関連する筋・動静脈(資料1)
解剖学講座(神経機能形態学)(旧第二解剖) 佐藤 真
A. 背部の筋 dorsal muscles, muscles of back
(図1、演習1) ・背部の筋は浅背筋と深背筋に分かれ、両者はさらに表層の第1層と深層の第2層に分けられる。
A-1. 浅背筋 superficial dorsal muscles
1.第1層 ・僧帽筋と広背筋からなる(図1 左)。 ①僧帽筋trapezius:後頭骨の上項線と外後頭隆起、項 靱帯、第7頚椎以下全胸椎の棘突起より起こり、肩 甲骨の肩甲棘と肩峰、鎖骨の外側1/2 に停止する。 副神経と頚神経叢の支配。上部、中部、下部の筋束 により作用が異なる: 1. 上部の筋束:肩甲骨、鎖骨の外側端を上内方に引 く。 2. 中部の筋束:肩甲骨を内転する(つまり内方に寄 せる)。 3. 下部の筋束:肩甲骨の下部を内下方に引く。 [補]trapezius は、菱形あるいは台形の意味。日本語 学名の僧帽筋は、M. trapezius の旧学名のM. cucullaris のCucullus が頭巾つきの僧衣という意 味に由来する。 ②広背筋latissimus dorsi:第6-8 胸椎以下の棘突起、腰 背腱膜の浅葉、腸骨稜、第10-12 肋骨、肩甲骨の下 角より起こり、上腕骨の小結節稜に停止する。胸背 神経の支配。作用:上腕を内転・内旋、かつ後下方 に引く。 2.第2層 ・菱形筋と肩甲挙筋からなる(図1 右)。①菱形筋rhomboid muscles:大菱形筋rhomboid major と小菱形筋rhomboid minor の二つの筋からなる。 第6, 7 頚椎の棘突起、第1-4 胸椎の棘突起より起こり、肩甲骨の内側縁に停止する。神経支配:肩甲 背神経。作用:肩甲骨を内上方に引く。なお大菱形筋と小菱形筋を分けるときは起始で分ける。すな わち頚椎より起こる部分は小菱形筋で、胸椎より起こる部分は大菱形筋である。また頚横動脈の深枝 が両筋の境界にあるのでこれで分けることも可能である。 ②肩甲挙筋levator scapulae:第1 - 4頚椎横突起より起こり、肩甲骨の上角に停止する。肩甲背神経の 支配。作用:肩甲骨を上内方に引く。
A-2. 深背筋
1.第1層(図1-1 左) ・上および下後鋸筋からなる。①上後鋸筋serratus posterior superior:第5 頚椎から第1 胸椎までの棘突起より起こり、第2-5 肋骨に停 止する。神経支配:第1-4 肋間神経。作用:第2-5 肋骨を挙上する(吸気の補助筋)。
②下後鋸筋serratus posteiror inferior:第10 胸椎より第2 腰椎の棘突起より起こり第9-12 肋骨に停止する。 神経支配:第9-12 肋間神経。作用:第9-12 肋骨を下方に引く(呼気の補助筋)。
[補]脊髄神経の後枝に支配される筋を固有背筋proper dorsalis muscle という。上後鋸筋と下後鋸筋はと もに脊髄神経前枝の肋間神経の支配を受けることより、固有背筋ではない。 2.第2層(図1-1 右) ・固有背筋である。板状筋、脊柱起立筋(脊柱直立 筋)、横突棘筋、棘間筋、横突間筋、後頭下筋から なる。 ①板状筋splenius:頭蓋骨に停止する頭板状筋 splenius capitis と頚椎に停止する頚板状筋 splenius cervicis からなる。第3頚椎から第6胸 椎の棘突起より起こり、頭板状筋は乳様突起と 上項線外側部に停止し、頚板状筋は第1-3 頚椎 の横突起に停止する。神経支配:脊髄神経後枝。 作用:一側の筋が作用するときは、頭をその側 に回転しかつ傾ける。両側の筋が同時に作用す るときは、頭を後ろへ反らす。 [補]板状筋は固有背筋の中でもっとも表層にあ る。 ②脊柱起立筋(脊柱直立筋)erector muscles of spine:腸肋筋、最長筋、棘筋の3筋は脊柱を直 立させる(そらせる)作用があるから、脊柱起 立筋ともいう。いずれも脊髄神経の後枝の神経 支配を受ける。一側の筋が作用するとそちら側 に曲げる(側屈)。両側の筋が作用すると後方 へ脊柱を反らせる。 1. 腸肋筋iliocostalis:腰腸肋筋、胸腸肋筋、頚 腸肋筋の3筋からなるが分けがたい。 2. 最長筋longissimus:胸最長筋、頚最長筋、頭 最長筋の3筋からなる。最長筋は、その下部 で腸肋筋と癒合し、全体として腸肋筋の内側 に位置する。 3. 棘筋spinalis:腰椎上部の棘突起より起こり胸椎の棘突起に終わる筋。 ③横突棘筋transversospinales:横突起より起こり棘突起 に終わる筋群の総称(図1-2)。神経支配:脊髄神経 の後枝。作用:一側の筋が働くと脊柱をそちら側に 曲げ、反対側に回転する。両側が働くと後方へ脊柱 を反らせる。 1. 頭半棘筋semispinalis capitis:第7,8胸椎の横突 起より起こり、後頭骨に停止する。
2. 頚および胸半棘筋semispinalis cervicis/ thoracis:全 胸椎の横突起より起こり、5個以上の椎骨を飛び 越えて上部胸椎と頚椎の棘突起に停止する。 3. 多裂筋multifidus:2-4個の椎骨を飛び越えて、 上位椎骨の棘突起に停止する。 4. 回旋筋rotatores:長回旋筋と短回旋筋の二つがある。 a) 長回旋筋long rotatores:椎骨を1つ越えて上位椎 骨の棘突起に停止する。 b) 短回旋筋short rotatores:すぐ上位の椎骨の棘突 起に停止する。 ④棘間筋interspinales:二つの棘突起の間に張る筋。脊
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髄神経後枝の支配。作用:頚を後ろに反らせる。 ⑤横突間筋intertransversarii:横突起の間に張る筋。脊髄 神経後枝(一部、前枝の支配)(図1-3)。 ⑥後頭下筋suboccipital muscles:後頭部の最深層にある筋。 神経支配:後頭下神経(第1頚神経の後枝)。作用: 頭を後ろに引いて、直立する。1. 大後頭直筋rectus capitis posterior major 2. 小後頭直筋rectus capitis posterior minor 3. 上頭斜筋obliquus capitis superior 4. 下頭斜筋obliquus capitis inferior
B. 頚部の筋
1.浅頚筋superficial cervical muscles
・頚部浅層の筋。広頚筋、胸鎖乳突筋、舌骨上筋群、舌 骨下筋群からなる。 1-1. 広頚筋platysma(図2) ・下顎骨の下縁より起こり、第2,3 肋間の高さの皮膚に停 止する。神経支配:顔面神経頚枝。作用:頚部の皮膚 を上に引き、緊張させる。 [補]広頚筋は非常に薄い四角形の皮筋で、頚筋膜の 浅葉により他の筋群と隔てられる。 1-2. 胸 鎖 乳 突きょうさにゅうとつ筋sternocleidomastoid(図3) ・胸骨柄前面と鎖骨の胸骨端より起こり、側頭骨の乳 様突起に停止する。神経支配:副神経と頚神経叢の 筋枝。作用:両側が収縮するとオトガイを上げて、 後頭部を前下方に引く。一側が働くと反対側に頭を 回す。 1-3. 舌骨上筋群suprahyoid muscles(図4、5) ①顎二が く に腹ふく筋digastric:中間腱を挟んで後腹と前腹から なる二腹筋。中間腱は舌骨小角の付近にある線維 性の滑車により舌骨体に支持される。作用:下顎 骨を固定すれば、舌骨を引き上げる。舌骨を固定 すれば下顎骨を引き下げる(開口筋)。 1. 顎二腹筋後腹post. belly:側頭骨の乳様突起より 起こり、中間腱に至る。神経支配:顔面神経(後 耳介神経顎二腹筋枝)。 2. 顎二腹筋前腹ant. belly:中間腱に引き続き、下顎骨の前部の内面にある顎二腹筋窩に停止する。神 経支配:下顎神経(顎舌骨筋神経顎二腹筋枝)。 [補]後腹(顔面神経支配)と前腹(下顎神経支配)は発生してくる鰓弓が異なるので、支配神経が異 なる。すなわち後腹は第2鰓弓より、前腹は第1鰓弓より発生する。 ②茎突舌骨筋stylohyoid:茎状突起より起こり、舌骨大角に停止する。神経支配:顔面神経(後耳介神経 茎突舌骨筋枝)。作用:舌骨を後上方に引く。
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③顎舌骨筋mylohyoid:下顎骨の内面にある顎舌骨筋線より起こり、舌骨体と正中の縫線に停止する。 神経支配:下顎神経(顎舌骨筋神経顎舌骨筋枝)。作用:下顎骨を固定すれば舌骨を引き上げる。舌骨を 固定すれば下顎骨を引き下げる(開口筋)。 ④オトガイ舌骨筋geniohyoid:下顎骨正中部の後面にあるオトガイ棘より起こり、舌骨体の前面に停止 する。神経支配:舌下神経(オトガイ舌骨筋枝)。ただしこの神経の成分は、舌下神経核に由来しな い。すなわち第1,2頚髄前角の運動ニューロンより起こり、第1,2頚神経の前根を通り、舌下神 経に入り、これから分かれてオトガイ舌骨筋枝となり同筋に入る。作用:下顎骨を固定すれば舌骨を 引き上げる。舌骨を固定すれば下顎骨を引き下げる(開口筋)。 1-4. 舌骨下筋群infrahyoid muscles(図4、5) ①胸骨舌骨筋sternohyoid:胸骨柄より起こり、舌骨体に停止する。神経支配:頚神経ワナ。 作用:舌骨を引き下げる。 ②肩甲舌骨筋omohyoid:上腹と下腹からなり、両者は中間腱で結合する。下腹は肩甲骨の上縁より起こ り、中間腱に移行する。上腹は中間腱より起こり、舌骨体に停止する。神経支配:頚神経ワナ。 作用:舌骨を下後方に引く。中間腱が付着している頚筋膜の気管前葉を介して頚筋膜を張り、頚動脈 鞘を広げる(内頚静脈が広げられて、静脈還流が増える)。 ③ 胸骨甲状筋sternothyroid:胸骨柄後面より起こり、甲状軟骨に停止する。神経支配:頚神経ワナ。 作用:甲状軟骨を引き下げる。 ④甲状舌骨筋thyrohyoid:甲状軟骨より起こり、舌骨体に停止する。神経支配:舌下神経(甲状舌骨筋 枝)。ただし、この神経の成分は舌下神経核に由来しない(オトガイ舌骨筋の項を参照せよ)。作用: 甲状軟骨を固定すれば舌骨を下げる。舌骨を固定すれば甲状軟骨を上げる。
2.深頚筋deep cervical muscles(図5-1) 2-1. 斜角筋群scalene muscles
・頚椎の横突起より起こり、外下方に向かって第1 あるいは第2肋骨に停止する筋群。
①前斜角筋scalenus anterior, ant. scalene:第3(な いし第4)頚椎~第6頚椎の横突起前結節より 起こり、第1肋骨の前斜角筋結節に停止。神経 支配:頚神経叢および腕神経叢の筋枝。作用: 第1肋骨の挙上。
②中斜角筋scalenus medius, middle scalene:第2~ 第7頚椎の横突起後結節より起こり、第1肋骨 の鎖骨下動脈溝の後方の隆起に停止。神経支 配:頚神経叢および腕神経叢の筋枝。作用:第 1肋骨の挙上。
③後斜角筋scalenus posterior, posterior scalene:第 4(あるいは第5)~第6頚椎の横突起後結節 より起こり、第2肋骨の外側面に停止。神経支 配:腕神経叢の筋枝。作用:第2肋骨の挙上。 2-2. 椎前筋群prevertebral muscles ・頚椎および胸椎のの前方にある筋群。 ①頚長筋longus colli ②頭長筋longus capitis ③前頭直筋rectus capitis anterior ④外側頭直筋rectus capitis lateralis
C. 胸部の筋 muscles of thorax
1.浅胸筋(胸部の上肢筋)superficial muscles of thorax(図6)
・すべて胸郭より起こり上肢帯(肩甲骨と鎖骨)と上腕骨に停止する。腕神経叢の神経支配を受ける。 ①大胸筋pectoralis major muscle:鎖骨の内側半(鎖骨部)、胸骨前面と上位5ないし7肋軟骨(胸肋部)、
腹直筋鞘前葉(腹部)より起こり、上腕骨の大結節稜に停止する。神経支配:内側胸筋神経と外側胸 筋神経。作用:上腕の内転と内旋。 ②小胸筋pectoralis minor:第2-5 肋骨より起こり肩甲骨の烏口突起に停止する。神経支配:内側胸筋神 経と外側胸筋神経の支配。作用:肩甲骨を前下方に引く。 ③鎖骨下筋subclavius:第1肋骨の上面の胸骨端より起こり、鎖骨下面に停止する。神経支配:鎖骨下筋 神経の支配。作用:鎖骨を下方に引く。 ④前鋸筋serratus anterior:8-10 個の筋尖が第1 -第8 ないし第10 肋骨の外側面より起こり、肩甲骨の 内側縁、上角、下角に停止する。神経支配:長胸神経。作用:肩甲骨を前方に引く。
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2.深胸筋(固有胸筋)deep muscles of thorax ・肋間神経すなわち胸神経前枝の支配を受ける。①外肋間筋external intercostal muscles:肋間隙を満たす筋。筋束の方向は、前部では外上方より内下 方に至る。神経支配:肋間神経。作用:肋骨を引き上げる(吸気)。
②内肋間筋internal intercostal muscles:肋間隙を満たす筋。外肋間筋の内面にある。筋束の方向は、外 肋間筋と直交する。すなわち前部では、内上方より外下方に至る。神経支配:肋間神経。作用:肋骨 を引き下げる(呼気)。
③最内肋間筋innermost intercostal muscles:肋間隙を満たす筋。内肋間筋の内面にある。筋束の方向は、 内肋間筋と同じ。神経支配:肋間神経。作用:肋骨を引き下げる(呼気)。 [補]肋間神経と肋間動静脈は内肋間筋と最内肋間筋の間で、肋骨の下縁(すなわち肋間隙の上縁)を 走る。 [問]なぜ肋骨を上方に引き上げると吸気で、下方に引き下げると呼気になるのか? ④肋下筋subcostales:最内肋間筋の後部の筋束が分かれたもの。1つおいてさらに下位の肋骨に停止す る。下部の2ないし4肋間に見られる。神経支配:肋間神経。作用:肋骨を引き下げる(呼気) ⑤胸横筋transversus thoracis:前胸壁の内面にある筋。胸骨体下部と剣状突起の後面より起こり、4筋束 に分かれて第3-6 肋軟骨の外側端に停止する。肋間神経の支配。作用:肋骨を引き下げる(呼気)。
D. 腹部の筋 muscles of abdomen
(図7)8
1.前腹筋 ①腹直筋rectus abdominis:腹直筋は、途中3ないし4個の腱画により4ないし5個の筋腹に分かれる。 恥骨より起こり、第5-7 肋軟骨と剣状突起の前面に停止する。神経支配:肋間神経と腸骨下腹神経。 作用:胸郭の前部を引き下げる。骨盤の前部を引き上げる。骨盤を固定すれば、脊柱を前方に曲げる (前屈)。 ②錐体筋pyramidalis:腹直筋の起始部の前方にある筋。恥骨より起こり、白線の下部に停止する。神経 支配:肋間神経と腸骨下腹神経。作用:白線を張り、腹直筋の働きを補助する。 2.側腹筋Mm. abdominis laterales ・脇腹(ワキバラ)の筋。表層より外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の3層からなる。 ①外腹斜筋external oblique:第5-12 肋骨の外面より起こる。一部の筋束は腸骨稜外唇に停止するが、大 部分の筋束は腱膜となり鼠径靱帯、恥骨稜、腹直筋鞘の前葉に入り、白線に停止する。神経支配:肋 間神経、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経。作用:肋骨を引き下げる。脊柱を前屈する(あるいは骨盤を 引き上げる)。上体を反対側に回す。腹圧を高める(呼気)。 ②内腹斜筋internal oblique:腸骨稜の中間線、鼠径靱帯の外側部より起こる。一部の筋束は第10-12 肋骨 の下縁に停止するが、大部分は腱膜となり、2葉に分かれて腹直筋鞘の前葉と後葉に入り白線に終わ る。ただし弓状線より下方では前葉のみに入る。神経支配:肋間神経、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経。 作用:肋骨を引き下げる。脊柱を前屈する(あるいは骨盤を引き上げる)。上体を同側に回す。腹圧 を高める(呼気)。 【補】精巣挙筋cremaster muscle:内腹斜筋の最下部の筋束が分かれ、鼠径管(図8)を通り、男では精 索と精巣、女では子宮円索を包んで終わる。神経支配:陰部大腿神経。作用:男では精巣を引き上 げる。女での作用は乏しい。③腹横筋transversus abdominis, transeverse abdminal:第7-12 肋軟骨、腰筋膜、腸骨稜内唇、鼠径靱帯より 起こり、腱膜となり弓状線より上方では腹直筋鞘の後葉、弓状線より下方では腹直筋鞘の前葉に入り、 白線に終わる。神経支配:肋間神経、腸骨下腹神経、陰部大腿神経。作用:腹圧を高め、横隔膜を押 し上げる(呼気)。腹腔の容積を小さくして排便を促す。
3.後腹筋
①腰方形筋quadratus lumborum muscle:腸骨稜より起こり、第12 肋骨に停止する。神経支配:腰神経叢 の筋枝。作用:両側が働けば脊柱を後屈する。一側が働けば、そちら側に脊柱を曲げる(側屈)。
演習1:背部浅層の筋(浅背筋)
■背部の筋は、浅層の筋(浅背筋)と深層の筋(深背筋)からなる。浅層の筋はさらに第1層(僧帽筋と 広背筋)と第2層(菱形筋と肩甲挙筋)からなる。深層の筋も、第1層(上後鋸筋と下後鋸筋)と第2 層(固有背筋)からなる。下記の図の左半は背部浅層の筋の第1層を示している。図の右半は第1層の 筋を取り除いて背部浅層の筋の第2層を示している。 ■作業:筋を茶色、骨を薄い灰色に塗りなさい。11
演習2:浅胸筋(胸部の上肢筋)
■胸部の筋は浅胸筋(胸部の上肢筋)、深胸筋(固有胸筋)、横隔膜からなる。浅胸筋は、胸郭より起こ り上肢帯(鎖骨と肩甲骨)または上腕骨に停止する筋群で、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋からな る。全て腕神経叢の枝に支配される。深胸筋は外肋間筋、内肋間筋、最内肋間筋などからなる。いずれ も肋間神経の支配を受ける。横隔膜は腰部、肋骨部、胸骨部からなり横隔神経に支配される。 ■作業:浅胸筋を茶色で、鎖骨、肩甲骨、上腕骨を薄い灰色で、胸郭を薄い黄色で塗りなさい。12
演習3:上肢帯の筋
■上肢帯の筋は鎖骨、肩甲骨より起こり上腕骨に着く。上腕の運動(特に外転と回旋)にあずかる。全て 腕神経叢の神経支配を受ける。 ■作業:筋を茶色に、骨を薄い水色に塗りなさい。血管系各論(動脈系)
・大動脈aorta(図1):動脈系の基本となる大動脈は 左心室より起こり、僅かに上行したのち(上行大動 脈)、後方に曲がって脊柱の左側に至る(大動脈弓)。 ついで脊柱の前左側に沿って下がり、横隔膜の大動 脈裂孔aortic hiatus を貫いて腹腔に入り、第4腰椎 の前面にて左右の総腸骨動脈に分かれる(下行大動 脈)。下行大動脈は横隔膜をはさんで胸大動脈と腹 大動脈に分けられる。 1.上行大動脈ascending aorta ・左心室の大動脈口より始まり腕頭動脈を出すまでの 短い部分を上行大動脈という(図1、2)。 ・大動脈弁を構成する3枚の半月弁の直上部の上行大 動脈の内腔は陥凹する[大動脈洞(バルサルバ洞) aortic sinus, sinus of Valsalva]。この3個の陥凹に対 応して、上行大動脈の起始部は3つの膨隆部をもつ (大動脈球aortic bulb)。・大動脈洞より心臓の栄養血管である右冠状動脈right cornary a. と左冠状動脈left coronary a. が出る(心臓 の項参照)。 [補]右および左冠状動脈は、大動脈弁の右および左 半月弁の直上のバルサルバ洞から出る。後半月弁の直上のバルサルバ洞からは、冠状動脈は出ない。 2.大動脈弓aortic arch ・上行大動脈に続き、下行大動脈に接続する部分を大動脈弓という(図2) 。胸骨角と第4 胸椎椎体下縁 を通る面より上方、つまり縦隔上部に含まれる大動脈を大動脈弓という(図3)。 ・動脈管索ligamentum arteriosum【英・ラ】:大動脈弓の凹面側と肺動脈分岐部とを結ぶ。動脈管の遺残 組織である(発生学で詳しく学ぶ)。 ・枝として(図4A): ①腕頭動脈brachiocephalic trunk ②左総頚動脈left common carotid artery ③左鎖骨下動脈left subclavian artery
[補]腕頭動脈は右鎖骨下動脈と右総頚動脈に分かれる。前者が「腕」に、後者が「頭」に分布するので この名がつけられた。腕頭動脈は右側に1本あるのみであるから、右腕頭動脈といってはならない (意味をなさない!)。一方、腕頭静脈は両側にあるので、右あるいは左腕頭静脈という(図4B)。
3.総頚動脈common carotid artery
・右総頚動脈は腕頭動脈より、左総頚動脈は大動脈弓より直接出る。頚動脈三角([補]参照)にて外頚 動脈と内頚動脈の2枝に分かれる。総頚動脈はその経過中に枝を出さない。 [補]頚動脈三角carotid triangle(図5):肩甲舌骨筋上腹、顎二腹筋後腹、胸鎖乳突筋により境界される 三角形。ここを指で押してみよう。動脈の拍動を触れるだろう。これは総頚動脈が第6頚椎横突起 に押しつけられて、拍動が指に触知されるからである。ここで総頚動脈を圧迫すれば、一時的な止 血効果がある。なお第6頚椎横突起を頚動脈結節という。総頚動脈は、頚動脈三角において、内頚 動脈と外頚動脈に分かれる。故に頚動脈小体や頚動脈洞もこの三角形の深部に含まれる。総頚動脈、 内・外頚動脈、内頚静脈、迷走神経、舌下神経、頚部交感神経幹は、頚動脈三角より手術的に到達 できるので、この三角形は臨床的に重要である。
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・総頚動脈には呼吸に関する反射や循環反射に関与する受 容器がある(図6): ①頚動脈小体carotid body:総頚動脈の分岐部の内側面に 存在する直径1~2 mm の小体で、血中の酸素分圧の低下 を感知する化学受容器chemoreceptor である。 ②頚動脈洞carotid sinus:総頚動脈が内、外頚動脈に分岐 する所から内頚動脈の起始部にかけて膨隆する部分を 頚動脈洞という。血圧の上昇を感知する圧受容器(機 械受容器あるいは伸展受容器ともいう)である。 [補]頚動脈小体を介する反射(化学受容器反射)や圧受 容器を介する反射(頚動脈洞反射)の神経機構は重要 であるが、神経解剖学、生理学で学ぶので今の時点で は覚える必要はない。4.外頚動脈external carotid artery(図10)
・総頚動脈より分かれて、内頚動脈の前内側を上行して下 顎頚の高さに達し、ここで顎動脈と浅側頭動脈の2終枝 に分かれる。外頚動脈と内頚動脈の内外関係は名前と逆 になることに注意する(!)。 ・枝として下記の動脈があるが、上甲状腺動脈、舌動脈、 顔面動脈は外頚動脈の前方から出る。一方、上行咽頭動 脈、後頭動脈、後耳介動脈は外頚動脈の後から出る(図 10)。
①上甲状腺動脈superior thyroid artery:甲状腺に至り、鎖骨下動脈の枝の甲状頚動脈の1枝である下甲状 腺動脈と吻合する。
②上行咽頭動脈ascending pharyngeal artery :咽頭の後壁を上行する。 ③舌動脈lingual artery :舌骨舌筋の内側を前走し舌に至る。
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④顔面動脈facial artery :茎突舌骨筋、 顎二腹筋後腹の内側を通り、下顎骨の 下縁を通って顔面に至り、口角の外側 より内眼角に向かう(眼角動脈)。眼 動脈の終枝である鼻背動脈と吻合す る。 ⑤後頭動脈occipital artery:側頭骨の後頭 動脈溝を通って、後頭部に至る。 ⑥後耳介動脈posterior auricularartery :耳 介の内側面に至る。 ⑦浅側頭動脈superficial temporalartery :外頚動脈の2終枝の 一つ。こめかみ(側頭部)で拍動を触 れる動脈。 ⑧顎動脈maxillary artery:外頚動脈の2 終枝の一つ。下顎頚の後面より始まり、 下顎枝の内側を迂曲して前走し(下顎 部)、外側翼突筋の二頭の間を通り(翼 突筋部)、翼口蓋窩に至る(翼口蓋部)。 顎動脈に伴行する顎静脈は、単一の血 管ではなく静脈叢の形態をとる(翼突 筋静脈叢)。 5.鎖骨下動脈subclavian artery(図14、 15) ・右は腕頭動脈、左は大動脈弓より起こ り、前斜角筋と中斜角筋との間を通っ て腋窩に至り、第1肋骨外側縁で腋窩 動脈に移行する。 [補]鎖骨下動静脈と前斜角筋との相互 位置関係は重要(図15)。すなわ ち前斜角筋の前方を鎖骨下静脈、 後方を鎖骨下動脈、腕神経叢が通 過する(VAN の法則)。 ・枝として(図14): ①椎骨動脈vertebral a.:第6頚椎横突孔に入り、これより上位の頚椎横突 孔を順次上行し、環椎の横突孔を貫い たのち、大[後頭]孔より頭蓋内に至 る。頭蓋腔で左右の椎骨動脈は合して 脳底動脈basilar a. になる。脳は左右の 内頚動脈と左右の椎骨動脈により栄養 される(神経解剖学で詳しく学ぶ)。 ②内胸動脈internal thoracic a.:前胸壁の後 面を下行し、筋横隔動脈musculophrenic a. と上腹壁動脈superior epigastric a. の 2終枝を出す(図14、16)。上腹壁動 脈は下腹壁動脈(外腸骨動脈の枝)と 交通する。また内胸動脈の枝の前肋間 枝は胸大動脈の枝の肋間動脈と交通す る。いずれも側副路として重要である。 ③甲状頚動脈thyrocervical trunk:ただちに 次の4枝に分かれる(図14)。 1) 下甲状腺動脈inferior thyroid a. 2) 上行頚動脈ascending cervical a. 3) 頚横動脈transverse cervical a. 4) 肩甲上動脈suprascapular a. ④肋頚動脈costocervical trunk:ただちに深 頚動脈deep cervical a. と最上肋間動脈 highestintercostal a. に分かれる(図14)。 6.腋窩動脈axillary artery ・鎖骨下動脈の続きで、腋窩の外側壁を通り、 前方からは大胸筋の下縁の高さで、後方からは大円筋の 下縁の高さで上腕動脈に移行する(図17A)。 ・枝として(図17A): ①肩甲下枝subscapular branches
②最上胸動脈highest thoracic a.:第1および第2肋間隙外面に分布する。 ③胸肩峰動脈thoracoacrominal a.
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⑤肩甲下動脈subscapular a.:肩甲回旋動脈circumflex scapular a. と胸背動脈thoracodorsal a. に分かれる。 肩甲回旋動脈は内側腋窩隙を通過する(図18)。
⑥前上腕回旋動脈anterior circumflexhumeral a.:上腕骨外科頚の前を外方に走り、後上腕回旋動脈と吻合 する(図17B)。
⑦後上腕回旋動脈posterior circumflexhumeral a.:外側腋窩隙を腋窩神経と共に貫き(図18)、上腕骨外 科頚の後を外方に走る。 7.胸大動脈thoracic aorta ・大動脈弓の続きで、第4胸椎の高さに始まり、 第12 胸椎の高さで横隔膜の大動脈裂孔を貫 き腹腔に至り腹大動脈となる(図1、22)。 ・この動脈の枝には臓側枝visceral branches と壁 側枝parietal branches がある(図23)。 ■臓側枝として: ①気管支動脈bronchial branches:肺の栄養動脈 である。肺の機能血管は? ②食道動脈esophageral branches ③心膜枝pericardial branches ④縦隔枝mediastinal branches ■壁側枝として:
①第3-11 肋間動脈posterior intercostal aa. [3rd-11th]:最内肋間筋と内肋間筋の間を外 方に、肋骨の下縁すなわち肋間隙の上縁に 沿って走る(図22、24)。前胸部で内胸動脈と交通する。
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[補]なお第1および第2肋間動脈は肋頚動脈の枝の最上肋間 動脈の枝である。 [補]胸大動脈が閉塞した場合、鎖骨下動脈→内胸動脈→前肋 間枝→肋間動脈→(閉塞部位より下方の)胸大動脈の側副路 が発達する。 ②肋下動脈subcostal a.:第12 肋骨下縁にある最下位の肋間動脈 で、第12 肋間動脈ともいう。8.腹大動脈abdominal aorta
・第12 胸椎の高さ(すなわち横隔膜大動脈裂孔の高さ)で、胸大動脈に続いて始まり、第4腰椎の前で 左右の総腸骨動脈を出したのち、細い正中仙骨動脈median sacral a. となって尾骨の先端まで達する(図 25)。
・腹大動脈の枝には臓側枝visceral branches と壁側枝parietal branches がある。臓側枝はさらに消化器を支 配する腹側枝(不対)と泌尿生殖器(1対)を支配する外側枝に分けられる(図26、27)。 8-1. (臓側枝の)腹側枝
①腹腔動脈c(o)eliac trunk, c(o)eliac axis:ただちに左胃動脈、総肝動脈、脾動脈に分かれる(図28)。 1) 左胃動脈left gastric a.:胃の小弯に沿って小網内を左から右に走り、右胃動脈と交通する。 2) 総肝動脈common hepatic a.:右胃動脈と胃十二指腸動脈を出したのちに固有肝動脈hepatic artery
proper なり、肝十二指腸間膜内を走り、肝門にて右枝と左枝に分かれ肝臓に分布する。 さらに枝として:
a. 右胃動脈right gastric a.:胃の小弯に沿って右から左に走り、左胃動脈と交通する。
b. 胃十二指腸動脈gastroduodenal a.:上膵十二指腸動脈superior pancreaticoduodenal a. と右胃大網動脈 right gastroepiploic a. に分かれる。
3) 脾動脈splenic a.:膵臓の上縁に沿って左方に走り脾臓に至る。枝として: a. 膵枝pancreatic branches
b. 短胃動脈short gastric aa.
c. 左胃大網動脈left gastroepiploic a.:胃の小弯に沿って左から右に走り、右胃動脈と交通する。 d. 脾枝splenic branches:脾臓に至る。
②上腸間膜動脈superior mesenteric a.:膵臓の後を通って膵臓と十二指腸下部の間から現れ、腸間膜内を 走る(図29)。枝として:
1) 下膵十二指腸動脈inferior pancreaticoduodenal aa.:上膵十二指腸動脈と交通する。 2) 空腸動脈jejunal arteries と回腸動脈ileal arteries
3) 中結腸動脈middle colic a.
4) 右結腸動脈right colic a.
5) 回結腸動脈ileocolic a.:上腸間膜動脈の終枝。
③下腸間膜動脈inferior mesenteric a.:十二指腸空腸曲の下方より起こる(図30)。枝として: 1) 左結腸動脈left colic a.
2) S状結腸動脈sigmoid aa. 3) 上直腸動脈superior rectal a.
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8-2. (臓側枝の)外側枝①中副腎動脈middle suprarenal a.
②腎動脈renal artery:下副腎動脈inferior suprarenal a. を出した後、腎門に至り、前枝と後枝に分かれて、 腎臓に分布する(図31)。前枝として上区動脈、上前区動脈、下前区動脈、下区動脈、後枝として後 区動脈を出す(泌尿器系参照)。
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③精巣動脈testicular artery / 卵巣動脈ovarian artery:ともに下方に走る(図32)。精巣動脈は精索に伴い、 深鼠径輪→鼠径管→浅鼠径輪を経て精巣に至る。卵巣動脈は骨盤内に至り、子宮広間膜内を走り、卵 巣に至る。 [補]精巣動脈や卵巣動脈が腹大動脈より起こる部位は、精巣や卵巣より高位にある。その理由は精巣下 降と卵巣下降による。すなわち精巣や卵巣は胎生時には腎臓の原基の付近に発生するが、発生中に 次第に下降し、前者は陰嚢の中に、後者は骨盤の中に至る(図32)。卵巣の下行は精巣に比べて中 途半端。 8-3. 壁側枝
①下横隔動脈inferior phrenic artery:上副腎動脈 を出し、横隔膜下面に分布する(図31)。 ②腰動脈lumbar arteries:胸部の肋間動脈に相当
し、4対ある。
9.総腸骨動脈common iliac artery
・第4腰椎の前方で腹大動脈から分かれて外下方 に至り、仙腸関節の高さで内腸骨動脈と外腸骨 動脈に分かれる。
10.内腸骨動脈internal iliac artery
・小骨盤に入り、卵巣と直腸上部を除く骨盤内 臓に分布する。壁側枝と臓側枝を出す。
10-1. 壁側枝(図33) ①腸腰動脈iliolumbar artery ②外側仙骨動脈lateral sacral arteries
③閉鎖動脈obturator artery:骨盤内で恥骨枝を出した後、閉鎖管を通って骨盤外に至り、前枝と後枝に分 かれる。後枝より寛骨臼枝が出る。寛骨臼枝は大腿骨頭と大腿骨頭靭帯に分布する。
[補]閉鎖動脈の恥骨枝は、下腹壁動脈の恥骨枝と交通する(図34)。この交通が太く、閉鎖動脈が下 腹壁動脈より分かれているようにみえるものを死冠Corona mortis といい、鼠径ヘルニアの外科的手術 のときに注意が必要である。
④上殿動脈superior gluteal artery:梨状筋上孔(図35)を通って骨盤外に去り、殿部に至る。
⑤下殿動脈inferior gluteal artery::梨状筋下孔(図35)を通って骨盤外に去り、殿部に至る。この動脈の 枝の坐骨神経伴行動脈companion artery to sciatic nerve は、下肢の本幹動脈が退化したものである。 10-2. 臓側枝(図33)
①臍動脈umbilical arteries:胎生期に臍帯を通って胎盤に至る左右1対の大血管であるが、生後は退化し て臍動脈索medial umbilical ligament となる。しかし基部は残って上膀胱動脈superior vesical arteries と なる。
②下膀胱動脈inferior vesical artery
③精管動脈a. to ductus (vas) deferens または子宮動脈uterine artery: ④中直腸動脈middle rectal artery
⑤内陰部動脈internal pudendal artery:梨状筋下孔を通って骨盤外に出るが再び小坐骨孔より骨盤内に入 り、坐骨直腸窩の外側壁を前進する。枝として:
1) 下直腸動脈inferior rectal artery
2) 会陰動脈perineal artery:会陰の筋に分布する。枝として後陰嚢(唇)枝を出す。 3) 陰茎(核)背動脈dorsal a. of penis (clitoris)
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11.外腸骨動脈external iliac artery(図33)・仙腸関節よりはじまり鼠径靭帯の下(血管裂孔)で大腿動脈に接続する(図38)。 ・枝として:
①下腹壁動脈inferior epigastric artery:内側鼠径窩と外側鼠径窩の間を上行し、上方で上腹壁動脈と交通 する(図16)。また恥骨枝を出して閉鎖動脈の恥骨枝と交通する(図34)。
血管系各論(静脈系)
・静脈系は、心臓の静脈、上大静脈(系)、下大静脈(系)、門脈(系)の4系に分ける。
A. 心臓の静脈 veins of heart
・心臓の章で説明。B. 上大静脈(系) superior vena cava (system)
・主として頭頚部、胸郭、上肢などからの血液を集める静脈の本幹。左右の腕頭静脈が合して上大静脈と なり右心房に注ぐ(図1B)。以下の静脈の静脈血を集める。 1.腕頭静脈brachiocephalic vein ・内頚静脈と鎖骨下静脈が合して腕頭静脈ができる(図1B)。 【問】腕頭静脈は左右ある(左腕頭静脈と右腕頭静脈)。では腕頭動脈は左右あるか? 解答 No (図 1A) 【問】腕頭静脈の左右差は重要である。では長いのはどちらか?また水平位に近いのはどちらか? 解答 左腕頭静脈は右のそれより長く、かつ水平位に近い(図2)。
2.内頚静脈internal jugular vein ・ほとんど全ての頭頚部の血液 を集める静脈で総頚動脈の潅 流領域にほぼ相当する(内頚静 脈≒内頚動脈+外頚動脈)。S 状静脈洞の続きとして頚静脈 孔に始まり、胸鎖関節の後方で 鎖骨下静脈と合し腕頭静脈と なる。上端と下端が脹らみ、そ れぞれ頚静脈上球superior bulbof jugular vein 、頚静脈下球 inferior bulb of jugular vein とい う(図3)。 ・静脈角venous angle:内頚静 脈と鎖骨下静脈が合流する ところを静脈角という。左静 脈角に胸管が、右静脈角に右 リンパ本管(右胸管)がそそ ぐ(重要)。 ・内頚静脈の主要な静脈根とし て: ①舌静脈lingual vein: ②顔面静脈facial vein:顔面 動脈の分布域より血液を集め、下顎角の後側で下顎後静脈と合して内頚静脈に注ぐ。
③下顎後静脈retromandibular vein:浅側頭静脈superficial temporal v. と顎静脈maxillary v. が合してでき る(図3)。さらに顔面静脈と合したのち、二分して一方が内頚静脈に、他方が外頚静脈に注ぐ。な お顎静脈は顎動脈と著しく形態を異にして、静脈叢を形成する(翼突筋静脈叢pterygoid plexus)。 ④外頚静脈external jugular vein:後述。
3.鎖骨下静脈subclavian vein と腋窩静脈axillary vein 3-1. 鎖骨下静脈
・第1肋骨外側縁から胸鎖関節の後方までを鎖骨下静脈という(図3)。鎖骨下静脈は前斜角筋の前面を 横断する(重要!)。腋窩静脈より上肢の静脈血を集め、内頚静脈に注ぐ。鎖骨下静脈の静脈根として: ①頚部の皮静脈:
1) 前頚静脈anterior jugular vein:外頚静脈 または内頚静脈に注ぐ。左右の前頚静 脈は頚静脈弓arcus venosusjuguli により 結合する。
2) 外頚静脈external jugular vein:耳介の後 側で後耳介静脈と後頭静脈が合して起 こり、鎖骨下静脈または内頚静脈、あ るいは両者の合流部に注ぐ。 ②胸肩峰静脈thoracoacromial vein 【問】前斜角筋の前方にある構造物は? A 腕神経叢 B 鎖骨下動脈 C 横隔神経
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3-2. 腋窩静脈・大胸筋の下縁から第1肋骨の外側縁までを腋窩静脈という。上腕静脈より上肢の静脈血を集め、鎖骨下 静脈に注ぐ。腋窩静脈の主要な静脈根としては:
①外側胸静脈lateral thoracic vein
②胸腹壁静脈thoracoepigastric vein:大腿静脈あるいは浅腹壁静脈より起こり、腋窩静脈へ注ぐ。上大静 脈系と下大静脈系の側副路として重要。
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4.上肢の静脈veins of upper arm4-1. 深部静脈
・橈骨静脈radial veins と尺骨静脈ulnar veins が合して上腕静脈brachial veins となり、腋窩静脈axillary vein ついで鎖骨下静脈subclavian vein に接続する(図8)。 【補】腋窩静脈の上部と鎖骨下静脈は単一の静脈である。 4-2. 皮静脈 ・以下の枝がある: ①橈側皮静脈cephalic vein:前腕の橈側をのぼり、腋窩静脈に注ぐ。 ②尺側皮静脈basilic vein:前腕の尺側をのぼり、上腕静脈に注ぐ。
③前腕正中皮静脈median antebrachial vein:前腕掌側の正中部を上行し、肘窩で橈側皮静脈または尺側皮 静脈に注ぐか、あるいは両者を連ねる肘正中皮静脈median cubital vein に注ぐ。
5. 奇静脈azygos vein (奇静脈系azygos system of vein)
・後胸壁の静脈を集めて上大静脈に注ぐ静脈系を奇静脈系という(図9)。右側の奇静脈、左側下半の半 奇静脈、左側上半の副半奇静脈の3つがある。
①奇静脈:右の上行腰静脈ascending lumbar v. は右の肋下静脈subcostal v. と合して奇静脈となり、横隔 膜を貫いて胸腔に入る。右側の肋間静脈、縦隔臓器を潅流する静脈(食道静脈、気管支静脈、心膜静 脈、縦隔静脈など)、左側の半奇静脈と副半奇静脈からの静脈血を集めて上大静脈に注ぐ。 ②半奇静脈hemiazygos vein:左の上行腰静脈は肋下静脈と合して半奇静脈となり、横隔膜を貫いて胸腔
に入り、下位の肋間静脈を集めて、第9胸椎あたりで脊柱を左から右へ横切り奇静脈に注ぐ。 ③副半奇静脈accessory hemiazygos vein:左側の中位の肋間静脈は副半奇静脈となり、脊柱を左より右に
横断して奇静脈に注ぐ。
[補]上大静脈あるいは下大静脈に閉塞がおきたとき、奇静脈系は側副路として重要な意義がある。下方 で上行腰静脈を介して総腸骨静脈と結合し、上方で奇静脈を介して上大静脈と結合しているからで ある。同様の理由で椎骨静脈叢も側副路としての機能がある。
C. 下大静脈(系) inferior vena cava (system)
・第4ないし第5腰椎の高さで左右の総腸骨静脈が合してでき、脊柱の前方を腹大動脈 の右側に沿って上行し、横隔膜(大静脈孔 Foramen venae cavae)を貫いて右心房に注 ぐ。下大静脈に注ぐ静脈根として以下の静 脈がある(図10): 1.腰静脈lumbar veins ・4対ある。各腰静脈は上行枝により縦に交 通し、上行腰静脈を作る。右上行腰静脈は 上方で奇静脈と、左上行腰静脈は半奇静脈 に接続する。 2.肝静脈hepatic veins ・肝臓からの血液を集めて下大静脈に注ぐ短 い静脈。
3.右副腎静脈right suprarenal veins:直接下 大静脈に注ぐ。
4.腎静脈renal veins
・左腎静脈に注ぐ静脈根として: ①左副腎静脈left suprarenal vein: ②左精巣(卵巣)静脈left testicular (ovarian)
vein
【問】左腎静脈は右腎静脈に比べて長く、大動脈の前を横切る。ではなぜ左腎静脈は右腎静脈より長いか? 解答 左下大静脈が退化するため、下大静脈間吻合の分だけ左側が長い(図11 参照)
5.右精巣(卵巣)静脈right testicular (ovarian ) vein
・右精巣/ 卵巣静脈は下大静脈に直接注ぐが、左精巣(卵巣)静脈は左腎静脈に注ぐ。 【問】なぜ左右の精巣/ 卵巣静脈は注ぐ血管が異なるのか?(図12 参照)
6.総腸骨静脈common iliac vein
・仙腸関節の前で内腸骨静脈と外腸骨静脈が合し てできる。静脈根については動脈と同じなので これを省略する。
7.下肢の静脈veins of lower extremity
・上肢と同様に深部静脈と皮静脈からなる(図13)。 7-1. 深部静脈
・下肢の動脈の伴行静脈である。前脛骨静脈 anterior tibial vv. と後脛骨静脈posterior tibial vv. が合して膝窩静脈popliteal vv. となり、大腿静 脈femoral v. に続き外腸骨静脈external iliac v. に注ぐ。
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7-2. 皮静脈・皮下組織の静脈血を集めて、深部静脈に注ぐ(図13、14)。
①大伏在静脈great saphenous vein:足の内側縁に始まり、内果の前を通り、下腿と大腿の内側を上行し、 伏在裂孔より大腿静脈に注ぐ。
②小伏在静脈small saphenous vein:足の外側縁に始まり、外果の後側を通って下腿後面に至り、これを 上行し、膝窩にて膝窩静脈に注ぐ。大腿の後側を上行する大腿膝窩静脈femopopliteal vein がこれに注 ぐ。
D. 門脈(系) portal vein (system)
・胃、腸、膵臓、脾臓から血液を集め、肝臓に運ぶ静脈系で、腹腔動脈、上・下腸間膜動脈の潅流域に相 当する(図15)。門脈は内臓の毛細血管が集まってできるものであるが、肝臓内で再び毛細血管になる きわめて特異な静脈である。門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が合して始まり、小網の肝十二指腸間膜内を 総胆管、固有肝動脈とともに走り、肝門に達してここで右枝と左枝に分かれ肝臓に至る。門脈の静脈根 は動脈に似るのでこれを省略する。 ・門脈は下記の部において体循環の静脈と吻合する(臨床的に重要)。 ①胃の噴門:左胃静脈(門脈系)と食道静脈(奇静脈の枝で体循環系)。 ②直腸:上直腸静脈(下腸間膜静脈の枝で門脈系)と中・下直腸静脈(内腸骨静脈の枝で体循環系)。 ③ 臍:臍傍静脈(門脈系)と腹壁の皮静脈(たとえば浅腹壁静脈や下腹壁静脈などで体循環系))。 [補]このような吻合は平時はさしたる意味はないが、肝臓の病変により門脈の血流が障害されると、血 液はこの吻合を利用して心臓に還ることになる。例えば、肝硬変の際に、 ①の吻合により食道下 部に食道静脈瘤が生じて吐血の原因となり、②の吻合により直腸下部に静脈瘤が生じて痔の原因と なり、③の吻合により臍を中心として腹壁の皮静脈が怒張する(メズサの頭)(図16)。
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演習4:静脈系
■静脈系は、心臓の静脈、上大静脈系、下大静脈系、門脈系の4系に分ける。 A. 心臓の静脈:心臓壁の静脈血はおもに冠状静脈洞を介して右心房へ注ぐ。
B. 上大静脈(系):主として頭頚部、胸郭、上肢などからの血液を集める静脈の本幹。左右の腕頭静 脈が合して上大静脈となり右心房に注ぐ。
C. 下大静脈(系)inferior vena cava (system):第4ないし第5腰椎の高さで左右の総腸骨静脈が合して でき、脊柱の前方を腹大動脈の右側に沿って上行し、横隔膜(大静脈孔)を貫いて右心房に注ぐ。 D. 門脈(系):胃、腸、膵臓、脾臓から血液を集め、肝臓に運ぶ静脈系で、腹腔動脈、上・下腸間膜 動脈の潅流域に相当する。門脈は内臓の毛細血管が集まってできるものであるが、肝臓内で再び毛 細血管になるきわめて特異な静脈である。門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が合して始まり、肝門に達 してここで右枝と左枝に分かれ肝臓に至る。 ■作業:体循環系の静脈(青)、門脈系(緑)、横隔膜と肝臓(茶)、腎臓(黄)、脾臓(ピンク)に塗 り分けなさい。