要
旨
電解質や血液ガス分析の解釈とその異常への初期対処 はすべての臨床医に求められる必須知識・技能である。 的確に診断し,適切な初期診療を行うためには,基本的 な考え方をしっかり身につけておくことが大切である。 体液・電解質調節異常に関する病態生理の理解のうえに 体系だった診断・治療手順を習得することが重要である。 本稿では,日常診療でみかけることが多く,かつ緊急の 対応が求められる電解質異常の代表として,低ナトリウ ム血症をとりあげた。成人領域では低 Na 血症の診療ガ イドラインが作成されている。小児低ナトリウム血症に 対しても病態生理に基づくとともに,臨床的アウトカム を重視した診療ガイドラインの作成が望まれる。1.は じ め に
電解質や血液ガス分析の解釈とその異常への初期対処 はすべての臨床医に求められる必須知識・技能である。 病棟では毎日膨大な数の検査結果が担当医のもとに届け られるし,重症患者では時々刻々と電解質・血液ガスの 結果が変動していく。一方で,輸液や電解質異常に対し て苦手意識をもっている研修医や若手医師が多いのも事 実である。苦手意識をもってしまうと,その後,何千回 と検査値をみたり,輸液の指示をだしてもなかなか身に つかないで終わってしまう。 日常診療でみかける電解質異常を的確に診断し,適切 な初期診療を行うためには,基本的な考え方をしっかり 身につけておくことが大切である。スポーツや武道と同 じで,基本がしっかり身についていれば,経験を重ねる 中で自分のものにすることができる。マニュアル的な知 識ではなく,体液・電解質調節に関する基礎的理解,そ の異常に関する病態生理の理解,さらに体系だった診断 手順を習得することが重要である。本稿では,日常診療 でみかけることが多く,かつ緊急の対応が求められる電 解質異常の代表として,低ナトリウム血症をとりあげ解 説する。2.低ナトリウム血症の疫学と臨床的意義
低 Na 血症は血清 Na 濃度が 135 mEq/L 未満と定義さ れる。低ナトリウム血症は小児で最も多くみられる電解 質異常であり,その頻度は患者背景や医療環境によって 異なるが,軽度のものを含めると入院患者の 25%に,重 症例は約 1%にみられると報告されている1)-3)。図 1 に 聖路加国際病院予防医療センター受診者の血清 Na 濃度 と入院患者の入院時血清 Na 濃度の分布を示したが,健 常者では血清 Na 濃度がほぼ正規分布を示すのに対し, 入院時には血清 Na 濃度が低くなっていることがわか る。入院を要する患者では血清 Na 濃度を下げる原因が あることが推測される。図 2 は小児病棟入院患者を対 象に,入院時の血清 Na 濃度の分布と入院中の最低血清 Na 濃度の分布を示したものだが,入院中に低 Na 血症が 進行する傾向を認めている。入院患者では低 Na 血症の 頻度が高くなることは他にも多数の報告があり,その一 因として不適切な輸液療や定期的な検査を怠ったために 生じることが指摘されている4)。 低 Na 血症は特異的な症状に乏しいため,検査で偶然 に発見されることが多い。高度,急性の低 Na 血症は脳 細胞の腫脹や脳ヘルニアを起こすため致命的となるが, 慢性の中等度低 Na 血症も成人では入院期間,人工呼吸●総 説●
日常診療でみかける電解質異常―どう考え,どう対処するか
小松 康宏
(受付日:平成 27 年 10 月 14 日 採用日:平成 28 年 2 月 4 日) 聖路加国際病院腎臓内科 連絡著者:〒104-8560 中央区明石町 10-1 聖路加国際病院腎臓内科 小松康宏 E-mail: [email protected] doi.org/10.3165/jjpn.rv.2015.0007 Key words: 低ナトリウム血症 / 抗利尿ホルモン / 電解 質異常 / 診療ガイドライン器使用,入院死亡の独立した危険因子であると同時に, 集中力欠如と歩行障害による,転倒の危険も増すことが 知られている5)。
3.体液恒常性の維持と低ナトリウム血症
生物の周囲にある環境(外部環境)は常に変化している が,生体が生命を維持するために内部環境を安定した状 態に維持する働きを恒常性(homeostasis,ホメオスター シス)とよぶ。内部環境とは主に細胞外液を意味し,細 胞外液の栄養素や電解質濃度,細胞外液量,細胞外液の 温度(=体温)などが関係する。体の内部ではあるが,生 体を構成している個々の細胞の立場からすれば,細胞を 図 2 小児病棟入院患者の血清 Na 濃度の分布 図 1 健診受診者と入院患者の血清 Na 濃度の分布つつんでいる周囲の環境といえる。 体液恒常性は主に自律神経系や内分泌系の働きを介し て調節されている。細胞外液量を規定する主因子は水と ナトリウムであるが,ナトリウムバランスの異常は細胞 外液量の変化に反映され,水バランスの異常は血漿浸透 圧ならびに血漿ナトリウム濃度の変化に反映される。 低ナトリウム血症の診断,治療にあたっては,「血漿ナ トリウム濃度の異常は主として水バランス調節機構の異 常である」ことを理解する必要がある。ナトリウムが過 剰にあるから高ナトリウム血症になるのではないし,ナ トリウム不足だけで低ナトリウム血症になるわけではな い。こ れ を 示 す 興 味 深 い 実 験 が あ る。1979 年 の Circulation 誌(米国心臓協会の機関誌)に報告されている ものだが,14 名の健常ボランティア(医師や病院職員)に 1 日 Na 摂取量を 10 mEq(食塩 0.6 g 相当),300,600, 800,1200,1500 mEq(食塩 88 g 相当)と徐々に増加させ, 血圧,血漿 Na 濃度,尿 Na 濃度の排泄量を測定している。 Na 10 mEq/日摂取時には血圧 113/69 mmHg,血漿 Na 濃度 137±0.36 mEq/L,尿 Na 排泄量 15±4 mEq/L だった が,Na 摂取量を 1500 mEq/日,食塩にして 88 g/日に増 加させると,血圧は 131/85 mmHg に増加,尿 Na 排泄量 も 1443±36 mEq/L に増加したが,血漿 Na 濃度は 135± 1.6 mEq/L と正常範囲である6)。 Na+は細胞外液の主要な陽イオンであり,その量は陰 イオンである Cl-とともに細胞外液量を規定する。すな わちナトリウム調節は細胞外液量の調節機構といえる。 細胞外液量(すなわちナトリウム量)調節の主な受容器は 頸動脈洞,大動脈弓,心房,腎傍糸球体装置などにある 圧受容器で,有効循環血漿量の変化を圧の変化として感 知し,交感神経系,レニンアンジオテンシン系,心房性 Na 利尿ペプチド(ANP),抗利尿ホルモン(ADH)などを 介して効果器である腎臓と血管に伝える。腎尿細管では Na 再吸収亢進によって Na を保持し,心血管系では血管 収縮ならびに心拍出量増加などで血圧を維持する。 水バランスの受容器,センサーは中枢神経にある浸透 圧受容器で,血漿浸透圧の変化を感知し,情報を主に抗 利尿ホルモン(ADH)である AVP(Arginine vasopressin)を 介して効果器である腎臓の集合管ならびに視床下部の口 渇中枢につたえ,飲水量と尿濃縮によって水保持を調整 する。 水欠乏(脱水,dehydration)は自由水喪失にみあう水分 摂取がないことが原因であり,高ナトリウム血症を呈す る。血漿(Na+K)濃度と等しい(Na+K)濃度の尿が 1 L 喪 失しても血漿 Na 濃度は変わらないが,電解質濃度が 0 mEq/L の尿が 1 L 排泄されれば(実際にはここまでの希 釈尿は産生できないが)血漿 Na 濃度と血漿浸透圧が上 昇する。血漿浸透圧が上昇すると視床下部にある口渇中 枢細胞が刺激され,飲水行動が促され体内の水バランス が正常化に向かう。同時に前視床下部の第三脳室の終板 器官(OVLT)ならびに脳弓下器官(subfornical organ)に存 在 す る ニ ュ ー ロ ン と 視 索 上 核 の 大 型 神 経 分 泌 細 胞 (MNCs) が 浸 透 圧 受 容 体 と し て 働 き,コ リ ン 作 動 性 ニューロンを介して,視床下部の AVP 産生ニューロン で AVP を産生し,下垂体後葉から AVP 分泌を刺激する。 AVP は集合尿細管にある V2 受容体を刺激し,水チャネ ルであるアクアポリン 2(AQP2)を尿細管管腔側膜に移 動,挿入させ,集合尿細管の水透過性が亢進するので水 が体内に取り込まれる。Na の過剰摂取によって細胞外 液量が増加すれば尿から過剰な Na が排泄されるし,血 漿浸透圧上昇は飲水行動を刺激し高 Na 血症の発生は抑 えられる。 水過剰は自由水の負荷と自由水の排泄障害があるとき に生じる。水過剰があれば血漿浸透圧と血漿ナトリウム 濃度は低下し,ADH 分泌は抑制される。尿は濃縮され ないので希釈尿,すなわち大量の自由水が排泄される結 果,水バランスが維持され,血漿浸透圧,血漿ナトリウ ム濃度は正常に近づく。自由水負荷があり,血漿ナトリ ウム濃度が低いにもかかわらずなんらかの原因によって ADH 分泌があれば,濃縮尿が産生され,過剰な自由水を 排泄することができず,低ナトリウム血症が悪化する。 血漿浸透圧が低くても,疼痛,嘔気,ストレス,薬物, 悪性腫瘍や肺・中枢神経疾患の一部などは ADH 分泌を 刺激するので自由水が貯留し,低ナトリウム血症の原因 となる(表 1)。低ナトリウム血症の診療にあたっては, 病歴,薬歴,身体所見,検査所見から「ADH を刺激する 因子」をさがすようにしたい。
4.血漿 Na 濃度異常を理解する
血漿 Na 濃度異常を理解するうえで覚えておく基本的 な関係を表 2 に示した。高校レベルの化学ででてくる 基本的な関係を応用したものである。 血漿 Na 濃度の変化を理解する基本は Edelman の式で ある。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF) の Edelman が 1958 年に Journal of Clinical Investigation 誌 に報告したもので,血漿 Na 濃度,体内の交換可能な Na 量,K 量,体水分量には次の関係があることを示した7)。体内総(Na+K)´2 体水分量 =血漿 Na 濃度 ´2 血漿 Na 濃度(mEq/L)= 体内総(Na+K)体水分量 上記式での Na や K は骨などの組織に固定されたもの ではなく,細胞内液,細胞外液に移動できるイオンとし て「交換可能(exchangeable)」な Na と K を指している。 教科書に記載されている低 Na 血症,高 Na 血症に関 する各種公式(表 3)もすべて Edelman 式から導きだされ たものである。 Edelman 式は血漿 Na 濃度は体内総(Na+K)量と体水分 量の比率で決まること,低 Na 血症は分子が少ないか, 分母が多いかであることを示している。分子が少ない場 合でも,分母が大きい場合でも,低ナトリウム血症では 血漿浸透圧が低下しており ADH 分泌は抑制されている はずである。その結果,希釈尿が排泄され,血漿浸透圧, 血漿 Na 濃度は正常化に向かうのが血漿浸透圧の調整機 構である。低 Na 血症は,高自由水血症ないし自由水過 剰症と言い換えることができ,主な発症機序は,前述し た調整機構障害,すなわち自由水排泄障害があるか,自 表 1 ADH 分泌に関連する因子 生理的刺激 高血漿浸透圧 体液量欠乏 ストレス・疼痛 嘔気 妊娠 低血糖 不適切な ADH 分泌刺激 悪性腫瘍 肺疾患 肺炎 気管支喘息 中枢神経疾患 脳炎 髄膜炎 薬剤 SSRI,ビンクリスチン,ニコチン,DDAVP 阻害因子 低血漿浸透圧 体液過剰 エタノール フェニトイン SSRIs:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 表 2 血漿 Na 濃度異常を理解する基本関係 浸透圧= 溶液量(kg・H浸透圧物質mol数 2O・L) 血漿浸透圧=体内総(陽イオン+陰イオン)体水分量 血漿 Na 濃度=体内総(Na+K)体水分量 尿浸透圧= 尿中溶質osmole数尿量 表 3 血漿 Na 濃度異常に関する各種公式 A)低 Na 血症を補正するのに必要な Na 量 Na 欠乏量=(140-PNa)´体水分量 B)SIADH による低 Na 血症 自由水過剰量=140-PNa140 ´体水分量 C)高 Na 血症での自由水欠乏量 自由水欠乏量=PNa-140140 ´体水分量 D)Adrogue-Madias 式(輸液 1 L 投与後の血漿 Na 濃度の変化) Δ PNa = 輸液製剤(Na+K)-PNa体水分量+1 注:PNa:血漿ナトリウム濃度 上記の式を Edelman 式から導き出す方法は以下の通り A)低 Na 血症を補正するのに必要な Na 量 Na 欠乏(喪失)によって血漿 Na 濃度が 140 mEq/L から PNa (mEq/L)に低下した場合の Na 欠乏量は以下のようにして計算 できる。 血漿 Na 濃度が 140 mEq/L である場合,すなわち本来の体内 総(交換可能な)Na+K 量は, 140 =体内総(Na+K)体水分量 の関係から, 体内総 Na+K 量=140´体水分量 Na 喪失の結果,新たな血漿 Na 濃度が PNa となった場合に, PNa = 新たな体内総(Na+K)体水分量 新たな体内総(Na+K) 量= PNa´体水分量 Na 欠乏は[本来の体内総(Na+K)量]-[新たな総(Na+K)量]で あるから, Na 欠乏量=(140´体水分量)-(PNa´体水分量) =(140-PNa)´体水分量 =(140-PNa)´体重´0.6 低 Na 血症の補正に必要な Na 量は, Na 欠乏量=(目標血漿 Na 濃度-現在の血漿 Na 濃度)´体重´0.6 となる。 目標血漿 Na 濃度を 140 mEq/L としないで,現在の血漿 Na 濃 度よりも 1 mEq/L だけ上昇させようとする場合は,Na 補充量 =1´体重´0.6 mEq となる。
3% NaCl 液の Na 濃度は約 0.5 mEq/L なので,3% NaCl 液を 1 ml/kg 投与すれば血漿 Na 濃度は約 1 mEq/L 上昇することが予 想される。
B)SIADH 患者の自由水過剰量を推測する Edelman 式 PNa = 体内総(Na+K)体水分量 低 Na 血症が水分貯留のみで生じたならば, 現在の体内総(Na+K)量=正常時の体内総(Na+K)量 =体水分量´PNa の関係がある。 正常の PNa を 140 とすれば, 現在の体水分量´PNa´2 =正常時の体水分量 ´140´2 式を整理すると, 正常時の体水分量=現在の体水分量´PNa140 (1) 水分貯留量=現在の体水分量 A-正常時の体水分量 (2) なので(1)(2)から, 水分貯留量=現在の体水分量-〔現在の体水分量´PNa140〕 (次頁へ続く)
由水負荷があるかと考えられる。 自由水排泄が障害される原因には,(1)希釈尿が産生 されない,(2)集合管で自由水が再吸収されてしまう場 合がある。希釈尿が産生されない原因としては,腎不全 がある場合や近位尿細管での再吸収が亢進している場合 があり,後者は有効循環血漿量減少,溶質摂取不足で生 じる。ADH の産生・作用亢進があれば集合管で自由水 が再吸収される結果,自由水が貯留する。自由水負荷は 低張輸液や経口水分の過剰負荷がある場合であるが, ADH 作用亢進は,自由水排泄障害の原因であると同時 に,自由水再吸収よって新たに体内に自由水を産生する と考えることもできる。生理食塩液を投与した場合, ADH 作用亢進があれば尿が濃縮され,投与した生理食 塩液にみあう尿量がみられない。生理食塩液を 2 L 投 与したにもかかわらず 1 L しか尿が産生されなければ 体内に自由水が 1 L 産生されることになる(desalination 現象)。医原性低ナトリウム血症の原因として低張輸液 処方が指摘されることが多いが,現実には生理食塩液の 投与でも ADH 分泌刺激があれば自由水貯留,低 Na 血 症が発症する。Steele らは婦人科手術をうける 22 名を 対象に,術後の血液・尿電解質の変化を測定し,等張液 を補液されているのに,血漿 Na 濃度は 140±1 から 136± 0.5 mEq/L に低下,22 名中 21 名で血漿 Na 濃度が低下 し,最低値は 2 名で 131 mEq/L であった。全例で尿 Na 濃 度 は 294±9 mEq/L と 高 値 を 示 し て い る8)。 Desalination(脱塩)現象の原理を図 3 に示す。
5.低ナトリウム血症はなぜ治療する必要がある
のか? どのように治療するか?
大量の低張液投与などが原因の重篤な神経症状を呈す る高度・急性低ナトリウム血症は放置すると脳浮腫・脳 ヘルニアから致死的な経過をたどるため,迅速な補正が 必要である。一方,神経症状が軽度の場合や,慢性的な 軽度・中等度の低ナトリウム血症は治療が必要であろう か? 治療する場合には,補正の目標は「血漿 Na 濃度 の正常化」であろうか。 現在,英文の低ナトリウム血症の診療に関するガイド ライン・提言は少なくとも 10 件あるが,このなかでも =現在の体水分量´(1- PNa140) =現在の体重´0.6´(1-PNa140) =現在の体重´0.6´(140 -PNa1440 ) C)高 Na 血症での自由水欠乏量 PNa = 体内総(Na+K)体水分量 高 Na 血症の原因が純粋な水欠乏ならば体内の総(Na+K)量は 不変である。 現在の体内総(Na+K)量=正常時の体内総(Na+ K)量 =PNa´ 体水分量 正常時の血清 Na 濃度を 140 mEq/L とすれば, 現在の体水分量´PNa =正常時の体水分量´140 正常時の体水分量=現在の体水分量´PNa140 水分欠乏量は正常時と現在の体水分量の差となるので, 水分欠乏量=正常時体水分量-現在の体水分量 =(現在の体水分量´PNa140)-現在の体水分量 =現在の体水分量´(PNa140-1)= PNa-140140 ´体水分量 となる。 D)Adrogue-Madias 式(輸液 1 L 投与後の血漿 Na 濃度の変化) 輸液前の体内総溶質量= PNa´2´TBW 輸 液 1 L 後 の 体 内 総 溶 質 量 = [(輸 液 Na+輸 液 K)´2]+ PNa´2´TBW 輸液 1 L 後の血漿浸透圧= [(輸液Na+輸液K)´2]+PNa´2´TBW体水分量+1 血 漿 Na 濃 度 の 変 化 量 =[(輸液Na+輸液K)´2]+PNa´2´TBW体水分量+1 -PNa = [輸液Na+輸液K-PNa]TBW+1 図 3 生食を投与しても低 Na 血症になる(脱塩現象) 理解しやすくするため生理食塩液の Na 濃度を 140 mEq/L として 示した。 Na 濃度 140 mEq/L の生理食塩液を 6 L 投与した後,Na 濃度 140 mEq/L の尿が 6 L 排泄されれば体内の Na 量も水の量も変わらない ので血漿 Na 濃度は変化しない。しかし,投与された生理食塩液中 の NaCl が 3 倍に濃縮された尿として 2 L だけ排泄された場合,体 内の総 Na 量は変わらないが,自由水が 4 L 負荷されることになる。 血漿は希釈され低 Na 血症となる。投与された生理食塩液が腎臓 で濃縮され,自由水が負荷(産生)されたと考えることができる。 塩分のはいった点滴から塩分を除去し,自由水が産生されること を脱塩現象(desalination phenomenon)という。 表 3 (続き)2014 年に欧州内分泌学会,欧州腎臓学会・透析移植学会 (ERA-EDTA),欧州集中治療学会が合同で作成した「成 人低 Na 血症の診療ガイドライン(以下,欧州ガイドライ ン)」は注目に値する9)10)。最新の診療ガイドライン作 成方法に基づき,エビデンス総体に基づく推奨を示した 点で,特に臨床的アウトカムを重視している点で低ナト リウム血症診療のパラダイム・シフトといえるものであ る。欧州ガイドラインは「なぜ低ナトリウム血症を治療 する必要があるのか」自体をも問いかけている。 慢性的な再生不良性貧血患者で Hb 5 g/dl の患者や, 腎性貧血患者で Hb 10 g/dl の患者に対し,Hb を正常化 しようとはしないし,ショック状態でないかぎり輸血は しないであろう。では血漿 Na 濃度が 130 mEq/L の慢性 低ナトリウム血症患者の治療はどうするのがよいのか? 放置はできないにしても,血漿 Na 濃度補正の目標と期 間はどのようにするのが適切なのだろうか。残念なが ら,現時点で不明なことも多いが,欧州ガイドラインは, 従来の生化学的重症度(血清ナトリウム濃度に分類),発 症期間に基づく分類(急性,慢性)のほかに,神経症状に よる重症度分類を定義し,これらの組み合わせによって 治療方針を選択することを推奨している。表 4 に欧州 ガイドラインと UpToDate で提案されている Stern らの 重症度分類を示した10)11)。 嘔吐,循環呼吸障害,痙攣,昏睡などの症状は迅速な 治療が必要な重症(severe)と位置づけ,3% NaCl 液 150 ml を 20 分間で投与し,症状の改善や血漿ナトリウム濃 度の改善がない場合には再度繰り返すことを推奨してい る。成人が対象だが,150 ml はおよそ 2 ml/kg に相当 し,小児患者を対象とした治療提言にも合致する量であ る12)。理論的には血漿ナトリウム濃度が 2 mEq/L 上昇 することが予想されるが,治療開始直後の時間あたりの 血漿ナトリウム濃度の上昇が早くても,24 時間以内の総 Na 上昇値が 10 mEq/L を超えないかぎり浸透圧性脱髄 症候群のリスクは低いことが判明している。 欧州ガイドラインは,緊急補正を目的とした高張 NaCl 液投与法として,持続点滴静注ではなく,短時間静 注を繰り返すことを推奨している。この点に関してはガ イドライン作成委員間でも議論があったようだが,症状 と検査値をモニターしながら短時間静注を必要に応じて 繰り返すほうが,確実な補正と不注意による過剰補正を 防ぐことができると考えられる。 SIADH 患者の低ナトリウム血症の治療として vaso-pressin 受容体拮抗薬(vaptan)投与は病態生理の点から理 に適っている。しかし欧州ガイドラインでは使用を推奨 していない。反応性が予測できず,過度な補正となるこ とを懸念しているからである。この点も今後の研究が必 要な課題である。 神経症状から重症度を分類することは臨床的アウトカ 表 4 低ナトリウム血症の重症度分類 欧州ガイドライン 2014 Stern(Up to date) 生化学的(血清ナトリウム値)重症度
軽度(Mild) 130-135 mEq/L 130-135 mEq/L 中等度(Moderate) 125-129 mEq/L 121-129 mEq/L 高度(Profound) <125 mEq/L ≤ 120 mEq/L
発症期間による分類 急性(Acute) <48 時間 超急性:数時間 急性:< 24 時間 亜急性:24~48 時間 慢性(Chronic) ≥ 48 時間 >48 時間 神経症状による重篤度分類 軽症(Mild) Moderately severe
嘔気(嘔吐なし), Confusion 頭痛 Mild to moderate 頭痛,嘔気,嘔吐,倦怠感, 歩行障害,Confusion 中等度(Moderate) 高度に重篤(Severe) 嘔吐,循環呼吸不全 傾眠,痙攣,昏睡 痙攣,obtundation(知覚鈍麻), 昏睡,呼吸停止
表 5 欧州ガイドラインにみる低ナトリウム血症の治療方針 重篤な神経症状がある急性・慢性低ナトリウム血症 初期 24 時間の治療 3% NaCl を 150 ml(あるいは 2 ml/kg),20 分かけて静注する 20 分後に血漿 Na 濃度を再検しつつ,次の 20 分間で上記治療をくりかえす 目標の 5 mEq/L 上昇ないし症状消失がみられるまで 2 回くりかえす 初期治療後に血漿 Na 濃度が 5 mEq/L 上昇し,症状改善が見られた場合 高張食塩水の投与は中止する 原因特異的な治療が開始されるまで,点滴ラインを生理食塩液で確保 可能ならば診断特異的な治療を開始し,血漿 Na 濃度が安定化することをめざす 治療開始後の 24 時間では,血漿 Na 濃度補正の上限は 10 mEq/L を超えないようにし,その後の 24 時間毎は 8 mEq/L を超えないよう にする(血漿 Na 濃度が 130 mEq/L に達するまで) 血漿 Na 濃度が安定するまでは,6 時間後,12 時間後に測定し,その後は毎日測定 初期治療開始後,血漿 Na 濃度が 5 mEq/L 上昇しても症状改善がない場合 3% NaCl を持続点滴静注し,血漿 Na 濃度が 1 mEq/L/ 時間で上昇するようにする 症状が消失したり,血漿 Na 濃度の上昇が 10 mEq/L に達したり,血漿 Na 濃度が 130 mEq/L に達したら 3%食塩水の投与を中止する 低 Na 血症以外の原因を探る 3% NaCl を投与している間は,4 時間毎に血漿 Na 濃度を測定する 中等度に重篤な症状を呈する低ナトリウム血症に対する治療 ただちに診断・アセスメントを行う 低 Na 血症の原因となりうる薬物や他の因子を中止する 原因特異的治療を行う 3% NaCl を 150 ml,20 分かけて投与する 治療目標は 24 時間で血漿 Na 濃度の 5 mEq/L の上昇 治療開始後の 24 時間では,血漿 Na 濃度補正の上限は 10 mEq/L を超えないようにし,その後の 24 時間毎は 8 mEq/L を超えないよう にする(血漿 Na 濃度が 130 mEq/L に達するまで) 血漿 Na 濃度を 1,6,12 時間後に測定する 血漿 Na 濃度が上昇しても症状が改善しなければ,他の原因を精査 診断にもとづいて治療をすすめても血漿 Na 濃度が低下する場合には,重篤な症状のある低 Na 血症患者として管理する 重篤な症状も中等度に重篤な症状もない急性低 Na 血症 血漿 Na 濃度の測定法は以前と同じであること,検体間違いがないことを確認する 低 Na 血症を生じうる一切の輸液,薬物,他の因子を中止する ただちに原因精査をすすめる 原因特異的な治療を開始する 急性の血漿 Na 濃度低下が 10 mEq/L を超える場合には,3% NaCl を 150 ml,20 分かけて投与する 以前と同じ測定法で,血漿 Na 濃度を 4 時間後に再検する 重篤な症状も中等度に重篤な症状もない慢性低 Na 血症 一般的な管理 低 Na 血症を生じうる不要な輸液,薬剤,他の因子を中止,原因特異的な治療を行う 軽度低 Na 血症に対しては,血漿 Na 濃度を補正することだけを目的とした治療は推奨しない 中等度ないし重篤な低 Na 血症では,血漿 Na の補正速度は 24 時間で 10 mEq/L を超えず,その後の 24 時間毎には 8 mEq/L を超えない ようにする 血漿 Na 濃度が安定するまでは 6 時間毎に血漿 Na 濃度を測定する 困難な低 Na 血症では,診断アルゴリズムを見直し,専門医にコンサルトする (次頁へ続く)
ム優先という考え方に合致するが,「嘔気があれば中等 度,嘔吐があれば高度に重篤」な状態に分類される点は 注意が必要である。嘔気,嘔吐はさまざまな病態,疾患 でみられるし,小児の場合には意識レベル評価も困難な こともある。欧州ガイドラインには「小児の低ナトリウ ム血症はそれ自体が特殊な専門領域である」として小児 患者の診療に用いることは想定していない。欧州ガイド ラインをそのまま小児に適用することはできないが,「重 篤な神経症状を呈する患者には迅速な補正を持続点滴で はなく 20 分間の静注で行う」「治療開始後 24 時間の補 正の上限(目標ではない)を 10 mEq/L 以内とし,その後 は 24 時間ごとに 8 mEq/L/24 時間以内までの補正とす ること」は小児低ナトリウム血症診療に関する提言にも みることができる12)。さらに「重篤な症状も中等度に重 篤な症状もない慢性低ナトリウム血症で,軽度の低ナト リウム血症(130~135 mEq/L)には血漿 Na 濃度を補正す ることだけを目的とした治療は推奨しない」に反映され る考え方,数値を補正するのではなく真の臨床的アウト カム改善が重要であるという視点を取り入れた小児低ナ トリウム血症の診療指針作成が必要であろう。
6.ま と め
日常診療で最も多く遭遇する低ナトリウム血症の診 断,治療を考えるうえでの基本的知識をまとめるととも に,数値補正ではなく臨床的アウトカム改善を重視する 欧州低ナトリウム血症診療ガイドラインの考え方を紹介 した。 「日本小児腎臓病学会の定める基準に基づく利益相反 に関する開示事項はありません。」 文 献1) Moritz ML, Ayus JC: Prevention of hospital-acquired hyponatremia: do we have the answers? Pediatrics 2011; 128: 980-983. 2) Patel GP, Balk RA: Recognition and treatment of hyponatremia in
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10) Spasovski G, Vanholder R, Allolio B, Annane D, Ball S, Bichet D, 体液量過剰の患者 軽度・中等度低 Na 血症では血漿 Na 濃度を補正することだけを目的とした治療は推奨しない 体液過剰を防ぐために水分制限を行う Vasopressin 受容体拮抗薬の使用は推奨しない Demeclocycline の使用は推奨しない SIAD の患者 中等度,高度の低 Na 血症では,水分制限を初期治療とする 中等度,高度の低 Na 血症では,次の治療として,溶質負荷(尿素 0.25-0.50 g/kg/ 日ないし少量のループ利尿薬と経口食塩) 中等度,高度の低 Na 血症ではリチウム,demeclocycline は推奨しない 中等度・高度低 Na 血症では,vasopressin 受容体拮抗薬の使用は推奨しない 循環血漿量減少のある患者 生理食塩液ないし細胞外液製剤を 0.5-1.0 ml/kg/ 時間で点滴し,細胞外液量を確保する 血行動態が不安定な患者は,集中治療が可能な環境で管理する 血行動態が不安定な患者は,急速大量補液の必要性が,急速な血漿 Na 濃度の上昇のリスクよりも優先される 表 5 (続き)
Decaux G, Fenske W, Hoorn EJ, Ichai C, Joannidis M, Soupart A, Zietse R, Haller M, van der Veer S, Van Biesen W, Nagler E; Hyponatraemia Guideline Development Group: Clinical Practie guideline on diagnosis and treatment of hyponatremia. Eur J Endocinol 2014; 170: G1-G47
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12) Moritz ML, Ayus JC: Hospital-acquired hyponatremia―why are hypotonic parenteral fluids still being used? Nat Clin Pract Nephrol 2007; 3: 374-382.
Hyponatremia: Common electrolyte disorders in clinical practice ―How to understand and how to manage
Yasuhiro Komatsu
Division of Nephrology, Department of Medicine, St. Lukeʼs International Hospital
Management of electrolyte and acid-base disorders is the essential requirement for every physician. Basic knowledge of renal physiology as well as systematic approach is critical for the diagnosis and treatment of electrolyte disorders. Hyponatremia is among the most common electrolyte abnormalities in children, and results in serious morbidity without adequate management. Hyponatremia develops due to the disorders in water balance, resulting in accumulation of excessive electrolyte free water and impaired free water excretion. Sustained action of ADH in the presence of hyponatremia and serum hypo-osmolality is the underlying mechanism. Physician needs to find the factors which stimulate ADH secretion. Several clinical guidelines are developed for hyponatremia in adult patients. The present review addresses the clinical issues in the diagnosis and treatment of hyponatremia, referring to the latest European guidelines of hyponatremia in adult. We need to develop outcome oriented clinical practice guidelines targeting hyponatremia in children.