はじめに
腎交感神経焼灼術(renal denervation:RDN) は,治療抵抗性高血圧の患者に対する治療とし て,2009 年頃よりヨーロッパを中心に行われ た治験の結果が発表され,現在もヨーロッパ においては,臨床現場において行われている 治療である.これは,日本ではまだ未承認の治 療である.経皮的腎血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTRA)は,腎血管性 高血圧患者の腎動脈狭窄において経皮的カテー テルで,バルーンやステントを用いて狭窄を解 除する治療である.いずれも臨床的に有用であ ろうと考えられる一方で,両者とも共通するの が,大規模のrandomized control trialにおいて, コントロール群(降圧剤治療群)と比較して,Renal denervation(腎神経
焼灼術),PTRA(経皮的腎血管
形成術)の有効な症例のポイン
ト―SYMPLICITY HTN-3,
CORAL研究をふまえて―
要 旨 星出 聡 苅尾 七臣 腎交感神経焼灼術(renal denervation:RDN)と経皮的腎血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTRA)は高血圧治療のデバ イスを使った治療である.RDNについては,ヨーロッパを中心に盛んに 行われているが,薬物治療と比較した試験で有用性が示されなかったた め,現在,本邦での導入は進んでいない.PTRAも同様に,薬物治療と比 較し有用性が示された試験はないが,現在,臨床現場では行われている治 療である.重要なのは,両者とも適応をしっかり見極めることであり,究 極の個別療法である. 〔日内会誌 104:275~281,2015〕
Key words renal denervation,PTRA,治療抵抗性高血圧,個別療法
自治医科大学循環器内科
Hypertension : The Points of Management of Hypertension for All Physicians―Based on the JSH 2014 Hypertension Guidelines―. Topics : X. Patients eligible for renal denervation and PTRA―from the results of SYMPLICITY HTN-3 and CORAL trial.
Satoshi Hoshide and Kazuomi Kario:Division of Cardiovascular Medicine, Jichi Medical University School of Medicine, Japan.
Ⅹ. Renal denervation(腎神経焼灼術),PTRA(経皮的腎血管形成術)の 有効な症例のポイント―SYMPLICITY HTN-3,CORAL 研究をふまえて―
トピックス
各々の治療の有用性が証明されていないことで ある.そうなると,意味のない治療法になるの か.本項では,これらの状況を踏まえ,本治療 の適応,現状,今後の展望を解説する.
1.Renal denervation
1)治療抵抗性高血圧の定義 RDNの適応症例は治療抵抗性高血圧である. どんな治療でも,適応のない症例に行って効果 はない.治療抵抗性高血圧の定義は,利尿剤を 含む 3 剤以上の最大量の降圧剤を投与されてい るにも関わらず,外来血圧が 140/90 mmHg以 上,糖尿病もしくは慢性腎臓病を有するのであ れば 130/80 mmHg以上の症例を指す.利尿剤 の有無に関わらず,降圧剤が 4 剤以上投与され ており,前述の血圧値を満たす場合と定義され ることもある.加えて重要なのは,“真”の治療 抵抗性高血圧かどうかである.そのためには, 白衣効果を除外することは必須であり,診察室 外血圧の評価として 24 時間自由行動下血圧計 (Ambulatory Blood Pressure Monitoring:ABPM)を行う必要がある.ヨーロッパにおいては,RDN はすでに保険適応になっているため,最近の ヨーロッパ高血圧ガイドラインにおいては,ク ラスIのコンセンサスが得られているRDNの適 応 は,「 外 来 血 圧 SBP 160 mmHgま た はDBP 110 mmHgで,かつ,ABPMで血圧高値を示す治 療抵抗性高血圧については侵襲的な治療が考慮 される.」としている1). 2)降圧機序 1950年代においては,悪性高血圧などに対し て,胸腹部の交感神経節を手術的に切除する治 療が行われた時代もあった.実際に予後の改善 を認めたが,合併症の問題で普及することはな かった.したがって,交感神経亢進が高血圧を 規定する重要な因子であることは古くからの事 実であり,それが治療抵抗性高血圧であっても 同様である.特に,腎動脈周囲には交感神経求 心路,遠心路が螺旋を描くようにはり巡らされ ているとされている.腎に向かう交感神経系の 遠心路は,刺激を受けて亢進するとレニン分泌 が促進される.さらに,ナトリウム再吸収も促 進される.結果として,腎動脈が収縮し,腎血 流は低下し,フィードバックとして血圧が上昇 する.反対に,腎から中枢に向かう求心性交感 神経系は,高血圧に伴う腎実質への障害や虚血 により刺激され,中枢性の交感神経系が活性化 される.この中枢の交感神経活性は腎臓だけで なく,心臓や全身の血管の交感神経も活性化さ せる.この交感神経の経路を焼却する手技が RDNである(図 1). 図1 腎交感神経デナベーション 上図のように,大腿動脈からアプローチし,カテー テルを腎動脈へ誘導. 下図のように,回転させながら,局所的にアブレー ションを行っていく. 腎動脈 アブレーション 大動脈 腎臓
3) Symplicity HTN1 and HTN2,そしてSymplicity HTN3 Symplicity1 は,RDNの安全性を確かめるため に,オーストリアを中心としたヨーロッパ諸国 で行われた臨床研究である2).この結果の発表 後,RDNが世界的に広まり,医療機器メーカー も開発を始めた.対象者は,利尿薬を含む 3 種 類以上の降圧薬を服用しており(平均4.7種類), 外来収縮期血圧(SBP)が160 mmHg以上でeGFR が45 ml/分/1.73 m2の50人が登録され,最終的 にRDNが施行されたのは45人であった.手技の 仕方であるが,本研究はRDNの安全性を確かめ ることが主要評価項目であったため,最初の10 人は片側の腎動脈のRDNをまず行って,1 カ月 後に反対側の腎動脈のRDNを施行した.そして, さらに 2 週間後に再度腎動脈造影を行い,合併 症がないかを確認した.8人は片側のRDN施行1 カ月後に両側のRDNを施行し,残りの27名は最 初のRDN施行時に両側を同時に行った.最長 1 年間のフォローアップがなされたが,図 2のよ うに,外来SBPに関してはRDNによって著明に 低下した.10 mmHg未満しか下がらなかった群 をnon-responderとすると,45 人中 6 人の 13% であった.その後,本試験でRDNが行われた患 者を含めた 153 人について,RDN施行後 2 年が 経過した後も,合併症は確認されておらず,外 来SBPについても降圧の維持が確認されてい る3).さらに153人のうちの88人の3年後のフォ ロー後の血圧低下はSBP 10 mmHg以上低下し 図2 RDNによる外来血圧の変化(文献2より) ■ 収縮期血圧 ■拡張期血圧 血圧の変化 (mmHg) 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 -14-10 -21-10 -22-11 -24-11 -27-17 1 カ月 (n=41) (n=39)3 カ月 (n=26)6 カ月 (n=20)9 カ月 12 カ月(n=9)
ていたのは 93%であった4). Symplicity2においては,それまでの降圧薬に よる治療を継続するコントロール群とRDN治療 群の 2 群での降圧度の比較試験が行われ,RDN 治療群がコントロール群と比較して有意に外来 SBPの低下を認めた5)(図3).このSymplicity1と 2 の結果より,RDNはこれまで降圧を諦めてい た治療抵抗性高血圧の治療に新風を吹き込ん だ.そして,このころ,Symplicity2 に準じた臨 床試験が日本でも開始され,カテーテルなどの デバイスを扱う各メーカーもRDNの機器の開発 を行うようになった.一方で,本当にRDNは効 いているのかという懸念は払拭されず,すなわ ち,カテーテルまで行う侵襲的な治療を行え ば,それだけ高血圧を意識し,生活習慣の改善 や薬剤のコンプライアンスも上がり,その結 果,血圧が下がったのではないかということも 考えられた.したがって,コントロール群を sham renal denervationとする,すなわちカテー テルの手技は行うが,実際には焼灼は行わない 群とrenal denervation群の降圧効果を比較する Symplicity HTN-3 が行われ,その結果が発表さ れ た.Simplicity1 と 2 の 結 果 か ら, 誰 し も が Symplicity HTN-3 においてもRDNの有用性が示 されると期待していた.しかしながら,結果は, 予想に反して,主要評価項目の外来SBPの低下 度はSham群とRDN群で差がないというもので あった(図 4)6).この結果に関しては,差がな かった理由として様々な議論が本試験発表後に なされている.まず,スクリーニングの期間が 短く,降圧薬の増量をされてすぐに本試験に登 録された結果,降圧薬の効果が出てしまうよう な症例,本当は治療抵抗性高血圧ではない症例 が多数いた可能性,また,本試験は米国を中心 に行われたが,症例登録を急いだため,施設を 増やしすぎ,RDNの手技症例が施設ごとには少 なくなってしまい,術者のlearning curveがピー クになることがなく,試験が終了してしまった ことなどが挙げられた.いずれにしても,Sym-plicity HTN-3 の結果がこの領域に及ぼした影響 は大きく,日本で行われていた治験はいまだ中 断のままであり(2014 年 10 月現在,正式な中 止の勧告はされていない),計画されていた新た な治験も中断し,開発をしていたデバイスメー カーの中には開発を中止したところも多数あ る. 図3 Renal denervationによる外来血圧の変化(文献5より) ■腎デナーベーション群 ■ コントロール群 収縮期血圧 低下なし 10 mmHg 以上低下収縮期血圧 140 mmHg 未満の割合6 か月時の収縮期血圧 P<0.0001 Patients(%) 100 80 60 40 20 0 P<0.0001 P<0.0001 (n=19.39%) (n=18.35%) (n=41.84%) (n=24.47%) (n=5.10%) (n=3.6%)
2.PTRA
1)腎動脈狭窄を疑ったら 本項の趣旨ではないので詳細は省くが,腎動 脈狭窄が疑われる場合にスクリーニングとして 何を行うべきかについて述べておく.教科書的 には,機能検査としてレニン活性の測定,カプ トリル負荷試験,カプトリル負荷レノグラムな どが挙げられているが,そのどれもがあくまで 機能検査であり,スクリーニングとしてはふさ わしくない.レニン活性が低くても,腎動脈狭 窄を有する症例は多々あり,それではレニン活 性が高ければPTRAに奏功するかというとそう いうわけでもない.カプトリル負荷レノグラム は,腎障害がある場合はまず診断はできない. 最初に行うのは画像診断であり,腎動脈超音波 検査が第一選択である.しかしながら,観察が 不十分になる場合もあるため,積極的に腎動脈 狭窄を疑うのであれば,3DCTかカテーテルによ る腎動脈造影を行うべきである. 2)PTRAの大規模臨床試験 腎血管性高血圧は,若年者の高血圧の原因と して知られている線維筋性異形成(fibromuscu-lar dysplasia:FMD)と動脈硬化性によるものの 2 つの原因からなる腎動脈狭窄に生じる.FMD の治療に関しては,バルーン拡張術による狭窄 解除が基本とされており,それにより降圧を得 ることができる.再狭窄をくり返す場合もあ り,ステント留置が必要な症例もある.一方で, 動脈硬化性に生じる腎動脈狭窄に対するPTRA については,薬物療法と比較して有用性が大規 模臨床試験にて証明されていない.ASTRAL(The Angioplasty and Stenting for Renal Artery Lesions)研究においては,806 人の腎動脈狭窄 図4 Symplicity HTN-3におけるRenal denervation群とシャム・カテーテル群の血圧変化度(文献6より)一次エンドポイント 二次エンドポイント 外来収縮期血圧(mmHg) 腎デナベーション群 (N=364)(N=353) (N=171)(N=171) (N=360)(N=329) (N=167)(N=162) 腎デナベーション群 シャム・カテーテル群 シャム・カテーテル群 24 時間平均収縮期血圧(mmHg) ベースラインからの変化 -14.13±23.93 mmHg P<0.001 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 ベースラインからの変化 -11.74±25.94 mmHg P<0.001 ベースラインからの変化 -6.75±15.11 mmHg P<0.001 ベースラインからの変化 -4.79±17.25 mmHg P<0.001 変化の差-2.39 mmHg(95%CI, -6.89 to 2.12) P=0.26 変化の差-1.96 mmHg(95%CI, -4.97 to 1.06)P=0.98
を有する症例が薬物療法とPTRA群に無作為化 されたが,主要評価項目の腎機能,副次評価項 目の血圧レベル,腎・心血管イベントに差を認 めなかった7).しかし,この試験にもいくつか 問題があり,主要評価項目がハードエンドポイ ントでないことや,最も重要である腎動脈の狭 窄の評価が曖昧な部分があった.これらの問題 に答えるべく行われたのがCORALL(The Cardio-vascular Outcomes in Renal Atherosclerotic
Lesion)試験である8).対象とされた症例は,動 脈硬化性腎動脈狭窄(造影で 80%以上の狭窄, ま た は 60~80% の 狭 窄 で 圧 較 差 20 mmHg以 上),かつ2剤以上の降圧薬を服用し,収縮期血 圧 155 mmHg以上, または慢性腎臓病(eGFR 60 ml/分/1.73 m2未満)で前述した腎動脈狭窄 の基準は有するが,血圧は基準を満たさなくて もよい症例を,PTRA群467名と薬物治療群480 名に無作為割付された.一方で,難治性高血圧, 3 カ月以内の心不全発症,腎機能障害(血清ク レアチニン 3.0 mg/dl以上)の症例は除外され た.ASTRAL試験で問題にされた腎動脈狭窄の評 価は,中央事務局で全例画像の評価がなされ, 狭窄の診断がなされた.主要評価項目は心血 管・腎イベントであった.しかしながら,結果 はやはり両群で差を認めなかった(図 5). 3)PTRAの適応 前述したように,PTRAは臨床試験においては 薬物療法と比較し,有用性は示されてはいな い.それでは,臨床の場でPTRAの治療がなくな るかというと,それは“No”である.腎動脈狭 窄を有する治療抵抗性高血圧症例にPTRAを行 い,血圧コントロールが得られた症例や,急激 に腎機能が悪化した症例に対して腎動脈を評価 したところ,狭窄が見つかり,PTRAを行ったと ころ,腎障害の進行が抑えられた症例もある. あるいは,急性心不全をくり返す症例に対して 腎動脈を評価したところ,狭窄が見つかり,治 療を行ったところ,心不全の再発はなくなった など,しばしば経験するところである.すなわ ち,前述の両試験においては,我々が通常診療 でPTRAの適応となる症例が除かれているわけ 図5 腎動脈狭窄に対するステント治療+薬物療法群と薬物療法単独群での主 要エンドポイントのKaplan-Meier曲線(文献8より) 追跡期間(年) 0 1 2 3 4 5 472 371 314 214 115 40 459 362 318 224 131 59 ステント治療+薬物療法群 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 薬物療法単独群 薬物療法単独群 フォロー人数 ステント治療 +薬物療法群 イ ベ ン トフリ ー ( % ) ステント治療+薬物療法群の薬物療法単独群に対するハザード比 0.94(95%CI, 0.76-1.17)
である.したがって,PTRAの大規模臨床試験か らは,PTRAの適応外の症例はどういった症例か ということを学ぶことができる.すなわち,本 当に治療抵抗性高血圧ではない症例には適応が ない,降圧薬で血圧コントロールが可能であれ ば腎動脈狭窄があってもPTRAを行う必要はな い,言い換えれば,血圧のコントロールや腎機 能の障害がなければ,むやみに腎動脈狭窄のス クリーニングを行う必要はないのである.表に PTRAが推奨される症例を記す.
3.RDNとPTRAに共通すること
これまで述べてきたようにRDNとPTRAに共 通することは,大規模臨床試験において,コン トロール群(薬物療法)と比べて有用性が示さ れていないことである.RDNについては,治療 に対するresponderの詳細は不明な点がまだ多 いが,PTRAについてはresponderは明らかに存 在する.ここから言えることは,まず両者とも 適応症例かどうかを厳密に評価することであ る.これは,インターベンションを専門とする 循環器医だけでは限界があり,高血圧専門医や 腎臓専門医による評価が必要である.したがっ て,本症例の適応があるかどうかの判断は専門 医によって判断されるべきである.加えて,大 規模臨床試験の結果をそのまま鵜呑みにできな い.この 2 つの治療法では,均一化された大規 模な集団での評価は不可能であり,個々の症例 に応じた対応をしなければならない究極の個別 療法である. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:星出 聡;寄付 講座(帝人) 表 PTRAが推奨される症例(腎動脈狭窄がある場合) ・治療抵抗性高血圧 ・経過観察中に,急に血圧コントロールが不良になった高血圧 ・経過観察中に,急に腎機能が悪化した症例 ・ACE阻害薬やARBの投与で腎機能が悪化する症例 ・くり返す心不全を有する症例 文 献1) Mancia G, et al : 2013 ESH/ESC Guidelines for the management of arterial hypertension : the Task Force for the management of arterial hypertension of the European Society of Hypertension(ESH) and of the European Society of Cardiology(ESC).J Hypertens 31 : 1281―1357, 2013.
2) Krum H, et al : Catheter-based renal sympathetic denervation for resistant hypertension : a multicentre safety and proof-of-principle cohort study. Lancet 373 : 1275―1281, 2009.
3) Symplicity HTN-1 Investigators : Catheter-based renal sympathetic denervation for resistant hypertension : dura-bility of blood pressure reduction out to 24 months. Hypertension 57 : 911―917, 2011.
4) Krum H, et al : Percutaneous renal denervation in patients with treatment-resistant hypertension : final 3-year report of the Symplicity HTN-1 study. Lancet 383 : 622―629, 2014.
5) Symplicity HTN-2 Investigators : Renal sympathetic denervation in patients with treatment-resistant hyperten-sion(The Symplicity HTN-2 Trial): a randomised controlled trial. Lancet 376 : 1903―1909, 2010.
6) Bhatt DL, et al : A controlled trial of renal denervation for resistant hypertension. N Engl J Med 370 : 1393― 1401, 2014.
7) ASTRAL Investigators : Revascularization versus medical therapy for renal-artery stenosis. N Engl J Med 361 : 1953―1962, 2009.
8) Cooper CJ, et al : Stenting and medical therapy for atherosclerotic renal-artery stenosis. N Engl J Med 370 : 13― 22, 2014.