ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについてー民法を中心にー
48
0
0
全文
(2) ライマー・シュミットの問題意識. 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. ニ. 序. ライマー・シュミット以後におけるオプリーゲンハイトの基礎付け及び批判. 三 ライマー・シュミットのオプリーゲンハイト理論 四 小括 一. アイケ・シュミット. ヴィーリンク. 第三節. 三. 債権債務構造におけるオプリーゲンハイトの位置. ユルゲン・シュミット 小括. 二. 四 五. 第三章 二. オプリーゲンハイトの義務性. 北川説. 序. 三. 広義の債権債務関係の構成要素としてのオプリーゲンハイト. 附随義務の位置付け. 一. 五. 四. 六. 結びにかえて. オプリーゲンハイト概念の有用性. 日本法への若干の示唆. 前章までの要約. 第四章 一. 今後の課題. 二. 三. 二.
(3) 第一章 はじめに ︸ 本稿の課題及び対象. 1 問題の所在 ︵1︶. ︵2︶. 近年︑我が国においても契約上の義務概念の拡大が提唱され︑給付義務以外に︑これとは性質の異なるとされる附. 随義務︑保護義務等の概念が作出され︑その一部は学説判例においても承認されてきた︒確かにこのような義務概念 ︵3︶. ︵4︶. の拡大及び精緻化が︑社会の発展に伴って生ずる法的間題により適切に対応するための手段を提供してきたことに対. しては︑積極的評価を与えてよい︒しかしながら︑たとえば︑附随義務を例にとっても︑その内容︑構成要件︑効果 ︵5 ︶. 等が論者によってまちまちであるように︑その種類︑性質については未だ共通項というべきものを見出しているとは ︵6︶. ︵7︶. いい難い状況にある︒さらにこれらが債権債務関係という枠組みにおいてそれぞれいかなる位置を占めるのか︑必ず. しも明らかでなく︑雑多なものが︑﹁附随義務﹂という名のもとに︑詰め込まれている感がある︒. したがって︑給付義務︑附随義務︑保護義務等のすべてにわたって︑これらを債権債務関係の枠組みにおいて考察 ︵8︶. ︵9︶. することが理想的であるが︑それは筆者の能力を超えるものである︒そこで︑本稿においてはドイツ法において﹁オ. プリーゲンハイト︵Oげ一一畠窪冨邑﹂と称される概念︵日本語では︑﹁問接義務﹂あるいは﹁責務﹂と訳されることが. ある︶︑すなわち受領遅滞あるいは共働過失︵過失相殺︶などに共通して存在するとされる﹁義務︵的なものとを素. 材に︑これらを位置付けることにより債権債務関係を考察してみたい︒というのは︑この一連の﹁義務﹂群︵債権者 ︵10︶. 三. の協力﹁義務﹂︑受領遅滞における受領﹁義務﹂等々︶は︑従来その法的性質︑位置付けが必ずしも明らかでないか らである︒ ドイツ法にお け る オ プ リ ー ゲ ン ハ イ ト に つ い て.
(4) 早稲田法学会誌 第 四 一 巻 ︵ 一 九 九 ︸ ︶. 2 オプリーゲンハイトとはなにか. 四. オプリーゲンハイトとは︑いわゆる債務者の義務︵く曾獣&浮算葺︶と異なり︑その不遵守に対し︑損害賠償義務. の発生というサンクション︑及び訴求可能性を欠き︑ただオプリーゲンハイトを負担する者が︑自らの権利を喪失︑ ︵n︶ 縮減されるにすぎない点に特徴があると言われている︒. たとえば商人間の売買において買主は目的物を受け取った後遅滞なく検査し︑鍛疵を発見したときは︑ただちに売 ︵12︶. 主にこれを通知しなければ︑買主はその蝦疵を理由とする契約解除︑代金減額請求︑損害賠償請求の各権利を失う︑. という規定がある︵日本商法五二六条︑ドイツ商法︵HGB︶三七七条︶︒この場合︑法は︑買主に理疵の通知義務. を課し︑その違反に対して買主に損害賠償義務を課し︵あるいは売主に理疵通知請求権を認め︶買主による暇疵通知. を強制させることも可能である︒しかし法はそのような方法を採用せず︑買主の通知の塀怠に対し︑彼の有している ︵13︶ 権利・法的地位︵綴疵に起因する損害賠償請求権︑契約解除権など︶を喪失させる︑という方法を選択したのである︒. この場合︑買主には通知する法的な﹁義務﹂が存在する︑とまではいえないが︑事実上買主に﹁通知する﹂という行 ︵14︶ 為を強制する効果をもつことは否めない︒また︑受領遅滞の規定︵日本民法四一三条︑BGB二九三条以下︶におい ︵15︶. ては︑通説的見解によれば︑債権者は受領の義務を負わず︑ただ受領しないことによって一定の不利益を受けるだけ. である︑とされる︒しかしこの規定は︑こうした不利益を課すことにより債権者に受領を促す︑という機能を有して ︵16﹀. ︵17︶. いる︒すなわち︑これらの規定には一定の︵義務性を認めるかどうかは別として︶﹁行為ないし態度の要請. ︵くRざ冨霧醤8こ段琶oqとの存在を仮定することが可能である︒この﹁行為ないし態度の要請﹂をここではオプリー ゲンハイトと呼ぶことにする︒.
(5) ︵19︶. ︵㎜︶. 3 民法を含む私法の共通概念としてのオプリーゲンハイト ︵18︶ ところでオプリーゲンハイトという術語自体は︑元来︑保険法︵ないし商法︶にその源泉をもち︑その概念はそこ. で理論上︑実務上重要な役割を果たしている︵たとえば被保険者の告知義務なと︶︒このように︑オプリーゲンハイ. トという概念は︑本来的に保険法︵商法︶固有の概念であったが︑これを民法及びその他私法一般に共通する上位概 ︵21︶. 念として抽出・一般化したのは︑後述のように︵第二章第二節参照︶ドイツの保険法学者のライマー・シュミットの. ︵23︶. 功績である︒彼は︑権利と義務の問に一種の﹁中問領域︵N&ω9撃琶α︶﹂の存在することを指摘し︑その典型的な ︵22︶ 現象が︑保険法における﹁弱い強制力のみをもつ義務﹂としてのオプリーゲンハイトであるとし︑これを保険法のみ. ならず︑私法一般にわたる共通概念として用いるべきことを提唱した︒そして︑このシュミットの提唱は︑民法界に. おいても受け入れられるところとなり︑その概念自体の意義︑あるいは法的性質については議論はあるものの︑少な. くとも用語としての﹁オプリーゲンハイト﹂は︑民法においても定着しているようである︵たいていのドイツ民法の ︵24︶ 教科書・コンメンタールにおいて採用されている︶︒ ︵25︶. オプリーゲンハイトの法的性質については保険法においても争いがあるが︑本稿では民法におけるオプリーゲンハ. イトの考察という点に焦点を絞り︑とりわけ債権債務関係におけるその位置付けという点からこの概念にアプローチ しようとするものである︒. 4 研究の空白領域としてのオプリーゲンハイト. 民法におけるオプリーゲンハイトに関する研究は︑ドイツにおいても余り多いとはいえない状況にある︒民法全体 ︵26︶ にわたる研究は︑前述のライマー・シュミットの論文がほとんど唯一のものであるといってよい︒まして日本におい. 五. ては︑民法上のオプリーゲンハイトそのものを対象にした研究はほとんどない︑といってよい状況にあるのではなか ドイツ法におけ る オ プ リ ー ゲ ン ハ イ ト に つ い て.
(6) 早稲田法学会誌 第 四 一 巻 ︵ 一 九 九 一 ︶ ︵27︶. ︵28︶. 六. ろうか︵保険法の分野についてはいくつかの研究が存在する︶︒したがって︑このような研究の﹁空白領域﹂を微力 ながら埋めることは︑意義がないことではない︑と思われる︒. 二 本稿における分析の視角. オプリーゲンハイトの法的性質に関する学説の変遷. 以上の問題意識にかんがみ︑次の二点からオプリーゲンハイトという概念にアプローチする︒. ー. の存在. オプリーゲンハイトの問題は︑従来︑義務の問題として議論されてきた︒すなわち︑オプリーゲンハイトという名. 称を与えるか否かは別にして︑従来より通常の義務とは異なる一連の﹁義務﹂ーあるいは﹁中問領域﹂. が指摘されてきたことは事実である︒そこでは固有の義務概念が設定され︑そのメルクマールを抽出することによっ. てその義務性の判断が行われてきた︒したがってここではまず彼らがいかなる義務概念を用い︑そこから得られた義. をたどる必要がある︒そこでまず検討の対象と. 務のメルクマールからオプリーゲンハイトなるものを︑どのように位置付けてきたかーすなわち義務との対比にお ︵29︶. いてオプリーゲンハイトがどのようなものとし捉えられていたか ︵30︶. ︵31︶. すべきものが︑一九五三年に著した論文においてオプリーゲンハイトについて包括的・体系的研究をおこなったライ ︵32︶. マi・シュミットの見解である︒ここでは彼の見解を中心に論じられるが︑それ以前の学説及びライマー・シュミッ. 債権債務構造におけるオプリーゲンハイトの位置. ト以後の学説についても素描する︒. 2. 1においては︑まず義務性という観点からその法的性質が考察されるべきことをみたが︑この場合︑その義務性が. 否定されるならば︑オプリーゲンハイトが債権債務関係の構成要素であるか否かを明らかにする必要がある︒また︑. 反対に義務性が認められる場合︑オプリーゲンハイトが﹁債権債務関係﹂に含まれるものであることは当然予想され.
(7) るが︑それがどのように位置付けられるかは明らかではない︒したがってここではオプリーゲンハイトの債権債務構 造における位置をより詳しく明らかにしなければならない︒. 上述したように近年の義務概念の拡大によって給付義務とは異なる附随義務︑保護義務などと呼ばれる一群の新し. い義務概念の存在が指摘されるようになってきた︒そこでさらにオプリーゲンハイトがこれらの義務群といかなる関 ︵33︶ 係にあるのか︑ということについて検討する必要がある︒これらのことは従来余り議論されてこなかったといってよい︒ ︵34︶. そこでここでは近年の義務論︵附随義務論︶を念頭に置きながら︑債権債務関係の構成要素としてオプリーゲンハイ. トを位置付ける立場をとるヘンスの見解を中心に︑債権債務構造におけるオプリーゲンハイトの位置という点からア. 民法典におけるオプリーゲンハィト. ︵35︶ プローチする︒. 三 ︵36 ︶. ︵37︶. ドイッ民法において多くの規定がオプリーゲンハイトを含むとされているが︑とくに学説の大部分が認めるのは次 ︵38︶. ︵39︶. の規定であるとされる︒すなわちBGB二九三条以下に規定される受領︵債権者︶遅滞︑同二五四条の共働過失︵過 ︵40︶. 失相殺﹀︑同三二四条一項の債権者の責めに帰すべき後発的不能︑同一九九四条の財産目録調整期間を徒過した場合. における無限相続責任の発生の各規定におけるオプリーゲンハイトである︒本稿では︑このような民法における個別. ︵︻九八七年︑有斐閣︶. のオプリーゲンハイトを詳細に検証することはできないが︑本稿におけるオプリーゲンハイトの検討を通じて可能な ︵41︶ 限り︑こうしたドイツの議論が日本法にも示唆するところがないか︑考察してみたい︒. 我が国における附随義務︑保護義務等の分類方法︑種類︑内容については︑さしあたり奥田昌道編﹃注釈民法︵10︶﹄. 七. 最高裁第三小法廷昭和五〇年二月二五日判決﹇民集二九巻二号一四三頁﹈︵いわゆる﹁安全配慮義務﹂を認めた判例︶ など︒判例は︑安全配. 一三六頁以下︵北川善太郎執筆部分︶を参照︵特に三四八頁以下に詳しい︶︒. ︵1︶. ︵2︶. ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(8) 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. 八. たとえば︑︵法的性質につき争いはあるも︶安全配慮義務理論の判例による創造︵葡出注︵2︶︶や契約締結段階における説明義務の要求など. 慮義務の性格について﹁信義則上の付随義務﹂と位置付けている︒ ︵3︶. ﹁付随義務﹂とも書かれるが︑本稿では﹁附随義務﹂に統一して用いることにする︒. によって︑労働者・消費者保護がより前進してきたことを見逃すことはできない︒. このテーマにつき考察した例として︑潮見佳男﹁債務履行構造に関する一考察e︑口﹂民商九〇巻三号三四四頁以下︑同四号︵﹃九八四年︶. たとえば︑附随義務に基づく履行請求の可否︑保護義務との関係など︑論者によって一致しない︒. ︵4︶. ︵6︶. 潮見・前掲く前出注︵6︶︶五二三頁は︑﹁﹁付随義務﹂とされているものの中に構造上異質なものが混在してはいないか﹂と指摘し︑﹁この点. 五一一頁以下参照︒. ︵5︶. ︵7︶. 奥田昌道﹃債権総論曽︵一九八二年︑筑摩書房︶一二二頁︑二二一頁︑前田達明﹃口述債権総論第二版﹄︵﹃九九〇年︑成文堂︶二〇七頁な. を十分に検討しないで漠然と﹁付随義務﹂と総称したばかりに︑付随義務の無限定の大量生産を招いた﹂と批判している︒. 保険法を専門とされる坂口光男教授は﹁責務﹂の訳をオプリーゲンハイトに充てる︒たとえば﹁損害防止・軽減義務に関する若干の諸問題の. したい︒けだし︑まさに義務性が認められるかどうかが問題となっているのだから︒. ど︒なお︑﹁間接義務﹂は︑本来一&陣話簿のく震忌喜9粛の訳語であるが︑これをオプリーゲンハイトの訳語として用いることについては留保. ︵8︶. ︵9︶. ドイツ商法︵HGB︶三七七条. 前掲︵前出注︵8︶︶二〇七頁︒. ζ昏3臼段即8算?幕さぎp田区﹄レゆo︒刈ω一口φ椿寿夫・右近健夫編﹃ドイツ債権法総論﹄︵一九八八年︑日本評論社︶六頁以下︒前田・. る︒. たとえば受領遅滞を例にとっても︑受領義務の有無︑過失の要否︑損害賠償義務発生の可否などについて学説において周知のとおり争いがあ. 考察﹂法律論叢四五巻五;六号︵一九七二年︶参照︒ ︵10︶. ︵11︶. ︵2 1︶. とを要し且つ暇疵を認めたときは遅滞なく売主に対しこの通知をなすことを要する︒. ①売買が当事者双方の為に商行為たるときは︑通常の営業上なすことができるかぎり︑売主より引渡を受けた後遅滞なくその商品を検査するこ. 9. ︵三項以下略︒本条文の日本語訳は︑神戸大学外国法研究会編﹃現代外国法典叢書︵6︶猫逸商法﹇1﹈﹄︵復刊版﹃九五六年︑有斐閣︶から引. ②買主が前項の通知を怠ったときは︑その商品を承認したものとみなす︒但し検査に際し知ることができない暇疵に関してはこの限りでない︒. ま象郵詩三話8畢巴零g旨箕︒讐§琶島く霧9巳含磐αq農①霧喜のΦ一葺レ免ミ①︵お蕊︶あ︒︒. 用︵但し︑片仮名混じり文語体文を平仮名混じり口語体文に変更した︶︒︶ ︵13︶. 後出注︵37︶参照︒. もちろん︑周知のとおり︑債権者に受領﹁義務﹂を認め︑その違反に対し損害賠償や解除の効果を認める学説も有力である︒代表的なものと. ︵14︶. ︵15︶.
(9) 名邑一おる山○あo︒ミ﹄冨﹃①目︸≧一αqΦ馨言震↓の一こΦω∪Φ昌9磐田霞Φ二一9の欝即Φ︒鐸ω気︾島こ這o︒︒ o あ﹄O㎝. して︑我妻栄﹃新訂債権総論﹄︵一九六四年︑岩波書店︶二三八頁など︒ ︵16︶. ︵17︶ 過失相殺︵ドイツ法では共働過失︶においても債権者︵被害者︶に一定の行為要請︵損害回避ないし軽減行為︶を仮定することが可能である︒. 満﹁保険契約法における○呂畠①浮窪の法的性質に関する研究序説ードイツ法を中心としてー﹂上智法学論集一〇巻一号︵一九六六年︶六. ︵18︶ オプリーゲンハイトという言葉の用法・歴史については︑本稿第二章第二節一参照︵保険法上のオプリーゲンハイトの歴史については︑石田 六頁以下参照︶︒. たとえば︑保険契約者︵被保険者︶の告知義務︵VVG㎜六条︑日本商法六四四条︶︑損害防止義務︵VVG六二条︑日本商法六六〇条︶︑保. ︵19︶ ドイッ保険契約法︵以下VVGと略称︶六条は︑オプリーゲンハイトについて総則的規定を置く︒. 険事故の通知義務︵VVG三三条︑日本商法六五八条︶など︒. ︵20︶. ○びぎαq雪訂ぎP>亀一望︵這田︶あお陣層田一醇ω8曾零ω鷺の3琶αq︿8襯冒Φ﹃ω9巨鼻9Φ○喜罐Φ呂象婁N鵠勾一曽︵る㎝o︒︶あ︒刈o o 填がある︒. り9巨3望の〇三一品窪冨膏鋒這認なお︑この論文に対する民法学者による書評として︑雰ω9ω8鷺9目眞く8即①ぎ巽o︒9巨89Φ ︵21︶ 零目Ro. 丙Φ鼻輿の3ヨ舜る餌ρの﹂甲. 09昆鼻ρ鋤9の︒ωま︒ 圏きΦぺし. たとえば︑匿冨醤る帥ρのN8㌘田ωR/臣竃の9馨曾の3島ユお︒耳・ゆ弩皇2赫①旨①ヨ雲↓①芦①>猛﹂Oo︒会ω㊤N陸︐ζぢ9撃段胃oヨヨ雪3吋. ︵22︶. ︵ 2︶ 4. ︵23︶. オプリーゲンハイトが︵﹁真正﹂の︶義務か否かということについて︑﹁前提説︵<︒轟島ω爵彗αqω誓8冨︶﹂と﹁︵真正︶義務説︵く震互区ぎ算︒畢. o轟廿容置Rなど︒ N自讐野茜の旨9魯08Φ冒げ琴ダ田区Nあ3E費9ヌ≧薗ΦヨΦ5R↓亀﹄辱︾島;這oo㎝ゆb. ω葺8需︶﹂の対立という形で争われてきた︒すなわち後者の立場によればオプリーゲンハイト違反は訴求及び履行強制の効果をもたらし︑前者. ︵25︶. からすればこれらは認められないことになる︵石田・前掲︵前出注︵18﹀︶八二頁以下参照︶︒. ︵26︶そのほかに︑多くのオプリーゲンハイトに言及するモノグラフィーとしては︑ヴィーリンク︵前出注︵13︶参照︶やヘンス︵浮拐ω−○菖畠①呂舞. 口且田喜コヨUΦ59窪o o葭篶芸9雪響9け一這o︒︒ o ︶がある︒なお︑本稿の叙述に関しては︑ヘンスの論文に示唆されるところが大きい︒ ︵27︶わずかに北川善太郎﹃契約責任の研究﹄︵︸九六三年︑有斐閣︶三五五頁以下に﹁広義の義務﹂として捉えられているくらいか︵ただし北川教. 語の説明ではあるが︑末川博編﹃民事法学辞典曽︵一九六〇年︑有斐閣︶三〇二頁において奥田昌道教授の解説がある︵﹁問接義務︵同三−. 授は﹁オプリーゲンハイト﹂という用語を用いていない︒北川教授の見解については第三章においても検討する︒︶︒また﹁間接義務﹂という用. ォン・ブフカ﹂の箇所を参照︶︶︒また︑田中教男﹁債権者の受領義務﹂九大法学五八号︵一九八九年︶一頁以下は︑ドイツにおける債権者の受. 良お騨Φ<①壱讐︒耳雪αq︶﹂はかってドイツで使われていた用語で︑その内容はオプリ!ゲンハイトとほぼ同一である︵なお本稿第二章第︸節四﹁フ. 九. 石田満教授︵前出注︵B︶参照︶及び坂口光男教授︵前出注︵9︶参照︶らの一連の研究に詳しい︒なお︑保険法におけるオプリーゲンハイト︵た. 領義務の法的性質について問接義務︵オプリーゲンハイト︶であることを前提に議論している︒ ︵28︶. ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(10) 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. 一〇. はしばしば﹁過酷条項﹂といわれる︶︒したがって保険法においては保険契約者︵すなわち消費者︶保護のため︑オプリーゲンハイト違反が成. とえば告知義務︶違反の効果は︑保険金給付請求権の喪失という︑保険契約者にとって極めて過酷な結果をもたらす︵オプリーゲンハイト条項. 責務違反要件の修正を中心として. ﹂法律論叢六一巻四・五合併号︵一九八九年︶六一九頁以下参照︒. 立する範囲をいかに制限するかが主要なテーマの一つになっている︒この問題について考察した一例として︑坂口光男﹁責務違反にもとづく保. BGB二九三条﹇受領遅滞﹈. 属のpωωるmO・oっ一刈. 本稿第三章参照︒. 前出注︵26︶参照 ︒. て明確に説明しているものは少ないように思われる︒. 浮8ωる勲○あ一8オプリーゲンハイトを附随義務と位置付けられるとする見解は多いが︑﹁どこに位置付けられるか﹂という問いに関し. 本稿第二章第三節参照︒. 本稿第二章第一節参照︒. 本稿第二章第二節参照︒. 前出注︵21︶参照 ︒. 険保護の喪失 ︵29︶. ︵30︶. ︵1 3︶ ︵32︶. へ33︶. ︵34︶. ︵36︶. ︵35︶. ︵7 3︶. BGB三〇〇条﹇責任軽減・危険移転﹈. 債権者は︑自己に提供された給付を受領しないときは︑遅滞に陥る︒. ①債務者は︑債権者が︑遅滞にある問は︑故意又は重過失についてのみ責めを負う︒. ②種類によってのみ定まる物を債務の目的とするときは︑債権者が提供された物を受領しないことにより遅滞に陥った時期をもって︑危険は債 BGB三〇四条﹇増加費用の償還﹈. 権者に移転する︒. BGB二五四条﹇共働過失﹈. 求することができる︒︵以上の条文の日本語訳は︑椿・右近編・前掲︵前出注︵11︶︶. 一六七頁以下を引用︒︶. 債権者遅滞の場合には︑債務者は︑受領されなかった提供並びに債務の目的の保管及び保存のために支出することを要した増加費用の償還を請. ︵38︶. れの当事者が主として損害を惹起したかによって定まる︒. ①損害の発生に際し被害者の過失が共働したときは︑賠償義務及び給付すべき賠償の範囲は︑事情によって︑特に︑いかなる範囲においていず. は軽減しなかったことに被害者の過失があるときも︑前項と同様である︒この場合においては︑第二七八条の規定を準用する︒︵本条文の日本. ②債務者が知らず︑かつ︑知ることを要しない異常に高い損害の危険を被害者が債務者に注意しなかったこと︑又は被害者が損害を防止もしく.
(11) BGB三二四条一項. 語訳は︑椿・右近編・前掲︵前出注︵n︶︶五九頁を引用︒︶. ﹁双務契約の当事者の一方は︑自己の負担する給付が相手方の責めに帰すべき事由によって不能となるときは︑反対請求権を失わない︒ただし︑. ︵39︶. 自己の給付を免れたことによって免れ︑又はその他の方法により自己の労働力を用いることによって取得し若しくは悪意で取得しなかったもの BGB一九九四条一項. を差し引かなければならない︒﹂︵本条文の日本語訳は︑椿・右近編・前掲︵前出注︵11︶︶二二〇頁を引用︒︶. ﹁遺産裁判所は遺産債権者の申請により財産目録調整のため相続人に対して一定の期間︵財産目録調整期間︶を指定することを要する︒相続人. ︵40︶. 国法研究会編﹃現代外国法典叢書⑥ 濁逸民法▽﹈相続法﹄︵復刊版一九五五年︑有斐閣︶から引用︵但し︑片仮名混じり文語体文を平仮名. が財産目録調整期問内に財産目録を調整しないときは︑期間経過後は遺産債務に対して無限に責任を負う︒﹂︵本条文の日本語訳は︑神戸大学外. ライマー・シュミットに先行する学説. オプリーゲンハイトの法的法的性質に関する学説の変遷. 混じり口語体文に変更した︶︒︶. 序. 第一節. 第二章. ︵姐︶本稿第四章二参照︒. 一. ︵1︶. ︵2︶. 従来より︑民法典において通常の義務とは異なる一群の﹁義務﹂の存在が指摘されていた︵たとえば︑BGB二五. 四条の共働過失の前提となる債権者の協力﹁義務﹂︑二九三条以下の受領遅滞制度など︶︒これらに﹁オプリーゲンハ. イト﹂という共通の名前を与え︑基礎的かつ包括的研究をおこなったのはライマー・シュミットであるが︑それ以前. において民法分野でこれらの﹁義務﹂を︑通常の義務とは異なるものとして抽出し︑考察した学説が存在しなかった. 一. わけではない︒そこでここでは︑ライマー・シュミットによりオプリーゲンハイトと呼ばれた一連の﹁義務﹂につい ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(12) 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. 一二. て考察した初期の学説について素描する︒この場合︑まず彼らが何を義務のメルクマールとして取り上げたかが︑そ. れぞれ述べられなければならない︒そこからオプリーゲンハイト︵なるもの︶がどのように捉えられていたかが︵義 務性を認めるかどうかについても含めて︶明らかになるからである︒. ここで取り上げられるのは︑ツィーテルマン︵N冨一§呂︶︑ジーバi︵の38︑フォン・ブフカ︵<面募冥餌︶及び. ツィーテルマン︵N一9一ヨm昌p︶. フォン・トゥール︵︿ら昌ぺ︶である︒ ニ. ①﹁自己自身に対する過失﹂. ツィーテルマンは︑上記の一群の義務に対して︑義務論として詳細に議論しているわけではないが︑彼の過失. ︵3︶ ︵<震曽ど箆窪賭帰責︶概念の分析の前提として︑通常の義務とは異なる︑特殊な﹁義務﹂の存在を示唆している︒. ツィーテルマンによれば︑﹁過失﹂は︑通常︑他人の権利を侵害する場合の過失を意味し︑違法な行為を前提とす. るが︑しかし︑違法な行為の中に存在しない﹁過失﹂もある︑とされる︒すなわち︑たとえば行為者が自ら︑自己の ︵4︶. 利益︵身体︑財産など︶を侵害する場合がそうである︒ツィーテルマンは︑これを﹁自己自身に対する過失︵く霞曽ぎ箆窪 罐窪ω一9 量9け︶﹂と名づける︒. すなわち︑法は︑ある法的義務を課すことなく︑一定の行為に対し︑行為者に不利益な効果を︑そして︑これと反. αq. ︵5︶. 対の行為に有利な効果を結びつけることがある︒これらの場合もまた︑BGBにおいては﹁過失﹂が語られるのであ り︑そこには過失概念の拡大が存在する︑と彼は言う︒. ②過失概念の拡大に伴う義務概念の拡大. ﹁自己自身に対する過失﹂と﹁他人に対する過失﹂の相違は価値判断の様式にある︒というのは︑他の行為のため.
(13) ︵6︶ の義務が存在せず︑その行為は客観的にも主観的にも﹁違法﹂器9け&箭芭ではないからである︒. たとえば︑自己の身体︑財産を傷つけた場合︑もとよりなんら法的義務を侵害するものではない︒しかし自己自身. に不利益を与えない︑ということは︑自己自身に対する人問の︵倫理的な︶義務である︑とみなすことができる︑と. 行為者にとっては望ましくない︶ある法的な効果ーーたとえば︑ある財産的価値を取得する権利を喪失. する︒そのような行為は法的な処理から見ればなんら不利益な効果を持つものではないが︑法は他の考慮からこの行. 為に対し︑. したり︑相続責任の制限をもたらす可能性を失う場合などfを結びつけることがある︒つまり法はこれらの行為と. 反対の行為に法的利益を結びつけ︑そのような︵自己過失︶行為がなされることを望まないのである︒この意味で法 ︵7︶. 律学は義務概念を用いるのであり︑この義務概念の拡大は︑過失概念の拡大とまったくパラレルな関係にあるとツィー. ○り一σ興︶. テルマンは述べる︒ 三 ジ﹂べ看. 債権債務関係存在のメルクマール. ツィーテルマンにおいては︑過失概念の考察から ﹁自己自身に対する過失﹂︶︑ある特殊な義務の存在が示唆され ︵8︶ るにとどまっていたが︑これに対してジーバーは︑﹁債権債務関係における法的強制﹂という著作の表題が示すように︑. §匿一98冨韓Φ霧o一一窪との存在が認められるのは︑給付が︑義務. 債権債務関係の枠組みにおいて独自の義務概念についての見解が展開される︒ ジーバーによれば︑﹁法的な給付すべき義務. 者の意思に反してでも︑訴訟手続や場合によっては自力救済によって強制されうる場合のみであり︑BGBはこのよ ︵9︶ 二四一条における︶債権債務関係を認めている︑とされる︒しかしながら︑ジーバーは︑給付を訴. うな場合にのみ. =二. 求しうる権利を有せず︑︹上記の強制的契機を欠く故︶二四一条の意味での債権債務関係の事例には属さない︑﹁︵単 ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(14) 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. ︵n︶. ︵10︶. 一四. なる︶給付すべき義務﹂のみが存在する場合がBGBにおいて存在することを指摘する︒そしてこれらを含め︑法規 範は次のように段階づけられることになる︒. ②規範の段階的分類. ︵12︶. 第一のグループは︑上記のBGB二四一条が予定する﹁法的な給付すべき義務﹂を含む法規範である︒これらの義. 務は︑訴求ないし強制執行可能性によって保護され︑これには債権者の請求権が対応する︑とされる︒第二のグルー ︵13︶. プは︑不法行為に基づく損害賠償義務の場合のように︑債権者の利益が︑唯一︵損害賠償請求権のような︶強制的二 次的義務によってのみ保護されるような義務を含む法規範である︒ ︵M︶. さらに第三のグループは︑﹁︵単なる︶給付すべき義務﹂あるいはゲルマン法的意昧での︵責任浮臨ε凝と対置さ ︵15︶. れるV﹁債務︵の︒菖互﹂のみを含む法規範である︒こうした﹁給付すべき義務﹂は︑法規がある作為ないし不作為に ︵16︶. 対し不利益な結果を課している場合に︵常にではないが︶しばしば存在する︑とされる︒まず︑この﹁給付すべき義 ︵17︶. 務﹂が確実に存在する例としてジーバーは︑違約金の規定を挙げる︒これに対し︑受領遅滞における受領行為の強制. においては︑この﹁給付すべき義務﹂を含む場合と含まない場合がある︑とされる︒また︑ジーバーはこの﹁給付す. ︵18. ︶. べき義務﹂は︑法規範が︑自由な給付に対し利益を与える場合にも存在する︑とする︵例えばBGB六五二条の仲立 契約︶︒. へ19︶. へ20︶. 第四のグループは︑ある作為ないし不作為に対し不利益な結果を課している場合においても﹁給付すべき義務﹂が. 2︶. 存在しない場合である︒例えば︑最疵の通知をしなかった場合のHGB三七七条による物の蝦疵担保請求権の喪失︑ ︵21︶ ︵2 BGB一九九四条の遺産目録調整期問の徒過による無限相続責任の発生︑などである︒. ③義務性のメルクマールとオプリーゲンハイト.
(15) ︵23︶. ジーバーの見解からすれば︑ある法規範は︑その法効果から特徴づけられることになる︒すなわち︑ある法規範が. 義務を含むか否かは︑その法的効果によって決定される︒この場合︑彼が︑義務を︑反対行為に対し一定の行為の請. 求権︑少なくとも損害賠償請求権が認められる場合にのみ言及する以上︵すなわち上記の第一及び第二の場合︶︑そ ︵24︶. ︵25︶. れとは異なる効果をもつオプリーゲンハイトについて︑これが義務か否か︑という問いに対しては︑必然的に﹁否﹂. フォン・ブフカ︵く■u ﹂蓉算9︶. といわざるをえないことになる︒ 四. ①﹁問接義務﹂. ジーバーに続き︑債権実現手段としての義務の直接性・間接性に着目したのが︑フォン・ブフカである︒. フォン・ブフカによれば︑給付を実現するために︑債務者の義務を貫徹するためにの通常的手段ー履行請求︑強. 制執行︑不履行を理由とする損害賠償請求ーが存在することによって特徴づけられる直接義務︵&冨辟の 6︶. く霞呂一39凝︶の外に︑給付すべき義務︵寓鱗窪ω亀窪︶もなく︑給付請求権もなく︑そして債権貫徹のための手段 ︵2 も欠落している﹁問接義務︵一区冨埣① くの壱強9霊畠︶﹂が存在する︑とされる︒この場合︑給付に対する利益は︑給 ︵蟹︶. ︵28︶. 付をなすことに対しては︑利益が与えられ︑これの不作為に対しては︑不利益が課せられることによって保証される︑ とする︒. ②問接義務としての債権者の受領義務 間接義務の典型例として︑フォン・ブフカは債権者の受領義務を取り上げる︒. 9︶. 一五. すなわち︑債権者遅滞が間接義務たるゆえんは︑受領しないことによって債権者に生ずる不利益によって︑正当に ︵2 提供された給付を受領すべき︑ある強制が︑問接的に債権者に課されるからである︑とする︒ ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(16) 早稲田法学会誌第四一巻︵︸九九一︶. 一六. この間接義務を措定することによって︑法は債権者と債務者の相対立する利益の間に﹁公平﹂の観点から調整を図. ︵30︶. るのである︒そしてここでは︑取引上の信義則の原則を実現する技術的手段が生ずるのである︑とフォン・ブフカは 述べる︒. ③間接義務と区別すべきグループ. 問接義務の特徴は︑望まれた給付が︑他の法効果の真実の条件ないし法的前提のためになされる点にある︒すなわ. ち︑この他の法効果は︑当初から望まれたものではなく︑単に派生的なものに過ぎず︑望まれた給付の達成のための 動機として作用するに過ぎないものである︒. しかし︑フォン・ブフカによれば︑問接義務と同様︑給付をしないことにより不利益を受けるが︑間接義務ではな いものがある︑とされる︵例えば︑消滅時効による債権の消滅がそうであるという︶︒. すなわち︑消滅時効による請求権の消滅は︑むしろ︑まったく別の考慮に基づくものであり︑請求権の正しい時期. における行使のための権利者の義務づけの思想は︑たとえ︑動機として作用することはあるとはいえ︑まったく関係 1︶. ︵3 のないことである︑とする︒. ④義務のメルクマール. ヘンスが指摘するところによれば︑フォン・ブフカの考える義務の不可欠の要素は︑二つある︑とされる︒一つは︑. 法秩序の意志︵≦毒︒・9︶であり︑他は︑この意志に力が与えられることである︒上記の問接義務とその他のグルー. プの違いは︑一定の給付がもたらされる︑という法秩序の意志の有無であり︑かつ︑法効果が︑この意志を貫徹する. ための問接的な強制として理解できるか否か︑という点に存する︑とされる︒フォン・ブフカの分類からすれば︑オ. プリ︸ゲンハイトは︑問接義務とほぼその内容を同一にする︒したがって︑オプリーゲンハイトは︑義務といいうる.
(17) ︵32︶. ことになる︒. 五フオン・トウール︵<●↓仁再︶. ①義務のメルクマール. フォン・トゥールは︑義務を意思︵≦一ま︶という心理的事実に基づくものとする︒つまり法が義務を設定する場合︑ ︵33︶ 法規が定めたように義務者が行為するように︑義務者を動機づけることによって︑人問の意思に向けられる︒したがっ. て︑強制執行可能性を欠くことは︑義務を認めるうえで障害になるものではないが︑単に損害賠償が問題となるに過. ぎない場合︑︵意思の存在をメルクマ︸ルとする以上︶過失が存在する場合にのみ義務の存在を認めることになる︵過 ︵34︶ 失のない場合︑彼によればそれは保証責任ないし危険責任となる︶︒. ②義務と区別されるべきもの. さらに︑ある行為がなされない場合︑損害賠償でなく︑その他の不利益な法効果が生ずる場合︑フォン・トゥール. によれば︑法的義務の存在を認めることはできない︒そのような場合︑これらは︑権利の取得ないし喪失あるいは権. 限の行使の前提にすぎない︒すなわち︑これに従うかどうか︑そして︑その法効果を受けるか否かは︑当事者の自由 ︵35︶ であるからである︵BGB二五四条の被害者の損害回避ないし軽減の﹁義務﹂がその一例である︶︒. この単なる権利取得ないし喪失のための条件と上記の義務との境界のメルクマールを︑フォン・トゥールは︑当事. 者の利益状況に求める︒すなわち︑前者の場合︑当事者は︑その行為を行うことと︑行わないことによって権利を失. うことの選択権を持っている︑という点で︑その行為の実行は︑彼の利益の中に存するといってよい︒故に︑彼は︑. 義務を履行するのではなく︑ある彼に分配された状態の前提を果たすに過ぎないのである︒これに対し︑法秩序が︑. ﹃七. ある行為を強制執行によって強制し︑少なくとも損害賠償によって可能な限り現状に近い結果の回復を要求する場合︑. ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(18) 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. ︵36︶. この規定は︑他人の利益において存在し︑それゆえ︑義務を基礎づけるのである︒. ③区別の実際的意義. 一八. フォン・トゥールによれば︑この区別は︑単に理論的だけでなく︑実際的意義を有する︑とされる︒というのは︑. それぞれの領域には︑異なった法原則が適用されるからである︒すなわち︑義務違反の主要な効果である損害賠償請 ︵37︶. 求権は︑原則的に︑過失があるときのみ発生するが︑これに対して上記の条件は︑基本的にその規定された行為がな されたか否かのみにかかわるのである︒ ︵38︶. 以上のフォン・トゥールの見解からすれば︑︵BGB二五四条の損害回避・軽減義務や保険法上の諸義務のような︶. オプリーゲンハイトの義務性については︑これを否定的に解さざるをえないことになる︒ 六 小括. 以上︑ライマー・シュミットに先行するところの初期の学説について素描した︒まずツィーテルマンは﹁自己自身. 9︶. に対する過失﹂の理論によってBGBの過失概念の検討を通じて過失概念の拡大をしたことは評価できるものの︑そ ︵3 の根拠となる︵倫理的な︶義務の内容について何も語っていないことを批判しうる︒ ︵如︶. ジーバーについては︑﹁債権債務関係﹂という概念を初めて提唱して︑それが認められる場合は︑法的な給付すべ. き義務︵器9悪989韓Φ易亀8︶が存在する場合であるとした︒そしてこの﹁法的な給付すべき義務﹂は少なくと. も一定の法的強制に裏打ちされるものであり︑その強制の態様・程度から法的義務︵すなわち債権債務関係︶が問題 となる限界事例について興味深い検討がなされていることを見た︒. フォン・ブフカにおいては訴求・損害賠償・強制執行などの債権貫徹のための手段を欠く︑すなわち給付を直接的. ではなく︑間接的に強制する義務︵﹁間接義務﹂︶の存在が︑とりわけ債権者遅滞制度を通して考察された︒ここにお.
(19) いて消滅時効のような場合は︑別の思想に基づくものとして間接義務の領域からは排除されている︒. 最後にフォン・トゥールは︑端的に義務を意思に基づく場合に認められるとし︑そうでない場合は︑単に権利取得. のための前提ないし条件に過ぎないとした︒BGB二五四条の損害回避・軽減義務や保険法上のオプリーゲンハイト. ︵3︶. ︵2︶. ︵1︶. N幕冒きP簿壷ρのレ認︑ツィーテルマンが定式化した﹁自己自身に対する過失﹂の概念は︑その後︑判例に採用されて︑BGB二五四条に. っ福認ハ一①①陣 Nぎ巨o⊃pPO器即Φ︒馨O①ω野藤①⁝9雪 ○ΦωΦけNび¢魯ω︐≧薗ΦヨΦぎ段↓Φ芦一⑩Oρo. 本稿第一章注︵37︶参照︒. 本稿第︸章注︵38︶参照︒. は彼によれば︑まさに後者の条件に過ぎないことになる︒. ︵4︶. N一けのぎ嘗P帥︑鉾○︸ωい09. おける﹁過失﹂を説明する概念となっている︵椿・右近編・前掲︵本稿第一章注︵11︶︶六三頁参照︒︶︒. N毒一暴目う勲ρの﹂雪しかし︑ツィーテルマン自身においてはその前提となる﹁倫理的な義務﹂なるものの内容︑根拠については何も. N一け①ξ9冒・卑鉾○あ一①⑦. ︵5︶ ︵6︶. 説明されていない︒すなわちライマi・シュミットが指摘しているように︑﹁自己自身に対する過失﹂の理論は損害を回避することを強制する. ︵7︶. 法規範の思想が欠如しているといえる︒ツィーテルマンの考えは︑外部的な︵倫理的な︶価値基準を法の体系に持ち込む場合にのみ理解可能な. 章注︵21︶︶. ものである︵そこに理論的な破綻が存在する︶とライマー・シュミットは批判する︒<算圏ξ段ω9巨身9の○宴詔睾匿8Poっ﹂08︵本稿第一. ︵8︶. の一σ9騨勲ρあミ奥田・前掲﹃請求権概念の生成と展開﹄︵前出注︵8︶︶㎝〇六頁参照︒. ︒奥田・前掲﹃請求権概念の生成と展開﹄︵前出注︵8︶︶一〇六頁参照︒ っふo o︒一σ9㊤・四〇;o. の一び9uR認︒簿ω睾磐曽ヨの9巳9雲鼠ぎ声一8ωジーバーの見解については︑奥田昌道﹃請求権概念の生成と展開﹄︵一九七九年︑創文社︶ 一〇六頁以下︵初出﹁ドイツ民法の請求権概念についての﹂法学論叢六四巻六号︵一九五九年︶三三頁以下︶に検討されている︒. の一σ9餌壷ρあ雪この分類については浮参ω聾鋭90り﹂駅. ︵9︶ ︵10︶. ①9. 一九. ︵本稿第︸章注︵26︶︶を参考にした︒なお︑奥田・前掲﹃請求権概念の生成と. ︵11︶. の一げ巽る餌○二〇っ. 展開﹄︵前出注︵8︶︶一〇六頁にもほぼ同様にまとめられている︒ ︵皿︶. ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(20) ︶. 13. 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九二. 二〇. ω一σ璽蝉動ρあ︑占︑たとえば︑﹁不法行為をしない義務﹂を訴求ないし強制執行によって実現することはできず︑このような﹁義務︵霧59﹂. のきΦび餌曽︒○この︐①刈. は︑テクニカルな意味での債権債務関係及び﹁︵狭義の︶義務︵<段σ区ぎ罫興︶﹂の内容とはならない︑とする︒くαq一のき撃曽︾9の葭 1︶ 4 1︶ 5 oっ脚σの5鉾四●○この雪︒ 1︶ 6 の一げΦさm曽90っ︒雪●. ︵>目3幕90= 臼 ︶ ﹂ が 存 在 す る ︑ と さ れ る ︒. η︶の一ぎ鍔四壷9の雪すなわち︑債務者が債務の対象から解放されるにつき利益を有しているときには︑債権者の﹁受領すべき義務. ﹁契約締結のための事情の指示または契約の媒介につき仲立料を約束した者は︑仲立人の指示または媒介により契約が成立した場合にのみ伸. ︶ BGB六五二条一項. 18. 日本語訳については神戸大学外国法研究会編﹃現代外国法典叢書吻. 濁逸民法﹇H﹈債務法﹄五九四頁を引用︒但し︑片仮名混じり文語体文を. 立料を支払う義務を負う︒契約が停止条件をも9て締結されたときは︑条件が成就した場合にのみ仲立料を請求することができる︒﹂︵本条文の. ωき︒ぴ斜讐○■−の■8一. 平仮名混じり口語体文に変更した︒︶ 1︶ 9. ︶ HGB三七七条については本稿第一章注︵12︶参照︒ 20. もっとも︑ジーバーによれば︑この第三と第四のグループの分類は余り意味がない︑とする︒というのは︑一つには︑﹁給付すべき義務﹂の. ︶ BGB一九九四 条 に つ い て は 本 稿 第 一 章 注 ︵ 4 0 ︶ 参 照 ︒ 21. 有無の判断が困難であることであり︑他方︑BGBが﹁給付すべき義務﹂に関する一般的な規定を放棄しているからであるとする︒<尊ωぎ9. ︶. 22. <ひq一︐浮3ωる︒鉾9の愈︒. 効鉾○;の・Ooo︐. 2︶ 3. 2︶ 4 <αq一国8ωωる動ρの癒・ 2︶ 5 <︒窪︒算9D曽9①一区き醇①<①∈艶︒耳巨αqNξ零巨琶αq﹂8蒔 ︶ <︐窪︒算鋤魯曽9の︒一 ﹁問接義務﹂については末川編・前掲﹁民事法学辞典の﹂︵本稿第一章注︵27︶︶三〇二頁の奥田昌道教授の解説参照︒. ︶. σ琴算帥も③ ○ あ <o. 除フォン・ブフカは︑間接義務には主に三つあるという︒すなわち︑第一に︑債権者の受領義務︑次に通知︵告知︶義. 26 2︶ 7 ︿︐野︒穿餌る蝉○;の=. 務︑そして遺産債権者に対する相続人の義務を挙げている︒く難く扇琴算曽る曾ρoりφ. 28. 2︶ 9 <窪︒算9つるpρの﹃9 3︶ 0 ︿ 野︒算帥魯鉾ρの一9.
(21) ︵31︶. く﹃ωq魯富胃勲 勲 ○ ︑ の 春 ①. 出8ωω届四■○二の本8 く↓βぼ一U巽≧一αqのヨ①言Φ臼Φ一乙ΦωUの5ω9窪ω二茜R一一3撃勾Φ9寅醇琢雪ゆ昏αし⑩一〇. ︵2 3︶. ︵33︶ <↓§きの如︒○︸のΦ刈捗. の⑩①・. <↓昌き鋤動ρφ8︐その外に︑フォン・トゥールは︑財産目録調整期問徒過後の無限相続責任の発生などと共に︑ 保険法上の﹁義務﹂とし. ︵34︶. ︵35︶. <↓魯き餌9ゆ︒○;の﹂09. てのオプリーゲンハイトを挙げている︒く管く功昌﹃る鉾9の■50 ︵36﹀. くoq一出9器. <. 笹鉾ρりω鼻9. ↓旨ぴ蝉90曽の■一〇一. ︵8 3︶. ︵7 3︶. 奥田・前掲﹃請求権概念の生成と展開﹄︵前出注︵8︶︶﹁三七頁参照︒. ︵39︶ 前出注︵7︶参照︒. 序. 第二節 ライマー・シュミットの見解. ︵40︶. ﹃. 1︶. ︵4 前述のとおり︑民法におけるオプリーゲンハイトに関する統一的研究は︑一九五三年のライマー・シュミットの論文. によって初めてなされた︑といってよい︒したがって︑ここでは︑シュミットの見解についてやや詳しく紹介するこ. とにするが︑その前にオプリーゲンハイトという概念・用語が従来どのように扱われてきたか︑簡単に略述する︒. BGBにおいて﹇09畠窪冨菖という言葉が用いられている例はほとんどなく︑わずかに二二一七条において遺. 言執行者の義務を表すために一回だけ登場するに過ぎない︒また︑これに対して﹇︒窪罐窪﹈という動詞は︑BGB ︵42︶. こ︸. においてもしばしば用いられているが︑これは﹁義務が存在する﹂ということを非技術的な意味で表しているに過ぎ ないものであるとされる︒ ドイツ法にお け る オ プ リ ー ゲ ン ハ イ ト に つ い て.
(22) 早稲田法学会誌第四︸巻︵一九九一︶. 二二. これに対して保険法においては保険契約者の一群の義務が﹁オプリーゲンハイト﹂と呼ばれている︒この言葉は︑. まず一八二〇年のゴータ火災保険銀行の双方の契約当事者の義務の総称として初めて登場した︒その後︑一八四七年 ︵43︶. ︵44︶. のハンブルク海上保険の普通約款において初めて保険契約者の義務を表すものとして﹁オプリーゲンハイト﹂という. 言葉が用いられた︒立法において最初に明確にオプリーゲンハイトの規定を設けたのは︑スイス保険契約法である︒ そしてドイツ保険契約法においても同様に規定され︑現在に至っている︒. 以上のようにオプリーゲンハイトは︑もっぱら保険法上の概念・用語であったのであるが︑これを民法を含む私法. の共通概念に昇格させることを提唱し︑たとえば共働過失における損害回避行為︑受領遅滞における受領行為などを ︵45︶ 説明する概念に拡大したのが︑ライマー・シュミットであることは︑前述した通りである︵第一章一3参照︶︒ ニ ライマi・シュミットの問題意識. 6︶. ライマ︸・シュミットによれば︑法秩序は様々な強制力を持った諸々の義務︵霊ざ琶を含んでいる︒一方におい ︵4 ては︑その履行を債権者が訴求及び強制執行によって貫徹することができる﹁︵狭義の︶義務︵く震葛&ぎ算①5﹂が. あり︑他方においては︑そのサンクションの段階的な程度に応じて︑その不履行が結果的に﹁負担者﹂にある法的な ︵47︶. 不利益をもたらすに過ぎないものがあり︑そして最終的には︑法的なサンクションすらない空虚な命令に過ぎない﹁自 ︵48︶. 己の利益における裸の義務﹂が存在する︑という︒そしてライマー・シュミットによればこのような法の義務体系に. おける﹁階層﹂の存在はほとんど研究されてこなかった︒彼は︑この試みを体系的にかつ豊富な事例を挙げて行なう︒.
(23) 1. 三 法効果による構成要件の分類. ライマー・シュミットのオプリーゲンハイト理論. ー誘引要件 と 強 制 要 件 ー. オプリーゲンハイトについてのライマー・シュミットの見解を検討するためには︑法規範についての彼の分析を考. 察する必要がある︒ライマi・シュミットによれば︑法規範には︑構成要件を実現する者に対し︑有利な法効果を与. える法規範と︑不利益な法効果を与える法規範がある︒つまり︑前者は︑法規範の名宛人に対し︑その構成要件の. 実現を誘引する︵けだし有利な法効果を受けるから︶のに対し︑後者は︑その構成要件の実現を回避するよう強制. する作用を持つ︵けだし不利益な法効果を受けるから︶︒ライマi・シュ︑︑・ットは︑前者を﹁誘引要件 ︵49︶ ︵>日魯毒鴨鼻幕ω鼠&と︑後者を﹁強制要件︵ぎ凝琶暢鼻び霧¢a︶﹂とよぶ︒. 2 目的による法規の分類. ー機能的要件と目的的要件f. また︑法規範は︑上述の誘引ないし強制の作用が︑単に原因ー結果のメカニズムの帰結︑あるいは構成要件−法効. 果の関係にすぎないような構成要件をもつものと︑この誘引ないし強制作用が︑立法者または契約当事者によって目. 的志向的に︵その法効果があらかじめ意図されて︶規定されている構成要件を持つものに分類できる︒ライマー.シュ ︵50V. 二三. ミットによって前者は﹁機能的要件︵暁琶ざ︒幕箒証98け9雪α︶﹂︑後者は﹁目的的要件︵邑8δ讐9の凝98けきα︶﹂. と名付けられる︒ ︵51︶. さらに彼は︑これらをそれぞれ組み合わせ︑次の4つの法規範に分類する︒. ①機能的誘引要件. ドイツ法にお け る オ プ リ ー ゲ ン ハ イ ト に つ い て.
(24) ︵52︶. 早稲田法学会誌第四一巻︵﹃九九 ︶. ②目的的誘引要件 ③機能的強制要件 ④目的的強制要件 ︵53︶. 二四. 以上の構成要件体系のうち︑①と②は︑義務を基礎づけるものではない︒また︑結論的にいえば︑機能的強制要件 ︵弱︶. の場合︑法的義務は存在しないとされる︵後述3参照︶︒それに対して目的的強制要件の場合には法的義務の存在を. 認めることができるとする︒典型的な例が︵狭義の︶﹁義務︵<巽玄&ぎ算葺とである︒しかしながらライマー・シュ ︵55︶. ミットはこれ以外に目的的強制要件が認められるーすなわち義務性が認められるー﹁中間領域﹂が存在すること. を指摘する︒これがまさにオプリーゲンハイトの存在根拠が示される場面である︒したがってここではその位置付け. 機能的強制要件. ︵56︶. が最終目標となるのであるが︑その前にその前提としてこの両強制要件についてやや詳しく検討する︒ 3. 構成要件を実現する者に対し︑法効果が不利益に働く点で強制要件と呼ばれるが︑その法効果の行為に対して影響. する作用が︑目的的に規定されていない点は︑目的的強制要件と異なる︒つまり立法者は法効果について中立的な態 ︵57︶. ︵58︶. 度をとっているのである︒例として不法行為上の規定︑社会生活上の保護義務︑方式についての規定及び消滅時効な どが挙げられる︒. たとえば︑BGB三一三条に規定された無効の法効果は︑必要な方式を具備することなく契約した不動産売買契約. の当事者に不利益な効果をもたらす︒しかし︑この不利益な法効果から生ずる行為影響作用は︑ライマー・シュミッ. トによれば︑売買契約の当事者に︑方式に適合する契約を締結させることを目的として規定されたものではない︒そ ︵59︶ れは︑単に構成要件と法効果の機能的相互作用の結果に過ぎない︒.
(25) また不法行為の場合︑不法行為を行わない︑というような一般的な法的義務が存在するかどうかが︑規範の目的に. 0︶. 1︶. 照らして検討されなければならないが︑一般的にそのような法的義務は存在しないとされ︑したがって不法行為の規 ︵6 定は機能的強制要件に過ぎないことになる︒ ︵6 ライマー・シュミットは︑このような機能的強制要件を含む規範を︑一般に負担︵冨8と称する︒. 以上の諸例から窺えるように︑機能的強制要件は︑法的義務の根拠を与えるものではない︒それは事実上結果的に. 目的的強制要件. 行為者に対する強制力を有するものになるかもしれないが︑法規の目的として設定されたものではない︒したがって ︵62V いわゆる債権者ー債務者の関係を持ったものではなく︑義務に認められる法効果はない︑とされる︒ 4. ①強い目的的強制要件ー義務ー ︵63︶. 構成要件を実現する者に対して不利益な法効果から生ずる行為影響作用が︑その構成要件の実現を回避することが. ﹁目的的に﹂規定されている法規範が︑目的的強制要件である︒目的的強制要件は︑その法的強制の程度によって二 つのグル㌧フに分類される︒. まず強い法的強制力を有する目的的強制要件は︑ライマー・シュミットによれば︑﹁︵狭義の︶義務︵U. 4︶. ︵6 <震玄呂浮算①5﹂に該当するとされる︒義務には最高度の法的強制が与えられる︒この場合︑彼は︑︵狭義の︶義務. を︑狭義の債権債務関係から生ずる債務者の給付義務と理解している︒︵狭義の︶義務は︑ライマー・シュミットに. よれば︑少なくともその違反が︑債権者の損害賠償請求権によって制裁される場合のみに認められる︒そしてこの﹁︵狭. 二五. 義の︶義務﹂は債権者の利益のために︑債務者に課せられ︑債権者の利益のために債務者によって履行されるもので ︵65︶ あるとされる︒ ドイツ法にお け る オ プ リ ー ゲ ン ハ イ ト に つ い て.
(26) 早稲田法学会誌第四一巻⊃九九一︶. ②弱い目的的強制要件ーオプリーゲンハイト. 二六. しかしライマー・シュミットによれば︑強い法的強制力を有する目的的強制要件の他に︑弱い法的強制力を持つ目 ︵66︶ 的的強制要件が存在する︒これは︑﹁広義における義務︵霧8算窪首奉常お⇒曽きの︶﹂であるということができる︒. つまりその違反に対して損害賠償請求権が発生せず︑むしろ単に不利益な法効果が生ずるに過ぎない︑という点で︵狭. 義の︶義務︵く段玄&浮算簿Vと区別される︒これらの弱い法的強制力を持つ目的的強制要件をライマー・シュミッ. トはオプリ︸ゲンハイトと名付ける︒すなわちそれは﹁より弱い強制力をもつ義務︵霊貯窪磐昌呂費R ︵67︶ N≦磐αqω算撃巴鼠けとなのである︒. しかし︑他方で︑債務者が債権者に対して履行の請求権を有せず︑その不遵守が債務者の損害賠償請求権を発生さ. せない︑というオプリーゲンハイトに認められる弱い法的強制力の根拠については︑ライマー・シュミットは︑異なっ. た利益状況への適合の結果である︑とする︒即ち︑︵狭義のV義務が︑債権者の利益において債務者に課せられ︑債 ︵68︶. 権者の利益において履行されるのに対し︑オプリーゲンハイトの負担及び履行は︑債権者の利益とともに債務者の利. オプリーゲンハイトの例ー債権者︵受領︶遅滞ー. 益においてもなされるからである︑とする︒. 5. ライマー・シュミットによれば債権者遅滞に関する規定は︑単なる機能的強制要件以上のものを具備している︒す. なわち給付の受領は︑債権者の利益のみにおいて存在するのではなく︑債務者の利益もまた正当に考慮されなければ. ならないとされる︒債権者遅滞の構成要件は︑より弱い強制力を持つ目的的な法的強制を実現するものである︒受領. の目的的な法的強制は︑もとより︵狭義の︶義務におけるような強い力を持つわけではない︒というのは債務者には︑. 債権者に対して給付の受領を訴求する請求権が与えられるような利益状況が存在していないからである︒BGBに.
(27) 9︶. ︵6 よって採られた解決法は︑まさにこの利益状況に対応するものであった︒. このような広義の債権債務関係において当事者の一方が果たすオプリーゲンハイトを︑ライマー・シュミットは﹁共 ︵70︶ 働オプリーゲンハイト︵峯ヨ一﹃ざ鑛ω︒匹罐Φ昌Φ常昌とと名づけることができるとする︒ ︵71︶. BGB二九三条以下の規定は︑︵狭義の︶義務ではなく︑単に債権者のオプリーゲンハイトを基礎づけるものである︒ したがって給付の不受領は義務違反を意味しない︒. 債権者遅滞は︑債権者に対する受領請求権の発生︑または不受領にもとづく損害賠償請求権の発生というような法. 効果を持たない︒債権者が提供された給付を受領しない場合︑別の形で彼の法的地位が被害を被ることになる︵債務 ︵72︶. ︵73︶. 者の責任軽減︑危険の移転︑利息の不発生など︶︒︵債務者の︶履行遅滞と債権者遅滞との間の類似は単に外的かつ表. オプリーゲンハイトの存在領域. 面的なものに過ぎない︑とライマー・シュミットは述べる︒. 6. オプリーゲンハイトは︑債権法のみならず︑物権法︑家族法及び相続法においても存在する︒それは狭義の法的義. 務と同様︑法律によって︑あるいは法律行為によって基礎づけられる︒債権法におけるオプリーゲンハイトは広義に. おける債権債務関係に属する︒また既存の債権債務関係においてのみならず︑当事者問の﹁社会的接触︵ω︒N巨Φ. 浮旨畏けとがある場合に﹁契約締結上のオプリーゲンハイト︵○窪轟の嘗象窪ぎ8暮轟箒&ともまた存在するとする. 小括ー評価並びに疑問. ︵得︶ ︵たとえば契約締結の際における説明義務︑告知義務など︶︒. 四. 従来︑漠然と﹁義務﹂の範疇に入れられていた性質及び要件・効果において異なる諸﹁義務︵的なもの︶﹂を︵狭. 二七. 義の︶義務︵くΦ浮ぎ象9濠εから分離し︑これらを﹁オプリーゲンハイト﹂という一つの共通概念として括り出し︑ ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(28) 早稲田法学会誌第四一巻︵一九九一︶. 二八. ︵狭義の︶義務とは異なる第三の範疇として定立しようとした試みは高く評価されて然るべきであろう︒﹁オプリーゲ. ンハイト﹂という用語そのものは保険契約法からの借用とはいえ︑︵狭義の︶義務とは異なる一連の﹁義務﹂群に対. して︑法規範の強制︑及びその程度︑目的の有無︑という観点から共通のメルクマールを認め︑体系的に整理したと. いう点に彼の見解のエッセンスが存在する︒ライマi・シュミットは︑目的的強制要件︵オプリーゲンハイトも含ま. れる︶にのみ義務性を認める︒つまり彼において義務性判断のメルクマールは法規範の構成要件における法効果が﹁目. 的的︵立法者ないし契約当事者によって意図されてとに定められているか否かによることになる︒そしてオプリー. ゲンハイトについていえば︑それはあくまでも﹁目的的に﹂規定されたものであり︑すなわち︵広義の︶﹁義務性. ︵霊8算9巽接§︶﹂が認められることになる︒この点︑単に機能的強制要件に過ぎない﹁負担︵霊8﹂とはライマー・ ︵75︶. シュミットによれば峻別されるのである︒ここにまさに彼の力点が存在する︑と思われる︵後述のアイケ・シュミッ. トらのようにオプリーゲンハイトを単に﹁負担﹂に過ぎないとする見解とは相違する立場が採られている︶︒ ︵76︶. ところで﹁強制﹂と﹁誘引﹂というメルクマールは︑その基礎を心理学に置いているといえる︒しかしながら︑そ. うした心理学的概念をそのまま法的メルクマールとすることには疑問がある︒また︑﹁機能的強制要件﹂と﹁目的的 ︵77︶. 強制要件﹂を分類するが︑果たしてその分類が可能であるのか︑また分類することにどれだけの意義があるのか良く. 解らない︒目的の有無による分類は一見して質的な差であるように思われるが︑実際には単に義務の強制度の量的な. 差異を表すものに過ぎないのではないのでなかろうか︒また現実に立法者の﹁目的・意図﹂というものを︵仮定的に せよ︶推測するのは非常に困難な試みと思われる︒. ︵78︶. また︑ライマー・シュミットの場合︑オプリーゲンハイトが債権債務関係との関係においていかなる位置を占めて. いるかという点に関しては必ずしも明らかでなく︑この点で次項のユルゲン・シュミットの批判が妥当するように思.
(29) く騨圏薮Rの9§鼻勲鋤bあ駕なお︑ライマー・シュミソトの論文が登場する以前は︑民法においては一般に﹁間接義務︵ぎ号畏$. 石田・前掲︵本稿第一章注︵18︶︶六七頁︒ドイツ保険契約法におけるオプリーゲンハイトの歴史については同論文六六頁以下に詳しい︒. 開Φ§Φ﹃の号旨鼻鉾曽︑○あ■一〇9. 沁①冒簿ω魯目こ芦9勲○ の一〇卜o︒. 注︵27︶︶三五八︑三五九頁にライマー・シュミットの見解についての紹介がある︒. 襯讐雲の9睾曾∪お○酵畠の⇒冨幕P本稿第︻章注︵21︶参照︒また石田・前掲︵本稿第︻章注︵18︶︶九二︑九三頁及び北川・前掲︵本稿第︸章. われる︒. ︵41︶. ︵磐︶. ︵42︶. ︵必︶. ではとりあえず︵義務の総称としての︶囲8算と対照して用いる意味で︑﹁︵狭義の︶義務﹂と訳すことにする︒. <巽玄呂ぎ算9は︑﹁真正義務﹂とも訳されることがあるが︑︵少なくとも民法用語としてはV余り定着した訳語とは思われないので︑ここ. については本章第一節四﹁フォン・ブフカ﹂の項参照︒. くΦ﹃呂喜ε贔︶﹂という言葉が用いられていた︒く讐ω鼠&旨αq璽ぎ田幕旨賃N§ωOゆる窪︒鵠︾5国日一塁謝N占ヌ穿器N・﹁問接義務﹂. ︵45︶. ︵46︶. ︵48︶. 零巨段の号ヨ葺る鉾9の竃るる石田・前掲︵本稿第一章注︵娼︶︶九二頁︑北川・前掲︵本稿第一章注︵27︶︶三五八頁参照︒. 評き翰の3馨身帥動○あ認舜鐸貿石田・前掲︵本稿第一章注︵18︶︶九二頁︑北川・前掲︵本稿第一章注︵27︶︶三五八頁参照︒. 即Φ蓉霞oっ3巨鼻扇西b曽の・ω旨. 7V沁Φ肇霧しり魯§鼻﹄る○こしっ◎ω一呼. ︵4. ︵49︶. <鷺幻の目霞の9巨身㊤騨○あ①刈津. ︵0 5︶ ︵1 5︶. 寄員段の3日§る勲9のωに北川・前掲︵本稿第︻章注︵27︶︶三五八頁参照︒. り9旨身鉾90 くαq一︒襯巨段し. の︒o︒艦繭たとえば仲立契約︵BGB六五二条以下︒本稿第二章注︵18︶参照︶がその︸例であるという︒. ︵53︶. ︵2 5︶. 菊Φ冒霞の3≡身曹鉾曽O﹂の㎝oO. 沁Φぎ雪Gっ9営こ 鋤騨○ごしo㎝刈. く尊評旨震の9目鼻四妙○﹃あ刈O卑. ︵54︶. ︵6 5︶. BGB一一二三条. 悔Φ旨雲の3巨辞 る 鉾 ○. ︵5 5︶. ︵57︶. ﹁当事者の一方が不動産所有権を譲渡または取得する義務を負う契約は︑公正証書の作成を必要とする︒この方式を遵守せずに締結された契. の刈o o. ︵58︶. 二九. 約は︑所有権移転の物権的合意及び不動産登記簿への登記を行っているときは︑その全内容について有効となる︒﹂︵本条文の日本語訳は︑椿・. ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
(30) 早稲田法学会誌第四一巻︵㎝九九一︶. 斎§巽誓ぎ葺魯鋤9あ刈o・北川・前掲︵本稿第一章注︵27︶︶三五八頁参照︒. 沁Φ毒段の9巨象扇壷○︑の・ooω︐. 右近編・前掲︵本稿第一章注︵1 1︶︶一九六頁を引用︒︶ ︵59︶. 罰①景巽ω9ヨ益 簿鉾○︑のGo一9. として用いる︒但しシュミット自身も認めるように余りテクニカルな意味で用いているのではない︒<αQ一. 三〇. 評旨震ω9旨鼻穿効900﹂OO. 零毒霞oっ3ヨ葺も鋤bあ一〇Pω嶺.い器二負担︶は︑本来訴訟法上の概念︑用語であるが︑ライマー・シュミットはこれを実体法上の概念. ︵60︶. ︵幌︶. ︵62︶. 圏蓉雲の3裟身斡壷○こψωる︷石田・前掲︵本稿第一章注︵18︶︶九二頁︑北川・前掲︵本稿第一章注︵27︶︶三五九頁参照︒. 力9旨震ω9旨一象︑鉾鋭○︸ω㎝刈. 零§醇oっ︒ぎ導扇9︒9あ・︒︒に石田・前掲︵本稿第一章注︵18︶︶九二頁︑北川・前掲︵本稿第一章注︵27︶︶三五九頁参照︒. ︵63︶. ︵65︶. ︵4 6︶. 7︶︶三五九頁参照︒ あδ合ω嵩石田・前掲︵本稿第一章注︵鳩︶︶九二頁︑ヒ コ晒 フ. 前掲︵本稿第﹄章注︵2. 沁Φ蓉簿oっ9薯α戸四鉾○;の︒Go置暁. 沁①暮費の3ヨ乙. 閃ΦぎRω9霞位戸騨鉾○. ︵66︶. ︵67︶. 曽鉾○ ;の︒︒59石田・前掲︵本稿第﹇章注︵18︶︶九二頁︑北川・前掲︵本稿第一章注︵27︶︶三五九頁参照︒. ︵68︶. 力Φ§霞の魯筥己ρ曽如○ ;の碁轟Oい あレ轟oo. ︵69︶. 力の一旨巽ωoげき一鼻曽鉾斜○ ︸ω︐寡㊤︒. 効①毒震ω9目己. ライマー・シュミットは︑ このほかに以下の規定をオプリーゲンハイトを含むものとして検討している︒ ①損害発生における被害者の共働過失︵BGB二五四条一項︶︑②取引関係における申込の際の意思表示の擬制︵HGB三六二条︶︑③過失に. 沁の冒巽の9包陣無︸騨pO ψ一㎝Oh. 軸如○. ︵70︶. ︵72︶. ︵71︶. ︵73︶. よって遅れた取消の際の取消権の喪失 ︵BGB一二一条︸項︶︑④債権者の責めに帰すべき後発的不能︵BGB三二四条︸項︶︑⑤過失による減. ω ω一鼻. エッサーは︑ライマi・シュミットの論文に対する書評の中で︑この論文から得られる収穫︵写丙耳σ巽寄δは︑単に﹁用語上の新しい分類. 国魯ωωる勲○噸のωO・. 本章第三節三参 照 ︒. 菊9旨巽ω33一身−鉾曽○. 認の擬制.︵HGB三七七条︶ 及び⑧財産目録調製期間の徒過の場合の無限相続責任︵BGB一九九四条︸項︶︒. 失における解除の禁止 ︵BGB三五〇条以下︶︑⑥損害軽減における被害者の共働過失︵BGB二五四条二項︶︑⑦蝦疵の通知の慨怠における追. ︵74︶. ︵76︶. ︵5 7︶. ︵77︶. はなく︑我々の義務概念に結びつけられて初めて実証されるものである︑と批判する︒<笹評ω璽>免一望︵這脇︶鋤動ρあ﹄ρ︵本稿第一章. 方法﹂に過ぎないとさえいっている︒すなわち︑オプリーゲンハイトを︑﹁負担﹂や固有の契約上の義務から区別するものは︑﹁強制﹂の体系で.
(31) 注︵21︶︶. 序. 第三節 ライマー・シュミット以後におけるオプリーゲンハイトの基礎付け及び批判. ︵78︶ 本章第三節四参照︒. 一. ここではライマー・シュミット以後に現れたオプリーゲンハイトに関する代表的な学説を取り上げる︒とくにここ. では︑ライマー・シュミットとは異なる基礎付け及びオプリーゲンハイト概念そのものの有用性に疑問を呈する見解. ヴィーリンク︵≦芭一凝︶. が取り上げられる︒ ニ ︵79︶. ①﹁先行行為に反する行為の禁止原則﹂の一適用としてのオプリーゲンハイト. ヴィーリンクによれば︑法は︑相対立する利害問の紛争を調整するべき様々の手段を用意している︒そのひとつと. して︑他人の利益が侵害された場合︑その被害者には請求権が与えられ︑侵害者は︑その請求に対し︑少なくとも損. 害賠償をもって償わなければならない︒しかし法は︑請求権を認める代わりそれとは別のより弱い方法︑すなわちオ. プリーゲンハイトを定めることができる︒この場合問題となるのは︑自己の利益を守るべき行為要求である︒請求権. の場合と異なりオプリーゲンハイトにおいてはある要求された行為を強制されることはなく︑その違反はなんら損害 ︵80︶. 賠償義務の根拠とならない︒ただ︑そのサンクションは︑自己の権利が減少させられる︑すなわちよりよい法的地位 を喪失する︑ということに存することになる︒. 三一. ヴィーリンクは︑このことを信義則︵BGB二四二条︶から派生する﹁先行行為に反する行為︵<窪一お8寝妙欲? ドイツ法におけるオプリーゲンハイトについて.
関連したドキュメント
限り休業指示をする予定であると交渉の席で述べた。当該社員と
地域紛争に介入する仏教権威と地方政府
において国民統合 の中心 たる法的権威 たることにあったのである。 そこに日本 の天皇制 の本質があ るのである。 しか るに ,国 民主権 とは ,国
いわゆるρ一■P論に基づいて社員間の法的関係を言及したのは前掲ζ●≦一三2ζ一茜一一巴。。魯9二8冨↓8需σ一邑琶鵬窪善
。。∼o Z濃Φ斜董α●ω●o 。一り9Φ。
(3)債務者が自ら給付をしなければならない場合において、給付者の債務者の
Schwark/Kruse in Schwark/Zimmer, Fn. 55) 金融監督サービス庁が無権限にあたらない場合として例示している(BaFin, Emittenten-
ケベック民法典中の国際私法規定について