Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
歯ブラシの毛束と植毛
Author(s)
高柳, 篤史
Journal
歯科学報, 114(2): 123-125
URL
http://hdl.handle.net/10130/3258
Right
カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
はじめに
口腔の健康を保つためには,日常のブラッシング
行動は極めて重要である。歯ブラシは主たる歯口清
掃用具として最も広く用いられている。近年,歯ブ
ラシにも様々な技術が取り入れられ,多様な歯ブラ
シが市販されている1)
。歯科診療においても,これ
らの歯ブラシの特性を理解したうえで個々の患者の
口腔内状況や口腔保健行動に合わせた歯ブラシの選
択が求められる2,3)
。本誌前号において,歯ブラシの
毛先について解説した4)
。ブラッシング力は歯ブラ
シのヘッド部の台座に植毛された毛束を通じて歯面
等に伝達される。そこで今回,歯ブラシの毛束と植
毛について解説する。
小径毛束(図1b)
ブラッシング時,歯ブラシの毛は1本ずつではな
く,毛束として働く。そのため,歯ブラシの細部到
達性は,歯ブラシに細い毛を用いるだけでなく毛
束を細くすることで,さらに高めることができる
(図2a)。
方形毛束(図1c)
歯ブラシの毛束の断面形態は円形のものが最も多
い。円形の毛束は清掃方向に対して指向性はない
が,ブラッシングストロークは主として歯ブラシの
長軸方向に行う。毛束を方形にすることで,長軸方
向に動かした際の平滑面での清掃効率が向上する。
また,方形植毛は植毛密度の制御にも利用される。
複合毛束(図1d)
歯ブラシの毛は細くなると細部到達性は向上する
が,清掃効率が低下する。逆に毛が太くなると,清
掃効率は向上するが,細部到達性が低下する。その
ため,1本の歯ブラシで,細部到達性と清掃効率の
両立を図る目的で,複数の種類の太さや長さの毛
を,径の異なる毛束で植毛しているものがある。
千鳥状植毛(図1e)
歯ブラシの毛先が歯間部などの狭い部位に入りこ
む際,隣同士の毛束で干渉しあい細部到達性が阻害
されることがある。そこで,植毛を千鳥状にするこ
とで,隣の毛束との干渉を防ぎ,清掃効率を低下す
ることなく,細部到達性を向上することができる(図
2b)。
多型毛束植毛(図3)
歯ブラシの毛先を届かせたい部位に到達して効率
的にブラッシング力が作用するように,長方形,三
角形,筒形など,様々な形態の毛束が組み合わされ
た歯ブラシが考案されている。
平線植毛(図4a)と融着植毛(図4b)
歯ブラシの毛束の台座への植毛方法は平線植毛と
融着植毛がある。平線植毛は最も多くの歯ブラシで
用いられている植毛方法である。毛束を2つ折りに
して,平線と呼ばれる真鍮の金属片で挟み込んで毛
束を台座に止める方法である。また,融着植毛は,
毛束の根元を台座に融着して固定する方法である。
融着植毛の特徴
融着植毛の利点の1つに,台座を薄くできること
が挙げられる(図5)。台座を薄くすることで,口腔
内での歯ブラシを操作しやすくなる。上顎大臼歯部
の頬側から歯列弓の遠心部が狭く,歯ブラシのヘッ
ドが届きにくい場合などに台座の薄い歯ブラシが推
奨される。また,限られたヘッドの高さの中で,台
座が薄いと,その分だけ毛丈を長くすることもで
き,歯間部などに毛先が届きやすくなる。
融着植毛では平線植毛に比べて植毛角度の自由度
が高く,植毛する毛束の方向をいろいろな方向に設
定することができる(図6)。ブラッシング時には歯
ブラシの毛先を歯面にあわせて歯ブラシを角度付け
することで,効率的に歯垢を除去ることができるが,
歯面は3次元的に複雑な形態をしており,歯ブラシ
の毛先を異なる方向に傾斜して植毛することで,清
掃効率を高めることができる。このような,歯ブラ
シはブラッシングスキルの習得が困難な場合や歯磨
き時間が短い場合などに推奨される。
また,多型毛束植毛など,毛束の断面形態を自由
に設定できることも融着植毛の利点の1つである。
近年,海外を中心に個々の目的に応じた多様な形状
の毛束が組み合わされた歯ブラシが考案されてい
る。
さらに,小径毛束においても,融着植毛が用いら
れる。毛束の小さな歯ブラシを平線植毛で作ると,
植毛穴の断面積に対して,平線の占める割合が高く
なり,十分な量の毛を植毛することが難しくなるた
め清掃効率が低下しやすい。また,毛束と毛束の間
隔が狭くなると,平線植毛では台座の強度の確保が
難しい。そのため,小径毛束の歯ブラシは融着植毛
の方が有利である。
文 献
1)高柳篤史:歯ブラシの機能と選択.歯科学報,106⑵:
63−67,2006.
2)高柳篤史:歯磨きのソムリエになる② 歯ブラシの選び
方.デンタルハイジーン,28⑵:162−166,2008.
3)高柳篤史:歯ブラシ.セルフケアの処方箋(中川種昭,
高柳篤史,薄井由枝),pp.44−47,医歯薬出版,東京,2009.
4)高柳篤史:歯ブラシの毛先.歯科学報,114⑴:27−29,
2014.
歯ブラシの毛束と植毛
高 柳 篤 史
埼玉県
図1 毛束の形態
図3 融着植毛では毛束形態の自由度が高い
図5 融着植毛では平線植毛に比べ台座を薄く
することができる
図6 融着植毛では植毛方向の自由度が高い
図2 千鳥状植毛と小径毛束(模式図)
千鳥状植毛や小径毛束にすることで,毛束の届かないエリアが
減少し,細部到達性が向上する
図4 平線植毛と溶着植毛(模式図)