博 士 ( 工 学 ) 浅 野 和 浩
学 位 論 文 題 名
有限要素法による弾性接触解析のー手法とその応用 学位論文内容の要旨
機械構造物においては ,2個あるいはそれ以上の弾 性体問で接触しカを及ばしあって構造をなして いる部分が数多く存在 する.このような接触部分では摩擦のあるすべりを伴いながら接触をしてい る部分も少なくない.したがって,接触をしてカを受け渡している以上,これらの応力分布を明らか にしておくことは機械 構造物を設計する上では有用なことである.このため摩擦接触問題を含んだ 不連続体の挙動を解明することは,古くから固体力学における重要な問題のーっとして認識され,有 限要素法による弾性接触解析に関しては従来より多くの研究が行われている.特に,コンピュータの 発達によって数値計算 力学の分野においてさまざまな手法の研究が多くの研究者によって積極的に 続けられている,
接触問題に有限要素 法を適用し解析する手法としては,接触物体問の接触表面に接触条件によっ て定まる要素特性を有 する体積のない仮想的な接触要素を導入し,接触領域に幾何学的な拘束条件 とカのっりあい条件を 付加する手法が一般的である.この幾何学的な拘束条件を全体剛性方程式に 導入するために,Lagrange未定乗数法やpenalty法が用いられている,通常,有限要素法解析では,被 接触面要素への接触点 の射影によって接触面間の幾何学的関係を定義しているが,接触面の法線方 向変位とすべり変位は連成しておらず,接触面での食い込みが生じる可能性がある.本論文ではその 原因となる変位のずれ を極力抑えることを目的として,接触面と同一面上にある無限遠方の仮想点 を想定し,その点を基準にすることにより,接触面における法線方向変位とすべり変位を練成させる 幾何学的関係を定める接触解析の新たな手法を提案する,
一方,弾性体同士が接触し,すべる時には接触面で摩擦カが作用するが,弾性体聞の相対的なすべ り速度が一定のときに ニっの弾性体の一方あるいは両方に超音波振動を加えることにより,摩擦抵 抗が約80%低減すること が知られている.超音波振 動による摩擦低減現象は,金属の塑性加工を行 う際に,超音波領域の周期的振動を加えることによって,超音波振動の持つ性質を塑性加工に利用し ようとするものであり,この現象は超音波振動の効果のーっである,塑性加工における超音波振動の その他の効果としては,超音波振動応カの重畳によるBlaha効果と言われる塑性変形能の向上,高速 繰り返し衝撃荷重を加 えることによる平均加工カの向上が挙げられる.これらの効果については従 来よりさまざまな研究 が行われているが,摩擦面の温度に関わる接触界面におけるすべり損失に関 する議論はあまりなされていないようである.
以上のような背景か ら,本研究では,具体例としてニ平板による弾性円柱の圧縮と弾性角柱の圧 縮,ならびに弾性平板の圧縮速度を変えることによる動的圧縮解析を行い,Hertzの接触論とスタン プ圧縮の解ならびに汎 用有限要素プログラムANSYS(北海道大学情報基盤センタ ー)による解析結 果との比較において,応力分布や変位ならびに圧縮カの本手法と他の解の差異を示し,本手法の妥当 性を検討する.また,本手法の応用例として,超音波加振による摩擦低減現象の有限要素解析を行い,
すべり速度と等価動摩 擦係数との関係や応カならびにすぺり損失と理論解との比較から,理論解と の 差 異 を 示 す と と も に 超 音 波 振 動 を 加 え た す べ り 現 象 の 挙 動 を 明 ら か に す る .
本論文は以下のように全6章により構成されている,
第1章では,本論文の総括的な序論として,研究の背景について概説するとともに,解析手法なら
‑ 63
―びにその応用例に関する本研究の意義を明確にした.
第2章では,微小変形 理論における平衡方程式やひずみの説明と本研究で用いた有限要素法の説 明を明記した.なお, 本研究では動的応答解析を行う際の時間差分法としてNewmark‑p法で定式化 した.
第3章は,接触問題に 有限要素法を適用し解析する手法としてのその解法の説明であり,有限要 素法への適用の説明を 併記し,接触に関わる幾何学的条件とカ学的条件の導出の説明を明記した.
第4章では,本手法の 妥当性を検討するため,二平板による静的およぴ動的圧縮解析結果を示し た,応力分布や変位ならぴに圧縮カの他の解法や理論解との比較から妥当性を示した,なお,比較を 行う際の解法はpenalty法を用いた.
第5章では,木手法の応用例として,超音波加振による摩擦低減現象の有限要素解析結果を示し,
すべり速度と等価動摩 擦係数との関係や応力,ひずみエネルギーならびにすべり損失により発生す る熱量から接触面での 挙動を調べ,摩擦低減現象におけるすべり損失の定量的な評価を行った.具 体例として,弾性角柱を弾性板に押し付け圧縮し,一定速度ですべらせ,弾性板を超音波振動させた.
ま た , す ぺ り 損 失 の 定 量 的 な 評 価 を 行 う た め に 熱 量 の 理 論 解 の 導 出 を 示 し た .
第6章では,本研究で 得られた結果を総括すると ともに,今後の展望や課題に ついてまとめて いる,
― 64―
学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 教 授 教 授 助 教 授
佐 々 木 小 林 成 田 加 藤
学 位 論 文 題 名
一彰 幸徳 吉弘 博之
有限要 素法に よる弾性 接触解析のー手法とその応用
構造物が一体成型構造ではなく組合せ構造である限り,多かれ少なかれ部材間に接触が生じ,摩 擦・磨耗損傷や漏洩などの原因となる,そのため,弾性接触解析が非常に重要であり,現在までに多 くの研究が行われている.特に,近年の計算機の発達に伴う高速化や大容量化によって,パソコン レベルでの数値構造解析も十分可能となり,有限要素法や境界要素法により多くの問題が解かれて いる.
弾性接触問題を数値的に解析しようとするとき,材料定数や構成式の選択により多くの自由度を 持つ有限要素法によることが多い.計算にあたっては,複数の解析領域の問に存在するカ学的条件と 幾何学的条件を同時に満たすように解析が行われる.この条件を満足させるため,有限要素法では,2 物体 の 接触問 題を2つ の異な る物体 として 扱う場 合と1つ の物体と して扱 う場合 の2通り の手法 がある.2つの異なる物体として扱う手法は,接触する両者の面に,互いにカ学的条件を満たす,接触 カに相当する荷重を与え,両者の変位の接触条件を満足させる手法である.力学的条件と幾何学的条 件とを直接同時に満足させるため,高い精度での解析が可能であるが,長時間の収束計算を必要とす るため,計算効率の面から現在はあまり用いられていない.
1つの物 体とし て扱う 手法はさらに2種類に大別される.接触面に接合要素を導入する手法およ び特殊な接触要素を導入する手法の2種類である.前者はギャップ要素あるいはジョイント要素と 呼ぱれる特殊な接合要素を導入する手法,後者は,接触条件によって定まる要素特性を有するバネ要 素などの接触要素を用い,幾何学的な拘束条件とカ学条件を付加する手法である.両者ともに一長一 短があり,現在は後者の代表的な手法であるpenalty法やLagrange未定乗数法が用いられることが 多いが,いずれも特殊な接合要素やバネ要素の特性をどのように与えるかによって解の精度が大き く 左 右 さ れ , 場 合 に よ っ て は , 物 体 間 で の 食 い 込 み を 生 じ る こ と も あ る . 本論文では,従来の概念とは異なり,節点問の距離に比べ十分遠方に接触点と異たる仮想の点を想 定し,接触面での変位の接触条件とカ学条件を同時に満たすように剛性方程式を組み替えることに より解析を行う新たな一手法を提案している.本手法は,(1)接触面での特殊な要素を必要としない ため食い込みの少ない精度の良い接触解析が可能,(2)剛性方程式を直接組み替えて解析を行うため 収束計算が不要,(3)すべりを伴う接触面変位成分の連成が可能,という長所を有する,提案した手法 の妥当性を検証するため,平板による円柱・角柱の圧縮解析を行い,Hertzの理論解やpenalty法によ る結果と比較することにより,本手法の妥当性・有意性と弾性接触を伴う静的およぴ動的な圧縮に 対する適用性を明らかにしている,さらに,摩擦を伴う接触の場合,物体に超音波加振することによ り摩擦カの低減することが良く知られているが,本手法の応用例として,さほど解析の行われていな い摩擦低減現象を取り上げている.この中で,すべり速度と等価動摩擦係数との関係や,応力,ひず みエネルギー密度およびすべり損失により発生する熱量を求めて接触面での挙動を検討し,超音波
― 65―
加振による摩擦低減現象の定性的・定量的な評価を行うなど,新たな知見を得ている.
本論文は以下のように全6章で構成されている.
第1章は緒言であり,研究の背景について概説するとともに,解析手法ならびにその応用例に関 する本研究の意義を明らかにしている.
第2章では,微小変形理論における平衡方程式やひずみの説明と本研究で用いた有限要素法の基 礎理論について述ぺている.また,動的応答解析を行う際の時間差分法として用いるNewmark‐日法 について簡単に説明している.
第3章では,有限要素法を用いた接触問題解析の新たな手法について詳しく述べており,接触に 関わる幾何学的条件およびカ学条件について述べ,剛性方程式の組み換えについて説明している.
第4章では,二平板による円柱およぴ角柱の静的・動的圧縮解析を行っている.得られた結果を Her吃の 接触理 論およ びpenむぢ 法によ る結果 と比較 して本 手法の 妥当性について述ぺている,
第5章では,超音波加振による摩擦低減現象の解析を行っている,すぺり速度と等価動摩擦係数 との関係や,応力,ひずみエネルギーおよびすべり損失により発生する熱量を求めて接触面での挙動 を検討し,定量的な評価を行い,本手法の応用について述べている,
第6章は結言であり,本研究で得られた結果を要約し,今後の展望や課題にっいてまとめている,
これを要するに,著者は,有限要素法による弾性接触解析における新たな一手法を提案し,その妥 当性と適用性を検証し,新たな知見を得るなど,機械工学および材料力学,特に有限要素法による弾 性接触解析の発展に貢献するところ大なるものがある.よって著者は北海道大学博士(工学)の学位 を授与される資格あるものと認める.
‑ 66―