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依存症と家族

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(1)

アルコール健康障害の理解と対応

~生活習慣病との関連を中心に~

国立病院機構肥前精神医療センター

武藤 岳夫

2017.11.15. 平成29年度特定健診・保健指導に関する人材育成研修会 【技術編B】 1

(2)

わが国におけるアルコール消費の現状

• わが国のアルコールの消費量は、昭和40年以降平成

5年頃まで急速に増加し、近年はやや減少傾向。

• 日本人成人一人当たりの純アルコール消費量

→平均

7.2

リットル

(多量飲酒者上位20%が、全体の70%を消費!)

• 生涯飲酒未経験者:

12

%(男性5%、女性18.5%)

cf:西太平洋地域の平均:37%

(WHO: Global status report on alcohol and health–2014 ed., 他)

(3)

日本人の多くはもともとお酒に弱い体質!

• ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)

ヘテロ欠損型

日本人の

35%

多量飲酒者の

26%

アルコール依存症者の

16%

遺伝子レベルでお酒の弱い体質だが、アルコールに

慣れてたくさん飲めるようになっている人が多い

3

(4)

「アルコール健康障害対策基本法」

• 2010.7

日本アルコール関連問題学会が基本法制定を決議 →全日本断酒連盟に協力要請

• 2012.3.

超党派「アルコール問題議員連盟」が、基本法の 中身の検討に着手

• 2013.12.7. 参議院で可決→成立

• 2014.6.1. 「基本法」施行

• 2016.5.31 「基本計画」が閣議決定

現在、各自治体レベルでの具体的な基本計画が

策定中

(2017.9月末現在9自治体で策定済)

4

(5)

アルコール健康障害対策基本法の目的

• 酒類が国民の生活に豊かさと潤いを与え、酒類に関する

伝統と文化が国民の生活に深く浸透している一方で、

不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり、アル

コール健康障害は、本人の健康の問題であるのみならず、

その家族への深刻な影響や重大な社会問題を生じさせる

危険性が高い

アルコール健康障害対策に関し、

基本理念

を定め、

国や地

方公共団体等の責務

を明らかにし、国民の健康を保護す

るとともに、安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与

することを目的とする。(第1条)

5

(6)

アルコール健康障害とは?

• アルコール依存症その他の多量の飲酒、

未成年者の飲酒、妊婦の飲酒等の

不適

切な飲酒

の影響による心身の健康障害

をいう。(第2条)

6

(7)

わが国の20代の飲酒者割合の変化

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1968 1976 2003 2008 2013 男性 女性 .樋口ほか: 厚労科学研究報告, 2014. (%) (年) 7

(8)

胎児性アルコール症候群

FAS(Fetal Alcohol Syndrome)

FASの診断基準

1)母親の妊娠中の飲酒が確認されている。

2)顔面奇形の特徴的パターンがある。(眼裂が短い、平坦

な上口唇、人中がない、平坦な顔面中央部)

3)出生時の低体重、出生後の体重増加が少ない、身長に

比べて体重が少ないなどの発育障害

4)中枢神経系の神経発達異常が認められる。(出生時の

小頭、微細な運動障害、神経感覚聾、つぎ足歩行がうまく

できない、目と手の協調がうまくできないなど)

8

(9)

ビンジ・ドリンキング(無茶飲み)の問題

これまでの飲酒に伴う危険は、平均飲酒量あるいはある期間の総 飲酒量で評価しがちであったが、ビンジ飲酒(binge drinking, risky single occasion drinking, heavy episodic drinking) のもたらす危険が注目されている。  同じ週間飲酒量でも、週に2日7ドリンク/日飲む者の方が、2ドリン ク/日を7日飲む者より飲酒に伴うリスク(事故、虚血性心臓病、ア ルコール依存症など)が高い。  通常適量飲酒する者が稀に大量飲酒時の事故のリスクは、同じ 血中濃度の常習多量飲酒者の大量飲酒時に比べ高い。

Gmel G, et al: Risky single-occasion drinking: bingeing is not bingeing. Addiction 2010; 106: 1037-1045 Plunk AD, et al: Alcohol consumption, heavy drinking, and mortality: rethinking the J-shaped curve. Alcohol Clin Exp Res 2013; doi: 10.1111/acer.12250

(10)

アルコール健康障害対策基本法の基本理念

(第3条)

• アルコール健康障害の

発生・進行・再発の

各段階に応じた防止対策

を適切に実施

• 本人とその家族が日常生活及び社会生活を

円滑に営むことができるように支援

• 飲酒運転・暴力・虐待・自殺等の問題に関す

る施策との有機的な連携

10

(11)

非飲酒・断酒 危険の少ない飲酒 危険な使用 問題飲酒 アルコール乱用 アルコール 依存症

アルコール使用障害スペクトラム

酒量 アルコール関連問題 重大 なし 多量 ゼロ Saitz, 2005を改編

進行予防

発生予防

再発予防

11

(12)

アルコール依存症者、多量飲酒者の現状

「WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究」 平成25年度総括研究報告書より 項目 男性 女性 推計数(男女計)

依存症者(ICD-10)

1.9%

0.3%

109万人

多量飲酒者

(飲酒時に60g以上)

15.6% 3.6%

980万人

リスクの高い飲酒

(男性40g以上、女性20g以上)

14.4% 5.7%

1039万人

12

(13)

3つの早期介入

(14)

アルコール問題を考える3つの軸

X 軸 : 疾 病 の 重 症 度 1次予防 2次予防 3次予防 Y軸:対象者の属性 高齢者 中高年男性 若年者・女性 Z軸:介入場面・強度 保健指導 ・ポスター 一般内科 ・外来 専門医療 ・入院 14

(15)

最初の壁

問題飲酒

多量飲酒

アルコール関連問題

依存症対策ではなく、

健康支援!

15

(16)

アルコール健康障害対策基本法

(健康診断及び保健指導 第十七条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に資 するよう、健康診断及び保健指導において、アルコール健康障害の発見及び 飲酒についての指導等が適切に行われるようにするために必要な施策を講ずるものと する。 (アルコール健康障害に係る医療の充実等) 第十八条 国及び地方公共団体は、アルコール健康障害に係る医療について、アルコー ル健康障害の進行を防止するための節酒又は断酒の指導並びにアルコール依 存症の専門的な治療及びリハビリテーションを受けることについての指導の充実、当該専門 的な治療及びリハビリテーションの充実、当該専門的な治療及びリハビリテーションの提供を 行う医療機関とその他の医療機関との連携の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。 (人材の確保等) 第二十三条 国及び地方公共団体は、医療、保健、福祉、教育、矯正その他のアルコール関 連問題に関連する業務に従事する者について、アルコール関連問題に関し十分な知識を有 する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。 16

(17)

お酒の単位は

『ドリンク』

です!

飲酒量の単位を「ドリンク」と言います。

「純アルコール10gを含むアルコール飲料」=「1ドリンク」です。

(18)

あなたの

『ドリンク』

を確かめましょう

500ml5%

ビール500mlの中に含まれる純アルコール量は?

500ml × 0.05 × 0.8 = 20g

アル コール 度数 アル コール 比重 純アル コール ビール の量

ビール500mlは、純アルコール20g。

純アルコール10gは『1ドリンク』なので、

『2ドリンク』

18

(19)

ドリンク換算表

日本酒 (15%) ウイス キー(40%) ビール (5%) 缶チュー ハイ(7%) 焼酎 (25%) ワイン (12%) 1合 ダブル 1杯 中瓶 1本 (500ml) 1缶 (350ml) 1合 グラス 1杯 2.2ドリンク 2ドリンク 2ドリンク 2ドリンク 3.6ドリンク 1ドリンク 19 19

(20)

いろいろなアルコール飲料のドリンク数

お酒の酒類 お酒の量 ドリンク数 ビール・発泡酒 コップ 1杯 中ジョッキ 1杯 350ml 1缶 500ml 1缶 大ビン633ml 1本 0.6 1.6 1.4 2.0 2.5 焼酎お湯割り (コップで) 薄目(焼酎3、お湯7) 1杯 中くらい(焼酎5、お湯5)1杯 濃目(焼酎8、お湯2) 1杯 0.9 1.8 2.4 ウィスキー (グラスで) ロック 1杯 シングル 1杯 2.8 1.0 カクテル コップ 1杯 1.0 梅酒 グラス 1杯 0.3 20

(21)

『ドリンク』

の目安はあるの?

節度ある適度な飲酒

生活習慣病のリスクを高める量

多量飲酒

(22)

節度ある適度な飲酒

• 酒の強い健康な男性は、

2ドリンク

/日以下。

• お酒に弱い人、女性、65歳以上、病気のある

人は、半分の1ドリンクが目安。依存症者は

断酒。

週に2日は休肝日

を。

• これ以上飲むと、寿命に影響が出始めること

が、日本人の研究で判明している。

22

(23)

生活習慣病のリスクを高める量

• 男性

4ドリンク

/日、女性

2ドリンク

/日。

• この量を飲み続けると、生活習慣病のリスク↑。

• すでに病気がある人は、改善しないどころか、

悪化させてしまう。

• せっかく薬を飲んでも、効かない。

23

(24)

どうして男女で違うの?

女性は、男性に比べて、 ・肝臓が小さい ・女性ホルモンがアルコール の分解を邪魔する ・体重あたりの血液量が少ない

24

(25)

多量飲酒

• 6ドリンク

/日飲む人を多量飲酒者と言う。

• 大きな病気や怪我で病院に受診する人の多

くは、多量飲酒者である。

• 今は自覚症状がまだなくても、数年で肝硬変

やアルコール依存症などの怖い病気にかか

る可能性が高い。

25

(26)

『ドリンク』

の目安はあるの?

節度ある適度な飲酒

2

ドリンク

生活習慣病のリスクを高める量

⇒男性

4

ドリンク、女性

2

ドリンク

多量飲酒

6

ドリンク

26

(27)

多量飲酒に関連する身体疾患

60以上の身体疾患との関連が指摘されている(WHO)

(「福岡県アルコール健康障がい対策推進計画」より引用)

(28)

ウェルニッケ・コルサコフ症候群

• ビタミンB1

の欠乏によって生じる

• 食事をとらずに大量飲酒している人におこる。

→アルコールを分解するためにビタミンB1が消費されるから。

• 意識障害、眼球運動障害、失調性歩行

コルサコフ症候群:ウェルニッケ脳症の50~80%に後遺症とし

て残る。

• 前向性・逆行性健忘

数分前のこともすぐに忘れる、過去の出来事を思い出せない

• 失見当識

時間、場所、人がわからなくなる

• 作話

現実的な内容であるが、事実と異なることを話す 28

(29)

多量飲酒と認知症との関連

• 施設入所している認知症高齢者の

29%

は多量飲酒

が原因の認知症と考えられる

• 過去に5年以上のアルコール乱用、または多量飲酒

の経験のある高齢男性では、そうでない男性に比べ

て認知症のリスクが

4.6倍

、うつ病のリスクが

3.7倍

(松下幸生, 丸山勝也. 「アルコール依存と認知症」 からだの科学 251: 39-44, 2006.)

多量飲酒は認知症の発症リスクを高める

29

(30)

アルコール飲料が原因となるがん

(WHOの見解)

• 口腔がん

• 咽頭がん

• 喉頭がん

• 食道がん

• 肝臓がん

• 大腸がん

• 女性の乳がん

30

(31)

アルコール依存症男性の発がんリスクと

ALDH2遺伝子型

人数 ALDH2 ヘテロ欠損型 オッズ比 がんなし

526

10%

口腔・ 咽喉頭がん

33

61%

19倍

食道がん

112

55%

14倍

(32)

アルコールによる肝障害

1) アルコール、 あるいはその代謝産物が肝臓の細胞

に毒性を持ち、肝機能障害を生ずる。

2) 通常、

正常肝→脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変

の順に進展する。

3)

肝硬変のうちアルコールが原因とされるものは約25%

とされている。一方、

アルコール依存症患者の約15%に

肝硬変がみられる。

32

(33)

アルコール消費と生活習慣病等のリスク

リ ス ク 消費量 例: 血圧、高脂血症、脳出血、乳癌 リ ス ク 消費量 リ ス ク 消費量 例: 肝硬変、肝障害 例: 虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病 (a) (b) (c) 33

(34)

アルコールと血圧

-

高血圧治療ガイドライン2014- 編集: 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 • 飲酒習慣は血圧上昇の原因となる。 大量の飲酒は高血圧に加えて脳卒中やアルコール性心筋症、 心房細動、夜間睡眠時無呼吸をひきおこすだけでなく、癌の原因に もなり死亡率を高める。 少量の飲酒はむしろ心血管病のリスクを改善するとされている。 しかし、少量の飲酒の心血管保護効果については、そのメカニズム を含め今後の検討が必要である。 アルコール単回投与は数時間持続する血圧低下につながるが、 長期に続けると上昇に転じる。飲酒量を80%ほど減ずると1~2週間 のうちに降圧を認めるとされている。 大量飲酒者は急激な節酒により、血圧上昇をきたすことがあるが、 節酒を継続すれば降圧が得られる。 34

(35)

アルコールと脂質代謝異常

• 適度なアルコールはHDLコレステロールを上昇させる。

• しかしアルコールが肝臓で分解される過程で、中性脂肪

の合成が高まり、多量飲酒者では中性脂肪値が上昇す

る。(脂肪肝の原因にもなる)

• 脂質異常→動脈硬化→心筋梗塞・脳梗塞のリスク↑。

• また、肝硬変になってしまうと、肝臓でコレステロールが

作れなくなってしまうため逆にコレステロール値は低下。

35

(36)

(1週間の平均飲酒量、グラム)

日本人中年男性における

アルコール消費量と脳卒中のリスクとの関係

(相対リスク)

Iso, H. et al. Stroke 2004;35:1124-1129

(37)

アルコールと高尿酸血症

• ビールをはじめとするアルコールはプリン体を

多く含むため、尿酸値が上昇しやすい。

• アルコール自体にも、尿酸の産生を増加させ

たり排泄を低下させたりするはたらきがある。

• 飲酒時に一緒に摂るおつまみにも、プリン体を

多く含む食品が多い。

(例) レバー、干物、カツオなど

37

(38)

栄養が吸収できなくなります。 時々急性膵炎と同じ症状がでます みぞおちから背中にかけて激痛 他の臓器を溶かして命に関わります

アルコールと膵臓

急性膵炎! 慢性膵炎! 膵炎を繰り返すと・・ 膵炎の原因のうち 40%はアルコールです 38

(39)

アルコールと糖尿病

厚生労働省HPより 日本酒1合程度、休肝日週2日以上の適度な飲酒はインスリン感受性を 高めたり、善玉のHDLコレステロールを増やして動脈硬化を予防したりして、 糖尿病やその合併症の発症に影響すると考えられています しかし、糖尿病の方がお酒を飲むと、 血糖をコントロールするのがうまくいかなくなり悪化します。 39

(40)

アルコールと肥満

• 純アルコール1g=約7.1kcal →エンプティ・カロリー。

しかし特に醸造酒は糖質が多く、過剰摂取により肥満の

原因となる。

• アルコールによる食欲増進作用や、高カロリーのおつま

みによって、太りやすくなる。

• アルコール依存症に進展してしまうと、食事を摂らずに飲

酒することが多いため、逆に痩せていく。

• 飲酒のために食事を摂らないのは本末転倒で、アルコー

ル依存への進展が懸念され、栄養失調による脳への影

響は甚大。

40

(41)

危険因子の数と心臓病のリスク

0 5 10 15 20 25 30 35 3~4 2 1 0 心臓病発症リスク 心臓病発症リスク 危 険 因 子 保 有 数

Nakamura T et al; Jpn Circ J: 65, 11, 2001

高BMI、高血圧、高血糖、

脂質異常

(42)

メタボリックシンドロームの診断基準

腹囲

性:

85

cm以上

性:

90

cm以上 高血圧 上が

130

以上または 下が

85

以上 空腹時血糖

110

以上 脂質代謝異常 中性脂肪

150

以上または HDLが

40

未満

メタボリック

シンドローム

必須

2つ以上

メタボリックシンドローム診断基準検討委員会.日本内科学会雑誌2005;94:794-809 42

(43)

健康日本21(第2次)

①生活習慣病のリスクを高める量

を飲んで

いる者を減らす

→1日の平均飲酒量が、

男性で4ドリンク、女性で2ドリンク以上。

②未成年者

の飲酒をなくす

③妊娠中

の飲酒をなくす

43

(44)

体の病気だけでなく・・・

• 飲酒運転

• 暴言・暴力

• 自殺

• うつ病

• 不眠症

• 依存症

社会的問題

精神疾患

44

(45)

1ドリンク =2時間

ドリンク数の計算は飲酒運転対策としても重要

1ドリンク =2.5時間 45

(46)

飲酒運転と多量飲酒、依存症との関連

免許取り消し処分者のうち、飲酒運転検挙の経験をした

男性の

36.9%

、女性の

42.9%

にアルコール依存症の

疑いがある

飲酒運転経験の男性

61.9%

、女性

57.1%

が、1日

純アルコール60グラム以上の多量飲酒者である

(樋口進、神奈川県警察本部交通部交通総務課;2007) 46

(47)

「うっかり飲酒運転」を防ぐために

• 「飲んだら乗らない」は当たり前。しかし・・・

• 2ドリンクで約4~5時間。

ドリンクでは

12~15

時間かか

る。

前夜に6ドリンク以上飲んだ場合、翌朝運転する際には、

アルコールが残っている

計算になる。

• うっかり飲酒運転をしないためには、飲んだお酒のドリンク

数、飲酒時間、分解時間を意識しておくことが重要!

• 飲み過ぎた場合は、翌朝も運転しないこと!

47

(48)

アルコールと不眠

• 眠るために飲酒しているとどうなるか?

・少量のアルコールは酔いをもたらし、寝つきをよくする。

・アルコールは、睡眠薬に比べ耐性の増加の度合いが非

常に大きいため、すぐに同じ量では眠れなくなってしまう。

・睡眠薬を怖がる人は多いが、不眠に対しては睡眠薬を使

用するほうが、はるかに安全である。

(ただし、睡眠薬の依存症に注意!!)

48

(49)

アルコールと不眠

• アルコールは、睡眠の質を落とす

寝つきは確かに早くなる。しかし・・・。

睡眠の深い相が消失する(特に後半)→深い眠りがない

利尿作用がある→トイレで目が覚める

結果、早く目が覚める、何時間寝ても疲れが取れない

49

(50)

不眠対策の国際比較

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 国際平均 日本 医師を受診 カフェインを控え る アルコールを摂 取 睡眠薬を服用 オーストリア、ベルギー、ブラジル、中国、ドイツ、日本、ポルトガル、スロヴァキア、南アフリカ、スペイン Soldatos CR et al.: Sleep Med 6:5, 2005より

(51)

良い眠りのために

• 「光」「運動」「体温」がキーワード

・「光」・・・朝光を浴びると、15~16時間後に眠気がくる

寝る前のテレビやPC、布団に入ってからの携帯・スマホは避ける ・

「運動」・・・日中適度な運動を心がける

ただし、寝る前の運動は避ける(3時間前まで)

・「体温」・・・体の芯の体温を下げると眠りやすくなる

体の表面を温める→寝る1時間前までにぬるめの風呂につかる 寝る前の食事は避ける ※興味のある方は、「健康づくりのための睡眠指針2014」(厚生労働省) をご覧ください(無料ダウンロードできます) 51

(52)

うつ病と飲酒問題の合併

うつ病 うつ病+飲酒問題

(一次性うつ病)

飲酒問題 飲酒問題+うつ病

(二次性うつ病)

52

(53)

うつ病罹患は

アルコール乱用・依存罹患の危険因子である

精神科通院中の40~50代の

男性うつ病性障害患者では……

乱用: 18.7%

依存: 13.4%

国立精神・神経医療研究センター 松本らの報告 53

(54)

自殺と精神疾患との関係

(15629例, WHO, 2000)

(55)

コホート研究による自殺のリスク

国内外の一般住民を対象とした追跡調査7つのうち、

5つが、大量飲酒が自殺を高めることを指摘している。

• 週250g以上の大量飲酒は、15年後の自殺死亡のリスクを 3倍高める (Andreasson et al, BMJ, 1988)

国内の研究

• 57,714名の中年男性を7年以上追跡した結果、非飲酒者と週414g以上 の大量飲酒者で自殺のリスクが2.3倍に上昇していた(Akechi et al, Br J Psychiatry, 2006)

• 宮城県の22,804名の40~79歳までの男性の追跡調査では、飲酒量に比 例して自殺で死亡する危険が高くなった(Nakaya et al, Alcohol, 2007)

(56)

自殺直前の飲酒

アルコールの効果は自殺念慮にあり、計画された自殺よりも計 画性のない自殺と関連する(Borges et al, Am J Epideiol, 2000)

• 絶望感、孤独感、抑うつ気分を増強する • 自身に対する攻撃性を高める • 自殺念慮を実際に行動に移すのを促進する • 心理的視野狭窄を促進して自殺以外の対処策を困難にする

自殺遺体のアルコール検出率: 32~37%

• 服毒死、焼死、轢死、墜落死で高濃度のアルコールが検出される傾向があ る(Cheng, Arch Gen Psychiatry, 1995)

• 自殺未遂で救急受診した者の40%にアルコールが検出される(Cherpitel et al, Alcohol Clin Exp Res, 2004)

(57)

依存症の診断基準(ICD-10)

• 物質を摂取したいという強い欲望、強迫感。

• 開始、終了、使用量のコントロール不能。

• 離脱症状を認める。

• 耐性を認める。

• 物質使用に変わる楽しみ、興味が減少し、摂取時間、

回復時間が延長する。

• 明らかな有害な結果が起きているのに物質使用を続ける。

過去1年間に、上記の項目のうち3つ以上がともに存在したときに 依存症と診断する。 57

(58)

依存症の「病気」としての特徴

• 誰でもなりうる病気

(意志、性格と無関係)

• 慢性の病気

• 進行性で、放っておくと死に至る病気

• 姿を変えて続く病気

• 周囲の人を巻き込んでいく病気

58

(59)

アルコール依存症への偏見・誤解

• アルコール依存症は、長期多量飲酒をすれば誰にで

も生じ得る、脳の変化による「病気」である。

• アルコール依存症者に対して・・・

• 個人の問題として人格否定する「社会の意識」が本人

の気づきを遅らせ、早期治療に結びつかない。

・意志が弱い ・暴力的 ・酒癖が悪い ・うそつき ・だらしない ・人格の欠陥 ・・・ 59

(60)

「家族を巻き込んでいく病気」

→早期介入には、家族の支援が不可欠

• 酩酊による暴言・暴力

• 否認による、本人と家族との現実認識の隔たり

• 離脱症状による不安・焦燥感が家族への暴力へつな

がる

→家族は酩酊していてもしらふの時にも苦しむ

ほとんどの場合、家族が先に問題に気づくため、

早期介入には、家族へのアプローチが有効!

60

(61)

アルコール問題の早期介入とは

主に精神科の立場から

アルコール依存症の疑いがあるもの、あるいはアルコール 依存症でありながら他科を転々としているもの(推計109 万人)を、できるだけ早くアルコール専門治療施設受診に つなげること。 61

(62)

日本におけるアルコール使用障害

(≒依存症)の治療

• 治療目標は、一貫して「完全断酒」

• 酒害教育、ミーティング、自助グループ参加等の治療プロ

グラムを通して、病気として理解する、否認を打破する、

「酒に対して無力」であることを認める

• 断酒の維持のために、通院、抗酒剤、自助グループ

「断酒の三本柱」

62

(63)

断酒を唯一の治療目標とするアルコール

依存症治療がもたらしたもの

1. 断酒が最良の治療目標であることが明確に伝わる

2. 断酒する回復者が増える

3. 家族や関係者の期待に応える

4. 治療目標が一つであることで集団での治療が容易に

なる=治療集団としての凝集力が高まり、治療の場に

混乱が生じにくい

5. 断酒会、AAなどの自助組織ができる

6. 強迫的な、あるいは認知機能がやや低下した患者に

伝わり易い

7. 治療対象は、動機付けの高い患者かアルコール関連

問題が重篤な依存症患者に限られ、治療目標を受け

入れられない患者は排除される

63

(64)

依存症者は何処へ?

~厚生労働省患者調査~

• アルコール依存症者109万人と言われる中・・・

平成26年患者調査による

アルコール依存症(F10.2)の総患者数

4万9千人

※総患者数・・・調査日現在において、継続的に医療を受けている者の推計値

• 1039万人のハイリスク飲酒者への対策は・・・

64

(65)

実は依存症者も受診している!

• 依存症者推計109万人のうち・・・

医療機関を受診している者:

82.9%

健康診断を受診している者:

69.6%

一般医療機関・健診での

早期発見・早期介入が不可欠!!

(尾崎ら、厚生労働科学研究、2014) 65

(66)

アルコール問題の早期介入とは

主に精神科の立場からは

アルコール依存症の疑いがあるもの、あるいはアルコール 依存症でありながら他科を転々としているもの(推計109 万人)を、できるだけ早くアルコール専門治療施設受診に つなげること。

プライマリケアにおいては(もう一つの早期介入)

現在のままの飲酒を今後も続ければ、将来健康被害が及ぶ 可能性の高いハイリスク飲酒者(推計1039万人)の飲酒量を低減 し、リスクを軽減すること。

二つの早期介入

66

(67)

早期介入の枠組み “SBIRT(S)”

Screening , Brief Intervention and Referral to Treatment (Self-help group)

• Screening

スクリーニングテストを用い、アルコール関連問題を客観的に評価

• Brief Intervention

:

1回15~30分、2~3回のセッションで行う、生活習慣の行動変容 を目指した行動カウンセリング

• Referral to Treatment

:

「本物の」依存症者を専門治療につなぐ

・Self-help group:

断酒会、AA(Alcoholics Anonymous)への橋渡しを行う)

(68)

Ewing JA : Detecting alcoholism: The CAGE questionnaire. JAMA 252 : 1905-1907, 1984 斎藤学、池上直己:久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)とその応用。 アルコール研究13:229-238、1978

KAST

K

urihama

A

lcoholism

S

creening

T

est)

CAGE

C

ut down,

A

nnoyed,

G

uilty,

E

ye-opener )

AUDIT

A

lcohol

U

se

D

isorders

I

dentification

T

est)

アルコール問題のスクリーニングテスト

(69)

健康への影響の危険 家庭内での障害 職業上の障害 社会生活上の障害 飲酒に関連した問題のレベル 問題の少ない飲酒 アルコール依存症 AUDIT KAST 健康被害 KASTとAUDITの比較―判別に適した領域の違い― 軽症 重症 スクリーニングに適した領域

問題飲酒の評価

69

(70)

AUDIT(

A

lcohol

U

se

D

isorders

I

dentification

T

est)

WHOを中心に6ヶ国の共同研究として開発されたもので、未だ 医学的に明らかな障害は認めていないものの、持続していけば 将来健康を害する危険のある¨危険な使用 Hazardous use¨、及 び既に健康被害を招いている¨有害な使用 Harmful use ¨ の状 態にある飲酒者の同定を目的としている。日本語版は1996年に 廣らが発表した。

問題飲酒の評価

-AUDITを用いた問題飲酒の重症度判定- 廣尚典、島悟:問題飲酒指標AUDIT日本語版の有用性に関する検討。 日アルコール・薬物医会誌31:437-450、1996 70

(71)

AUDIT

1.あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか? 0.飲まない 1.1ヶ月に1度以下 2.1ヶ月に2度~4度 3.1週に2~3度 4.1週に4度以上 2.飲酒するとき通常どのくらいの量を飲みますか? ただし、日本酒1合=2ドリンク ビール大瓶1本=2.5ドリンク ウイスキー水割りダブル1杯=2ドリンク 焼酎お湯割り1杯=1ドリンク ワイングラス1杯=1.5ドリンク 焼酎1合=3.5ドリンク 0. 1~2ドリンク 1. 3~4ドリンク 2. 5~6ドリンク 3. 7~9ドリンク 4. 10ドリンク以上 3. 1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか? 0.ない 1.1ヶ月に1回未満. 2.1ヶ月に1回 3. 1週に1回 4. 毎日又はほとんど毎日 71

(72)

4.過去1年間に飲み始めると止められなかったことがどのくらいの頻度 でありますか? 0.ない 1.1ヶ月に1回未満 2. 1ヶ月に1回 3. 1週に1回 4. 毎日又はほとんど毎日 5. 過去1年間に、普通だと行えることを飲酒していたために できなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0.ない 1.1ヶ月に1回未満 2. 1ヶ月に1回 3. 1週に1回 4. 毎日又はほとんど毎日 6. 過去1年間に、深酒の後体調を整えるために、朝迎え酒を しなければならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか? 0.ない 1.1ヶ月に1回未満 2. 1ヶ月に1回 3. 1週に1回 4. 毎日又はほとんど毎日

AUDIT

72

(73)

7. 過去1年間に、飲酒後罪悪感や自責の念にかられたことが、 どのくらいの頻度でありましたか? 0.ない 1.1ヶ月に1回未満 2. 1ヶ月に1回 3. 1週に1回 4. 毎日又はほとんど毎日 8. 過去1年間に、飲酒のために前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの 頻度でありましたか? 0.ない 1.1ヶ月に1回未満 2. 1ヶ月に1回 3. 1週に1回 4. 毎日又はほとんど毎日 9. あなたの飲酒のために、あなたや他の誰かが怪我をしたことがありますか? 0. ない 2. あるが、過去1年間にはなし 4. 過去1年間にあり 10. 肉親や親戚、友人、医師あるいは他の健康管理にたずさわる人が、あなたの 飲酒について心配したり飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか? 0. ない 2. あるが、過去1年間にはなし 4. 過去1年間にあり

AUDIT

73

(74)

一般住民50歳代男性の平均得点 7点 10点 過半数が周囲から酒量減量の忠告を受ける 14点 殆どの配偶者が悩みを持つ 20点 アルコール依存症を疑う 15点 アルコール性肝障害患者の平均得点

AUDIT得点の意味付け

24点

0点

40点

17点 月1回以上泥酔・朝酒をする者の平均得点 アルコール依存症患者の平均点

問題飲酒の評価

-AUDITを用いた問題飲酒の重症度判定- 74

(75)

AUDIT点数が意味する1日

あるいは1週間の飲酒量

1日の飲酒量 (ドリンク) 1週間の飲酒量 (ドリンク) 人数 8点 3.6 14.0 100 10点 4.4 18.4 86 13点 5.4 25.0 73 15点 6.6 37.8 46 20点 7.2 45.0 15 1日の飲酒量、1週間の飲酒量ともそれぞれの AUDIT点数を示したものの中央値で示した 75

(76)

AUDIT10点の平均的プロフィール

1)週に5日飲酒する(=4点) 2)1日に缶ビール350ml 1缶と焼酎1合を飲酒する(=2点) 3)1ヶ月に1回、1度に6ドリンク以上の飲酒がある(=2点) 4)1年以上前に妻に酒の量が多すぎると忠告を受けた(=2点)

問題飲酒の評価

-AUDITを用いた問題飲酒の重症度判定- (注意)缶ビール500ml3缶を週5日飲酒する者は、 最低でもAUDIT10点になるはず。 76

(77)

AUDIT15点の平均的プロフィール

1)週に6日飲酒する(=4点) 2)1日に缶ビール350ml1缶と日本酒2合を飲酒する(=2点) 3)1週間に1回、一度に6ドリンク以上の飲酒がある(=3点) 4)年に数回、深酒して翌朝遅刻をすることがある(= 1点) 4)年に数回、前夜の出来事を思い出せない(=1点) 5)最近1年以内に妻に酒の量が多すぎると忠告を受けた(=4点)

問題飲酒の評価

-AUDITを用いた問題飲酒の重症度判定- 2013年の全国調査では、AUDIT15点以上のものは、 男性の5.1%、女性の0.7%に認めている。 77

(78)

AUDIT20点の平均的プロフィール

1)週に6日飲酒する(=4点) 2)1日に焼酎2合を飲酒する(=3点) 3)ほとんど毎日、1度に6ドリンク以上の飲酒がある(=4点) 4)飲み過ぎて酔いつぶれることが月に1回ある(=2点) 5)年に数回、飲みすぎたと深く反省し、罪悪感を抱く(=1点) 6)月に1回、前夜の出来事を思い出せない(=2点) 7)最近1年以内に妻に酒の量が多すぎると忠告を受けた(=4点)

問題飲酒の評価

-AUDITを用いた問題飲酒の重症度判定- 78

(79)

保健指導における、(より実践的な)AUDIT判定区分毎の対応

1)

AUDIT 0〜7点:問題飲酒なし(介入不要)

→さらなる節度ある飲酒のすすめ

2)

AUDIT 8〜14点:

→減酒支援(ブリーフインターベンション)

3)

AUDIT 15点以上:アルコール依存症疑い群

→アルコール専門医療機関受診勧奨、

希望により減酒支援

4)

AUDIT 20点以上:アルコール依存症疑い群

積極的な受診勧奨

、基本的には断酒のすすめ

問題飲酒の評価

-AUDITを用いた問題飲酒の重症度判定- 79

(80)

Kristenson H, Őhlin H, Hulten-Nosslin M-B, et al: Identification and intervention of heavy drinking in middle-aged men: results and follow-up of 24-60 months of long-term study with randomized controls. Alcohol Clin Exp Res1983; 7: 203-10

Kristenson H, Ősterling A, Nilsson JA, et al: Prevention of alcohol-related deaths in middle-aged heavy drinkers. Alcohol Clin Exp Res 2002; 26: 478-484

Brief Interventionの起源

Sweden, Malmoe市の45-50歳男性住民で、健康診断でγ-GTP値が上位に属し多量飲酒が確認されたものを無作為に介入群と 対照群の2群に分け、長期に追跡。介入群では、詳細な身体検査と飲 酒歴、アルコール関連問題、依存の徴候に関する面接、3ヶ月ごとの 内科医との面接、毎月看護師が訪問しγ-GTPに関するフィードバック を受けるというもの。対照群では、肝障害があること、飲酒量を減らし た方が良いとの助言を手紙で報告。 【結果】介入群では、2,4年後の調査時点までの入院日数が少なく、特 にアルコール関連障害での入院が少なかった。また、10-16年後の追 跡時点で介入群の死亡率の減少を認めた。 80

(81)

Brief Intervention

Brief Interventionの特徴は、

①断酒ではなく、

飲酒量の減量を目標

にする。

②依存症の専門家ではなく、

ヘルスケアの従事者によって

行われる

③依存症の患者でなく、

依存症でない患者を対象

とする。

Anderson P, Gual A, Colom J: Alcohol and primary health care: clinical guidelines on identification and brief interventions. Department of health of the government of Catalonia, Barcelona. (2005)

(82)

Brief Intervention の概要(1)

①ブリーフ・インターベンションとは、

生活習慣の行動変容

を目指す短時間の行動カウンセリング

である。

②カウンセリングでは、

「健康」

を主なテーマとして、飲酒

量低減の具体的目標を自ら設定してもらう。飲酒問題の

直面化は避け、

「否認」

などは介入時に扱うテーマとしな

い。実際、「健康」をテーマとして早期介入を行うことによ

り、クライアントが示す否認や抵抗も比較的少ない。

③動機付け面接やコーチングといった面接(介入)技法を

用いるが、介入の

3つのキーワード

は、

共感する

」、「

励ます

」、「

誉める

」である。

82

(83)

①ブリーフ・インターベンションとは、従来型の指示的・指

導的な保健指導とは異なり、クライアントの自己決定を重

視し、自ら進むべき道を選択してもらい、介入者はそれに

寄り添ってエンパワーし、サポートするという

クライアント

中心の行動カウンセリング

を指す。

②主な

3つの構成要素

は、

Feedback(フィードバック)

」、「

Advice(アドバイス)

」、

Goal Setting(ゴール・セッティング)

」である。

③この早期介入を始めるに当たって、アルコール専門医

療機関との連携を予め準備しておくことも、重要である。

Brief Intervention の概要(2)

83

(84)

Feedback(フィードバック):

スクリーニングテストなどによって対象者の飲酒

問題及びその程度を客観的に評価し、このまま飲

酒を続けた場合にもたらされる将来の危険や害に

ついて

情報提供

を行うことを指す。

84

(85)

フィードバックのポイント

→あきらめない程度に危機感を!結果は淡々と。

・飲酒状況の客観的評価  最初は、お酒の飲み方と感じる問題を自由に語ってもらう  最近の飲酒状況を客観的に振り返って数値化してもらう (これが、次の目標設定の際の参考値になる) 最近1ヵ月間の1日6ドリンク以上の多量飲酒日数は何日あり ましたか? 最近1ヵ月間の非飲酒日数は何日ありましたか? 最近1週間の1日平均の飲酒ドリンク数はどの位ですか?一 緒に計算してみましょうか。  AUDITなどのスクリーニングテストを用いて客観的に評価する (あなたは今、この位置でアルコール依存症にも近いところですね) 85

(86)

あなたの1日のドリンク数は100人中何番目でしょうか?

20~39歳 40~59 60~74 20~39歳 40~59 60~74 上位3位 7ドリンク 4 2 14ドリンク 12 8 5位 6 3 2 13 9 7 10位 4 2 1 9 7 6 20位 2 1 1 6 6 4 30位 2 1 0 4 4 4 40位 1 1 0 3 4 3 50位 1 1 0 2 3 2 60位 1 0 0 2 2 1 70位 0 0 0 1 1 1 80位 0 0 0 1 1 0 90位 0 0 0 0 0 0 86

(87)

あなたのAUDIT点数は100人中何番目でしょうか?

20~39歳 40~59 60~74 20~39歳 40~59 60~74 上位3位 10点 6 4 20点 20 20 5位 8 5 4 18 18 16 10位 6 4 3 15 16 13 20位 4 3 2 11 12 10 30位 3 2 1 8 10 7 40位 2 2 0 6 8 6 50位 2 1 0 4 7 4 60位 1 1 0 3 5 4 70位 0 0 0 2 4 2 80位 0 0 0 1 2 0 90位 0 0 0 0 0 0 87

(88)

フィードバックのポイント

→あきらめない程度に危機感を!結果は淡々と。

・飲酒状況の客観的評価(その2)  評価に基づいて、現在のままの飲酒を続けていると将来どういう危 険が生じるかを客観的に伝える (このままですと、がん、高血圧、肝臓病、糖尿病など、ここに書いて あるような病気に罹る危険が高くなるようですね)  自身にとっての飲酒の効用と害を並べ挙げてもらう (あなたにとってのお酒の効用と害をいろいろ挙げて、バランスシート を作ってみて下さい。)  お酒の飲みすぎと関係のある治療中の病気、健康診断の結果を挙 げてもらう (体重、血圧、中性脂肪、γ-GTPなどの検査結果も、お酒の量を減ら したら改善が期待できますね) 88

(89)

Advice(アドバイス):

飲酒を減らし(節酒)たり、止めれ(断酒)ば、どのよ

うなことを回避できるかを伝え、そのために必要な

具体的な対処法についての

助言やヒントを与える

ことである。

89

(90)

飲酒習慣行動変容のための

アドバイスのポイント

① 飲酒量を減らして得られる、リアルな変化のイメージを

作る

=飲酒量を減らすことに成功した時に手に入る報酬を示し、動機 付けを高める

 お酒を減らした時に、生活面や健康面で変わると期待で

きることを具体的にイメージとして抱いてもらう

(あなたがお酒を減らすことができた時に、健康と生活の面では

一体、どう変わっているのでしょうか?健康、家庭生活、仕事な

どに分けて具体的に想像してみましょう。そして、そのイメージを

いつも抱いているとお酒の量は自然と減るようです)

90

(91)

飲酒習慣行動変容のための

アドバイスのポイント

① 飲酒量を減らして得られる、リアルな変化のイメージを

作る

=飲酒量を減らすことに成功した時に手に入る報酬を示し、動機 付けを高める

お酒を減らした場合に期待できる効果の例: ・ 長生きできる ・ 体力がつく ・ 朝気持ちよく起きられる ・ 脳へのダメージが減る ・ お金が貯まる ・ 酔ってケガしなくなる ・ 妻や子供が喜ぶ ・ 検査結果の数値がよくなる ・ 仕事の能率が上がる ・ 性的な機能が改善する ・若さを保てる ・・・等々 91

(92)

人 口 1 万 人 当 た り の 年 間 死 亡 者 数 1日当たりの純アルコール摂取量の減少(g) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 20 40 60 80 100 120 160 180 200 140

Rehm J, Roerecke M: Reduction of drinking in problem drinkers and all-cause mortality. Alcohol Alcohol. 2013; 48(4): 509-513

お酒を減らすことによって変わるあなたの年間推定死亡率

(93)

② 具体的な対処法を考える

=できるだけ具体的に酒量を減らす方法や対処法を考えてもらう 

つい多く飲んでしまう状況の例:

冠婚葬祭 ・ 職場や友人との宴会 ・ 仕事帰り ・ 休日前夜、週末 ・ 心配事があるとき ・ イライラしているとき ・ 何か一つの事を成し遂げたとき ・ 眠れないとき ・ 給料をもらったとき ・ お腹がすいているとき ・・・等々

飲酒習慣行動変容のための

アドバイスのポイント

93

(94)

② 具体的な対処法を考える

=できるだけ具体的に酒量を減らす方法や対処法を考えてもらう 

具体的な対処法の例:

酒以外の趣味を増やす ・ 効用より害が多いことを思い出す ・ 家族が心配していることを思い浮かべる ・ まず食事をとって腹を満たす ・ 小さいコップで飲む ・ 一口飲むたびにコップをテーブルに置く ・ 次の一口までの時間を長くする ・ 注がれないようにコップを空にしないようにする ・ 夜10時以降は酒を飲まない ・ 1日に3時間以上は飲まない ・・・等々

飲酒習慣行動変容のための

アドバイスのポイント

94

(95)

③ 変えることに成功した生活習慣とそのコツを語ってもらう

=行動変容に成功した生活習慣を語らせ自己効力感を高める

④ お酒の量を減らそうとする試みを誰かに公言してもらう

=誰か話しやすい人にこの挑戦を宣言し、応援してもらう

⑤ 飲酒日記をつけてもらう

=セルフモニタリングをする

飲酒習慣行動変容のための

アドバイスのポイント

95

(96)

Goal Setting(ゴール・セッティング):

「目標設定」で、クライアントが

7~8割の力で達成できそう

な具体的な飲酒量低減の目標

を自ら設定してもらうことで

ある。

一度目標を立てたあと、実際に4週間ほど挑戦してみて、

もう一度目標を上方や下方に修正、再設定することもでき

る。また、目標を一つに決めることが難しければ、クリアし

やすい簡単な目標と難しいチャレンジレベルの目標を二

つ立ててみてもらってもよい。

96

(97)

A) 酒量限定型:1日の飲酒量あるいはある期間の飲酒量(使用金額)を 具体的に数値として目標に掲げたもの(62名) B) 休肝日型:非飲酒日(休肝日)を増やすことを具体的に目標に掲げたも の(64名) C) 節酒工夫型:多量飲酒日を減らす、飲酒時間を制限する、二次会に行 かない、平日は飲み会以外は飲まない、夜勤明けは飲まないなど飲酒 量を減らすための工夫を具体的に目標に掲げた者(28名) D) 気合い・抽象型:数値目標がなく、具体性に欠ける目標(例:休肝日を 守る、もう一杯をやめる、今以上に増やさない、1日の酒量を減らす、 深酒を減らす、飲み会を減らすなど)を掲げた者(24名)

目標設定のタイプ(介入群

178名)

目標設定の方法

97

(98)

非飲酒日数

/4週の変化

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 エントリー時 3ヶ月後 12ヶ月後 酒量限定型 休肝日型 節酒工夫型 気合・抽象型 2010.11/11 98

(99)

BIを効率的に進めるための介入ツール

• ワークブック「あなたが作る健康ノート」

(基礎編・応用編)

• 教育用冊子「知っていますか?アルコールのこと」

• 飲酒日記「あなたが作る健康日記」

→肥前精神医療センターホームページ

「採用情報・研修案内」→「書籍案内」をご覧ください。

(ワークブックは無料、冊子、日記は100~150円)

99

(100)

BIの有効性を示す欧米でのエビデンス

Project TrEAT

(Trial for Early Alcohol Treatment)

のまとめ

1)介入の効果は、48ヶ月に及ぶ。

2)介入群で、1週間の飲酒量、1ヶ月間の多量飲酒回数の減少。

3)介入群で、救急受診と入院日数の減少。

4)利益/コスト分析では、医療面では4.3/1、社会的には39/1。

Perspective Medical Societal

Cost per patient $166

$205

Benefit per patient $ 712

$7,985

Net benefit $ 546 $7,780

(101)

BIの有効性を示すわが国でのエビデンス

BIによる平均的な節酒効果のイメージ~

介 入 12 ヶ 月 後 介 入 前 0.6 1.5 多量飲酒日 101

(102)

57.382 35.7 28.974 0 10 20 30 40 50 60 エントリー時 3ヶ月後 12ヶ月後 B群少量 B群中等量 B群多量 C群少量 C群中等量 C群多量 D群少量 D群中等量 D群多量

エントリー時酒量別毎の介入後週間飲酒量の推移

少量:24ドリンク未満/週、中等量:24~42ドリンク/週、多量:42ドリンク以上/週 2合以下を6日 3合以上毎日 1日に4合 1日に2合 24 41 28 39 39 26 19 40 21 102

(103)

初回面接

問題点の把握と目標設定

(program 1)

集合教育

(Program 2)

集合教育

(Program 3)

最終評価

特定保健指導での集団節酒指導プログラム

健康診断, AUDIT

電子メールで生活習慣記録表の回収

High risk飲酒者

N=298 N=78 電子メールで生活習慣記録表の回収 電子メールで生活習慣記録表の回収 電子メールで生活習慣記録表の回収 Population strategy High risk strategy 103

(104)

介入前後の飲酒習慣の変化について(TLFB法)

介入前 介入後 平均値 SD 平均値 SD P AUDIT 13.8 5.3 10.6 4.8 P<0.01 飲酒量 (ドリンク/週) 28 17 18.1 10.7 P<0.01 28日間の 多量飲酒日数 4.6 8.2 2.3 3.7 P<0.05 28日間の 非飲酒日数 5.6 7.4 10.3 8.2 P<0.01 104 彌冨美奈子、杠岳文他:特定保健指導の枠組みを利用したハイリスク飲酒者に対する職域における集団 節酒指導(S-HAPPYプログラム)の効果,労働科学,89(5);155-165,2013

(105)

ー特定保健指導における集団節酒指導の介入研究ー

介入前後における健康診断結果の変化

介入前(n=78) 介入後(n=78) 平均値 S.D. 平均値 S.D. p 年齢 48.1 (4.4) 49.1 (4.4) P<0.01 体重(kg) 75.1 (7.6) 74.2 (8.6) P<0.01 腹囲 (cm) 90.4 (6.2) 88.8 (7.0) P<0.01 Body Mass Index (kg/m2) 25.6 (2.3) 25.3 (2.6) P<0.01 収縮期血圧(SBP, mmHg) 129.9 (15.2) 130.8 (12.7) P=0.51 拡張期血圧(DBP, mmHg) 85.0 (10.7) 82.7 (10.4) P=0.04 空腹時血糖(mg/dL) 99.6 (11.6) 101.5 (12.6) P=0.04 HbA1c (%) 5.0 (0.4) 5.1 (0.4) P<0.01 Total Cholesterol (mg/dL) 210.3 (30.5) 209.9 (32.5) P=0.91 Triglyceride (mg/dL) 148.2 (120.3) 144.2 (86.2) P=0.73 HDL-C (mg/dL) 54.2 (13.2) 56.3 (13.1) P=0.02 LDL-C (mg/dL) 127.0 (29.0) 132.0 (31.4) P=0.07 Total cholesterol /HDL-C ratio 4.1 (0.9) 3.9 (0.9) P=0.05 log AST 1.41 (0.16) 1.40 (0.17) P=0.48 log ALT 1.47 (0.22) 1.42 (0.22) P<0.01

(106)

介入前後のMSおよび予備群の割合の変化について

非該当 MSおよび予備 群 割合(%) p-value 介入前 23 55 70.5 介入後 35 43 55.1 p < 0.01 106 彌冨美奈子、杠岳文他:特定保健指導の枠組みを利用したハイリスク飲酒者に対する職域における集団 節酒指導(S-HAPPYプログラム)の効果,労働科学,89(5);155-165,2013

(107)

ブリーフ・インターベンションの

4つのポイント

クライエントの飲酒問題とその程度を客観的に

フィードバック

する

達成可能な

当面の目標

をクライエント自身に設

定してもらう

目標達成に役立つ

具体的な対処法を一つ以上

考えてもらう

(self-monitoring)

目標達成できた時の自身の

変化した像

をクライ

エントに思い描かせる

107

(108)

アルコールに関する保健指導のポイント

• 欲張り過ぎず、

「何らかの形でまず始める」

ことが重要。

※評価のための聞き取りだけでも、介入効果はある。

• 「共感する」「励ます」「ほめる」

を常に心がける。

• フィードバックは

「あきらめない程度に危機感を抱かせ、

かつ淡々と」

• 無理な目標を押しつけない。今日からできそうな

「簡単な

数値目標を」「自分で」

立てること。

108

(109)

保健指導としての減酒支援

~講義と演習~

国立病院機構肥前精神医療センター

武藤 岳夫

2017.11.15. 平成29年度特定健診・保健指導に関する人材育成研修会 【技術編B】 109

(110)

専門医療

減酒支援

(111)

悪い例(依存症、抽象的な指導)

食事はほどほどに。

酒しか楽しみない。

酒で死ぬなら本望。

すでにインスリン

注射実施中。

お酒はほどほどに。

111

(112)

112 健康意識高い 健康意識低い ①知識が多く、 健康意識も高い ④知識が少なく、 健康意識も低い ②知識は多いが、 健康意識は低い ③知識は少ないが、 健康意識は高い

対象者の属性

誰が指導しやすいですか?

(113)

113 健康意識高い 健康意識低い

①知識が多く、

健康意識も高い

④知識が少 なく、健康意 識も低い ③知識は少な いが、健康意 識は高い

栄養指導

②知識は多いが、

健康意識は低い

難しい!!

すでに健康

(114)

114 健康意識高い 健康意識低い

節酒支援

③知識は少ないが、

健康意識は高い

④知識が少なく、

健康意識も低い

②知識は多 いが、健康意 識は低い ①知識が多く、 健康意識も高い

難しい!&

出会わない

狙い目!!

(115)

良い例①(多量飲酒、具体的な指導)

あなたの今の食べ方は 3000カロリーですよ。 あなたの今の飲み方は は8ドリンクですよ。 体重100キロあるので、 BMIは30で、肥満で す。 6ドリンクは多量飲酒、 4ドリンクは生活習慣病 の危険が高まる量ですよ。 115

(116)

良い例②(多量飲酒、具体的な指導)

理想はBMI22ですが、 まずは目標95キロです。 理想は2ドリンクですが、 まずは目標7ドリンクです。 ご飯茶碗を1杯にしま しょう。 食品換算表、運動、 体重日記等。 日本酒を4合から3.5合 に変えましょう。 ドリンク換算表、「食事 を先に」、飲酒日記等。 頑張って ますね♡ 頑張って ますね♡ 116

(117)

栄養指導と節酒指導の対比

(118)

去年栄養指導した人に今年は節酒指導を

少しカロリーを 減らしましょう 去年

(119)

去年栄養指導した人に今年は節酒指導を

少しドリンクを 減らしましょう

去年 今年

(120)

ロールプレイ

実際に、ワークブックを

使った減酒支援を

体験してみましょう!

参照

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