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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 宮 川 一 志

     学位論文題名

Regulatory mechanlSmSOfthepredator 一induCed

  polypheniSmintheWaternea ( genuSZ ) め カ 刀 な )

(ミジンコにおける捕食者に誘導される表現型多型の制御機構の解析)

学位論文内容の要旨

  生物の表現型は遺伝子と環境の相互作用により 形成され、同一の遺伝情報からでも異なる表現 型を生み出すことが知られる.これは表現型可塑性と呼ばれ,多くの生物で見られる現象である。

中で も環 境に 応じ て表 現型 が不 連続 に変 化する表現型多 型は生物が進化の過程で獲得した適応 的な表現型可塑性であり、その制御機構の解明は 多くの生命現象を理解する上で重要な命題であ る。またきらには環境要因によって生じる様々な 可塑的な表現型が遺伝的に固定されることで生 物の多様な形態が生じうることから、多様な表現 型を生み出す潜在能カは進化の原動カとなって いると考えられる。

  湖 沼に 生息 する 動物 プラ ンク トン であ るミジンコもこ の表現型可塑性を巧みに用いることで 繁 栄 を 遂 げ て い る 生 物 の ひ と っで ある 。ミ ジン コ属Daphniaの 多く は捕 食者 の放 出す る物 質

(カイロモン)を感受すると、可塑的に頭部の形 態や殻刺の長さを変化させ、防御形態を形成す る。これらの防御形態は近縁種間でその形や大き さが様々に異なっており、それぞれの種が異な る環境や捕食者に適応してきた結果であると考え られる。本研究では表現型可塑性の制御機構を 明ら かに する ため に、 主に ミジ ンコD. pulexを用いてそ の防御形態形成を司る分子基盤の解析 をお こな った 。さ らに 、D. pulexで 得ら れた知見に基づ ぃて近縁種問で防御形態形成機構を比 較することでその進化過程についても考察した。

    Chapter1

    Gene up‑regulation in response to predator kairomones     in the water flea,.Dap五njapHJeヱ

  Dapゐn幽puんxは 胚発 生期 に捕 食者 であ る フサカく泊a〇60russpp.の放出するカイロ モンを 感受すると、後胚発生期に後頭部に ネックティースと呼ばれるトゲ状の防御形態を形成する。ネ ックティースの形成過程では、カイ ロモンの感受機構の下流で内分泌経路を介した形態形成遺伝 子の 活性 化が 起 こっ ていると予想されているが、詳細な機構 はほとんど分かっていない。第1章 ではこのネックティース形成に関与 する分子機構を明らかにするために、カイロモン感受期であ る胚 発生 期と 防 御形 態形成が起こっている1齢幼生期において、カイロモンに応答して発 現量の 変化する遺伝子を探索した。節足動 物で発生・形態形成への関与が知られている遺伝子群のオル ソロ グをD.puぬxゲ ノム デー タベ ース から 取得 し、 その 発現 変動 を調 べ た結果、1齢幼 生期に おい て、 胚発 生 時の 形態 形成 に関 与す る転 写因 子であるロゎx&exd、esぎや、幼若ホル モン経 路 に 関 与 す るc珊4MTお よ ぴ 脇 ¢ 、 イ ン ス リ ン 経 路 に 関 与 す る 血 丑お よび 皿S・jの 発現 量が カイロモンに応答して上昇していた 。これらの結果から、防御形態形成時にはカイロモンシグナ ルの下流で幼若ホルモン経路および インスリン経路を介して体内生理環境の変化が起こり、初期 発生 に韜 ける 形 態形 成カ スケ ード を一 部流 用す ることでネックティースの形成ヘ至ると いうモ

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デルが予想された。またさらに、上記のアプローチでは取得できぬい未知の遺伝子の関与を調べ るために、Differential Display法を用いてカイロモンに応答する遺伝子を網羅的に探索した結 果 、発 現量の上 昇する機能 未知の3つ の遺伝子(DD1、DD2. DD3)を得た 。中でもD.Djは カイロモン感受期である胚発生期に防御形態形成に先立って発現上昇がみられたことから、カイ ロ モ ン の 感 受 と そ れ に よ る 発 生 運 命 の 決 定 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ る 。

    Chapter2

    Effect of juvenoids o'n predator‑induced polyphenism     in the water flea,Daphnia pulex

  第1章の結果より、D. pulexのネックティース形成への関与が予想される複数の遺伝子や内 分泌カスケードが予想された。その中でも幼若ホルモン経路は節足動物において脱皮・変態とい った発生イベントを制御しており、表現型多型の制御への関与の例も昆虫類において報告されて いる非常に重要な内分泌経路である。この幼若ホルモンの合成酵素であるJHAMTと,受容体 候補であるMetの発現量がともにカイロモンに応じて上昇していることから、防御形態は体内 幼若ホルモン濃度の上昇によって引き起こされることが予想された。そこで第2章では胚発生期 に幼若ホルモンおよびその類似体を曝露し人為的に体内幼若ホルモン濃度を上昇させることで、

D. pulexの防御形態形成が体内幼若ホルモン濃度の上昇によって実際に誘導できるかを観察し、

防御形態形成における幼若ホルモン経路の役割をより詳細に調べた。その結果、幼若ホルモンの 曝露はそれ単体ではネックティースを誘導できなかったものの、カイロモン存在下ではその誘導 率を大きく上昇させた。これはネックティース形成が、幼若ホルモン経路単独ではなく、他の因 子との協調的作用によって制御されていることを示唆する。またこの際、ネックティースと同様 にカイロモンに応じて伸長することが知られている殻刺はカイロモンの有無にかかわらず幼若 ホルモン曝露によって短くなったことより、カイロモンよって生じる形態的変化の全てが同じよ う に 幼 若 ホ ル モ ン に よ っ て 制 御 さ れ て い る わ け で は な い こ と も 示 さ れ た 。     Chapter3

    Comparison of the regulatory pathways responsible for inducible defense     in the genus Daphnia

  ミジンコ属の示す多様な防御形態はそれぞれの種が環境に適応してきた結果であると予想さ れるが、その進化的な背景はよくわかっていない。第3章ではフサカカイロモンに応じて頭部 に ネッ クティー スとは異 なるへル メットと 呼ぱれる防 御形態を 生じるD. galeaぬ とD. ambigua、およ び防御形 態を生じ ないD. magnaの3種 のミジン コ属を用いた。第1章と第2 章より予想されたD.pulexのネックティース形成機構がこれらの種でどの程度保存されてい るかを調べることで、ミジンコ属における防御形態の進化過程の解明を目指した。その結果、

ヘルメット形成時には予想されたシグナル経路の上流と下流を司る遺伝子(ヱ)Dj、DDみはネ ックティース形成時と同様にカイロモンに応答して発現量が増加していたが、これらをっなぐ 内分泌系と形態形成系に関与する遺伝子の発現量は逆に減少していた。一方で防御形態を生じ ないD.ma駟aではこれらの遺伝子の発現量は大きな変動はみせなかった。さらに、ネックテ イース誘導率は幼若ホルモン曝露によって上昇したのに対し、ヘルメット長は幼若ホルモン曝 露によって逆に減少した。これらの結果から、ヘルメット形成とネックティースは一部同様の 経路の利用が考えられるものの、内分泌系は全く異なる制御をしていることが示唆された。こ れらの結果とミジンコ属の系統関係から、ネックティースは、D.puJ餌とD.a皿6をuaが分 かれた後にD.p凵exのクレードにおいて幼若ホルモン経路の新たな機能の獲得により生じた と予想される。これら本研究の結果より、ミジンコ類が環境に適応した多様な表現型を進化さ せてきた背景に、既存の制御機構の改変・流用が重要な役割を果たしてきたことが考えられる。

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学位論文審査の要旨

主 査    准 教授    三浦    徹 副 査    教 授   木 村正 人 副 査    教 授   大 原    雅

副 査    准 教授    栃内    新 (大学院理 学研究院)

     学位論文題名

Regulatory mechanisms of the predator 一 induced   polyphenismln the water flea (genus Daphnia)

(ミジンコにおける捕食者に誘導される表現型多型の制御機構の解析)

  生物 の 表 現型 は 遺伝子 と環境 の相互作 用によ り形成さ れ、同 一の遺伝 情報から でも異 なる 表現 型を生み 出すこ とが知ら れる, これは表 現型可 塑I生 と呼ばれ ,多く の生物で 見られる現 象 で あり 、 そ の制 御機 構の解 明は多く の生命 現象を理 解する上 で重要 な命題で ある。 またさ ら に は環 境 要 因に よっ て生じ る様々な 可塑的 な表現型 が遺伝的 に固定 されるこ とで生 物の多 様 な 形態 が 生 じう るこ とから 、多様な 表現型 を生み出 す潜在能 カは進 化の原動 カとな ってい る と 考え ら れ る。 本学 位論文 で申請者 は表現 型可塑性 の制御機 構を明 らかにす るため に、第 1章 お よ び 第2章で は ミ ジン コDap轟n幽.p泌 潸を 用 い て その 防 御 形態 形 成 を司 る 分 子基 盤 の 解 析を お こ ない 、防 御形態 形成を制 御する 分子カス ケードを 新たに 提唱して いる。 さらに 第3章で は 、 ロp凵 ぬ で得 ら れ た知 見 に 基 づい て 近 縁種 間 で 防御 形 態 形成 機構を 比較す るこ と で その 進 化 過程 に つ いて こ れ まで の 先 行 研究 で は なさ れ て いな い 考 察を展 開して いる。

  Dp血 潸 は 胚発 生 期 に捕 食 者 であ る フ サカCぬaあ 觚 鱈spp. の 放出 す る カイ □ モ ンを 感 受 す る と、 後 胚 発生 期に 後頭部 にネック ティー スと呼ば れるトゲ 状の防 御形態を 形成す る。ネ ッ ク ティ ー ス の形 成過 程では 、カイ口 モンの 感受機構 の下流で 内分泌 経路を介 した形 態形成     、一

遺伝子の活性化が起こってしゝると予想されているが、詳細な機構はほとんど分かってしゝなしゝ。

第1章で 申 請 者は こ の ネッ ク テ ィー ス 形 成 に関 与する 分子機構 を明ら かにする ために 、カイ 口 モ ンに 応 答 して 発現 量の変 化する遺 伝子を 探索し、 その結果 複数の 遺伝子の 同定に 成功し

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てしゝる。さらに、形態形成に関与する転写因子や、幼若ホルモン経路、インスリン経路に関 与する遺伝子、およ乙職能未知の新規遺伝子の発現量がカイ口モンに応答して上昇したこと をもとに、防御形態形成時にはカイロモンシグナルの下流で幼若ホルモン経路およびインス リン経路を介して体内生理環境の変化が起こり、初期発生における形態形成カスケードを一 部流 用す るこ とで ネック ティ ース の形 成ヘ至るというモデルを新たに提唱している。

  第2章では、幼若ホルモン曝露実験によって、ロpulexの防御形態形成における幼若ホル モン経路の役割をより詳細に明らかにしている。幼若ホルモンの曝露はそれ単体ではネック ティースを誘導できなかったものの、カイ口モン存在下ではその誘導率を大きく上昇させる ことから、ネックティース形成における幼若ホルモン経路と他の因子の協調的作用の示唆を 得ている。またこの際、殻刺はカイ口モンの有無にかかわらず幼若ホルモン曝露によって短 くなることを発見し、カイ口モンよって生じる形態的変化の全てが同じように幼若ホルモン によって制御されているわけではないことも明らかにしている。

  ミジンコ属の示す多様な防御形態はそれぞ捫の種が環境に適応してきた結果であると予想 されるが、その進化的な背景はよくわかっていない。第3章で申請者はへルメットと呼ばれ る防 御形 態を 生じ るD. galeataとD. ambigua、 およ び防 御形 態を 生じないロmagnaの 3種のミジンコ属において、第1章と第2章より予想されたD. pL轟潔の防御形態形成機構 が一部保存されてしゝることを明らかにし、ミジンコ属における防御形態の進化過程に関する 新たな知見を得ることに成功している。申請者は、内分泌系と形態形成系に関与する遺伝子 の発現量がへルメット形成時にはロp心ぱのネックティース形成時と逆に減少する一方で、

防御 形態 を生じないロm鬱顔ではこれらの遺伝子の発現量は大きな変動をみせないこと を明らかにしてしゝる。さらに、ヘルメット長が幼若ホルモン曝露によって減少することも発 見し、ヘルメット形成とネックティース形成において内分泌系全く異なる制御をしているこ とを示唆している。これらの結果とミジンコ属の系統関係から、ネックティースは、ロ pdaどとロa閲伍ワ珊が分かれた後にロpu′eガのクレードにおいて幼若ホルモン経路の新 た な 機 能 の 獲 得 に よ り 生 じ た と し ゝ う 新 し い 仮 説 を 提 唱 し て い る 。   これら本研究の結果より、ミジンコ類が環境に適応した多様な表現型を進化させてきた背 景に、既存の制御機構の改変・流用が重要な役割を果たしてきたことが示唆され、ミジンコ 類に限らず生物全般に共通する表現型の進化の理解にこの研究が大きく貢献したと言える。

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  審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大 学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環境科学)の学位を受 けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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