• 検索結果がありません。

ケベック民法典中の国際私法規定について 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ケベック民法典中の国際私法規定について 利用統計を見る"

Copied!
40
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ケベック民法典中の国際私法規定について

著者名(日)

笠原 俊宏

雑誌名

東洋法学

42

2

ページ

121-159

発行年

1999-03-15

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000455/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

︻研究ノート︼

ケベック民法典中の国際私法規定について

東洋法学

一 一一 三 目 次 緒言 改正の経緯 総則規定の内容および特質

54321

基本規定 性質決定 反致 不統一法国法 公序 四 各論規定の内容および特質  ︵1︶ 国際家族法  ︵2︶ 国際物権法  ︵3︶ 国際債権法  ︵4︶ 国際手続法 五 結語 ︵参考資料︶ケベッタ民法典中の国際私法規定 121

(3)

ケベック民法典中の国際私法規定について 緒 言  カナダの諸州の中にあって、殊の外その政治的動向が注目されているのがケベック州である。英国系住民が比 較的に多い他の諸州に対して、ヶベック州は比較的にフランス系住民が多いことは周知のところである。従って、 言語を始めとして、その文化もフランスから移入されたものが多く、他の諸州との異質性を背景として、カナダ からの独立の気運が高揚していることは、しばしば報道されてきたところである。ケベックが他の諸州と異なる 点は、法律の面においても見ることができる。すなわち、カナダはコモン・ウェルスを構成する一国家として、 その法体系もいわゆる英米法系に属するそれを有している。それを国際私法に限ってみても、カナダにおける国 際私法は英米型のそれであって、大陸型国際私法と異なる構造を有していることはよく知られている。後者が抵 触規則によっていずれかの国家ないし領域の法律を準拠法として選定し、それによって当面の渉外私法問題を解 決しようとする立場をとるものであるのに対して、前者は、その特徴について強調的にいえば、専ら管轄規則に 頼って準拠法を決定しようとする立場をとるものである。すなわち、自国裁判所の管轄の有無を判断し、そして、 それが肯定された場合には、自国法を当面の問題についての判断の拠り所にしようとする立場をとるのがそれで ある。そのようなカナダの国際私法の中にあって、一九九一年一二月一八日に成立し、そして、一九九四年一月 一日に施行されたケベック州民法典中の国際私法規定は、大陸型国際私法を法典化したものであり、とくに、ス

イス国際私法の影響が強く見られるものとして注目されている︵国島巴90窪9冨み8§Φ身爵o律

122

(4)

ぎ8旨簿一8巴胃一諭ρ鼠ぴひ8一ω”肉ミミらミ尉ミ魯警竃ミミ恥ミ貸職§ミ可試&︵以下、塑Ob﹄bとして引用︶一8ρ℃ひ・ 。“ Φ3三く参照︶。折しも、アメリカ合衆国においても、ケベックと同様、フランス系市民が比較的に多いルイジア ナ州において、同年、国際私法が法典化されている。それら両者にいかなる異同が見られるか、後日、その比較 検討を行なう前提として、まず、本稿は、ケベックのそれがいかなる内容と特徴を有するものであり、そして、 比較立法上いかに位置づけられるものであるかについて、若干の考察を試みようとするものである。

東洋法学

   二 改正の経緯  コモン・ロー系の諸州においては、裁判による法の改正が重視され、また、コモン・ローの法典化が実際上不 可能であるとみられて、法典化が極めて少ないのに対して、例外的に包括的な法典化に取り組んできたのがケベッ ク州である︵森島昭夫“ヶネス・M・リシッタ編﹃カナダ法概説﹄︵一九八四年・有斐閣︶三二頁参照︶。しかしながら、 そこにおける民法典の全面的改正の経緯を辿れば、それが着手されたのは一九五五年にまで遡ることになり︵甲 評鼠畠O一雲pO・段8蝕8・︷冨く緯。鐸①旨慧o惹=餌名営O器げ①p肉息塾N§ω魯蔓∼逗.\§§ミ爵書の−§駄 賊ミ鳴§&帖§ミ湧㌣賊ミ書らミ一。。9ψ認只一︶。︶、その作業には相当に永い年月が費やされている。その理由は、ケベッ クがコモン・ロー系のカナダ諸州の中にあって、ただひとり大陸法系の私法体系を有していたからにほかならな い︵08まR℃8。9“P誘9参照。ケベック州私法がフランス法を維持した経緯については、森島閥リシッタ・前掲書 二二頁以下参照︶。一九六〇年代に、クレポー︵マ︸○議冨霊︶教授を局長とする民法典改正局が設立され 123

(5)

ケベック民法典中の国際私法規定について ︵9Φ目も●鉾ρψ器呉一︶。︶、最初の草案が同局によって公表されたのが一九七五年秋のことである。同草案が 審議を経て一九七七年の民法典草案第九巻となり、その後、様々な修正が加えられ、改正は第一〇巻に及んでい る。一九八八年のケベック民法典予備草案および一九九〇年の法案第一二五号が受け継いでいるのがそれである ︵90窪P8乙F旨・ 。只刈︶9参照︶。その問にも、例えば、一九八一年修正法に見られるような部分的な修正が実 施されていたことが知られる︵森島Hリシック・前掲書一五三頁等参照︶。ちなみに、新しい民法典が施行される 以前にケベックにおいて行なわれていたのは、フランス法を基礎にした一八六六年成立︵一八六七年施行︶の ﹁下カナダ民法典﹂︵Oo80貯出α仁ω器6③墨量︶である︵森島ロリシッタ・前掲書一四三頁、90窪98乙FP 田只Oy参照。なお、英国系のオンタリオが上カナダ︵d署ROき区m︶と呼ばれていたのに対し、ケベッタが下カナダ ︵9≦R9轟紆︶と呼ばれていたことについては、森島目リシッタ・前掲書二三頁参照︶。  翻って、ケベック民法典全体からケベック国際私法に目を転ずれば、それが他の諸州の国際私法と異なること は前述の通りである。兼ねてより、諸州がコモン・ロー上の原則に基づいて渉外私法問題を規律しているのに対 して、ケベック州の規則のみはそれと異なっていた︵森島Hリシック・前掲書二二頁参照︶。下カナダ民法典中の 抵触規則の基本原則はその第六条ないし第八条の三箇条に規定されているが、それらは、動産の制度および﹁場 所は行為を支配する﹂との法諺を制限した制度をもって補いつつ、ナポレオン法典第三条に倣ったものであった。 その後、民法典、民事訴訟法典、その他の法律に抵触規定が置かれたが、その数は多くはない︵90睡98● oFp㎝。 。㎝参照︶。しかし、元来、大陸法の伝統を受け継ぎながらも、現実には、コモン・ローの影響を強く受け 124

(6)

東洋法学

てきたことが看取される。その原因として指摘されているのは、次に掲げる三点である︵以下、9・窪98。 。F呂。 。①参照︶。第一に、カナダ連邦法がコモン・ローに属しており、また、ケベッタ州法の中でも、行政法や 刑法のような公法が同様にコモン・ロー系であるため、例えば、離婚や別居のように、本来、私法の領域に属す る事項についてさえ、それに押されて、外国法の適用が行なわれたことがない点である︵渉外離婚に関する﹁離 婚および付随的救済に関する法律﹂︵一九八六年六月一日施行︶中の渉外規定も管轄規則と承認規則をもって構成されて いる。その法文については、笠原俊宏﹃国際私法立法総覧﹄︵一九八九年、冨山房︶八一頁参照︶。第二に、従来、カナ ダ最高裁判所が往々にしてコモン・ロー上の解決をケベックにも課している点である。その一例が民事責任への 英国抵触規則の導入である︵90窪98乙F忌。 。父違参照︶。そして、第三に、とくに商法にみられるように、 ケベックの実質私法にコモン・ローが浸透している点である。とりわけ商事会社の制度は英国法に由来するもの であり、それが、国際私法上にも飛び火することは避けられない。  かくして、民法典改正局による一九七七年の最終報告に従えば、ケベックの伝統、経済的・社会的利益、およ び、世界的水準の国際私法の統一を顧慮しつつ、近代化を図ることが要請されたのがこの度の改正である ︵90注88﹄F葛。 。①参照︶。国際私法草案は、カステル︵旨ρ○霧邑︶教授を座長とする委員会において準 備され、それが上記民法典改正局報告の中に含められた︵○一Φ巨る﹄ρψ器巣一y︶。このように、ケベックの 国際私法は民法典の一部を構成するものとして位置づけられるものであるが、その内容は、例えば、労働法や消 費者法のように、より広範な分野に亘るものである︵O一窪PP鉾ρω詣巴。しかし、もとより、それがカナ 125

(7)

ケベック民法典中の国際私法規定について ダ国内における地方立法であるということは否めないものであり、立法権限の及ぶ範囲に限定されているため、 例えば、離婚、破産、為替手形等の連邦立法事項は触れられていない︵O一窪昌︶鉾鉾ρψ器ε。なお、新立法 の輪郭を見る限り、総論規定、各論規定、ケベック官公庁の国際的管轄権、外国判決の承認・執行という一般的 な構成が採用されている︵そのような構成について、カステル教授の説明によれば、抵触規定のみならず、民事 訴訟法典に基礎を置く管轄の抵触に関する規定も含まれるに至ったのは、ケベック法上の普遍な国際私法規定を 再編成したことによってもたらされたものである︵いρ9馨900Bヨ窪$一おω弩。R鼠器ω9眉8凶ぎ霧身 Oo号〇三一身O魯ぴ8器轟薯9叶Ω 。旨霊魯9二暮R墨鉱Op巴R一掛智ミ§ミ§警竃こミ鳴ミ&ご§ミ一。βp$9参照︶。 本稿においては、紙幅の関係もあり、それらのうち、とくに抵触規定である総論規定および各論規定に限り、以 下において言及することとしたい。 126 三 総則規定の内容および特質  ︵1︶ [般条項  総則規定の全体を通じて最も注目されるべき点は、一般条項と呼ばれる種類の規定が少なくない点である。そ のような規定として挙げられるのが、第三〇七六条、第三〇七九条および第三〇八二条である。  まず、それらのうち第三〇七六条は、特別な目的の達成のために適用されるべき現行ケベック法が存在すると きは、民法典中の国際私法規定の適用が後退することもあるということを嘔っており、フランス国際私法に伝統

(8)

東洋法学

的な一方主義の思想が底流に潜んでいることが感知される︵O一窪Pg D﹄9ρψ器窪参照︶。また、この規定によっ て思い起こされるのは、一九八七年一二月一八日のスイス国際私法︵国際私法に関する連邦法、以下、﹁スイス 国際私法﹂として引用︶第一八条である。すなわち、﹁特別の目的のため、本法によって指定された法と関係な く、強行的に適用されるべきであるスイス法の規定は留保される。﹂というのがそれである︵笠原・前掲書二壬二 頁︶。また、各個規定においてその立場を具体的に表現しているのが、陸上保険契約に関する第三二九条およ び民事責任に関する第三一二九条である。しかし、ケベック法上の強行規定の適用を定めたこれらの一方的規定 と同時に、双方的抵触規定として強行規定の適用を定めた規定も散見される。すなわち、消費契約における消費 者保護を定めた第三二七条、および、労働契約における労務者保護を定めた第三一一八条がそれである。従っ て、必ずしもケベック法が内国の強行法規の適用のみに腐心しているとばかりはいえず、第三〇七六条が援用さ れることはかなり稀であろうと指摘されている︵9曾P鉾PO4ω.器“参照︶。同条は、単に、渉外私法問題の規 律が民法典中の国際私法にのみ依拠するものではないことを表明したものと解されるべき規定であろう。むしろ、 第三〇七九条が定めているように、密接な関係を有しているいずれかの国の強行規定の適用が正当であり、また、 それが明らかにより優先されるべき利益の保護に繋がる場合には、同国法の適用が各個規定によって指定された 準拠法に勝ると謳う立場に重要な意義を見出すべきであろう。国内立法例として、同様な規定はスイス国際私法 第一九条第一項に見出される。すなわち、﹁本法によって指定される法の代わりに、強行的に適用されることを 主張する他の法の規定が、スイス法の理解によって保護に値し、かつ、当事者の明らかに重要な利益がそれを要 127

(9)

ケベック民法典中の国際私法規定について 求し、かつ、事実関係がその法と密接な関係を有するときは、考慮されることができる。﹂という規定がそれで ある。これは、まさしく強行規定の特別連結の理論を表現しているということができるものである。しかし、第 三〇七九条もまた、第三〇七六条と同様、これまで適用されたことはない︵O一窪p鉾鉾ρψ認㎝参照︶。  また、規律される法律関係と準拠法との密接な関係の要請は、第三〇八二条が規定するところである。すなわ ち、同条は、当事者自治が認められた場合を除き、抵触規定によって機械的に指定された法律が実効的な紐帯を 有しないときは、その適用を退けるべきことを定めている。このような立場も、スイス国際私法第一五条第一項 が、﹁本法が送致する法は、全体の事情により、事実関係が同法と僅かの関係のみを有するが、他の法とははる かにより密接な関係を有することが明らかであるときは、例外的に適用されない。﹂と規定するところと同一で ある。なお、法律回避については、ケベック国際私法においては何ら規定されていないが、連結点の詐欺的取得 によって連結された法は、右第三〇八二条にいわれるところの密接な関連性に欠けるものとして、その適用は排 除されることになるであろう︵O一窪p斜騨ρψ器S参照︶。  ︵2︶性質決定  法律関係の性質決定については、法廷地法説の立場がとられている︵第三〇七八条第一項本文︶。その立場は国 際私法規定の国内法的性質を浮き彫りにするという利点を有するという見解がある︵O霧け90PoFP爵。 。。︶。 但し、物が動産であるか、それとも不動産であるかの性質決定は所在地法に依るべきとされている︵同但書︶。 それが、準拠法の適用の実効性の要請に基づくものであることは指摘されるまでもないであろう︵08睡98。 128

(10)

東洋法学

o一fマ昭ビ参照︶。  ︵3︶反 致  反致については第三〇八O条がそれを否定する立場を明言している。ちなみに、これはスイス国際私法第一四 条がとっている反致肯定の立場には追随しない立場である。このような反致の制約は、選択的連結や密接な関連 性の原則や一般条項といった柔軟な連結を可能とする規則の採用に符合するものとして説明されうる一方、反致 は第三〇八二条のような一般条項の発動の要件を満たさない例外的な場合に訴えることができる方法であり、そ れが剥奪されることは惜しまれるという見解もある︵08窪98らF言旨。参照︶。  ︵4︶ 不統一法国法  ケベック国際私法上、場所的不統一法国法が指定された場合の準拠法の決定について問題となることはない。 蓋し、そこにおいて採用されている主要な連結点は住所であるからである︵90窪28乙FP詔ω参照︶。住所 は不統一法国を包括的に表象する国籍と違い、それが存在する場所はいずれかの領域中に特定されており、従っ て、住所地法はいずれかの法域と一致することになる。それに対して、人的不統一法国法の場合には、そのいず れの法体系に依拠すべきかの問題は、住所を連結点とした場合においても生じうる問題である。その点について、 第三〇七七条は、まず、同国に人際法があればそれに依るという間接指定主義の立場をとり、そして、それがな いときは、密接関連性を基準とする立場に基づく解決がなされるべきことを規定している。これは法例第三一条 の立場と同一である。 129

(11)

ケベック民法典中の国際私法規定について

 ︵5︶公序

 ケベック国際私法における公序条項は二つの点においてその特徴を有する。すなわち、ひとつは、第三〇八一 条が、外国法そのものが公序に反するとして、それを排除すべきとするものではなく、その適用の結果が公序に 反する場合にそれを排除すべきとしている点である。この立場が、例えば、内国関連性などの具体的な事情を考 慮すべきことを求めているとみられることは、わが法例の場合と異なるところはない。注目されるべきであるの は、公序の内容に関わるいまひとつの点である。すなわち、同条は、﹁国際的関係において理解されているよう な公の秩序﹂を外国法の適用の排除の基準とすべきことを明文をもって謳っている。これは、いわゆる国際公序 が基準とされるべきことを意味しているものとみられるが、その輪郭によって示された概念の内容が客観的な明 確性を有することが極めて困難であることは、改めて指摘されるまでもないであろう。いずれにしても、ケベッ ク国際私法が公序則の発動を例外的なものに止めるとしたならば、これまで、必ずしも馴染みの深くない﹁強行 連結の規則﹂が重要な役割を果たすことになるのではないかという指摘が行なわれている︵90窪98●oFP $O、参照︶。 130 四 各論規定の内容および特質 ︵−︶ まず、 国際家族法 属人法事項として、 自然人の身分および能力についてはその者の住所地法が規律し、また、法人のそれ

(12)

東洋法学

らについてはその設立準拠法が規律すべきことが総則として定められている︵第三〇八三条参照︶。自然人につい ての住所主義の原則はケベックにおいて伝統的な立場であり、それが確立されているということができる。しか しながら、今日における連結規則の精緻化によって、単純な住所主義が貫徹されることが少なくなってきている ことは、ケベック国際私法の場合も同様である︵O一①馨も﹄。ρψ器。 。参照︶。なお、婚姻の挙行、親子関係、遺 言等の一部の事項について国籍主義も併用されていることは、それらについて個々に論及する際に改めて触れる こととしたい。なお、上記の原則と同時に、緊急または重大な支障の場合には、ケベック法が人身または財産の 保護を確保するために暫定的に適用されることができることが定められており︵第三〇八四条参照︶、その点にお いても、住所主義は制限されているということができる。  各論中、婚姻の実質的成立要件について、各婚姻当事者の属人法の配分的適用の立場がとられていることは、 法例とも同様である。それに対して、その方式については、婚姻挙行地法または当事者の一方の住所もしくは国 籍が属する国の法のいずれに依ることもできるとされており、方式の点において、婚姻保護が図られている︵第 三〇入八条参照︶。また、婚姻の効果については、それが身分的効果であるか、財産的効果であるかにかかわらず、 夫婦の共通住所地法、共通居所地法、最後の共通居所地法、婚姻住所地法の段階的連結の立場がとられている ︵第三〇八九条参照︶。その結果、夫婦間の遺産が婚姻の効果の問題として性質決定されたならば、右の規則がケ ベックに住所を有するすべての婚姻当事者に適用されることになるのに対して、それが、約定にせよ、法定にせ よ、夫婦財産制の問題として性質決定されたとしたならば、第三ご一二条に従い、外国法によって規律されるこ 131

(13)

ケベック民法典中の国際私法規定について とになる︵O一窪p勲斜9ψ器。参照︶。しかしながら、いずれにしても、第三〇八二条に定められた﹁密接な関 連性の原則﹂条項が介入することにより、当初の準拠法は密接関連法によって取って代わられることになるとみ られる︵の一窪Pまα参照︶。さらに、別居についても、ケベック法をもって婚姻住所地法に代えているほかは、 同様の規則が支配している︵第一二〇九〇条参照︶。  実親子関係の準拠法の選定においては、子の保護が理念とされている。子にとって最も有利な法律の択一的適 用を命じているのが、親子関係の確定に関する第三〇九︸条第一項である。最も有利であるということが、実質 的な考慮の結果によるそれであることはいうまでもないであろう。しかも、それには、子および両親の一方の住 所地法および本国法という広範な連結の多元化が絡められている。また、親子間の法律関係の準拠法は子の住所 地法による︵同条第二項︶.一方、養子縁組においては、子の住所地法上の保護条項︵子の養子縁組に対する同 意および適当性に関する規則︶をもって、子の実質的保護が図られている︵第三〇九二条第一項︶。子の監護につ いても子の住所地法が基準とされる︵第三〇九三条︶。  扶養義務の準拠法については、わが国をも含め、多くの国々がハーグ条約に倣った規定を有しているのに対し て、ケベック国際私法上の規則は必ずしもそれと一致するものではない。しかしながら、扶養権利者の住所地法 が本則とされ、また、それによって扶養義務者の扶養義務が認められない場合には、扶養義務者の住所地法が補 則として適用されるべきものと定められている︵第一二〇九四条参照︶。このように、実質法上の判断の結果に従っ た段階的連結の立場がとられている点は、ハーグ条約と同様である。また、離婚夫婦、別居夫婦、婚姻無効夫婦 132

(14)

東洋法学

の間の扶養義務について、それぞれ、離婚、別居、婚姻無効の準拠法に依らしめている点もハーグ条約と同様で ある︵第三〇九六条参照︶。  ︵2︶ 国際物権法  目的物の所在地法主義を物権の準拠法の原則とし、例外的に、移動中の物については仕向地法によると定める のが第三〇九七条である。相続の準拠法の選定については異則主義が採用されており、動産の相続については被 相続人の最後の住所地法に依り、一方、不動産の相続についてはその所在地法に依るべきことが定められている ︵第三〇九八条第一項︶。しかし、これも実際には補則であるということができるであろう。蓋し、右の規則と同 時に、当事者意思による準拠法の選定が認められているからである。すなわち、人は遺言をもってその者の死亡 に因る相続の準拠法を指定することができるものと定められており、指定当時または死亡当時の国籍ないし住所 が属する国の法からの選択が認められている。不動産相続については、さらに、その所在地法もその範囲に含ま れる︵同条第二項︶。ちなみに、このような連結規則のもとにおいて、具体的な準拠法の適用関係がいかように なるか、ハワイに不動産を有するカナダ在住の日本人の相続の準拠法を例に挙げるならば、次のような選択の余 地があると思われる。まず、第一に、法選択が行なわれなかった場合には、動産相続にはケベック法が適用され、 他方、不動産相続にはハワイ州法が適用される。第二に、法選択により、日本法またはケベック法が相続全体に 適用される。第三に、同じく法選択により、動産相続には日本法、他方、不動産にはハワイ州法が適用される。 そして、また、より広範な法選択の自由が遺言の方式について認められている。すなわち、遺言作成地法のほか、 133

(15)

ケベッタ民法典中の国際私法規定にっいて 遺言作成当時または遺言者死亡当時の遺言者の住所地法または本国法に依ることもできるとするのがそれである ︵第三一〇九条第一項および第三項参照︶。但し、そのような準拠法選定の自由も、推定相続人の期待権を阻害した り、また、一定の財産が、その所在地国法に依り、その経済的、家族的または社会的目的のために服する特別の 相続制度を侵害する範囲において、制限されることとなる︵第三〇九九条第一項および第二項︶。そこにいう推定 相続人の期待権とは、例えば、遺留分権のことを意味しているとみられることはいうまでもない ︵○一窪p卑鉾 ρ”ω●躍H参照︶。  動産担保に関する詳細な規定︵第三一〇二条ないし第三一〇六条︶は、合衆国統一商法典、カナダコモン・ロー 諸州の私有財産担保法、スイス国際私法から様々の啓示を受けているといわれている︵9窪p鉾鉾ρψ謹N参 照︶。また、信託に関する詳細な規定︵第三一〇七条および第三一〇八条︶が定められていることも、今後、ケベッ ク国際私法の重要な特徴となるものであり、それらの規定は、相続の場合に限らず、広く活用されつつあるとい われている︵O一窪p一げす参照︶。  ︵3︶ 国際債権法  契約については、当事者自治の原則が採用されており、明示的または黙示的に指定された法律に依るべきこと が定められている︵第三一一一条第一項参照︶。当事者による法律の指定がないか、または、指定された法律が法 律行為を無効とするときは、問題となる法律行為の性質および諸般の事情を考慮して、それと最も密接な関係を 有する国の法律が適用され︵第三二二条参照︶、そして、契約が有する最も密接な関係は、契約の特徴的給付の 134

(16)

東洋法学

債務者の住所または法人の営業所が所在する国との間に存在するものとみなされる︵第三二三条参照︶。それら の規定が一九八○年六月一九日の契約債務の準拠法に関するローマ条約における立場に倣っていることは、公式 に表明されているところである︵O一窪P鋤る●ρωω認NF圏ω参照︶。契約債務の準拠法に関するヨーロッパ共 同体条約も参考にされたといわれている︵いΩ9ω琶︸8乙芦唱.B①参照︶。一方、法律行為の方式については、 多元的な連結が可能とされ、それをもって法律行為の成立の保護が図られている。すなわち、行為地法への連結 を原則としながら︵第一一二〇九条第一項参照︶、そのほか、法律行為の実質の準拠法、または、法律行為の目的と なる財産の契約締結当時の所在地法、さらに、または、契約締結当時の当事者の一方の住所地法によって規定さ れた方式のもとになされている行為も有効とされる︵同条第二項参照︶。これによって、法律行為が方式の面に おいて無効となることは殆どないのではないかとさえ評されている︵O一窪PP鉾ρψ謹。 。参照︶。さらに、遺言 の方式については、前述の通りである。  債権各論として、売買契約、代理契約、消費者契約、労働契約、陸上保険契約、債権譲渡、仲裁、夫婦財産制、 事務管理、非債弁済、不当利得、不法行為、時効、証拠に関して規定がおかれている。これらの事項に関する規 定のうち注目されるのは、次に挙げる諸規定である。  まず、当事者によって売買準拠法が指定されていないときは、売り主の居所ないし営業所所在地の法律が基準 とされるが、売買契約が買い主の居所ないし営業所所在地とより密接な関係を有するとみられる一定の場合には、 後者の法律が基準とされる︵第三二四条参照︶。競売や株式市場における売買は、それらが実行されている地の 135

(17)

ケベック民法典中の国際私法規定について 法律が基準とされる︵第三一一五条参照︶。  弱者保護の理念は、消費者契約および労働契約に見い出される。その理念の発現として、前者においては、一 定の場合に、消費者の居所地法上の強行規定がその者に保障する保護を剥奪する結果をもたらしてはならないと され、また、当事者による準拠法の指定がないときには、消費者の居所地法が基準とされる︵第一一二一七条参照︶。 他方、後者においては、労働者が平常その労務を遂行する地の法律上の強行規定がその者に保障する保護を剥奪 する結果をもたらしてはならないと定められ、また、労働者が他の国家に一時的に配置されているか、または、 その者が平常同一の国家においてその労務を遂行しないときは、その雇い主がその住所もしくはその営業所を有 する地の法律上の強行規定が労働者に保障する保護を剥奪する結果をもたらしてはならないと定められている ︵第三一一八条参照︶。当事者による準拠法の指定がない場合には、労務提供地法、または、その雇い主の住所も しくはその営業所所在地の法律が基準とされる。  夫婦財産制についても、それが契約による場合には、当事者自治の原則が支配する法律行為として、債権法上 の契約一般の場合と同様の規則が行なわれる︵第三=三条参照︶。準拠法の指定が行なわれていないときは、当 事者の住所地法に依るとするのが法律行為の一般原則であるが、夫婦に共通のそれがないときは、夫婦の共通居 所地法、それもないときは、夫婦の共通本国法、さらに、それもないときは、婚姻挙行地法が段階的に適用され る︵第三一二三条参照︶。  法定債権については、その原因となった事実が発生した地の法律による︵第三一二五条および第三一二六条第一 136

(18)

東洋法学

項参照︶。不法行為地と結果発生地とが異なる場合には、行為者がそのことを予見すべきであったときに限り、 後者の法律が基準とされる︵同項参照︶。しかし、加害者と被害者とが同一国にそれらの者の住所または居所を 有するときは、その地の法律が基準とされる︵同条第二項参照︶。製造物責任については、製造業者の営業所、そ れがないときは、その居所が所在する国の法律、または、物が取得された国の法律の中から、被害者が準拠法を 選択することが認められている︵第三一二八条参照︶。この立場は、ハーグ条約に比して、被害者の常居所や事故 発生地などの連結点が採用されていない点において、連結可能な法律の範囲は一見するところ狭いようにみられ る。しかし、被害者が準拠法を選択することができる点において、その実質的な保護の確保はより強いというべ きであろう。  証拠および時効に関する規定がおかれることは、比較立法上、むしろ稀である。これらは、いずれも、実体法 上の問題であるか、それとも、手続法上のそれであるかが争われているところの問題である。ケベック法は、そ れらについて、いずれも実体法上の問題として、争訟の実質に適用されるべき法律が基準となることを定めてい る︵第三二二〇条および第三二一二条参照︶。  ︵4︶ 国際手続法  ﹁手続きは法廷地法に依る﹂の原則はケベック国際私法においても採られており、それが明文をもって規定さ れている︵第三一三二条参照︶。但し、仲裁手続きについては、当事者によるその準拠法の選択が認められており、 それが行なわれなかったときは、原則に従い、仲裁判断が下される国の法律に依るべきことが定められている 137

(19)

ケベック民法典中の国際私法規定について ︵第三一三三条参照︶。従って、仲裁人が独自に手続き規則を定めることは認められないこととなる︵○一8PP鉾 P︸ψ謡9参照︶Q    五 結  語  草案の作成者として、立法化に直接に携わったカステル教授の言葉によれば、ケベック民法典に採用された諸 規定は、全体として、大部分が確立された判例法理を確認したものであり、ケベック法においてこれまで普遍的 な国際私法規則が再編成されたものである︵O霧琶もや。Fp爵9参照︶。また、そのほか、ケベック国際私法の 今回の改正は完壁さとは程遠いながら、未だ現実的ではない将来的問題をも見据えた一面をも有しており、さら に、ケベックが未だ批准していない国際条約に向けて前進した立法であるという評価もみられる︵90窪98。 。F呂3参照︶。その一方、革新的な規定も多いといわれている。とくに密接な関連性の原則の実定法化は、柔 軟な準拠法の選定を可能とするという点において、カナダにおいても高く評価されている点である︵O器け90や o一fマO零gω三く。参照︶Q  しかし、率直にいえば、国際私法規定をも含めたこの民法典のカナダ国内における評価は、ここにおいては、 必ずしも主要な関心事ではない。むしろ、ケベックが、コモン・ロー諸州に囲まれ、そして、とくに公法分野は それらの諸州と同様にコモン・ロー上の立場をとりながら、その国際私法において、いかなる内容をもって大陸 型のそれの法典化を実現しているかが最も興味深い点である。そのような観点から、ケベック国際私法を概観す 138

(20)

東洋法学

ることにより、属人法における住所主義、ならびに、物権行為および債権行為の準拠法の選定における属地法主 義を介した接近が、構造を決定的に異にする二つの型の国際私法の架け橋の役目を果たしうることが示唆されて いるということができるであろう。その意味において、今後も、ケベック国際私法の運用のいかんについては注 目されるところである。  翻って、わが国際私法との比較においていえば、弱者保護の観点に立った連結の多元化が、より進んでいると いうことができる。尤も、その点は、わが法例がむしろ遅れているというべきかもしれない。確かに、平成元年 における法例の一部改正が実施されてからいまだに日が浅いわが国際私法の場合には、今、再び、改正に着手す ることに大いに躊躇があることは当然のことである。しかし、製造物責任の準拠法を始め、抵触規定の欠訣が少 なくないこと、そして、国際条約への参加の態度が消極的に過ぎることは、ケベック国際私法との比較からもま たいえることであろう。  以下に掲げるのは、ケベック民法典第一〇巻の国際私法規定の試訳である。その訳出にあたっては、肉恥ミ恥 らミ融ミ魯緊◎蹄蝋ミ鳴ミ&ご§ミ辱試憲一8ρPα謹簿ω巳<●に掲載されている仏語の原文に拠った。同じく仏語 法文は、○霧9一るPo霊も6ミ①什ω巳<。にも掲載されている。また、英語法文は、○一窪POや9“や崔一魯紹ρに 掲載されており、さらに、独語法文は、ωΦおBき⇒\男段其冒8旨讐一9巴oω国ゴ①−琶α囚冒房3臥霞9露堕一No 。. 口既R仁昌堕ψ8律に掲載されている。 139

(21)

ケベッタ民法典中の国際私法規定について ︵参考資料︶ ケベック民法典中の国際私法規定  民法典︵一九九一年一二月一八日成立︶   第一〇巻 国際私法   第一編 総 則 第三〇七六条  本巻の規定は、ケベックにおいて施行されている法規であって、その適用がその特別の目的のために課せられ るものの留保のもとに適用される。 第三〇七七条  いずれかの国家が異なる立法権を有するいくつかの領土的単位を包含するときは、それぞれの領土的単位は国 家と見倣される。  いずれかの国家が異なる種類の人に適用されるべきいくつかの法体系を包含するときは、同国家の法律へのい かなる送致も、同国家において施行されている規則によって決定される法体系に対して行われる。但し、かよう な規則がないときは、送致は事情と最も密接な関係を有する法体系に対して行われる。 第三〇七八条 140

(22)

東洋法学

 性質決定は受理裁判所の法体系に従って行われる。但し、動産か不動産かのような物の性質決定は、その所在 地法に従って行われる。  裁判所がいずれかの法制度を知らないか、または、それがその制度を異なる指定のもとにおいてか、もしくは、 異なる内容をもってしか知らないときは、外国法が考慮されることができる。 第三〇七九条  正当かつ明らかに優勢な利益が求めるときは、事情が密接な関係を呈示する他の国家の法律上の強行規定に効 力が付与されることができる。  それについて決定するため、その規定の目的、および、その適用から生じる結果が考慮される。 第三〇八O条  本巻の規定によって外国法が適用されるときは、その抵触法規を除き、同国家の国内法規が問題となる。 第三〇八[条  外国法規の適用は、それが国際的関係において理解されているような公の秩序と明らかに相容れない結果へ導 くときは排除される。 第三〇八二条  例外として、本巻によって指定された法律は、情況の全体を考慮して、事情がその法律とかけ離れた関係しか 有せず、かつ、それが他の国家の法律と非常により密接な関係にあることが明らかなときは適用されない。本規 141

(23)

ケベック民法典中の国際私法規定について 定は、法律が法律行為において指定されるときは適用されない。 第二編 法律の抵触 第一章 属人法 第一節 総 則 第三〇八三条  自然人の身分および能力は、その者の住所地法によって規律される。  法人の身分および能力は、その者の活動につき、それが実行される地の法律の留保のもとに、その者がそれに よって設立されている国家の法律によって規律される。 第三〇八四条  緊急または重大な支障の場合には、受理裁判所の法律が、人またはその財産の保護を確保するため、暫定的に 適用されることができる。 142 第二節 各個規定

第一款無能力者

(24)

東洋法学

第三〇八五条  被保護成年者の法制度および未成年者の保護は、その対象となる者の住所地法によって規律される。  ケベック外に住所を有する未成年者または被保護成年者がケベックに財産を所有するか、または、そこにおい て行使すべき権利を有し、かつ、その住所地法がその者が代理人を有することを規定しないときは、ケベック法 により、後見人または財産管理人が未成年者または被保護成年者を代理することができるすべての場合において、 その者を代理するための後見人または財産管理人がその者に任命されることができる。 第三〇八六条  法律行為の当事者であって、その者の住所地国の法律によれば行為無能力者である者は、その者が他方当事者 の住所地国の法律によれば行為能力者であって、かつ、行為が同国において行われたときは、その他方当事者が その者の行為無能力を知っていたか、または、知るべきであった場合でない限り、その行為無能力を主張するこ とはできない。 第三〇八七条  法律行為の当事者である法人は、その者のために行動する者の代表権に対する制限が他方当事者の住所地国の 法律によれば存在せず、かつ、行為が同国において行われたときは、その他方当事者が、その職務上またはその 制限を主張する当事者とのその関係上の理由によって、その制限を知っていたか、または、知るべきであった場 合でない限り、その制限を主張することはできない。 143

(25)

ケベック民法典中の国際私法規定について    第二款 婚 姻 第三〇八八条  婚姻は、その実質的要件につき、婚姻当事者の身分に適用される法律によって規律される。  それは、その形式的要件につき、その挙行地法、または、婚姻当事者の一方の住所もしくは国籍が属する国家 の法律によって規律される。 第三〇八九条  婚姻の効果、とくに、夫婦の財産制にかかわらず両者に課せられるものは、それらの者の住所地法に服する。  夫婦が異なる国家に住所を有するときは、それらの者の共通居所地法、または、それがない場合には、それら の者の最後の共通居所地法、または、それがない場合には、婚姻挙行地法が適用される。    第三款 別 居 第三〇九〇条  別居は夫婦の住所地法によって規律される。  夫婦が異なる国家に住所を有するときは、それらの者の共通居所地法、または、それがない場合には、それら の者の最後の共通居所地法、または、それがない場合には、受理裁判所の法律が適用される。  別居の効果は別居に適用された法律に服する。    第四款実親子関係および養親子関係 144

(26)

東洋法学

第三〇九一条  親子関係の確定は、子の出生の当時における子またはその両親の一方の住所地法または本国法であって、子に とって最も有利である法律によって規律される。  その効果は子の住所地法に服する。 第三〇九二条  子の養子縁組に対する同意および許可に関する規則は、その者の住所地法が規定するそれとする。  養子縁組の効果は養親の住所地法に服する。 第三〇九三条  子の監護はその者の住所地法によって規律される。    第五款 扶養義務 第三〇九四条  扶養義務は扶養権利者の住所地法によって規律される。但し、扶養権利者が同法のもとにおいて扶養義務者か らの扶養料を取得することができないときは、準拠法は後者の住所地法とする。 第三〇九五条  傍系親族または姻族の扶養請求権は、その者の住所地法によれば、扶養義務者につき、請求者に対するいかな る扶養義務も存在しないときは認められない。 145

(27)

ケベック民法典中の国際私法規定について 第三〇九六条  離婚したか、別居したか、または、その婚姻が無効であると言い渡された夫婦の間の扶養義務は、 または無効に適用されるべき法律によって規律される。 第二章 物権の準拠法 第一節 総 則 第三〇九七条  物権およびその公示は、その目的となる物の所在地法によって規律される。  但し、移動中の物に関する物権は、その仕向地国の法律によって規律される。 離婚、別居 146 第二節 各個規定    第一款 相 続 第三〇九八条  動産を目的とする相続は、被相続人の最後の住所地法によって規律される。 所在地法によって規律される。 不動産を目的とする相続は、その

(28)

東洋法学

 但し、人は、その者の相続の準拠法が指定の当時またはその死亡の当時におけるその国籍もしくはその住所が 属する国家の法律、さらに、または、その者が所有する不動産のみに関する相続においては、その不動産の所在 地法であることを条件として、遺言によってその準拠法を指定することができる。 第三〇九九条  相続の準拠法の指定は、指定された法律が、被相続人の配偶者または子から、かような指定がなかったならば その者が有していた本来の相続権を重大な割合で剥奪する範囲において、効力を有しない。  相続の準拠法の指定は、それが、一定の財産が、その所在地国法により、その経済的、家族的または社会的目 的のために服する特別の相続制度を侵害する範囲においても、効力を有しない。 第三ロOO条  外国に所在する財産につき、相続法の適用が実現されることができない範囲において、ケベックに所在する財 産に対しては、とくに修正分割によって確認された取り分の回復、負債への新たな参加または代償的先取りの方 法により、調整が行われることができる。 第三一〇一条  被相続人の相続を規律する法律が、その者のためにケベックにおいて活動することができる管財人または清算 人を定めず、しかも、相続人がそこにおいて行使すべき権利を有するか、または、何らかの相続財産がそこに存 在するときは、ケベック法に従い、被相続人に管財人または清算人が任命されることができる。 147

(29)

ケベック民法典中の国際私法規定について

   第二款動産担保

第三一〇二条  動産担保の有効性は、その設定の当時、それが負担を課す物の所在地国の法律によって規律される。  公示およびその効果は、負担を課せられた物の現在の所在地国の法律によって規律される。 第==〇三条  動産であって、それが存在する国家に留まることが予定されていないものはすべて、その仕向地国の法律に従 い、担保を設定されることができる。但し、その担保は、同国の法律に従って公示されることができるが、公示 は、物が担保設定の三十日以内に実際にそこに到達するときにのみ、効力を有する。 第三旧〇四条  担保であって、その設定の当時、物が所在していた国家の法律に従って公示されていたものは、それが次に掲 げる事実の最初のものが実現される前にケベックにおいて公示されているときは、最初の公示から、ケベックに おいて公示されたものと見倣される。  一 物が担保の設定の当時所在していた国家の公示が効力を停止すること  二 物がケベックに到達したときから三十日の期間が徒過したこと  三 債権者が物がケベックに到達したことを通知されたときから十五日の期間が徒過したこと  但し、担保は、設定者の活動中に物を取得した買い主に対抗することはできない。 148

(30)

東洋法学

第=二〇五条  通常、一か国より多くの国家において利用される有体動産に課す担保、または、無体動産に課すそれの有効性 は、設定者がその設定の当時住所を有していた国家の法律によって規律される。  公示およびその効果は、設定者の現在の住所地国の法律によって規律される。  本規定は、債権もしくは無記名証券によって確認された無体動産に課す担保にも、債権者が実行する証書の保 持によって公示された担保にも適用されない。 第=二〇六条  担保であって、その設定の当時、設定者の住所地国の法律によって規律され、かつ、公示されていたものは、 それが次に掲げる事実の最初のものが実現される前にケベックにおいて公示されているときは、最初の公示から、 ケベックにおいて公示されたものと見倣される。  一 設定者の過去の住所地国における公示が効力を停止すること  二 設定者がケベッタにその新しい住所を設定したときから三十日が徒過したこと  三 債権者が設定者のケベックにおける新しい住所を通知されたときから十五日が徒過したこと  但し、担保は、設定者の活動中に物を取得した買い主に対抗することはできない。    第三款 信 託 第=二〇七条 149

(31)

ケベック民法典中の国際私法規定について  文書中に明示的に指定された法律、または、その指定が同文書中の規定上の明らかな方法に基づく法律がない とき、または、指定された法律が制度を知らないときは、法律行為によって創設された信託の準拠法は、信託と 最も密接な関係を呈示する法律とする。  準拠法を決定するため、とくに信託が管理される場所、財産の所在、受託者の居所または営業所、信託の終極 目的、および、それが実行される場所が考慮される。  分離できる信託の構成要素、とくにその管理は、異なる法律によって規律されることができる。 第三一〇八条  信託を規律する法律は、当面の問題がその有効性またはその管理に関するか否かを決定する。  同法はまた、他の国家の法律によるその代替、ならびに、分離できる信託の構成要素の準拠法の代替の可能性 および諸条件を決定する。 150 第三章 債務の準拠法 第一節 総 則    第一款 第三脚〇九条 法律行為の方式

(32)

東洋法学

 法律行為の方式は、それが行われた地の法律によって規律される。  但し、その行為の実質の準拠法、または、その目的となる財産がその締結の当時所在する場所の法律、さらに、 または、行為の締結当時における当事者の一方の住所地法によって規定された方式のもとになされている行為は、 有効とする。  加えて、遺言による処分は、遺言者が処分を行った当時のものにせよ、その死亡の当時のものにせよ、その住 所地法または本国法によって規定された方式のもとになされることができる。 第三一一〇条  証書は、それが対象がケベックに所在する物権を目的とするとき、または、当事者の一方がそこにその者の住 所を有するときは、ケベック外においてケベックの公証人によって受理されることができる。    第二款 法律行為の実質 第三一一一条  法律行為は、それが渉外的要素を呈示しているか否かにかかわらず、行為において明示的に指定された法律、 または、その指定がその行為の規定上の明らかな方法に基づく法律によって規律される。  但し、それがいかなる渉外的要素も呈示しないときは、それは、指定がない場合に適用される国家の法律上の 強行規定にそのまま服する。  法律行為の全部または単なる一部の準拠法が、明示的に指定されることができる。 151

(33)

ケベッタ民法典中の国際私法規定について 第三一一二条  行為における法律の指定がないか、または、指定された法律が法律行為を無効とするときは、裁判所は、行為 の性質およびそれを取り巻く情況を考慮して、その行為と最も密接な関係を呈示する国家の法律を適用する。 第三一=二条  最も密接な関係は、行為の特徴的給付を満たさなければならない当事者がその居所を有するか、または、行為 が企業の活動中に締結されているときは、その営業所を有する国家の法律との間に存在するものと見倣される。

第二節各個規定

   第一款 売 買 第三一一四条  当事者による指定がない場合には、有体動産の売買は、売り主が契約の締結の当時その居所を有するか、また は、売買が企業の活動中に締結されているときは、その営業所を有した国家の法律によって規律される。但し、 次に掲げるいずれかの場合には、売買は買い主が契約の締結の当時その居所またはその営業所を有した国家の法 律によって規律される。  一 同国において交渉が行われ、かつ、契約が締結されている場合  二 契約が、引渡し義務が同国において履行されなければならないことを明確に定めている場合 152

(34)

東洋法学

 三 契約が、申込みの勧誘に対する回答において、主として買い主によって設定された条件のもとに締結され   ている場合  当事者による指定がない場合には、不動産の売買は、それが所在する国家の法律によって規律される。 第三一一五条  当事者による指定がない場合には、競売における売買、または、株式市場において行われた売買は、競売が行 われている国家の法律、または、株式取引所が存在する国家のそれによって規律される。    第二款 契約による代理 第=二一六条  代理人の第三者とのその関係における権限の存在および範囲、ならびに、代理人の責任または本人の責任が負 わされることができる条件は、本人および第三者によって明示的に指定された法律、または、それがない場合に は、本人もしくは第三者が代理人が活動した国家にその住所もしくはその居所を有するとき、同国の法律によっ て規律される。    第三款 消費者契約 第三一一七条  当事者による消費者契約の準拠法の選択は、契約の締結が、消費者がその居所を有する国家において、特別な 提供もしくは広告によって行われ、かつ、その締結に必要な行為がそこにおいて消費者によって実行されたか、 153

(35)

ケベック民法典中の国際私法規定について さらに、または、消費者の注文がそこにおいて受領されたときは、その地の法律上の強行規定が消費者に保障す る保護をその者から剥奪する結果をもたらしてはならない。  消費者がその共同契約者によって外国において契約を締結するために赴くよう促されたときも、同様である。  当事者による指定がない場合には、消費者の居所地法が同様の情況のもとに消費者契約に適用される。    第四款 労働契約 第三一一八条  当事者による労働契約の準拠法の選択は、労働者が平常その労務を遂行する国家の法律上の強行規定がその者 に保障する保護をその者から剥奪する結果をもたらしてはならず、同様に、労働者が他の国家に一時的に配置さ れているか、または、その者が平常同一の国家においてその労務を遂行しないときは、その雇い主がその住所も しくはその営業所を有する国家の法律上の強行規定が労働者に保障する保護をその者から剥奪する結果をもたら してはならない。  当事者による指定がない場合には、労働者が平常その労務を遂行する国家の法律、または、その雇い主がその 住所もしくはその営業所を有する国家の法律が同様の情況のもとに労働契約に適用される。    第五款 陸上保険契約 第一一二一九条  いかなる反対の契約にもかかわらず、ケベックに所在する物もしくは利益を対象とするか、または、ケベック 154

(36)

東洋法学

においてそこに居住する者によって署名されている保険契約は、受取人がケベックにおいて証券を要求するか、 または、保険業者がそこにおいてそれに署名するか、もしくは、そこにおいてそれを交付する限り、ケベック法 によって規律される。  人の集団保険契約は、会員がその加入の当時ケベックにその居所を有するとき、同じくケベック法によって規 律される。  ヶベック法によって規律された保険契約によって支払うべき総額は、ヶベックにおいて支払われることができ る。    第六款 債権譲渡 第=ニニO条  債権の譲渡性、および、譲受人と被譲渡債権の債務者の間の関係は、被譲渡債権の債務者と譲渡人の間の関係 を規律する法律に服する。

   第七款 仲裁

第三=二条

 当事者による指定がない場合には、仲裁契約は、主たる契約の準拠法、または、同法が契約を無効にする効果 を有するときは、仲裁が行われる国家の法律によって規律される。    第八款 夫婦財産制 155

(37)

ケベック民法典中の国際私法規定について 第三=一二条  約定夫婦財産制の準拠法は、法律行為の実質に適用されるべき一般規則によって決定される。 第三一二三条  夫婦財産契約を締結することなく婚姻している夫婦の夫婦財産制は、婚姻の当時におけるそれらの者の住所地 法によって規律される。  夫婦が当時異なる国家に住所を有するときは、それらの者の最初の共通居所地法、または、それがないときは、 それらの者の共通本国法、または、それがないときは、婚姻挙行地法が適用される。 第三一二四条  夫婦財産制の修正契約の有効性は、修正の当時における夫婦の住所地法によって規律される。  夫婦が当時異なる国家に住所を有するときは、準拠法は、それらの者の共通居所地法、または、それがないと きは、それらの者の財産制を支配する法律とする。    第九款 他の幾つかの債務原因 第三一二五条  事務管理、非債または不当利得の受領は、それらが起因する事実の発生地の法律によって規律される。    第一〇款 民事責任 第=ニニ六条 156

(38)

東洋法学

 他人に引き起こされた損害を賠償する義務は、損害を発生させる事実が起こった国家の法律によって規律され る。但し、損害が他の国家において現われたときであって、行為者が損害がそこにおいて現われることを予見す べきであったときは、同国の法律が適用される。  いかなる場合においても、行為者および被害者が同一の国家にそれらの者の住所またはそれらの者の居所を有 するときは、適用されるのは同国の法律とする。 第三一二七条  損害を賠償する義務が契約上の債務の不履行に起因するときは、不履行に基づく請求は契約の準拠法によって 規律される。 第三=一八条  動産の製造業者の責任は、その原因にかかわらず、被害者の選択により、次に掲げる法律によって規律される。  一 製造業者がその営業所を有するか、または、それがないときは、その居所を有する国家の法律  二 物が取得された国家の法律 第=ニニ九条  本法典の規定は、ケベックにおけるか、または、ケベック外において被り、かつ、ケベックから生じた原料へ の晒しからにせよ、それの利用からにせよ、その原料が処理されていたか否かにかかわらず、結果として生じて いるすべての損害についての民事責任に強行的に適用される。 157

(39)

ケベック民法典中の国際私法規定について

  第一一款証拠

第三=二〇条  証拠は、その確定にとってより好都合である受理裁判所の規則の留保のもとに、争訟の実質に適用される法律 によって規律される。

  第一二款時効

第三=一二条  時効は争訟の実質に適用される法律によって規律される。

        第四章 手続きの準拠法

第三=一一二条  手続きは受理裁判所の法律によって規律される。 第三=モニ条  仲裁の手続きは、他の国家の法律にせよ、制度上または特別の仲裁の規則にせよ、当事者が指定しなかったと きは、それが行われる国家の法律によって規律される。

       第三編 ケベック官庁の国際的管轄権

158

(40)

第四編 ︵省略︶ 外国判決の承認および執行ならびに外国官庁の管轄権 ︵省略︶

東洋法学

159

参照

関連したドキュメント

②利用計画案に位置付けた福祉サービス等について、法第 19 条第 1

計量法第 173 条では、定期検査の規定(計量法第 19 条)に違反した者は、 「50 万 円以下の罰金に処する」と定められています。また、法第 172

(国民保護法第102条第1項に規定する生活関連等施設をいう。以下同じ。)の安

一般法理学の分野ほどイングランドの学問的貢献がわずか

①配慮義務の内容として︑どの程度の措置をとる必要があるかについては︑粘り強い議論が行なわれた︒メンガー

[r]

(消費税法(昭和六十三年法律第百八号)第二十八条第一項(課税標

63―9 法第 63 条第 3 項に規定する確認は、保税運送の承認の際併せて行って