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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 橋 本 庸 三

学 位 論 文 題 名

アブラムシ類に殺虫活性を示す細菌の検索と 活性物質の単離・同定に関する研究

学位論文内容の要旨

  1986〜1990年に北海道十勝支庁管内の18市町村でアブラムシ類および寄主植物など617個体 のサンプルを採集し、そのサンプルから1,100菌株の細菌を分離した。分離菌株培養液をスプレ ーする(噴霧処理)、あるいはパラフイルムを通して分離菌株培養液を吸汁させる(経口接種)

方法により殺虫活性を評価する生物検定法を開発しアブラムシ病原細菌の探索を行った。1.100 菌株中582菌株を対象に噴霧処理による殺虫活性菌株の選抜を行った結果、ジャガイモヒゲナ ガアブラムシ(Auム舛D′餉卿sDた珊f)およびモモアカアブラムシ(Mぬ蕗pゼ瑠を粥)に対して強い 殺虫活性を示す6菌株が選抜された(HS菌株)。また、1,loo菌株中518菌株を対象に経口接種 とジャガイモ塊茎腐敗試験により選抜を行った結果、ジャガイモに対して病原性がなくジャガ イモヒゲナガアブラムシに対して強い殺虫活性を示す6菌株が選抜された(HP菌株)。噴霧処 理に おけるHS菌株の殺虫活性は短期間(処理後2〜4日後)で発現したが、経口接種における HP菌株の殺虫活性の発現には接種後8〜10日間を要した。一方、温室内のキュウりに寄生する ワタ アブラ ムシqめぬg甜尠ヲfめに対してHS菌株とHP菌株を噴霧処理した結果、HS菌株はワ タアブラムシに対して強い殺虫活性を示したが、HP菌株はほとんど殺虫活性を示さなかった。

  HS菌株はグラム陰性の桿菌で、PHBを蓄積せず、螢光色素を産生し、アルギニンジヒドロラ ーゼ活性が陽性で、鞭毛が1〜4本あり、レバンを産生し、炭素源としてサッカロースとキシロ ー ス を利 用 す るな ど の 性状 か らAg励m。 ″甜 伽D陷虻g珊 と同 定 さ れた 。HP菌 株 の3菌 株

(HP890972,HP891941,HP892182)は、グラム陰性の桿菌で、フェニルアラニンジアミナー ゼ 陽 性、 マ ロ ン酸 塩 と サリシ ンを利用 し、エ スクリン を加水分 解する ことからm門 めPロ ロgめ所e´伽ぷと同定された。HP菌株の他の3菌株(HP891192,HP891592,HP891632)は、グラ ム陰性の桿菌で、鞭毛が2本以上あり、黄色色素を産生せず、リシンデカルボキシラーゼ陽性 であることから鰯灯伽m0灯甜mロめめ釘むと同定された。

  HS菌株 中最も強い殺虫活性を示したHS870031菌株を肉エキスペプトン液体培地で24時間培 養した後、遠心分離により得た培養上清および沈殿を用いてジャガイモヒゲナガアブラムシに 噴霧処理を行った。その結果、培養上清は強い殺虫活性を示し、処理2日後には死虫率がloo% に達したが、沈殿部の殺虫活性は低く、処理12日後でも死亡率は30%であった。このことは産 生された殺虫活性物質が菌体外に放出されることを示唆している。また、HS870031菌株を肉エ キス ペプトン液体培地を用い25℃で培養した培養上清の噴霧処理によるジャガイモヒゲナガ アブラムシに対する殺虫活性を経時的に調査したところ、幼虫に対しては培養16時間以後に、

成虫に対しては20時間以後に殺虫活性が認められた。一方、HP菌株中最も強い殺虫活性を示し たHP890972菌株を肉エキスペプトン平板培地で培養し、段階希釈したものをジャガイモヒゲナ ガアブラムシ成虫に経口接種したところ、接種液の菌体濃度が高いほど、また接種時間が長い ほど虫体内から再分離される生菌数は多くなるとともに、ジャガイモヒゲナガアブラムシが死 亡するまでに要する日数は短くなった。しかし、死亡個体中の生菌数は死亡時期や接種菌液の 菌体濃度とは関係なくほば一定のレベル(107cん/成虫)であった。

  HS870031菌株培養液上清に硫安を添加し、遠心して得られた画分をワタアブラムシ成虫に対

‑ 243

(2)

す る 殺 虫 活 性 検 定 に供 した とこ ろ0‑30%硫 安沈 殿画 分 が強 い殺 虫活 性を 示 した 。同 様に 、 アセ ト ン を 添 加 し て 得 られ た画 分で は80% アセ トン 処理 上 清画 分が 殺虫 活性 を 示し た。 この ア セト ン処 理上 清を 逆相 カ ラム に注 入し 、メ タ ノー ルで 溶出 し たと ころ60‑80% メタ ノー ル 溶液溶出画 分が 高い 殺虫 活性 を 示し た。60‑80% メタ ノー ル 溶液 溶出 画分 をHPLC (High Performance Liquid Chromatography)分 析し た 結果 、殺 虫活 性を 示 した のは 最大 成 分のNo.18の ピー クに 対応 す る成 分 で あ っ た 。No18の 成分 を質 量 分析 した 結果 、質 量1125.7 (MH+:1126.7)に 最大 質量 の ピー ク が 認 め ら れ 、 こ れ はviscoslnの 分 子 量 と 一 致し た。 また 、m/z 1126.7の 分子 イ オン をMS/MS 分析 した 結果 、得 ら れた 各メ ジャ ーピ ー クの 質量 はviscosinの各構成ア ミノ酸が順次開裂した場 合 に 生 成 が 予 想 さ れる フラ グメ ン トに 一致 して いた 。 よっ て、 この 殺虫 活 性物 質をviscosinと 推定した。

  HS870031菌 株 お よ びHP890972菌 株 の 圃 場 に お け る 防 除 効 果 を 確 認す る ため に、 施設 栽 培キ ユ ウ り に 発 生 す る ワ タ ア ブ ラ ム シ に 対 し て 本 分 離2菌 株 培 養 液 を 散 布 し た 。HS870031菌 株 培 養 液 の 散 布 直 後 は アブ ラム シ密 度 が減 少し 防除 効果 は 認め られ たが 、残 効 期間 が短 く、 一 週間 ほ ど で ア ブ ラ ム シ 密度 は回 復し た 。一 方、HP890972菌 株培 養液 散布 では ワ タア ブラ ムシ に 対す る 防 除 効 果 は 認 め ら れ な か っ た 。 ま た 、 本 分 離2菌 株 の標 的外 生物 に及 ば す影 響を 調査 し た。

その結果、HS870031菌株培養液散布はアブラムシの天敵類、ナミハダニ(乃trロ理)ゼヵ船 ′.触ロe)、

チリ カブ リダ ニ( 円 ザ田Pぬ ぬ〆 瑠加 釘お)な どに対して影響が認められ たが、影響を及ぼす期間 は 非 選 択 的 殺 虫 剤 と比 較す ると か なり 短か った 。一 方 、HP890972菌 株培 養 液散 布で も同 様 の影 響 が 認 め ら れ た が 、HS870031菌 株 培養 液散 布に 比較 す ると その 影響 は少 な かっ た。 さら に 、施 設 栽 培 キ ュ ウ り に お い て 使 用 さ れ る 代 表 的 な 農 薬 に つ い て 本 分 離2菌 株 の 生 育 に 及 ば す 影 響 を 室 内 実 験 で 調 査 し た 。 糸 状 菌 対 象 殺 菌 剤 に はHS870031菌 株 に 比 べHP890972菌株 に対 し て抗 菌 活 性 を 示 す 薬 剤 が多 かっ たが 、 細菌 対象 殺菌 剤に は 逆にHS870031菌株 に 抗菌 活性 を示 す 薬剤 が 多 か っ た 。 ま た 、 殺 虫 剤 の 中 に も 本 分 離2菌 株に 対 して 抗菌 活性 を示 す もの が認 めら れ た。

  本 分 離2菌 株 培 養 液 に よ る キ ュ ウ り の 浸 根接 種お よ び浸 種接 種を 行っ て 、植 物体 に接 種 細菌 を 取 り 込 ま せ 、 そ のキ ュウ りを 吸 汁さ せる こと によ り 接種 細菌 を経 口的 に アブ ラム シに 接 種す る 方 法 を 考 案 し た 。浸 根接 種で は 、接 種細 菌は 植物 体 に取 り込 まれ 、接 種 部位 以外 から も 再分 離 さ れ た 。 さ ら に 浸根 接種 時に そ のキ ュウ リ葉 を吸 汁 した ワタ アブ ラム シ の死 亡個 体か ら も高 濃 度 の 接 種 細 菌 が 再分 離さ れた 。 また 、浸 種接 種に よ って も接 種細 菌は キ ュウ りの 各部 位 から 再分 離さ れ、 浸種 接 種後 キュ ウリ 葉を 吸 汁し たワ タア ブ ラム シからも接 種細菌が再分離された。

こ れ ら の 結 果 は 、 いず れの 接種 法 にお いて も接 種細 菌 は植 物体 に取 り込 ま れ、 アブ ラム シ の吸 汁 時 に ア ブ ラ ム シ 体内 に経 口的 に 取り 込ま れて 増殖 す るこ とを 示唆 して お り、 これ らの 接 種法 を 発 展 さ せ る こ と で 経 口 接 種 に よ り 殺 虫 活 性 を 示 す 菌 株 に つ い て もア ブ ラム シの 防除 に 利用 できる可能性が示唆された。

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

アブラムシ類に殺虫活性を示す細菌の検索と 活性物質の単離・同定に関する研究

  

本 論 文 は 、 図

9

、 ` 表

34

102

べ ― ジ か ら なる 邦文 で、 別に

3

編の 参考 論文 が添 え られている。

  

アブラムシは農作物の重要な害虫であるが、近年、広食性のモモアカアブラムシやワタ アブラムシにおいて有機リン剤や合成ピレスロイド剤に対する抵抗性が顕在化し、これら の防除が困難になってきている。本研究は、アブラムシの生物的防除に資する目的でアブ ラムシに殺虫活性を有する細菌の検索と殺虫活性物質の解析および接種方法の検討を行つ たものである。得られた結果は次のごとくに要 約される。

1

)アブラムシ類に 殺虫活性を示す細菌の検索

  

分離菌株培養液をスプレーする(噴霧処理)、あるいはパラフィルムを通して分離菌株 培養液を吸汁させる(経口接種)方法により殺虫活性を評価する生物検定法を開発し、ア ブラムシに殺虫活性を有する細菌の探索を行った。その結果、噴霧処理によルジャガイモ ヒゲナガアブラムシ(Aulacorthum solani) およびモモアカアブラムシ(Myzus persicae) に 対して強い殺虫活性を示す6 菌株が選抜された(HS 菌株)。また、経口接種によルジャガイ モヒゲナガアブラムシに対して強い殺虫活性を示し、ジャガイモに対しては病原性がなぃ6 菌株が選抜された(HP 菌株)。

  

分 離 菌 株 は い ずれ もグ ラム 陰性 の桿 菌で 、HS 菌株 は すべ てPseu あ 願m 伽/ 眦 〇Mc 弸

(HS870031 他)と同定され、HP 菌株の3 菌株(HP890972 他)はP ロnfD 閉昭蜘z ピm 恥、他の3 菌株は脇館肭(聊D 冖田m 鹹ゆ轟〃ぬと同定され た。

2

)殺虫活性物質の 単離・同定

  HS

菌株中最も強い殺虫活性を示したHS870031 菌株の培養上清は強い殺虫活性を示した。

この培養液上清にアセトンを添加して得られた画分の殺虫活性を調べたところ、80 %アセ トン処理上清画分が殺虫活性を示した。この画分を逆相カラムに注入し、含水メタノール で溶出したところ6m80 %メタノール溶出画分が 高い殺虫活性を示した。この画分をHPLC

245

徳 士

久 哲

戸 原

伴 田

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

分析した結果、殺虫活性を示したのは最大成分の

No.18

のピークに対応する成分であった。

No.18

の成分を質量分析した結果、質量

1125.7 (MH+

: 1126.7) に最大質量のピークが認め られ、これはPseu ゐmo ′嬲ノぬD 朋駈P 朋の生成する抗菌物質として報告されているviscosin の 分子量と一 致した。また、

m/zl126

.7 の分子イオンをMS /MS 法により分析した結果、得ら れた各メジャーピークの質量はviscosin の各構成アミノ酸が順次開裂した場合に生成が予想 されるフラ グメントに一致していた。よって、この殺虫活性物質を

viscosin

と推定した。

3

)分離菌株による施設栽培キュウりのワタアブラムシ防除

  

分離菌株 の圃場における防除効果を調査した。HS870031 菌株培養液の散布直後は施設栽 培キュウりに発生するアブラムシ密度が減少し防除効果は認められたが、残効期間が短く、

一週間ほど でアブラムシ密度は回復した。一方、HP890972 菌株培養液散布ではワタアブラ ムシに対す る防除効果は認められなかった。また、本分離

2

菌株の標的外生物に及ばす影 響 を 調 査 し た 結 果 、

HS870031

菌 株 培 養 液 散 布 は ア ブ ラ ム シ の 天 敵 類 、 ナ ミ ハ ダニ

(乃飢り触船wr ぬ孵)、チリカブリダニ(鬥サ甜

PfM

ぬ〆朋加〃お)などに対して影響が認め ら れた が、 影響 を及 ば す期 間は 非選 択的 殺虫 剤と 比較するとかなり短かった。一方、

HP890972

菌株培養液散布でも同様の影響が認められたが、その影響は少なかった。さらに、

施設栽培キ ュウりにおいて使用される代表的な農薬について本分離2 菌株の生育に及ぼす 影響を室内 実験で調査した結果、糸状菌対象殺菌剤にはHP890972 菌株に対して抗菌活性を 示す薬剤が 多かったのに対して、細菌対象殺菌剤には逆にHS870031 菌株に抗菌活性を示す 薬剤が多か った。また、殺虫剤の中にも本分離2 菌株に対して抗菌活性を示すものが認め られた。

  HP

菌株の 利用を目的として、浸根接種および浸種接種により細菌を経口的にアブラムシ に接種する 方法を考案した。キュウりを用いた実験では、いずれの接種法においても接種 細菌は植物 体に取り込まれ、アブラムシの吸汁時にアブラムシ体内に経口的に取り込まれ て増殖する ことが示唆された。このことから、これらの接種法を発展させることで経口接 種により殺 虫活性を示す菌株についてもアブラムシの防除に利用できる可能性が示唆され た。

  

以上のよ うに、本研究はアブラムシに対する新規の生物的防除資材を提供すると共に、

吸汁害虫に対する生物的防除資材の開発に際しての重要な知見を与えている。この成果は、

学術的・実用的に高く評価される。

  

よって審査 員一同は、橋本庸三が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有する ものと認めた 。

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