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学位論 文審査の要旨 主査

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Academic year: 2021

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 野 本 和 宏

     学位論文題名

Conservation biology on endangered salmonid species Sakhalin taimen Huc カ〇perryiinhabiting river basins     of eastern Hokkaido

( 北 海道 東 部 の河 川に生 息する絶 減危惧サ ケ科魚種 イトウの 保全生物学 )

学位論文内容の要旨

要旨

  北海道に生息するイ卜ウ(llucho perryj)は全長1.5m、体重40kgに達することもある世界で最 も大きなサケ科魚種であるが、近年、急速に個体数が減少しており、|UCN(国際自然保護連圖 カ鍍するレッドリストには絶減する危険陸が最も高い Critica|ly Endangered に指定され ている。各地で急速に進行しつっある本種の個体群絶減を回避するための効果的な保全策を立 案する上で、現状の個体数や分布を正確に把握することが急務である。しかしながら、本種の 広大な流域に生息し、個体数が少ないという本種の特勣ゝら、定量的に個体数を把握すること は極めて困難であった。本研究では、北海道東部で1960年代に産卵カs予われていたと考えられ る7水系の64支流を調査対象河川として、現在も産卵カS'‑jbれているかどうかを産卵期に川を歩 いて産卵床の探索、稚魚の浮上時期に電気漁具で稚魚を採捕するなどして、現在も産卵がおこ なわれているかどうかを調べるための調査をおこなった。その結果として、75%以上もの支流に おいて、現在では繁殖カ暫示bれなくなり、局所絶減が起きたことカs霞認された。さらに、各水 系における産卵床数の計数結果から産卵したメス親魚の個体数を推定したところ、2水系で比較 的安定的に資源カ黼されている―方で、2水系で極端に個体数が少なく、個体群絶減する危険 性が高いことが示された。さらに、残りの3水系では全く、繁殖カ澗巨認されず、個体群絶減した と推察された。

  次に、こうした絶減要因の解明を解明するために、隣接した2水系の32支流において、産卵床 数と環境要因との関係を調べた。環境変量の候補としては、各支流における流域面積、産卵適 地の面積、ニジマスの産卵床数、集水域面積内における牧草地面積が占める比率が選ばれた。

牧草地は現在、北海道東部で最も代表的な土地利用形態である。しかし、1960年代以前は、

笹地、森林カS'占する広大な原野であった。その後の耕地開発により急速に草地化が進行した。

解析の結果、イトウの産卵床数を説明するものとして、草地比率、産卵適地面積、草地比率x 産卵適地面積の交互作用が統計モデルにより、選択され、過去50年間に増加した草地化の影響 により、調査した32支流では52.8%もの産卵床数の減少が起きたことカ囃定された。したがって、

道東地域における急速な絶減の主な要因は急速におきた草地拡大と考えられる。その有カな減     ―989―

(2)

少 機 構の ー っ とし て 、 草 地か ら 河 川へ 流入した 砂が、 河床に堆 積して 、その砂 カsk9p床内 の卵 の 呼 吸や 発 育 を阻 害 さ れ 続け た 結 果と して、草 地化さ れた河川 ではイ トウの産 卵床数が 減少し た の では な い かと 推 察 さ れる 。 草 地化 が進んだ 当地域 で、イ卜 ウ保護 にとって 、有効な 施策を 検 討 する た め に、 上 記 の モデ ル の 結果 から、将 来、牧 草地比率 が変化 した場合 のイトウ 産卵床 数を予測したとこ、ろ、5%から50%草地比率が増加すると、13.9%から63.7%産卵床数が減少すると、

予測 された 。逆に、5%か ら50%草地比率 が減少 すると、56%から40%イトウ産卵床数は増加する と 予 測さ れ た 。ま た 、 草 地比 率 の 増減 がイトウ 産卵床 数に及ぼ す効果 は個々の 流域間で 異なる こ と が明 ら か にな っ た 。 草地 比 率 の増 減の効果 は草地 化が進ん でいな い川ほど 大幅に産 卵床数 を変 化させ る傾向が あるこ とが わ かった。 草地化 の影響を 受けて いる川よ りも、あまり受けて い な い 流 域 に 対 し て 優 先 的 に 草 地 を 減 少 さ せ る こ と が 重 要 で あ る こ と が 示 さ れ た 。   ダム な ど によ る ハ ビ タッ ト の 分断 は水 域生態系 に大き なインパ クトを 与えるこ とが知 られて い る 。本 研 究では 草地化の 影響を 受けてい ない2支流に おいて、 ダムに よるハビ タット分 断が実 際 に どの く ら いイ ト ウ 資 源量 に 影 響を 与えてい るのか を産卵適 地面積 とイトウ 産卵床数 との間 に 見 られ た 強 い正 の 相 関 関係 に 基 づき 、約20年前 にダム が建設さ れるま で、両支 流では それぞ れ、147.6床 、34床の 産卵床 があった ことカ 囃定され た。こ の147.6と いう推 定値は現在の風蓮 川 水 系全 体 の 産卵 床 数 を も上 回 る もの であり、 この支 流にダム が建設 ことによ り、本水 系のイ 卜 ウ が約50%程度 も減少し たこと を意味し ている。 こうし た推定は 本種の 保全上、 重要な 支流を 具 体 的な 数 字 的根 拠 を 伴 って 、 明 確に 示してお り、流 域管理計 画を考 える上で 、欠かせ ないも のとなるだろう。

  上流 域 に おけ る 土 地 利用 の 改 変や ハビ タット分 断以外 に加えて 、外来 種の侵入 も淡水 魚の保 全を 考える 上で、大 きな脅 威となり うること が知ら れている 。ニジ マスOncorhyncw厖所/蚓よ 北 米 原産 の 外 来サ ケ 科 魚 種で あ る が、 近年、道 東地域 において は急速 にその分 布を拡大 しつつ あ る 。二 ジ マ スは イ ト ウ 同様 に 、 春に 産卵する サケ科 魚類であ るが、 道東地域 のイトウ とニジ マ ス が同 所 的に産 卵してい る1支 流にお いて、2006年から2008年 まで、 両種の産 卵行動 を観察し た 。4月 中 旬か ら下旬に かけて、 両種の 産卵期や 産卵場 所カ渚し く重複 し、同じ ような流 速、水 深 や 河床 材 料 に産 卵 し て いる こ と が明 らかにな った。 イトウの メス親 魚はニジ マスのメ ス親魚 に 比 べて 、 大きい が両種の 卵の埋 まってい る深さは 非常に 似ていた 。調査 した3年間のう ち、ニ ジ マ スの 産 卵床数 は概ねイ トウよ りも5倍多く、 確認さ れたイト ウ産卵 床の30%前 後がニ ジマス に よ って 掘 り 返さ れ て い るこ と が わか った。こ のよう に、産卵 床の掘 り返し比 率が高い 要因は 調 査 河川 の 産 卵適 地 面 積 が小 さ い こと 、ニジマ スの産 卵床数が 多いこ とが影響 している と考え られる。

    上 記 に述 べ た よ うに 、 道 東地 域 の河川 には様 々なイト ウ個体群 に対す る脅威が 存在し てい る が 、現 在 の イト ウ 個 体 群が 置 か れて いる状況 の脅威 を最小限 に抑え るべく、 現実的な 流域管 理 計 画を 立 て るこ と カ 球 めら れ る 。特 に、絶減 危機個 体群に関 しては 個体群絶 減を回避 するた めに 、個体 群サイズ の拡大 を図るこ とが早急 に求め られる。 また、 大きな産 卵適地面積があり、

草 地 化に よ る 土砂 流 出 の 影響 を 受 けて いない支 流でダ ムに効果 的な魚 道を設置 すること によっ て、 流域間 のっなが りを回 復させる ことはイ トウの 産卵床数 の増加 に大きな 効果が期待できる。

(3)

学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 准 教 授 特任助教

東 上田 野田 小泉

正剛     宏 隆史 逸郎

    

学位論文題名

Conservation biology on endangered salmonid species Sakhalin taimen Hucho Perryiinhabiting river basins     of eastern Hokkaido

(北海道東部の河川に生息する絶減危惧サケ科魚種イトウの保全生物学)

  

申請者は、日本最大の淡水生サケ科魚種イトウの生態を研究し、特に北海道 東部地域におけるこの絶滅危惧種の産卵床数・成魚数・分布の現状把握と保全 に関する提言を試みている。まず、3 つの河川支流に梁を設置し、産卵期(4 月

〜5 月)に遡上してくる産卵雌の個体数と、梁の上流に造られた産卵床の数を調 査したところ、いずれの支流においても、産卵ヌス1 匹あたり平均5 つの産卵 床を造ることが明らかとなった。これにより、産卵床数から遡上してきた産卵 メスの個体数を推定することが可能となった。

  

次に、イトウと、同じく春産卵型の外来侵入種二ジマスが同所的に生息して いる支流において、両種の種間関係を調査した。両種ともに雪解け水流出で河 川上流域の水量が増加する4 月中旬に産卵を開始する。二ジマスの産卵は6 月 上旬まで見られるが、多くの産卵床がイトウの産卵期である4 月中旬から5 月 上旬に造られる。しかも、両種共に砂利の多い早瀬を好んで産卵し、産卵床内 の卵室の深さもほぽ同じであるため、既に造られているイトウの産卵床をニジ マスが掘り返し、卵の流出も起こっていた。釣りを目的としてニジマスの放流 が盛んに行われており、産卵場所をめぐる二種の競合関係は、イトウを保全す る上で考慮しなければならない問題である。

  

さらに、申請者は卵から孵化した幼魚の行動を詳しく観察している。卵は6

月末から7 月上旬にかけて孵化し、幼魚の一部は孵化支流周辺に留まり、他の

個体は下流に向かって分散した。分散は日没直後に最も盛んで、日の出ととも

に終わる。日中は淵などに留まり、次の日没後に再び分散を開始する。孵化場

所に留まる残留型と流下する分散型の体長を比較したところ、大きく重複する

(4)

ものの、統計的には残留型の方が有意に大きい。残留型にはなわばり制が見ら れることから、幼魚間で生息地をめぐる競争があり、なわばりを持てない個体 が幼魚期を過どす生息地を求めて流下すると考えられた。残留型は最長2 年近 く孵化支流に留まり、分散型は下流の細い支流などで成長することも確認され た。イトウを保全する上で幼魚の行動や生息地を明らかにすることは非常に重 要であり、貴重な成果と言える。

  

次に、申請者は道束域の河川におけるイトウの分布を詳細に調査している。

まず、漁師や釣り人への聞き込みにより、1960 年代まで産卵床や親魚が目撃さ れ てい たことが確認された64 の支流約500km を踏査し、45 の支流では現在産 卵が行われていないことを明らかにした。また、産卵が行われている支流にお ける産卵床数は

568

であったャ既に述べたように、各産卵雌は平均5 つの産卵 床を造ることから、産卵雌の数は

114

個体と推定された。先行研究により、雌 成魚は隔年産卵をすることが明らかになっており、この地域に生息する雌成魚 の数は約230 個体と推定された。

  

さらに、産卵床数の少ない支流は、この約50 年間に牧草地化が進んだ地域に 集中していた。そこで|

 64

支流から34 支流を選び、産卵期の流水量、河川斜 度、産卵適地の面積と礫サイズ、流水域の面積と牧草地率などを詳しく調ベ、

産卵床数に影響を及ぼす環境要因を抽出している。まず、ダムの影響を受けて いない32 支流について重回帰分析を行い、産卵適地率と牧草地率が抽出された。

牧草地からは大量の土砂が流出しており、その堆積によって産卵適地が減少し、

イトウの減少にっながっていると推定された。

  

最後に、申請者はイトウの産卵に及ぽすダム建設の影響を推定している。ま ず 、牧 草地 率

40

%を境 とし て32 支流 を2 群に分け、産卵適地率(x )と産卵 床数(y )の回帰式を求めたところ、牧草地率40 %以下の群ではy  0.46x 十0.61

r

二ニ0.97 、p く0.001) が得られた。この式を、牧草地率が40 %以下で産卵適 地面積が3 ,168 nf であるにもかかわらず砂防ダムの影響を受けて産卵床がほと

、んど見られない風連川のある支流に当てはめると、潜在産卵床数は148 にも達 すると推定された。これは、風連川全域で現在見られる産卵床数139 を上回る 数であり、砂防ダムがいかにイトウの産卵を妨げているかを物語っている。そ こで、今後撤去すべき砂防ダムの第一候補としてこのダムを挙げているが、最 近、矢臼別演習場を管理する防衛省は申請者の提案に注目し、同省の管轄域内 にあるこの砂防ダムの撤去を決定した。これは環境問題に関する基礎的研究を 国の環境政策に反映させ、社会の福祉に役立てるとしゝう環境科学の目的からみ ても、大きな成果と評価することができる。

  

審査委員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱

心であり、大学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせて、申請者が

博士(環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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