ドイツにおける解除制度の発展に関する考察 : 催告を中心として(4・完)
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(2) 56. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). (558). ⑴ 法定解除制度の概略. い12).効果として,①債権者が設定した遅延し. 法定解除 は,旧債務法 325 条 か ら 327 条 に 規. た履行を追完するための相当な期間が経過した. 2). 定されていた .旧債務法 325 条は,要件とし. 場合,この時点で本来の給付請求権が消滅する.. て,ア双務契約における不能である必要がある.. そして,その反対給付請求権も原則として消. 3). 不能 に は 後発的客観的不能・主観的不能. を含. 滅 す る,②履行 に 代 わ る 損害賠償請求,③解. の「擬制. 除権の行使13),④債権者の設定した期間内に一. 的不能」にも適用される.そして,イ不能につ. 部しか履行しなかった場合,旧債務法 326 条 1. いて債務者に責めに帰すべき事由が必要である.. 項 3 文により旧債務法 325 条 1 項 2 文が準用さ. 効果として,①履行に代わる損害賠償,②解除. れる.また,遅滞によって契約の履行が債権者. 4). み,また,2 項により旧債務法 283 条. 5). 権の行使 ,③債権者は,債務者の給付義務の消. にとって何ら利益がない場合,債権者は,契約. 滅とともに自己の反対給付義務の消滅を主張(旧. 全部の履行を請求するか,契約の全部を解除す. 6). 債務法 323 条 1 項 1 文 )と,不能となった給付. ることができる.. に代わって債務者の取得した代償,代償請求権. 旧債務法 327 条は,法定解除権の行使及び効. (保険金,保険金請求権)の移転を求めること (旧. 果について規定していた.まず,旧債務法 327. 債務法 323 条 2 項,281 条7)) ,④一部不能の場合,. 条は,約定解除の規定である旧債務法 346 条か. 残存部分について債権者になお利益があるとき. ら 356 条を準用している14).解除権は形成権で. は,債権者は,不能な部分について履行に代わ. あり,相手方に対する一方的な単独の意思表示. る損害賠償を請求, あるいは,契約の一部の解除,. によってその効力が生じる.この解除の意思表. 損害賠償請求及び解除権に代えて,旧債務法 323. 示は撤回することができない(ドイツ民法典(以. 条に規定されている権利を選択して行使できる.. 下,「BGB」とする)349 条 15)).そして,解除. 残存部分について債権者に何らの利益がないと. 権が行使されると,未履行の給付義務が消滅し,. き8),債権者は,不能な部分の給付の受領を拒絶. 履行利益の損害賠償請求権も消滅する.解除と. 9). して(旧債務法 280 条 ) ,給付の全部について. 損害賠償は両立しないためである.そして,既. 履行に代わる損害賠償を請求,あるいは,契約. に給付を受領しているのであれば,それの返還. の全部の解除,損害賠償請求及び解除権に代え. 義務が生じるのである(旧債務法 346 条 16)).. て,旧債務法 323 条に規定されている権利を選. 旧債務法における解除制度は以上のようなも. 択して行使できる.なお,契約全体が不可分で. のである.⑵,⑶の学説・判例では解除権の行. あるときは,一部解除をすることはできない.. 使と損害賠償の関係について述べることにす. 旧債務法 326 条は,まず,双務契約より生じ. る.というのは,旧債務法における解除は,当. た債務の遅滞の場合,債権者は,第一次的に旧. 時通説であった直接効果説17)を前提とすれば,. 債務法 286 条10)に よって 遅延 し た 損害 の 賠償. 債権者(解除権者)が解除権を行使した場合,. を請求するにとどまる.この遅延損害賠償請求. 契約は遡及的に消滅するから,解除とともに履. 権と本来の給付を請求する権利は両立するとさ. 行利益の賠償も信頼利益の賠償も認められない. 11). れる .そして,要件として,ア双務契約にお. ことになるのである.そこで,学説・判例にお. ける主要な義務(Hauptpflicht)についての履. いて,解除権者が解除権を行使した場合であっ. 行遅滞であること,イ遅延した履行を追完する. ても,信頼利益の賠償は認められるべきではな. ための相当な期間を設定(催告)してその後は. いかという問題が生じたのである.この問題と. 履行を拒絶すること,ウ設定された期間内に債. 本稿の主題である催告との関連性を述べると,. 務者が給付を行わないこと,が必要である.な. 催告によって猶予期間を設定して,その際,そ. お,いったんなされた期間の指定は撤回できな. の期間の経過後は,債務者が給付をしても債権.
(3) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (559). 57. 者は受領しないという拒絶の意思表示をしなけ. 務関係ではなく,法律行為に基づく債務関係で. ればならない18).さらに,催告による猶予期間. あるとする27).解除と損害賠償の両立について. が経過した場合,当然に契約関係が終了するの. は,損害賠償を生じさせる違反行為の種類でな. ではなく,債権者による解除の意思表示が必要. く,回復される利益と状態の調和から判別して. 19). とされる .つまり,催告の際に,猶予期間の. いる.. 経過後は給付の受領を拒絶する旨の意思表示が. ヴォルフ以降の学説では,解除の意思表示に. なされたとしても,なお損害賠償を請求するこ. よって,契約関係は将来に向かって清算関係(原. とが可能かという点で関連するのである.. 状回復関係)に姿を変えるのみと理解する点で. ⑵ 学 説. 一致している28).このように解除を理解すると,. 解除権 の 行使 に よって, (そ の 効果 と し て). 一定限度で損害賠償請求権の行使ができること. 契約が遡及的に消滅するという直接効果説を見. になる.しかし,その賠償の範囲は,信頼利益. 20). 直すきっかけとなったシュトル. と,彼の説. を発展させたヴォルフ21)の学説を取り上げる 22). の範囲に限られ,履行利益は含まないのである. 解除があたかも契約がされなかったかのような. ことにする .. 状態を作り出すことが目的なのに対して,損害. ま ず, シュト ル は, 当 事 者 間 す べ て の. 賠償は,契約が履行されたような状態を作り出. 債務関係 を 広義 の 債務関係 と し て 有機体. すことが目的だからである29).. (Orgamismus)と 称 し た.そ し て,解除 の 効. ⑶ 判 例. 果として,給付義務は消滅するが(遡及的では. 解除権者 が 解除権 を 行使 し た 場合 で あって. ない) ,有機体自体は存在し続けて,その中で. も,信頼利益の賠償は認められるかという問題. 新たな返還請求権が生じるとする.つまり,当. を取り扱った判例として次の 4 つを紹介する.. 初の契約が,解除によって再編成されたとする のである23).シュトルはこのように理解して,. ①ライヒ裁判所 1931 年 1 月 15 日判決30). 解除権を行使した後であっても,なお解除権者. 【事実】売主Ⅹは,ワイン販売の店舗及びその. (債権者)に信頼利益についての損害賠償請求. 商品を買主Yに売却した.その代金は,数回に. が認められるとする.しかし, その損害賠償は,. 分割して支払われることになっていたが,一部. 信頼利益のうち,現実に生じた損害(積極的損. しか支払われないままであった.Ⅹは目的物を. 害)のみに認められるとする.具体的には,契. Yに引き渡したが,Yが代金を支払わないので,. 約準備,契約締結,履行準備により生じた費用. 催告を数回した後,旧債務法 326 条の不履行に. の賠償や,通知義務や契約上の付随義務の違反. よる損害賠償の請求と既に引き渡している不動. によって解除権者(債権者)が被った損害の賠. 産の立ち退き及び引渡しを求めて訴えを提起し. 償である.この他,不法行為による損害賠償の. た.第一審,第二審ともXのYに対する損害賠. 24). 請求も認められるとする .. 償の請求が認められた.Y上告.. ヴォルフは,契約交渉の開始によって発生し. 【判旨】上告棄却.「売却されたYの不動産の立. た債務関係は,一部は破棄され,一部は存続す. ち退きと不動産の引渡しを求める権利は,不履. るというものではなく,全体として単一性を有. 行を理由とする損害賠償請求権に基づいてXに. 25). し ,解除権の行使によって,将来に向かって. 認められる,という原審の判断には法的に根拠. 内容が変更されるに過ぎないことになる26).そ. がない.」として,その理由を「義務違反のな. して,解除の効果は,BGB349 条による一方的. い当事者が旧債務法 326 条に基づき不履行によ. な受領を必要とする意思表示によって生じ,こ. る損害賠償を請求しても,契約は消滅せず,依. れによって生じた新たな権利関係は,法定の債. 然として存続するのである.ただし,両当事者.
(4) 58. (560). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). の本来の契約上の義務に代わって,賠償を請求. を拒絶して,損害賠償を請求することを留保す. する者の一方で純粋な金銭債権が生じるのであ. る旨の表現があった.原審では,この表現には. る.賠償される損害は,契約が履行されたなら. 誤解を与える拒絶の意思表示があると判示し. ば存在したであろう義務に違反していない当事. た.. 者の財産状態と,双方の不履行によって生じて. 【判旨】上告棄却.「拒絶の意思表示は,条文ど. いる財産状態の差額である. 」 「このような請求. おりの文言である必要はないが,表示者が,履. 権は,常に,金銭による賠償請求権なので,契. 行請求権を催告による猶予期間の経過後は主張. 約の解除に認められるような売買の目的物の返. しないということを明確に知らせなければなら. 還請求権というものを排除するのである. 」. ない.」と述べて,「本件のような留保付きでの. 31). ②ライヒ裁判所 1933 年 5 月 22 日判決. 受領拒絶の意思表示は,受領の拒絶に加えて,. 【事実】Xは,自己の所有する農場と機具・収. Yが損害賠償の主張をすることを含んでいる.. 穫物をYに 18500 マルクで売却した.土地であ. しかし,解除については留保していないので,. る農場はすぐに引き渡された.Yは,Ⅹに対し. 留保のないものとなっていないのである.た. て代金の一部(6000 マルク)を支払うとともに,. とえ上訴によって後で本件の拒絶の意思表示に. 1500 マルクの抵当権を譲渡した.Yが残りの. 解除か損害賠償かの選択権を行使する可能性が. 代金を支払わないため,Xは,旧債務法 326 条. あったということが明らかになったとしても,. に基づいて催告による猶予期間を設定した.そ. 留保付の意思表示がされたことを変えるもので. れでもYが代金を支払わないので,Xは,土地. はない.」. の所有権に基づいて土地の返還請求を求めて提. ④連邦通常裁判所 1979 年 1 月 17 日判決34). 訴した.. 【事実】Xは,自身が営んでいる乗馬小屋をY. 【判旨】破棄差戻し. 「旧債務法 326 条による催. に 80000 マ ル ク で 売却 し た.と こ ろ が,Y が. 告による猶予期間の設定によって生じた両当事. 46000 マルクしか支払わなかったので,Xは,. 者の履行請求権の消滅は,所有権の譲渡がいま. Yに,「残代金を遅くとも 1976 年 3 月 31 日ま. だ行われていない場合, 次のような結果となる.. でに支払って欲しい.そのときまでに履行がな. すなわち,この所有権の譲渡はどちらからも請. ければ,馬小屋の売買をYとしなかったことと. 求されず, その後は,買主の占有権原(BGB986. みなす.」という旨の内容の書面を通知した.. 32). 条 )も生じない. 」 「そのような場合,売主は,. それでもYが履行しないので,Xは,Yに対す. 旧債務法 326 条による不履行による損害賠償の. る残代金 34000 マルクの支払いを求めて裁判所. 一部として土地の返還請求をすることができな. に提訴した.これに対して,Yは,契約は解除. いのである.しかし,売主は,所有権の訴えの. されているはずと抗弁した.その理由として,. という方法によって,この返還を請求する権利. Xの通知は,解除の通知であると見て取れるか. がある.そして,その権利の行使は,BGB986. らであるとする.. 条の買主の抗弁により妨げられることはないの. 第一審は,以下の理由によりXの訴えを退け. である. 」. た.すなわち,Xは契約の履行を請求したが,. ③連邦通常裁判所 1969 年 4 月 2 日判決33). Xには履行を請求する資格がないのである.な. 【事実】Ⅹは,YからⅩの供給契約上の残債務. ぜなら,Xの通知は,支払い期間の経過によっ. の 履行 を 書面(1963 年 11 月 28 日付)で 求 め. て履行としての支払いの受領を拒絶するという. られた.その際の書面において,Yは,同年. 明確な意思表示を含んでいるからである.. 12 月 2 日までの催告による猶予期間を設定し. これに対して,第二審は,Xの請求を認容し. て,また,債務者Ⅹの遅滞を理由として,履行. た.Y上告..
(5) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). 【判旨】上告棄却. 「債権者が一般に解除を有効. (561). 59. (BGB985 条36))に よ る 物上請求権 を 根拠 に し. に意思表示したならば,彼はもはや損害賠償を. て返還請求ができるとされた37).そうすると,. 要求することができない. なぜなら, 解除によっ. 結論としては,債権者の損害賠償とともに,解. て債務関係が解消されたからである35). 」とい. 除が認められたのと同様のものとなる.. う解除と損害賠償の関係について一般論を述べ. ③の事案は,債権者が債務者に対して通知し. た後で, 「既に解除の意思表示としてみなす必. た書面における文言が拒絶の意思表示として明. 要 の な い 解除 の 告知(Androhung)は,債権. 確であるか否かが問題となった.この場合,「損. 者に旧債務法 326 条による不履行による損害賠. 害賠償を留保する」という文言があっても旧債. 償を請求できることを妨げない. 」として,そ. 務法 326 条の拒絶の意思表示としては不十分で. の理由を次のように述べる.不履行による損害. あるとした.つまり,「解除権を留保する」と. 賠償,あるいは,契約を解除する権利は,債権. いう文言であっても拒絶の意思表示の効果は生. 者が選択して義務づけられる給付を債務関係に. じないとしたのである.. よって直接に生じさせるものではない.選択し. これに対して,④では,債権者が債務者に対. て義務づけられる給付を選択した者は,意思表. して通知した書面における文言が拒絶の意思表. 示とともに,その給付を望み,かつ,その他を. 示としての明確性が問題となったことは③と同. 望まないのである.これに対して,遅滞のない. じであるが,催告による猶予期間の経過後の債. 契約の相手方が不履行による損害賠償を望むな. 権者の損害賠償の請求を認めた点が異なる.す. らば,彼が契約を解除する権利を放棄するつも. なわち,前者は,「馬小屋の売買をYとしなかっ. りであることを示さないのである. 当裁判所は,. たこととみなす.」という文言が問題となり,. この見解を分けて結論を出す.すなわち,解除. 後者は文言にかかわらず損害賠償の請求が認め. が告知されただけで, その意思表示がない場合,. られるかが問題となったのである.判旨では,. 債権者は,その意思表示に拘束されず,また,. まず,債権者が解除を有効に意思表示したなら. その後の損害賠償の請求が放棄されることはな. ば,彼はもはや損害賠償を要求することができ. いのである.債権者がまだ解除の意思表示をし. ないとする一般論を展開した後,解除の意思表. なかった場合,債権者は,むしろ損害賠償に変. 示としてみなす必要のない解除の告知は,債権. 更することができるのである.. 者に旧債務法 326 条による不履行による損害賠 償を請求できることを妨げないとしている.そ. ①では,売主が目的物を既に買主に引き渡し. して,その理由として,解除が告知されただけ. ている事案である.この事案では,目的物を損. でその具体的な意思表示がない場合,債権者は,. 害賠償によって返還請求することを否定してい. その意思表示に拘束されず,損害賠償を請求す. る.この場合は,金銭による損害賠償請求権の. ることが放棄されることはないとする.さらに,. 行使で十分であると考えられるからである.し. 債権者は,損害賠償の請求に変更することがで. たがって,①のような場合,解除と損害賠償の. きるとしている.つまり,④の事案においては,. 両立は認めらなかったのである.. 債権者が債務者の目的物の給付のために定めた. ②は,売主が目的物(土地)を既に買主に引. 猶予期間の経過後,目的物の受領を拒絶すると. き渡している点で①と同様の事案であるが,所. いう意思表示とともに契約を解除すると催告し. 有権がまだ買主に移転していない点で異なる.. ても,解除権を具体的に行使しない限り,損害. こ の 場合,債権者 は,不履行 に よ る 損害賠償. 賠償に変更してその請求をすることができると. を請求 す る 一方 で,所有権に基づいて,所有. したのである.. 者の占有者に対する返還請求権についての規定. 以上のように判例は,①と②では,目的物の.
(6) 60. (562). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 性質(動産・不動産)によって,その目的物の. 給付請求権が消滅する.また,その反対給付請. 返還が認められるかという問題で,不動産の場. 求権も原則として消滅する,②履行に代わる損. 合は,物上請求権の行使によって解除と損害賠. 害賠償請求,③解除権の行使,を行うがことで. 償の両方を行使したのと同様な効果を得られる. きる.そして,④解除と損害賠償は両立しない.. ことになる.③と④は,債権者が債務者に対し. このような旧債務法における解除制度におい. て通知した書面における文言が,拒絶の意思表. て,学説・判例では,解除権者が解除権を行使. 示として明確かが問題となった.③は明確性を. した場合であっても,損害賠償(信頼利益の賠. 重視したのに対して,④は,目的物の受領を拒. 償)は認められるべきではないかという議論が. 絶するという意思表示とともに契約を解除する. 生じた.本稿の主題である催告の問題と関連さ. と催告しても,解除権を具体的に行使しない限. せていうと,この問題は,催告の際に,猶予期. り,損害賠償に変更してその請求ができるとし. 間の経過後は給付の受領を拒絶する旨の意思表. た.このようにドイツの判例は,旧債務法 326. 示がなされたとしても,なお損害賠償を請求す. 条の文言にかかわらず,事案によって解除と損. ることが可能かという問題であることは前述し. 害賠償の両立を認めていたといえる.. た.学説では,シュトルとヴォルフの解除の効. ⑷ 小 括. 果に関する学説によって,解除と損害賠償(信. 旧債務法 は,不能と遅滞による解除をそれ. 頼利益に限る)の両立が認められてきた.判例. ぞれ 325 条,326 条に規定していた.旧債務法. においても,事案によって解除と損害賠償(信. 325 条は,要件として,ア双務契約における不. 頼利益に限る)の両立が認められてきたのであ. 能であること,イ不能について債務者に責めに. る.. 帰すべき事由があること,を必要とした.効果 として,①履行に代わる損害賠償,②解除権の. 2 改正の経緯と議論. 行使,③債権者は,債務者の給付義務の消滅と. 旧債務法における解除制度と学説・判例は 1. ともに自己の反対給付義務の消滅を主張(旧債. の通りであった.しかし,2002 年の債務法改. 務法 323 条 1 項 1 文)と,不能となった給付に. 正の議論の中で,解除制度も旧債務法のそれと. 代わって債務者の取得した代償, 代償請求権 (保. は異なる制度へと変遷していくことになる.改. 険金,保険金請求権)の移転を求めること(旧. 正の経緯38)を述べた後,解除制度がどのよう. 債務法 323 条 2 項,281 条) ,な ど と し た.次. な議論を経て現在の解除制度になってきたかを. に,旧債務法 326 条は,まず,双務契約より生. 述べることにする39).. じた債務の遅滞の場合,債権者は,第一次的に. ⑴ 改正の経緯. 旧債務法 286 条によって遅延した損害の賠償を. ドイツは,20 世紀において政治的・社会的. 請求するにとどまる.この遅延損害賠償請求権. 及 び 経済的 に,大 き な 変革 を 遂 げ て き た が,. と本来の給付を請求する権利は両立する.そし. ドイツ民法典の構造自体はそのままであった.. て,要件として,ア双務契約における主要な義. そのため,ドイツ民法典は時代の要請に合致. 務(Hauptpflicht)についての履行遅滞である. していかなくなった40).その欠陥を特別法と. こと,イ遅延した履行を追完のための相当な期. 判例によって補ってきたが限界を生じた41),42).. 間を設定して(催告)その後は履行を拒絶する. 判例による法創造について,ドイツ民法典の規. こと,ウ設定された期間内に債務者が給付を行. 律と現行法の規律との間の隔たりが大きくなっ. わないこと,が必要である.効果として,①債. たという結果を招いたとの指摘があった43).特. 権者が設定した遅延した履行を追完するための. に旧債務法の分野においては抜本的な改正が意. 相当な期間が経過した場合,この時点で本来の. 識されるようになった..
(7) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (563). 61. そして, 「債務法の総論と各論の包括的再検. イツも批准している 1980 年にウィーンで採択. 討が行われるべきではないのか,とくに,実際. さ れ,1988 年 1 月 1 日 に 発効 し た「国際物品. に普及している契約類型を法律上規律し,判例. 売買条約 に 関 す る 国際連合条約」 (UNITED. 法上の規範を法律の形式にし,時代遅れの民法. NATIONS CONVENTION ON CONTRACTS. 典の規定を現行の国際条約に適合させるべき. FOR THE INTERNATIONAL SALE OF. か, ということ」が検討されなければならない,. GOODS.以下「CISG」とする)の影響が多く. という問題が提起された44).当時のドイツ連邦. 見られる( (2)で後述) .公表後,ミュンスター. 司法大臣は,1978 年のドイツ連邦議会と第 52. の第 60 回ドイツ法曹大会では,幅広い支持を. 回ドイツ法曹大会(ヴィースバーデン)で,司. 得た 50).しかし,その後は立法を真剣に望んで. 法省内で債務法の改正を考慮すると述べた.そ. いなかったのか,立法化はなされなかった51).. の中で関心事になったのは,①ドイツ民法典に. しかし,1999 年に,EU 指令によって,指令を. おける債務法の規定への返還(普通取引約款規. 国内法に転換しなければならない必要性が生じ. 制法,割賦売買法 や 危険責任 の 構成要件 の 民. たため,債務法の改正の動きが再び活発化する. 法典への組み込み) ,②新たな債務関係への順. ようになった52).その後,ドイツ連邦司法省は,. 応(医療契約,養老契約や保護契約などの,給. 2000 年 8 月 に,討議草案(Diskussionsentwurf). 付義務の実行力あるいは銀行の顧客関係上の契. を 公 表 し,2001 年 5 月 9 日 に,. 政府草案. 約) ,③ドイツ民法典における個々に秩序づけ. (Regierungsentwurfs)が 公表 さ れ た.そ し て,. られた債務関係の改正(売買,請負契約,不当. 2002 年 1 月 1 日に「債務法を現代化するための法. 利得,不法行為) ,④国際的分野における新た. 律」 (Gesetz zur Modernisierung des Schuldrechts). な発展である.特に,一般債務法の改正であっ. が施行されたのである.. た .. ⑵ 委員会草案から成立まで. ド イ ツ 連邦司法省 は,法学者,実務家 に 24. ここでは,委員会草案における解除制度のう. の 鑑定(Gutachten)を 依頼 し,予備調査 を. ち,本稿の主題である遅滞による解除権行使の. した.それらは, 「ドイツ債務法改正の鑑定意. 要件について,主に取り上げることにしたい.. 見 と 提 案」 ( Gutachten und vorschräge zur. というのは,委員会草案以降,若干の変更があっ. Überarbeitung des Schuldrechts) と し て,. ただけで,解除権行使の要件それ自体は基本的. 1981 年(第 1 巻,第 2 巻)と 1983 年(第 3 巻). に変更がないからである.. に公表された46).その後,1984 年にドイツ債務. 改正委員会は,解除権の行使について,次の. 法改正委員会(Schuldrechtsreformkommission). 問題点を指摘した.①旧債務法 325 条,326 条. 45). 47). (以下, 「改正委員会」と い う)を 設立 し た .. 以外にも売買(旧債務法 462 条53))や請負(旧. 改正委員会に委任された事項で特に重要なもの. 債務法 634 条54))等にも別個に解除が規定され. は,①一般給付障害法,②売買契約 お よ び 請. ており,その内容が異なっていることがある.. 負契約 に お け る 瑕疵担保法,③消滅時効法 で. これは,歴史的に形成されてきたものであり,. 48). ある .. 解除の規定が交錯してその限界が困難な状況と. 改 正 委 員 会 は,1992 年 に, 消 滅 時 効 法 お. なっている.そして,②履行遅滞について,債. よ び 給付障害法 に 関 す る 民法典規定 の 改正. 権者が債務者に対して猶予期間を設定する際. 案( Kommissonsentwurf ) (以 下, 「委 員 会 草. に,給付の受領を拒絶する旨の意思表示をしな. 案」と い う)を 公 表 し た( Abschlußbericht. ければならないとするのは現実的ではない55).. der Kommission zur Überarbeitung des. 改正委員会は,このような問題点を指摘して,. 49). Schuldrechts ) .給付障害法 に つ い て は,ド. 次のような委員会草案を設定した56)..
(8) 62. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). (564). ための相当の期間を定めることができる. 委員会草案 323 条【義務違反の場合の解除】. 債権者は,この期間内に解除権を行使しな. ⑴ 当事者の一方が双務契約に基づく義務に違. かったときは,自己の定めた相当の期間が. 反した場合,債権者のした期間の定めに基づい. 徒過した後に,または催告に効果がなかっ. て債務者が解除を予測すべきであったときは,. た後にはじめて契約を解除することができ. 相手方は,その定められた相当の期間が徒過し. る.. た後に契約を解除することができる.義務違反 の態様により期間を定めることが考慮されない. まず,規定の概略を述べた後,本稿の主題で. ときは,催告をもって期間の定めに代える.義. ある催告の問題に移ることにする.. 務違反が給付の一部に存する場合,債権者は,. 委員会草案 は,解除権 の 行使 を 双務契約 に. 一部の給付では利益がないときにのみ全部の契. 限定している.この点は,旧債務法と変更が. 約を解除することができる.. な く,特 に 問題 と な ら な かった よ う で あ る.. ⑵ 次の各号のいずれかに該当する場合は,期. し か し,双務契約 に 限定 し た も の の,義務違. 間の定めまたは催告を要しない. 1 期間の定めまたは催告に効果がないこと が明らかであるとき. 反自体が対価関係に立つ義務である必要はな いとしている59). この点に関連して,「双務契約に基づく義務. 2 義務違反が,契約において定めた期日又. に違反した場合」として,給付義務の不履行の. は期間内に給付がされないことにあり,. 場合に限定しない包括的な要件を設定した.こ. かつ,債権者がその契約において給付が. のような包括的な要件の設定によって,一切の. 適時にされなければ給付利益が存続しな. 債務不履行の類型をまとめる一方で,契約各論. いとしていたとき. における個々の解除規定も取り込んだ非常に広. 3 当事者双方の利益を衡量して特別な事情. 範囲で柔軟な概念が解除法の中心に置かれるこ. から即時の解除が正当とされるとき. とになった.これによって,解除法の整理・統. ⑶ 次の各号のいずれかに該当する場合は,解. 一が解決されるとしている60).しかし,「双務. 除をすることができない. 1 義務違反が軽微であるとき 2 委員会草案 241 条 2 項. 57). 契約に基づく義務に違反した場合」という要件 では包括的過ぎるので,次のような制限を加え. の義務の違反が. ている.まず,①義務違反が給付の一部に存す. あるが,その義務違反にかかわらず,債. る場合,債権者は,一部の給付では利益がない. 権者に契約の維持を期待することができ. ときにのみ全部の契約を解除することができる. るとき. (委員会草案 323 条 1 項 3 文).そして,②軽微. 3 義務違反について,債権者にのみまたは 主として債権者に責めがあるとき. な 義務違反(委員会草案 323 条 3 項 1 号),③ 付随義務ないし保護義務(委員会草案 241 条 2. 4 請求に対して,債務者が既に主張してい. 項)の 違反(委員会草案 323 条 3 項 2 号),④. る抗弁または解除の後遅滞なく主張する. 債権者または主として債権者に帰責事由がある. 抗弁があるとき; (この場合, )委員会草. 場合(委員会草案 323 条 3 項 3 号),⑤債務者. 58). 案 275 条. に基づく抗弁は考慮しない.. ⑷ 解除の要件を満たしていることが明らかな. に抗弁権がある場合(委員会草案 323 条 3 項 4 号),は原則として解除をすることができない. 場合は,債権者は,期日の到来前において. とした.. も契約を解除することができる.. また,委員会草案は,「双務契約に基づく義. ⑸ 債務者は,債権者に対して,解除権行使の. 務に違反した場合」に統一しているので,義務.
(9) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). 違反について,債務者に帰責事由があることを 61). (565). 63. この点,鑑定意見を執筆したフーバー68)は,. 特に要求していない .このことについて,改. 自身 の 鑑定意見 で の 提案(以下,「フーバー提. 正委員会は,義務違反を理由とする契約の解除. 案」という)において,まず,解除権の行使に. のためには,義務違反について債務者が責任を. は,猶予期間の設定による解除を提案した(フー. 負うか否かは重要でないとするが,それ以上の. バー提案 326 条 69)).そ し て,本質的契約侵害. 説明は特にしていない. 62). (wesentliche Vertragsverletzung)70)が あ れ ば. .. 債務者が義務違反により給付をしなかった場. 猶予期間を設定せずに直ちに解除権を行使でき. 合,債権者は,債務者に対して適切な猶予期間. るとした(フーバー提案 326a 条71)).本質的契. を設定して,その期間の経過後に解除権の行使. 約侵害とは,それによって債権者の契約を貫徹. を可能とする点は,旧債務法の規定と同じであ. するという利益が失われて,かつ,そのことを. る.しかし,委員会草案では,期間経過後は給. 債務者が契約締結時に知りまたは知りえたとき. 付の受領を拒絶するという意思表示は不要と. に,本質的契約侵害になるとしている(フーバー. なった.この要件は,一般人には周知されてい. 提案 326a 条 2 項).その他では,履行期前の即. 63). ないことをその理由としている .義務の性質. 時 解 除(フーバー提 案 326b 条),一 部 不 履 行. 上期間設定が問題とならないような場合は,催. 及び付随義務の不履行による解除(フーバー提. 告のみでよいとされているが(委員会草案 323. 案 326c 条),継続的契約関係における告知(フー. 条 1 項 2 文) ,これは不作為義務違反を想定し. バー提案 326d 条)を提案した.. 64). ている .また,以下の場合は期間の定めまた. 改正委員会は,催告による猶予期間の設定を. は催告は不要とされる.すなわち,①効果がな. 原則とすることについて,当初の契約の維持を. いことが明らかな場合(委員会草案 323 条 3 項. 強調して,義務に適合した行動をする機会を債. 1 号) ,② 普 通 定 期行為(委員会草案 323 条 3. 務者に与えて,契約または債務者の尊重を図ろ. 項 2 号) ,③当事者双方の利益を衡量して特別. うとしたと説明している72).委員会草案もフー. な事情から即時の解除が認められる場合,であ. バー提案も,催告による猶予期間の設定を原則. る.. とすることは同じである.ただ,条文の構成や. その他では,委員会草案 323 条 4 項で,履行. 明確さなどの技術的面に違いがある.また,両. 期前の解除65),5 項で解除権の消滅が規定され. 者とも CISG における解除の規定に影響を受け. ている.. ていたにもかかわらず,当初の契約の維持の観. ここで,本稿の主題である催告について述べ. 点から,催告による猶予期間の経過後の解除を. ると, 「双務契約に基づく義務に違反した場合」. 原則として,重大な義務違反による解除を例外. に統一して,債務者に帰責事由があることを特. としている点で共通している.. に要求していないが,猶予期間を設定して,そ. なお,解除と損害賠償の関係については,選. の経過後に解除権の行使を認めている(委員会. 択制を廃止して,並存制を採用した(委員会草. 草案 323 条 1 項 1 文) .つ ま り,催告 に よ る 猶. 案 327 条73).想定しているのは,反対給付も同. 予期間の設定を原則としているのである.しか. 時に未だ履行されていないとき,契約解除後の. し,改正委員会に影響を与えた CISG では,重. み損害賠償請求権が可能であるということで. 66). 大な契約違反. により解除権の行使の可否が問. (委員会草案 280 条 3 項74)),契約解除を伴わな. 題となり,それが疑わしい場合,猶予期間を必. い給付に代わる損害賠償(委員会草案 283条75)). 要としている67).ここでは,重大な契約違反に. ではないのである.そして,損害賠償の範囲は,. よる解除が原則であり,催告による猶予期間設. 従来の学説・判例と同様に信頼利益に限られる. 定後の解除が例外的な位置づけとなっている.. とした76)..
(10) 64. (566). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 委員会草案 の 後,討議草案,政府草案 で の. こと,イ遅延した履行を追完するための相当な. 議論を経て,現行のドイツ民法典の条文となっ. 期間を設定して(催告)その後は履行を拒絶す. 77). た .. ること,ウ設定された期間内に債務者が給付を. ⑶ 小 括. 行わないこと,が必要である.効果として,①. 旧債務法が改正される契機となったのは,ド. 債権者が設定した遅延した履行を追完するため. イツ民法典が時代の要請に合致していかなくな. の相当な期間が経過した場合,この時点で本来. り,その欠陥を特別法と判例によって補ってき. の給付請求権が消滅する.また,その反対給付. たが限界を生じたことによる.また,判例によ. 請求権も原則として消滅する,②履行に代わる. る法創造について,ドイツ民法典の規律と現行. 損害賠償請求,③解除権の行使,を行うことで. 法の規律との間の隔たりが大きくなったという. き る.そ し て,④解除 と 損害賠償 は 両立 し な. 結果を招いたことも改正の契機といえる.そし. い.このような旧債務法における解除制度にお. て,専門家による鑑定意見や改正委員会による. いて,学説・判例では,解除権者が解除権を行. 委員会草案が公表された. 委員会草案の公表後,. 使した場合であっても,損害賠償(信頼利益の. 一時改正の動きは停滞したが,EU 指令によっ. 賠償)は認められるべきではないかという議論. て債務法の改正の動きが再び活発化するように. が生じた.本稿の主題である催告の問題と関連. なった.そ の 後,討議草案,政府草案を経て,. させていうと,この問題は,催告の際に,猶予. 債務法が改正された.. 期間の経過後は給付の受領を拒絶する旨の意思. 委員会草案では, 「双務契約に基づく義務に. 表示がなされたとしても,なお損害賠償を請求. 違反した場合」に解除権を行使できるという包. することが可能かという問題なのである.学説. 括的な要件を置いた(委員会草案 323 条 1 項) .. では,シュトルとヴォルフの解除の効果の関す. しかし,それでは,あまりに包括的であるので,. る学説によって,解除と損害賠償(信頼利益に. 一定の制限を設けた(委員会草案 323 条 1 項 3. 限る)の両立が認められてきた.判例において. 文,3 項各号) .そ し て,こ の 場合,債務者 に. も,事案によって解除と損害賠償(信頼利益に. 帰責事由は必要ないとしている.しかし,猶予. 限る)の両立が認められてきた.. 期間を設定して,その経過後に解除権の行使を. これに対して,委員会草案 323 条では,「双. 認 め て い る(委員会草案 323 条 1 項 1 文) .つ. 務契約に基づく義務に違反した場合」に解除権. まり,催告による猶予期間の設定を原則として. を行使できるという包括的な要件を置いて,債. いるのである.この点において,影響を受けた. 務者の帰責事由も不要とした.そして,猶予期. CISG の重大な契約違反による解除とは異なる. 間を設定して,その期間の経過後は給付の受領. のである.また,委員会草案では,期間経過後. を拒絶するという意思表示は不要となった.し. は給付の受領を拒絶するという意思表示は不要. かし,猶予期間を設定して,その経過後に解除. となった.なお,解除と損害賠償は並存するこ. 権の行使を認めている,つまり,催告による猶. とになった(委員会草案 327 条) .. 予期間の設定を原則としているのである.この 点において,改正委員会とフーバーが影響を受. 3 総 括. けた CISG の重大な契約違反による解除とは異. 旧債務法から債務法改正までの解除制度に関. なるのである.委員会草案もフーバー提案も,. して次のようにまとめることができる.. 催告による猶予期間の設定を原則とすることは. 旧債務法の解除制度のうち,旧債務法 326 条. 同じであるが,条文の構成や明確さなどの技術. は,要件として,ア双務契約における主要な義. 的面に違いがある.改正委員会は,催告による. 務(Hauptpflicht)についての履行遅滞である. 猶予期間の設定を原則とすることについて,当.
(11) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (567). 65. 初の契約の維持を強調して,義務に適合した行. 段であること,②遅滞の場合に追完を為すため. 動をする機会を債務者に与えて,契約または債. に相応しい期間を通知すること,③解除は訴権. 務者の尊重を図ろうとしたと説明している.. 的性質から当事者の手に委ねられることになっ. 本稿の主題である催告を見てみると,旧債務. たこと,など従来の解除の性質を変えていった.. 法から債務法の改正までに解除権行使の方法が. 催告についていえば,ADHGB の第一草案で通. 大きく様変わりしたのにもかかわらず,契約維. 知という要件が解除を求める者に課されること. 持の観点から,債務者に最後通告として債務の. となった.この通知を要件とすることによって,. 履行の機会を与える猶予期間を設定して,両当. 解除は訴権的性格から乖離した.それ故,通知. 事者の利害の調整を図るという催告の役割自体. が従来の解除の訴権的性格を排除して,解除権. は変化していないといえる.. 者が自らの判断で解除を行う手段として登場し. Ⅵ まとめと課題. たといえる. ドイツ民法典の起草作業の過程において,解. 以上で,本稿における検討対象の範囲の考察. 除権 の 行使 は,給付 の 無利益性 を 根拠 と す る. を終えた.以下では,考察の結果をまとめて,. ものから,債務者の遅滞を根拠として猶与期. 今後の課題について述べることにしたい.. 間の経過後に行使できるものとなった.つま り,解除権 の 行使 は,例外的 な も の か ら,簡. 1 まとめ. 易・迅速な原則的なものとなった.そして,原. 本稿は,遅滞解除の要件としての催告の意味. 則的なものになったということは,解除が損害. づけを,わが国とドイツにおける解除制度の発. 賠償に付随するものから,損害賠償と二者択一. 展経緯から比較検討するという問題意識から出. の手段(損害賠償と並ぶ別の手段)への変遷を. 発した.. 意味した.実際,解除と損害賠償は二者択一の. まず,わが国の学説・判例は,催告の意味を. ものとなった.催告による解除権の行使は,ド. 両当事者の利害を調整するものと考えてきた.. イツ帝国司法庁準備委員会の修正案で初めて現. その一方で,近年は,催告を重大な契約違反と. れることになった.その修正案が出されたの. いう統一的要件の一要素とする見解や,催告に. は,ADHGB354~356 条の規定に倣ったもので. 裁判規範として独自の意味を見出そうとする見. あ る.こ の よ う な ADHGB の 簡易・迅速 な 解. 解が出されているのが現状である.. 除権の行使を倣うことになったのは,私法の特. ド イ ツ 民法典成立以前の立法と学説におい. 別法である商法の分野のみならず,私法の一般. て,プロイセン一般ラント法(ALR)は,限. 法である民法においても必要性があったからと. 定的ではあるが解除を請求できる場合があっ. いえる.また,第二委員会の議論において,解. た.また,普通法時代の学説は,原則として解. 除権行使の方法について,過責(Vershalden). 除を認めないローマ法の影響から,モムゼンや. を前提とした遅滞の必要性と債権者・債務者い. ヴォルフが損害賠償を通じて解除と同様の効果. ずれがイニシアティブを取るかが問題となっ. が得られるとして,解除は認められないとする. た.最終的には,両当事者の公平の観点から,. 説が一般的であった.例外的に,クニープが,. 債権者のみならず,債務者にもイニシアティブ. より一般的な法生活上の利益から「催告」によ. (解除権の消滅)を取らせることにした.これ. る解除を根拠づけたのみである.. らは,いずれも原則として催告による猶与期間. これに対して,一般ドイツ商法典(ADHGB). を設定して,その期間の経過後に解除か損害賠. の解除は,商取引の迅速化の要請から,その成. 償を認めるのである.催告による猶与期間によ. 立過程において,①解除は損害賠償と異なる手. り,両当事者の利害の調整を図ったものといえ.
(12) 66. (568). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). る.. 倣って遅滞の場合に催告による解除を認めた. 旧債務法 326 条は,要件として,ア双務契約. が,その一方で,第二委員会の議論において,. における主要な義務(Hauptpflicht)について. 解除権行使の方法について,過責を前提とした. の履行遅滞であること,イ遅延した履行を追完. 遅滞の必要性と債権者・債務者いずれがイニシ. するための相当な期間を設定して(催告)その. アティブを取るかが問題となり両当事者の公平. 後は履行を拒絶すること,ウ設定された期間内. の観点から,債権者のみならず,債務者にもイ. に債務者が給付を行わないこと, が必要である.. ニシアティブ(解除権の消滅)を取らせること. 効果として,①債権者が設定した遅延した履行. になった.このような催告の役割は旧債務法か. を追完するための相当な期間が経過した場合,. ら債務法改正まで変わっていないのである.つ. この時点で本来の給付請求権が消滅する. また,. まり,ドイツにおける催告の役割というのは,. その反対給付請求権も原則として消滅する,②. 単に解除権者の簡易・迅速な解除権の行使の方. 履行に代わる損害賠償請求,③解除権の行使,. 法ではなく,債務者にも一定のイニシアティブ. を行うことができる.そして,④解除と損害賠. (解除権の消滅)を取らせた,解除権者と債務. 償は両立しない.このような旧債務法における. 者の両者の利害の調整を図るものといえよう.. 解除制度において,学説・判例では,解除権者. これが本稿における遅滞による解除行使の要件. が解除権を行使した場合であっても,損害賠償. である催告の意味づけである.. (信頼利益の賠償)は認められるべきではない かという議論が生じ,学説・判例ともに損害賠. 2 課 題. 償を認めたのである.. このように催告を意味づけたとしても,19. 債務法改正の経緯において, 「双務契約に基. 世紀中期から債務法改正までのドイツの発展に. づく義務に違反した場合」に解除権を行使でき. 基づいたものに過ぎず,わが国の催告の意味づ. るという包括的な要件を置いて,債務者の帰責. けとはたして同質のものであるかについてなお. 事由も不要とした.そして,猶予期間を設定し. 検討を要するのである78).また,本稿は遅滞解. て,その期間の経過後は給付の受領を拒絶する. 除の要件である催告という,解除の問題の一部. という意思表示は不要となった.しかし,猶予. 分を取り扱ったのに過ぎないのである.. 期間を設定して,その経過後に解除権の行使を. 最後に,本稿の今後の検討課題を述べると,. 認めている.この点について,改正委員会は,. 解除と損害賠償の関係について,催告に関連し. 催告による猶予期間の設定を原則とすることに. て旧債務法の箇所で間接的な検討をしたにとど. ついて,当初の契約の維持を強調して,義務に. まった.わが国では,解除と損害賠償は両立す. 適合した行動をする機会を債務者に与えて,契. るが具体的な損害賠償を算定するには困難な問. 約または債務者の尊重を図ろうとしたと説明し. 題があるといえるので,ドイツ民法典における. ている.. 発展を検討することは,わが国に有益な示唆を. ドイツにおける解除制度をまとめると,19. 与えることができるのではないかと思われる79).. 世紀中期 は,解除 は 無利益性 を 根拠 と し て,. そして,本稿では,紹介するにとどめたが,. (裁判で)例外的に認められるに過ぎなかった.. 解除の要件として債務者の帰責性を要求せず,. ADHGB によって遅滞による解除の要件として. 損害賠償の発生要件である不履行から切り離し. 通知(催告に相当)が出現することになる.そ. て,重大な契約違反という統一的な要件の枠組. のときの通知の役割は,解除権者を簡易・迅速. みについての検討が迫られているといえよう.. に契約関係から離脱させることである. しかし, ドイツ民法典の起草過程において,ADHGB に.
(13) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). 注 1)旧債務法 の 和訳 と 解除制度 の 概略 に つ い て, 主に椿寿夫・右近健男〔編〕 『ドイツ債権法総論』 (日本評論社,1988 年)を参考にした. 2)次のような規定である. 旧債務法 325 条【債務者の責めに帰すべき後発 的不能】 ⑴ 双務契約により当事者の一方が負担する給付 がその責めに帰すべき事由によって不能となる とき,相手方は,不履行による損害賠償を請求, または,契約を解除することができる.一部不 能の場合,契約の一部の履行が相手方の利益と ならないとき,相手方は,280 条 2 項により, 債務の全部について不履行による損害賠償を請 求,または,契約の全部を解除する権利がある. 相手方は,損害賠償請求権及び解除権に代えて, 323 条に規定されている権利を行使することが できる. ⑵ 給付が期間を経過するまで行われず,また, 一部を行わなかったときも,283 条の場合と同 様である. 旧債務法 326 条【遅滞;拒絶予告期間の指定】 ⑴ 双務契約において,当事者の一方が自己の負 担する給付につき遅滞にあるとき,相手方は, 給付の履行のために相当の期間を設定して,そ の期間の経過後は,給付の受領を拒絶する旨の 意思表示をすることができる.給付を適時に行 わないときは,期間経過後において,相手方は, 不履行に基づく損害賠償を請求し,又は契約を 解除する権利を有する;この場合においては, 履行を請求することができない.期間を経過す るまでに給付の一部を行わないときは,325 条 1 項 2 文の規定を準用する. ⑵ 遅滞のために契約の履行が相手方の利益にな らないときは,期間を定めることを要せずに, 相手方は,1 項に定める権利を有する. 旧債務法 327 条【法定解除権の行使・効果等】 325 条及 び 326 条 に 定 め る 解除権 に つ い て は,約定解除権に関する 346 条から 356 条まで の規定を準用する.相手方の責めに帰すべから ざる事由により解除を行うとき,相手方は,不 当利得の返還に関する規定によってのみ責任を 負う. 3)ドイツ民法典における不能(及び遅滞)につ い て は,磯村哲「 Impositiven nulla obligation 原則の形成とその批判理論」『私法學の諸問題 ㈠石田文次郎先生還暦記念』397 頁,林良平「ド イ ツ 民法第 280 条 の 履行不能概念」(法学論叢 61 巻 5 号,1 頁),森田修「ド イ ツ 民法典 に お け る 不能・遅滞二分法成立史 の 再検討」(法学 協会雑誌 103 巻 12 号,131 頁)などがある.. (569). 67. 4)次のような規定である. 旧債務法 283 条【敗訴判決後の期間の指定】 ⑴ 債務者敗訴の判決が確定したとき, 債権者は, 債務者に対して給付の実現のために相当の期間 を指定して,その期間の経過後は給付の受領を 拒絶する旨の意思表示をすることができる.給 付を適時に行わない限り,債権者は,その期間 経過後において不履行による損害賠償を請求す ることができる.この場合において履行を請求 することはできない.給付が債務者の責めに帰 すべからざる事由によって不能となるとき,損 害賠償義務は生じない. ⑵ 期間経過までに給付を一部のみしか行わな かったときは,債権者に 280 条 2 項に規定され ている権利が生じる. 5)解除と損害賠償は両立しないので,債権者は いずれかを選択しなければならない.ただし, 債権者が損害賠償を選択した場合であっても, 事実審の口頭弁論終結時までは,あらためて解 除の意思表示を行うことができる.このことに ついては⑵,⑶で後述する. 6)次のような規定である. 旧債務法 323 条【責めに帰すべからざる後発的 不能】 ⑴ 双務契約の当事者の一方は,自己の負担する 給付が当事者のいずれの責めに帰すべからざる 事由によって不能となるとき,その反対給付請 求権は消滅する.部分的不能の場合,472 条及 び 473 条により反対給付が減少する. ⑵ 相手方が 281 条により債務の目的に代わる代 償の引渡し,または,代償請求権の譲渡を請求 するとき,相手方の反対給付義務は存続する. ただし,反対給付は,代償,または,代償請求 権の価額が債務の目的である給付の価額に満た ない限度で,472 条及び 473 条により反対給付 が減少する. ⑶ 前 2 項の規定により債務の目的とならない反 対給付を行ったときは,給付した物を不当利得 返還に関する規定によって返還請求することが できる. 7)次のような規定である. 旧債務法 281 条【不能における代償の引渡し】 ⑴ 債務者が給付を不能にした事由により債務の 目的について代償,または,代償請求権を取得 したとき,債権者は,代償として受領したもの の引渡し,または,代償請求権の譲渡を請求す ることができる. ⑵ 債権者が不履行に基づく損害賠償請求権を有 する場合に 1 項に規定されている権利を行使す るとき,債権者が給付すべき賠償額は,取得し た代償, または,代償請求権の価額だけ減少する. 8)債権者にとって何らの利益を有さないとは, 給付可能な部分の給付と減額された反対給付を.
(14) 68. (570). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 4 ・ 5 号(2008年 1 月). 交換することが,給付の目的を考慮すると債権 者に何らの利益をもたらさないことを意味す る. 9)次のような規定である. 旧債務法 280 条【責めに帰すべき不能による責 任】 ⑴ 債務者は,給付が債務者の責めに帰すべき事 由により不能となる限り,債権者に対して不履 行により生じた損害を賠償しなければならな い. ⑵ 一部不能の場合に一部の履行が債権者の利益 とならないとき,債権者は,可能な部分の給付 を拒絶して義務の全部の不履行に基づく損害賠 償を請求することができる.約定解除に関する 346 条から 356 条の規定は,この場合に準用す る. 10)次のような規定である. 旧債務法 286 条【遅滞による損害賠償】 ⑴ 債務者は,債権者に対して遅滞により生じた 損害を賠償しなければならない. ⑵ 遅滞により給付が債権者に何らの利益を有さ ないとき,債権者は,給付を拒絶して不履行に よる損害賠償を請求することができる.約定解 除権に関する 346 条から 356 条までの規定は, この場合に準用する. 11)この点については,後述の⑵,⑶で述べる. 12)債務者がさらなる交渉を既に表明した場合, 最終的な拒絶は存在しないということを理由と す る(RGZ 129, 149; BGHZ 2, 312, NJW 84, 48; 85, 2027). 13)解除と損害賠償は両立しないので,債権者は いずれかを選択しなければならない.このこと についても⑵,⑶で後述する. 14)法定解除の効果について,旧債務法 346 条か ら 356 条の概略を述べると,解除の方法(349 条,356 条),解除の可否(350 条から 355 条), 解除の効果(346 条から 348 条),となっていた. 15)解除権が形成権であり,その撤回が許されな いことは,部分草案の 22 号 4 条から内容が変 更されていないのは前述した通りである(拙稿 「ドイツにおける解除制度の発展に関する考察 ―催告を中心として―⑶」本誌 11 巻 2 号」を 参照されたい). BGB349 条は次のような規定である. BGB349 条【解除の意思表示】 解除は,相手方に対する意思表示により行う. 16)旧債務法 346 条は次のような規定である. 旧債務法 346 条【解除の効果】 契約において当事者の一方が解除権を留保し た場合に解除をするとき,各当事者は,受領し た給付を互いに返還する義務を負う.給付され た労務及び物の利用の供与については価額を返 還し,または,契約において反対給付を金銭で. 定めているときは,これを支払わなければなら ない. 17)ドイツにおける解除の効果に関する学説につ い て は,山中康雄「解除論(二) 」法学志林 48 巻 3 号 30 頁(1950 年) ,北村実「ド イ ツ に お ける契約解除効果論の展開」龍谷法学 9 巻 1 号 63 頁以下(1976 年)など参照されたい. 18)Müncher Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch (2001), vor § 326, Nr. 80. 19)Müncher Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch (2001), vor § 326, Nr. 127. 20)Heinrich Stoll, Rücktritt und Schadensersatz, AcP 131, 1929, S. 150 ff. 21)Ernst Wolf, Rücktritt, Vertretenmüssen und Verschulden, AcP 153, 1954, S. 97 ff. 22)シュトルとヴォルフの学説について詳しく は,松坂佐一「解除 と 損害賠償─ シ ト ル 及 び ヘルムホルツの所説について」(名古屋大学法 政論集 1 巻 3 号(1952 年),265 頁)(『債権者 取消権 の 研究』(有斐閣,1962 年)所収),北 村・前掲(脚注 17),鶴藤倫道「契約 の 解除 と 損害賠償(二・完)」(民商法雑誌 110 巻 4・ 5 号,269 頁以下)を参照されたい.また,ド イツにおける学説の発展については,Hans G. Leser, Das Rücktritt vom Vertrag, 1975, S. 163(Kapitel 4). を参照されたい. 23)Stoll, a. a. O., S. 170 ff. 24)Stoll, a. a. O., S. 180 ff. 25)Wolf, a. a. O., S. 113 f. 26)Wolf, a. a. O., S. 114. 27)Wolf, a. a. O., S. 105 f. 28)Müncher Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch (2001), vor §346, Esser/Scmidt, Sculdrecht BandⅠ, 6. Aufl. 1984, S. 428, Karl Larenz, Lehrbuch des Schuldrecht BandⅠ, 14. Aufl. (1987), S. 404, なお,この点について,レー ザーは,シュトルの説を発展させて, 「契約の 変更は,巻き戻しによる清算のために定められ た根拠に有益である.損害賠償と解除は,契約 だけではなく,清算における変更された契約で も同じ方法によることを根拠とするのである. これらは,その構造が共通して,その目的のみ が異なるのである.この見解はまた法を統一す る.すなわち,契約からの救済の効果も契約の 運命も明確に規定されるのである.契約におけ る解除の包含と同順位の損害賠償により,両者 は双務契約固有の救済として,解除のそもそも の発端が,更なる条件によって克服されたので ある.契約における両者の救済は,以下のよう に評することができる. 債務の遅滞における 「最 終的な給付の目的」としての損害賠償請求権と 同じように,解除もまた潜在的には巻き戻しに よる清算の請求権なのである. 」と述べている.
(15) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (Hans G. Leser, a. a. O., S. 163). 29)このようなドイツにおける解除と損害賠償の 関係の形成については,拙稿「ドイツにおける 解除制度の発展に関する考察―催告を中心とし て―⑴~⑶」本誌 10 巻 2 号,11 巻 2 号,12 巻 1 号を参照されたい. また,この関係について,レーザーは次のよ うに述べる.解除は,未履行の給付義務の消滅 と既履行の給付の返還という 2 つの機能から 構成される解除権者(債権者)の救済手段とし て考えることができる.そして,解除が目的と する方向は,積極的利益を求める損害賠償と方 向が逆となる一方で,解除は,既に提供された 給付の交換という狭い枠の中で行われるのであ る.したがって,解除は,積極的利益にも消極 的利益にも向けられておらず,その中間の制限 的な救済手段といえる.そして,解除権者(債 権者)は,解除によって積極的利益と消極的利 益を放棄して,明確な清算と速やかな清算が保 障されることになる.これに対して,不履行に よる損害賠償においては,性質上包括的な救済 手段といえる.したがって,解除は,不履行に よる損害賠償に対して,清算的な救済手段とし て独立しているのである(Hans G. Leser, a. a. O., S. 145 ff). 30)JW. 1931, 1183 Nr. 4. 31)RGZ 141, 259. 32)次のような規定である.なお,条文の和訳に ついては,於保不二雄・高木多喜男『現代外国 法典叢書⑶独逸民法〔Ⅲ〕物権法』(有斐閣, 1955 年)を参考にした. BGB986 条【占有者の抗弁】 ⑴ 占有者または占有者が占有する権利を承継し た間接占有者が,所有者に対して占有する権利 を有するとき,占有者は,物の返還を拒むこと ができる.間接占有者が所有者に対して占有者 から占有の譲渡を権利づけられなかったとき, 所有者は,占有者に対して,間接占有者に物の 返還をすることを請求することができ,もし間 接占有者が占有を回収することができないとき または望まないとき,自己に対して返還すべき ことを請求することができる. ⑵ 物が 931 条に従った返還請求権の譲渡によっ て譲渡されたとき,その物の占有者は,譲渡さ れた請求権に対する抗弁をもって新たに所有者 になった者に対抗することができる. BGB931 条【返還請求権の譲渡】 占有物の第三者は,所有者が,取得者に物の 返還請求権を譲渡することで,引渡に代えるこ とができる. 33)MDR 1969, 655. 34)JZ 1979, 230, Nr. 7 35)判決文において,RGZ 66, 430, 432; 85, 280, 282;. (571). 69. 102, 262, 264, 265. を引用している. 36)次のような規定である. BGB985 条【返還請求権】 所有者は,占有者に物の返還を要求すること ができる. 37)この場合,債務者は,BGB986 条に基づく抗 弁を主張することができない.履行請求権が消 滅したことで,債務者の占有する権原が消滅す るからである(BGHZ 54, 214) . 38)わが国においても 2002 年の債務法改正に関 する文献は多数に及ぶ.本稿で引用・参照され ていないもので全体を概観した文献のみを挙 げ る と,半田吉信『ド イ ツ 債務法現代化法概 説』 (信山社,2003 年) ,小野秀誠『司法 の 現 代化と民法』 (信山社,2003 年) ,潮見佳男『契 約法理の現代化』 (有斐閣,2004 年)なお,討 議草案以降については,Clus-Wilhelm Canaris, Schuldrechtmodernisierung 2002 が詳しい. 39)2002 年の改正は,債務法の分野だけではな く,時効法も改正されている.記述の便宜上, 「旧債務法」と統一して用いることにする. 40)立法 の 分野 で は,家族法 が,1957 年 6 月 18 日の男女同権法などの根本的改正がなされた. しかし,債務法の分野においては,修正・補充 されたのは少ない.例えば,居住賃貸借法は, 第二次世界大戦後まず特別法で規定されたが, 60 年代 と 70 年代 の 賃貸借法 の 改正 に よって, その大部分が民法典に戻された際,居住賃借人 の保護が改善された.旅行契約法も民法典に組 み込まれた(651a 条から 651k 条まで.1979 年 7 月 4 日法参照) .しかし,その他の場合は,特 別法を制定することになった.すなわち,1976 年 12 月 9 日 の「普通取引約款 の 権利 の 規制 に 関する法律」 (約款規制法) ,さらには,1986 年 1 月 16 日 の「訪問販売 の 撤回 に 関 す る 法律」 , 1989 年 12 月 15 日 の「製造物責任法」 ,お よ び 1990 年 12 月 17 日の 「消費者信用法」である (ド イツ連邦共和国司法大臣編(岡孝・辻伸行(訳) ) 「ド イ ツ 債務法改正委員会 の 最終報告書・総論 (上) 」ジュリスト 996 号(1992 年)97 頁) . 41)判例が行ってきたことで重要なのは,ドイツ 民法典の文言の欠缺の補充である.すなわち, BGB242 条の一般条項の適用である.一般条項 の適用により,第一次世界大戦後の経済破壊, インフレ,通貨切上げによって,さらには第二 次世界大戦後の通貨切替によって生じた困難な 問題を解決したのである.ドイツ民法典はその 不備を,特別法の制定と裁判における信義則の 適用によって補ってきたのである. そして,判例と学説が発展させてきたものに は, 「行為基礎の欠落」 , 「第三者のための保護 効力を伴う契約」がある.また,判例は, 「契 約締結上の過失」と「積極的債権侵害」に基づ.
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