Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
慈恵医大附属病院・歯科の日常
Author(s)
杉崎, 正志
Journal
歯科学報, 110(5): 560-563
URL
http://hdl.handle.net/10130/2104
Right
はじめに 当科の患者は医学部病院を受診した方であり,歯 科以外に問題を有しない患者を捜す方が困難であ る。最近では歯学部病院の中にも複数の医学診療科 を有する病院が多くなっている。これも高齢者社会 において必須のものであろうし,国民への安全な歯 科医業の提供に必須のものである。このように,国 民の要望はより高くなっており,医学部病院の歯科 では歯学部病院よりも安全で信頼性のある歯科医業 を提供することを日常業務のメインテーマとしてい る。 沿 革 東京慈恵会医科大学歯科の歴史は大正3年に田島 多米治氏によって講義がなされたことを嚆矢とす る。その後,東京歯科医学専門学校の遠藤至六郎教 授,大井清教授と終戦前まで講義が引き継がれた。 戦後は日本女子歯科医学専門学校の佐藤広吉氏が歯 科臨床の初代歯科部長として就任し,その後,昭和 37年には佐藤クレイトン先生が責任者として就任さ れ,さらに第三病院にも歯科が開設された。佐藤ク レイトン先生の後に,昭和54年に田邊晴康教授が着 任した。田邊教授が御退任後は杉崎がその後を引き 継いで,現在に至っている(写真1)。 現在の医局員構成は教授1,准教授2(内派遣中 1),講師2(内派遣中1),助教7,レジデント待 遇4,研修医5の計21名である。慈恵大学には本院 (港区),第三病院(狛江市),青戸病院(葛飾区),柏 病院(柏市)の4病院と晴海トリトンクリニック(中 央区)があり,その中の本院,第三病院およびトリ トンクリニックに歯科は設置されている。(写真2)
東京歯科大学創立120周年記念記事
「継承と発展」―各界の卒業生に聞く―
慈恵医大附属病院・歯科の日常
杉 崎 正 志
昭和48年卒業 東京慈恵会医科大学附属病院 歯科部長 写真2 医局員。最前列左から齋藤助教,鈴木 講 師(派 遣 中),伊介准教授,筆者,林講師,権助教。 写真1 東京慈恵会医科大学附属病院 中央棟 560 ― 6 ―外来診療 外来診療は月∼土曜の終日で,医局員は交代性で 担当している。歯科衛生士は本院2名,第三病院2 名,トリトンクリニック2名で,本院にはトリトン クリニックの2名が随時補助し,さらに看護師2 名,看護助手1名が勤務している。診療チェアーは 本院8台,第三病院4台,トリトンクリニック2台 で行っている。 本院に於ける外来診療内容は,一般歯科治療から 口腔外科疾患治療まで多岐にわたる。また,医科大 学附属病院の特性を生かし,他科との連携のもとに 有病者歯科治療にも力を入れている。さらに,専門 外来として,顎関節外来,睡眠時無呼吸症候群外来 を開設している(写真3)。 病棟,手術室及び入院患者 本院歯科の手術日は毎週水曜日が定時手術日と なっている。それ以外の手術オーダーは緊急手術と なる。症例の内容は口腔内の歯原性,非歯原性腫瘍 や嚢胞,外傷,顎変形症,消炎処置,顎関節疾患な どである。悪性腫瘍手術は耳鼻咽喉科に依頼してい る。また当院耳鼻咽喉科による上顎洞の全身麻酔下 経鼻内視鏡手術においては,歯科が同時に抜歯術や 上顎洞口腔瘻閉鎖術などの処置を行うことが多い。 年間の全手術数(概数)は,抜歯などの小外科をのぞ いて外来250例,入院120例程度である。 定時手術症例は手術の2週前に毎週金曜日に行わ れる手術カンファレンスにおいて術式などが議論さ れ,問題がなければ承認されるシステムである。ま た当病院の手術室のスケジュールは最近かなり密な ため,予定手術時間を1.5時間以上超えた場合は手 術室に科名と執刀医名が提示される。全身麻酔によ る手術は当院麻酔科による全身管理の下で行われ る。大部分の歯科手術の麻酔医は,麻酔研修中の当 科研修医2年目が麻酔指導医のもとに全身麻酔を施 行することが多い。局所麻酔でも,外来より清潔処 置を要する処置や静脈内鎮静を要する小手術は外来 手術センターにおいて当科の全身管理下で行われ る。執刀医は病院の規定で6年目以上となってい る。 本院歯科の入院患者の枠は5人と少なく,枠を超 えることはほぼない。このことから,医局員で特に 外来,病棟班を分けていないため,担当医と研修医 が常に外来と病棟を往復し入院患者の術前,術後の 管理を行っている。毎週金曜日のカンファレンスで 経過が報告される。また一日一度は医局員全員での 病棟回診を行っている。 東京慈恵会医科大学附属第三病院 昭和25年11月,総合病院として開院し,27年に正 式に附属東京分院となり,37年に附属三病院分院と 改称された。 歯科は,昭和45年本館の竣工に伴い設置された。 当初は入院患者と職員の診療を行っていた。初代診 療科長は阿部井寿人,46年からは関口洋介に交代し ている。昭和54年,田邊晴康教授が本学診療科長と して着任後は,56年1月より本院と兼務し,57年12 月まで就任した。 昭和56年,外来が中央棟へ移動,医局も2号館か ら3号館へ移動した。新しい外来は,治療椅子も増 加し,また歯科医師も5名で診療を行い,患者数, 手術件数も増加した。責任者は,昭和56年から宇沢 俊一が着任し,以後,小泉秀行,鮎瀬公彦,五百蔵 一男,鈴木 茂,伊介昭弘が順に着任した。平成16 年には標榜に歯科口腔外科を追加した。手術日は週 1日で,平日の午後は外来で小手術を行っている。 患者は狛江市,調布市,府中市,稲城市,世田谷区 さらに川崎市北部からも来院している。多くは内科 等の他科受診している患者,いわゆる有病者がほと んどを占め,さらに本院に較べ高齢者が多いのも特 徴である。口腔外科疾患では,周辺医療施設からの 紹介が多く,歯科ばかりでなく医科からもあり,紹 写真3 本院における外来診療 歯科学報 Vol.110,No.5(2010) 561 ― 7 ―
介率は40%を超えている。また当院他科入院患者の 歯科治療や口腔ケアの依頼も多くみられる。そのた め外来患者の一般歯科治療をおこなう時間が十分に とれないため,口腔外科疾患,有病者の観血的処置 を主体に行い,入院患者,職員については一般歯科 治療も行っている(写真4)。 晴海トリトンクリニック 晴海トリトンクリニックは本院のサテライトとし て存在している。診療科は内科,婦人科,放射線 科,歯科が常勤医師,メンタルケア科,整形外科, 眼科,耳鼻咽喉科,内視鏡科が非常勤医師により診 療が行われている。 歯科外来においては病院歯科とは異なる当クリ ニックとしての特徴が見られる。第一の特徴とし て,当クリニックはオフィスビル内に存在するため 患者層は会社員,OL が圧倒的多数であることであ る。そのため診療内容については,口腔外科疾患患 者は少なく一般歯科および歯周病管理が主な診療内 容となっている。また入院,手術の設備も無いため 必要があれば本院または他病院に依頼するかたちと なる。2番目の特徴としては患者が高学歴層である ため,普段にも増してインフォームドコンセントに 細心の注意を要することである。3番目の特徴とし て,就業時間中に中座して外来受診するため「待て ない」方が多数来科することである。そのため常に お待たせしない診療を心がけている。 以上,大学病院とは違った特徴,ニーズを踏まえ 患者満足度を上げられる様,日々の診療を行ってい る。 沖縄県全身麻酔下歯科治療事業へ派遣と 関連病院 沖縄県重度心身障害者全身麻酔下歯科治療事業 は,沖縄県と沖縄県歯科医師会により昭和54年6月 に開始され平成20年度で30周年を迎えた,歴史のあ る事業である。その開始年度より毎年,当科医局員 を歯科治療担当医として派遣している。また,歯科 治療指導医として田邊晴康前教授,鈴木 茂,林 勝彦が順に着任し,技術指導にあたっている。本事 業を通して,これまでに1500名を超える患者が全身 麻酔下歯科治療を受けており,今後のさらなる発展 が期待されている。 当科関連病院として,町田市民病院と社会保険大 宮総合病院の2施設がある。現在,町田市民病院 歯科・歯科口腔外科部長として五百蔵一男を,同担 当部長として小笠原健文を派遣している。また,社 会保険大宮総合病院 口腔外科部長として鈴木 茂 を派遣中である。 専門医・認定医の資格状況 当院歯科で専門医取得可能な日本歯科医学会専門 分科会は,日本口腔外科学会,日本顎関節学会,日 本歯科麻酔学会であり,認定医取得可能な日本歯科 医学会認定分科会は日本口腔診断学会,日本有病者 歯科医療学会,日本口腔感染症学会である。また, 医学会の取得可能な認定医は日本睡眠医学会,日本 化学療法学会である。現在,日本口腔外科学会指導 医3人,専門医4人,日本顎関節学会指導医2人, 専門医2人,認定医1人,日本口腔診断学会指導医 2人,認定医3人,日本口腔感染症学会認定医4 人,日本睡眠医学会認定医1人,日本化学療法学会 認定医3人が在籍している。 当院歯科の特徴として,2年間の臨床研修医修了 後,3年間のレジデント制度(専門医取得コース)を 設けており,研修医修了者はレジデント修了まで有 給診療医員として在籍することができる。研修期間 開始時には,日本口腔科学会,日本口腔外科学会の 入会を必須とし,レジデント修了までの5年間で, 認定医以上の資格取得が可能な日本歯科医学会認 定・専門分科会の入会と,その資格を取得すること が,レジデント修了時の目標となっている。当院に 写真4 東京慈恵会医科大学附属第三病院 歯科学報 Vol.110,No.5(2010) 562 ― 8 ―
おいて,歯科でのレジデント制度はまだ確立された ものではなく,レジデント期間中に日本歯科医学会 認定・専門分科会の資格を確実に取得することが, 今後の本制度を存続させるためにも不可欠である。 研 究 当教室の主要な研究テーマとしては「顎関節に関 する研究」が挙げられる。最近では臨床研究が多 く,顎関節症患者の日常生活障害評価用質問票の作 成,顎関節症のスクリーニング用質問表の作成,そ れらの妥当性検証などを行っている。それに加え て,近年,顎関節症を含む歯科疾患の臨床ガイドラ イン作成も重要な研究となっている。口腔粘膜の創 傷治癒に関する基礎的研究,特に口腔粘膜ケラチノ サイトにおける各種成長因子の発現と機能に関する 研究は,ノルウェー・オスロ大学口腔生物学講座と の共同研究として平成16年より現在に至るまで行わ れている。また,睡眠時無呼吸症候群に関する基礎 的研究としては,肥満・老齢ラットにおける筋線維 の変化に関する研究を鶴見大学物理学教室との共同 研究として遂行している。その他,顎関節における 末梢性鎮痛機構に関する研究,有袋類顎関節の解剖 学的研究,顎骨腫瘍・嚢胞の画像診断に関する研 究,ビスホスホネート顎骨壊死に関する臨床研究な どが現在進行中の研究テーマである。当教室は診療 部門であり,活動の中心は臨床であることから,全 ての研究テーマが臨床にフィードバックできる内容 となっている。 また,平成21年7月から一年間の間に,著者が大 会長を務め,林 勝彦を準備委員長として,第14回 日本口腔顔面痛学会,第23回日本顎頭蓋機能学会, 第188回日本口腔外科学会関東地方会,第23回日本 顎関節学会学術大会と4つの学会を主管し,いずれ も盛会裡に終了した。 おわりに 当科の日常業務について概説した。多くの関連各 科との連携診療,医学部という環境を用いた研究を 行ってきているが,マンパワーの不足,研究費の不 足等々の問題を抱えながらの日常業務である。これ を支えているのは医局員であり,ここに感謝する。 歯科学報 Vol.110,No.5(2010) 563 ― 9 ―