平成 年 月 日㈭、日本医師会館にて標記連絡協議会が開催され、 名の参加があった。 今回は、日本医師会ACLSの見直しと今後の活性化に関する協議、 都道府県医師会を対象と した災害医療対策に関する調査結果の公表、JMAT携行医薬品リストの提示、災害医療体制 整備に向けた研修などが行われた。
以下、協議会の概要を簡単に報告する。
※ACLS:Advanced Cardiac Life Support JMAT:Japan MedicalAssociation Team
都道府県医師会救急災害医療担当理事連絡協議会
広島県医師会常任理事野間 純
山田 博康
と き 平成 年 月 日㈭ 午後 時 ところ 日本医師会館 小講堂・ホール~改正版日医ACLS要綱、JMAT携行医薬品リストを発表~
会長挨拶(要旨)
日 本 医 師 会 長横倉 義武
災害対応においては、通常の医療提供体制が それぞれの地域でどれだけ構築されているかが 状況を大きく左右する。東日本大震災では被災 地の医療関係者の皆さまがご自身の被災にも関 わらず献身的な活動をされたが、災害前から医 師不足であった地域はさらに医療提供体制が悪 化している状況もみられる。また、外部から医 療支援をする場合も、派遣元の医療体制に余裕 がなければ、規模や持続性が確保できない。 平素からそれぞれの地域の医療体制に少し余 裕があれば、緊急時の対応も行いやすくなる。 現在、日本医師会では地域医療の再興という命 題を掲げているが、これは結果として全国の災 害医療の対応能力を高めることにもつながると 考えている。 東日本大震災で犠牲になられた皆さまのためにも、この震災の教訓を大切にしながら、次の 大災害に備え、全国の医師会が一体となって取 り組めればと思う。
救急医療について
地域の医療者 人 人が救急蘇生法を身につけ ておくことは、地域医療体制の向上のみならず、 事故発生時や災害時の対応力底上げにつながる。 日医ACLS事業はそういった研修や医師を後押 しする形で実施されてきたが、救急蘇生ガイド ラインの改訂に係る内容や学習目標の見直しの 必要性、研修会指定数・修了証交付者数の伸び 悩みなど、いくつかの課題を抱えていた。 このたび日本医師会救急災害医療対策委員会 において、日医ACLS要綱の見直しが行われた ことを受け、本協議会で周知と内容説明が行わ れた。主な改正点は下記のとおり。 ○学習目標中の「到達目標」に、「心停止の危険 を認識し、心停止を予防できる。」「心拍再開 後の治療を述べることができる。」を追加。 ○正式に、一年以上前に開催された研修会で あっても、指定申請を受け付けることとした。 ○研修会が、相当の期間をあけて二回に分けて 開催することができることを明記(二回を合 わせて一つの研修会とみなす。)。 ○あらかじめeラーニングにより知識の習得が行 われていれば、研修会ではより効果的な実習 ができることを明記。 ○「オプション研修」(標準カリキュラムを超え た内容のもの:改正前は、脳卒中、外傷、不 整脈、急性冠症候群、その他)に、「小児の救 命処置」「災害医療」を追加。 ○標準カリキュラムを改正 説明後、石井正三日本医師会常任理事より、 各地域でのACLS研修推進の呼びかけが行わ れた。なお、今回改正された要綱は、日本医 師会HP(http://www.med.or.jp/japanese/ members/bunsyo/data3/chiiki1/25chi1_77.pdf ※日医メンバーズルームへのログインが必要) にも掲載されている。必要に応じてご参照い ただきたい。災害医療について
今後想定される災害に備え、JMATの環境整 備をはじめとして、さまざまな体制整備が重要 となる。 石井正三日本医師会常任理事は、 都道府県 医師会を対象として実施した「災害医療に関す る調査」の結果を報告するとともに、医療救護 班(JMAT)派遣に伴う実費弁済、補償、事後 報告があれば医師会独自の判断による派遣を認 める「みなし規程」など、医師会・行政等間の 災害時医療救護協定においてJMAT環境整備を 進める上で重要となる項目について解説した。 また、JMATが被災後一週間以内に被災地に 支援に行く場合、その初期に準備する薬剤のリ ストが指針として提示された。 予想される首都直下型地震、南海トラフ巨大 地震では、 ~ 日、状況によっては ヵ月以上 の薬剤の不足および供給低下が予想され、それ までの間は携帯する薬剤で初期の避難所の巡回 診療や被災者の医療活動を行うことが求められ る。 リストは、東日本大震災時の避難所において、 「いつものお薬」の処方依頼が多かったことを踏 まえて作成され、多岐にわたる被災者への支援 を可能にし、軽量コンパクトに、現場で迅速に 処方できることを目指す。コンセプトは、①大 多数の医療従事者が知っていて扱いやすいこと ②値段が安価であること ③流通上のフローとス トックで確保しやすいこと、である。 今回示された成人基本セットは、春や秋にお よそ , 人の地域の避難所( ヵ所程度)へ支 援に行き、 人程度を診察、一人あたり最大 日 分処方する状況の一週間を想定している。また、 精神科や妊婦緊急搬送、小児科などのリストパ ターンも示された。季節、災害の種類や規模、 感染症情報などにより、必要となる薬剤の種類 および数量は異なるため、リストにこだわりす ぎず調整することも大事である。 これらのリストは日本医師会ホームページ (http://www.med.or.jp/jma/eq201103/)に掲 載されている。また、今後全国の医師や医師会、 各医会、関係機関からの意見をもとに、定期的 に改訂を目指す。救急医療研修
①地域における災害医療体制構築
救急振興財団救急救命九州研修所教授郡山 一明
東海地震、東南海・南海地震、そして南海ト ラフ巨大地震は、今後 年以内に何らかの形で 発生する可能性が高いと想定されており、また、 その被害は計り知れない。災害に対し、他地域への支援、自地域の対応と、双方の準備を進め ていく必要がある。 災害医療では、 人の患者に対し 人の医師が 継続して診療を行わない。個人の裁量ではなく 統一基準による医療が必要になるほか、医療資 源の投入にも限りがある。災害医療は、日常医 療の延長ではないと認識する必要がある。災害 医療と聞くと外傷処置をイメージされる方もお られるが、災害時には内因性疾患も増えること から、外科系医師だけでなく、すべての医師が 災害医療の心構えと備えを持っておくべきであ る。 東日本大震災で活躍されたDMATやJMAT は、災害医療の分類としてはいずれも他地域を 支援する体制である。自地域対応の体制は、地 域防災計画で定められているケースが多いが、 日常の救急医療の延長ではなく、災害医療とし ての体制を備える必要がある。発災後、 時間ほ どすればDMAT支援があると想定されるが、そ れまでの時間、発災直後から 時間の自地域で の医療体制をいかに整備するかが大きな課題で ある。 発災地域の医師はすべて、好むと好まざると に関わらず、発災直後から災害に直に対応せざ るを得ない。自地域の災害に対応するためには、 緊急処置技能を全医療従事者のMissionとして位 置付けて個人スキルの開発を行うべきであるし、 地域の体制整備も行わなければならない。例と して、北九州市医師会では、会員を対象に災害 医療研修を行い、認定証を発行するとともに、 認定証を持つ医師が災害医療に協力いただいた 際の補償制度を整備している。 地域の医師会は、災害医療体制構築のために 「災害医療計画」を策定することが望ましい。ま た、災害医療が効果的に実施されるためには、 行政計画との整合性が必要となるので、災害医 療計画を策定するとともに、地域防災計画を所 管している行政担当部局、医療を所管している 行政担当部局との会議を行い、実効性のある体 制を目指していただきたい。 ②医師会における災害対応組織づくり (IncidentCommand System)
九州大学大学院医学研究院先端医療医学 講座災害救急医学助教
永田 高志
平時の業務と異なり、災害現場、事件現場に おいては、異なる職種・組織が協力して対応に 当たることが求められるが、それは容易なこと ではない。これを解決するためには、災害現場、 事件現場へ対応する際の命令系統や管理手法を 標準化することが必要である。そして、人員・ 施設・設備・作業手順そして通信の統合を可能 とし、災害資源利用を計画・管理するための共 通の手順を確立する具体的な内容が含まれなけ ればならない。 米国で開発された、インシデントコマンドシ ス テ ム(Incident Command System:以 下 ICS)とは、危機管理・緊急時対応における組 織のあり方、あるいは個人のあり方を標準化し たルールである。 福島原発事故発生時には、緊急時対応の組織 構造として、所長をトップに 部門が横並びと なる状況であったが、実務対応上では 部門が 一斉に情報と指示受けが行われる上、部門同士 の横の連携や情報共有体制も確立していなかっ たため、適切な対応を行うことは極めて困難で あった。その教訓を踏まえ、東京電力はICSを 導入して緊急時対応が可能な組織整備を進めて いる。 われわれ医師は、その職業的専門性により、 指揮命令に基づいて動くということが苦手であ るが、災害時対応において個人の行動のみで解 決できないことが多いのはご存じのとおりであ る。そこで、どのような体制を整備するかが重 要となるが、そのツールの一つとして、ICSが 挙げられる。今回はICSの つの原則を解説す る。 # .現場に指揮命令に関する権限を委譲する (delegation ofouthority)わが国は緊急時においても、中央の責任者へ の報告と意想決定なくして現場は緊急時対応を 行うことができない。現場では次々に変化する 目の前の状況に対して判断が求められるので、 現場で考え、動くことが迅速かつ適切な対応に つながる。 # .組織に関わらず危機管理・緊急時対応にお いて基本的な部分を標準化する(ICS組織図) 危機管理・緊急時対応において、事態の大小 に関わらず共通になる組織機能として、①指揮 ②実行部門 ③ロジスティック部門 ④計画部門 ⑤財務管理部門の つが挙げられる。JMATの運 用を例に取ると、 ①避難所巡回など、JMATの地域医療支援活動 は地域の理解が不可欠であるため、指揮部に おいて、現場指揮官は地域を良く知る地元の 医師会長、ないしは地元の医療のリーダーが 就任し、他の医師会幹部とシフト制でポスト
を務めるべきである。現場指揮官の責任は大 きくなるが、その責任に押しつぶされないよ うにするためには、安全確保と適切な休息 ( 時間シフトなど)、 人の人間が統制する人 員は 名程度に徹底して、多くの人間を統制す る際には組織見直しを行うこと、組織の中で 一つの指揮命令系統の中で指示や情報伝達を 行うこと、人の部下に対して 人の指揮官のみ 責任を負うこと、などの原則を徹底する必要 がある。 ②外部からのJMATは、実行部門の一翼を担う。 現場指揮官の指示のもと活動し、勝手な行動 を行ってはならない。経験者であれば、状況 によっては現場指揮官のアドバイザリース タッフとしてサポートする立場でも歓迎され る。 ③JMAT活動では、現地における薬剤・医療資 機材の調達、そして水・食糧・生活必需品・ ガソリンなどの補充やロジスティックの協力 は不可欠である。薬剤の調達は地元の薬剤師 会、卸の協力が不可欠であり、JMAT活動の ロジスティック部門において中心的な役割が 期待される。また継続的に派遣されるJMAT の現地におけるさまざまな手配(宿舎、食糧、 緊急時など)も行う。 ④計画部門は、現場指揮官の所属医師会事務局 が担うべき重要な調整業務である。被災地そ して災害支援活動に関するあらゆる情報収集 と整理、関係者への共有を行う。災害医療支 援・復興に関する短期・中期・長期計画の作 成、全国から派遣されるJMATの調整とシフ ト編成、派遣先都道府県医師会などとの調整 作業などを行う。 ⑤JMAT活動は災害救助法に基づいて行われ、 費用弁済(後払い)が行われる。そのために は活動に関わる財務管理を行うことが必要で ある。医師会間や医師会・行政間の協定に基 づき、通常、派遣した医師会が経費の管理を 行い、その後、協定や災害救助法に基づく支 払い手続きを行う。 などである。 # .現場活動に対して支部、本部、中央政府は 後方支援に徹する(Coordination)
有事の際は首相や社長、会長と言われる最高 責任者に強力な権限を集中して対応すべきだと いう議論がしばしば行われるが、これは危機管 理・緊急時対応の原則からは過ちであると言わ ざるを得ない。災害による直接的被害を受けて いない支部・本部・中央政府といった機関の業 務は、災害現場の活動に対して最大限の後方支 援を行うことである。情報収集、関係各機関と の調整業務、財政支援、マスコミ対応など数多 くの業務が存在する。 # .現場そして後方は共通認識図(Common OperationalPicture)を通じた情報を共有す る 多くの災害において、災害現場と後方の本部 の間には、物理的な距離の制約のため、情報や ヒト・カネ・モノに関してさまざまなギャップ が発生しうることは事実であり、多くの混乱が 発生してしまう。これを解決する一つの方法は、 共通認識図、すなわち一枚の地図の上に災害の 現状を提示し、関係者で情報を共有することで ある。 ICSは、これまでのJMAT活動の体制と相反 するものではない。組織整備のツールとしてう まく活用してほしい。 岩手医科大学附属病院 岩手県高度救命救急センター助教
秋冨 慎司
東日本大震災において、岩手県では消防ヘリ が火災対応に追われて傷病者の救助に回ること ができず、通信網も崩壊していたために応援の 要請もままならなかった。すなわち、被災者を 助けに行きたいが助けに行けない、応援も来な い、期待できないという状況であった。必要な 情報の伝達・マネジメントや責任の所在を明ら かにした指揮統制が十分に機能していなかった。 こういった状況は、南海トラフ巨大地震の際に も発生することが予想される。大規模災害に備 え、どのような体制を構築すべきであろうか。 一つは、現場レベルでも、現場の責任者レベ ルでも、すべての関係者がタテの指揮命令系統 とヨコの多機関連携について、しっかり担当 (何をお互いにすべきか)を決めて情報網を作ら ないといけないということである。警察、消防、 自衛隊、行政、医療など各分野が、互いの専門 性、得意分野を活かせる連携が望ましい。岩手 県では災害対策本部にICSを導入し、関係機関 と市町で情報を吸い上げて、皆が集まって調整 するための「総合調整所」を作った。 医療分野でも、ICSに基づいた体制づくりが 求められる。例として、SCU(Staging Care Unit)を運用しようと思えば、診療以外にも搬 送・情報統制・後方支援など、さまざまな部 門・担当者が必要になる。現場に指揮命令系統 の権限、責任を持たせようとするなら、活動の目的と内容を明確化しなければならない。責任 者になったときに最も怖いのは、部下が勝手に 動いてしまうことである。部下に責任を負わせ て権限を委譲するためには、「これだけやってく れ、分からなかったら聞いてくれ」という考え 方を徹底する必要がある。部門、あるいは担当 者ごとの行うべきことを示すアクションカード を作成しておくことは、一つの方法である。 さて、指揮命令系統と多機関連携(コマンド &コントロール)とは以下の任務を遵守するこ ととされている。 ①目的と対応対象を確立し更新する ②組織の役割、責任、関連を決定する ③活動の規則、制約、タイムスケジュールを 確立する ④法令遵守と責任への法的保護 ⑤状況と進行を監視し評価し報道する ⑥決定に関係する事項を記録する ⑦資源の管理 ⑧情報の拡散 タイムスケジュールとは、災害時に行うべき ことが発災後 時間後、 時間後、一週間後、 ヵ月後など、その時その時で異なってくるの で、これらを時間軸で考え、発災後に必要な対 策と開始時期の目安を作成しておくということ である。 情報マネジメントについてお話する。責任者 となる場合、莫大な情報が押し寄せる。マネジ メント方法としては、まず、集めるべき情報を 明確化して部下に集めてもらい、次に、重複し た情報を集約化し、分析した後に計画を立てて、 アナウンスを出すことである。それだけでなく、 部下に指示したことがどこまでやれているか フィードバックをかけることが重要となる。情 報処理もICSなのである。 災害時、混乱が発生して情報が不通となって も、都道府県災害対策本部、そして医師会は、 医療救護活動について全体への指示を行わなけ ればならない。中でも、次の三点は重要である。 ①ルーチン業務を否定すること 従来の担当業務に固執せず、活動の目的 と内容を明確化し、全員の意思を方向付け る。 ②黙っていても欲しい情報があがってくる環 境にすること 必要となる情報の入力フォームを事前に 設定することで、情報の抜けやそれに伴う 二度手間、タイムラグがなくなる。混乱し た時に何をすべきかを事前に決め、それに 添って対応する。 ③組織だったJMATのシームレスな自立型支 援を計画すること 支援活動は、必ず現地の指揮下で行って もらうことを徹底し、現地での混乱発生を 防ぐ。 現地責任者が申し送りをするとそれに時 間をとられ、責任者が動けなくなるおそれ があるので、支援班単位での申し送りを徹 底していただくことで現地の疲労を防ぐ。 毎日、現地の責任者と会議を行い、逐次 医師会に報告する。 これは石井先生の言葉であるが、「被災地の demandに合わせて、JMATはそれに答える。 すべては被災者のため」という言葉がある。わ れわれは医師として、被災者の健康を守るため に、適切な対応をシステマティックにできる体 制を考えていきたい。