電気刺激療法および電気刺激療法と
温熱・寒冷療法の併用施行が整形外科疾患患者の 鎮痛ならびに運動機能に及ぼす影響に関する検討
弘前大学大学院保健学研究科保健学専攻
提出者氏名: 前 田 貴 哉
所 属: 健康支援科学領域 老年保健学分野
指導教員: 吉 田 英 樹
目次
略語一覧 ... 3
緒 言 ... 4
第一章 腰椎疾患患者に対する経皮的電気神経刺激(TENS)と温熱及び寒冷療法の併用施行が 疼痛に与える影響に関する検討 ... 9
序 論 ... 10
方 法 ... 11
結 果 ... 14
考 察 ... 17
第二章 変形性膝関節症患者に対する経皮的電気神経刺激(TENS)と温熱及び寒冷療法の併用 施行が疼痛及び運動機能に与える影響に関する検討 ... 20
序 論 ... 21
方 法 ... 22
結 果 ... 25
考 察 ... 31
第三章 人工膝関節全置換術後に施行する電気刺激療法の種類の違いが疼痛及び運動機能に 与える影響に関する検討 ... 33
序 論 ... 34
方 法 ... 35
結 果 ... 39
考 察 ... 49
結語と総括 ... 52
謝 辞 ... 554
引用文献 ... 55
英文要旨 ... 60
関連論文 ... 63
○ Takaya MAEDA, Hideki YOSHIDA, Tomoyuki SASAKI, Atsushi ODA:Does transcutaneous
electrical nerve stimulation (TENS) simultaneously combined with local heat and cold applications enhance pain relief compared with TENS alone in patients with knee osteoarthritis? J Phys Ther Sci 29: 1860-1864, 2017.
略語一覧
CS: 中枢性感作(central sensitization)
DNIC: 広汎性侵害抑制調節効果(diffuse noxious inhibitory controls) GCT: ゲートコントロール理論(gate control theory)
LDH:腰椎椎間板ヘルニア(lumbar disc herniation) LSCS:腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal canal stenosis) MCL: 内側側副靭帯(medial collateral ligament)
MES: マイクロカレント療法(microcurrent electrical stimulation) MWS: 最大歩行速度(maximum walking speed)
NMES: 神経筋電気刺激(neuromuscular electrical nerve stimulation) OA: 変形性関節症(osteoarthritis)
PS:末梢性感作(peripheral sensitization)
TENS: 経皮的電気神経刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation) TKA: 人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty)
VAS: 視覚的アナログ尺度(visual analogue scale)
緒 言
本邦では高齢化の加速度的進行に伴い,平均寿命は世界一となり,現在まで世界一の健 康水準を維持している。平成12年度から平成24年度まで行われた,第三次国民健康づく り対策である健康日本21に続き,平成25年度より第4次国民健康づくり対策である健康 日本 21(第 2次)が推進されている。この方針は,「21世紀の少子高齢化や疾病構造の変化 が進む中で,生活習慣及び社会環境の改善を通じて,子供から高齢者まで全ての国民が共 に支え合いながら希望や生きがいを持ち,ライフステージ(乳幼児期,青壮年期,高齢期等 の人の生涯における各段階をいう)に応じて,健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を 実現し,その結果,社会保障制度が持続可能なものとなるよう,国民の健康の増進の総合 的な推進を図るための基本的な事項を示し,平成25年度から平成34年度までの「二十一 世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次)」を推進する。」とされてい る1)。
この方針の中の高齢者の健康について,健康上の問題で日常生活が制限されることなく 生活できる期間,つまり介護や介助を必要としないで生活できる期間である健康寿命の延 伸が示されており,介護保険サービス利用者の増加抑制について目標が定められている。
平成25年度の平均寿命は男性が80.21歳,女性が 86.61歳であるのに対し,健康寿命は男
性が71.19歳,女性が74.21歳となっており,平均寿命と健康寿命との間には男性で約9年,
女性では約12.4年の差がある2)。ここで,要介護となった主な原因について要介護度別で みた場合,要介護者では「脳血管疾患」や「認知症」が多くなっているのに対し,要支援 者では「関節疾患」が 17.2%で最も多くなっている 3)。このことから,要支援状態となっ てしまう最大の原因である関節疾患に対して,介護が必要となる前段階から介入を行うこ とは非常に重要であると考えらえる。
また,同方針の中で介護保険サービス利用者の増加抑制と並び,足腰に痛みのある高齢 者の割合の減少についても目標が定められている。足腰に痛み(「腰痛」か「手足の関節が 痛む」のいずれか若しくは両方の有訴者)のある高齢者の割合は千人当たり,男性で 210.1 人,女性で 266.6人 3)となっており,高齢者の健康を阻害する重大な要因となっているこ とが推察される。特に,日本整形外科学会では「高齢化に伴って運動機能低下をきたす運
動器疾患により,バランス能力および移動歩行能力の低下が生じ,閉じこもり,転倒リス クが高まった状態」のことを運動器不安定症と呼び,これに該当する疾患には腰部脊柱管 狭窄症(Lumbar Spinal Canal Stenosis: LSCS)や脊髄障害,変形性関節症(Osteoarthritis: OA)な どがあるとしている 4)。このような脊椎疾患や変形性関節症に関しては本邦でも非常に罹 患患者数が多く,その結果として身体に疼痛を抱え,運動機能の低下を生じさせてしまう 人々の割合も増加している。
疼痛は組織損傷による炎症が生じた場合に発生するが,炎症に伴う痛みの感作,すなわ ち 痛 み の 反 応 性 が 増 強 す る 現 象 が あ る 。 神 経 系 の 感 作 に は 末 梢 性 感 作(peripheral sensitization: PS)と中枢性感作(Central sensitization: CS)がある。PSではTRPV受容体の閾値 低下やプロスタグランジンによるポリモーダル受容器の閾値低下,エファプスや異所性興 奮などがあげられる5)。CSでは痛みが次第に増強するワインドアップやシナプス伝達効率 が増強した状態である長期増強,抑制性介在ニューロンへの入力減少や抑制系ニューロン の減少・消失に伴う抑制系の減弱などがある6)。
発症時には末梢組織損傷に伴う急性痛であった場合でも,疼痛が過度である場合や,長 期間持続した際にはこのような神経系の感作や可塑的変化を引き起こし,慢性痛に移行す る可能性がある 7)。実際に OA 患者を対象とした CS に関する先行研究も多数あり,
Systematic Reviewにおいても慢性OA患者におけるCSの存在は肯定的なものであると結論
付けている 8)。さらに,疼痛患者では,痛み体験に伴う破局的思考が痛み関連の不安や恐 怖心を助長することで活動性の低下を引き起こし,さらなる疼痛を招く「Fear-avoidance
model (恐怖-回避モデル)」と呼ばれる悪循環を生じさせるとも言われている 9)。また,不
活動は従来から問題視されていた関節拘縮や筋萎縮などの廃用症候群や,持続的な疼痛に より屈筋群の筋緊張が亢進し,更なる疼痛を引き起こす痛みの悪循環も引き起こす可能性 もあり,慢性疼痛の改善には,疼痛を断ち切ることが重要であることは明らかである10-11)。
一般的に,LSCSや腰椎椎間板ヘルニア(Lumbar disc herniation:LDH)などの脊椎・脊髄 疾患や,OA に対する治療では保存療法が第一選択とされ,非ステロイド性消炎鎮痛薬の 内服やブロック療法,関節腔内注射などの薬物治療に加えて運動療法や物理療法が実施さ
れる11-14)。慢性疼痛疾患に対する運動療法の効果に関しては一定のコンセンサスが得られ
ているが 15) , 症例によっては疼痛を生じさせる可能性の高い運動療法に対しては拒否的
な反応を示す場合も臨床現場では多々遭遇する。このような場合,患者の運動療法に対す る拒否的な反応を変える必要があるが,疼痛のマネジメントを行う有効な手段の一つとし て物理療法がある。鎮痛を目的とした物理療法には経皮的電気神経刺激(Transcutaneous
electrical nerve stimulation:TENS)や温熱療法,寒冷療法などがある。TENSとは非侵襲的か
つ経皮的に電気刺激を行うことにより,感覚神経を興奮させ,ゲートコントロール理論
(Gate Control Theory:GCT)や内因性オピオイドシステムを基盤とした鎮痛を引き起こすと
いうものである 16-17)。TENSに関しては,多くの先行研究から神経障害性疼痛や OA由来 の疼痛に対する有効性が認められており,本邦においても広く普及している18-20)。
また,温熱及び寒冷療法も臨床において鎮痛を目的として頻繁に用いられる物理療法の 一つである。温熱療法における鎮痛メカニズムには血管拡張に伴う組織血流の改善や,皮 膚温度受容器の活性化によるGCTなどがあり,先行研究において痛覚閾値の上昇が報告さ
れている21-22)。寒冷療法の鎮痛メカニズムに関しては,神経伝導速度の低下や,温熱療法
と同様にGCTによるものであるとされている21)。OA Research Society International guideline においても,温熱及び寒冷療法は疼痛を含む OAの症状を短期的にコントロールするため に有効な手段であると述べている19-20)。
多種多様な疾患由来の疼痛に対して,温熱及び寒冷療法は鎮痛目的に広く用いられてい るが,神経障害性疼痛に対する鎮痛効果を明確にしている先行研究は皆無である。また,
OAに対する温熱及び寒冷療法の効果に関するSystematic Reviewにおいて,否定的なもの も存在する23)。以上より,神経障害性疼痛やOA由来の疼痛に対する鎮痛を目的とした物 理療法の最適な手法や施行方法は明確にされていないのが現状である。
ここで,TENS と寒冷療法の併用施行が遅発性筋痛後の疼痛や関節可動域を改善させた という先行研究に着目した24)。この報告では遅発性筋痛に対する寒冷療法やTENS単独施 行と比較した場合のTENSと寒冷療法の併用施行の優位性は示されていないものの,筆者 はその手法に関して,他の有痛性疾患に対しても応用できる可能性があるのではないかと 考えた。また,TENS と温熱及び寒冷療法は類似した鎮痛メカニズムを有しているため,
これらを併用施行することで鎮痛面において相乗効果が得られ,結果として運動機能へも 影響を及ぼすのではないかとも考えられる。この仮説を検証するため,研究の第1段階で は腰椎疾患患者の下肢痛に対してTENSと温熱及び寒冷療法を併用施行した場合の鎮痛効
果について検討することとした。また,研究の第2段階では膝OA患者を対象として,TENS と温熱及び寒冷療法を併用施行した場合の鎮痛効果及び運動機能に与える影響について検 討することとした。
また,膝 OA患者に対する運動療法や物理療法などの保存療法が奏功しなかった場合に は,手術療法が適応となる。膝 OAに対する手術療法には高位脛骨骨切り術や単顆型人工 膝関節置換術などがあるが,代表的なものには人工膝関節全置換術(Total knee arthroplasty: TKA)がある 25)。TKAは膝 OA患者の除痛や運動機能の改善を目的として行われるが,比 較的侵襲の大きい手術であるため,術後早期には強い疼痛のために活動制限を生じ,理学 療法を行う上でも阻害因子となり易い。そこで,理学療法を早期からスムーズに進めるた めには疼痛のマネジメントが重要であり,その手段の一つとして,上述したTENSがある。
Rakelらは TKAが施行された症例 317名を対象とした研究において,TENS群では標準的
治療群より膝関節伸展運動時の疼痛及び歩行スピードの改善を認めたと報告している 26)。 また,創傷の治癒促進効果を期待した電気刺激療法の一つにマイクロカレント療法 (Microcurrent electrical stimulation:MES)がある。MES には刺激電流量が 1~999µA という TENS などの他の電気刺激療法よりも微弱な電流量を用いて治療するものである。弱い刺 激はヒトの生理機能を奮い起こすという,アルント・シュルツの法則に基づいており,先 行研究においても,1000µA以下の刺激であれば ATP産生能が増加すると報告されている
27)。TKA患者に対するMESの先行研究では,術後の創部に対してMESを施行した場合に,
術創部の治癒促進と鎮痛剤服用量を減少させたとの報告がある 28)。このように,TENSや MES などの電気刺激療法は,TKA 術後の鎮痛や運動機能の改善,創傷治癒の促進を目的 に施行されており,その治療成果が報告されている。TENSは鎮痛を,MESは創傷治癒を 主体的な目的として施行されるため,それぞれに優位性があると考えられる。しかしなが ら,TENS を施行して鎮痛が得られた場合,術後早期から積極的な理学療法を行うことが 可能となり,効果的に運動機能を改善させ得る可能性がある。また,MESを施行して組織 治癒効果が得られた場合には,組織修復による鎮痛や筋機能の改善が期待されるため,運 動機能の面においても高い治療効果が得られる可能性が考えられる。だが,これまでTKA 術後の治療に用いられる電気刺激療法の種類の違いが治療効果に及ぼす影響について比較 した先行研究は皆無である。そこで本研究の第 3 段階では,TKA 術後において TENS と
MESを施行した場合の鎮痛効果及び運動機能に与える影響について検討することとした。
第一章
腰椎疾患患者に対する経皮的電気神経刺激
(TENS)
と温熱及 び寒冷療法の併用施行が疼痛に与える影響に関する検討序 論
脊椎・脊髄疾患は本邦において罹患患者数が多く,症状としては腰痛や下肢痛などの疼 痛が生じやすく,疼痛を原因とした活動制限を引き起こし易い11-14)。疼痛は運動に対する 恐怖心や不安感を引き起こすため,身体的な不活動を引き起こし,更なる疼痛を引き起こ してしまうという悪循環が大きな問題となる 9-10)。この悪循環を断ち切るためには,まず は疼痛のマネジメントを行う必要があり,その手法の一つとして物理療法がある。鎮痛を 目的とした物理療法の代表的なものに,TENS と温熱及び寒冷療法がある。これらの手法 はそれぞれが単独で施行された場合の鎮痛効果については報告されてきたが16-18,21-22),併 用施行した場合に鎮痛効果に与える影響については,未だ明確なエビデンスが提示されて いない状況にある。
以上から,本研究では,TENS と温熱及び寒冷療法の併用施行が腰椎疾患患者の下肢痛 にどのような影響を及ぼし得るのか検討することを目的とした。
方 法
1. 対象
対象は整形外科医によりLDHまたはLSCSの診断を受け,本研究への参加に書面による 同意が得られた 37例(女性 16例,男性 21例,年齢 58.9±17.7歳)とした。なお,本研究は 医療法人整友会弘前記念病院倫理委員会の承認を受けた(承認番号:29-14)。
対象者の採用条件として,安静時においても下肢痛を有する者とした。除外基準は以下のとお りである:1)末梢循環障害の既往がある者。2)心疾患及び呼吸器疾患を有する者。3)中枢神経疾 患の既往がある者。4)精神疾患を有する者。
2. 実験方法
介入開始前に,各対象者を以下に述べる3群(介入1,2,3)に乱数表を用いてランダムに 振り分けた。以下に介入内容の詳細を述べる。
介入1 (TENS単独施行群):対象者はできる限り安楽な肢位となり,その時点での下肢痛
の程度について,視覚的アナログ尺度 (Visual analogue scale :VAS)を用いて評価した。そ の後,同一肢位のままで酒精綿を用いて皮膚を清拭した後に電極を貼付し,TENS を施行 した。TENS実施時のパルス振幅も記録された。TENS終了直後に再度 VASを用いて下肢 痛の程度を評価した。TENS には電気刺激装置(Trio300,伊藤超短波社製)を使用した。刺 激条件を以下に述べる。刺激波形は対称性二相性矩形波,刺激モードはTENSモード,刺 激周波数は1~50 pulse per second (pps)の変調周波数とし,パルス持続時間は200μsec,刺 激時間は15分間とした。刺激モードおよびパルス持続時間,刺激時間はTENSにおける一 般的なパラメータを用いた 16-17,29)。刺激周波数に関して, 1~4pps の低周波数を用いた TENSではβエンドルフィンやセロトニンが,40pps以上の高周波数を用いたTENSではダ イノルフィンが放出されるため30),本研究においては1~50ppsの変調周波数を採用した。
刺激強度に関して,先行研究において感覚閾値レベルTENSと運動閾値レベルTENSの鎮 痛効果を比較した場合に,運動閾値レベルTENSにおいて主観的にも客観的にも高い鎮痛 効果を示したとの報告があるため31),本研究におけるパルス振幅は,対象者が不快に感じ ずに堪えうる最大強度とした。TENSの電極には自着式電極(PALS 50×50㎜,Axelgard社製)
を使用した。電極の貼付位置に関して,先行研究において疼痛部位と同一のデルマトーム 上に電極を貼付してTENSを施行した場合,十分な鎮痛効果が得られたという報告がある
ため32-33),本研究では下肢痛の生じている部位の中で最も疼痛の強い部位と同一のデルマ
トーム上に電極を貼付した(図1)。
介入2 (温熱併用群):対象者は介入1と同様に,TENS施行前に皮膚を酒精綿にて清拭後
に電極を貼付した。その後,80℃の温水にて加熱したホットパック(HYDROPACKMEL
PX-151,OG GIKEN社製)をビニールで包み,さらにバスタオルで包むことで乾式のホット
パックとし,電極上に設置した。対象者には「暖かく,心地よい程度の温感」となるよう に温度を調整した上で温熱療法を施行した。対象者が温覚を感じたことを確認し,TENS を開始した。TENS実施時のパルス振幅も記録された。TENS終了後は介入1と同様に,VAS を用いて疼痛の程度を評価した。
介入3 (寒冷併用群):対象者は介入1及び2と同様に,TENS施行前に皮膚を酒精綿にて 清拭後に電極を貼付した。冷凍庫で表面温度が約10℃に冷却されたアイスパック (MOIST
HEAT PACK,Duro Medo Industries製)をタオルで包み,電極上に設置した。対象者には冷
痛覚を与えないように注意しながら寒冷療法を施行した。対象者が冷覚を感じたことを確 認し,TENSを開始した。TENS実施時のパルス振幅も記録された。TENS終了後は介入 1 及び2と同様に,VASを用いて疼痛の程度を評価した。
図1 電気刺激治療器(Trio300)およびTENS単独施行場面
3. データ分析方法および統計学的分析
各介入で評価された疼痛の程度に関する分析では,各介入前後のVASの値について,対 応のあるt検定を用いて,各群内での比較を行った。また,各群内において,介入後のVAS 値 か ら 介 入 前 の VAS 値 を 引 く こ と で 変 化 量 を 算 出 し た 。 こ の 変 化 量 に 関 し て ,
Games-Howell検定を用いて,各群間での比較を行った。パルス振幅について,Tukey法を
用いて,各群間での比較を行った。
統計学的分析には R2.8.1が使用された。検定は両側検定とし,有意水準は 5%に設定し た。
結 果
TENS単独施行群には13名,温熱併用群には13名,寒冷併用群には11名が振り分けられた。
また,本研究に起因した事故や副作用の発生は,全対象者において皆無であった。
1. 介入前後のVASの結果
各群における介入前後のVASの値(平均値±標準偏差)を図2及び以下に示す。
TENS単独施行群では,介入前VASが51.7±21.4mm,介入後VASが40.6±24.1mmであり,
介入後に有意なVAS値の減少が認められた。温熱併用群では,介入前VASが53.9±25.7mm,
介入後 VASが 22.4±15.6mmであり,介入後に有意なVAS値の減少が認められた。寒冷併
用群では,介入前 VASが 47.2±22.3mm,介入後 VASが 31.1±18.8mmであり,介入後に有 意なVAS値の減少が認められた。
図2 各群におけるVASの介入前後の変化
2. VASの変化量に関する結果
各群におけるVASの変化量(平均値±標準偏差)について,図3及び以下に示す。
TENS単独施行群における VASの変化量は-11.1±7.8㎜,温熱併用群では-31.5±23.2㎜,
寒冷併用群では-16.1±12.8㎜であった。VASの変化量について,TENS単独施行群と温熱併 用群の間で有意な差を認めた。
図3 各群におけるVASの変化量
3.パルス振幅に関する結果
各群におけるパルス振幅(平均値±標準偏差)について,図4及び以下に示す。
TENS単独施行群におけるパルス振幅は14.5±5.7mA,温熱併用群では21.8±8.6mA,寒冷 併用群では14.5±6.3mAであった。パルス振幅について,温熱併用群と他の2群との間で有 意な差を認めた。
図4 各群におけるパルス振幅
考 察
1. 介入前後のVASの結果について
本研究では TENS単独施行群,温熱併用群,寒冷併用群の全群において介入前後のVASで 有意な減少を認めた。本研究におけるVAS値の減少は,下肢痛の軽減を示すものである。TENS は感覚神経を刺激することで GCT や内因性オピオイドシステムを賦活させ,鎮痛を図るものであ り,神経障害性疼痛に対しても効果が認められている16-18) 。本研究ではTENS単独施行群にお いても疼痛の軽減が認められたため,腰椎疾患患者の下肢痛に対するTENSの鎮痛効果を支持 するものと考える。
2. 温熱併用群におけるVASの変化量及びパルス振幅の結果について
本研究では,温熱併用群におけるVASの変化量はTENS単独施行群と比較して有意に大 きい値を示した。これは,TENSと温熱療法の併用施行は,TENSの単独施行と比較して,
高い鎮痛効果を有することを示唆している。この理由について,本研究結果の一つである パルス振幅の結果から考察する。本研究では温熱併用群において,TENS 単独施行群及び 寒冷併用群と比較してパルス振幅が高い値を示した。一般的に,電流強度はパルス持続時 間とパルス振幅の積で表される34)。本研究ではパルス持続時間は全ての介入条件で統一し ているため,各条件間における刺激強度に影響を及ぼす要因はパルス振幅となる。TENS の鎮痛メカニズムには表層の求心性線維ではなく,深部の求心性線維が関与しているとい う報告があり35),さらに原ら31)は,高強度TENSは低強度TENSと比較して高い鎮痛効果 を有していたと報告している。これらのことから,TENS では十分な強度で電気刺激を行 うことで深部組織にある求心性線維を刺激することが可能となり,鎮痛効果を十分に得ら れると考えられる33)。これは高強度のTENSが可能であった温熱併用群において,高い鎮 痛効果を認めた本研究の結果と合致していると考える。
さらに,温熱療法の生理学的作用に着目すると,温熱刺激そのものが痛覚閾値の上昇を 引き起こすとされている21)。また,温熱併用群における鎮痛効果の増強メカニズムに関し ては,広汎性侵害抑制調節効果(diffuse noxious inhibitory controls:DNIC)について考える必 要がある。近年,非侵害レベルの温熱刺激を加えることでも DNICが生じると報告された
36)。DNIC の詳細なメカニズムについては未だ不明な点が多いが,その作用機序にはオピ オイド鎮痛系の関与や末梢のポリモーダル受容器などの関与が考えられている37)。よって,
温熱併用群においては高強度TENSの鎮痛作用に加え,温熱療法そのものの鎮痛作用が相 乗した結果,高い鎮痛作用が得られたと推察する。
次に,温熱併用群においてパルス振幅,すなわち電流強度を増大させることが可能であ った理由について考察する。皮膚に流れる電流強度に関する要因の一つに,皮膚の電気抵 抗がある。皮膚の電気抵抗は様々な環境や条件の変化によって影響を受けるため,インピ ーダンスという用語が用いられる。皮膚インピーダンスは103~106Ω/cm2程度と非常に大き く,体の電気抵抗のほとんどが集中していると言われている 38)。未知のインピーダンス
Z(Ω)には,電圧 Vと電流 Iの値から算出することが可能であり,Z=V/Iという関係が成り
立つとされる39)。すなわち,皮膚インピーダンスが低下すると,生体に流れる電流強度を 上昇させることが可能となると考えられる。ここで着目すべき点として,皮膚インピーダ ンスは皮膚温の影響を受けることである。7℃の皮膚温の上昇に伴い,基電圧は 10V の低 下を引き起こすといわれており 40),皮膚温の上昇に伴い皮膚インピーダンスは低下する。
本研究では温熱療法であるホットパックの使用に伴う皮膚温の上昇が生じた結果,皮膚イ ンピーダンスが低下し,パルス振幅を増大させることが出来た可能性が考えられる。
3. 寒冷併用群におけるVASの変化量及びパルス振幅の結果について
温熱併用群の結果の一方で,寒冷併用群ではTENS単独施行群と比較して,鎮痛効果及 びパルス振幅において明らかな変化を認めることはできなかった。本研究では 1~50ppsの 変調周波数を用いており,一般的に低周波数に分類される 2~10ppsの周波数成分も含んで いる。低周波数での TENSは Aδ線維を脱分極させることで,内因性オピオイドの産生と 放出を誘発し,疼痛抑制を生じさせるとされている29)。ここで寒冷療法の生理学的作用を 考えると,その主な作用の一つに神経伝導速度の低下がある21)。寒冷刺激は有髄繊維や小 径線維の伝導に対して大きな影響を及ぼすため,Aδ線維は寒冷刺激による伝導速度の低下 が最も大きいことが報告されている 41)。よって,本研究では TENSの低周波数成分の Aδ 線維を介した作用を,寒冷刺激に伴う Aδ 線維の神経伝導速度が低下したことでその効果 を相殺し,鎮痛に関する相乗効果が得られなかった可能性が考えられる。また,パルス振
幅に関しても,寒冷療法の作用である Aδ 線維の伝導速度の低下や痛覚閾値の上昇が生じ た場合,電流強度の上昇に伴う不快感を軽減させ得ると考えられるが,前述のように皮膚 温の低下は皮膚インピーダンスの上昇をもたらす。皮膚インピーダンスの上昇は電流強度 の低下を生じさせるため,寒冷療法における電気刺激の不快感を軽減させる作用を相殺し た結果,パルス振幅に明らかな変化が認められなかったと推察する。また,パルス振幅を 増強させられなかったことも,温熱併用群と比較して鎮痛効果が劣っていた原因の一つと して考えられる。
4. 本研究の限界
本研究ではTENSと温熱及び寒冷療法を併用施行した場合の腰椎疾患患者における鎮痛 効果について比較,検討した。本研究では研究デザイン的に大きく2つの限界を考えた。
一つ目に対象者に対するブラインディングがある。温熱療法ならびに寒冷療法はそれぞれ 温覚,冷覚を生体に加える治療法であるため,対象者に介入方法に関するブラインディン グを行うことは不可能であった。
二つ目は対象者の腰椎疾患の罹患期間について検討していない点である。緒言でも述べ たように,組織損傷に伴ういわゆる急性期の疼痛と,疼痛に伴う不動なども影響した慢性 期の疼痛とでは病態が異なる 5-7,10-11)。そのため,罹患期間が治療効果に関する影響を及ぼ している可能性も考えられるため,今後は群間におけるマッチングを行う必要があると考 えられる。
また,パルス振幅の結果に関して,温熱及び寒冷療法に伴う皮膚インピーダンスの変化 から考察した。皮膚温が皮膚インピーダンスに影響を与えることは確かであるが,実際に は皮膚の乾燥の程度や皮膚厚も影響すると考えられている38)。これらの条件を統一するこ とは困難であると考えられるため,今後の検討課題である。
第二章
変形性膝関節症患者に対する経皮的電気神経刺激
(TENS)
と 温熱及び寒冷療法の併用施行が疼痛及び運動機能に与える影響に関する検討
序 論
第一章では,TENS と温熱及び寒冷療法の併用施行が腰椎疾患患者の下肢痛に対して与え
る影響を検討し,TENSと温熱療法の併用施行において高強度でのTENSが可能となり,高い鎮 痛効果を有することが示唆された。この所見は腰椎疾患患者に対する鎮痛を目的とした物理療 法を施行する上でのエビデンスとして意義深いものである。
また,緒言で述べた通り,本邦において脊椎疾患と同様に罹患患者数が多いのが膝OAであり,
疼痛による運動機能の低下が問題視されている 4,11)。膝 OA患者に対する運動療法は高いエビ デンスが示されている 19-20)が,運動療法を施行する際は運動時痛により,十分な運動を施行する ことが出来ない症例も存在する。そこで,鎮痛を目的とした物理療法を施行することで運動に伴う 疼痛を軽減し,動的なパフォーマンスを改善することが出来れば,スムーズに運動療法が施行可 能となり,膝 OA 患者の症状改善につながると考えられる。OA 患者に対する物理療法では,
TENS と温熱及び寒冷療法の単独施行が有効であるとされている 19-20)が,否定的な意見も存在 する23)。第一章におけるTENSと温熱療法の併用施行のように,膝OA患者の疼痛に対しても鎮 痛に関する相乗効果が得られる可能性も考えらえるが,TENSと温熱及び寒冷療法が膝OA患者 に与える影響についてはこれまで検討されていない。
以上から,本研究では膝 OA患者に対する TENSと温熱及び寒冷療法の併用施行が疼痛 及び運動機能に与える影響について検討することとした。
方 法
1. 対象
対象は,整形外科医によりⅩ線検査にてKellgre-Laurence GradeでⅠ 以上の分類がされた内 側型膝OA患者とした。本研究への参加に書面による同意が得られた45例(女性15例,男
性 15 例,年齢 23.4±3.6 歳)が対象となった。対象者の基礎的情報に関して,平均身長は
153±7.6cm,平均体重は63.1±13.9kg,Body mass indexは26.8±4.94kg/m2であった。なお,
本研究は,医療法人整友会弘前記念病院倫理委員会の承認を受けた(整理番号:27-1)。
対象者の採用条件として,快適速度での歩行時及び椅子からの立ち上がり動作時痛を有する ものとした。除外基準は以下のとおりである:1)末梢循環障害の既往がある者。2)心疾患及び呼 吸器疾患を有する者。3)中枢神経及び末梢神経系の疾患を有する者。4)精神疾患を有する者。
2. 実験方法
介入開始前に,各対象者を以下に述べる3群(介入4,5,6)に乱数表を用いてランダム に振り分けた。以下に介入内容の詳細を述べる。
介入4 (TENS単独施行群):対象者は介入前後に疼痛及び動的パフォーマンスに関する測
定を受けた。まず,介入前に VASを用いて歩行時痛(以下,w-VAS)及び立ち上がり動作時
痛(以下,s-VAS)に関する評価を行った。また, 動的バランス及び歩行能力の指標である
Timed up & go test(以下,TUG)を用いて動的パフォーマンス評価も行った42)。TUGの実 施手順について以下に記載する。開始肢位は対象者が,壁際に設置された高さ43cm,深さ
41cm,幅 42cmの肘掛けが無く,背もたれ付きの椅子に座った状態とした。椅子の前面か
ら計測して 3m 前方に目印のコーンを設置し,検査者が対象者に「始め」と声掛けをした ら,対象者は椅子から立ち上がり,歩いて 3m 先のコーンを回った後に椅子まで戻り,着 座するように指示した。検査者はストップウォッチを用いて,立ち上がり動作の離臀から 着座動作が完了するまでの時間を計測した。TUGの測定は各測定時点で 2回ずつ行われ,
より早い測定結果を採用した。
介入前評価を行った後に,対象者の安楽な肢位で TENS を施行した。TENSには電気刺 激装置(Trio300,伊藤超短波社製)を使用し,以下に述べる刺激条件で実施した。波形は対
称性二相性矩形波を用い,パルス持続時間は200μsec,刺激時間は20分間とした。刺激周 波数に関して,研究の第 1段階において寒冷刺激による Aδ線維の伝導速度の低下が,低 周波数TENSの効果を打ち消した可能性を考慮して,本研究では100ppsの固定周波数とし た。刺激強度に関しては,研究の第1段階と同様に運動閾値レベル以上かつ,対象者が不 快に感じずに堪えうる最大強度とした。TENS の電極には自着式電極(PALS 50×50 ㎜,
Axelgard社製)を使用した。電極の貼付位置に関して,内側型膝OAでは内側コンパートメ
ントに荷重が集中することで,大腿脛骨関節の変形を生じ,軟骨細胞の代謝変化と軟骨器 質の劣化を引き起こすといわれている43)。さらに,中等度の疼痛を有する膝OA患者の80%
は滑膜炎を有していたとの報告44)もあり,内側型膝OA患者の疼痛には大腿脛骨関節にお ける内側コンパートメントの構造学的破綻並びに関節周囲の軟部組織が疼痛に関与してい ると考えられる。ここで,人体における骨膜や関節包,滑膜,靭帯などについて脊髄が支 配する近く分布を示した硬節(スクレロトーム)を考慮すると,膝関節の内側コンパートメ ント部分の骨膜や関節包はL3及びL4髄節レベルによって支配されている45-46)。先行研究 において,疼痛の発生部位の支配神経と同一の髄節レベルに電極を設置してTENSを施行 した場合に,効果的に鎮痛が図られたとの報告があるため 47),本研究においても L3及び L4レベル領域の皮膚上に電極を貼付した(図5)。
介入 5 (温熱併用群):対象者は介入 4と同様に,介入前後に歩行時痛及び立ち上がり動
作時痛,TUGの測定を受けた。介入4と同様に電極を貼付した後に,80℃の温水にて加熱 したホットパック(HYDROPACKMEL PX-151,OG GIKEN社製)をビニールで包み,さらに バスタオルで包むことで乾式のホットパックとし,電極上に設置した。対象者には「暖か く,心地よい程度の温感」となるようにホットパックの表面温度を調整(概ね40度程度)し た上で温熱療法を施行した。対象者が温覚を感じたことを確認し,TENSを施行した。TENS 終了後には介入前と同様の測定を行った。
介入 6 (寒冷併用群):対象者は介入 4及び 5と同様に,介入前後に歩行時痛及び立ち上 がり動作時痛,TUGの測定を受けた。介入4及び5と同様に電極を貼付した後に,冷凍庫 で表面温度が約10℃に冷却されたアイスパック (MOIST HEAT PACK,Duro Medo Industries 製)をタオルで包み,電極上に設置した。対象者には冷痛覚を与えないように注意しながら 寒冷療法を施行した。対象者が冷覚を感じたことを確認し,TENSを施行した。TENS 終了
後は介入前と同様の測定を行った。
図5電気刺激装置(Trio300)と電極貼付位置
3. データ分析方法および統計処理
各介入で測定された歩行時痛及び立ち上がり動作時痛,TUGに関する分析では,介入前 後の値について,対応のある t 検定を用いて,各群内での比較を行った。また,各群内に おいて介入後の測定値から介入前の測定値を引くことで変化量を算出した。この変化量に 関して,一元配置分散分析を用いて,各群間での比較を行った。
統計解析にはR2.8.1が使用された。検定は両側検定とし,有意水準は5%に設定した。
結 果
TENS単独施行群,温熱併用群,寒冷併用群の特徴を表 1に示す。また,本研究に起因した 事故や副作用の発生は,全対象者において皆無であった。
TENS単独施行群 温熱併用群 寒冷併用群
対象者数 15 15 15
年齢(平均±標準偏差) 64.5±9.7 66.9±8.1 69.3±6.6
Kellgren- Laurence Grade Ⅰ:3,Ⅱ:5,
Ⅲ:2,Ⅳ:5,
Ⅰ:3,Ⅱ:6,
Ⅲ:3,Ⅳ:3,
Ⅰ:2,Ⅱ:6,
Ⅲ:2,Ⅳ:5, 表1:各群における対象者数,年齢,Kellgre-Laurence Grade
1. 歩行時痛の結果
各群における介入前後のw-VASの値(平均値±標準偏差)を表2,図6,7及び以下に示す。
TENS単独施行群では,介入前w-VASが38.93±25.93mm,介入後w-VASが26.47±23.75mm,
変化量は-12.47±13.4mmであった。温熱併用群では,介入前w-VASが36.07±27.08mm,介
入後w-VASが24.20±21.44mm,変化量は-11.87±13.95mmであった。寒冷併用群では,介入
前 w-VASが 46.93±27.65mm,介入後 w-VAS が 28.07±25.67mm,変化量は-18.87±19.25mm であった。全群において介入前後でのw-VASは有意に減少したが,変化量に関しては3群 間で明らかな変化は認められなかった。
表2 各群におけるw-VASの結果
介入前 介入後 変化量
TENS単独施行群 38.93 ± 25.93 26.47 ± 23.75* -12.47 ± 13.46 温熱併用群 36.07 ± 27.08 24.20 ± 21.44* -11.87 ± 13.95 寒冷併用群 46.93 ± 27.65 28.07 ± 25.67* -18.87 ± 19.25
p<0.05 (*:介入前 vs 介入後)
図6 介入前後におけるw-VASの結果
図7 各群におけるw-VASの変化量の結果
2. 立ち上がり動作時痛の結果
各群における介入前後のs-VASの値(平均値±標準偏差)を表3,図8,9及び以下に示す。
TENS単独施行群では,介入前s-VASが32.87±27.59mm,介入後s-VASが22.40±22.13mm,
変化量は-10.47±9.02mmであった。温熱併用群では,介入前 s-VASが 29.73±29.52mm,介
入後s-VASが17.87±21.84mm,変化量は-11.87±19.50mmであった。寒冷併用群では,介入
前s-VASが34.20±26.02mm,介入後s-VASが18.20±24.08mm,変化量は-16.00±23.06mmで あった。全群において介入前後でのs-VASは有意に減少したが,変化量に関しては3群間 で明らかな変化は認められなかった。
表3 各群におけるs-VASの結果
介入前 介入後 変化量
TENS単独施行群 32.87 ± 27.59 22.40 ± 22.13* -10.47 ± 9.02 温熱併用群 29.73 ± 29.52 17.87 ± 21.84* -11.87 ± 19.50 寒冷併用群 34.20 ± 26.02 18.20 ± 24.08* -16.00 ± 23.06
p<0.05 (*:介入前 vs 介入後)
図8 介入前後におけるs-VASの結果
図9 各群におけるs-VASの変化量の結果
3. TUGの結果
各群における介入前後のTUGの値(平均値±標準偏差)を表4,図10,11及び以下に示す。
TENS単独施行群では,介入前TUGが 9.69±2.52sec,介入後 TUGが 9.55±2.46sec,変化 量は-0.14±0.93secであった。温熱併用群では,介入前 TUGが 11.91±5.74sec,介入後 TUG
が 10.87±4.80sec,変化量は-1.04±1.58sec であった。寒冷併用群では,介入前 TUG が
9.52±2.51sec,介入後TUGが9.30±2.44sec,変化量は-0.22±0.62secであった。温熱併用群に おいて介入前後での TUG は有意に減少したが TENS 単独施行群及び寒冷併用群では明ら かな変化は認められなかった。また,変化量に関しては3群間で明らかな変化は認められ なかった。
表4 各群におけるTUGの結果
介入前 介入後 変化量
TENS単独施行群 9.69 ± 2.52 9.55 ± 2.46 -0.14 ± 0.93 温熱併用群 11.91 ± 5.74 10.87 ± 4.80* -1.04 ± 1.58 寒冷併用群 9.52 ± 2.51 9.30 ± 2.44 -0.22 ± 0.62
p<0.05 (*:介入前 vs 介入後)
図10 介入前後におけるTUGの結果
図11 各群におけるTUGの変化量の結果
考 察
1. w-VAS及びs-VASの結果について
本研究では,TENS 単独施行群,温熱併用群,寒冷併用群の全群において,介入直後の
w-VAS及びs-VASが介入前より小さい値をとった。これは全ての介入において,歩行及び立ち上
がり動作時の疼痛を軽減することが出来たことを示唆している。また,w-VAS 及び s-VAS の変化 量に関して,3群間で有意な差が認められなかったことも着目すべき点である。これは膝OA患者 の動作時痛に対するTENSと温熱及び寒冷療法の併用施行は,TENS単独施行と比較した場合,
鎮痛に関する相乗作用が少ないことを示唆している。言い換えれば,膝 OA 患者の動作時痛に 関して,温熱及び寒冷療法を併用していない,TENSの単独施行でも十分に鎮痛可能であったと 解釈することが出来ると考える。
即時的な鎮痛効果に関して,TENS による膝 OA患者の疼痛に対する効果は先行研究でも認 められている 18-20)。TENS には内因性オピオイドシステムに由来した鎮痛メカニズムも存在し,本 研究で用いた 100pps の TENS ではダイノルフィンの産生及び放出が生じ,その鎮痛効果は TENS終了後から少なくとも 30-60分程度持続するとされている 16,32)。しかしながら,内因性オピ オイドシステムに基づいた鎮痛はオピオイド濃度が上昇するまでに時間を有するため,GCT と比 較して時間を有するといわれているため,本研究における即時的な鎮痛効果は GCTに基づいた 作用が主であったと考えられる16-17)。
また,温熱及び寒冷療法における鎮痛メカニズムで共通しているのも GCT であると考えられて いる21)。加えて,温熱療法においては痛覚閾値の上昇が,寒冷療法においては神経伝導速度の 低下が生じ,それに伴う鎮痛の持ち越し効果は数十分持続するとされている21,23)。しかしながら,
この持ち越し効果の程度に関する検討は不十分であり,本研究結果を考えると,温熱及び寒冷 療法に伴う鎮痛の持ち越し効果はTENSによる効果と比較して弱い可能性が考えられる。
2. TUGの結果について
本研究では,TUGの介入前後の変化量に関しては3群間で明らかな違いは認められなか ったが,介入前後の比較では温熱併用群でのみ有意な改善を認めた。w-VAS及びs-VASの 介入前後の変化量が3群間で明確な差が認められなかった結果を考慮すると,TUGの温熱
併用群における改善は鎮痛によるものだけではなく,動的なバランスや歩行能力の改善に よる影響が大きかったと考えられる。この点に関しては Bishop が提唱する“Passive warm
up”の観点から考察することが出来る48)。“Passive warm up”とは骨格筋の温度を受動的に上
昇させることで,動的なパワーを向上させることが可能であるというものである。本研究 における温熱併用群では,ホットパックを用いて 20 分間,膝関節周囲を加温した。
Oosterveld ら 49)は,表在性温熱療法であるホットパックを膝関節周囲に用いた場合におい
ても膝関節内温度が上昇したと報告している。よって,本研究においてもホットパックの 施行に伴う膝関節周囲筋の加温により,“Passive warm up”が生じたことに疑う余地はない と考えられる。以上より,温熱併用群における TUG の介入前後での改善は,ホットパッ クの施行に伴い膝関節周囲筋が加温されたことで“Passive warm up”が生じ,動的バランス や歩行能力が改善したことが大きく影響したと考えられる。
3. 本研究の限界
本研究では TENS 単独施行と比較して,TENSと温熱及び寒冷療法の併用施行で鎮痛効 果に明らかな違いは認められず,その点に関して,温熱及び寒冷療法のGCT以外の鎮痛メ カニズムにおける持ち越し効果の観点から考察した。この持ち越し効果について,その程 度や持続時間などの詳細は明らかになっていないため,今後の検討課題であると考える。
また,TUGの結果では温熱併用群において,TENS単独施行群及び寒冷併用群より優れ ている可能性が示唆された。しかしながら,本研究では介入直後の即時的な影響に関する 検討のみ行っており,長期的な観点からの検討は行われていない。OA という慢性疾患で は,治療の長期的な効果に関する検討は必須であるため,今後は治療の持続性や,適切な 介入頻度などについても検討する必要があると考える。
第三章
人工膝関節全置換術後に施行する電気刺激療法の種類の 違いが疼痛及び運動機能に与える影響に関する検討