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博 士 ( 理 学 ) 福 沢 雅 志 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 理 学 ) 福 沢 雅 志

学 位 論 文 題 名

    Cellular and molecular studies on lectins     of the cellular slime mold ,Dictyostelium discoideum.

( 細 胞 性 粘 菌 Dictyostelium discoideum の レ ク チ ン に関する細胞生物学的、分子生物学的研究)

学 位論文内容の 要旨

  細胞性粘菌Dictヱostelium discoideumは、下等な真核生物である。この生物の発 生過程は簡単であるが、走化性、細胞運動、シグナル伝達、形態形成、細胞分化など 発生学上の種々の問題を含んでおり、発生生物学の良いモデル実験生物である。粘菌 の胞子は適当な条件下で発芽し、単細胞の粘菌アメーバとなる。粘菌アメーバはバク テリアを摂食して増殖するが、餌がなくナよると発生を開始する。発生開始後数時間で、

一群の細胞(セソタ―細胞)がcAMPのパルスを放出し、それに対する走化性により、

約10万の細 胞が集合し多細胞集合体となる。やがて突起が形成され、それを中心に 細長く伸びた移動体とナょる。この移動体の前部約1/4は予定柄細胞(子実体の柄に分 化)が、後部の3/4は予定胞子細胞(胞子に分化)が占めている。移動体倣光を受け たり乾燥すると移動をやめ、カルミネーション期を経て柄と胞子からなる子実体を作 る。この発生の全過程は約24時間で完了する。

  Rosenら(1970年)は細胞性粘菌にガラクトース結合性レクチンが存在することを 報告した。レクチンはニ価性の糖結合性タンパク質の総称であり、マメ科植物の種子 から赤血球凝集素として発見されたが、後に動物やバクテリアからも見いだされ、生 物にひろく存在することがわかった。その機能にっいては肝臓によるアシア口糖タン パク質の吸収分解(アシアロ糖タンパク質受容体)、生体防御(センチニクバェレク チン)など、一部の動物レクチンで明らかになった。しかし、植物レクテンをはじめ 多くのレクチンにっいては、その糖結合性や一次構造が明らかになったものもあるが、

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生物学的機能にっいて明らかになったものは少ない。

  本研究は、粘菌の発生過程におけるレクチンの生物学的役割を明らかにする目的で 行 わ れ た 。 細 胞 性 粘 菌Dictヱostelium discoideumのレ ク チ ンdi scoidinは discoidinI(dI;分子量28000) 、di scoidinII(ciu;分子 量26000)の二種 か ら なり、それぞれ四量体を形成している。当初dI絃細胞集合期に合成されることか ら細胞接着に関与するといわれていた。しかしそのー次構造が明らかになり、動物組 織における細胞外マトリックスタンパク質に合まれる細胞結合ドメイン(Gly−Arg− G1y−Asp配列)が見いだされたことから、現在では集合期における細胞と基質問の接 着に少なくとも関与すると考えられている。また、dIはその糖結合ドメインにより、

粘菌が消化できナょいバクテリア由来の多糖と細胞質で結合し、次いで多ラメラ体(食 胞 の一種)にパッケージされる。その後exocytosisによって細胞外に出され、基質 面1こ広がるものと思われる。発生後期のdIの機能にっいてはGly−Arg―Gly−Asp配列 を 持つ合成ペプチドが形態形成を阻害することから、dIが後期発生にも重要である と考えられている。dnの研究は進んでおらず、これまで一次構造は未決定であった。

従 来の研究では、dnは移動体の予定胞子細胞の小胞中に分布し、胞子外皮を形成す るムコ多糖の予定胞子抗原と特異的に結合する事から、胞子外皮の形成に関わると考 えられるが直接的な証明はない。粘菌の発生過程におけるdiscoidinの役割の解明に は、免疫組織学的、分子生物学的方法など、多角的なアプ口ーチが必須である。本研 究では@解析に必要ナょdiscoidinに対するモノクローナル抗体産生クローンの分離 と結合特異性の解析、@免疫組織学的方法による発生過程でのdi scoid inの分布、

◎dIの 四 量 体 、 単 量体 の 細 胞内 分 布 の研 究 、 @dIlcDNAの 一次 構 造 の解 析 の4 っの課題について実験を行った。

    粘菌細胞よりSepharose‑4Bカラム、N−galactosamineアフイニティカラムを用い てdI、dnを 精製 し 、 マウ ス に 免疫 し た 。 脾臓 免 疫 を合 む3回の 細胞融 合で、 抗 di scoidin抗体 産性株 を15株得た 。その うち6株の抗 体(DC1.DC2.DC4.DC5. DC6, dI.I−1)を選び、ELISA,イムノブロット法、ドットブロット法により結合性を検 討 し た 。 そ の結 果 、DC1,DC5,DC6抗 体は 未 変 性dIに 、DC4抗 体は 変 性dIに 、 dllー1抗体は変性dnに特異的に結合し、他の粘菌タンパク質には結合せず、結合特 異性の高い抗体の分離に成功した。次に抗体間の結合競合実験を行ってエピト―プの

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異同を解析した。その結果、DC1とDC4は部分 的に競合しエピト―プの一部を共有し ていることが示唆された。またDC4抗体はdIIー1抗体と競合することから,dnへの 交叉反応が示された。その他の抗体は独自の エピトープを認識すると考えられた。

  次に、これらの抗体を用いて、螢光抗体法により発生過程におけるdiscoidinの分 布を調べた。粘菌細胞をスライドグラスの上で発生させ、in situでメタ丿一ル固定 し、ホールマウントのまま抗体で処理した。 その結果、dIは集合期の細胞より顕著 にみられ、集合体、移動体では組織内部ではなく表面に多量に分布していた。カルミ ネーション期では予定柄領域の細胞において新たな発現があることがわかった。また、

未分化な細胞群(Anterior―like cells)にも強い発現がみられた。ciHは移動体では みられず、カルミネーション期の予定胞子細 胞で発現が顕著にみられた。従って、

dI、dnは それ ぞれ予定柄細胞、予定胞 子細胞に主に局在するレクチンであり、発 生 後 期 に お い て も そ れ ぞ れ の 機 能 を は た し て い る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た 。   発 生前 期に おけるdIの機能に関連し て、dIの細胞内分布にっいても調べた。四 量体認識抗体(DC1)は多ラメラ体を染色したのに対して、単量体認識抗体(DC2)は 細胞質を染色した。免疫電顕法による結果も同様であった。このこと滅多ラメラ体に は四量体のみが局在し、単量体は細胞質に留まることを示唆しており、四量体が特異 的に多ラメラ体にパッケージングされると考えられる。

  dnの一 次構 造を明らかにするためにcDNAのクローニングを行った。粘菌の発現 cDNAライブラリーをdIIー1抗体を用いてスク リーニングし、250万クローンから1つ の陽性クローンを得た。インサートの塩基配列を決定し、アミノ酸配列を推定したと ころ,ペプテドシークエンサーで決゛定したdnのぺプチド断片の配列と一致した。さ らに そのcDNAをプローブとして非翻訳 領域を含む1.2kbのD2クローンを分離・解 析し た。dnは257個 のア ミノ 酸か らな り、 分子 量は28574であ った 。この分子量 はdI(分 子量28391)と ほば 一致 して いる 。また、その配列中にはdIの細胞結合 ドメイン(Gly−Arg−Gly一Asp配列)と共通の配列があることから、dnにおいてもこ の配 列を 介し た生 物活 性が 存在 す る可 能性 が高 い。 糖結 合部 位に っいてもdI、 d II間で高いホモロジーがみられた。現在、 dnのゲノムDNAの構造解析を行って いる。また、アンチセンス法によりdnの発現 を抑制し、胞子形成におけるレクチン の役割を調べていきたい。

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学位論文審査の要旨 主査    教授

副査    教授 副査    教授 副査    教授

落 谷 石

合    廣 藤 茂 行 川    鑛 田 静 夫

    学位論文題名

    Cellular and molecular studies on lectins of the cellular slime mold,     Dictyostelium discoideum

(細胞性粘菌Dictyostelium discoideumのレクチンに関する細胞生物学的、分子生物学的研究)

  糖 に結合し、赤血球を凝 集するタンパク質であるレク チンは19世紀後半にStillmarkによ り 発 見 さ れ て い ら い 活 発 に 研 究 さ れ 、 最 近 で は 年 に2000以 上 の 論 文 が 出 さ れ る 。   しかし、植物レクチンの 生物学的機能は現在でも不明のままである。  体制の簡単な細胞性 粘菌の利点を生かして最終 的に生物学的機能を明らかにするべく、本論文では解析のプ口一ブ としての単クローン性抗体 の分離、それらの抗体の性質の解明、  発生過程における時間的・

空間的なレクチンの局在を 解析している。  また、これまで未決定の粘菌レクチン、ディスコ イ ジ ンII(dIIと 略 称 ) のcDNAの 一 次 構 造 を 明 ら か に し 、 デ ィ ス コ イジ ンIIはア ミ丿 酸配 列でディスコイジンI(dIと略称)と50%のホモロジ ーがあり、Arg―Gly一Asp配 列から なる 細胞結合部位の存在を 明らかにしている。当該研究 は、ディスコイジンIとIIが 粘菌の 発生過程においてダイナミ ックに変動し、また両者の構造的な類似性にもかかわらず2っのレ クチンが生体内で対称的に 分布することを明らかにし、レクチンの生物学的機能解明の方向を 明確した。内容はおよそ4部からなり、以下本研究の特色と新たに発見した点を中心に述べる。

  1〕まずディスコイジン 解析のプ口一プとして、モノクロ―ナル抗体の分離を行っている。

最終 的にディスコイジンIとIIにたいする抗体、またデ ィスコイジンの単量体、四量 体に対

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するそれぞれ特異的な抗体産生クローンを分離した。  従来粘菌のディスコイジンの研究では ポリク ローナル 抗体が 用いら れてお り、この場合ディスコイジンIとIIでは、アミノ酸配列 上で50% のホモ ロジー があるた め、対 称的な 抗原で 吸収し ない限 りIまた はIIに特 異的な 道具として使う事が出来なかった。  このモノクロ―ナル抗体の導入で容易にディスコイジン IとIIを別個に追跡することが可能になった。

  2)そこで 、これ らの抗 体を用 いて粘 菌の発生 過程に おける ディス コイジ ンIとIIの 時間 的・空間的な分布の変化を調べている。  この解析において当該論文は、生物体をスライド上 に固 定 化 す る事 に よ り、 ディス コイジ ンのダ イナミッ クな局 在を丹 念に追 跡して いる。

Barondesらのグル―プは生物体サンプルを抗体で処理する場合、遊離の生物体を懸濁状態とし、

液の交換時には低速の遠心で沈殿させている。この様な方法では脆弱なサンプルが部分的に壊 れるのは避けがたく、螢光染色の経時的な変化の追跡が困難であった。  当該論文では、生物 個体をスライド上に固定した状態で、スライドを移動させることにより処理液を交換している、

従って遠心の必要はなく生物個体はインタクトに保持されている。  このような方法をもちい て解析した結果、 dIは集合期の細胞より顕著にみられ、集合体・移動体では組織内部でなく表 面に多量に分布していた。また子実体形成期では予定柄領域の細胞において新たな発現がある ことが分かった。dIIにっいては移動体では見られず、子実体形成期の予定胞子細胞に顕著に 見られ たが、こ の時、 電子顕 微鏡オ ートラジオグラフアによる解析でぼdIIは細胞外の胞子 の コ ー ト 中 に 存 在 し た 後 、 胞 子 が 成 熟 す る と 外 壁 の 中 間 層 に 分 布 し た 。   3)また 先に述べたように、ディスコイジンIの単量体,四量体それぞれに特異的な抗体が 分離されている。この抗体を用いて、細胞内の分布を調べたところ、単量体は細胞質に、四量 体は食胞の一種である多ラメラ体に局在する事を発見した。  この事は、少なくとも発生初期 におい て活性型 である四量体は多ラメラ体においてその機能を発現する事を示唆している。

  4〕 こ れ ま で未 決 定 のdIIのcDNAの 塩 基 配 列を 明ら かにし た。この 解析に より、dIIの アミノ 酸配列はdIと50%のホモロジ―を持ち、dIに見られる細胞結合部位を持っことを明ら かにした。

  以 上 の 研究 成 果 は レク チ ン 研 究の 大 家 で あるBarondes一 派 の 長 年の 研究 に種種 の新 しい知見を付け加えたものであり、今後レクチンの生物学的機能を明らかにする基礎を築いた ものと考えられる。  研究発表にたいする質疑応答も活発に行われ、十分満足すべきものであ り 、 審 査 員 一 同 は 申 請 者 が 学 位 ( 理 学 ) を 受 け る 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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