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中国為替制度の改革及び人民元レート 学位論文内容の要旨

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博 士 ( 経 済 学 ) 于    暁 軍

学 位 論 文 題 名

中国為替制度の改革及び人民元レート 学位論文内容の要旨

  中国 経済 は,1980年以 降, 改革開放政策を実施して以来,著しく 成長してきた, 97年の ア ジア 通貨 危機 以降 も実 質GDP成長 率が7% 台と 世 界で は突出した経済成長を続けてきた.

こ の20数年間,中国の経済的なプレゼン スは益々に高まっており,経済規模から見れば,既 に 第5位ま で成 長し , 最も 経済成長率の 高い経済体として世界から注目を集めている,持続 的 な 直 接 投 資 の 流 入 及 び好 調な 輸出 を背 景に ,外 貨準 備は2006年12月 末時 点で ,1兆663 億 ドルを超えて,世界第一位の外貨保有 国となった.そのため,通貨としての人民元,そし て 為 替 制 度 に 関 す る 議 論 は こ の 数 年 盛 ん に 行 わ れ る よ う に な っ て き た ,   一方,人民元の動向を 見ると,90年代以降,ドルに対してほば一定の水準で推移していた.

97年7月に タイ パー ツ の暴 落を発端とす るアジア通貨危機が発生した,中国はアジア通貨危 機 の影響を直接には受けなかったが,周 辺諸国の通貨が大幅に減価したのを受け,中国製品 の 輸出価格競争カが相対的に低下したの である.この点を背景に,人民元切下げ論が危機後 急 浮 上 し , そ れ に よ る ア ジ ア 域 内 経 済 へ の イ ン バ ク ト が 懸 念 さ れ た .   その後,1)中国政府が再三に人民元の切下げを否定したこと,2)通貨危機国の経済が安定 化を取り戻したこと,更に,3)通貨危機国通貨の為替相場が,国によって程度の差があるが,

危 機後の最低水準から幾分回復したこと .以上の三点を原因に,人民元の切下げ観測は遠の い た.しかし,2000年以降,人民元の為 替相場についての論調はかっての切下げ論から切上 げ 論に 急速 に変 化し てき てい る, その 背景 につ い ては 次のように指摘することができる.

  まず ,中 国のWTO加 盟を きっ かけ に, 中国 経済 の国 際化 が急 速に 進む と思 わ れる,日本 を 含むアジア諸国にとり,中国経済の国 際化をどのように受け止めたら良いかが改めて問わ れ ている,そして,中国企業の国際競争 カが近年目立ち始めており,中国の輸出が急増して いる中,中国経済がアジ ア諸国にとって「脅威」と写っている.更に,中国の輸出拡大を食い 止 めるために,人民元の切り上げに圧カ をかけるべきという議論が一部において出されてい る .っまり,中国の輸出競争カを人民元 の切り上げにより相殺させるという考えである.そ し て,2002年以降,貿易黒字の急増を背 景に,日米から人民元切り上げの論調が上がり始め た,一方,国内において ,人民銀行は人民元の固定レートを維持するため,人民元売り/米ド ル 買いの為替市場介入を実施しているが ,巨額のドル買い介入による通貨供給量の増大はイ ン フレをもたらす恐れがある.これを防 ぐために,人民銀行は,不胎化政策の実施によルマ

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ネーサプライのコントロールを図っているが,外貨の流入を完全に不胎化できず,国内経済 において過剰流動性が発生している.

  こうした状況の中で,中国政府は2005年7月21日に,人民元の対米ドルベッグ制を撤廃 し,通貨パスケットに対して変動するフロート制への移行を発表し即日実施した.人民元レ ートは,これまで$1=8.27〜8.28元程度にべッグされてきたが,今回の為替制度の変更により 対ドルでは$1=8.11元と約2.1%切り上げられることになった.

  今回の切り上げ幅はわずか2%でしかなく,根本的にアメリカの貿易赤字問題を解消できな いと考えられる,アメリカの貿易赤字と中国の貿易黒字問題は,双方の経済構造に原因があ る,人民元レートは大幅に切り上げられない限り,この問題が解決しない.今後,中国の貿 易 黒 字 が 続 く 中 で , 人 民 元 レ ー ト が 継 続 的 に 上 昇 す る 可 能 性 が 高 い ,   ここで,議論を整理しておこう.まず,為替相場のあり方と為替レートの決定は密接に関 係しているが,それぞれ分けて検討すべきである.為替相場制については,固定相場制や変 動 相 場 制 と い っ た 制 度 の 選 択 を 各 国 が そ の 経 済 状 況 に応 じ て行 う こ とで あ る.

  そして,今までなされてきた議論の中で,実質上アメリカドルに固定されている人民元に 対して,アメリカ貿易赤字の占める割合が2000年から,一貫して高まってきたことを理由 に,人民元を切り上げるべきである,あるいは中国の経常収支が黒字を計上しつっあること によって外貨準備は年々増加していることから,人民元を切り上げるべきである.などに代 表されるように,外的要因によって,切り上げを主張している者が多い.しかし,2005年7 月の人民元切り上げは,根本的に米中間の貿易不均衡を是正するような切り上げ幅ではなか った,こういった外的な要因よりもむしろ国内の状況による内的要因のほうが大きいと推察 しうる,

  中国政府は,改革開放政策を実施して20数年,高い経済成長を遂げてきたが,国内におい て,マク口経済の環境が大きく変化している.過剰流動性により,固定資産の過剰投資,イ ンフレの進行,資産価格の上昇などの成長リスクが高まっている,このように,中国経済は 投資過熱リスクや対外不均衡問題などの不安定要因を抱えており,その処方箋のーっとして、

経済成長のパターンを投資・外需主導型から消費主導型へと移行させることも大きな課題と なっている。

  そのため,本論文においては,こういった問題意識から,1)人民元レートの歴史的な推移 から,現在の中国為替管理の現状及び問題点.2)今回の人民元切り上げの圧カは外的要因と 内的要因のどちらかにより生じているか,3)経済成長パターンの転換期における人民元切り 上げの影響,4)経済成長に適する人民元レートの適切な水準.5)中長期的にマク口経済の安 定成長,政治上の安定,資本市場の自由化,金融国際化などを実現するために,柔軟性のあ る為替相場制度が必要とされる中で,どのような為替制度を選択すべきか.といった5点を 分析した上で,今後,人民元レートはどのような水準に決定すべきかを議論する.そして,

人民元レートを適切な水準まで切り上げ変動幅を拡大して,.より柔軟性のある為替制度を選 択すべきだと提案したい.

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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査   教授    佐々木隆生 副査   教授    濱田康行

副査   教授    佐藤秀夫(東北大学)

学 位 論 文 題 名

中 国 為 替制 度 の 改 革及 び 人 民 元レ ー ト

  中 国 は1990年 代 半 ば 以 後 人 民 元 の 対 ド ル 相 場 を ほ ば 一 定 の 水 準 に 維 持 し て き た が 、94年 か ら 経 常 収 支 と 資本 収 支が と も に黒 字 に転 換 し 外貨 準 備 を急 速 に蓄 積 す る に 至 っ た 。 こ こ に 、 人 民 元 相場 の 「切 り 上 げ」 要 求と 中 国 為替 相 場管 理 制 度の 改 革 が 殊 に ア メ リ カ を 中 心 に 提 唱さ れ るに 至 り 、爾 来 、中 国 の 為替 制 度の 改 革 と適 切 な 人 民 元 レ ー ト 設 定 は 世 界 経 済の 中 心的 問 題 (ア ジ ェン ダ ) とな っ てき た 。 干暁 軍 氏 の 博 士 学 位 論 文 「 中 国 為 替 制度 の 改革 及 び 人民 元 レー ト 」 は、 現 代の 論 争 的課 題 で あ る 中 国 の 為 替 制 度 と 為 替 レー ト の妥 当 性 につ い て分 析 し 、人 民 元の 均 衡 為替 レ ー ト を そ の 分 析 か ら 導 く と と も に 、 為 替 制 度 改 革 を 展 望 し た も の で あ る 。   本 論 文 は 、 第1章 に お い て 中 国 為 替 管 理 制 度 の 歴 史 と 現 状な ら びに 問 題 点を 分 析 し 、 資 本 移 動 規 制 と 為 替 の 市場 取 引 規制 に よ って 人 民元 レ ー トが 為 替の 需 給 関係 を 反 映 しな い ま まと な っ てい る こと を 明 らか に して い る 。

  第2章 は 、 こ う し た 分 析 を 踏 ま え て 、2005年7月 に な さ れ た 人 民 元 切 り 上 げ の 要 因 分 析 を 行 い 、 一 方 で ア メ リ カ な ど 先 進 国 か ら の 切 り 上 げ 圧 カ が 存 在 す る と と も に 、 他 方 で 、 国 際 収 支 黒 字 の継 続 に 伴う 国 内 貨幣 供 給量 の 増 加を 不 胎化 政 策 によ っ て 抑 制 す る こ と が 困 難 と な り、 不 胎 化の 限 界 を超 え た流 動 性 の供 給 が中 国 の 金融 政 策 ・ 制度 の 限 界や 経 済 政策 の 基調 と あ ぃま っ て過 剰投資な どを生じ せしめ、 国内的に 人 民 元 レ ー ト 調 整 の 必 要 性 が生 ま れ てい る こ とを 種 々の 資 料 分析 か ら導 き 出 して い る 。

  本 論 文 は 、 つ い で 第3章 に お い て 人 民 元 レ ー ト の 適 切 な 水準 を 探求 す る 。ま ず 、 一 般 に 人 民 元 切 り 上 げ 要 求 の 根 拠 と さ れ て い る 購 買 力 平 価 を 独 自 に 算 定 し 、 対US ド ル に 対 し て は 一 定 の 低 下 が見 ら れ るが 、 対 日本 円 に対 し て は変 化 がみ ら れ ず、 実 質 実 効 為 替 レ ー ト か ら 見 て も人 民 元 レー ト は90年 代以 後 安 定的 に 推移 し て いる こ と を 明 ら か に し 、 次 に フ ァ ン ダメ ン タ ルズ ・ レ ート に 関す る 既 存の モ デル の 批 判的 検 討 を 行 っ た 上 で 、 中 国 の 経 済成 長 に 対応 し た 人民 元 レー ト の 算出 モ デル を 示 し、 そ れ に 基 づ き2002年 以 後 は 人 民 元 レ ー ト が 過 小 評 価 に あ っ た こ と を 明 ら か に し て い る 。

  第4章 は 、 現 代 の 中 国 の マ ク ロ 経 済 的 な 不 均 衡 を 全 般 的 に考 察 し、 投 資 主導 の 経 済 成 長 パ タ ー ン の 転 換 が 求 めら れ て いる こ と を述 べ 、そ の 中 で人 民 元レ ー ト を適 切 な 水 準 に 設 定 す る こ と と 相 場変 動 に 対す る 柔 軟性 確 保が 必 要 であ る こと を 指 摘し て い る 。

  第5章 は 、 前 章 で の 考 察 を 受 け て 、 ア ジ ア の 固 定 相 場 制 を参 照 とし つ っ ドル ペ ッ

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グ 制が長期には維持し得なぃとの考察を背景に、2005 年7 月に特定通貨に対する固 定相場制から通貨バスケットに対して変動させた中国当局の政策の妥当性について 検 討 し て い る 。 検 討は 、先 行す る2000 年か ら2003 年か らUS ドル と日 本円を バス ケットとした場合並びにこれら通貨にユーロを加えた場合に関してのシミュレーシ ヨンによってなされ、その結果、当局による制度改革が小幅にとどまり、しかも遅 れていることを明らかにしている。

  

本論文は、最後に、以上の諸章での検討結果を受けて、中国経済が転換期にある ことを踏まえて資本移動規制を含むより踏み込んだ為替制度改革と人民元レートの 変 動 幅 の 拡 大 ・ レ ー ト 自 体 の 漸 次 的 切 り 上 げ を 提 唱 し て い る 。

  

干暁軍氏の研究は、独創的で非常に優れた諸点をもっている。その第1 は、人民 元レートの妥当な水準について、通常なされる購買力平価及び実質実効為替レート からの考察を行なった上で、さらに踏み込み、中国の成長経路との関係での独自の 定式化に基づいて考察している点である。一般に人民元の適切な水準を考える際に は、国際収支もしくは購買力平価が参照基準とされるが、完全雇用成長経路との関 係で算出を試みる研究は先例が無く、極めて注目される。

  

第2 は、人民元の変動基準をドルではなく通貨バスケットとした場合について計 量的に導き、人民元レートの妥当な水準にっいての独自の分析をさらに広げた点に ある。これらは、従来の研究には見られなかった野心的な試みであり、また博士論 文に 先立 って 『年 報公共 政策 学』 第

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号に 審査 付で掲載された論文「人民元切り 上げ圧カの要因分析」の弱点を克服すると同時にその成果を拡張したものとなって いる。

  

3

は、2005 年

7

月の人 民元 レー ト切り 上げ 要因 を、 国際的 圧カ への 対応 とい うよりも国民経済管理の観点から、すなわち国内要因からなされたことを、中国の 不胎化政策とその限界を資料等に基づいて明らかにし、中国経済の貨幣的側面の丹 念な検討から明らかにしたことにある。

  

第4 に、本論文は、中国の為替制度、金融システム及ぴ政策への広く深い知見を 基に人民元をめぐる制度・政策上の概観を与えている。そのような概観が以上に見 た貢献を導く背景をなしていることは勿論であるが、同時にそれ自体、容易に理解 し難い側面を有する中国の経済管理の優れた分析となっており、本論文に接した者 は 、 中 国 経 済 の 貨 幣 的 側 面 の 明 快 な 描 写 を 得 る こ と が で き る で あ ろ う 。

  

無論、干暁軍氏の論文に幾っかの問題が無いわけではない。本論文は随所で従来 の分析にある問題点を克服しようとし、独自の分析を行なっ,ているが、それらがす べて十分説得的なものに成熟していない側面が存在する。たとえば購買力平価の算 出方法は、従来の算出への批判に基づく独創的なものであるが、厳密な定式化に基 づくというよりはある種の折衷によって従来の算出方法の欠陥を補うことを意図し たものとなっている。また、論文は、一般的な分析的経済理論の成果を用いてなさ れているが、

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社会が均質な状態で完全雇用を前提として展開されている分析的理 論は潜在的な失業の多く、また物価にしても賃金にしても都市と農村で大きな相違 のある中国の現状把握に一定の限界があることは確かである。于暁軍氏は、本論文 を出発点に中国経済がいかなる転換期にあるのかを研究することに意欲をみせてい るが、その際には、こうした問題の克服が必要となろう。以上、本論文の問題を見 てきたが、それらは本論文が独創的分析を求めることから生じたものである。した がって、それらが今後の課題設定にっながるものではあっても本論文の貢献を否定 するものではないことは、言を俟っまでもなぃであろう。

干暁 軍氏が 提出 した 本論 文につ いて は、 審査委員会は平成20 年

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月15 日に口述

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試験を実施するとともに詳細な検討を行ない、その結果、氏の研究が独創性を含む 優れた研究であり、氏が独立した研究者として今後学術的に寄与することを示すに 十分なものであり、さらに現在の学界に意味ある貢献をなすものであることを確認 し、北海道大学大学院経済学研究科として博士(経済学)学位を授与するに値する 論文であるとの結論に達した。

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参照

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