMS
は視束 ,脊髄 が侵 され易 く, D占 vi c
病 とMS
との中間型 ともい うべ き視神経脊髄型 の もの が 多 く , 欧米 でみ られ るよ うな臨床 ・病理所見 と もに典型的 な 症例 は少 く2)〜6).高畑 ら7).生 田 ら
8 )
.米沢 ら9 )
,松山 ら1 0 )
豊倉 らM,中村 ら
1 2 )
によ る数 例 の 報 告 をみ るにす ぎ ない.そのため .MS
とDe ' vi c
病 と の 異 同や、,わが 国 のMS
の特異性 が種 々論議 を よ ん で いた .またMS
の病因論 につ いて も,近年 .疫 学 的 立場 . ウィル ース学的立場 や免疫学的立場 か らの探索 が な され .多 くの報告 が続 いてい る.
今回 .われわれ は北陸で初 めての
MS
の 典 型 例 の 剖検 の機会 を得 たので報告 す る.症 例
症例
:H・M
, 早 .5 0
才 (死亡時 ),富 山県生 ま れ , 主婦 .AnAut ops yofMul t i pl eSc l er os i s .t hel at e
3 7 9
家族歴 :父 は
7 5
才 .喉頭癌 で死亡 .母 は6 9
才 ,中風 で死亡 .家系 に精神神経疾患負因 を認 めない.既往歴 :
1 6
才時 .両眼角膜炎 に羅患 した らしいが詳 細 は不明 .2 6
才時肺浸潤 .3 5
才時子宮筋 腫で手術 を受けている.
現病歴 :昭和
4 2
年1 2
月2 0
日( 4 4
才 ),精神 的 疲 労 以 外 .特 に誘因 な く右顔面 の知覚異常 .全身倦怠感 ,右 上下肢 (ことに右上肢 )の しびれ感 と脱力 ,霧 視 ,眼 病 が出現 .その後次第 に右上下肢 の しびれ感 や歩行障 害 が増強 したため,昭和4 3
年2
月某病 院内科 に 入 院 . 髄液 その他 の検査 に異常 な く,原因不 明 の まま約2
ヵ月 で症状 は軽快 してい る.その時同病 院精神科 で ヒス テ リーの診断 を受 けてい る. しか し同年
5
月末頃 よ り 再 び歩行困難 .四肢 しびれ感 .左眼 に強 い視 力 低 下 , 胸 が しめつ け られ るなどの症状 が現 われたため .金沢 大学医学部付属病 院脳神経外科 に,昭和4 3
年9
月5
日 か ら9
月2 5
日まで入院精査 す る.入院中 ,視力 右0. 0 2,
左0. 0 4.
眼底視神経萎縮 (‑). 両側 膝蓋 膝 反 射 , アキ レス健反射 の元進 と足間代 (+).右' Hof f ma nn
反射 , 両側
cha ddo c k
反射 陽性 .ア ジ ア ドコ キ ネ‑ゼ.失調性歩行 があ り.四肢 の粗大力 の低下 ,知 覚障害 な し.また小指球 ,虫様筋 .母指球 の筋 萎縮 が 指摘 されてい る.脳波 にβ bur s t
がみ られたが .Ryo s akuOt s uka,Ki mi nor iI s aki
,Mas ayo s hi
Kur achi ,Yo s hi ko Koyama
.Kuni hi t o Ho s o kawa
,De par t me ntofNe ur ops yc hi a t r y ( Di r ‑
e c t or・ .Rr o
f.N.Ya maguc h
i),Sc hoolofMedi c i ne , Ka na z a wa Uni ver s i t y. Mas anobu
Ki t agawa
,De par t mentofPat hol ogy
(1) ( Di r e c t or :Pr of .K, Ka j i ka wa)Sc hool of
Medi ci ne ,Kana z a wa Uni ver s i t y.
CAG,VAG
に異常 な く,臨床診断 と して 筋 萎 縮 性 側索硬化症 が疑 われ .ステロイ ドが投与 され て い る .これ らの症状 は漸次軽快 し (下肢 >上肢 ). 編 み物 もで き昭和
4 4
年 には家事 もど うにかで き,歩行 も不安 定 であ るが遠出 も可能 な程度 まで回復 した .昭和
4 5
年5
月末頃( 47
才)よ り.再 び症状 は増 悪 , 顔面 や四肢 の しびれ感 を認 めて い る. この際 もステ ロイ ド,神経賦活剤 を使用 ,症状 はま もな く改善 されて い る. しか し時折 しびれ感 を認 め通院治療 を続 けてい る.
昭和
4 6
年5
月上旬( 4 8
才)よ り,精神的疲労 に緩 い.て徐 々に失調性歩行 ,顔面神経麻痔 が出現 .また転倒 を契機 と して ほとん ど歩行不能 とな り
,5
月1 3
日某病 院内科 に入院 してい る.その後 も無尿 ,時 に頻尿 や残 尿 感 の勝耽直腸障害 や嘩下困難 ,手指振戦 が 加 わ り ,また物忘 れや言動 の幼稚化 などの精神症状 も現 わ れ , 昭和
4 6
年8月7日,金沢大学医学部付属病 院神経科精 神科 に転院 した .入院時所見
神経学的所見 :視力 は右眼
0. 07
,左眼0. 0 7
,視野 に は特 に狭窄像 は見 られない.瞳孔 .対光反射 .幅榛反 射 は正常 .眼底 は近視性 の強 い変化 が見 られ る以外異 常 は認 め られないが ,老人性 白内障 お よび角膜片雲 の ため眼底 は非常 に見掛 、状態 であ った.眼球運動 には 制 限 な く複視 も認 めない.眼振 は垂直 ,水平方 向 いず れ も認 めない し,その他脳神経系 には異常認 めず .言 語 は緩徐 で ,発音 がや ゝ不明瞭 ,断綴性 .手指 にはは ば た き様 の粗大 な振戟 および著明 な企 図 振 戦 を 認 め る.四肢 の筋緊張 は正常 ,筋萎縮 は認 めず .二頭筋反 射 ,三頭筋反射 ,携骨反射 ,尺骨反射 はいずれ も正常 ではゞ左右対称性 .膝蓋膝反射 お よび アキ レス鮮反射 は両側 ともに冗進 .病的反射 は上肢 で は右側 にHo‑
f f mann
反射. Tr 6mner
反射,War t enber g
反 射 陽性 .下肢 で はBabi ns ki
反射. Chaddock
反 射 は右側 に陽性 ,Me nde トBe c ht er e w
反射 .Ros s ol i ‑ mo
反射 は両側性 に陽性 (右側 が よ り顕 著 ) を 認 め る.右側 に足間代認 む .腹壁反射欠如 ,粗大力 は上下 肢 とも低下 し (右 <左 ),握力 は右側5kg.
左 側10kg.
知 覚 異 常 は認 めない. ジア ドコキ ネーゼ, 指 ・指 試験 .指 ・鼻試験 は両側 ともに非常 に拙劣 .測定過度 の傾向 .姿勢時振戦 があ り頭部 ・躯幹 の動揺 が顕著で 坐位 ,起立 は殆 ど不能 であ る.歩行 は全 く不可能 .
精神症状 :非常 に幼稚 で多幸的 .自分 の病気 に対 し て も無関心 で .病気 の重篤 さに悩 む様子 は見 られ なか った.多弁 で出た ら目応答 が 目立 っ .また ,食事 を手 ずかみで食 べた り,恥童心 も低下 していた .見 当識不
確実 .計算力低下 .記銘記憶 障害 が高度 .記銘力検査 で は有関係対語試験正 当数
3,3, 3
,無関係対語試 験正当数 は0.1
,1
.鈴木 ビネ一法 による知能検査で は
I Q4 5
と痴呆 の存在 が明 らかであ った .臨床検査成績 :赤沈
4mm/1
時間,1 3 mm/2
時 間 . 尿所見で は蛋白 (‑),糖 (+), ウ ロ ビ リノ ー ゲ ン(正 ).
血清生化学的所見で は入院時
GOT 9 4 u.GPT 80 u,LDH 4 5 4 u
とや ゝ上昇値 を示すが .そ の 後 正 常 に 復 す .肝機能 ,血清電解質 .血清蛋 白分画 いずれ も正 常 .CRP
(‑),RA
(‑).空腹時血糖値 は7 0 mg/dl .
血清梅毒反応陰性 .髄液 は初圧
1 5 0 mm
水柱 .7ml
採取後 終 圧60mm
水 柱 .水様透明 .細胞数5/3.
パ ンデ ィー反 応 陽 性 ,ノ ンネアペル ト反応陰性 .総蛋白
皇2 2. 0 mg/ dl
,糖68 mg/ dl .
クロール1 3 7 mEq/
L. トリプ トフ ァ ン陰 性 . 高 田荒反応 は正常曲線 .脳波所見‑
8.9Hz
のs l ow αa c t i vi t y
が後頭部 に 時 に出現 して見 られ るがα波帯域 の波 の出現 は非 常 に 乏 しくむ しろ6‑ 7Hz
を中心 と した∂ a c t i vi t y
が 基礎波 をな し不規則徐波脳波 を呈 す .時 々前頭 および 前頭極誘導 に5Hz
のβ bur s t
が出現 して いる.6 Hz.1 0 Hz
の光刺激 で光駆動 の傾向が見 られ る . 発 件 波 の出現 や左右差 は見 られない.筋電図所見一安静時 で
dener va t i onva l t age
は見 られないがAt he t os i s di s c har ge
が認 め られ る.vol i t i ona l a c t i vi t y
と して一部 の筋 にgr oupe d vol t age
が出現 す る. s pi ke f r e quenc y
は ほ ゞ正 常 .入院後 な らびに死亡 までの経過 :前記 の よ うな多彩 な臨床経過 よ り 「多発性硬化症 」 を疑 い.入院後 女テ ロイ ド, ビタ ミン剤
,ATP
剤 などの投 与 を 開 始 した ところ.約1週間 目頃 よ り企図振戦 や姿勢時振戦が漸 次軽減 しfiL,不確実 で はあ るが 自力 で食事摂取 や坐 位 が可能 とな る.また .自覚的 に視 力 の 改 善 を訴 え る.3
週 目頃 よ り起立 .歩行が介助 にて可能 とな って くる.1ヵ月後 には失調性 でや ゝ痩性 な傾 向 も加 わ り 不安定 であ るが 自力で歩行可能 とな るまで改善 の徴 を 示 した. しか し,その後9
月1 8
日頃 よ り全身 倦 怠 感 , 尿糖増強 を認 めたために, ステ ロイ ドを一時中断 して い るが ,その間歩行障害 の増強 や,1 1
月1 6
日頃 よ り眼 振様運動 の出現 がみ られたため. ステ ロイ ド使用 が再 開 されている.そのためか杖 の使用 や介助 によ り歩行 が可能 とな り.入院時 よ り症状軽快 の状態 で昭和4 6
年1 2
月4
日当科 を退院 した.入院中 .精神症状 に動揺 が あ ったが .特 に増悪 の傾 向 はなか った .多発性硬化症 の
1
剖検倒退院後 の症 状 は進行性 で .漸次悪化 してい った.す なわち
4 7
年4
月( 4 9
才)よ り歩行障害 は増強 .5
月 に は眼振が著明 とな り,言語障害 も高度 とな り,さ らに 四肢 の筋強剛 ,嘩下困難 , 右 上 下 肢 の 粗 大 力 低 下 .Ba bi ns ki
反射 の左側 出現 がみ られてい る.その 後 躯 幹 の動揺 ,振戦 が増強 し,9
月 には臥位生活 と な る .また,上肢 の粗大力 はさ らに低下 して .握力 は両側 と も
0kg
.錐体路徴候 も両側性 に出現 し,11
月 頃 か ら 裾清 がみ られ .発語 もな く全身衰弱 が強 まった . この 間 .不規則 に ステ ロイ ドの使用 を試 みたが .症 状改善 は得 られ なか った. 昭和4 8
年7
月2 0
日頃 よ り3 9o C〜
4 0 o C
の高熱 が続 き,肺炎併発 で7
月2 8
日50
才 で 死 亡 した.全経過約6年 ,経過中4回 の症状 の寛解増悪 を繰返 した.(
義‑1)
剖検所見
一般臓 器所見 :
1
,気管支肺 炎2
,両側心室 の軽 度拡張 3,全身性中等度 うっ血 4,るいそ うと全 身性臓器 の中等度萎縮5
,仙骨部 の リンゴ大帝唐6,胸膜癒着 7,肺 の炭粉軽微沈着 . 脳病理学的所見
肉眼的所見 :脳重
1 3 1 0 g.
脳外観 で は軟膜血 管 う っ 血 と.脳底動脈 や内頚動脈 の一部 に,趣 く軽度 の アテ視 力 低 下 限 痛,眼 振 運 動 麻 葎 歩 行 障 害 言 語 障 害 し び れ 感 知 覚 異 常 膿 反 射 元 進 病 的 反 射 振戦 (企図性, 姿勢 )失調 味 下 降 書 腕 枕 直 腸 障 害
筋 萎 縮
情 意 感
精 神 症 状
3 81
ローム変性 を認 め る他 .所見 をみない.棉 ,延 髄 .小 脳 に も外観上粗大病変 を認 めない.
大脳割面 で は.両側半球 白質 に灰 白色 を帯 びた .硬 度 やや軟 の ,周囲 との境界 が比較的鮮明 な大小 の病 巣 が多発性 に散在 してい る.これ らの病 巣 は主 と して白 質 に存在 し,皮質 を侵 か して いる ものは肉眼的 には見 当 らない.病 巣 の分布 は両半球 に
は
ゞ対称的 で .側脳 室 の全長 にわた って上外側角 か ら外方 の半卵 円 中 心 . 基底核 ,内 ・外包 や側頭葉 ,前頭糞 ,後頭葉 白質 な ど に広範 に分布 してい る.病巣 の多 くは融合傾 向 を示 し て いるが ,孤立性 の小病 巣 も認 め られ る.小病 巣 は脳 梁 ,中脳 に もみ られ るが ,棉 ,延髄 ,小脳の各割面には 変化 な く,、脊髄 や視束 も同様 で ,硬度 に異常 な く軟化 をみない.大脳割面 の髄鞘模本 を肉眼 またはルーペ拡大 でみ る と.これ らの病巣 は多発性 の脱髄病巣 で ,割面観察 で 認 め られた以上 に,全脳 にわた って広範 囲 に存在 して い る.病巣 の大 きさは
1mm
以下 の点状 の もの よ り ,1 0 mm
内外 の病巣が互 に融合 して拡 が った とお もわ れ る3 0 ‑4 0 mm
の大型 の脱髄巣 が認 め られ る.その 形 も 孤立性 の もの は円形 または楕 円形 を示す もの が 多 く , 融合性 の大型病 巣 の型 は種 々多様 で ,中 には不規則 な 突起 を示 す もの もみ られ る.脱髄 巣 の境界 は,鮮 明 な表
1 H. M .
早.50
才 .経 過 表眼痛
■ ■
』 一ここコ
▲ ‑
一一
̲‑ ■
‑ 」l I
r j
■
』S43 S44 S45
▲
S46
†J S47 S48
入院 退院発熱
1 死亡
(S48 . 7 . 28)
いわゆ る抜打状 の完全脱髄 の ものが多 いが .その他境 界 がぼやけ,全体 が淡染 してい る髄質 陰影巣 が .孤立 して または完全脱髄巣 よ り再燃 ,発展 したよ うに近接 しあ るいは連続 して認 め られ る.
脳各部 にお ける脱髄巣 の分布 および性状 は図 の写真 の ごと くであ る.す なわち大脳半球 で は皮質 や皮 質下 白質 の病巣 は,孤立性 の小 さい ものが多 く,U線 維 を こえて皮質一髄質 の両方 に拡 が り,ル‑ペ拡 大 で み る と中 に小血管 をみ ることが多 い.その形 は楕 円形 ,模 状 の ものや ,脳 回谷 のU線維 に沿 った鎌状 の もの な ど 種 々み られ,それ らは前頭回や帯状 回 に多 い . 一 方
Syl vi us
溝周辺 の脳回や海馬回 の病巣 は , 融 合 傾 向 を示 して大型 であ る.大 きな脱髄 巣 は半卵 円中心 にみ られ る.なかで もSt e i ne r
のWe t t er wi nke l
を中 心 に,側脳室周囲 白質 で は病巣が両側 かっ全域 にわた って存在 してい る.脳梁 ,脳 弓に も融合性病 巣が認 め られ るが ,脳室 に接 す る髄鞘 は残存 して い ることが多 い.第 Ⅲ脳室 .中脳水道 は脱髄巣 に取 囲 まれ て お り , 大脳核 や視床 ,視床下諸核 ,外側 膝状 体 , 内 包 , 前 障 ,外包 に も斑状病巣がみ られ る.それ らは血管 周囲 性局在 の傾向を有 し,一部 は融合 して拡 が りまた髄質 陰影巣 も認 め られ る.中脳 ,橋 で は脳室周囲病 巣 の他 ,赤核 ,黒質 の一部 や上小脳脚 ,橋被蓋 に脱髄 がみ られ .橋底部 で は舌状 や底 を外方 に向 けた模状 の病 巣が ,血管 中心性 に非対 称性 ,非系統的 に散在 している.また右側 の三 叉神経 根 部で は.中枢端 は完全脱髄 ,末梢部 は不完全脱髄 を 示 し,その移行部 は凹状 の明瞭 な境界 を示 して い る . 延髄 では第Ⅳ脳室底 の他 ,下小脳脚 .右舌下神経核腹側 や左下 オ リー ブ核 などに病巣が多発 してお り.右 延髄 錐体 に も脱髄 がみ られ る.小脳 で は中心部 白質 に対称 性 ,抜打状 の円形病巣 があ り,その附近 に/ト血管 を含 む脱髄 が観察 され る.小脳皮質 で は虫部 白質 に/ト脱髄 斑 がみ られ る程度 で .他 の部 に比 べて少 い .脊髄 では 頚髄膨大部標本 でみ ると,両側 の後索 か ら右側索 にか けて .脊髄 の ほ
ゞ1 / 2
が脱髄 に陥 り,その他 前 正 中 裂 に接 す る両側前索 の一部 や ,左錐体側索 路 に もび まん 性 の不完全脱髄 が認 め られ る.胸髄 中部 で は反対 に後 索 の髄鞘 は保 たれ .側索 ,前索 にびまん性 の脱髄 が観 察 され る.腰髄膨大部 で は両側錐体側索 路 (右 >左 ) に軽度 の脱髄 が存在 してい る.Hol z er
一佐 伯 変 法 の グ リア線維模本 を髄鞘 標 本 と 対比 しつつ肉眼的 に観察 す ると, ダ リオーゼの範 囲 は 脱髄巣 に大略合致 しているが .必 ず しも完全一 致 のい わゆ る陰画一陽画 の関係 は示 されて いない.脳 室 周 囲 の大型脱髄病巣 で は,脱髄 巣 のそれよ り狭 く.境 界 も不鮮明であ る.また増殖線維 の程度 に差 がみ られ ,辺 縁が濃 い円形 の ダ リオーゼ像 が巣内 に内在 して い る .
また孤立性脱髄 巣の中 には.まった くダ リオーゼを欠 くもの もあ る.一方大脳皮質 で は髄鞘 の健全 な脳回髄 質 に ダ リオーゼの存在 す る所 が右側 の前頭回 ,帯状回 などに認 め られた.
脱髄巣 に一致す るダ リオーゼにつ いて .その線維増 殖 の程度 よ り,病巣成立時期 の新 旧を推測 すれば ,大 脳半球脳回で は ダ リオー ゼ の 軽 い新 鮮 病 巣 が 多 く ,
We t t er wi nke l
を含む側脳室周Bfl白質 や , 脳 梁 . 脂 弓 ,側頭葉 白質 には旧 い病 巣が多 い .また大脳前方部 で は ダ リオーゼの程度 は左半球 が高度 かっ広範囲 であ り,側脳室 の部位別で は前角 ,次 いで後角 の病変 が強 い.孤立性 の病巣 について は,辺縁部 の グ リオ丁ゼが 強 く.ふ ちど りされてい る.この ダ リオーゼの周壁像 は,旧 い病巣で もその傾向 は示 されてい るが ,末期 に は‑様 な グ リア性癖痕 にな ってい る.第 Ⅲ脳室 ,中脳 水道 ,第 Ⅳ脳室周囲 には高度 の ダ リオーゼを伴 う病巣 が多 いが .橋底部 ,延髄網様体 .小脳 白質 の脱髄 巣 に は グ リア線維 をみないか .軽微 な ものが大半 で あ る .脊髄 で は.頚髄病巣で は脱髄部 に一致 してび まん性 の ダ リオーゼがみ られ ,胞髄 で は変化 な く,腰髄 で は 両側前角 (左 >右 ) と,錐体側索 路 (左 >右 )に グ リ
ア線維 の増生 がみ られた.
顕微鏡的所見 :大脳半球 の皮質 や皮質下 白質 にか け ての新鮮小病 巣 をみ ると.
H. E.
標本 で はェオ ジンに淡 染 し,細胞密度 が まば らな点 で周囲脳実質 よ り識別 さ れ るものが多 い. しか し中 には髄鞘標本 のみで見出 さ れ ,オ リゴデ ン ドログ リアの変性 ,消失以外 の所見把 握困難 な もの もあ る.脱髄 巣 の中 には内皮細胞 の肥大 した/ト静脈 があ り,数箇 の円形細 胞浸潤 をみ る ものが 多 い.また このよ うな小病 巣 の辺縁 には棒状 や円形化 した ミクログ リアおよび核 が肥大 し.胞体が ェオ ジン 好性 に染 る原 形質 マ クログ リアが数 を ま し,逆 にオ リ ゴデ ン ドログ リアは空泡化 .核濃縮 を示 して僅 か に残 存 している.病巣周辺 には膨化 ,念珠状 に くびれた髄 鞘 や .断裂 ,膨張 した髄 鞘球 がみ られ る.病 巣内 の神 経細胞 に変化 がみ られず ,Bodi a n
標 本 で は神 経 線 維 は,連続 して良 く娘 まり,病巣 の境 界 を決 め ることはで きない.
未 だ ダ リオーゼをみない小脳 中心 白質 の病 巣 で は , 病 巣内の グ リア細胞 の反応性増殖 が高度 で .種 々の形 や多核 の ミクログ リアや脂肪貴食細胞 および裸核 グ リ ア様 の巨大核 の マクログ リアがみ られ .腫壌様 に周囲 組織 よ り区別 され る.病 巣内小血管周囲 には小 円形細 胞 の増殖 が中等度 にあ り.実質 内 にび まん性 に拡 が っ
多発性硬 化症 の1剖検例
てい る.中 には器質化傾向のみ られ る静脈血栓 の明 ら か な脱髄巣 も存在 す る.病巣内外 の神経線維 には変化 をみない.
病巣 の陳旧化 につれて , グ リア性療痕化 の過程 が認 池 られ る.す なわち原形質性 マ ク̀ログ リアが 減 少 し, 辺綾部 より線維性 マ クログ リアが増 して くる.脱髄 巣 の中央部で は グ リア細胞 は次第 に数 を減 じて い る が . 辺縁部 では反応性 に肥大 したマ クログ リア (肥 肝 グ リ ア)や脂肪頼粒細胞 (格子細胞 )が多数存在 し,周壁 をつ くっている.多核 の アス トログ リア も多数 み られ る.病巣 内の血管周囲細胞反応 も種 々で ,血管周細 の
Ⅴ‑ R
腔 に脂肪頼粒細胞 の集合 をみ る ものや , リンパ 球 浸潤 の高度 の もの もみ られ る.旧 い病 巣内の血管 には 壁 の膨化 や壁細胞 の増生 をみ る ものが多 い.Suda n
Ⅲ陽性 の脂肪頼粒 は,新鮮病巣で は密 に出 現 して い るが ,陳旧化 につれて血管周囲 や病巣辺縁 に集合 して い る. グ リア細胞 や脂肪頼粒細胞 の周壁化 の 所 見 は , 再燃性 とお もわれ る病巣 で特 に目立 っ .例 えば左前頑 固 の髄質 よ り皮質 に拡 が った病巣で は.皮質 の脱髄縁 に沿 って マクログ リアの増殖帯 がみ られ .旧 い病 巣 の ダ リオーゼを同心 円状 に囲 んでい る.陳旧性病 巣内 の 神経細胞 は細胞構築 や細胞数 にお い て 著 変 を み な い が .軽度 の萎縮像 や軸性変化 を示す もの もあ る.また 神経線維 は良 く保 たれてい ることが多 いが ,頚髄後索 で は配列 の乱 れや断裂 がみ られ る.さ らに脳梁 や脊髄 な どの高度 の ダ リオーゼは,この神経線維 に並走 して 増生 してい る.
髄質陰影巣 の髄鞘 の変化 は種 々で ,変性崩壊 した髄 鞘球 が辺縁 にみ られ るものや .健全 な髄鞘 が たん に密 度 を減 じて.粗 にみえ るにす ぎない もの もあ る.髄質 陰影巣内の グ リア反応 は特別 な もの はな く, ダ リオー ゼの像 もない.また この病巣 も多 くは血管依存性 に存 在 しているが ,血管周囲性 の細胞反応 はみ られ な い .
別 に とりだ した視束模本 で は,交 叉部 を中心 に斑状 の融合性病巣が散在 してい る.これに対 して ダ リオー ゼはびまん性 に存在 し,末梢部 で は結合繊 の増生 を伴 ってい る.脂肪頼粒細胞 や血管周既性 の細胞反応 はみ られない.
脱髄以外本脳 にみ られた病理所見 と して ,髄 膜炎 の 像 が存在 す る.す なわち半球軟膜 には線維性肥厚 がみ られ ,血管周囲性 の小 円形細胞浸潤 が .脳 溝 に強 く認 め られ .一部細胞浸潤 は血管 に沿 って分子層 に及 んで い る.
その他 .小動脈 の内膜肥厚 .皮質血管周囲組織 の疎 頼化 や小出血が ,脱髄病 巣 と関係 な く.軽度 に認 め ら
れ た.
3 8 3
考 察
本例 の臨床 および病理所見 を要約 す ると,以下 のよ うになる.す なわち,本例 は富 山県生 れの女性 で .
4 4
才時 に右顔面知覚異常 ,倦怠感 ,右上下肢 の しびれ感と脱力感 ,霧視 や眼痛 .歩行障害 を もって発病 ,その 級 ,視力低下 ,四肢麻痔 ,錐体路徴候 ,眼振 ,言語 障 害 ,企図振戦 ,失調 や物忘 れ ,多幸症 など多彩 な臨床 症状 を呈 し.全経過
6
年 で死亡 した .その間 .症状 には
4
回 の寛解増悪がみ られた.また本例 の病理所見 の特徴 は.中枢神経系全般 にわ た る,多発性 の新 旧脱髄巣 の存在 であ る.す なわ ち病 巣 は肉眼砂 寮ですで に認 め られ .大脳 の皮質 , 髄 質 , 脳幹 や小脳 ,脊髄 にまで広範 に分布 して い るが ,特 に
St ei ner
のWe t t er wi nke l
を中心 とす る脳室周囲 白質 や視交 叉部 . 第ⅠⅠⅠ脳室から中脳水道 第 Ⅳ脳室周囲 組織 や頚髄 に高度 で融合性 の大型病 巣がみ られ ,一方 前頭葉脳 回の皮質一皮質下 白質 にか けて は.孤 立 性 の 新鮮小病巣が散在 してい る.脱髄 巣 の多 くは,静脈依 存性 に存在 し,それ は新 旧を とわず ,孤 立性病 巣 で よ く観察 され る.脱髄巣内の血管周囲性 炎症 反応 は全体 に軽 く,また病巣周囲 には浮 腫や出血 ,壊死 な どの組 織崩壊 をみない.脱髄巣 はまた種 々の程度 の グ リア性 癖 痕化 の過程 を示 してい る.このよ うな多様 な神経 ・精神症 状 や特 有 の多発性脱 髄 の病理像 は.欧米 で はすで に多数 の研究 が まとめ ら れ ,わが国で も最近 ,報告 が相次 いで い る典型的多発 性硬化症 (M.S.)に属 す る もの と考 え る.
以下 ,本例 の臨味 ,病理所見 につ いて ,従来 の報告 を参考 に して若干 の考察 を試 み る.
まず臨床症状 につ いて ,わが国 の
1 9 7 3
年 の厚生省特 定疾患 ・多発性硬化症調査研究班 の統計 1)で は,初 発 症状 と して視力低下 が4 2. 7%
と最 も高 く,次 いで運動 麻痔2 2. 3%
, しびれ感1 9. 7%
.歩行障害1 5. 3%
の順 で 出現 してい る.また全経過 中 にみ られ る症状 で は,視 力低下7 9. 5%
,運動麻痔7 9. 3%.
健反射 元進7 6. 9% .
病的反射6 2. 7%
とあ り,欧米 で多 くみ られ る精神症状 や小脳症状 は比較的少 い.また里吉 ら1 3 )
の統 計 で も , いわゆ るChar cot
の3
徴候 を示 したの は7. 2%,
大 脳症状 を認 めた ものは1 5. 5%
にす ぎない .本例 で は初 発症状 と\して視力低下 がみ られず . ま た経 過 中 . 痩 莱 ,多幸症 などの精神症状 が観察 された .ちなみ に多 幸症 はM.S.にか な り特徴的情動変化 といわれてい る が ,わが国の統計 で は,1 0%
に出現 す ると柴 崎 ら1 4 )
は 述 べてい る.その他 ,眼振 ,企図振戦 ,失調 な ど小脳 症状 が高度で ,従来 のわが国 の視力障害 ,脊髄症状 中心 の報告 に対 し,欧米 で多 い
M. S.
の臨床症状 を呈 し てい る.病理所見 の中では,本例 には半卵 円中心 の大型脱髄 巣 とともに,大脳皮質 や皮質下 白質 にか けて ,孤 立性 の病巣が散在 し,その大多数 には病巣内/ト静脈 が観察 された.脱髄巣 と静脈 との関 係 に つ い て は, Fog
1 5 )
によれば病巣 の
8 5 %
に静脈 が存在 し,0. 5 ‑ 0. 1 mm
の 小静脈依存性 に病巣 は発展 す ると報告 して い る.本例 で も新 旧を とわず孤立性 の病巣で はその中心部 に小静 脈 をみ ることが多 く,病 巣 の形 も図3‑A
の よ う に静 脈 の走行 に一致 して拡が り,皮質下 の静脈分岐部 を中 心 に,皮質表層 に向 う模状 の ものや ,皮質 に平行 す る 層状 ,鎌状 の ものが多 くみ られ ,静脈中心性 の脱髄説 を支持 している.本例 で は, ステ ロイ ド治療 のためか 全体 に血管周朗性 の炎症反応 は軽度 であ る.上記 の孤 立病巣内の静脈 には. うっ血壁細胞 の増加 ,軽度 の小 円形細胞 の実質浸潤がみ られ るのみで ,いわゆ るⅤ‑
R
腔内のc e l l ‑ c uf hng
の像 はみ られず ,また血管 炎 の所見 もない.このよ うな うっ血 と軽度 の細胞浸潤 の 静脈 は,病巣周辺 に もみ られ .さ らには小脳 中心 白質 にみ られた.静脈血栓 を伴 う新鮮病 巣 に も共通 してい る.この静脈 うっ血 や血液凝固性 の増大 が ,従来論 じ られた脱髄 の血栓 由来説 の所 見 とお もわれ る. しか し 本例 において も静脈血栓 を伴 う病 巣 は稀 であ り,その 他 の血行障害性 の所見 はみ られなか った .Lums de n l G )
は光顔 ,電顕観察 よ り脱髄 巣 の 初 期 像 と して1
.オ リゴデ ン ドログ リアの崩壊 .2.
髄 鞘層 板 の物理的解離 .3.
髄鞘 に接 す る マ ク ロ グ リアのa moe boi d r es pons e .4.
一次性 の血液浸潤 (リ ン パ球 ,プ ラズマ細胞 ).5.
マ クログ リア胞 体 の浮 腫 を挙 げている.これ らの中で細胞浸潤 につ いて は上述 の通 りであ るが ,マ クログ リアの退行変性像 はみ られ ず ,逆 にオ リゴデ ン ドログ リアの崩壊 と同時 . ミクロ グ リアによ る髄鞘崩壊産物 の分解 ,清掃機転 の未 だみ られぬ時期 よ り.病巣辺縁部 には核質 に富 む原形質性 マ クログ リアが出現 してい る. この原形質性 マ クログリアは.さ らには図
4‑ F
のよ うに,裸 核 グ リア様 巨 大核 の怪物 グ リアや ,脱髄 巣辺縁 に周壁 をなす肥僻 グ リアに移行 し,末期 には線維性 マ クログ リア に よ る . グ リア性癖痕 に加 わ るもの と思 われ る. この マ クログ リアの反応 は,再燃性 の病巣 で は,新病 巣 の辺縁 と旧 病 巣 の周辺 でみ られ図5‑ C
のよ うに 同 心 円 状 の 増 生 を示 している.また脱髄巣 に近接 してい るが .髄鞘標 本 で明 らかな脱髄 をみない半球髄質 に高度 の ダ リオー ゼをみ ることもあ る.一方本例 の三叉神経根部 の病変 は,中枢部 と末梢部
で性状 を異 に している.す なわち末梢部 で は髄鞘 の配 列 の乱 れの所見 に対 し,中枢部で は高度 の変性 ,崩壊 がみちれ ,ダ リオーゼの像 も著 しい.そ して両者 の接 合部 は,エオ ジン好性 の無構造 の組織 が あ り,ア ミロ イ ド小体 が ,明瞭 な凹状 の境界部 に分布 している.こ れ らの所見 は脱髄過程 にお ける.オ リゴデ ン ドログ リ アと
Sc hwa nn
細胞 との反応機序 の差異 を示 す と と もに脱髄 が両者 の接合部 よ り進行 す ることを明 らか に している.また前記 の初期病巣や再燃 巣 .三 叉神経根 部 でのマ クログ リアの所見 は,グ リアの活性化 につい て ,髄鞘 の崩壊 や残存神経線維 の存在 が .有意義 であ ることを示 している.そ して この早期 よ りのマ クログ リアの増生 が ,たん に修復作用 のみ な らず .髄鞘再生 や棟 の神経線維 の保護 など,種 々論 じられて いる他 の 役割 を行 っているよ うにみえ る.本例 には髄膜炎の所見がみ られた .多発性硬化症 も 時 に髄膜炎 を合併 す るが .本例 の炎症像 は新鮮 で ,血 管 に沿 って皮質表層 に も及 び,脱髄 巣でみ られ る炎症 像 とは.その性状 を異 に してい る.
Lums de n 1 6 )
によれば多発性硬化症患者 は.末期 に気 管枝肺炎 を併発 す ることが多 く.それが直接死因 とな ると述 べている.本例 も末期 には高熱 を伴 う肺 炎 に確 患 してお り,髄膜炎 もそれによる病 変 とお もわ れ る .結 語
典型例 と思 われ る多発性硬化症 の 1剖検例 を記載 し た .
症例 は
5 0
才女性 で,4 4
才時右顔面 知 覚 異 常 , 倦 怠 感 .右上下肢 しびれ感 と脱力感 .霧視 .眼病 ,歩行障 害 を初発症状 と し,全経過約6年 で.4回 の寛解増悪 を繰返 した.縁過中 .視力低下 ,脊髄症 状 .錐体路徴 候 .小脳症状 ,精神症状 と多彩 な臨床症 状 を呈 した . 剖検所見で は,大脳皮質 .髄質 ,脳幹 ,小脳 ,脊髄 に 広汎 に大小、新 旧種 々の脱髄巣が見 られた .脱髄 巣の 多 くは静脈中心性 に存在 した.脱髄 巣 内 の血管周囲性 炎症反応 は全体 に軽 く,壊死巣 は伴 なわない.柄 巣部 位 には種 々の程度 の グ リア性癖痕化過程 がみ られ た .本例 に多 くみ られた静脈中心性 の病 巣 を中心 に若干 考察 を加 えた.
稿を終るに臨み.御校閲を頂いた山口成良教授 .臨床 経過記録や本例剖検の機会を与えて下された富山県高岡 市民病院精神科の武内徹博士や高岡市で開業の林武堆博 士に心からお礼申し上げます.また標本作製.写真撮影 で協力頂いた佐伯峯義.本多豊美夫.池田輝男の各氏に 深 く感謝致 します.
多発性硬化症 の1剖検例
文 献
1 )
厚生省特定疾患 .多発性硬化症職査研 究 班1972
年度報告雷 .厚生省.2)
白木博次 ・山本達也 ・浜田 晋 :精神経誌,60.
11 21( 1958) .
3)
白木博次 :臨床神経,6,629( 1 966) . 4)
椿 忠雄 :臨床神経,6,675( 1966) . 5)
黒岩義五郎 ・ 柴崎 浩 :臨床神経, 10, 40
日970) .
6)湘 輝男 ・志田堅四郎 ・村井 由之 ・黒岩義五 郎 : 精神経誌 .
73,397( 1 97
1).7)高畑直彦 ・今村誠志 ・塚本隆三 :神経進歩 .
13.
329( 1969) .
8)生田房弘 ・室根郁男 :臨床神経
.10.21 ( 1970) .
9)米沢 猛 ・岡本一也 ・川勝良昭 :神経進歩 .ll,
757( 1 968) .
10)
松 山春郎 ・里吉営二郎 :臨床神経,10.27 ( 1 970) .
ll)豊倉康夫 ・万年 徹 :臨床神経
,10,29( 1970) . 12)
中村晴臣 ・亀山正邦 :臨床神経,1 0,634 ( 1970) .
13)
里吉営二郎 ・木下東男 ・佐久 昭 ・菊 池 祥 夫 ・ 舌和久幸 :臨床神経,12,57( 1 972) .
14)
柴崎 浩 ・伊規須英輝 ・山下順章 :臨 床 神 経 ,13.631( 1973) .
15)Fog,T.:Lums de n,C.
E.
;Cha pt er8.The Neur opa t hol ogyofmul t i pl e、s c l er os i s ,Handbook of Cl i ni c a l Ne ur ol ogyvo
l.9,New Yor k,Ame‑
r i c an EI s vi erPubl i s hi ng C
0. ,I nc . ,1 970.
よ り引用 .16)Lums den,C.E.:Chapt er 8.The Neur o‑
pa t hol ogy ofmul t i pl e s c l er osi s ,Ha ndbook of Cl i ni c a lNe ur ol ogyvo
l.9,Ne w Yor k,Amer i c an EI s vi er Publ i s hi ng C
0. ,I nc . ,1 970.
写 真 艶 明
鼠1.
前交連 を通 る大脳割面 .ト A :Woe l ke
髄鞘標本 .We t t er wi nke l
を含む側脳室周囲 髄 質 やSyl vi us
周囲脳回 ,海馬回 の融合性脱髄 巣 .前頭糞皮 質 一髄 質 には孤立性病 巣がみ られ る.1 ‑ B:Hol z er ‑
佐伯変法 グ リア染色標本 .脱髄巣 にほぼ一致 した グ リア性癖痕 ,左半 球 で は , 皮質 への再燃 の像 がみ られ る.
3 8 5
図
2
2 ‑ A. B:
視束交叉部 の散在性脱髄斑 と び ま ん 性 の ダ リオーゼ像 .2
‑C. D.
:小脳 ,橋病変 .第 Ⅳ脳室 周 囲 ,橋 被 蓋 の 融合性脱髄 と橋底部 の血管中心性病巣 .2 ‑ E. F.
:延髄模本 .第Ⅳ脳室底 の脱髄 巣 ダ リオ ー ゼ像 は迷走神経背側核 .孤束核 ,下 オ リー ブ核 に 強 い.両側戯体路 に も髄鞘淡明化 がみ られ る (右 >左 ).2‑G. H.
:頚髄膨大部標本 .右側索 よ り左後索 に か けての脱髄 .左側索錐体路 ,前正 中裂 に接 す る前索 に もびまん性 の脱髄 がみ られ る. グ リオ‑ ゼは両側後索 と右側索 に認 め られ る.3 ‑ A. B. O.
:左上前頭回皮質一皮質下 にか けての孤立 性病巣 .A :Woe l ke
染色×2 0
B:
脱髄巣 はエオ ジンに淡染 し, 細 胞 密 度 に乏 し い.辺縁部 には棒状 ミクログ リア,活性化 した マ クロ グ リアがみ られ る.H. E.
染色×5 0
C:
周辺部 の変性髄鞘 .断裂 .膨化 した髄鞘球 が み られ る.3‑ D.
:右中前頭回 の新 しい病巣 .髄 鞘 標 本 以 外 , 識別困難 であ る.Woe l ke
染色×2 0
3‑ E.:3‑ D
標本 の強拡大 .病 巣 の下方 の小静脈 の 細胞浸潤 と, ミクログ リア,マ クログ リアの活 性 化 , オ リゴデ ン ドログ リアの核濃縮 ,空 泡化 がみ られ る .H. E.
染色×2 0 0
4‑ A. B. C.
:右 中前頭回病 巣 .A :
皮質‑皮質下 白質 にか けて抜打状 の脱 髄 が み ら れ る. グ リオ‑ゼ (‑),毛細管充血 (+).Woe l ke
染色×2 0
B:A
の右下方 の血管周囲 .細胞浸潤 は軽度 で 病 巣 辺縁部 の原形質性 マ クログ リアの増生 がみ られ る.H.
E.
染色×5 0
C:B
の強拡大 .活動期 マ クログ リア, ミク ロ グ リ アの増殖 が著 しい.H. E.
染色×2 0 0
4 ‑ D. E. F.
:右小脳 中心 白質病巣境界部 .D :
脱髄 巣内の細胞反応 ,腫痔様 に増殖,Woe l ke
染色×1 0 0
E:D
と同一部 ,境界部 で 神 経 線 維 に 変 化 を み な い .Bodi an
染色×1 0 0.
F:
円形化 ミクログ リア,巨大核 の怪物 マ クログ リ アがみ られ る.本病巣 には ダ リオーゼ (‑), 脂 肪 頼 粒細胞 (+).5‑ A
:右後頭葉皮質下 の陳旧性脱髄巣 .病 巣 辺 縁 には肥蹄 グ リアや脂肪頼粒細胞 が周壁 をな して い る . 多級 の グ リア細胞 もみ られ る.H.
E.
染色×1 0 0
5‑ B:
左半卵 円中心部 .病巣中央部 は退 行 期 マ ク ログ リアが .数 を減 じて存在 してい る.Ⅴ‑R睦 には リ ンパ球 の浸潤がみ られ る.H. E.
染色×1 0 0
5‑ C:
図卜
Bの左上前頭回再燃病巣 の中拡大 .グ リ ア線維 は同心円状 に新病巣 の辺縁 と,旧病巣 の周辺 よ り増生 している.Hol z e r ‑
佐伯染色×2 0
5‑ D:
左下前頭回の点状病巣 .Hol zer ‑
佐 伯 染 色×5 0
5‑ E:
陳旧性病巣内の血管周囲細胞浸潤 像 . 血 管 壁 の変化 も強 い.H
且 染色×2 0 0
6‑ A. 8:
左小脳中心 白質 の静脈血栓 と同 血 管 を 囲 む脱髄巣 .Wo e l ke
染色×5 0.H. E.
染色×5 0
6‑ C:
左中前頭回髄膜 の炎症像 .皮質 表 層 に も及んでいる.
H. E.
染色×1 0 0
6‑ D
:左視床内側核 .病巣内にかかわ らず , 神 経 細胞 は保 たれてし,'る.一部 に軸性 変 化 の 像 が み られる.
H. E.
染色x2 0 0.
6‑ E:
中脳脱髄巣近傍 の血管 .静脈 は うっ血強 く , 動脈 に比べて血管周囲の細胞浸潤が高度である.H. E.
染色
×1 0 0
6‑ F:
小脳中心 白質の髄鞘陰影像 .完 全 脱 髄 巣 に 近接 し.血管依在性 にみ られ る.髄鞘 の 変 性 (+).ダ リオーゼ (‑).
6‑ G :
右三叉神経根部 .中梶部 (右)の髄 鞘 崩 壊 高度 .末梢部 との境界鮮明 .Wo e l ke
染色×2 0
Abstract An a ut ops y ofmul t i pl e s cl er os i s wa s r e por t ed.
A
50‑ r ye ar ol d f emal e had not i c e d par e s t he s i a on t he r i ghts i de ofher f a c e , f a t i gue ,numbne s s i n t he r i ght l i mbs ,di mne s s of s i ghtand di 航c ul t y i n wal ki ng a tt he a ge of4 4.
She under we nt 4 a t t a c ks ,a nd t her e wer e s hown vi s ualdi s or der ,t e t r a pl egi a , hyper r ef le xi a ,pyr am da l s i gns ,nys t agmus ,dys ar t hr i a ,i nt ens i on t r e mor ,a t a xi a and me nt aldi s or de r .She di e d ofbr onc hopne umoni a af t er t he c our s e ofs i x ye ar s .
The hi s t opa t hol ogi c s t udy r e ve al ed many,Ol d and ne w de myel i na t e d l e s i ons of var yi ng s i z e s and s ha pes i n al mos t al lpar t s of t he c e nt r alner vous s ys t e m, na me l y c er e br um,br ai n s t em,c er e bel l um,and s pi nalc or d.
The de myel i na t ed l e s i ons wer e c har a c t er i z e d by per i ve nul ar di s t r i but i on ofp
・l a que s ,l a c k oft i s s uene cr os i s ,pa uci t y ofi nf lamma t or y r e a c t i ona nd mar ke d Bbr ous gl i os i s ofdi f f er e ntdegr e es .
The per i ve nul ar i t y ofpl aque s and ot her andi ngs obs er ved i n t hi s c a s e wer e
di s c us s e d.
多発性硬化症 の1剖検例
図 1
3
図
2
多発性硬化症 の1剖検例
図
3
3
89図
4
多発性硬化症 の1剖検例
図
5
3 9 1
図 6