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原発性抗リン脂質抗体症候群に合併した若年者急性冠症候群の1例

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Academic year: 2021

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症例報告

原発性抗リン脂質抗体症候群に合併した

若年者急性冠症候群の

1 例

押切みすず1)、田中光昭1)、尾形剛1)、藤田央1)、山口展寛1)、尾上紀子1)、石塚豪1)、篠崎毅1) 1) 国立病院機構仙台医療センター 循環器内科 ≪抄録≫ 症例は33 歳男性。冠危険因子は高血圧症と高脂血症。30 歳時に腎生検で血栓性微小血管障害を認め、抗 リン脂質抗体症候群と診断されていたが無治療であった。胸痛を主訴に前医を受診し、心電図で V1~V6、 Ⅰ、aVL で ST 上昇が認められたため当院に救急搬送された。来院時、胸痛は軽減し、ST は基線に復して いた。緊急冠動脈造影検査では、左前下行枝近位部に 90%の狭窄を認め、引き続き冠動脈形成術を施行し た。血栓吸引では何も吸引されず、血管内超音波では全周性の高輝度プラークが認められたため、同部位に ステントを留置した。今回、抗リン脂質抗体症候群に急性冠症候群を合併した症例を経験したので報告する。 キーワード:原発性抗リン脂質抗体症候群、急性冠症候群、若年者、血管内超音波 (2013 年 3 月 21 日受領、6 月 17 日採用) 1 緒言 抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid syn-drome; APS)はカルジオリピンなどのリン脂質に 対する自己抗体を生じ、その結果、血栓症などの症 状を引き起こす疾患である。動静脈血栓症や習慣流 産など、多彩な臨床症状を示すが、急性心筋梗塞の 合併は3~6%と比較的少ないと言われている1)。今 回我々は、APS に合併した若年者急性冠症候群の 急性期に血管内超音波(IVUS)を施行し、病変の 組織性状を観察できた症例を経験したので報告す る。 2 症例 患者:33 歳、男性 主訴:胸痛 既往歴 20 歳時、検診で蛋白尿と高血圧を指摘されたが 放置。30 歳時、腎生検で血栓性微小血管障害を認 め、血清学的所見と合わせて APS と診断されたが 通院せず。 冠危険因子 高血圧症、脂質異常症あり。喫煙歴なし。心疾患 の家族歴なし。 現病歴 2012 年 7 月の早朝、徒歩で出勤中初めて 15 分間 の胸痛を自覚したが、安静にて改善した。その後も 軽労作で胸痛を認めたが、安静にて改善したため様

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子をみていた。翌日、近医受診時に胸痛が出現し、 胸痛時の心電図でV1~V6、Ⅰ、aVL で ST 上昇を 認め、急性心筋梗塞が疑われたため、ニトログリセ リン舌下後に、当院へ救急搬送された。 入院時現症 身 長 176cm 、 体 重 90kg 、 BMI 29 、 血 圧 178/116mmHg。心雑音なく、Ⅲ音、Ⅳ音は聴取され なかった。肺ラ音もなく、その他特記すべき所見は 認められなかった。 表1 来院字血液検査所見 入院時検査所見 血液検査(表1)では、白血球数や心筋逸脱酵素 の上昇を認めなかったが、血小板数の減少とAPTT の延長を認めた。またLDH と中性脂肪が軽度上昇 していた。ループスアンチコアグラント・抗カルジ オリピン抗体は陽性で、抗核抗体・抗Sm 抗体は陰 性だった。 胸部単純X 線写真(図 1)では心胸郭比 53%で軽 度の心拡大を認めたが肺うっ血はみられなかった。 来院時、胸痛はほとんど消失していた。 心電図(図 2)では、心拍数 57/分で胸部誘導で のST 上昇は基線に復しており、V2~V5 で二相性 T 波を認めた。 心臓超音波検査では、心尖部の壁運動が低下して いたが、弁膜症はみられなかった。 図1 退院時胸部X 線写真 図2 来院時12 誘導心電図 入院後経過 来院時、胸痛は改善していたが、APS による血 栓症の関与を強く疑ったため、緊急冠動脈造影検査 を施行した。右冠動脈には有意狭窄を認めなかった が、左前下行枝近位部に90%狭窄を認めた(図 3 A)。 図3 冠動脈造影検査

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引き続き、冠動脈形成術を行った。まず、血栓吸引 を 試 み た が 何 も 吸 引 さ れ ず 、 続 い て 、IVUS (ViewItTM、テルモ社製)を行った。対角枝付近 (図4 の⑤)ではプラークを認めず正常な血管だっ たが、その近位部(図4 の④)よりプラークが出現 し、病変部(図4 の③)では高輝度プラークが大半 を占めていた。病変近位部(図4 の②)ではプラー クは減少するが、左前下行枝入口部(図4 の①)で は40%弱のプラークを認めた。 図4 血管内超音波検査所見

Integrated backscatter IVUS (IB-IVUS)による 組織性状(図5)では、病変部は緑色の線維成分と 青色の脂肪成分が同程度に認められた。 図5 病変部のIB-IVUS 所見 若年者によるdrug-eluting stent(DES)の長期安 全性に関して不明な点が多く、また、病変部がfocal だったため、ベアメタルステントでも良好な結果が 期待できるということから、IVUS 後、4mm のベ アメタルステント留置した。その後、4.5mm のバ ルーンで後拡張を追加し終了した(図3 B)。 Max CPK は 336 mU/ml だった。頸動脈エコー ではプラークを認めず、足関節上腕血圧比は正常範 囲内であり、他部位の動脈硬化性病変の存在は否定 的だった。 血栓症による発症ではなかったためワルファリ ンを投与せず、アスピリンとシロスタゾールの抗血 小板剤を投与した。7 ヶ月後のフォローアップの冠 動脈造影検査では、ステントに再狭窄を認めず、新 規病変もみられなかった。現在、APS に関しては 近医膠原病科でフォローされており、ワルファリン が導入されている。 3 考察 宮城県心筋梗塞対策協議会の報告によると、宮城 県内の急性心筋梗塞罹患率は最近10 年間、10 万人 当たり30 人/年前後で推移しており、大きな変化は ないが、45 歳以下の若年者に限ると増加傾向にあ る2) 3)。高齢者と同様若年者においても、動脈硬化 性病変を認めることが多いが、若年者冠動脈疾患の 約20%に膠原病、自己免疫疾患および薬物などの非 動脈硬化性病変が関与していると言われている 4) APS は動静脈血栓症を引き起こす自己免疫疾患で あり、若年者血栓症では鑑別すべき疾患である。 以前より若年者急性心筋梗塞の危険因子として、喫 煙、男性、肥満、家族歴の頻度が高いことが報告さ れている4, 5, 6)。また、茶谷らの報告では、40 歳以 下の若年者急性心筋梗塞患者は、60 歳以上の非若 年者と比べて、男性、喫煙および高脂血症が多く、 左前下行枝および 1 枝病変が多かったと指摘して いる7)。本症例では、男性、脂質異常症、肥満、左 前下行枝の1 枝病変を認め、これらは若年者急性心 筋梗塞患者の特徴と合致しているが、多くの報告で 高率に認められる喫煙はみられなかった。 APS の分類基準 8)には臨床基準と検査基準が示 されており、少なくとも1 項目ずつ存在すれば APS と診断される。本症例では、腎生検による血栓症を 認め(臨床基準)、ループスアンチコアグラントと

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抗カルジオリピン抗体が 12 週間以上の間隔をおい て2 回検出されたため(検査基準)、APS と診断さ れた。APS は大きく 3 つに分類され、膠原病など の基礎疾患を認めない原発性 APS、SLE を代表と する膠原病に合併する続発性 APS、および広範囲 に多発する血栓症により多臓器不全をきたす劇症 型APS の 3 型がある9)。本症例では、血液検査所 見や臨床症状から合併疾患は否定され、原発性APS と診断した。APS の主な臨床症状として、動静脈 血栓症による症状、血小板減少、胎盤梗塞による胎 盤機能不全が原因の習慣流産・子宮内胎児死亡があ る。動静脈血栓症は多くの臓器に起こり、繰り返し 再発するのが特徴である 10)。APS の臨床症状のう ち、脳梗塞、一過性脳虚血発作などの脳血管障害が 多く、虚血性心疾患は比較的稀とされている。 40 歳未満の若年者原発性 APS に、急性冠症候群 を発症した症例は多数報告されており、その多くは 血栓症が原因である1, 12, 13)。しかしながら、急性期 にIVUS を施行し血栓性病変を確認した症例は、調 べた限りでは 1 例 13)のみだった。それに対して、 本症例と同様に動脈硬化性プラークを観察した報 告は2 例14, 15)あった。 本症例では、当初血栓症の関与を強く疑ったが、血 栓吸引では何も吸引されず、急性期のIVUS 所見で は高輝度プラークが認められた。さらに IB-IVUS を用いてプラークの組織性状を解析すると、線維成 分が 50%、脂質成分が 48%を占めるプラークであ った。急性冠症候群と安定狭心症のプラーク組織性 状をIB-IVUS を用いて検討した報告16)では、安定 狭心症に比し急性冠症候群の方が、線維成分が低く (59% vs. 63%)、脂質成分が高い(38% vs. 30%) 結果であり、脂質成分の割合が高い本症例は、一般 的な急性冠症候群に合致する所見だった。若年者原 発性 APS に合併した急性冠症候群の責任病変の組 織性状を調べた報告は、我々の検索した限りでは見 当たらず、本症例が初めてである。 動脈硬化の開始と進展には、血管内皮細胞の傷害、 酸化変性などの修飾を受けた低比重リポ蛋白(酸化 LDL)のマクロファージによる取り込み、単球の接 着因子の発現、泡沫細胞の蓄積、平滑筋細胞の増殖 が関与している17)。近年、抗リン脂質抗体がこの動 脈硬化の発症機構に関与していると言われており、 抗リン脂質抗体と血清リポプロテインとの相互作 用により、酸化LDL が活性化され、酸化 LDL 濃度 が上昇するという報告18)や、β2-グリコプロテイン Ⅰを標的抗原とする抗リン脂質抗体が、細胞表面レ セプターを介して単球表面組織因子の発現を増幅 させることにより、動脈硬化の惹起を確認した報告 19)、などがある。臨床面では、渡辺らが、冠危険因 子は1 日 2 本(3 年間)の喫煙のみで、抗カルジオ リピン抗体陽性若年者(23 歳、男性)の冠動脈プ ラークを報告しており15)、抗リン脂質抗体がプラー ク形成に関わっている可能性が強く示唆される。 4 結語 原発性 APS に合併した若年者の急性冠症候群を 経験した。APS の中には、動脈硬化を引き起こし やすい患者が存在する可能性があるため、早期から の冠危険因子の管理が重要だと考えられた。 5 文献

1) Cervera R, Piette JC, Font J, et.al. An-tiphospholipid syndrome. Arthritis Rheum. 2002;46:1019-1027

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5) Hoit BD, Gilpin EA, Henning H, et.al. Myo-cardial infarction in young patients: an

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analysis by age subsets. Circulation 1986;74:712-721 6) 宮本昌一、後藤葉一、角田等、他:若年男性急 性心筋梗塞患者における発症時労作レベル冠危 険因子.J Cardiol. 2000;36:75-83 7) 茶谷健一、村松俊哉、塚原玲子、他:若年者急 性心筋梗塞患者の患者、病変背景および長期経 過 ( 血 管 内 超 音 波 を 用 い て ) 心 臓 2008; 40:518-524

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参照

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