中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻 修士論文
輸送障害時の鉄道旅客移動モデル
Estimation of Alternative Route Choices of Passengers in Public Railway Network in case of Traffic Disorder
佐藤 春樹 Haruki SATO
学籍番号 07N8100014D 指導教員 田口 東 教授
2009 年 3 月
概要
現在,首都圏における鉄道定期券利用者は,およそ
800
万人にのぼり,乗客が集中する朝 の通勤・通学時間帯には電車内や駅は激しく混雑している.また,関東首都圏の鉄道ネット ワークは広範囲かつ複雑に形成されている.一方,鉄道交通では,地震や大雨などの天災,または,踏切などの事故,車両や信号機の故障などにより,電車ダイヤが大きく乱れること がある.このような輸送障害が朝のラッシュ時に発生すると,旅客は運転を見合わせた路線 を避けて他路線へ迂回すると考えられる.すると,迂回先の路線を通常時に利用していた旅 客は混雑による不便を被る.このように,輸送障害時の旅客の流れ(旅客流動)は通常時と 大きく異なり,迂回路線や乗換駅へ旅客が集中し,混乱を引き起こす可能性がある.また,
ダイヤが乱れた場合には鉄道事業者は,運転整理と呼ばれる乱れたダイヤを正常に戻すため の作業を行なう.輸送障害時における旅客への対応や運転整理案の作成では,その際の旅客 流動を考慮することが大変重要である.そこで,本研究では輸送障害時の鉄道ネットワーク 上での旅客流動を推定することを目的とする.
まず,首都圏を対象とした時空間ネットワークを構築し,鉄道旅客の流れを再現する.ど の旅客が,いつ,どこにいるのかを詳細に知ることができるので,輸送障害が発生した時点 における
OD
交通需要を作成することが可能となる.次に,輸送障害時の鉄道旅客移動モデルを構築する.まず,時空間ネットワークの構造を 変化させて輸送障害を時空間ネットワーク上で表現する.そして,輸送障害発生時刻におけ る
OD
交通需要を,輸送障害を表現した時空間ネットワーク上へ配分することで輸送障害時 の旅客流動を推定する.そして,輸送障害時の鉄道旅客移動モデルを実際の鉄道ネットワークに適用し,ある路線 が運転を見合わせた場合のシミュレーションを行なう.シミュレーションでは,通常時から の旅客流動の変化の分析,運行再開後の混雑による遅延の計算を行う.
最後に,運転整理案の一例として,相互直通運転を中止した場合の旅客流動を推定し,運転整 理が旅客にとってどれくらい有益であるのかを考察する.
キーワード:輸送障害,時空間ネットワーク,輸送障害時の鉄道旅客移動モデル
目次
第
1
章 序論...1
1.1 研究背景 ...1
1.2 研究目的 ...2
第
2
章 時空間ネットワーク...32.1 対象範囲 ...3
2.2 時空間ネットワークの構築...4
2.2.1 停車ノード...4
2.2.2 電車リンク...5
2.2.3 待ちリンク...6
2.2.4 待合わせリンク...6
2.2.5 乗り換えリンク...7
2.3 時空間ネットワーク...8
第
3
章 鉄道旅客流動の推定...103.1 大都市交通センサス...10
3.2 鉄道利用モデル...13
3.2.1 最短時間経路問題を用いた鉄道利用モデル...13
3.2.2 利用者均衡配分を用いた鉄道利用モデル ...16
3.2.3 利用者均衡配分の経路復元方法...20
第
4
章 輸送障害時の鉄道旅客移動モデル...22
4.1 時空間ネットワーク上での運転見合わせの表現...22
4.1.1 出発時刻の変更...22
4.1.2 電車運行に関する制約 ...23
4.1.3 時空間ネットワーク上での運転見合わせ表現手順 ...24
4.2 輸送障害時の鉄道旅客移動モデル ...28
第
5
章 適用事例...335.1 シミュレーションの概要 ...33
5.1.1 東京メトロ有楽町線 ...33
5.1.2 運転見合わせ決定時刻以降の OD
交通需要...35
5.2 シミュレーションの結果 ...35
5.3 混雑によって発生する遅延の計算 ...45
5.3.1 遅延計算モデル...45
5.3.2 計算結果 ...46
5.4 運転整理の効果...48
5.4.1 直通運転中止の時空間ネットワーク上での表現...49
5.4.2 相互直通運転を中止した場合の旅客流動 ...49
5.4.3 旅客の旅行時間を用いた相互直通運転中止案の評価 ...55
第
6
章 結論...57
6.1 まとめ ...57
6.2 今後の課題...57
謝辞
...59
参考文献
...60
第 1 章 序論
1.1 研究背景
現在,首都圏における鉄道定期券利用者は,およそ
800
万人にのぼり,乗客が集中 する朝の通勤・通学時間帯には電車内や駅は激しく混雑している.また,関東首都圏の 鉄道ネットワークは広範囲かつ複雑に形成されている.ところで,鉄道交通では,地震 や大雨などの天災,または,踏切などの事故,車両や信号機の故障などにより,運転見 合わせが発生し,ダイヤが大きく乱れることがある.本研究では,事故などによりダイ ヤが乱れることを輸送障害と呼ぶ.朝のラッシュ時にある路線が運転を見合わせると,旅客は運転を見合わせた路線を避 けて他路線へ迂回すると考えられる(振替輸送).すると,迂回先の路線を通常時に利 用していた旅客は混雑による不便を被る.このように,輸送障害が発生すると旅客の流 れ(旅客流動)は通常時と大きく異なり,迂回路線や乗換駅へ旅客が集中し,混乱を引 き起こす可能性がある.また,ダイヤが乱れた場合には,運転整理と呼ばれる,ダイヤ を正常に戻すための作業が行なわれる.運転整理では電車の運休,順序変更,行先変更,
車両運用変更等の作業を,旅客がなるべく不便を被らないように,行なわれる[
4
].鉄 道旅客が不便を被らないように運転整理を行なうためには,ダイヤが乱れた場合の旅客 流動を考慮することが大変重要である.輸送障害時の旅客流動を推定することは旅客の 集中する振替輸送の受け入れ側の対応や運行再開後の適切な対応,運転整理案の検討・評価に役立つと考えられる.
ダイヤが乱れた場合の旅客流動に関する研究には[
8
]などがある.これらの既存研 究では,運転整理案の評価を行なうためにダイヤが乱れた路線を利用する旅客の流れを 推定している.しかし,首都圏における鉄道ネットワークは複数の路線が繋がっている ため,通常時にダイヤが乱れた路線を利用する旅客が他の路線へ迂回し,迂回先の路線 が混雑すると,その路線を元々利用していた旅客の流れが変わる可能性がある.そのた1.2 研究目的
本研究では,鉄道ネットワークにおいて輸送障害が発生した際の旅客流動を推定する ことを目的とする.本研究では,通常時における旅客流動から輸送障害が発生した時刻 の
OD
交通需要を求め,OD
交通需要を輸送障害を表現した時空間ネットワークに配分 することで輸送障害時の旅客流動を推定する.次に,推定した旅客流動から,迂回経路,運行再開後の混雑状況や混雑によって発生する遅延時間を分析する.
本論文の構成として,第
2
章で電子時刻表をもとに首都圏鉄道網を対象にした時空間 ネットワークを構築する.第3
章では,首都圏における鉄道旅客の鉄道利用状況に関す るアンケートデータを交通需要として,第2
章で構築した時空間ネットワークへ交通量 を配分し,鉄道旅客の流れを再現するモデルについて説明する.第4
章では,輸送障害 時の鉄道旅客流動モデルを構築する.まず,時空間ネットワークの構造を変化させて輸 送障害を表現する手順について説明する.次に,輸送障害が発生した時刻におけるOD
交通需要を求める.そして,輸送障害を表現する時空間ネットワークと輸送障害が発生 した時刻におけるOD
交通需要を用いて旅客流動を推定する.第5
章では,輸送障害時 の鉄道旅客移動モデルを実際の路線に適用してシミュレーションを行なう.そして,迂 回路線や運行再開後の混雑状況の分析や混雑によって発生する遅延の計算を行う.最後 に,運転整理案の一例として,相互直通運転を中止した場合の旅客流動を推定し,運転 整理が旅客にとってどれくらい有益であるのかを考察する.第 2 章
時空間ネットワーク
鉄道は,時刻表に従い運行する公共交通機関である.時刻表どおりに運行する鉄道は,時 間変化を離散的に捉えることができる特性を利用し,鉄道網(空間ネットワーク)を時間軸 方向に拡張した静的なネットワーク(時空間ネットワーク)上で,鉄道旅客の流れを再現す る.時空間ネットワークは元のネットワークに比べ大規模であるが,構造が単純であり,ま た,鉄道旅客の流れを正確に再現できる[
3
].そこで,本章では[2
],[3
]を参考に,空間 ネットワークを拡張し,時空間ネットワークを構築する.
2.1 対象範囲
本研究での対象範囲は,
2005
年に実施された大都市交通センサス[1
]の対象範囲に,第5
章で輸送障害時の旅客移動モデルを適用する東京メトロ副都心線の11
駅を加えた首都圏133
路線1,910
駅とする.図2.1
に対象範囲の鉄道網を示す.
横浜 八王子
大宮
東京
渋谷 渋谷
池袋
東京 上野
2.2 時空間ネットワークの構築
鉄道旅客の乗車から降車までの行動の流れをネットワーク上で表現するため,図
2.1
の鉄 道網で表される空間ネットワークを時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構築する.本研究では,市販の時刻表の電子データ(以下,電子時刻表とする)を基に時空間ネットワ ークを構築する.使用する電子時刻表は,全国
JR
時刻表2005
年1
月号と,JTB
パブリッ シングの私鉄データ(2005
年2
月10
日現在)に市販の紙の時刻表から手作業で電子化した つくばエクスプレスのデータ(2007
年10
月1
日現在)と東京メトロ副都心線のデータ(2008
年7
月1
日現在)を加えたものである.鉄道利用を開始してから終了するまでの鉄道旅客の行動は,以下の行動に分類できる.
電車に乗って駅間を移動する行動
駅で次の電車を待つ行動
駅で待合わせを行う電車に乗り換える行動
駅で別の路線へ乗り換える行動ここで,各駅停車の電車が後続の急行電車との接続をとって発車するようなことを,駅で の待合わせと呼ぶ.これら一連の鉄道利用者の行動をノードとリンクとして以下のように定 義し,ネットワークの要素として表現する.
停車ノード :各駅における各電車の停車
電車リンク :電車に乗って駅間を移動する行動
待ちリンク :駅で次の電車を待つ行動
待合わせリンク :駅で待合わせを行う電車に乗り換える行動
乗り換えリンク :駅で別の路線へ乗り換える行動
2.2.1 停車ノード
各駅における各電車の停車を,停車ノードとして定義する.電子時刻表には,駅に電車が 到着する時刻(着時刻)と駅から出発する時刻(発時刻)が分単位で記載されている.した がって,ネットワークの時刻の基本単位は分とする.また,停車ノードは以下の要素に分け て表現する(図
2.2
).
着ノード:各駅における各電車の到着
発ノード:各駅における各電車の出発
着発間リンク :電車の到着から出発までの停車図
2.2
停車ノード着ノードは着時刻と停車している駅(停車駅)の情報を,発ノードは発時刻と停車駅の情 報を持つ.
2.2.2 電車リンク
電車に乗って駅間を移動する行動を,電車リンクとして定義する.電車リンクは,移動元 の駅の発ノードから移動先の駅の着ノードへのリンクとして表現する(図
2.3
).
図
2.3
電車リンク電車リンクは,電車の種別,編成定員の情報を持つ.ここで,電車の種別は,
2005
年に実 施された大都市交通センサス[1
]を参考に,「各駅停車」,「快速,急行等」,「有料列車」,「新 幹線」に分類する.また,編成定員とは混雑率が100
[%
]のときに電車一本に乗車してい る人数のことである.ここで,混雑率100
[%
]とは,「座席につくか,吊り革につかまるか,ドア付近の柱につかまることができる」状態(図
2.4
)をいう[11
]. 発ノード停車ノード 着発間リンク
着ノード
発ノード
着ノード 着発間リンク 電車リンク
(
a
)100%
(b
)150%
(c
)180%
(d
)200%
(e
)250%
図
2.4 混雑率の目安
2.2.3 待ちリンク
駅で次の電車を待つ行動を,待ちリンクとして定義する.待ちリンクは,各駅における各 発ノードからつぎにその駅を出発する電車の発ノードへのリンクとして表現する(図
2.5
).図
2.5
待ちリンク
2.2.4 待合わせリンク
駅で待合わせを行なう電車に乗り換える行動を,待合わせリンクとして定義する.図
2.6
のように,A
駅に先に到着する電車11
の着ノードから,A
駅に電車11
より後に到着し,先に出 発する電車12
の発ノードへのリンクとして表現する.時間
電車
13
電車
12
電車
11
発ノード 着ノード
着発間リンク 電車リンク
待ちノード
図
2.6
待合わせリンク2.2.5 乗り換えリンク
駅で別の路線へ乗り換える行動を乗り換えリンクとして定義する.図
2.7
のように,路線1
と路線2
はB
駅とB’
駅で乗り換え可能であるとする.乗り換え可能である駅間での乗り換え は,乗り換え元の駅の着ノードから乗り換え先の駅の発ノードのうち,乗り換えをして間に 合う最も早い時刻の発ノードへのリンクとして表現し,このリンクを乗り換えリンクとする.(図
2.9
).なお,乗り換えが可能な駅対には,同一構内にあり乗り換えにほとんど時間がかからない 駅対(以下,同一駅と呼ぶ)と,ホームが離れた場所にあり,改札を通過するなど乗り換え に時間がかかる駅対(以下,乗換駅と呼ぶ)がある.同一駅,乗換駅は田口[
3
] を参考に する.[3
] では,駅名が同じか似通っている駅対,大都市交通センサスに実際に乗り換えの 記録のある駅対を拾い出して,駅間の距離,駅の構造,事業者などを調べ,個別に判断して 同一駅か乗換駅かを決定している.ここで,乗り換えにかかる所要時間は,同一駅の場合は0
[分],乗換駅の場合は( ) ( )
] [ ] 2
m/
[ 55
] m 2 [ 2
]
[
分分 分
乗換駅の乗換所要時間
− + − +
= x s x t y s y t
とする.ここで,乗換駅
s
,t
の座標をそれぞれ,( x s , y s )
,( x t , y t )
,歩行速度を55[m/分]
(=待合わせリンク 電車
11
電車
12
時間発ノード
着ノード 着発間リンク
電車リンク
待ちリンク
A
駅図
2.7
乗り換えの例図
2.8
乗り換えリンク2.3 時空間ネットワーク
首都圏の鉄道網を時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構築する.対象とする電車 は
43
,042 本である.ネットワークの規模をできるだけ小さくするため,一日を通じて停車す る各電車の着時刻,発時刻がすべて同じである駅は,着ノード,発ノード,着発間リンクを まとめて一つのノード(停車ノード)として表現する.以上より,地表面に垂直な方向に時 間軸をとり,首都圏の鉄道網を時空間ネットワークで表現すると,図2.9
のようになる.図2.9
は,リンクの種類により色を分けて表示している.また,この時空間ネットワークの総ノ ード数は783,533
,総リンク数は3,113,843
である(表2.1
).乗り換えリンク
発ノード
着ノード
着発間リンク
電車リンク
待ちリンク
時間
電車
12
電車
11
電車
21
電車22 A
駅B
駅D
駅B’駅
C
駅E
駅 路線1
路線
2
図
2.9
時空間ネットワーク表
2.1 時空間ネットワークの規模
列車本数43,619
列車ノード数815,733
リンク数3,209,268
列車リンク534,758
着発間リンク246,153
待ちリンク588,954
待合せリンク21,352
乗り換えリンク1,818,051
時間
第 3 章
鉄道旅客流動の推定
本章では,大都市交通センサスを鉄道旅客の
OD
交通需要として第2
章で構築した時空間 ネットワークを使用し,いつ,どこに,どのくらいの鉄道旅客がいるか(鉄道旅客流動と呼 ぶ)を推定する.本研究では,最短時間経路問題を用いて,大都市交通センサスに記載され ている内容を反映するようにOD
交通需要を時空間ネットワークに配分することで旅客流動 を求める方法と,田口[3
]を参考に静的な利用者均衡配分を行なうことで旅客流動を推定す る方法を扱う.
3.1
節では,本研究でOD
交通需要として使用する大都市交通センサスの鉄道定期券・普通 券等利用者調査について述べる.3.2
節では,旅客流動を推定する鉄道利用モデルについて述 べる.
3.1 大都市交通センサス
大都市交通センサス[
1
]とは,首都圏,中京圏,近畿圏の三大都市圏における鉄道,バス 等の大量輸送交通機関を対象に利用実態を調査し,各都市圏における旅客流動量や鉄道,バ ス等の利用状況を把握することにより,三大都市圏における公共交通施策の検討に資する基 礎資料を提供することを目的に実施される交通統計調査である[10
].この調査は昭和1960
年より5
年毎に,国土交通省により実施されており,最新の調査は2005
年に実施されたも のである.本研究では,2005
年に実施された調査のうち,首都圏の鉄道定期券・普通券利用 者調査を使用する.鉄道定期券・普通券利用者調査の調査期間は2005
年11
月15
日〜17
日 である.鉄道定期券・普通券等利用者調査では駅改札口による降車客への調査票配布郵送回 収,回収箱による駅回収により,全体でおよそ800
万人にのぼる鉄道旅客のうち,約14
万 人がサンプルとして選ばれている.以後,2005
年に実施された首都圏の鉄道定期券・普通券 等利用者調査を大都市交通センサスと呼ぶ.大都市交通センサスは,首都圏の鉄道利用者を対象に,最大
2
回の鉄道利用状況と帰宅の データが収録されている.鉄道利用状況では,利用目的(「通勤」,「通学」,「業務」,「私事」,「帰宅」に分類),出発地の出発時刻,鉄道利用を開始した時刻,鉄道利用を終了した時刻,
目的地への到着時刻,鉄道利用を開始した駅,途中で乗り換えを行なった駅,鉄道利用を終
了した駅,利用路線毎の利用列車種別(「各駅停車」,「快速・急行」,「有料特急」,「新幹線」
に分類)等の項目が記載されている.帰宅のデータでは,帰宅経路(
1
回目,2
回目の鉄道利 用状況と経路と同じかどうか),鉄道利用を開始した時刻,鉄道利用を終了した時刻,鉄道利 用を開始した駅,鉄道利用を終了した駅のみ記載されている.以下,鉄道利用を開始した時 刻を乗車時刻,終了した時刻を降車時刻,鉄道利用を開始した駅を出発駅,終了した駅を目 的駅と呼ぶ.鉄道定期券・普通券利用者調査はサンプル調査であるので,上述の項目に加え,各レコードにそのレコードが何人分を代表するかを示す拡大率が記載されている.
図
3.1
に1
回目,2
回目の鉄道利用状況と帰宅の乗車時刻の分布を示す.図3.1
より,1
回 目は主に朝の通勤通学時間帯,2
回目は主に夕方から夜の時間帯の鉄道利用状況を表してい ることが分かる.大都市交通センサスはアンケート形式で調査が行なわれるため,乗車時刻,降車時刻など時刻に関する項目では
7
時40
分や18
時00
分というようなきりのいい時刻の 回答が多い.しかし,実際の電車の時刻表は,このようにきりのいい時刻ではない.そこで それぞれのレコードの乗車時刻,降車時刻を前に4
分,後に5
分ずつ拡げ,各データを均等 に分ける(図3.2
,図3.3
,図3.4
).ただし,2
回目の鉄道利用状況と帰宅に関する回答では,18
時00
分や19
時30
分というように30
分単位の回答が多いため,前述のように均等に振 り分けても,1
回目の鉄道利用状況に比べ時刻によって偏りがある.図
3.1
から,1 回目の鉄道利用状況では多くの利用者が短い時間帯に集中して鉄道を利用して いること,2 回目の鉄道利用状況と帰宅では長時間にわたり多くの利用者が鉄道を利用している ことがわかる.0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000 180,000
4: 00 5: 00 6: 00 7: 00 8: 00 9: 00 10: 00 11: 00 12: 00 13: 00 14: 00 15: 00 16: 00 17: 00 18: 00 19: 00 20: 00 21: 00 22: 00 23: 00 0: 00 1: 00 2: 00
時刻
鉄道利用 者数[ 人]
1回目
2回目
帰宅
0 50,000 100,000 150,000 200,000
7: 00 7: 05 7: 10 7: 15 7: 20 7: 25 7: 30 7: 35 7: 40 7: 45 7: 50 7: 55
時刻
利用者数[人]
1回目(回答どおり) 1回目(振り分け後)
図
3.2
乗車時刻による利用者数の集計(1
回目の鉄道利用状況)0 50,000 100,000 150,000 200,000
17 :4 5 17 :5 0 17 :5 5 18 :0 0 18 :0 5 18 :1 0 18 :1 5 18 :2 0 18 :2 5 18 :3 0 18 :3 5 18 :4 0
時刻
利用者数[人]
2回目(回答どおり) 2回目(振り分け後)
図
3.3
乗車時刻による利用者数の集計(2
回目の鉄道利用状況)0 10,000 20,000 30,000 40,000
19 :3 0 19 :3 5 19 :4 0 19 :4 5 19 :5 0 19 :5 5 20 :0 0 20 :0 5 20 :1 0 20 :1 5 20 :2 0 20 :2 5
時刻
利用者数[人]
帰宅(回答どおり) 帰宅(振り分け後)
図
3.4
乗車時刻による利用者数の集計(帰宅)3.2 鉄道利用モデル
本節では,第
2
章で構築した時空間ネットワークとOD
交通需要として大都市交通センサ スを用いて,鉄道旅客の流れを推定するモデルを構築する.以下では,最短時間経路を用い た鉄道利用モデルと利用者均衡配分を用いた鉄道利用モデルについて述べる.
3.2.1 最短時間経路問題を用いた鉄道利用モデル
本項では,最短時間経路を用いた鉄道利用モデルについて述べる.鉄道旅客は目的駅まで の所要時間が最も短い経路を選択すると仮定し,最短時間経路問題を解くことで時空間ネッ トワーク上での鉄道旅客の移動を求める.最短時間経路問題はダイクストラ法を用いて解く.
ただし,大都市交通センサスの記載内容を反映するように旅客ごとの乗車時刻や鉄道利用経 路,利用電車の種別(以下,電車種別と呼ぶ)を限定する.ところで,大都市交通センサスに は帰宅に関する鉄道利用経路は
1
回目,2
回目の鉄道利用状況と同じかどうかが記載されて いるのみで,列車種別の記載がない.そのため,1
回目,2
回目の鉄道利用経路どちらかと同 じ場合は,帰宅のための鉄道利用経路を一致した鉄道利用状況の経路の逆とし,電車種別を 同じとする.それ以外の場合は,鉄道利用経路,電車種別を考慮しない.帰宅経路が1
回目,2
回目の利用経路と一致するのは全体の鉄道利用者数のおよそ43
[%
]で,およそ57
[%
] が一致しない.また,電車リンクの容量を乗車定員の
2.5
倍とし,得られた経路において使用する電車リ ンクが容量を超えていた場合は,その電車は利用できないものとし,それ以降の電車を利用 する.しかし,リンクの容量に上限があるため,大都市交通センサスに記載されている順番 で処理を行なうと,駅において電車に乗車する順序が必ずしも正しくはならない.つまり,ある電車に先に乗車している旅客の処理を,後から乗車する旅客より後回しにしたときに,
乗車できなくなることを表している.このような状況を避けるために,駅に到着した順に旅 客を電車に乗車させる工夫が必要となる.そこで,大都市交通センサスから分かる,各旅客 の利用経路を路線ごとに分割し,それぞれの路線について利用開始時刻順に最短時間経路を 求める.
1
回目,2
回目の鉄道利用状況,帰宅のデータそれぞれについて最短時間経路問題を解いた 結果から,旅行時間1
分ごとに旅客を集計すると,図3.5
,図3.6
,図3.7
が得られる.図3.5
から図3.7
より,1
回目,2
回目の鉄道利用状況,帰宅ともに旅行時間が30
分から40
分の旅 客が多く,ほとんどの旅客が90
分以内に鉄道利用を終了することが分かる.0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 10 0 11 0 12 0 13 0 14 0 15 0 16 0 17 0 18 0
旅行時間[分]
旅客 数[ 人]
図
3.5
旅行時間別旅客数集計(1
回目の鉄道利用状況)0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 10 0 11 0 12 0 13 0 14 0 15 0 16 0 17 0 18 0
旅行時間[分]
旅客 数[ 人 ]
図
3.6
旅行時間別旅客数集計(2
回目の鉄道利用状況)0 5,000 10,000 15,000 20,000
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 10 0 11 0 12 0 13 0 14 0 15 0 16 0 17 0 18 0
旅行時間[分]
旅客 数 [人]
図
3.7
旅行時間別旅客数集計(帰宅)また,図
3.8
,図3.9
,図3.10
は大都市交通センサスの回答どおりの旅行時間を横軸に,最 短時間経路での旅行時間を縦軸にとり,旅客数が1000
人以上の組合せを表示したもので,旅 客数が多いほど赤く,少ないほど青く表示している.大都市交通センサスの乗車時刻,降車時刻はきりのいい時刻の回答が多い.そのため
5
分刻みで縦に長い線が現れている.図3.8
では,45
度の線に沿って旅客数の多い点が現れている.したがって1
回目の鉄道利用につい て,大都市交通センサスの旅行時間と最短時間経路の旅行時間はよく一致しているといえ,時空間ネットワーク上で最短時間経路問題を解くことにより鉄道旅客の流れが再現できてい ることが分かる.一方,
2
回目の鉄道利用状況と帰宅では,45
度の線に沿って旅客数が多い 点が現れているが,1
回目の鉄道利用状況ほど大都市交通センサスの旅行時間と最短時間経 路の旅行時間が一致しておらず,大都市交通センサスの旅行時間の方が長くなる傾向が見ら れる(図3.9
,図3.10
).夕方から夜の時間帯の移動が多い2
回目の鉄道利用状況と帰宅は朝 とは違い,何時までにどこに行かなくてはいけないというような時間的制約が無い旅客が多 いことが考えられる.そのため,駅において,先発の電車に乗らず,座って目的の駅まで行 ける電車を待っていたり,駅構内の商業施設で買い物をしている可能性があることが,大都 市交通センサスの旅行時間が最短時間経路の旅行時間より長くなる理由として挙げられる.20,000
1,000 10,000 15,000
5,000
旅客数[
人]
120 100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間
[
分]
20,000
1,000 10,000 15,000
5,000
旅客数[
人]
120 100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間
[
分]
図
3.8
旅行時間(1
回目の鉄道利用状況)1,000 10,000 15,000
5,000 120
100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間
[
分]
20,000
旅客数[
人]
1,000 10,000 15,000
5,000 120
100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間
[
分]
20,000
旅客数[
人]
図
3.9
旅行時間(2
回目の鉄道利用状況)120 100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間
[
分]
最短時間経路旅行時間
[
分]
1,000 3,000 4,000
旅行者数[人]2,000
120 100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間
[
分]
最短時間経路旅行時間
[
分]
1,000 3,000 4,000
旅行者数[人]2,000
図
3.10
旅行時間(帰宅)
3.2.2 利用者均衡配分を用いた鉄道利用モデル
利用者均衡配分とは,ある出発地からある目的地まで移動する人の経路を決定する有効な 手法である.本項では,利用者均衡配分を[
6
],[9
]を参考に説明する.交通量配分原則は,
Wardrop
(1952
)によって提唱され,以下のように定義されている.Wardrop
の第1
原則利用される経路の旅行時間は皆等しく,利用されない経路の旅行時間よりも小さいか,せ いぜい等しい(等時間原則).
この配分原則が成立するためには,以下の前提条件を満たさなければならない.
① すべての利用者は常に旅行時間を最小にするように行動する(最小費用経路選択仮説)
② 利用者は常に利用可能な経路について完全な情報を得ている(完全情報仮説)
Wardrop
の第1
原則は,利用者が自己の経路選択行動を最適化した結果到達する均衡状態を表すものであることから,利用者均衡配分(
user equilibrium assignment
)と呼ばれる.以下,
Wardrop
の第1
原則を数理的に記述する.時空間ネットワークを,ノード集合
N
と有向リンク集合A
からなるグラフG (N, A)
として 表現する.このとき,ノード集合N
は起点ノード集合H
,終点ノード集合W
,それ以外のノ ード集合S
から構成される( N = H ∪ W ∪ S )
.ここで,起点ノードと終点ノードをセントロイ ドと定義する.一方,有向リンク集合は,実際の鉄道区間を表現するリンク集合E
,セント ロイドと停車ノード間の移動を表現する仮想リンク(コネクター)集合D
から構成される) ( A = E ∪ D
.利用者均衡配分において,利用者は,まず出発地に相当するセントロイド
r
からコネクタ ーを経由し,実際のネットワークに入る.そして,ネットワーク上のリンクを移動し,最終 的にコネクターを経由して目的地に相当するセントロイドs
に到着すると表現される.この とき,リンクa ( ∈ A )
を通過するために必要な費用を,そのリンクの交通量x a
の単調増加関数( ) a a x
t
で表わす.また,r
を出発し,s
に向かう利用者に関して,経路k
を選択する人数(経 路交通量)をf k rs
と表わす.そして,δ a, rs k
を,経路k
にリンクa
が含まれていれば1
,含まれ ていなければ0
を取る変数とする.このとき,
r
を出発し,s
に向かう経路k
を選択したときの経路費用c k rs
は∑ ∈
=
A a
rs k a a a rs
k t x
c ( ) δ , ∀ r , s , k
(3.1
)と表わすことができる.
これらの変数を用いると,
Wardrop
の第1
原則は配分モデルとして以下のように定式化さ れる.ここで,
u rs
をOD
ペアrs
間の最短経路費用とする.また,フローの保存条件として
∑∑∑
=
r s k
rs k rs
k a
a f
x δ , ∀ a
(3.4
)rs k
rs
k OD
f =
∑ ∀ r, s
(3.5
)が成立し,フローの非負条件として
≥ 0
rs
f k ∀ r , s , k
(3.6
)≥ 0
x a ∀ a
(3.7
) が成立する.式(
3.2
)から式(3.7
)で示された利用者均衡配分の定義式は以下に示す最適化問題と等 価であることが知られている[6
].ω ω d t x
Z
a x
a
∑∫
a= 0 ( ) )
(
min
(3.8
)s.t.
∑∑∑
=
r s k
rs k rs
k a
a f
x δ , ∀ a
(3.9
)rs k
rs
k OD
f =
∑ ∀ r, s
(3.10
)≥ 0
rs
f k ∀ r , s , k
(3.11
)≥ 0
x a ∀ a
(3.12
) 次に,上述の利用者均衡配分を用いた鉄道利用モデルについて述べる.具体的には,各旅 客の出発駅r
から目的駅s
までの経路を利用者均衡配分により決定する.本モデルの詳細な アルゴリズムを以下に示す.ここで,t a 0
を時空間ネットワークを構築する際に設定したリン クコストとする.Step1
. リンクコストt a ( 0 ) = t a 0
,反復回数n = 0
とする.Step2
. 各OD
ペアに対して,出発駅から目的駅までの経路の中でコストが最小となる経路に全ての交通需要を配分し(
all-or-nothing
配分),初期リンク交通量{ } x ( 1 )
を求める.反復回数n = 1
とする.Step3
.{ } x a (n )
に対するリンクコスト{ t a ( ) x a (n ) }
を算出する.Step4
. 更新されたリンクコストに対して,全OD
ペアについてall-or-nothing
配分を行い,リンク交通量
{ } y a
を求める.Step5
. 反復回数n + 1
回目のリンク交通量{ } x a ( n + 1 )
を)
( )
1
( n a ( 1 ) a n
a y x
x + = α + − α
(3.13
)とおく.次に,一次元探索法を用いて,利用者均衡配分の目的関数
Z ( x ( a n + 1 ) )
を 最小とするようなα ( 0 ≤ α ≤ 1 )
を算出する.そして,算出したα ( 0 ≤ α ≤ 1 )
に対 応するリンク交通量{ } x a ( n + 1 )
を求める.Step6
. 以下の収束条件(式(3.14
),式(3.15
),式(3.16
))のいずれかを満たして いるなら処理を終了する.そうでなければ,反復回数n = n + 1
とおいてStep3
へ戻る.K
n > K
:任意に与えられた反復回数 (3.14
)( ) 1 ) ( ) ( ) 1
( − ≤ ε
∑ ∈ + A a
n a a n a n
a x t x
x ε 1
:定数 (3.15
)) 2 (
) ( ) 1 (
max + − ≤ ε
n a
n a n a
a x
x x
ε 2
:定数 (3.16
)最後に,大都市交通センサスを
OD
交通需要として用い,利用者均衡配分を行なった結果 を示す.本研究では田口[
3
]を参考にし,電車リンクのリンクコスト関数はBPR
関数を採用する.田口[
3
]では,時間によって混雑度の重みを切り替えるように次のように定めた.7
:30
まで( ) ⎟ ⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎝
⎛
⎟⎟ ⎠
⎜⎜ ⎞
⎝ + ⎛
=
5 . 4
0 1 0 . 02
a a a
a
a cap
t x x
t
(3.17a
)7
:30
以降( ) ⎟ ⎟
⎠
⎞
⎜ ⎜
⎝
⎛
⎟⎟ ⎠
⎜⎜ ⎞
⎝ + ⎛
=
5 . 4
0 1 0 . 1
a a a
a
a cap
t x x
t
(3.17b
) ここで,ストとする.
図
3.11
に利用者均衡配分と最短時間経路問題を用いた鉄道モデルで電車の容量を考慮して 大都市交通センサスの回答結果を再現するように配分した結果(ケース1
)と電車の容量を 考慮せずに大都市交通センサスの回答結果を再現するように配分した結果(ケース2
)につ いて,横軸にOD
間平均旅行時間をとり,鉄道利用者数を旅行時間1
分刻みにまとめた分布 を示す.ケース1
の方がケース2
に比べ裾野が重くなっているのは,電車容量を考慮してい るため,満員電車に乗れない旅客の旅行時間が長くなるためである.若干,利用者均衡配分 の旅行時間の方が短いが,全体の傾向として利用者均衡配分と最短時間経路問題を用いて大 都市交通センサスの回答を再現した配分はよく一致している.0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 旅行時間[分]
鉄道利用人 数[人] ケース1
ケース2
利用者均衡配分
図
3.11
OD
間平均旅行時間の周辺分布3.2.3 利用者均衡配分の経路復元方法
第
4
章以降で詳細を説明するが,第5
章の輸送障害時の旅客移動モデルの適用事例では利 用者均衡配分の結果からある時刻におけるOD
交通需要を作成するので,各OD
ペアの利用 経路を推定する必要がある.しかし,利用者均衡配分はリンク交通量を一意に求めることは できるが,経路交通量を求めることはできないため,利用者均衡配分を解くだけでは各フロ ーが流れているリンクを抽出することができない.つまり,ある時刻において,どの旅客が どこにいるかがわからないということである.そこで,上述した利用者均衡配分を用いた鉄 道利用モデルのアルゴリズム(以下,均衡配分アルゴリズムと呼ぶ)の特徴を利用して,各OD
ペアの利用経路を推定する.均衡配分アルゴリズムでは,各
OD
ペアに対してall-or-nothing
配分を行った結果{ } y a
(
Step4
)とその時点(反復回数)でのリンク交通量{ } x a (n )
から,次の時点でのリンク交通量{ x a ( n + 1 ) }
をx a ( n + 1 ) = α y a + ( 1 − α ) x ( a n )
とおき,一次探索法を用いて目的関数Z ( x a ( n + 1 ) )
を最小化する)
1 0 ( ≤ α ≤
α
を算出する.そして,算出したα ( 0 ≤ α ≤ 1 )
に対応する{ x a ( n + 1 ) }
を求める(Step5
). したがって,各フローは初期交通量の設定から反復が終了するまでall-or-nothing
配分を行 った各経路に分割して流される.そこで,各OD
ペアについてall-or-nothing
配分を行った 経路と経路交通量,α ( 0 ≤ α ≤ 1 )
を全ての反復回数において記憶しておくことで,各フローが 流れているリンクを抽出することができる.第 4 章
輸送障害時の鉄道旅客移動モデル
ある鉄道路線に輸送障害が発生し,運転が見合わされると,鉄道旅客は部分的に途絶され た鉄道ネットワーク上を移動することとなる.その結果,旅客は迂回経路を用いて目的地へ 向かったり,駅で運行再開を待ち,運行再開後の電車へ乗車するなど,旅客流動は通常時と は異なる.そこで,本章では,ある鉄道路線に輸送障害が発生し,運転を見合わせた際の旅客 流動を推定するための旅客移動モデルについて述べる.
輸送障害発生時の旅客移動モデルの概要について説明する.まず,
2
章で説明した時空間 ネットワークの構造を変化させることで輸送障害を時空間ネットワーク上で表現する.そし て,輸送障害を表現した時空間ネットワークに交通需要を割り当てることで輸送障害発生時 の旅客流動を推定する.4.1
節では,時空間ネットワーク上での輸送障害の表現について述べる.4.2
節では,運転 見合わせを表現した時空間ネットワークに交通需要を割り当てる,鉄道利用モデルについて 述べる.
4.1 時空間ネットワーク上での運転見合わせの表現
本節では,時空間ネットワーク上での運転見合わせの表現方法について述べる.運転を見 合わせた路線を運行中の電車は最寄りの駅で運行再開まで待機し,運行再開とともに停車し ていた駅を出発する.そこで,時空間ネットワークの発ノードの時刻を変更し,電車運行に 関する制約に則り,列車の運行間隔,駅間の所要時間を決定することで運転見合わせを表現 した時空間ネットワークを求める.
4.1.1
項では出発時刻の変更について述べる.4.1.2
項で は電車運行に関する制約について説明する.4.1.3
項では出発時刻を変更し,電車運行に関す る制約に則り,時空間ネットワーク上で運転見合わせを表現する手順について説明する.
4.1.1 出発時刻の変更
運転見合わせが決定すると,運転を見合わせる時間帯に運行する予定だった各電車(以下,
運転見合わせ電車と呼ぶ)は最寄りの駅で運行再開まで待つこととなる.そこで,運転見合
わせ電車はその時点での最寄り駅(以下,待機駅と呼ぶ)まで運行し,その駅における発車 時刻が運行再開時刻まで遅れたものとみなし,発ノードを運行再開時刻まで遅らせる(図
4.1
). 図4.1
では,電車1
は運転見合わせ時刻において駅A
の手前を運行しているので,駅A
まで 運行し,運行再開を待って出発する.(a)通常時 (b)運転見合わせ時
図
4.1
出発時刻の変更4.1.2 電車運行に関する制約
4.1.1
項で説明したように運転見合わせ電車の待機駅での出発時刻を遅らせると,その遅れは,運転見合わせ電車の運行に影響を及ぼす.したがって,待機駅から,その電車が停車す る先々の駅まで,駅間の移動にかかる標準所要時間に応じて電車の着時刻,発時刻を遅らせ る必要がある.ここで,標準所要時間について説明する.時刻表によると,同じ駅間でも電 車によって所要時間が異なる.これは,鉄道会社は朝のラッシュ時の混雑による慢性的な遅 延に対して,予め遅延を考慮した時間(以下,調整時間と呼ぶ)を含んだ時刻表を策定して いるためだと考えられる.そこで,時刻表から得られる各電車,各駅間の所要時間のうち,
各駅間を最初に走行する電車の駅間所要時間を,駅間の標準所要時間として使用する.ただ し,駅間の標準所要時間は,その駅間を運行する始発電車の所要時間であり,「最短」所要時 間ではない.したがって,
1
日の中には,駅間を標準所要時間以下で運行している電車も存 在する.そのような電車については,標準所要時間として既存のスケジュールにおける駅間 の所要時間を用いる.表4.1
に標準所要時間の例を示す.また,東京首都圏の鉄道路線において,通勤時間帯には輸送力を向上するために,各電車 は限界に近い間隔で運転しているため,運転見合わせ電車の運行スケジュールを変更すると,
後続電車の運行に影響が及んでしまう.したがって,他の電車に与える影響を考慮して電車 運行再開時刻
着発間リンク
A
駅A
駅発ノード 着ノード
運転見合わせ決定時刻 電車リンク
電車
1
電車1
時間
(
1
)各駅において,連続して到着,出発する電車の到着間隔と出発間隔は,最低でも120
秒以上とする.(
2
)各電車において,連続した駅間の所要時間は,どんなに早くても標準所要時間以下には ならない.(
3
)各電車において,停車する駅での停車時間はどんなに短くても時刻表の停車時間以下に ならない.(
1
)によって,電車の着発順序を変えることなく,一定の間隔を保持することができ,(2
) によって,安全な速度以下で運行することができる.表
4.1
東京メトロ有楽町線の標準所要時間(和光市駅基準)所要時間 所要時間
駅名 各駅 準急 駅名
各駅 準急 和光市 0
0
飯田橋 2723
地下鉄成増 3市ケ谷 30
26
地下鉄赤塚 5麹町 31
27
平和台 8永田町 33
29
氷川台 10桜田門 35
31
小竹向原 119
有楽町 3733
千川 14銀座一丁目 38
34
要町 15新富町 40
36
池袋 1814
月島 4238
東池袋 2016
豊洲 4440
護国寺 2218
辰巳 4642
江戸川橋 2420
新木場 4945
4.1.3 時空間ネットワーク上での運転見合わせ表現手順
本項では,運転見合わせを表現した時空間ネットワークの構築手順について述べる.まず,
各運転見合わせ電車の待機駅の発ノードを運行再開時刻まで遅らせる.そして,
4.1.2
項で述 べた,鉄道運行に関する制約を満たすように構造を変化させた時空間ネットワークを,運転 見合わせを表現した時空間ネットワークとする.以上の手順をまとめると以下のようになる.
Step1
. 各運転見合わせ電車の待機駅の発ノードを運行再開時刻まで遅らせる.Step2
. 各駅において,連続して到着する電車の間隔を調べる.もし,間隔が120
秒未満だった場合,間隔を
120
秒になるように,後から到着する電車の到着時 刻(着ノード)を遅らせる.Step3
. 各駅において,連続して出発する電車の間隔を調べる.もし,間隔が120
秒未満だった場合,間隔を
120
秒になるように,後から出発する電車の出発時 刻(発ノード)を遅らせる.Step4
. 各電車において,連続した駅間の所要時間が同駅間の{
標準所要時間,時刻表での所要時間}
min
よりも短くなった場合,駅間を
{
標準所要時間,時刻表での所要時間}
min
で移動するように,次駅の到着時刻(着ノード)を遅らせ,停車時間が最短 でも時刻表どおりになるように出発時刻(発ノード)を遅らせる.
Step5
.Step2
からStep4
において,各駅における各電車いずれかの運行スケジュールが変更された場合,
Step2
へ戻る.そうでなければ,終了する.上記のアルゴリズムを用いて,運転見合わせが発生した際の電車の運行を表現した時空間 ネットワークを構築する.具体的な例を用いて説明する.
ここでは,運転見合わせ決定時刻が
7
時,運行再開時刻が7
時10
分の場合を例とする.図4.2
に示すような時空間ネットワークがあるとしたとき,以下の手順でネットワークの構造を 変化させて,運転見合わせを表現した時空間ネットワークを構築する.Step1
. 図4.2
のネットワークでは,運転見合わせ電車が電車1
で,その待機駅が駅A
となるので,電車1
の駅A
での発ノードを運行再開時刻まで遅らせる(図4.3
).Step2
. 変更なし.Step3
. 図4.3
において,A
駅で電車1
と電車2
の出発間隔が120
秒未満であるので,電車
2
のA
駅の発ノードを遅らせる.図4.4
において,赤いノードが変更さ れたノードであり,赤い時刻が変更された時刻である.Step4
. 各駅間の標準所要時間を表4.2
に示す.この表をもとに各電車の駅間所要時間と駅での停車時間を始発駅から調整していく.図
4.4
では,電車1
の駅B
への到着時刻が駅A
を出発する時刻より早くなってしまっている.また,表4.2
より,駅AB
間の標準所要時間は2
分なので,標準所要時間で駅間を移 動するように駅B
の着ノードを遅らせる.次に,駅B
での停車時間が時刻表B BC
Step5
.Step3
,4
において運行スケジュールが変更されたため,Step2
に戻る.Step2
. 変更なし.Step3
. 変更なし.Step4
. 変更なし.Step5
. 終了.図
4.2
時空間ネットワーク図
4.3
出発時刻の変更(Step1
)7:01
7:03 7:04
7:07 7:11
7:13 7:14
7:17 7:14
7:16 7:17
7:21
7:18
7:08 7:22
電車
1
電車2
電車3
駅
A
駅
B
駅
C
7:10
7:03 7:04
7:07 7:08 7:11
7:13 7:14
7:17
7:18 7:14
7:16
7:17
7:21
7:22
電車
1
電車2
電車3
駅
A
駅
B
駅
C
図
4.4
出発間隔の調整(Step3
) 表4.2
標準所要時間駅名 普通
A 0
B 2
C 5
・・・ ・・・
7:10
7:03 7:04
7:07 7:08 7:12
7:13
7:14
7:17 7:18 7:14
7:16
7:17
7:21 7:22
電車
1
電車2
電車3
駅
A
駅
B
駅
C
7:10
7:12 7:13
7:16 7:17 7:12
7:14
7:14 7:15
7:18 7:19 7:16
7:17
7:21
7:22
電車
1
電車2
電車3
駅
B
駅
C
4.2 輸送障害時の鉄道旅客移動モデル
ある路線において運転見合わせが決定すると,その路線を利用する旅客は,そのまま運行 再開まで待つか,迂回経路がある場合は迂回経路を利用して目的地へ向かうか判断を下す.
言い換えると,運転見合わせが決定した時点で目的駅への経路を再探索するといえる.そこ で,本節では,第
3
章で推定した旅客流動から運転見合わせ決定時刻以降のOD
交通需要を 求め,それを4.1
節で構築した運転見合わせを表現した時空間ネットワークに割り当てるこ とで運転見合わせ時の旅客流動を推定するモデルを構築する.まず,4.2.1
項で運転見合わせ 決定時刻以降のOD
交通需要の作成について述べる.そして,4.2.2
項で運転見合わせを表現 した時空間ネットワークへの交通需要配分方法について述べる.4.2.1 運転見合わせ決定時刻以降の OD 交通需要の作成
第
3
章で推定した旅客流動(以下,通常時の旅客流動と呼ぶ)から運転見合わせ決定時刻t 0
以降のOD
交通需要を求める.時空間ネットワーク上で鉄道旅客の行動を再現することで,「いつ」,「どこに」,「どれくらい」の鉄道旅客がいるのか分かる.また,各旅客の出発駅か ら目的駅までの利用経路が分かるので,ある時刻において,各鉄道利用者がそれぞれ何をし ているのか(以下,鉄道利用状況と呼ぶ)分かる.そこで,運転見合わせによって各旅客の 目的駅は変わらないと仮定して,時刻
t 0
における各旅客の鉄道利用状況から,各旅客の時刻t 0
にいる駅を割り出し,新たな出発駅とすることで時刻t 0
以降のOD
交通需要を作成する.な お,時刻t 0
に駅間を移動中の旅客は,次の停車駅への到着時刻を新たな出発時刻として,そ の停車駅を新たな出発駅とする.また,時刻t 0
より早く鉄道利用を終えている旅客は対象外 とする.そして,時刻t 0
に鉄道利用を開始していない旅客については,出発時刻,出発駅は センサスデータのものを使用する.具体的な例を以下に示す.図
4.6
において,出発駅を駅A
,目的駅を駅G
とする旅客a
が 駅A
で電車1
に乗車し,駅G
で降車する場合,橙色の線が旅客a
の利用経路である.ここで,旅客
a
は時刻t 0
において,駅E
にいるので,新たな出発駅を駅E
とする.また,図4.6
にお いて,駅A
を出発駅,駅F
を目的駅とする旅客b
の利用経路が青色の線の場合,時刻t 0
にお いて,旅客b
は駅AB
間を移動中なので,次の停車駅である駅B
を新たな出発駅とし,出発 時刻を駅B
への到着時刻する.図
4.6
通常時の鉄道利用状況の例4.2.2 運転見合わせを表現した時空間ネットワークへの交通量配分
4.1
節で構築した運転見合わせを表現した時空間ネットワークへ,4.2.1
項で作成した運転 見合わせ決定時刻t 0
以降のOD
交通需要を配分することで運転見合わせ時の旅客流動を推定 する.本項では,運転見合わせが起きた際のOD
交通需要の時空間ネットワークへの配分方 法について述べる.まず,運転見合わせ時の旅客流動を推定する際に以下の仮定をおく.
(
1
) 運転見合わせ決定時刻に全旅客は運行再開時刻を知る.(
2
) 鉄道旅客は出発駅から目的駅まで最も所要時間が短い経路を選択する.そして,運転見合わせを表現した時空間ネットワークと運転見合わせ時刻以降の
OD
交通 需要を用いて最短時間経路問題を解くことで,運転見合わせを表現した時空間ネットワーク 上での鉄道旅客の移動を求める.ただし,時刻t 0
以降のOD
交通需要からは出発駅と目的駅 が与えられるだけである.また,第3
章で述べたとおり,時空間ネットワークの電車リンク の容量に制限がある.したがって,出発時刻順に処理を行ったとしても,途中で乗り換えを駅
A
駅B
駅C
駅
D
駅E
駅
F
駅
G
旅客
a
の利用経路 電車1
電車2
電車3
運転見合わせ決定時刻 乗車
降車
乗車
降車 旅客
b
の利用経路停車ノード 待ちリンク 電車リンク
ークが与えられたとき,出発時刻順に処理を行なうと旅客
a
,旅客b
の順に処理を行なう.旅客
a
の目的駅への最短時間経路が,路線1
の駅A
から電車11
に乗り,駅C
で路線2
の電 車21
に乗り換え,駅I
へ向かう経路(図4.8
の橙色の線)であるとき,その経路に旅客a
を 割り当てる.一方,旅客b
の目的駅までの最短時間経路が,路線2
の駅G
から電車21
に乗 り,駅I
に向かう経路(図4.9
の橙色の線)であるとき,その経路に旅客b
を割り当てる.ここで,旅客
a
を割り当てた際,駅C’
を出発する電車21
が満員である場合,旅客b
は図4.7
の赤色のリンクを利用できないので,先に電車21
に乗車していたにもかかわらず,駅C’
で 降車し,次の電車を待って駅I
に向かう経路が最短時間経路になってしまう.表
4.3
OD
交通需要 旅客 出発時刻 出発駅 目的駅・・・ ・・・ ・・・ ・・・
a 9:00 駅 A 駅 I b 9:05 駅 G 駅 I
・・・ ・・・ ・・・ ・・・
図
4.7
時空間ネットワーク 電車11
電車
21
駅
A
駅B
駅
C
駅D
駅
E
駅
F
駅G
駅C’
駅
H
駅I
乗り換えリンク
路線
1
路線2
電車リンク 停車ノード