鉄道ネットワークを用いた職住分布の同時形成モデルの構築
01D8103011i
円地 隆之中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2005
年3
月要約
:
本研究では,都市経済学に基づき労働者の職住 選択行動を定式化し,均衡状態となる職住分布の同時 形成をモデル化する. このモデルは,鉄道ネットワー クを用いた通勤行動を考慮する. 最後に,本モデルを 東京都市圏に適用し,モデルの評価を行う.キーワード
:
ランダム効用理論,均衡,同時形成モデ ル,鉄道ネットワーク1
序論人々の活動に距離が与える影響をモデル化し,人々 の活動を予測することは興味深い問題である.
本間
[1]
は(1)
居住地・就業地の通勤, (2)就業地 同士の取引, (3)混雑による負の効果により居住地分 布・就業地分布の同時形成をモデル化している.しかし,本間のモデルは,人々の選択行動に関して 経済理論との整合性という点で課題がある. そこで, 本研究では, Fujitaらのモデル
[2]
に基づき,地代,コ ミュニケーション活動により定まる収益,通勤費用の3
つの要因によるトレードオフを考慮した人々の選 択行動を定式化し, 均衡状態となる職住分布の同時 形成をモデル化する.2
職住分布の同時形成モデル都市の空間
S
において, 労働者は居住地p h ∈ S,
就業地p w ∈ S
を選択する(職住選択行動).
居住 地p h
を起点, 就業地p w
を終点とする通勤交通量を 職住同時分布f hw (p h , p w )
を用いて表す. 居住地分 布f h : S → R + ,
就業地分布f w : S → R +
は職住 同時分布の周辺分布として与えられる. 職住分布は(f h , f w )
のペアを表し,S
は2
次元ユークリッド空間,d
はユークリッド距離を表すものとする.2.1
労働者の職住選択行動労働者の職住選択行動は, 職住分布により内生的 に定まる効用関数
(α > 0, β > 0,
定数)V (p h , p w , f h , f w )
= αE(p h ) + β[W (p w ) − R(p h )S h − T (p h , p w )]
(1) E :
居住地の環境, Sh :
土地の量(固定) W :
賃金関数, R:
地代関数, T:
通勤費用 により表すことができる.地代は,その地点の需要によって変化するものであ る. ここで,需要は,その地点を居住地または就業地 として選択する労働者の量により表されると考えら れる. そこで,地代関数
R(p)
はf h (p), f w (p)
の増加 関数で表されると想定し, 本研究では次のように定 める.R(p) = C R [f h (p) + f w (p)] (C R > 0,
定数)(2)
Fujita
らのモデル[2]
はコミュニケーション活動による外部経済を仮定し,企業の生産活動を定式化して
いる. 本研究では,この定式化に基づき,地点
p w ∈ S
の利益π(p w )
をπ(p w ) = A(p w ) − R(p w )S w f w (p w ) − W (p w )f w (p w ) (3) S w :
単位労働者の必要とする土地の量(固定)
と定める. ここで,集約アクセスビリティ関数A(p w ) = C A Z
S
exp[ − τ w d(p w , q w )]f (q w )dq w (4) (C A > 0, τ w > 0,
定数)はコミュニケーション活動により得られる収益を表 している. 一次元空間
X = [ − 12, 12]
において,図1
で示される就業地分布f w (x) (x ∈ X)
を仮定したと き, 集約アクセスビリティ関数を図2
に示す.A(x)
は, 距離の観点から, 都市の中心(0 ∈ X)
の優位性 をモデル化している. また,τ w
の値により,その優位 性は変化することがわかる.0 50 100 150 200 250
-10 -5 0 5 10
f
w( x )
x
図
1. f w (x)
のグラフ0 50 100 150 200 250
-10 -5 0 5 10
A ( x )
x
τw=0.05 τw=0.1 τw=0.5
図
2. A(x)
のグラフ 一定の期間後, 利益π
は0
になると仮定すると,W (p w )
は(3)
式からW (p w ) = A(p w )
f w (p w ) − R(p w )S w (5)
と与えられる.居住地の環境
E
は地点p h ∈ S
における人々の接 触のしやすさと考え,地点p h
によって定まる関数E(p h ) = C E
Z
S
exp[ − τ h d(p h , q h )]f(q h )dq h (6) (C E > 0, τ h > 0,
定数)と定める.
2.2
ランダム効用本研究では,ランダム効用理論に基づき,労働者の 職住選択行動を,ランダム効用
U (p h , p w ) = V (p h , p w , f h , f w ) + ² (7)
を最大化するという形で定式化する.²
は(0, λ)-ガン
ベル分布にしたがうランダム効用の変動項である.V
は(1)
式で与えられるランダム効用の確定項である.2.3
同時形成モデル本研究では,労働者の職住選択行動に関して,以下 の前提をおく.
(a)
労働者の職住選択は所与の効用関数を最大化 する形で合理的に行われる.(b)
すべての労働者の職住選択は同時に行われる.(c)
労働者は他の労働者の選択を考慮しない.すべての労働者が,与えられた職住分布のもとで, 他の居住地,就業地を選択する動機がなくなるとき, その職住分布は均衡状態であると定義し, このとき の職住分布を均衡職住分布と呼ぶ.
すべての労働者が
(7)
式により記述されるとした とき,均衡職住分布は本間[1]
の同時形成モデルを用 いて求めることができる.職住分布
(f h , f w )
が与えられたとき, 職住同時分 布f hw (p h , p w )
はロジットモデルより計算される選 択確率に,所与の総労働者数N
を乗じてf hw (p h , p w ) = N exp[λV (p h , p w , f h , f w )]
R
S
R
S exp[λV (p, q, f h , f w )]dpdq (8)
となる. 与えられた職住分布(f h , f w )
は, (8)式の周 辺分布として計算される職住分布と等しくなるとき, 均衡状態となっている. すなわち, (fh , f w )
に関する,(8)
式と次式の関数方程式f h (p h ) = R
S f hw (p h , p w )dp w f w (p w ) = R
S f hw (p h , p w )dp h (9)
を満たす職住分布は均衡職住分布である. モデルの 適用の際は, (9)式を,f h , f w
に関する漸化式とみな し,逐次的に数値計算を行う.2.4
鉄道ネットワーク労働者の通勤は鉄道移動が大部分を占める. 本研 究では,労働者の職住選択行動を,通勤に利用する駅 のペアを選択する行動としてモデル化する.
空間
S
を鉄道ネットワークの駅を母点とするVoronoi
領域に分割し, それぞれのVoronoi
領域で労働者は母点となる駅を利用するものとする. そし て, 駅間の最短経路を通勤費用
T
と定義する.さらに, Voronoi領域内では職住選択に関する効用 属性は等しくなるものとし, 各駅に
Voronoi
領域の 面積を割りあて,面積の概念を導入する. そして,労 働者の職住選択行動は通勤に利用する駅を選択する 離散選択行動とする.3
数値実験東京都市圏にモデルを適用する. 対象鉄道ネット ワークは
128
路線1815
駅から構成される. ここで,C R h = βS h C R , C R w = βS w C r , C E = αC E , C d = βt
と定める. 図3,
図4
に本モデルによる居住地 分布と就業地分布の計算結果を示す(λC E = 10 − 8 , λC A = 0.2, λC R w = 0.001, λC R h = 0.025, λC d = 40, τ h = 0.1, τ w = 100, N = 7, 343, 967).
駅座標に 居住地分布, 就業地分布を垂直に積み上げたものを 表示する. また,図5
に,図3,
図4
の側面を示す. 就 業地分布については, 都市の中心に就業地が集中す る都心の形成を再現できた. また,図5
より,都市の 中心から離れた地域にも就業地が集中する副都心の 形成を再現できた. 一方, 居住地分布については,都心の周辺地域に居住地が分散するドーナツ化現象を 再現できた.
0 11200 16800 22400 28000
5600
6
側面 図
3.
居住地分布0 6400 12800 19200 25600 32000
6
側面 図
4.
就業地分布居住地分布 就業地分布 図
5.
側面図4
結論本研究では, 都市経済学に基づく労働者の職住選 択行動を定式化した. そして,均衡職住分布の同時形 成をモデル化し,東京都市圏を対象に,均衡職住分布 を求める数値計算を行った. 本モデルはマクロに見 ると都市の特徴を再現することができた.
今後の課題として,モデルの再現性を高めるため, 鉄道ネットワークにおける混雑や,容量を考慮する必 要がある. そのために,本モデルはネットワーク利用 者均衡モデルとの統合が必要である.
参考文献