ドイツにおける解除制度の発展に関する考察 : 催告を中心として(2)
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(2) (282). 90. 第11巻第2号(2006年8月). 横浜国際社会科学研究. プロイセン草案の解除規定は, ①商行為であ る双務契約に適用される, ②不履行の形態が包. の解除制度を全面的に採用したわけではなかっ た.フランス民法典の解除制度の特徴である恩. 括的であること,. 恵期間を採用しなかった.また,商取引の迅速. ③不履行を被った当事者に履. 行及び不履行による損害賠償か契約破棄の選択. 化の要請に応えるならば,フランス民法典の解. 権を与えたこと,. 除制度の特徴である裁判による解除は迅速を損. ④破棄を求める場合は裁判を. 経なければならないこと,. ⑤被棄と共に損害賠. ない,迅速化の要請に応えることができないは. ⑥契約破棄後の. ずであるが,プロイセン草案はこれを採用して. 償を求めることができること,. 関係をあたかも解除条件が契約に付されている. いる.前者の恩恵期間を採用しなかった理由に. かにように取り扱うこと,が特徴である.. ついて理由書は,裁判官が恩恵期間を与えるの は商事事件では通常は用いられないと述べてい. このうち③の特徴は,前述した一般プロイ センラント法(Allgemeines preuL5ischen. Staaten.以下,. Landrecht. ftir die. 「ALR」とする.. ). のように原則としては不履行による解除を認め ず,裁判を経て例外的に解除が認められるもの. る8).後者の裁判による解除の採用について理 由書は, 「契約当事者が契約の被棄及びその効 果に閲しで同意するならば,それで解決する. それに対して当事者が争うのであれば,当該. や,給付が無益となった場合に例外的に解除が 認められる普通法時代の学説など,履行を求め. 当事者は自らの権利の主張を,これに関連する. るのが原則としていたものとは異なる5).その 「契約 理由として,履行請求の原則に対して,. 訴える者は,同時に,この解消を確定させる.」. 内容に厳密に従って取引がなされるであろうと. 性質を有しても,訴訟による当事者の権利保護. いう前提でのみ法律関係に入った誠実な契約当 事者に対する不公平ないし不正を含んでいる.. の観点からいえば,解除が損害賠償と結び付け. 遅れたあるいは不適切な履行の際に契約の目的 全体が無に帰すこと,そして,後から強制され. いうことを意味する.つまり,解除は,損害賠 償に付属しているものとして構成されるのであ. た履行は権利者にとってしばしば価値のないも. る.. の,それどころか不利益なものとなるのはよく. 契約の解消の申立てと結び付ける.損害賠償を と述べている9).このことは,解除が訴権的な. られ,かつ,主張・確定されても問題はないと. 以上のような理由を挙げて,理由書は,解除. の訴えは不完全な填補手段を提供するものであ. の訴権的性質について, ①法律関係の煩雑さの 回避, ②債務者による遅滞の迫完や裁判官の裁. る.このようなことは,とりわけ,商行為であ. 量の調和, ④両極端となるのではなく,経験に. る契約のときに言える.商取引は極めて動的な. より得られた中道をいくのが得策である,とい. 性質を有しており,商的関係は変化しやすいも. う利点を挙げている10).. あることであるが,それに対しては,損害賠償. のだからである.」と理由書は批判する6).そ. プロイセン草案では,訴権的性格が維持され. して,フランス法的な解除制度が望ましいとす. たが,商取引の迅速化の要請からフランス民法. る.. 典の解除制度を参考にしたものの,. ALRや普通法時代の学説が,履行を求め. ALRや普. ることが原則であるが,取引の迅速が要請され. 通法時代の学説とも一定の整合性を保とうとす. る商取引では,当事者に履行あるいは解除と共. る点で,両者の間を取った解除制度を採用した. に損害賠償かの選択権を認めた方が,その要請. ものといえる.. に沿うものといえる.そこで,商取引ではフラ. (ii)第一草案. ンス民法典の解除制度の採用が望まれたのであ る7).. しかし,プロイセン草案が,フランス民法典. 1857年3月14日から始まる第一草案の解除 についての審議では,解除制度を規定した第五 節を削除することが提案された11).解除制度自.
(3) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (283). 91. 体十分に論じられたものではなく,一般的抽象. の離脱及び損害賠償を請求するかの選択権を有. 的な判断を与えることは不可能である,という. する.. 理由からである.. (5)売主あるいは買主が契約から離脱しよう. この提案に対しては,普通法では履行及び遅. とするとき,可能な限り即座にそのことを相手. 延した履行により生じた損害賠償の訴えを認め. 方に通知しなければならず,そうでない場合は,. るのみであるが,この原則を変更する必要性は, 商法学説において以前からいわれている.商人. 通知しなかったことによって生じた損害を賠償 しなければならない.. はある特定の時期を考慮して取引をするのが普 通で,時期が過ぎた場合でも給付の受領を期待. d提案(3)項では,買主が売買代金を遅滞し. しているとすべきでなく,目的どおりの給付の. かつ商品が引渡されないとき,売主に支払い及. 利用を妨げられることとなる.第五節の競走は,. び損害賠償を請求するか,あるいは,契約から. 商人の要請による採用されたものであるから,. の離脱及び損害鹿償をするかの選択権を与えて. 立法は,その要請に対して消極的な態度を採る. いる.ここで,契約からの離脱というのは,契 約が締結されなかったという意味の契約の解消. べきではか、,と反論した12).しかし,この反 論は功をなさず,第五節の解除制度を削除する 決議がなされた13). しかし,その後の会議で解除は再び議論され ることとなった14).. 商事売買の規定であるプロイセン草案260条. を意味するのではなく,売主が売買契約に基づ く義務から免れ,買主は依然として契約に拘束 され,商品の売却利益の減少について責任を負 うことを意味する17).. 2項15)は,買主が受領を遅滞する場合,売却さ. d提案(4)項は,売主が商品の供給あるいは 適切な供給を遅滞するとき,買主は, (3)項と. れた商品の供託・競売を裁判所に申し立てる売. 同様に履行及び損害賠償を請求するか,あるい. 主の権利を規定している.売主が自ら保管する. は,契約からの離脱及び損害賠償をするかの選 択権がある,としている.. 商品の保管及び引渡しの義務からどのように免 れることができるか,ということが問題となり, 解除制度に関連するのである.この条文に関連. d提案(5)項は,買主あるいは売主が契約か ら離脱しようとする場合,可能な限り即座にそ. して,以下の提案がなされた(数字は筆者が便. のことを相手方に通知しなければならないとす. 宜上付けた)16).. る.これは,プロイセン草案の契約からの離脱. d. 提. 案. は裁判によるという訴権的な性格から,より商 事売買の迅速化という要請に応えるため,裁判. ((1)(2)項省略). による解除を排除したことを意味する.. (3)買主が売買代金を遅滞しかつ商品がなお 引渡されないとき,売主は,支払い及び損害賠. いくつかの反論18)もなされたが,最終的に はd提案がほぼ受け入れられ,以下の第一草案. 償を請求するか,あるいは,契約からの離脱. が起草された19).. (abgeben)及び損害賠償をするかの選択権を 有する.商品が既に引渡されている場合,売主 は,支払及び損害賠償を請求するかの権利を有 するのみである. (4)売主が商品の供給あるいは適切な供給を. 第一草案298集 売買契約,あるいは,供給契約が契約当事者 の一方によって履行されないとき,相手方は, 以下の基準に従って契約を一方的に破棄するこ. 遅滞するとき,買主は,その後,適切な供給及. とができる.. び損害賠償を請求するか,あるいは,契約から. Ⅰ買主が売買代金の支払いを遅滞し,かつ,.
(4) (284). 92. 横浜国際社会科学研究. 商品がなおも引き渡されないとき,売主は,支 払い及び損害賠償を請求するか,あるいは,契. 第11巻第2号(2006年8月). (iii)第二草案 第一草案に関する第二読会は,. 1858年2月. 約から離脱して損害賠償を請求するかの選択権. 17日の第168回会議で審議が続けられるとこ. を有する.. ととなった20).. 第一草案299条 売主が商品の引渡しを遅滞するとき,買主. Ⅱ. まず,第一草案298条から301条を削除し, 供給契約のみ,かつ,買主のみに契約からの離. は,なお引渡しを求め,かつ,損害賠償を請求. 脱を認める趣旨の提案がなされた21).その根拠. するか,あるいは,契約から離脱して損害賠償. として,. を請求するかの選択権を有する.. 250条以下の規定が拒絶された後に売買契約に. 第一草案301条. 関してのみ認められたものであって,許容され. 売主あるいは買主は,契約から離脱しよう. Ⅳ. ①それらの規定は,プロイセン草案第. るものでない,. ②普通法においても解除類似の. とするとき,遅滞に陥る危険がない限り,相手. ものが存在するが,第一草案で認められたほど. 方にこのことをできる限り通知して,遅滞を速 やかに追完する機会を与えなくてはならない.. 広いものではなく,問題を未解決のままとして, 実務に任せたほうが良いこと, ③契約からの離. これに反する場合,解除は効力の無いものとな. 脱を認める際に必要となる通知を定めた第一草. る.ただし,相手方の場合によって生じ得る損 害賠償についてはこの限りでない.. 案301条は,厳しい結果を回避するためのもの. プロイセン草案と比べると次のことがいえ. ている.これに対しては,解除を認めない体系. る.. まず,プロイセン草案では,解除は双務契約. であるが,一方で,それは解除制度が実行でき ないものであることを示している,などを挙げ では,実務の要請を満たすことができない,と. に限られていたが,第一草案では,売買・供給. いう反論があった22). しかし,結局,削除の提案は否決され,第一. 契約が商事売買である場合に解除ができること. 草案の条文の内容が問題となった.. となった.. まず,第一草案298条は,履行か,解除及び. 除の行使方法に違いがなかったが,第一草案で. 損害賠償が認められているが,買主が遅滞にあ 「売主は,支 り,商品が引き渡されないとき,. は,買主・売主の行使方法が異なるようになっ. 払い及び遅れた支払いによる賠償を要求する. た.. か,. 次に,プロイセン草案では,買主・売主の解. 285条に従って商品を買主の計算で売却す. また,プロイセン草案は,解除の要件を「契. るか,あるいは,契約から離脱するかの選択権. 約に従って履行しない」という包括的な要件と. を有する.」という提案がなされた23).この提. していたが,第一草案では,遅滞の場合に限定. 案によると,売主には,第一草案285条による. されることとなった.. 商品の売却の他に,損害,賠償,解除,という. そして,解除は裁判所を通じて認められると. 3つの選択肢が与えられる.商品の売却と解除. して,第一草案は,契約からの離脱する場合,. について,第一草案285条による商品の売却は, 契約からの離脱を意味するのではなく,契約の. 相手方に通知して,追完の機会を与えなくては. 維持に依拠するものであることを意味するもの. ならず,それをしなければ解除は効力を有しな. である.他方,契約からの離脱は,あたかも契. いとした.この通知が要件とされたことにより, 解除の訴権的性質から葡離することになった.. 約が締結されなかったかのように(あたかも消. して訴権的性質を維持したプロイセン草案に対. 滅条項(Er16schungs-Klausel)が取り決めら れていたかのように)宣言する権利である.こ.
(5) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (285). 93. の権利は,商品の売却よりも,場合によっては. あると思われる.それによって,売主は,他の. 迅速かつ確実な手段である点に利点がある.こ. 方法で商品を処分して迅速に金銭に換えること. のように提案の理由を説明している24).第一草 案298条と比較すると,解除と損害賠償が別個. ができる.」として,売主の解除権は必要であ. の手段となっている. 売主に,契約から離脱するという選択肢を与. を可能にすることを保護するため,売主に解除. えることについて反対の声があったが,この提 案は承認されることとなった25). 次に,第一草案第298条の売主の解除権が問. ると反論した.ここでは,売主にさらなる投機 権を与えることが必要であると考えたのである 27). また,売主が解除権を有することになると, 売主が有利になりすぎるという批判に対して. 題となり,これを認めない提案がなされた26).. は,第一草案第301条の規定の通知の要件によ. その理由は,およそ次の通りである.商品の給. り, 「その他の義務を履行するための方法を買. 付が遅れることで買主の利益が失われることが. 主から不意に奪う手続は不可能となり,そして,. あっても,金銭は財産権の一般的な価値基準で. 買主には,売主自身の費用による投機をあきら. あって限定的かつ一時的な利益ではなく,この. めさせる可能性が与えられる.解除権が行使さ. 点において,買主と売主は異なる立場にある.. れるのは,おそらく商品の価格がほとんど同じ. 売主に契約から離脱する権利を認めると,商品. 場合である.というのは,商品が価値的に著し. が下落した場合は買主の計算で商品を売却し,. く下落した場合,売主は解除しようと思わず,. 反対に商品が騰貴した場合は契約を解除して売. そして,商品が騰貴した場合は,買主は解除の. 主自身の計算で商品を売却できることになり,. 警告によって遅滞を迫完しようとすることにな. 遅滞の効果が不当に重くなる.また,買主の. るからである.」と応えている28).買主は解除. 過失(culpa)なくして遅滞が生じた場合でも,. の通知により,自らの不利益を回避することが. 解除することできることになり,買主にとって. できるから,売主が有利になるわけでない,と. は不当な不利益が生じる.. いうことである. 以上のような反論により,売主の解除権を否. これに対しては,. 「遅れた給付の場合,買主. は,自分にとっておそらく価値のないか,ある. 定する提案は否決されることとなった29). 買主の解除権についても,. 「たしかに,買主. いは,ほとんど価値のない商品,すなわち,投 機の客体を契約の履行により取得することにな. は,履行及び遅延賠償を要求するか,あるい. り,他方で,売主には代金,定められた何か,. は,遅れた履行を拒絶して賠償を請求するかの. 一般的な価値基準が与えられる.それによって, 売主と買主の状態の全く同じものでないことを. 選択権を有するのは間違いない.しかし,買主. 否定することはできないが,金銭は投機のため. てもよいということを明確に付け加える必要は ない.それは,履行の拒絶と何ら異なることは. の手段であり,それは商業では極めて額繁に商 品,すなわち,投機の客体となることは見逃さ れるべきではない.商品は一定量の金銭をさら に投機に使うために,その金銭がより安全に 入ってくることを期待するのが通常である.こ. が,損害賠償の要求をしないで契約から離脱し. ないからである.拒絶して賠償を要求してもよ い者が,賠償しないで拒絶すること,すなわち, 損害賠償を拒絶することができるのは当然であ る.後者は,より小さなこととして前者に含ま. の投機は,遅滞して金銭が入ってきた場合は, 不可能なものになってしまう.このようなこと. れているが,簡易な解除権に明確に言及するこ. を考慮すると,今問題となっている契約を簡単. られf=30).これは,履行を拒絶して損害賠償を. に解除する権利は,売主に緊急に必要なもので. 放棄すれば,解除したのと同様の結果になるの. とは誤解に至りうる.」という疑問が投げかけ.
(6) 94. (286). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). だから,買主に解除権を与える必要はない,と. 約から離脱しようとするとき,そのことを相手. いうことを意味する. これに対しては, 「簡易な解除権は,賠償と. 方に通知し,そして,取引の性質が許す場合,. 引換えでの履行の拒絶というより小さなもので. に与えなくてはならない.. 遅滞者の迫完の諸事情に相応しい期間を相手方. はなく,法的にはまったく異なっている.後 者はまさに契約の維持であるが,前者は契約の. 第一草案との違いは,売主に契約から離脱す. 破棄である.そして,実務上も,両者は同一の. る権利が損害賠償とは別個の法的手段として与. ものではない.というのは,契約から離脱しよ. えられたこと,通知が貞主・売主の利害の調整. うとする者は,自らが与えたものについて返還. を図るものとして必要である,などを挙げるこ. 請求権を有するからである.それは場合によっ. とができる35).. て損害賠償以上の金額ということもあり得るの. (iv)第三草案. で,損害賠償は,契約を維持して,契約に基づ いた訴えで達成されるものである.」と答えて いる31).ここでは,解除は契約を消滅させるも. 第三読会は,第二草案に対する各地域からの 異議に基づいて行われた. まず,売主の解除権について規定する第二草. のであり,損害賠償は契約を維持させて求める ものであるとしている.すなわち,両者の法的. 案332条について,バーデンから,売主が契約. 構成は異なるものであることを述べている.ま た,買主の解除権は,商品の価格が下落した場. きるようにすべきである,との異議が出された 36).これは,売主が解除する場合,商品の保管. 合に,それよりも多い自ら支払った代金の返還. 費用・保険料・履行地への輸送費などの付随的. 請求を認めて,買主の保護を図る必要があると. な損害に対しても賠償がなされるべきである,. 述べている.. ということである.. このような理由から,買主の解除権も必要で あるとされた32).. 以上のような審議を経て,以下の第二草案が. を解除する場合でも損害賠償を求めることがで. これに対して,売主の解除の意思表示は,売 却した商品を事故の危険及び投機によって引き 取ることであり,それは後悔権(Reurechte)37). 起草された33).. の行使であり,契約が全く締結されなかったよ そのよ うにみなされなければならない.またt. 第二草案332粂. うに理解しなければ,契約の解消までの商品の. 買主が売買代金の支払を遅滞しかつ商品がな. 景気変動や履行地への輸送などでどれくらいの. おも引渡されないとき,売主は,契約の履行を. 価値を有しているかを考慮しなければならなく. 請求するか,事前の警告の後に商品を320条の. なる,と反論された38).. 規定34)に従い買主の計算で売却するか,ある. 最終的には,売主に解除をする場合でも損害. いは,契約から離脱するかの選択権を有する. 第二草案333条. 賠償を認めるべき,という異議は退けられた39).. 売主が商品の引渡しの遅滞するとき,買主は,. 次に,第二草案333条の「契約から離脱し,. 遅れた履行による損害賠償と並んで履行を請求. かつ,損害賠償を請求する」という買主の選択 権が,解除と損害賠償を一つの法的手段として. するか,あるいは,給付された返還請求のもと. 結びつけていたことから,ハンブルクとハノー. で契約から離脱し,かつ,損害賠償を請求する かの選択権を有する.. ファーから,損害賠償と契約からの離脱は別個. 第二草案334条 契約当事者の一方が前2条の規定に基づき契. の法的手段として買主に与えられるとすべきで あるとの異議が出された40).その理由として, ①買主が契約から離脱しようとするとき,商品.
(7) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (287). 95. 当事者の一方が前2条の規定に基づき履行に. の下落あるいは解除によって取得した取引の自 由により,賠償されるとみなされるのであり,. 代えて不履行による損害賠償を請求するか,あ. 売主と同様の権利が買主にも認められるべきで. るいは,契約からの離脱を望むとき,そのこと. ある, ②損害賠償は,締結された契約に基づく. を相手方に通知し,そして,取引の性質が許す. ものであり,履行に代わる損害賠償を請求する. 場合,遅滞者の追完について諸事情に相応しい. には,取引からの離脱とみなすべきではない,. 期間を相手方に与えなくてはならない.. などを挙げている. 第二草案との違いは,まず,第三草案が,解. この異議については,契約からの離脱という 選択は,損害賠償と独立した権利ではなく,不. 除と損害賠償は独立した異なる法的手段である. 履行による損害賠償に関する権利を部分的に放. としたことである.第二草案では,売主には,. 棄したものである,という反論がなされた41).. 解除と損害賠償は異なる法的手段として起草さ. しかし,さらに,履行に代わる損害賠償請求は, 履行請求権の修正であり,契約当事者は,履行. れたが,買主には,解除は損害賠償に付随する. を要求するか,あるいは,あらゆる請求権を放. 償は独立した異なる法的手段であることを明確. 棄して後悔権を行使するか選択する権利を有す. にするために,第三草案は,. る,との反論がなされた42).. 締結されなかったかのようにして契約から離脱. 最終的には,解除は,損害賠償と異なる手段 として規定されることなり,第三草案が規定さ れた43).なお,. 「契約から離脱」するという選. 択権の意味を明らかにするために,. 「あたかも. ものと起草されていた.さらに,解除と損害賠 「あたかも契約が. するか」という文言を加えている. また,第二草案が,契約を離脱しようとする 場合,相手方に通知が必要であるとしていたが, 第三草案では,通知の要件が,契約の離脱の場. 契約が締結されなかったかのようにして契約か. 合のみならず,履行に代わる損害賠償を請求す. ら離脱する」と規定すべきと提案され,承認さ. る場合でも必要とされたことを指摘することが. れた44).. できる.これは,解除と損害賠償が異なる法的 手段であるということを明確にする(買主・売. 第三草案354兵. 主が遅滞にあるとき,通知が解除と損害賠償を. 員主が売買代金につき遅滞にありかつ商品が. 求めるための要件となる)とともに,通知によ. なおも引渡されないとき,売主は,契約の履行. る迫完を為すに相応しい期間を設定すること. 及び遅延した履行による損害賠償を請求する. で,通知という要件が,契約の存続を求める者 と離脱を求める者の間の利害の調整を図ったも. か,あるいは,履行に代えて,. 343条の規定45). に従い買主の計算で商品を売却して損害賠償を 請求するか,あるいは,あたかも契約が締結さ. のとして,より明確にしたものと思われる.. れなかったようにして契約から離脱するかの選. 条文が,. ADⅢGBの条文となった.. 択をすることができる.. (3)小. 括. 第三草案355集 売主が商品の引渡しにつき遅滞にあるとき, 買主は,履行に並んで遅延による損害賠償を要 求するか,あるいは,あたかも契約が締結され. このような議論を経て起草された第三草案の. プロイセン草案からADHGBまでの解除に 関する変遷は以下のようにまとめることができ よう. まず,プロイセン草案の段階ではALR,普. なかったようにして契約から離脱するかの選択. 通法時代の学説やフランス民法典の解除規定の. をすることができる.. 影響から,解除が認められるのは,商行為であ. 第三草案356集. る双務契約であり,不履行の形態が包括的であ.
(8) 96. 横浜国際社会科学研究. (288). 第11巻第2号(2006年8月). り,また,解除をするには裁判所に求めなけれ. される者(債務者)の遅滞と,解除権を有する. ばならないという訴権的性質を有していた.商. 者の通知による迫完を為すために相応しい期間. 取引の迅速化が要請され,フランス民法典の解. 設定を要件にすることにより,裁判によって当. 除制度を参考にした一方,. 事者の利害の調整を図る機能を果たさせて,商. ALRや普通法時代. 取引の迅速化を達成しようとしたのである47).. の学説とも一定の整合性を保とうとした46). 第一草案では,解除は,売買,供給契約の商. (4)総. 括. ドイツ民法典成立以前の立法と学説をまとめ. 事売買の場合に行うことができ,買主・売主の 解除の行使方法が異なるようになり,要件が遅. ると次のように分析することができる. ALRでは,限定的ではあるが解除を請求で. 滞の場合に限定されることとなった.そして, 契約から離脱する場合,相手方に通知して迫完. きる場合があった.また,普通法時代の学説. の機会を与えなくてはならず,それをしなけれ. は,原則として解除を認めないローマ法の影響. ば解除は効力を有しないとした.通知を要件と. から,モムゼンやヴオルフが損害賠償を通じて. することによって,商取引の迅速化の要請を図. 解除と同様の効果が得られるとして,解除は認. るとともに,解除の訴権的性格から禿離した. 第二草案では,売主に契約から離脱する権. められないとする説が一般的であった48).. 利が損害賠償とは別個の法的手段として与えら. これに対して, ADⅢGBの解除は,商取引の 迅速化の要請から,その成立過程において,解. れ,通知が買主・売主の利害の調整を図るもの. 除は損害賠償と異なる手段であること,訴権釣. として必要であるとされた.. 性質から追完を為すために相応しい期間を通知. 第三草案は,解除と損害賠償は独立した異な. することで,解除は当事者の手に委ねられるこ. る法的手段であり,また,通知の要件が,契約. ととなったことなど,従来の解除の性質を変え. の離脱の場合のみならず,履行に代わる損害賠 償を請求する場合でも必要とされた.. ていった.. このような変遷によって,. ADHGBにおける. ①商. 解除は,次の性質を有することになった. 事売買に限定される, る手段であること,. ADHGBの第一草案で通知という要件が解除を 求める者に課されることとなった.この通知を. ②解除は損害賠償と異な. 要件とすることによって,解除は訴権的性格か. ⑨遅滞が要件であること,. ら禿離した.それ故,通知が従来の解除の訴権. ④迫完を為すために相応しい期間を通知するこ とが要件であること,. 本稿の主題である催告についていえば,. ⑤解除は,. 「あたかも契. 的性格を排除して,解除権者が自らの判断で解 除を行う手段として登場したといえる.普通時. 約が締結されなかったかのようにして契約から. 代に,解除を「催告」49)によって特別に威嚇さ. 離脱する」効果を生じる,である.. れた特別の不利益として,債務者が「催告」を. ADHGBにおいて,このような性質を有する ADHGBが商法典であることか. 守らなかった場合に解除を認めるクニープの説. ら,商取引の迅速化が要請されたからである.. とは,クニープが,より一般的な法生活上の利 益から「催告」による解除を根拠付けたのに対し,. すなわち,契約の存続(損害賠償)か契約から. ADHGBの解除は,商取引の迅速化の要請から. の離脱かの選択を,解除権を有する者に与え, 訴権的性質から尭離する(解除の効果を「あた. 通知による解除を認めている点で相違する50).. かも契約が締結されなかったかのようにして契. あるが,ドイツ民法典の制定過程では,どのよ. 約から離脱する」と表現したのも選択権を明ら. うな経緯により解除規定が起草されたか.また,. かにするためである.)一方で,裁判によって. ADHGBの解除規定の影響はどれほどのもので. 当事者の利害の調整を図るという機能を,解除. あったのか.. に至ったのは,. 以上,ドイツ民法典成立以前の立法と学説で. Ⅲでこれらの点を検討する..
(9) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝) Ⅱ. ドイツ民法典起草過程における解除制度. 1ドイツ民法典の起草作業開始前の学説 本格的にドイツ民法典起草過程での解除制度 の発展の検討に移る前に, ADHGB成立後から ドイツ民法典の起草作業が始まる前後の学説の 解除制度の理解について確認する. 普通法では,モムゼンの遅滞によって給付が. (289). 97. 一般的性質から明らかになるとした55).この点 について,ヴイントシャイトは,双務契約のと ころで,. (彰履行した者は,相手方がその債務の. 履行を拒絶した場合,相手方は履行を要求する ことができるのみであり,給付されたものの 返還を要求することができない, ②ローマ法に よると,そのような返還請求権は,方式から解. 無益になった場合,契約に基づいた損害賠償を. 放されていない双.務契約の場合に根拠付けられ. 通じて解除と同様の結論が得られる,という見. ていたが,今日の法では,そのような権利は無 条件に排除される, ⑨もっとも,ローマ法はそ. 解に代表されるように,原則として解除を認め ない見解が一般的であった51). このような普通法における解除の理解は,. のような契約の場合にさらに進んで履行した者 に,相手方が履行を準備しているときでさえ,. ADHGBが出現後も基本的に維持された.例と. 給付の返還を請求する権能を与えた(いわゆる. して,ヴイントシャイトは,遅滞の効果の箇所. 後悔権56)が,このような権能もまた今日では. 「双.務契約の際,債権者が,債務者の遅滞. で,. 認められていない,と述べている57). ①では,返還請求権が否定されている.. によって,契約を解除する権利を得ると理解さ. (勤で. れた.またこれも-般的には正しくない.債権. は,双_務契約に基づいて給付されたものの返還. 者は,以下の場合において,債務者の給付を. 請求が否定される根拠を法的拘束力に求めてい. 拒絶する権利のみを有する.すなわち,給付さ. る.. れるものが,自ら約束させた目的において無益 (unbrauchbar)になった場合のみである.」と. 場合にのみ認められる既に給付した者の返還論. 述べている52).このような普通法における解除. 力を認めることで無名契約と有名契約の相違は. の理解は,ローマ法を基礎として,債務不履行. 意味を失って,後悔権もその意味を失うとして. による客観的な双務性,牽連性の破壊ではなく,. いる.. ④で,後悔権は,ローマ法で,無名契約の. 求権のことであるが,すべての合意に法的拘束. このように原則的に解除を認めない普通法に. その主観的反映である給付の無益性を根拠とし た53).. おける解除は,遅滞の場合,通知によって解除. この給付の無益性についてレ-ゲルスペル ガ(Regelsberger)は,給付の無益性の要請. を認めるに至ったADHGBの解除制度と異な. として, ①履行に関する債権者の利益が完全に. いてどのような変化を遂げていくかについて2 で検討する.. 失わなければならないこと,. (む当該事案におい. て給付が実際に無益であり,必要的に証明され なければならない,ということが含まれると述. る.この相違が,ドイツ民法典の起草過程にお. 2. ドイツ民法典の起草作業58). べている54).すなわち,これらの要請により, 解除を行うには,裁判所による個別具体的な判. ドイツ民法典の起草は,. 1873年の12月12. 日の民法典編纂委員会の設置の決議により始. 断が必要であり,解除をしたい者は,無利益を. まりを迎えることになる.まず準備委員会. 証明しなければならない,とするのである.そ. (vorkommission)を設置し,. して,解除をした場合と同様の結論に至るとす. 1874年4月15 日に提出された準備委員会の答申で,①目的が,. るわけである.. 社会の改革ではなく,既存の法の統一であるこ. ところで,モムゼンは,解除について述べる 際に,両債務(gegenseitige. Obligationen)の. と, ②法典の素材として,自由で独自の立法作. 業を行うとしながら,既存の法素材をなるべく.
(10) 98. (290). 用いようとすること,. 横浜国際社会科学研究. (彰法典に採り入れられる. 第11巻第2号(2006年8月). 草案,第一草案,第二草案に至る経緯までの議. べき範囲として,一般法である民法典に採り入. 論を検討する.. れられるべきものと,特別法(ラント法)で採 り入れられるべきものの分別59), ④法典の体系. (1)部分草案. は,. 部分草案において,前述の通り債務法の部分 草案を起草したのはキューベルである66, 67).以. 「基本的に普通法の最近の理論,近時の諸. 民法典及び草案の先例に従うべきである」とし. 下,彼の起草した部分・草案について論じる.. て,いわゆるパンデクテン体系が予定され,総 則,債務法,物権法,家族法及び相続法の五編. 部分草案20号「契約に基づく権利義務」. a. 「総則」には,次のような潰走がある68).. が構想された. ⑤起草の仕方も,編集委員会が 統一的な計画を立てて準備し,起草作業中に生. 部分草案20号2条 契約当事者の一方がその義務を履行しないと. じる敵齢を調整し,全体をまとめる任務を引き 受ける一方,他方で,全体を5つの領域に分け. き,相手方は,準則な取り決め,あるいは,法. て,あらかじめ部分草案を作成させることにす. 律上の規定によって異なることが定められない. ること,などを明らかにし7=60).. 限り,それを理由に契約から離脱する権利を有 さない.. 1874年7月2日,ドイツ帝国参議院は,第 一委員会の委員の選定を行い,部分草案の起 草を,総則がグープハルト(Gebbard),債. この条文についてキューベルは,. 「契約,す. 務法がキューベル(Ktibel),物権法がヨホウ. なわち,その中に示されそれによって生み出さ. (Jobow),家族法がブランク(Planck),親族. れる双方的な意思結合(Willensbindung)は,. 法がシュミット(Schmidt)に委嘱した61).彼. それ自体,概念的には,ある契約当事者の契. らが起草した部分草案に基づいて,. 約の一方的な解除を排除する.各当事者は契. らの本会議で審議が行われ,. 1881年か. 1887年に第一草. 約に留まり,かつ,契約から生じる自らの義 務(verbindlicbkeit)の履行を義務付けられる.. 案が完成した62). 第一草案が公表された後は,ドイツ帝国司 法庁(Reicbsjustizamt)が,民法典編纂の主. 不履行の場合,相手方は,通常,履行または履 行に関する訴えを有するのみである.このよう. 導権を握ることになり63),ドイツ帝国司法庁準. なことは,契約の本質や事物の性質に首尾一貫. 備委貞会(Vorkommission. して適合するローマ法の立場であり,また,古. Reicbsjustizamtes). deutscheRecht)は,ま. を設置して,第二委員会の審議に先立って,ま. ドイツ法(das. ず第一草案の審議を行い,第二委員会の審議の. さにこのような原則を前提としている.」と説. 基礎となった(1890年1月5日-1893年4月. 明した69).っまり,民法上では原則として解除. 7日まで審議が続いた.. を認めることはできないとしたのである.. )64). その後,ドイツ帝国参議院は,. altere. 1896年1月. 16日に,本会議を開いて,いわゆる第三草案 を承認した.そして,ドイツ民法典は,. 1896. しかし,その一方において,部分草案22号 「債務不履行の効果」 28条は次のように規定す る70).. 年8月18日に,ドイツ皇帝ヴイルヘルム2世 の署名を受け,同月24日にライヒ官報により 公布され, 1900年1月1日に施行された65). 以上が大まかなドイツ民法典の起草過程であ. 部分草案22号28集 双務契約における債権者は,債務者が義務 を負う給付が債務者の遅滞の結果として自らに. る.この起草過程において,解除制度はどのよ. とって無益となるか又は価値を著しく失ったと. うな変化を遂げることになるかについて,部分. き,契約を解除することができる.解除の際,.
(11) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝). (291). 既に発生しているその他の損害を賠償する権利. で,不代替物は増加,従物(zubeh6rungen). は害されない.. 及びすべての果実を返還される.引き出され. 4,. 5,. 6,. 7条にある諸規定は. これに準用して適用される.. 99. なかった果実,穀損あるいは滅失した物につい て返還する義務を負う者は,通常の家長の注. この条文では,債務者が給付を遅滞する結果, 債権者にとって無益になるか,あるいは,価値. 意を用いると果実が引き出され,段損及び滅. を著しく失ったとき,例外的に契約を解除する. ばならない.返還されるべき物の使用に関して 義務者は,所有権者が所有権に基づく請求権. ことができると規定している.そして,部分草 案22号28条の理由書では,次の部分草案22 号3号の規定を参照せよと指示されている71). 部分草案22号3集 双務契約における債権者は,給付の全部不能. 失を回避できた場合は,賠償を給付しなけれ. (Eigenthumsansprucb)を主張するときに善 意占有者に与えられる諸権利を有する. 部分草案22号6条1項では,. 「契約が締結さ. れなかったかのような権利を有し,かつ,義務. の場合, 2条72)に示される請求権に代わって, 契約を解除することができる.解除の時にすで. を負う」として,. に発生しているその他の損害の賠償に関する権 利は害されない.部分的にのみ不能である場合,. 2項では,. 給付がその部分的な不能の結果として債権者に. 対して,解除権者が既履行か未履行かの区別を. とって無益となるか,または,価値を著しく失っ. していない.また,. たとき,解除権が与えられる.. ADHGB354,. 355条の規定 との類似性を見つけることができる.しかし,. ADHGB355条が,売主が商品を引 き渡した場合には解除を認めていなかったのに. 2項では,返還請求権の内 容が具体化している点でも, ADⅢGBの解除制 度とは異なっている.. この条文では,給付が不能の場合及び部分的 に不能な場合で,かつ,部分的な給付では,倭. そして,解除の行使方法については,部分草 案22号4条が次のように定めている75).. 権者にとって無益となるか,または,価値を 著しく失ったときに契約の解除を認めている.. 部分草案22号4条. キューベルは,遅滞は時間に関する不能であり,. 解除は,債権者が債務者に対して意思表示を. それによって債権者に生じる損害の填補のため. したときに実行される.この意思表示は撤回で. に解除権が認められるのであるから,遅滞の場 合同様,全部不能及び部分不能によって給付が. きない.. 無益になった場合も,損害を填補する手段とし. この条文では,解除は意思表示によって実行. て解除権を与えられると考えたのである73). 解除の効果の点では,部分草案22号6条が. され,その意思表示は撤回することはできない. 基本原則を定めていた74).. BGB. とする.この規定は,特に変化することなく, 349条となる76). この条文により,解除が形成権77)であるこ. 部分草案22号6条 解除において契約当事者は相互に,契約が締. とが条文化されたといえるが,キューベルの解 除の原則に関する説明と矛盾する.というのは,. 結されなかったかのような権利を有し,かつ,. 「双方的な意思結合(willensbindung)は,そ. 義務を負う.. れ自体,概念的には,ある契約当事者の契約の. 受領された金銭は,受領時からの金銭と共 に,その他の代替物は同じ種類,量及び質の物. 一方的な解除を排除する.」として,一方的な 意思表示による解除を認めないと述べたにもか.
(12) 100. 横浜国際社会科学研究. (292). かわらず,部分草案22号4条では,解除は一 方的な意思表示により行われると規定している のである.この点について,キューベルは何ら. 740. 除は-方的な意思表示により行われることは既 に認められていたとされる78).. なことがいえる.. 解除は原則として認められず,例外として, 債務者の遅滞・不能により給付が無益となるか 価値を著しく失ったときに契約の解除を認め た.そして,解除は損害の填補として行われる. この点では,普通法の損害賠償を通じて解除を したのと同様の効果をもたらそうとした学説の 理論とほとんど同じであり,. ADHGBの給付の. 遅滞があった場合,解除権者は,遅滞者の追完 の諸事情に相応しい期間を通知して,その期間 の経過により解除を行うことができる点と異な 「契約が締結されなかった る.効果の面では, かのような権利を有し,かつ,義務を負う」と してADHGBと類似する一方,解除権者が既 履行か未履行かの区別をしていないこと,ま た,返還請求権の内容が具体化している点で ADⅢGBの解除制度とは異なっているのは前述 の通りである.. (以上本号) 注 Deutsches l)以下,一般ドイツ商法典(A止gemeines 「ADHGB」とする. Handelsgesetzbuch)は,. 2)立法経緯の記述については,西原寛一『近 (日本評論新社, 代的商法の成立と展開』. Protokolle. Laufs, ftir das. Die. Begrtlndung. gesamte. der. btlrgerlicbe. ,. Adolf. Reichskompetenz Recbt,. JuS 1973. im. gesetzbuch. 1861, 1990, S. 31ff/, Entwurf. von. Staaten,. far. Nebst. die. Motiven(1857),. 1986などを参照した.. とが生じる.. 5)詳しくは,拙稿「ドイツにおける解除制度の 発展に関する考察一催告を中心として」1)」本 誌10巻2号98頁のⅢ以下を参照されたい. Entwurf ftir Preussischen 6) W. Schubert, Staaten, S. 129 f. (Motive) 7)理由書では,フランス民法典1184条につい て, 「双務契約すべてに,当事者の一方がその 義務の一方がその義務を十分に行わない場合に ついて解消が黙示的に条件付けられている,と いう推定が妥当しており,そこでは,相手方は, 可能な場合には契約の実行を主張するか,損害 賠償に加えて契約の解消を要求するかの選択 権を有する.」と紹介している(W.Schubert, ftir Preussischen. Entwurf. Staaten,. S. 130. (Motive)). フランス民法典1184条の条文については, 拙稿(脚註5) 92頁の脚注14を参照されたい.. deutschen Handelsgesetzallgemeinen Bd. 1, 1984; W. Schubert(brsg.) (以 buches,. 「Prtokolle des ADHGB」とする.). der. 1869, S. 379 3) 1869年6月5日の法律(BGBI. (この法律に添付された)一般 ff)によって, ドイツ手形条令,ニュルンベルク新法及び ADEGBが,北ドイツ連邦全域で妥当すること となった, 1871年4月16日には,ドイツ帝国 の制度に関する法律2粂によって,帝国の法律 となった(前掲(脚注2)参照). W.Schubert 4)プロイセン草案については, ftir eines Handelsgesetzbuchs (hrsg), Entwurf die Preussiscben Staaten, Nebst Motiven(1857), Nachdruck 1986を参照した. なお,他の2つの条文は次の通りである. プロイセン草案第252条 諸事情,特に契約の性質,契約当事者の意図 あるいは給付されるべき客体の属性から,契約 の履行が両当事者にとって分割可能であること が明らかであるとき,相手方によって履行され ていない契約の部分に関してのみ,破棄を要求 することができる. プロイセン草案第253条 民法の規定に従い契約当事者の一方が相手方 の不履行によりすでに法的手段によって契約に 拘束されないとき,商行為においても同様のこ. eines. 下,. Handels. Deutschen. Preussischen. Beratbung. zur. Entstehung. Handelsgesetzbuchs. eines. 1954年),塙浩「P.レ-メ『商法史概説』 (四・完)」神戸法学雑誌33巻2号(1983 年),杉本好央「ドイツ民法典における法定 解除に関する一考察一解除制度の基礎的考察 (その-)-(三)」法学協会雑誌〔東京都立大 W. Schubert(hrsg.), 学〕 42巻2号(2002年), Commission. Die. Btlhler,. Vertragsschlu8-Vorschriften. a11gemeinen Allgemeinen. Nachdruck. 以上から,部分草案の解除について次のよう. der. ff.;Diethard. (ADHGB). ADHGBでは,解. の言及をしていない.なお,. 第11巻第2号(2006年8月). w.. 8). Schubert,. Staaten,. 9). w.. Entwurf. ftir Preussischen. S. 131 f. (Motive). Schubert,. Entwurf. ftir Preussiscben. i..
(13) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝) Staaten,. 10). w.. S. 132 f. (Motive) schubert,. Staaten,. ll). w.. Entwurf. far. Preussischen. S. 131 f. (Motive). schubert,. Protokolle. des. ADEGB,. Bd.. 2. schubert,. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 2. Protokolle. des. ADEGB,. Bd.. 2. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 2. S.592圧. 12). w.. S.592氏. 13). w.. schubert,. S,594ff.. 14). w.. schubert,. S.607.. 15)次のような規定である(W. ftir Preussischen. Staaten,. Schubert. Entwurf. S. 49. (Entwurf)). プロイセン草案第260条 売主は,買主が受領について遅滞にない限り, 引渡しのときまで通常の商人の注意をもって商 品を保管する義務を負う. 売主は,買主が受領において遅滞にあるとき, 商事裁判所の裁判長,あるいは,これを欠く場 合はその他の裁判官に,買主の危険及び費用を もって公の倉庫(6ffentlichenLager)あるい は第三者への商品の寄託を命ずるように,申し 立てることができる.また,裁判官は,売主の 申し立てに基づいて,商品を公的に売却するよ うに命じることができる.その売却は,裁判官 がこれについて委託した官吏,あるいは,宣誓 をした商事仲介人によって行われる. Protokolle des ADHGB, Bd. 16) w. schubert, w.. schubert,. 25). Handelsgesetzbuchs,. 26). w.. S.1406. 27). des. ADHGB,. Bd.. 3. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. w.. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. schubert,. Protokolle. des. ADⅢGB,. Bd.. 3. schubert,. Protokolle. des. ADHGB,. Bd,. 3. schubert,. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. schubert, a. schubert,. S.1406 H.. 28). w.. S.1408 2. 29). w.. schubert, ff.. S.1409. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 2. 30) 31). w.. des. allgemeinen S. L X Ⅲ. 32). deutschen. f.を参照した,. schubert,. Protokolle. W.. Schubert,. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 3. des. ADⅢGB,. Bd. 3. S.1339圧 schubert,. S.1401ff.. schubert,. w.. S.1409ff.. w.. w.. Protokolle. schubert,. S.1409.. 2のEntwurf. 23). w.. S.1402ff.. いなら,未受領の商品が適切なものであったか 否かを判別することができないので,予測す ることできない,と反論された(W.Schubert, Protol∈o11e des ADHGB, Bd. 2 S.629).また, d提案(4)項では, 「適切な」供給という要件に 対しては,わずかな数量不足や遅滞であって も,契約の破棄を認めることできない,と反論 があり,この「適切な」という文言が削除され Protokolle des ADHGB, Bd. た(W. Schubert, 2 S.631). Protokolle des ADHGB, Bd. 19) w. Schubert,. w.. 3. S.1402.. 18)例えば, d提案(3)項には,そもそも売主が契 約を破棄する権利や商品を任意に処分する権利 はあり得ず,また,裁判所に訴えが提起されな. 22). S.1402.なお,第一草案285条は次のような規定 Schubert, Protokolle des ADHGB, である(W. Bd. Entwurf des 2にある allgemeinen deutscben Halldelsgesetzbuchs, S. LXIを参照 した.). 第一草案285条 売主は,買主が受領を遅滞していない限り, 通常の商人の注意で商品を保管する義務を負 う. 買主が商品の受領について遅滞にあるとき, 売主は,商品を裁判上寄託するか,あるいは, 事前の警告の後に商事仲介によって,また,そ. で,即座に報告しなければならない.これが行 われないとき,売主は損害賠償の義務を負う. Protokolle des ADHGB, Bd. 24) w. schubert,. S.629.. 20) 21). 101. れを欠く場合,公の売却について権限のある官 吏によって,売却させることができる. 売却の実行について売主は買主に可能な限り. S.625氏. 17). (293). w.. schubert,. S.1410. w.. Schubert,. 10の,. Entwurfs. 33). Protokolle eines. des. Allgemeinen. ADHGB,. den Bescbltissen Handelsgesetzbucbs.(Nach der zweiten Lesung), S. LXX f.を参照した. 34)次のような規定である. 第二草案320条 売主は,買主が受領を遅滞しない限り,通常. の取引者の注意をもって保管する義務を負う. 買主が商品の受領につき遅滞にあるとき,売 主は,買主の危険及び費用で商品を公の倉庫あ るいは第三者に寄託することができる.商品が 取引所価格あるいは市場価格を有するとき,辛 前の予告後に,公的でなくとも,商事仲介人を 通じて,あるいは,それを欠くときは,競売の 権限を有する官吏を通じて,売却を相場価格で 行うことができる.商品が腐食の危機にありか つ遅滞の危険にあるとき,事前の予告を要さな い.. Bd.. deutsben.
(14) 102. (294). 横浜国際社会科学研究. 売主は,売却実行前に,可能な限りで買主に 即座に報告しなければならない.これが行われ ないとき,売主は,損害賠償責任を負う. 35)なお,第二読会で普通法の学説から扉離する 「議事から明らか ことになった理由について, なように,解除制度の対象とされたのが,他で もない商事売買であったからである.商事売買 では通常は価格変動の激しい商品が取り扱わ れ,また当事者達はその価格変動を既知のもの として「利潤」の獲得を目指すのであるから, 法的に保護される財産価値を市場での商品価格 を当事者の合意による価格とで二重化し,その どちらを請求するかについて,そのような当事 者の判断に委ねるのが望ましいことになる.こ のような市場取引の特性ゆえに,普通法におけ る支配的な理解から魂離するに至ったのであろ う.」と分析するものがある(杉本・前掲(脚 注2) 191頁). Protokolle des ADHGB, BD 36) w. Schubert, der. にあるZusammenstellung gegen. den. Entwurf. aus. zweiter. ll. S.53. の361号を参照した. 37)後悔権とは,ローマ法における給付がなされ たが,期待された反対給付がなされず,しか も,それを強制法的手段がない場合に,先給付 者に給付物の返還請求を認めるという目的あ るも目的不到達の場合の不当利得返還請求訴権 non (condictio causa data causa secuta)に類 似する権利である.すなわち,ローマ法では, 不当利得返還請求のための訴訟方式では訴訟原 (返還請求 因を明示しなかったので, condictio 訴訟)は,期限後の貸金返還請求とか,非債弁 済に当てられた給付物の返還請求のためにも類 推的に用いられた.その際,給付物の受領者は, 借金したものとして取り扱われた.やがて,双 務関係のある給付において,一方は履行された が他方が履行されないとき,その履行を求める 訴権がないため,訴訟によって強制できない場 合の救済(給付物の返還)にも用いられるよう になった.その際,受領者は,彼に期待されて いる反対給付をしなければ受領物を所持しうる 原因を欠くものと考えられた.このような運用 が目的あるも目的不到達の場合の不当利得返還 請求訴権の基礎となった.つまり,ローマ法で は,一般に訴求しうることを合意した場合のみ, 給付者は反対給付を訴求しえたのであって,そ のような合意がない場合には, condictioによっ て給付物の返還請求をするしかなかったのであ る(土田哲也「給付利得返還請求権一目的不 『谷口知平教授還暦記 到達の場合について-」 (有斐閣, 念 不当利得・事務管理の研究(2)』 1970年) 320頁). そして,ローマ法において目的あるも目的不. 到達の場合の不当利得返還請求訴権が認められ るのは, ①家子を家父権から解放したり,奴隷 を自由の身にしたり,訴訟を終結させる目的で 金銭を支払ったが,その目的が訴訟によって強 制できないがゆえに達せられないため,金銭の 返還請求をする場合, ②婚姻前に給付した嫁資 を,婚姻が不成立になったため返還論求をする 場合, ③無名契約において給付者が給付物の返 還をする場合,である.ただし,無名契約につ praescriptis いては,後にactio verbis (前加 文による訴訟)によって返還請求できるように なったので,先給付者は,履行(給付)したこ とを理由として,相手方に訴求することも,目 的あるも目的不到達の場合の不当利得返還請求 訴権によって給付物の返還請求することもでき た(土田・前掲320-321頁.その他,目的あ るも目的不到達の場合の不当利得返還論求訴権 Der AlfredS61lner, について論じるものには, Bereicherungsansprucb des. Erinnerungen Lesung,. 第11巻第2号(2006年8月). einer. Leistung. Nicbteintritts. wegen. bezweckten. Erfolges,. AcP. 163,. 1963,23ff.吉野悟「Datioob remにおけ る目的一口-マ法の目的不到達による不当利得 『谷口知平教 返還請求訴権の位置について-」 授還暦記念 不当利得・事務管理の研究(1)』 (有斐閣, 1970年) 48貢がある.). わが国で目的あるも目的不到達の場合の不当 利得返還論求訴権が問題となるのは,大部分が 結納返還の場合であり,その他では,将来のた めの給付の例が若干あるのみとされている(土 田・前掲333頁). なお,ドイツ民法典では,目的あるも目的不 到達の場合の不当利得返還請求訴権がドイツ民 「BGB」とする.) 法典(以下, 812条1項後 段後半で規定されている.参考のために条文を 挙げておく, BGB812条(返還請求) (1)法律上の原因なくして他人の給付あるい はその他の方法によってその他人の損失によ りあるものを取得する者は,その他人に対し て返還義務を負う.この義務は,法律上の原 因(recbtliche Grund)が後に失われ,あるい は,法律行為の内容に従えば給付が目的とし た結果を生じない場合も生じる. (2)契約による債務関係の存在あるいは不存 在の承認も給付とみなす. Bd. 9 Protokolle des ADHGB, 38) w. Schubert, S,4593.. 39). W.. Schubert,. Protokolle. Schubert,. Protokolle. des. ADHGB,. Bd.. 9. S.4593.. 40). W.. der. にあるZusammenstellung gegen. den. Entwurf. des. aus. zweiter. ADHGB,. BD. ll. Erinnerungen Lesung,. S.53.
(15) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝) の363号と364号を参照した. Protokolle 41) w. Schubert,. des. ADHGB,. Bd.. 9. des. ADHGB,. Bd.. 9. S.4595.. 42). w.. schubert,. Protokolle. S.4595,. 43). Erinnerungen Lesung,. zweiter. w.. Schubert,. aus. den. Entwurf. 53にあるEntwurf. deutscben. allgemeinen. Buchs.(Entwurfs 参照した. 44). gegen. S.. dritter. Protokolle. aus. eines. Handelsgesetz-. Lesung), des. S. 78. ADHGB,. iを. Bd.. 9. S.4599.. 45). Erinnerungen. zweiter. Lesung,. allgemeinen. gegen. S,. den. Entwurf. 53にあるEntwurf. deutschen. aus. eines. Handelsgesetz-. Buchs.(Entwurfs aus dritter Lesung), S. 75 f. % 参照した.なお,文言は,第二草案320条と同 じである(脚註34を参照されたい). 46)プロイセン草案において参考とされたフラ ンス民法典の解除制度とは,解除の訴権的性 格,恩恵期間を明文上規定されていた点で, ADHGBの解除制度とは異なっている.また, 解除によって契約が消滅して返還請求権が発生 すると考えるならば, 「なるほど民事に関して も商事に関しても,契約に於ける信義・互恵及 び平等ということは必要である.しかし契約に 於ける信義とか,この互恵とかを保障するため に,・仮に民事取引におけると商事取引に於ける とで同じように考えるとしたら,それは間違い であろう.」 「例えば,商取引に於いて所有権返 還請求の訴権が斥けられているのは,賢明であ る.その理由はこの種の取引は急速に流通する 動産についての展開するものであって,それ は何等の痕跡も残さないから,その同一性を確 かめこれを識別することは殆ど常に不可能だと いってよいからである.しかし民事の取引にあ っては,殆どすべてが不動産と言う確定した基 体を有し,誰の手に渡ろうとも追求が出来,そ してその永続性の故に裁判所の要求するあらゆ る審議を可能否容易にすらする不動産に関する のであるから,仮に所有権返還請求の訴を認め ないとしたらそれは不正であり行過ぎであると いうことになろう.」とフランス民法典の起草 者の一人であるポルタリスは述べている(ポル 『民法典序論』 (日本評 タリス(野田良之-釈) 論社, 1947年) 80頁以下). 47)なお,形成権としての解除と取消の歴史的発 展の共通の基盤として,迅速性・訴訟経済・自 由主義思想を指摘したものがある(本田純一「近 世ドイツ立法史における形成権の基礎」一橋論 叢74巻2号(1975年) 237頁).解除について は,まず商取引の分野で生じたといえるのでは ないかと思われる.. (295). 103. 48)詳しくは,拙稿(脚註5) 98頁のⅢ以下を参 照されたい. 49) 「催告」という表現とした理由は,普通法時 代に催告という言葉がまだ法律用語として確立 していなかったと思われるからである.拙稿(脚 註5) 107頁の脚註97も参照されたい. 50)クニープの説について詳しくは,拙稿(脚註 5) 98頁のⅢ以下を参照されたい. 51)詳しくは,拙稿(脚註5) 98頁のⅢ以下を参 照されたい. Windscheid, des Lebrbuch 52) Bernbard Pandektenrecbts, 2. Bd., 9, Au丑., 1906, 280, § 「ま S.146工Fn.1.ヴイントシャイトは続けて, た,特に以下の場合も妥当する.すなわち,倭 務者が,給付から解放されるという要請のため 他の保護に該当する場合である.債権者が後で 賠償を求めるため利用できる(過責ある給付の 不受領),あるいは,利用できた(要請が無い ことよる他の保護),という不利益を受けるこ とを債権者に要求することはできない‥‥ し かし,以下が付け加えられる. 1)契約の相手 方の遅滞は,他方に解除権を与えるべきことを 当然の条件とすること, 2)債権者が,債務者 が遅滞であること(inmoraaccipiendi)によ り特別な権利を取得したかどうかに関心が向け られること.すなわち,遅滞を生じる(mora accipiendi)ということは,売主が引き取らな かった商品をさらに売却しても良いかどうか, という問題の判断のために重要なのである.解 除権の概観を実際に有していないものとしてよ い‥‥」と述べている.ここで,解除は,当事 者間の契約において,遅滞を条件とすること, 転売の必要性から認められるに過ぎず,それは, 解除権の概観は有していないとして,解除権を 否定する. なお,ヴイントシャイトのパンデクテンの9. (ドイツ民法典成立後)を用いて 版(1906年) いるが,彼は1892年に亡くなっており,引用. 箇所の内容自体に変更がないためこの版を用い る.また,後註57も参照されたい. 53)山下末人「取消・解除に於ける原状回復義務」 法学論叢61巻5号(1949年) 116頁. tiber das Recht 54) Regelsberger, R凸cktritt in der. vom. Erf(illung,. Kaufgeschaft AcP. wegen. 50, 1867,. zum. Verzugs. S. 28ff.なお,. その他に,無益性はまさに遅滞にその根拠を有 していると述べている. 55)詳しくは,拙稿(脚註5) 99頁のⅢ以下を参 照されたい.なお,モムゼンは,両債務の一般 的性質について明らかにしていなかった. 56)後悔権については,脚註37を参照されたい. Windscbeid, Lebrbuch des 57) Bernbard Pandektenrecbts, 2. Bd., 3. Åu且., 1870, § 321,.
(16) 104. (296). 横浜国際社会科学研究. s.209f,ここでは3版を用いる. 9版では, ② と(彰の間に, 「もっとも,今日の法によっても, 給付者が既に反対給付を獲得したという誤った 想定のもとで給付し,同時に,あるいはまた, 反対給付を獲得するであろうという期待のもと で給付し,同時に,このような想定あるいは期 待が自己の給付の前提であることが給付時に認 識可能な態様で発生した場合には,そのような 権利(訳者註:返還請求権)が給付者に与えら れる. 」と続いている(Bernbard Windscbeid/ Thodor. Kipp,. 2. Bd.,9.. Aufl., 1906,. Lehrbuch. des. Pandektenrecbts,. § 321, S.. 326f.).そして, 支配的な見解と合致しないが,前提論からの直 Windscheid/ 接導き出せるとする(Bernhard Tbeodor I(ipp, a, a. 0,, S. 326 Fn lOa).ここで, ヴイントシャイトの前提論と不当利得との交錯 がある.この点については,五十嵐清「事情変 『不当利得・事務管理の 更の原則と不当利得」 研究'(3)』 (有斐閣, 1972年) 82頁以下を参照 されたい.. 58)ドイツ民法典の起草過程については,石部雅 亮編『ドイツ民法典の編纂と法学』 (九州大学 出版会, 1999年),平田公夫「ドイツ民法典編 纂過程の諸特徴」岡山大学法学会雑誌45巻4 号(1996年) 1011頁,同「ドイツ民法典編纂 史の諸相-とくに法典編纂の諸前提について -」岡山大学法学会雑誌47巻1号(1997年) 13頁などを参照した.また,ドイツ民法典の 諸資料については, 『ドイツ民法典の編纂と法 学』の児玉寛・大中有信「ドイツ民法典編纂資 料一覧」を参考にした. 「ゲルマン法起源の,いまや死滅し 59)例えば, かかっている諸制度,中世の経済制度・行政制 度の廃壌の残存物として現在まで残っている諸 制度」である永小作法,物的負担法,家族世襲 財産法などを,民法典ではなく,地方(ラント) 法(特別法)に委ねることを提案した(石部雅 亮「ドイツ民法典編纂史概説」石部雅亮編『ド (九州大学出版会, イツ民法典の編纂と法学』 1999年) 21頁). 60)石部・前掲(脚註59) 20-22頁参照. 61)第一委員会には,ヴイントシャイトも委員と して選任されており,第一委員会における役割 はきわめて高く評価されたが,彼は最後まで委 員であったわけでなく, 1883年に委員を辞職 している(石部・前掲(脚註59) 25頁参照,). なお,歴史法学派であるヴイントシャイトの法 典編纂への立場は, Q)歴史法学に対する高い評 価, ②ドイツ法とローマ法の歴史的関係の重視 (法の連続性の重視), ⑨法源としての立法の重 要性と立法化への支持, ④学説の主導による法 典編纂及び将来においても学説の主導,という 立場であった.つまり,法典を伝続的な普通法. 第11巻第2号(2006年8月) 学の歴史の流れの中で捉えること,法典編纂が されたとしても現在を過去と未来から断絶させ ないこと,その意味で,法典編纂によっても法 の歴史性が中断されないことを目的としていた のである(赤松秀岳「歴史学派から法典編纂へ」 (九 石部雅亮編『ドイツ民法典の編纂と法学』 州大学出版会, 1999年) 73-88頁). 23-33頁参照. 62)石部・前掲(脚註59) 63)もともとドイツ帝国の最高行政官庁として は,ドイツ帝国宰相府がただ一つ存在するのみ であった.時の宰相ビスマルクは,行政事務の 増加とともに肥大化した宰相府を縮小する案を 持っていたが,反対により実現できなかった. その後,経済危機による政治路線の転換によっ て, 1877年にドイツ帝国司法庁が設立される こととなった.立法・司法行政に権限を持つ官 庁が独立したことは,大局的には帝国官僚機構 整備充実の一環であったが,やがて,第一委員 会解散後の空白期に,ドイツ帝国司法庁が法典 編纂を主導することとなった(石部・前掲(脚 註59) 40頁参照).そして,民法典を統一する ためにドイツ帝国司法庁は,国民のナショナリ ズムに強く訴える戦略をとるとともに,国民一 般に法統-のもたらす社会経済的な実利的な側 面を訴えた(平田公夫「ドイツ民法典と帝国議 会一帝国議会第一読会を中心として-」石部雅 亮編『ドイツ民法典の編纂と法学』 (九州大学 出版会, 1999年) 109-114頁). 40-48頁参照. 64)石部・前掲(脚註59) 3, 48頁参照. 65)石部・前掲(脚註59) 66)キューベルは,第一委員会の委員に就任する 前は,ドレスデン草案の作成に主に関与してい た(石部・前掲(脚註59) 23頁). 67)なお,キューベルは債務法全体を完成する に至らず, 1884年に亡くなるが, 1882年(同 年2月24日から,債務法に関する議事が第一 委員会で開始される)までに,債務法の結論 W. Schubert, 部分の部分草案は完成していた. Materialien 1978,. BGB,. 68). w・. Entstebungsgescbichte. zur. Die. Schubert(hrsg・),. Redaktoren. ftir. die. Ausarbeitung. zur. des. S. 45.. B也rgerlichen Schuldverhaltnisse. I(ommlSSion. erste. des. Entwurfs. Gesetzbuches, Teil. der. Vorlage.n. Recht. 1, Allgemeiner. eines der Teil,. 1980, S, 371.. 69). W.. Schubert,. Schuldverhaltnisse. a.. Tei1. a.. 0. (Recht. 1, Allgemeiner. der. Teil).,. S.380.. 70). w.. Schubert,. Schuldverhaltnisse. a.. Tei1. a.. 0. (Recbt. 1, Allgemeiner. der. Teil).,. S. 853.. 71). w.. Schubert,. a.. a,. 0. (Recht. der.
(17) ドイツにおける解除制度の発展に関する考察(大滝) Schuldverhaltnisse. Teil 1, Allgemeiner Teil), S. 849. S.901.部分草案22号3条については, 72)次のような規定である(W.Schubert,a. a. 0 Tei1 1, (Recht der Schuldverhaltnisse S. Allgemeiner Teil)., 849). 部分草案22号2項 給付の損害賠償を課される債務者には,第1 章2部Ⅲの4条2項, 15条3項及び18条(不 法取引(unerlaubte Handlungen)に関する). の規定が準用される.価値決定のための給付の 場所,または,給付のための期日の決定,その 他,その時期を基準とした場合,債権者は,倭 務者に給付を要求することができる, 73). W.. Schubert,. SchuldverhえItnisse. a.. Tei1. a.. 0. der. (Recht. 1, Allgemeiner. Teil).,. S.867.. 74). w.. schubert,. Schuldverhaltnisse. a.. Teil. a.. 0. der. (Recht. 1, Allgemeiner. Teil).,. S.850.. 75). w.. Schubert,. Schuldverhaltnisse. a.. Tei1. a.. 0. der. (Recht. 1, Allgemeiner. Teil).,. S.849.. 76) BGB349条は次のような規定である, BGB349条(解除の意思表示) 解除は他方当事者に対する意思表示を通じて 行われる. 77)形成権という概念は, 1903年,ベルリ ンでのゼッケルの講演で,はじめて「形成 権」 (Gestaltungsrecht)という名称として 提唱されたものである(EmilSeckel,Die Gestaltungsrecbte. des. btlrgerlicben. Recbts,. 1903,S.5.).このゼッケルによる形成権とい う造語の作成についてデレ(D61le)は, ミール・ゼッケルは,我々ドイツ民法学が 誇るべき,もっとも輝かしい論文の一つに よって,非常に適切で簡素な造語である Gestaltungsrechtという言葉を提示して,そ の権利の特質を他の権利と明確に区別して説. 「エ. (297). 105. 明して,その本質の特徴,その発生・変更・ 譲渡・消滅等を研究しつつ,この新しく発見 された権利の包括的理論を展開した.」.そし て,これは, 「我々の権利体系欠陥を埋めた 発見であった. 」と評している(HansD61le, H. Juristische Entdeckungen, Verhandlungen des 42. Deutschen Juristentags Bd. Ⅱ. Teil B, 1958, S.10).形成権概念の発展について論じる ものは,石坂音四郎「形成権(私権ノ新種類)」 『改纂民法研究 上巻』 (有斐閣, 1923年),永 田真三郎「形成権概念の成立過程」関西大学法 学論集33巻4・5・6合併号(1974年),同「形 成権理論の展開(-)」関西大学法学論集36巻 2号(1976年),本田・前掲(脚註47),小野 秀誠「形成権の発展と私権の体系」一橋法学3 巻3号(2004年),などがある. 「解除主張のための形式 78) レーザーは, は, BGBの協議においてなんらの問題が 生じなかった.最初から解除の効果が直 接に発生する一方的意思表示で一致してい た.それは,価値ある条件構成(Bedingungskonstruktion)の遺産であるとともに,また, 既にADHGBで認められていた.権利条件 (Potestativbedingungen)に基づき,権利者に 法関係を直接に変更し,あるいは,すぐに形成 するかのような権利を与えた.既に19世紀に おいて,留保された条件として解除の効果は自 動的に,すなわち,不確定な結果や条件によっ. て発生するだけでなく,いわゆる権利者による 実践(Austlbung)が加わった意思決定を根拠 にして発生すること,が確保された.」として, ADHGBでは,解除は一方な意思表示により行 われることが認められていた,と述べている Vertrag, (Hans G. Leser, Das Rticktritt vom 1975, S. 78) てつひろ 横浜国立大学大学院国際 [おおたき 社会科学研究科博士課程後期].
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