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立教大学現代心理学部付属心理芸術人文学研究所

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立教大学現代心理学部付属 心理芸術人文学研究所

「新しい映像環境をめぐる映像生態学研究の

基盤形成」

(平成 23 年度~27 年度)

2012 年度(平成 24 年度) 研究成果報告書

文部科学省

私立大学戦略的

研究基盤形成支援事業

研究プロジェクト

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映像生態学プロジェクト

2012(平成 24)年度 研究報告書

目次

チーム1:新しい映像環境がもたらす心理的影響の評価 研究進捗状況報告書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1)4K、及び3D映像の撮影とその処理プロセスの実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2)室内照明環境が2D/3D 映像鑑賞の臨場感および疲労に及ぼす影響 ・・・・・・・・8 3)1.異なる空間的解像度の映像観視時における主観的臨場感と眼球運動特性の検証 ・39 2.丁寧さとは何か: 美容コンサルタントによる手渡し行動への主観的印象評価 ・・・46 3.バイオロジカルモーションの歩行方向判断におけるクラウディングの影響 ・・・・・50 4)落語家の身体技法に関する映像心理学的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 チーム2:新しい映像環境がもたらす映像体験の臨床的・教育的評価 研究進捗状況報告書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 1)幼児の身体の動きへの支援が身体像の描出および行動表出に及ぼす効果 ・・・・・・・・・・63 2)自閉症児の表情認知の研究―顔図形と顔写真に対する反応の分析―・・・・・・・・・・・・・・・・64 3)動 的 学 校 画 ( K S D ) に 描 か れ た 身 体 像 と 身 体 へ の 気 づ き ・・・・・・・・・・・・・・・65 (付録):雑誌論文「描画における臨床心理学的効果に関する展望 ―描画行為に内在する身体的自己拡張感の検討―」 ... チーム3:新しい映像環境における映画芸術の変容に関する研究 研究進捗状況報告書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 平成24 年度研究活動と成果の報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 (付録1):雑誌論文「『裏窓』再訪――その再帰的な観客性の批判に向けて」 (付録2):討議「『J・エドガー』という謎なき謎――イーストウッドと映画の現在」 (付録3):研究用資料『映画の奥行きに関する研究 注釈付文献リスト』 チーム4:新しい映像環境における身体とイメージの変容に関する研究 研究進捗状況報告書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 研究チーム4:2012 年度 研究活動・研究成果報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75 (付録) 研究メンバーの関連業績一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78 2012 年度研究メンバーリスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92

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- 1 - 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 『新しい映像環境をめぐる映像生態学研究の基盤形成』 2012 年度 チーム1研究進捗状況報告書 <チーム1の研究プロジェクトの目的・意義 及び 研究計画概要> 新しい映像技術・技法・表現が人間に及ぼす様々な効果を測定することにより,心理的 効果が高く,かつ心身への悪影響が少ない技法・表現法の条件を探る。また,研究成果に 基 づく映像コンテンツを制作することにより,他の研究チームに実験・調査材料を提供する。 本年度は映像が保持する物理的情報と室内環境が観察者に生じる感性印象に与える影響 を明らかにするために,1年目に購入あるいは制作した映像コンテンツと映像提示装置, 作成した心理尺度等を使用して心理学的・人間工学的計測を行う。また,三次元映像コン テンツについては,各種機材を用いた映像の撮影・編集を行って知見を蓄積する。 <現在の進捗状況と達成度> ○ 小型 4K カメラによる撮影と編集の試行を行った。 ○ 4K ハイスピードカメラを用いた高精細高速度撮影の実験を行った。 ○ 大画面 TV による商業映画作品鑑賞に関して,映像の次元と照明環境が心身に及ぼす影 響を評価した。 ○ 独自に作成した 3 次元映像コンテンツを一般的な TV サイズ画面で視聴する際の疲労感 を,主観的な指標と客観的な指標を組み合わせて検証した。 ○ 異なる空間的解像度の映像観視時における主観的臨場感と眼球運動特性を検討した。 ○ <特に優れた研究成果> ○ 主観的な臨場感評価と映像に対する印象は空間解像度の異なる映像に対して異なる特 徴を記述することが分かった。また,映像中のアイテムの運動性の度合いの低い方が 高解像度映像への注視回数が少なかった。このことは空間解像度の異なる映像に対す る観視者の映像の見方の違いが眼球運動情報によって評価できる可能性を示すもので ある。 ○ 金環日食を 2 台のハイビジョンビデオカメラで撮影し,「月に叢雲の現象」と,ローゼ ンバッハ現象にみられる図と地の層化現象が,日食時の太陽と雲の間にも知覚される ことを確認した。 <問題点とその克服方法> 映像観視から受ける臨場感や疲労を評価する際に,映像作品の内容から大きな影響を受 けることを避けられない。今後の研究に使用するコンテンツは映像制作チームとのミーテ ィングを重ねた上で映像の撮影を依頼し、作成された映像コンテンツを使用する予定であ る。現在すでにいくつかの撮影済み映像が選定されている。 <今後の研究方針> 3D,4K の撮影・編集と平行して,2D/3D 変換の技術とノウハウを研究するとともに,映像の 物理的特性および視聴環境の特性が知覚体験に及ぼす影響について研究を深度化する。 <今後期待される研究成果> ○ 従来の動画像表現の技法を踏まえ現状の 3D 技術を活かした試験動画像作品の供覧 ○ 映像評価のための心理尺度および人間工学的評価指標 ○ 映像の物理的特性と心身の反応/影響の関係解明

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1)4K、及び3D映像の撮影とその処理プロセスの実験

期間内に以下の映像コンテンツの撮影と処理プロセスの新たな実験テストをおこなった。 ①「JVCケンウッド社が新規開発をした小型4Kカメラによるテスト撮影」 2012年度は、4K映像が従来のシネマ利用から発展して、テレビ放送(ブロード キャスト)に利用される糸口が作られた年であったと言える。年度はじめの4月に米 国でひらかれた世界最大規模の放送映画機器展・NABショー(National Association of Broadcasters, Washington DC)には、日本・韓国・台湾・中国のテレビ製造メーカーが そろって「4Kテレビ受像器」を発表した。日本の家電メーカーがビジネス上の退潮の傾 向を示す中で、世界的な競争力を持つのが4Kパネルの分野だが、これに独自の4Kパネ ル技術を身につけた韓国メーカーも加わり、各国TVメーカーの揃い踏みの様相となった。 言い換えればこれは、4K映像技術を映画(デジタルシネマ)分野だけでなく、テレビ放 送〔ブロードキャスト〕やデジルサイネージなどの新たな領域に広げる引き金の役割を果 たしたとも言える。その後、2012年11月に日本の幕張メッセ(千葉県)で開かれたInter BEE (国際放送映画機器展)でも、4Kテレビへの積極的移行を示す機器展示が目立ったし、 2013年の1月に米国ラスベガスで開かれた世界最大の家電展示会SES(国際家電見本市) でも4Kテレビの展示が大きな話題を呼んだ。また日本国内では2013年1月に総務省が、 放送への4K/8K導入と実用化をにらんだロードマップを発表し、2020年の東京五輪招致 をもにらんで、パブリックビューイングなどにも4Kを導入しようというネライもうかが える動きがいよいよ顕著となってきた。 チーム1Bでは、こうした潮流の中で、4K映像技術の放送利用、広告利用への具体的 実現性を探ろうとしていたところ、2012年7月に、JVCケンウッド社が新たに独自開発を した小型4Kカメラ(JVC/GY−HMQ10)を借り受けることが可能となり、同機を用いて、 4K放送や4Kでのデジタルサイネージを想定したテスト撮影とその編集・上映・映示を 行うこととした。加えてその結果を、JVCケンウッド社主催の映像活用セミナーで発表を おこなった。 1)「小型4KカメラJVC/GY-HMQ10による屋外撮影」その1 実施日:2012年8月23日(木)、24日(金) 撮影場所:長野県木曽・赤沢自然休養林(森林鉄道)、 同、御嶽山山麓、木曽福島(木曽町)の旧宿場町 内容:4Kによる紀行番組を想定して撮影 機材:JVCケンウッド社製JVC/GY-HMQ10を使用

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- 3 - 得られた成果…使用したJVCケンウッド社製JVC/GY-HMQ10は従来のシネマ用4Kカメラ と違い、ワンマンオペレートが可能な小型ハンドヘルド型で、収録にはSDカードを4枚用 い、ごく簡単に言えば、4Kの画面を「田の字型」に4分割をしてその1/4ずつをSDカード 一枚ごとに同時に記録していくものである。小型である分、シネマ用の本格的な4Kカメラ に備わっている幾つかの機能があらかじめ省かれていて、レンズ交換もできないし、外光の 入力調整をおこなうNDフィルターも内蔵されていない。 そのことを前提に、製作予算が少ないと思える放送での4K運用を想定して、撮影を行った。 ワンマンオペレートを想定するので、露出やピントは原則として「オート・モード」で撮る こととした。信州・木曽の森林鉄道を撮影場所としたのは、森の中を走り抜けるので、太陽光 が場所によってバラバラになる。それらの状況を安定的な4K映像として記録できるかどうか が、大きなテスト項目となった。 結果として、JVCケンウッド社製JVC/GY-HMQ10は小型の4Kカメラとしては、最低限の 機能と能力を備えていることは判明した。オート機能には、初号機としての未完成の部分が幾 つも感じられ、特に露出については、すべてをオート機能に依拠するには相当に無理がある(明 るさの調整の追い込み不足)と判断できたが、撮影者のカメラへの慣れや勘(カン)が追いつ けば、徐々に機能のフォローもできると感じられた。 ワンマンオペレートの小型4Kカメラとしての実用性は、かなり評価ができたと言える。 2)「小型4KカメラJVC/HMQ10による屋外撮影」その2 実施日:2012年8月26日(日) 撮影場所:神奈川県座間市・特設ヒマワリ畑 内容:4Kによる紀行番組を想定して撮影 機材:JVCケンウッド社製JVC/GY-HMQ10を使用 得られた成果…ヒマワリの花は花弁の中のタネの部分が精緻な構造をしていて、4Kの能 力を示すのに適しているのに加え、ヒマワリ畑の全景のひろがりも映像表現としては、 同一の形状の花がひろがり、連なる様子が精緻でこれも4K向きな題材と言える。 夏の早朝にねらったが、これも簡便な方法の割には、4Kらしさが表現できたと言える。 3)「小型4Kカメラによる屋外撮影」その3 実施日:2012年11月3日(土) 撮影場所:東京都立川市の昭和祈念公園のコスモス畑 内容:4Kによる紀行番組を想定して撮影 機材:JVCケンウッド社製JVC/GY-HMQ10を使用

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- 4 - 得られた成果…立川市の昭和祈念公園はコスモスの花の名所だが、夏のヒマワリと同様、 花畑の広がりと花自身のクローズアップをどう記録できるかがポイントとなった。 秋の柔らかな光線の中に、透けて見えるコスモスの花は過不足なく捉えることができた。 また、花に寄ってくるハチなどの動く被写体も捉えられたが、コスモスの花を繊細に 見せるには「逆光」効果をねらうのがよく、スチール写真などではそういう構図や光線 処理をするが、このカメラの露出調整機能が弱いところが、こうした逆光撮りでは、そ うしたウィークポイントがそのまま出てしまう。 4Kでは、画像の細密さだけでなく、光線のコントロールによって、しかるべき適性露 出が求められることが、改めてはっきりした。 ②「小型4Kカメラで撮影した4K素材の編集と映示」 4K映像の扱いでは、撮影だけでなく「編集」と「映示」にも慎重を要する。 今回この4Kのテレビ放送の実用化へ向けたテスト撮影には適した東芝製4Kテレビが 導入されたので、従来のプロジェクターで大型スクリーンに写し出すデジタルシネマ方 式だけでなく、最新の4Kテレビモニターにビデオ映像として映し出す方法も実験して みることとした。総務省の目論むロードマップでは、2014年度にはCS放送のチャ ンネルでの4K放送の実験をおこなうとしており、そこへ向けた実用的な撮影と編集の ワークフローをあらかじめ確認する作業をめざした。 1)4K素材映像の編集ワークフローの確立 前記したJVCケンウッド社製小型4KカメラJVC/GY-HMQ10で撮影をし、SDカード4 枚

に記録した映像ファイルをアップル社製Mac Book Proに取り込み、Adobe社製の編集ソフト Premierver.6.0でオンライン編集をおこなった。事前のオフライン編集では4Kファイルをい ったんHD(ハイビジョン)に変換をし、HDでの編集をおこない、その編集データを再度、 4Kファイルに反映させ、完成物としての4K映像ファイルを作成した。 得られた成果…4K映像ファイルはそのデータ量の大きさから、これまで取り扱いが不便だと いう側面が指摘されてきたが、この数年、編集用のハード機器、ソフトアプリケーションの両 方が急速な進化を見せたことで、思ったより、簡便なかたちで4Kの完成ファイルを作成する ことができ、ワークフローのラインを確立することができた。これは今後4Kの放送への実用 化にとっては、作業時間の短縮やコストパフォーマンスでも好ましい状況で、そのことを改め て確認するよい機会となった。 2)信州・木曽で撮影した4K素材から製作した4Kコンテンツの映示 上記したプロセスで完成させた4Kコンテンツを、JVCケンウッド社の要請で、同社主催の 「第4回 映像活用セミナー」で上映をし、ならびに佐藤一彦が講師となってセミナーを開い た。

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- 5 - 実施日:2012年11月10日(土) 場所:JVCケンウッド社の本社内4Kシアター(横浜市神奈川区) 内容:4Kの学術、教育分野への利活用の可能性を考える、セミナー 機材:JVCケンウッド社製プロジェクター、及び東芝製55インチ4Kテレビモニター を使用。 再生機には、立教大学所有のNTT製4Kサーバを使用した。 得られた成果…完成ファイルとした4Kコンテンツを、4Kサーバを再生機として、 プロジェクター及び4Kテレビの両方で再生・映示をしたが、どちらも問題なく4K映 像として視聴することができた。 従来シネマ用の本格的な4Kカメラでの撮影と編集・映示をおこなってきたが、今回は テレビでの利用を想定した小型4Kカメラと4Kテレビという新たな視聴環境を実験的 に試してみたわけだが、テレビでの4K視聴も、十分に高精細な映像を実感できること が確認された。今後はこうした4Kの出口を前提として、4K映像ファイルをどうやっ て放送波(衛星波)に載せて伝送することができるかに、ポイントは移っていくだろう。 また、55インチサイズの大型画面のテレビでないと4Kの良さが確認できないことも 事実で、そうした大型テレビが一般家庭に導入されるタイミングや販売価格の問題をク リアする必要が出てくるだろう。 4K映像からHD(ハイビジョン)映像の切り出し 今回使用したJVCケンウッド社製の小型カメラで撮影した4K映像ファイルから、そ の1/4サイズのHD(ハイビジョン)映像を切り出し、HDの大型テレビで視聴する実験 もおこなってみた。4Kで広い画角で撮影したものからアップ映像を自在に取り出すこ とができるわけだが、HDの画質としては遜色のないものが得られることが確認できた。 この手法は今後、たとえばスポーツ中継などでサッカーコートの全面をまず4Kで撮影 しておき、その後、HD放送のためにその広い画角から部分アップの映像を取り出すこ とも可能で、映像アングルの選択肢が増すことになる。4Kの利活用がHD(ハイビジ ョン)での映像処理の自在性を強化することになろう。 4K小型カメラを用いた撮影テストと編集により得られた総合的知見 ・4K撮影が従来手軽に少人数で行える(4Kが特別なものではなく、今後はテレビ放送を 通じて身近なものとなることを示唆)。 ・屋内のスタジオであれば、家庭用の4Kテレビモニターと組み合わせて、安価に4Kでのモニ タリング環境を整えることが可能になる。 ・総務省が提唱する次世代の4K/8Kの実用化ロードマップは必ずしも空想的なものではなく、 実用化はかなり具体的に想定できるように思える。

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- 6 - ③「4Kハイスピードカメラを用いた高精細高速度撮影の実験」 4K映像で高速度撮影を実現したいという要望は早くからあがっていたが、これまでは それを可能にするカメラが存在しなかった。 しかし、昨年、(株)朋栄が開発した4Kハイスピードカメラがそれを可能にした。 同機を借り受けることができることになり、立教大学馬術部の協力で、馬術競技の練習 風景の中から「障害飛越」のようすを高速度撮影することができた。 実施日:2013年3月12日(火) 撮影場所:立教大学富士見総合グランド内馬術部馬場 内容:障害飛越競技の高速度撮影 機材:(株)朋栄社製4Kハイスピードカメラシステム「FT−ONE」 得られた成果…使用した4Kハイスピードカメラシステム「FT−ONE」はフル4K(4096×2160 ピクセル)の解像度で秒間最大900コマまでのスーパースロー撮影を可能とする。 馬が障害を飛越する瞬間を、1秒間24コマ、120コマ、240コマ、480コマで撮影をおこなった。 結果として、飛越の瞬間、馬のヒズメ部分から膝の屈折部までのアップがスーパースロー で撮影された。480コマでの撮影では、馬の脚部の微細の動きや、乗馬者の動き(鞍から腰にか けての動作)が高精細で、しかも高速度で確認された。 今後、4Kによるスポーツ中継や、劇映画の中での高速度撮影の演出にも十分利用できるものと 判断された。 ④「2D/3D変換」の実験 ・本研究のために導入した、ソニー製3DプロセッサーMPE200を用いて、いったん2Dで 撮影したものをデジタル処理で3Dに変換し(=2D/3D変換)、それが、どの程度実用に供せ るかの実験をおこなった。 ・検証用映像として2眼式の3Dカメラパンソニック製3DA−1とソニー製HXR-N3D1J で撮影をした「馬術・障害飛越」、「スタジオでの静物撮影」などの3D映像を用いた。 2Dは、この3D映像のL側(左眼用)の映像を用いた。 ・ソニー製3DプロセッサーMPE200に内蔵された2D//3Dコンバーターソフトウェアで あるMPES2D3D1を用いて、3D映示には、パナソニック製3Dテレビを使用した。 実施日:2013年2月15日〜3月10日の期間 場所:新座キャンパス6号館5階・実験室2

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- 7 - 得られた成果…この実験はすべてHD(ハイビジョン)画質でおこなったが、デジタル処理での 2Dから3Dへの変換では、3Dを結像させるスクリーン面をどこに設定するかが、実際の3D 撮影に比べ、疑似的に留まるため、はっきりとした3D立体像を得ることはかなり難しい。 ハリウッド映画などでは2D/3D変換が多用されるが、そのためにはより本格的な機材を 用い、あらかじめ2Dで撮影する映像も、立体を再構成しやすい構図(=前景と中景、後景が はっきりと認知できるもの)を用意しておく必要があろう。 今後の課題…この2D/3D変換技術は、まだ今後の課題を含んでいる。あらかじめ撮っておく 2で映像がどのようなものであるべきかを割り出すためには、 ・画角構成をどうするかの問題 ・暗い画面と明るい画面のどちらが変換を行いやすいかの見きわめ、 ・画面内に含まれる「色」の要素の見きわめ (青が多い画像、赤が多い画像、黄色が多い画像)などを撮り分けてそれぞれの変換の質を チェックすることも必要であろう。 ・・・これらを次年度以降の課題としたい。 チーム1B=佐藤一彦、石山智弘

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2)室内照明環境が

2D/3D 映像鑑賞の臨場感

および疲労に及ぼす影響

要約

近年では様々なコンテンツを通して3D 映像を鑑賞する機会が増えており,日常生活にお いて3D コンテンツは様々な照明環境下で鑑賞される。しかし先行研究では照明環境の違い による生体への影響が検討されておらず,3D コンテンツの持つ価値もあまり研究されてい ない。本研究では異なる室内照明環境下における3D 映像鑑賞の影響を,フリッカー値,心 電図,疲労自覚症状尺度,臨場感尺度を用いて評価することを試みた。フリッカー値は目の 疲労を測定する客観指標,心電図は心理的臨場感から生じる身体反応の客観指標とみなせる。 疲労自覚症状尺度と臨場感尺度は,もちろん疲労と臨場感の主観的評価指標である。 室内条件(明/暗)と映像次元条件(2D/3D)を組み合わせた 4 条件で実験を行った結 果,疲労の客観指標であるフリッカー値において明室条件の低下率が大きい傾向がみられ, 主観指標である疲労自覚症状尺度では「首が痛い」という項目が3D 条件の方が有意に得点 が高く,「目が疲れている」「目が重くなる」の2 項目で暗室の方が得点が高い傾向が認め られた。客観指標と主観指標の結果が異なっているのは測定された疲労の側面が異なってい たためだと考えられ,今回の結果は,映像鑑賞環境と映像の次元は疲労の異なる側面へ影響 を及ぼす可能性を示唆するものであった。 臨場感の客観指標である心電では,LF/HF と心拍率の両方に有意な差はみられなかった。 主観指標である臨場感尺度では,迫力因子に3D 映像の方が迫力のある傾向が 10%水準で みられた。明室条件である2 条件よりも暗室条件である 2 条件の方が有意差が認められた 項目が8 つ多かったことから暗室条件の方が映像から受ける印象が強かったと考えられる。 しかし,有意差のみられた項目の大半が4 条件全てで同じであったことを踏まえると臨場 感は照明条件や映像の次元だけでなく鑑賞した映像の内容に強く影響されている可能性が 考えられた。

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2.1 序論

2.1.1 はじめに

近年では映画・テレビ・ゲームなど様々なコンテンツを通して3D 映像を鑑賞する機会が 増えている。3D 映画を Blu-ray ディスクとして購入し,家庭で楽しむことも可能になった。 2012 年のロンドンオリンピックでは 3D 映像によるテレビ放送も行われた。2010 年は 3D 元年とも呼ばれており,今後も3D 映像の日常生活への普及は加速していくと予測されるた め,3D 映像の生体影響に関する研究はますます必要とされるだろう。 3D 鑑賞における生体への影響が研究されている一方で,高度感性情報である臨場感,迫 真性,自然性といった3D コンテンツの持つ価値はあまり検討されていない。技術の進歩に 伴い,伝達可能な音声や映像データの量は日々増加しておりコンテンツの質的向上を強く促 している。3D コンテンツの安全性だけでなくコンテンツの持つ価値についても研究すべき ではないだろうか。 日常生活において3D コンテンツは様々な照明環境下で鑑賞されるが,先行研究では照明 環境の違いによる生体への影響が検討されていない。そこで,本研究では異なる室内照明環 境下での3D 映像鑑賞における心理・生理的影響を調べることを目的とした。3D コンテン ツの持つ価値に関しては臨場感に着目した。

2.1.2 3D 映像について

3D 映像表示方式 ヒトは視差(左右の眼に映る映像の違い)によって立体や奥行きを感じる。その性質を利 用し,3D 映像の表示方式には右眼用と左眼用の画像を時間をずらして交互に表示する時間 多重方式と、右眼用と左眼用の画像を混在させて表示する空間多重方式が存在する。本研究 では液晶シャッタ方式の眼鏡と時間多重方式のディスプレイを使用したため,特徴を以下に 示した。 河合・盛川・太田・阿部(2010)によると,液晶シャッタ眼鏡を用いた 3D ディスプレイ のシステムでは標準TV(SDTV)の映像信号のフィールド周期を利用して,左右の映像を 記録・再生することが想定されている。日本やアメリカで使われているSDTV の映像信号は, NTSC(national television system committee)と呼ばれ,525 本の走査線により,1 秒間 に30 フレームを表示する。NTSC では,1 フレームの水平方向のラインを,奇数ラインと

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- 10 - 偶数ラインの映像にわけて,それらを交互に呈示することで1フレームを表現している。奇 数または偶数のみの映像をフィールドといいSDTV の映像信号のフィールド周期は 1/60 秒 である。このシステムでは奇数フィールドと偶数フィールドに,それぞれ左右の映像を交互 に記録・再生する。したがって,1/60 秒ごとに左右の映像が交互に表示され,眼前の液晶シ ャッタ眼鏡の液晶シャッタが,フィールド周期に同期して開閉することで,左右の映像が分 割される。このような高速かつ連続的なシャッタの開閉により,右眼では右眼用の映像のみ を,左眼では左眼用の映像のみを,それぞれ鑑賞することが可能となる。 3D 映像の好ましい観視距離 林(2011)によれば,窪田・岸本・合志・今井・五十嵐・松本・芳賀・中枝・馬野・小林(2011) は,24 型から 65 型のフルスペック液晶ディスプレイを使用し,画面サイズごとの好ましい 観視距離を測定した結果,好ましい観視距離,許容最短観視距離ともに,画面サイズと表示 輝度の影響は受けるが映像内容による影響は認められなかった。また,表示輝度が好ましい 観視距離に及ぼす影響は画面サイズの要因と比較して小さいことも明らかになった。窪田ら (2011)による好ましい観視距離は 24 型で 5.9H,32 型で 5.1H,42 型で 4.5H,52 型で 4.2H, 65 型で 3.9H であった。 また,実験参加者が車いすに坐して前後に移動しながら,好ましい観視距離と許容最短観 視距離を測定した林(2011)の実験では,65 型 3D ハイビジョンプラズマテレビの好ましい 観視距離は明室条件で313.79 cm,暗室条件で 313.50 cm であった。本実験では林が実験 で使用したディスプレイと同様のものを使用したため,観視距離も同実験の結果を採用した。 3D 映像が生体に与える影響 立体映像鑑賞における生体への影響として視覚疲労,映像酔いがある。先行研究によると, 視覚疲労の要因として以下の4つが示されている(矢野,2011)。1.左右両眼に対応する画像の 幾何学的な差。2.左右両眼に対応する画像での画質の差。3.立体画像における過度な視差。 4.輻輳と調節の機能の矛盾。1,2 は装置の特性に関係し,3,4 は視覚機能と関係している。 渡邊・氏家(2011)によると,オリジナル映像(original 3D)と不適切成分を含む 3D 映像 (poor 3D)鑑賞条件を比較した結果,SSQ(シミュレータ酔い質問紙)による酔い状態の変化に ついて一貫してpoor 3D 観察時に強い酔いが観察された。また,心電図計測の結果から 3D 映像の観察が自律神経系の活性化自体を引き起こすが,その状態への快不快に関する認知的

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- 11 - なラベル付けに関しては,映像コンテンツが含む左右映像差に関連があると考えられた。つ まりLF/HF 比率の変化では自律神経系の活性化は計測できるものの,快不快といった心理 的影響を調べるには他の計測も併用する必要がある。 森田・安藤(2012)によれば,3D テレビ鑑賞による疲労における鑑賞条件を調べた結果, 全ての客観評価指標で有意差はみられなかった。この実験での客観的な評価指標は視力,フ リッカー値の生理指標とAdvanced Trail Making Test(ATMT)によるパフォーマンス評価 指標であった。また,2D 鑑賞と 3D 鑑賞での主観評価指標の差は 3D 眼鏡の有無によるも のであり,標準(3H)より近い位置で 3D 映像を鑑賞すると鑑賞直後の疲労感に差は見られな いが疲労感が継続する可能性があるとされた。

Valentijn, T. Visch, Ed S., Tan & Dylan, M. (2010) によると,背後のみに壁がある 3D 条件と背後と左右に壁のあるCAVE 条件において 3D アニメーションを鑑賞させ,各条件 における感情強度を比較した結果,CAVE 条件において感情強度が強くなった。アニメー ションの種類による差はみられなかった。

2.1.3 本研究で用いる生理指標と尺度

フリッカー値 人に点滅する光源を一定条件で注視させて光の点滅頻度を多くすると,その光は連続光と 同様に見えるものである。このちらつきをフリッカーといい,連続光に見えるか点滅光に見 えるか,その境界閾値となる点滅周波数がフリッカー値である(加藤,2006)。フリッカー値 はちらつき値と呼称されたり,flicker value または critical flicker fusion frequency と訳さ れ,CFF 値と略称を用いることもある。 加藤(2006)によると,フリッカー値は大脳皮質の活動水準との間で顕著な相関が認められ ることから,これの低下は覚醒水準の減衰に起因する知覚機能の低下を反映し,視覚系を含 む知覚連合皮質における視覚情報処理能力の現象を表現しているとされる。そのためフリッ カー値は精神疲労測定指標の1 つとして用いられることが多い。なお,フリッカー値は視 覚系の機能ではあるが,通常,眼球や網膜の状態よりも大脳の視覚中枢の状態により変化す る。 測定方法としては,下降法(高周波数点滅光から低周波数点滅光に変化させる方法)が一般 的であり,本研究でも下降法を用いて測定を行った。また,評価法としては日間低下率と週

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- 12 - 間低下率があり,日間低下率(%)は「作業後値/作業前値×100-100」で求められ,週間低下(%)は「週最終日の作業後値/翌週初日の作業前値」で求められる。疲労負担の判定基準と しては,肉体労働の場合,人間にとって好ましい限界が日間低下率で-10%,人間労働の可 能限界が日間低下率で-20%である。精神労働あるいはエネルギー代謝の大きくない肉体労 働の場合,人間にとって好ましい限界が日間低下率で-5%,人間労働の可能限界が日間低 下率で-10%である。本研究では精神労働あるいはエネルギー代謝の大きくない肉体労働の 場合の日間低下率の基準を用いた。 心電図 自律神経系には交感神経と副交感神経があり,多くの場合互いに対して拮抗的に作用し, 臓器を二重支配している。交感神経は激しい活動を行っているときや興奮時に活性化し心臓 に対しては促進,胃腸に対しては抑制の働きをし,副交感神経はリラックス時に活性化し心 臓に対しては抑制,胃腸に対しては促進の働きをする。 心臓の活動そのものを,非侵襲的にとらえる最も一般的な方法は,心電図を測定すること である。心電図にみられるR 派の感覚を R-R 間隔といい,RR 間隔のゆらぎを「心拍変動 (HRV : heart rate variability)」という。心拍変動の分析にはまず RR 間隔データを高速フ ーリエ解析(FFT)などによりスペクトル解析する。得られたパワースペクトルには通常,2 つ以上のピークが現れ,そのうち0.04~0.15Hz のものを低周波(LF)成分,0.15Hz 以上の ものを高周波(HF)成分と呼ぶ。HF 成分は副交感神経活動の指標として,交感神経活動はL F成分のパワーとHF 成分のパワーの比率,あるいは LF 成分が全周波数帯域のパワーにし める割合が交感神経活動と関連するとされる(加藤,2006)。現代社会における様々なストレ スは,交感神経を刺激し,心拍数や血圧の変動に作用するため心拍数は緊張や恐怖などの情 動反応やストレスの指標として用いられる(加藤,2006)。 映像による疲労自覚症状尺度

Head Mounted Display (HMD)鑑賞における生体への影響として動揺病 (motion sickness)が 想定される。動揺病とは乗り物酔いのような症状の総称であり,シミュレーター酔いや大型

の画面による映像酔いなども含まれる。動揺病では病気ではないのに胃部の不快感や嘔吐感

などの不快な症状を示し,頭痛やめまい,眠気を訴える症状がみられる。

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- 13 - 使いにくく,顔色など自分で判定できない項目も含まれている。そのため動揺病だけでなく 眼精疲労や全身疲労の症状を被験者みずからが評価できる質問紙を作成した。質問紙作成に は過去の動揺病の研究に使われた既存のアンケートや,日本眼科医会のVDT 症候群診断基 準の疲労に関する項目などを参考にし,目の疲れ,身体全体の疲れ,動揺病などに関係する 可能性がある項目を合わせた28 項目を選んで作成された。また,本研究では大野ら(2000) の結果をもとにさらに実験参加者の数を増やし詳細な分析を行った Kuze, J. & Ukai, K. (2008)による因子分類を和訳して使用した。使用した項目および因子分類は表 2-1 に示した。 表 2-1 映像による疲労感の自覚症状尺度 因子 項目 眼精疲労因子 9. 目がしょぼしょぼする 6. 目が乾いた感じが する 1. 目が疲れている 4. 目がごろごろする 2. 目が痛い 5. 目がしみる 3. 目が重くなる 14. 目が熱い 7. 涙が出る 不快因子 20. 頭が重い 26. 全身がだるい 19. 頭がぼんやりする 24. 肩が凝る 28. 首が痛い 吐き気因子 22. 吐き気がする 23. めまいがする 21. 気分が悪い ぼやけ因子 11. 見つめていると像がぼや ける 15. ものが二重にみえ る 13. 近くのものが見づ らい 12. 遠くのものが見づらい 頭痛因子 16. こめかみが痛い 18. 眉間が痛い 17. 後頭部が痛い 10. 目がかすむ 分析除外項目 8. 目がちかちかする 25. ふらふらする 27. 眠気がする 臨場感尺度 臨場感に関して行われた先行研究では,SD 法を用いた研究で多用される形容詞対の中か ら選んだ14 対と,予備調査において「臨場感」という言葉からイメージされる形容しや副 詞として挙げられた単語の内出現頻度の高い12 対をもとに臨場感の測定を行った結果,一 般の人々が抱く臨場感は,評価性,迫力,活動性,機械製の4 つの心理的な要素から構成 されると示している(鈴木・寺本・吉田・浅井・日高・坂本・岩谷・行場,2011)。また,鈴

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- 14 - 木ら(2011)によると臨場感という言葉は偽物の場の「本物らしさ」を評価するだけでなく, 現実場面で実際に生じた生の体験の印象(どの程度自分の心を揺り動かすものであったか) を評価する言葉としても用いられる傾向がある。臨場感を測定する場合には言葉の持つ多義 性を十分に考慮する必要がある。 本研究において使用した項目は表2-2 に示した。 表 2-2 映像に関する臨場感尺度 因子 項目 評価性因子 気持ちの良い,悪い 好きな,嫌いな 良い,悪い 楽しい,つまらない 調和して,ばらばらな 迫力因子 リアリティのある,ない はっきりした,ぼんやりした 広い,狭い 迫力のある,ない 立体的,平面的 活動性因子 静かな,騒がしい 静的な,動的な 安定,不安定 違和感のない,ある くつろいだ,緊張した 日常的,非日常 機械性因子 冷たい,温かい 暗い,明るい 人工的な,自然な その他 弱い,力強い 小さい,大きい 遅い,早い 複雑な,単純な 重い,軽い 連続的,断片的 全体的な,部分的な

2.2 実験

2.2.1 目的と仮説

近年では映画・テレビ・ゲームなど様々なコンテンツを通して3D 映像を鑑賞する機会が 増えている。2010 年は 3D 元年とも呼ばれており,今後も 3D 映像の日常生活への普及は 加速していくと予測されるため,3D 映像の生体影響に関する研究はますます必要とされる だろう。日常生活において3D コンテンツは様々な照明環境下で鑑賞されるが,先行研究で は照明環境の違いによる生体への影響が検討されていない。そこで,本研究では異なる室内 照明環境下で3D 映像鑑賞が疲労に関するどのような心理・生理的影響を与えるのかを客観

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- 15 - 指標としてフリッカー計測を,主観指標として映像による疲労自覚症状尺度を用いることで 検討することを目的とした。さらに,3D 鑑賞における生体への影響が研究されている一方 で,高度感性情報である臨場感,迫真性,自然性といったコンテンツの持つ価値はあまり検 討されていないことから,3D コンテンツの持つ価値の中でも臨場感に着目し,客観指標と して心電図計測を,主観指標として臨場感尺度を用いることで3D 映像鑑賞における臨場感 を心理・生理的側面の双方から調べ,考察することを目的とした。 渡邊らや森田ら(2012)の先行研究から,疲労の客観指標であるフリッカー値では,不適切 成分を含まない刺激映像であるため3D 条件と 2D 条件のあいだに有意な差はみられず,臨 場感の客観指標である心電図では2D 条件よりも 3D 条件の方が LF/HF 比率が上昇し,自 律神経系の活性化がみられると予測される。また,Valentijn et al.(2010)によると CAVE 条

件において感情強度が強くなる。視界の中にディスプレイ以外のものがほとんど見えない暗 室条件はCAVE 条件に近い環境であると考えられるため,暗室条件では客観指標と主観指 標の両方において臨場感の高まりが認められると予測される。

2.2.2 方法

実験時期,実験場所

実施期間は2012 年 10 月 19 日から 11 月 16 日であった。実施場所は,立教大学新座キ ャンパス6 号館 6 階の人間工学実験室であった。

実験参加者

大学生16 名,うち男性 7 名,女性 9 名,年齢は 20 歳~25 歳であった。両眼視力は 0.7 以上の者が14 名,両眼視力が 0.7 以下の者が 2 名であり,コンタクトレンズ利用者が 5 名, 眼鏡利用者が3 名,裸眼が 8 名であった。3D 映像の鑑賞経験については 14 名が「ほとん ど見ない(年に 1,2 回程度)」「数回見たことがある」と回答し,2 名は 3D 映像の鑑賞経験は 無かった。

刺激

角川書店から発売されている,アニメーションと実写の混合している映画「スマーフ」で あった。本編は102 分であったが冒頭のクレジットとエンドロールを除いた映像は 92 分で

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- 16 - あった。実験ではクレジットとエンドロールを除く92 分をおよそ 2 分割した 45 分の映像 を1条件での刺激とした。従って使用した刺激は,1本の映画の前半45 分,後半 45 分の 2 種類であった。実験条件は4 条件であり,2 条件ずつ被験者内比較を行ったため各実験参加 者は2 種類の映像を鑑賞した。映像の提示方式は 3D,音声は吹き替え版の日本語,字幕は 無しであった。 装置 65 型 3D テレビ (パナソニック 3D VIERA TH-P65VT3 [65 インチ],画面高:80.7cm), 3D グラス (TY-EW3D3MW),ブルーレイプレイヤー(SONY),ディスポ電極,呼気サーミ スター,多チャンネル生体計測アンプ(日本光電),MacLab,パーソナルコンピューター (NEC),デジタルフリッカー装置(竹井機器工業) 実験条件 2D 鑑賞条件と 3D 鑑賞条件,暗室条件と明室条件を組み合わせた 4 条件で行った。2D 鑑賞条件と3D 鑑賞条件は被験者内条件,暗室条件と明室条件は被験者間条件であった。ど の実験条件を先に実施するかはカウンターバランスをとった。2D 鑑賞条件では,3D グラ スの有無が影響しないよう3D 表示した映像を 3D グラスで 2D 表示に変換した。実験室内 は,パーティションと壁を暗幕で覆い暗室条件の際のディスプレイの光による反射を抑えた。 実験室内の明るさは,明室条件では一般的な教室や会議室の明るさである約380Lux,暗室 条件ではディスプレイをつけた状態で2Lux であった。鑑賞距離(眼から画面までの距離) は窪田ら(2011)と林(2011)の結果より 3.9H すなわち 315cm であった。実験条件を表 2-1 に, 実験室内の見取り図を図2-1 に示す。

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- 17 - 表 2-3 実験条件 ID 実験条件 室内 鑑賞条件 映像 実験条件 室内 鑑賞条件 映像 1 1 明室 3D 1 2 明室 2D 2 2 1 明室 3D 1 2 明室 2D 2 3 1 明室 3D 1 2 明室 2D 2 4 1 明室 3D 1 2 明室 2D 2 5 2 明室 2D 1 1 明室 3D 2 6 2 明室 2D 1 1 明室 3D 2 7 2 明室 2D 1 1 明室 3D 2 8 2 明室 2D 1 1 明室 3D 2 9 3 暗室 3D 1 4 暗室 2D 2 10 3 暗室 3D 1 4 暗室 2D 2 11 3 暗室 3D 1 4 暗室 2D 2 12 3 暗室 3D 1 4 暗室 2D 2 13 4 暗室 2D 1 3 暗室 3D 2 14 4 暗室 2D 1 3 暗室 3D 2 15 4 暗室 2D 1 3 暗室 3D 2 16 4 暗室 2D 1 3 暗室 3D 2 壁 314cm ディスプレイ 実験参加者 パ ー テ ィ シ ョ ン 200cm 図2-1 実験室内見取り図

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- 18 - 測定項目 全ての実験条件において映像鑑賞の前と後にフリッカー値を測定し,映像による疲労感の 主観的な自覚症状を評定させた。鑑賞中は心電計測と呼吸曲線計測を行い,鑑賞後に映像に関す る臨場感を評定させた。フリッカー測定値は各実験条件の直前に計測したものを基準とした 変化率を用いた。従って実験全体では練習を含め3 回測定を行い,1 回の計測では 5 つの測 定値をとった。映像による疲労感の主観的な自覚症状は映像鑑賞の前と後の値の差を用いた。 心電計測の値は,各実験条件の直前に計測したものを基準とした変化率を用いた。映像によ る疲労感の自覚症状尺度は大野・鵜飼 (2000)の作成した 28 項目からなる7 件法の尺度を 用い,因子の分類はKuze & Ukai (2008)に準じた。映像に関する臨場感尺度は鈴木ら (2011) の作成した26 項目からなる5件法の尺度を用いた。映像による疲労感の自覚症状尺度の項 目を表2-4 に,映像に関する臨場感尺度の項目を表 2-5 に示した。 表 2-4 映像による疲労感の自覚症状尺度 因子 項目 眼精疲労因子 9. 目がしょぼしょぼする 6. 目が乾いた感じがする 1. 目が疲れている 4. 目がごろごろする 2. 目が痛い 5. 目がしみる 3. 目が重くなる 14. 目が熱い 7. 涙が出る 不快因子 20. 頭が重い 26. 全身がだるい 19. 頭がぼんやりする 24. 肩が凝る 28. 首が痛い 吐き気因子 22. 吐き気がする 23. めまいがする 21. 気分が悪い ぼやけ因子 11. 見つめていると像がぼやける 15. ものが二重にみえる 13. 近くのものが見づらい 12. 遠くのものが見づらい 頭痛因子 16. こめかみが痛い 18. 眉間が痛い 17. 後頭部が痛い 10. 目がかすむ 分析から除外 した項目 8. 目がちかちかする 25. ふらふらする 27. 眠気がする

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- 19 - 表 2-5 映像に関する臨場感尺度 因子 項目 評価性因子 気持ちの良い,悪い 好きな,嫌いな 良い,悪い 楽しい,つまらない 調和して,ばらばらな 迫力因子 リアリティのある,ない はっきりした,ぼんやりした 広い,狭い 迫力のある,ない 立体的,平面的 活動性因子 静かな,騒がしい 静的な,動的な 安定,不安定 違和感のない,ある くつろいだ,緊張した 日常的,非日常 機械性因子 冷たい,温かい 暗い,明るい 人工的な,自然な その他 弱い,力強い 小さい,大きい 遅い,早い 複雑な,単純な 重い,軽い 連続的,断片的 全体的な,部分的な 手続き 初めに,電極が付いている状態に慣れさせるため電極を装着した。続いてフリッカー値を 測定した。フリッカー測定では練習試行を3~5 回行い,実験参加者がフリッカー測定に慣 れたことを確認後,測定を行った。教示では「赤い光が点滅しはじめたと感じたらすぐにボ タンを押すこと。自分の中での判断基準を一定にするよう心がけること。」を注意するよう 伝えた。フリッカー値を測定後,映像鑑賞前の実験参加者の状態について映像による疲労感 の主観的な自覚症状を評定させた。次に心電測定のための装置を装着し,安静時の心電計測を6 分間行った。暗室での鑑賞条件では同時に部屋を暗くし暗順応させた。 安静時の心電計測後,刺激映像を45 分間鑑賞させた。映像鑑賞の前に「45 分間映像鑑賞す るためリラックスした姿勢で椅子に座ること。メガネの表示設定を変えないこと。椅子や頭 の位置を動かさないこと。心電に影響するため身体を大きく動かさないこと。」を教示した。 映像鑑賞後,フリッカー値の測定を行った。続いて映像による疲労感の主観的な自覚症状 および映像に関する臨場感を評定させた。最後にフェイスシートへの記入を行った。

2.2.3 結果

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- 20 - フリッカー値 各条件での映像鑑賞前の値をベースラインとした,映像鑑賞後の測定値の変化率を分析し た。実験参加者ごとの明室条件におけるフリッカー変化率を表2-6 に示し,暗室条件におけ るフリッカー変化率を表2-7 に示した。心的負担が人間にとって好ましい限界の基準である 5%以上の低下率を示した実験参加者は明室 3D 条件で 4 名(全体の 50%),明室 2D 条件で 4 名(全体の 50%),暗室 3D 条件で 2 名(全体の 25%),暗室 2D 条件で 4 名(全体の 50%)であ った。また,変化率が上昇した実験参加者は明室3D 条件で 1 名(全体の 12.5%),明室 2D 条件で0 名,暗室 3D 条件で 3 名(全体の 37.5%),暗室 2D 条件で 3 名(全体の 37.5%)であ った。フリッカー値の変化率は個人差が大きく5%以上の低下率を示す実験参加者が存在す る一方,変化率が5%以上上昇する実験参加者が存在した。 表 2-6 明室条件におけるフリッカー 変化率(%) 表 2-7 暗室条件におけるフリッカー 変化率(%) ID 3D 2D ID 3D 2D 1 0.67 -2.02 1 1.73 7.05 2 -4.60 -5.58 2 -1.50 -4.46 3 -5.09 -7.63 3 -8.12 3.14 4 -5.93 -8.18 4 -0.10 1.66 5 -6.66 -2.90 5 4.74 -6.66 6 -8.60 -3.35 6 -1.79 -8.37 7 -3.84 -8.05 7 4.58 -7.48 8 -4.04 -0.12 8 -6.89 -9.86 Mean -4.76 -4.73 Mean -0.92 -3.12 低下率5%以上 変化率が上昇 条件ごとのフリッカー変化率の平均を図2-2 に示した。フリッカー変化率の平均値は明室 3D 条件が-4.76,明室 2D 条件が-4.73,暗室 3D 条件が-0.92,暗室 2D 条件が-3.12 であっ た。標準偏差は明室3D 条件が 2.69,明室 2D 条件が 3.07,暗室 3D 条件が 4.76,暗室 2D 条件が6.23 であった。 2 要因分散分析の結果,室内条件の主効果 (F(1,14)=4.24, n.s.)および映像表示条件の主効

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- 21 - 果 (F(1,14)=.001, n.s.),交互作用 (F(1,14)=.001, n.s.)ともに有意な差はみられなかったが, 室内条件において明室の方が低下率が大きい傾向があった (F(1,14)=4.24, p<.10)。 また,いずれかの条件において低下率5%を超えた実験参加者 11 名を変化率高群として同 様に分散分析を行った結果,室内条件の主効果 (F(1,9)=2.87, n.s.)および映像表示条件の主 効果 (F(1,9)=1.16, n.s.),交互作用(F(1,9)=.10, n.s.)有意差は見られなかった。しかしフリ ッカー変化率の平均値は明室3D 条件が-5.79,明室 2D 条件が-5.95,暗室 3D 条件が-1.50, 暗室2D 条件が-5.84 であり,暗室 3D 条件以外の 3 条件において低下率 5%を超えた。変化 率高群のフリッカー変化率を図2-3 に示した。標準偏差は明室 3D 条件が 1.70,明室 2D 条 件が2.39,暗室 3D 条件が 6.10,暗室 2D 条件が 5.16 であった。 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 3D明室 2D明室 3D暗室 2D暗室

図2-2 フリッカー変化率平均(%)

-12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 明室3D 明室2D 暗室3D 暗室2D

図2-3 高群フリッカー変化率(%)

フ リ ッ カ ー 変 化 率(%) フ リ ッ カ ー 変 化 率(%)

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- 22 - 映像による疲労自覚症状尺度 鑑賞前と鑑賞後の値の差を算出し,分析した。明室条件における各項目の鑑賞前と後の差 の値を図2-4 に示した。条件ごとに各項目の値の t 検定を行った結果,明室 3D 条件ではど の項目にも有意な差は無かった。明室2D 条件では,「10.目がかすむ(t(14)=1.93, p<.10)」「26. 全身がだるい(t(14)=0.09, p<.10)」「4.目がごろごろする(t(14)=1.84, p<.10)」「6.目が乾いた 感じがする(t(14)=1.84, p<.10)」の 4 項目および「不快因子(t(14)=1.97, p<.10)」が 10%水 準で得点が高い傾向がみられた。 -2 -1,5 -1 -0,5 0 0,5 1 1,5 2 眼精疲労因子 不快因子 吐き気因子 ぼやけ因子 頭痛因子 9. 目がしょぼしょぼする 6. 目が乾いた感じがする 1. 目が疲れている 4. 目がごろごろする 2. 目が痛い 5. 目がしみる 3. 目が重くなる 14. 目が熱い 7. 涙が出る 20. 頭が重い 26. 全身がだるい 19. 頭がぼんやりする 24. 肩が凝る 28. 首が痛い 22. 吐き気がする 23. めまいがする 21. 気分が悪い 11. 見つめていると像がぼやける 15. ものが二重にみえる 13. 近くのものが見づらい 12. 遠くのものが見づらい 16. こめかみが痛い 18. 眉間が痛い 17. 後頭部が痛い 10. 目がかすむ 因子 眼 精疲労 因子 不 快因子 吐 き気因 子 ぼ やけ因 子 頭 痛因子 2D 3D + + + + +

2-4 明室条件における疲労自覚症状の値

**=p<.01 *=p<.05 +=p<.10

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- 23 - 暗室条件における各項目の鑑賞前と後の差の値を図2-5 に示した。同様に各項目の値のt 検定を行った結果,暗室3D 条件では,「ぼやけ因子(t(14)=3.00, p<.01)」「頭痛因子(t(14)=3.07, p<.01)」が 1%水準で有意に得点が高く,「28. 首が痛い(t(14)=2.65, p<.05)」「10. 目がかす む(t(14)=2.37, p<.05)」が 5%水準で有意に得点が高く,「1.目が疲れている(t(14)=2.05, p<.10)」「4. 目がごろごろする(t(14)=1.82, p<.10)」「3.目が重くなる(t(14)=, p<.10)」「24. 肩が凝る(t(14)=0.09, p<.10)」「11.見つめていると像がぼやける(t(14)=1.93, p<.10)」「18. 眉間が痛い(t(14)=2.05, p<.10)」「17.後頭部が痛い(t(14)=1.87, p<.10)」の 7 項目および「眼 精疲労因子(t(14)=1.83, p<.10)」「不快因子(t(14)=1.94, p<.10)」が 10%水準で得点が高い傾 向がみられた。暗室2D 条件では,「1.目が疲れている(t(14)=3.87, p<.01)」が 1%水準で有 意に得点が高く,「4.目がごろごろする(t(14)=2.16, p<.05)」「3.目が重くなる(t(14)=2.20, p<.05)」の 2 項目が 5%水準で有意に得点が高く,「20.頭が重い(t(14)=2.12, p<.10)」は 10% 水準で得点が高い傾向があった。 いずれかの条件において有意な差が認められた 5 項目について 2 要因の分散分析を行っ た結果,「28. 首が痛い(F(1,14)=10.65, p<.01)」が 1%水準で 3D 条件の方が有意に得点が 高く,「1.目が疲れている(F(1,14)=4.29, p<.10)」「3.目が重くなる(F(1,14)=3.93, p<.10)」 が10%水準で暗室のほうが得点が高い傾向があった。「10. 目がかすむ(F(1,14)=5.81, p<.05)」 には5%水準で有意に交互作用がみられた。

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- 24 - -2 -1,5 -1 -0,5 0 0,5 1 1,5 2 眼精疲労因子 不快因子 吐き気因子 ぼやけ因子 頭痛因子 9. 目がしょぼしょぼする 6. 目が乾いた感じがする 1. 目が疲れている 4. 目がごろごろする 2. 目が痛い 5. 目がしみる 3. 目が重くなる 14. 目が熱い 7. 涙が出る 20. 頭が重い 26. 全身がだるい 19. 頭がぼんやりする 24. 肩が凝る 28. 首が痛い 22. 吐き気がする 23. めまいがする 21. 気分が悪い 11. 見つめていると像がぼやける 15. ものが二重にみえる 13. 近くのものが見づらい 12. 遠くのものが見づらい 16. こめかみが痛い 18. 眉間が痛い 17. 後頭部が痛い 10. 目がかすむ 因子 眼 精疲労 因子 不 快因子 吐 き気因 子 ぼ やけ因 子 頭 痛因子 2D 3D * * * * ** ** + + + + + + + + + ** + **=p<.01 *=p<.05 +=p<.10

2-5 暗室条件における疲労自覚症状の値

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- 25 - 明室条件における3D 条件の前後差と 2D 条件の前後差の差を算出した値を図 2-6 に示し た。項目ごとのt検定の結果,「28. 首が痛い(t(14)=2.02, p<.10)」「12.遠くのものが見づら い(t(14)=1.83, p<.10)」「10. 目がかすむ(t(14)=1.82, p<.10)」の 3 項目および「頭痛因子 (t(14)=1.82, p<.10)」に 10%水準で差がある傾向がみられた。 -2 -1,5 -1 -0,5 0 0,5 1 1,5 2 眼精疲労因子 不快因子 吐き気因子 ぼやけ因子 頭痛因子 9. 目がしょぼしょぼする 6. 目が乾いた感じがする 1. 目が疲れている 4. 目がごろごろする 2. 目が痛い 5. 目がしみる 3. 目が重くなる 14. 目が熱い 7. 涙が出る 20. 頭が重い 26. 全身がだるい 19. 頭がぼんやりする 24. 肩が凝る 28. 首が痛い 22. 吐き気がする 23. めまいがする 21. 気分が悪い 11. 見つめていると像がぼやける 15. ものが二重にみえる 13. 近くのものが見づらい 12. 遠くのものが見づらい 16. こめかみが痛い 18. 眉間が痛い 17. 後頭部が痛い 10. 目がかすむ 因子 眼 精疲労 因子 不 快因子 吐 き気 因子 ぼ やけ因 子 頭 痛因子 ←3Dの方が悪化 2Dの方が悪化→ + + + +

2-6 明室条件における 3D・2D 差

**=p<.01 *=p<.05 +=p<.10

(29)

- 26 - 暗室条件における3D 条件の前後差と 2D 条件の前後差の差を算出した値を図 2-7 に示し た。項目ごとのt検定の結果,「28. 首が痛い(t(14)=2.76, p<.05)」に有意な差がみられた。 心電 LF/HF もしくは HR(心拍率)においてはずれ値を示した実験参加者および心電図にノイ ズの多かった実験参加者を除いた25 のデータ(全体の 78%)を分析対象とした。45 分間の鑑 賞時間のなかで最も映像に集中しており映画の前半を鑑賞した条件と映画の後半を鑑賞し た条件の間でのストーリーの違いの影響が小さいと考えられる中央の15 分間の値を分析し -2 -1,5 -1 -0,5 0 0,5 1 1,5 2 眼精疲労因子 不快因子 吐き気因子 ぼやけ因子 頭痛因子 9. 目がしょぼしょぼする 6. 目が乾いた感じがする 1. 目が疲れている 4. 目がごろごろする 2. 目が痛い 5. 目がしみる 3. 目が重くなる 14. 目が熱い 7. 涙が出る 20. 頭が重い 26. 全身がだるい 19. 頭がぼんやりする 24. 肩が凝る 28. 首が痛い 22. 吐き気がする 23. めまいがする 21. 気分が悪い 11. 見つめていると像がぼやける 15. ものが二重にみえる 13. 近くのものが見づらい 12. 遠くのものが見づらい 16. こめかみが痛い 18. 眉間が痛い 17. 後頭部が痛い 10. 目がかすむ 因子 眼 精疲労 因子 不 快因子 吐 き気 因子 ぼ やけ因 子 頭 痛因子

←3Dの方が悪化 2Dの方が悪化→

**=p<.01 *=p<.05 +=p<.10

2-7 暗室条件における 3D・2D 差

*

(30)

- 27 - た。 映像鑑賞前に測定した安静時の値をベースラインとして算出した,各条件での LF/HF の 変化率を図2-8 に示した。明室 3D 条件での平均値が-13.43 (標準偏差 37.44),明室 2D 条 件での平均値が13.24 (標準偏差 59.70),暗室 3D 条件での平均値が 15.71(標準偏差 40.06) 暗室2D 条件での平均値が 50.74 (標準偏差 46.78),であった。2 要因分散分析を行った結 果,室内条件の主効果(F(1,10)=3.26, n.s.),映像表示条件の主効果(F(1,10)=1.66, n.s.),室内 条件と映像表示条件の交互作用(F(1,10)=.14, n.s.)に有意な差はみられなかった。 LF/HF と同様に算出した HR の変化率を図 2-9 に示した。明室 3D 条件での平均値が-6.69 (標準偏差 6.23),明室 2D 条件での平均値が-7.18 (標準偏差 5.67),暗室 3D 条件での平均値 が-2.76(標準偏差 6.29) 暗室 2D 条件での平均値が-5.67 (標準偏差 4.42),であった。2 要因 分散分析を行った結果,室内条件の主効果(F(1,10)=1.03, n.s.),映像表示条件の主効果 (F(1,10)=.80, n.s.),室内条件と映像表示条件の交互作用(F(1,10)=.91, n.s.)に有意な差はみられ なかった。 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100 120 明室3D 明室2D 暗室3D 暗室2D

図2-8 LF/HF変化率(%)

L F /HF 変 化 率(%)

(31)

- 28 - 臨場感尺度 各項目のどちらにも振れていない値である3 を基準値 0 として分析を行った。明室条件 における映像条件ごとの各項目の平均値を算出し,図 2-10 に示した。基準値との差の有無 及びその方向性を検定するために,映像条件ごとに各項目のt検定を行った結果,明室 3D 条件では「気持ちの良い(t(14)=2.39, p<.05)」「好きな(t(14)=3.06, p<.01)」「良い(t(14)=3.99, p<.01)」「楽しい(t(14)=2.65, p<.05)」「はっきりした(t(14)=3.81, p<.01)」「迫力のある (t(14)=3, p<.01)」「立体的(t(14)=7.94, p<.001)」「騒がしい(t(14)=5.00, p<.001)」「不安定 (t(14)=2.65, p<.05)」「非日常(t(14)=5.61, p<.001)」「温かい(t(14)=7.51, p<.001)」「明るい (t(14)=7.94, p<.001)」「単純な(t(14)=3.06, p<.01)」の 13 項目と「評価性因子(t(14)=3.31, p<.01)」「迫力因子(t(14)=3.39, p<.01)」「活動性因子(t(14)=3.42, p<.01)」「機械性因子 (t(14)=5.16, p<.01)」に有意な差がみられた。明室 2D 条件では,「気持ちの良い(t(14)=2.97, p<.05)」「好きな(t(14)=3.99, p<.01)」「良い(t(14)=3.21, p<.01)」「楽しい(t(14)=2.83, p<.05)」 「立体的(t(14)=2.65, p<.05)」「騒がしい(t(14)=5.00, p<.001)」「動的な(t(14)=7.51, p<.001)」 「非日常(t(14)=5.00, p<.001)」「温かい(t(14)=5.00, p<.001)」「明るい(t(14)=7.94, p<.001)」 の10 項目と「評価性因子(t(14)=3.37, p<.01)」「迫力因子(t(14)=2.18, p<.05)」「活動性因子 (t(14)=4.64, p<.001)」「機械性因子(t(14)=4.68, p<.001)」に有意な差がみられた。 -14 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 明室3D 明室2D 暗室3D 暗室2D

図2-9 HR変化率(%)

HR 変 化 率(%)

(32)

- 29 - 暗室条件における映像条件ごとの各項目の平均値を算出し,図2-11 に示した。映像条件 ごとに各項目のt検定を行った結果,暗室3D 条件では「気持ちの良い(t(14)=2.50, p<.05)」 「好きな(t(14)=2.40, p<.05)」「良い(t(14)=4.97, p<.001)」「楽しい(t(14)=8.88, p<.001)」「広 い(t(14)=7.64, p<.001)」「迫力のある(t(14)=3.06, p<.01)」「立体的(t(14)=5.23, p<.001)」「騒 がしい(t(14)=7.64, p<.001)」「動的な(t(14)=7.94, p<.001)」「不安定(t(14)=2.38, p<.05)」「違 和感のある(t(14)=2.39, p<.05)」「非日常(t(14)=3.81, p<.01)」「温かい(t(14)=7.51, p<.001)」 「明るい(t(14)=7.94, p<.001)」「早い(t(14)=9.00, p<.001)」「連続的(t(14)=5.29, p<.001)」 の16 項目と「評価性因子(t(14)=3.99, p<.01)」「迫力因子(t(14)=4.65, p<.001)」「活動性因 -2 -1 0 1 2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 評 価性因 子 迫 力因子 活 動性因 子 機 械性 因子 そ の他 因子 2D 3D *** ** * ** ** ** ** * * * * ** ** * *** *** *** *** *** *** *** *** *** * *** ***

2-10 明室条件における臨場感平均値

***=p<.001 **=p<.01 *=p<.05 30.機械性因子 29.活動性因子 28.迫力因子 27.評価性因子 26.全体的な 25.連続的 24.重い 23.複雑な 22.遅い 21.小さい 20.弱い 19.人工的な 18.暗い 17.冷たい 16.日常的 15.くつろいだ 14.違和感のない 13.安定 12.静的な 11.静かな 10.立体的 9.迫力のある 8.広い 7.はっきりした 6.リアリティのある 5.調和して 4.楽しい 3.良い 2.好きな 1.気持ちの良い 30. 機械性因子 29. 活動性因子 28. 迫力因子 27. 評価性因子 26.部分的な 25.断片的 24.軽い 23.単純な 22.早い 21.大きい 20.力強い 19.自然な 18.明るい 17.温かい 16.非日常 15.緊張した 14.違和感のある 13.不安定 12.動的な 11.騒がしい 10.平面的 9.迫力のない 8.狭い 7.ぼんやりした 6.リアリティのない 5.ばらばらな 4.つまらない 3.悪い 2.嫌いな 1.悪い

(33)

- 30 - 子(t(14)=6.07, p<.001)」「機械性因子(t(14)=7.09, p<.001)」に有意な差があった。暗室 2D 条件では「気持ちの良い(t(14)=2.39, p<.05)」「好きな(t(14)=2.39, p<.05)」「良い(t(14)=3.86, p<.01)」「楽しい(t(14)=7.94, p<.001)」「リアリティのない(t(14)=2.38, p<.05)」「はっきりし た(t(14)=2.50, p<.05)」「広い(t(14)=2.50, p<.05)」「騒がしい(t(14)=3.06, p<.01)」「動的な (t(14)=7.51, p<.001)」「非日常(t(14)=4.97, p<.001)」「温かい(t(14)=3.42, p<.01)」「明るい (t(14)=7.94, p<.001)」「早い(t(14)=5.29, p<.001)」「軽い(t(14)=4.97, p<.001)」「連続的 (t(14)=4.58, p<.001)」の 15 項目と「評価性因子(t(14)=5.32, p<.001)」「迫力因子(t(14)=3.19, p<.01)」「活動性因子(t(14)=3.19, p<.01)」「機械性因子(t(14)=6.00, p<.001)」に有意な差が みられた。 -2 -1,5 -1 -0,5 0 0,5 1 1,5 2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 評 価性因 子 迫 力因子 活 動性因 子 機 械性 因子 そ の他 因子 2D 3D * ** * * *** *** * * ** *** *** *** * * * *** ** *** ** *** *** *** * ** *** ** *** *** *** *** *** *** *** *** ** *** *** ** *** 30.機械性因子 29.活動性因子 28.迫力因子 27.評価性因子 26.全体的な 25.連続的 24.重い 23.複雑な 22.遅い 21.小さい 20.弱い 19.人工的な 18.暗い 17.冷たい 16.日常的 15.くつろいだ 14.違和感のない 13.安定 12.静的な 11.静かな 10.立体的 9.迫力のある 8.広い 7.はっきりした 6.リアリティのある 5.調和して 4.楽しい 3.良い 2.好きな 1.気持ちの良い 30. 機械性因子 29. 活動性因子 28. 迫力因子 27. 評価性因子 26.部分的な 25.断片的 24.軽い 23.単純な 22.早い 21.大きい 20.力強い 19.自然な 18.明るい 17.温かい 16.非日常 15.緊張した 14.違和感のある 13.不安定 12.動的な 11.騒がしい 10.平面的 9.迫力のない 8.狭い 7.ぼんやりした 6.リアリティのない 5.ばらばらな 4.つまらない 3.悪い 2.嫌いな 1.悪い ***=p<.001 **=p<.01 *=p<.05

2-11 暗室条件における臨場感平均値

(34)

- 31 - 各因子の2 要因分散分析を行った結果を表 2-8 に示した。「評価性因子」「活動性因子」「機 械性因子」では室内条件および映像表示条件の主効果,交互作用ともに有意な差がみられな かったが,「迫力因子」(F(1,14)=3.93, p<.10)では映像条件の主効果に有意差が示され,3D 映像の方が迫力がある傾向がみられた。 表 2-8 臨場感尺度の因子ごとの 2 要因分散分析 評価性因子 迫力因子 活動性因子 機械性因子 映像表示条件と室内 条件の交互作用 F(1,14)=1.87, n.s. F(1,14)=.52, n.s. F(1,14)=.20, n.s. F(1,14)=.19, n.s. 映像条件の主効果 F(1,14)=.02, n.s. F(1,14)=3.93, p<.10 F(1,14)=.18, n.s. F(1,14)=.00, n.s. 室内条件の主効果 F(1,14)=.00, n.s. F(1,14)=.04, n.s. F(1,14)=.06, n.s. F(1,14)=1.01, n.s.

2.3 総合考察

2.3.1 疲労に関する考察

疲労に関する結果ではフリッカー値において2D 条件と 3D 条件の差は認められなかった が,明室条件の方が疲労が大きい傾向があった。3D 条件・2D 条件のどちらかでフリッカ ー変化率が上昇した者が明室条件では8 名中 1 名であったのに対し,暗室条件では 8 名中 5 名が上昇したことから個人差はあるものの暗室での映像鑑賞の方がより疲れにくく,さらに 2D 映像よりも 3D 映像の方が疲れにくいと考えられる。2D 条件と 3D 条件の間に有意差が みられなかったのは渡邊・氏家(2011)や森田・安藤(2012)による先行研究を支持するもので ある。しかし暗室条件よりも明室条件の方が疲労が大きい傾向があり,暗室3D 条件におけ るフリッカー低下率が 4 条件の中で最も小さかったのは意外な結果であった。予備調査に おいて,暗室で3D 映像を鑑賞した 6 名全員が明室での鑑賞と比較し非常に映像が鮮明に見 えるという内省報告があったことから考えると,映像の鮮明さが疲れやすさに影響している のではないだろうか。個人差については実験参加者の数を増やし,さらに検討する必要があ るだろう。 映像による疲労自覚症状尺度では,明室条件ではどの項目および因子においても有意な差 は無く,2D 条件において有意傾向のみがみられたのに対し,暗室条件では 3D 条件におい

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