精神遅滞児に対するインタ「ペンションの在り方
コミュニティ心理学による体系化の試み 坂 本 裕章
I n t e r v e n t i o n f o r M e n t a l l y R e t a r d e d C h i l d r e n b a s e d on Community P s y c h o l o g y
Yutaka SAKAMOTO ( R e c e i v e d September 30
,1 9 9 1 )
は じ め に
精神遅滞児に対する治療・教育の科学化が近年急 速に進められている.この中で,インターペンショ
ン(i
n t e r v e n t i o n )
ということばが教育現場において も頻繁に使用され,定着してきている.このインタ ーペンションは「介入」と訳されることが多いが,概念的には共通理解の域にまでは達しいないよう.に 思われる.
Shneidman (1976)
20】 は , プ リ ペ ン シ ョ ン( p r e v e n t i o n )
,インターペンション,ポストペンショ ン( p o s t v e n t i o n )
と , 治 療 ・ 教 育 の 時 間 の 経 過( b e f o r
,d u r i n g
,a f t e r )
による分類で,インターペ ンションの概念を明確にしようとしている.この分 類は,C a p l a n
(19 6 1
,1 9 6 4 )
5)6)に よ る 第 一 次 予 防( p r i m a r y p r e v e n t i o n )
, 第 二 次 予 防( s e c o n d a r y p r e v e n t i o n )
,第三次予防( t e r t i a r yp r e v e n t i o n )
からなる予防精神医学の体系とほぽ一致している.プ リペンションによる予防,インターペンションによ る危機介入,ポストペンションによる事後援助(勝 俣,
1 9 8 9 ) 9 )といった防止手続きは,精神障害者や自
殺企図者などに対するアプローチとして非常に有効 なものである.しかし,精神遅滞児に対する場合,上記のような 明確な時間経過による治療・教育は困難に近く,そ のまま適用することはできないように思われる.つ まり,インターペンションの段階において,同時進 行 的 に , 治 療 的
( c o r r e c t i v e )
, 予 防 的( p r e v e n ‑ t i v e )
, 機 能 的 (o p t i m i z i n g )
と い っ た 複 数 の 機 能$附属養護学校
( S c h i e f e l b u s c h
,1 9 7 8 )
制を運用させなければ,十分 にその成果を達成することはできないのである.す なわち,治療・・教育活動そのものが他の予想されう る危機状態の予防ともなり,また,外的な条件整備 も行わなければその治療成果の般化は期待するほど の効果を上げることはできないものとなってしまう 可能性が高い.このように精神遅滞児に対するインターペンショ ンは,精神障害者に対するそれほど,その介入すべ き程度,対象などについての体系化が十分にはなさ れていない.そのため,本稿においては,コミュニ ティ心理学のインターペンションのとらえ方を紹介 しながら,精神遅滞児に対するインターペンション の在り方と,実際の担い手となる教師などのインタ ーペンションに関する研修システムの検討を行うこ
ととしたい.
精神遅滞児に対するインターペンション
コミュニティ心理学は応用社会心理学として,こ れまでの諸心理学の研究と実践との統合を目指し,
1 9 5 8
年にポストンにおいて旗揚げされたものである.その基本方略として,行動病理を含む個人や家族集 団の行動の変容に際して,それらを取り巻く環境条 件の変革を掲げており,具体的な行動レベルでのコ
ミュニティへのインターペンションとなっている (安藤,
1 9 7 9
)1).M u r r e l l
(19 7 3 )
12)は,コミュニティ 心理学におけるインターペンションを「個人と環境との適合性を改善して,個人,社会体系
1
群 の 人々,社会体系のネットワークなどの内部に変革を 導入するためになされる,すべての組織的努力を指 す」とし,その目的を「個人と環境の適合性( f i t )
を改善すること」と定義している.そしてさらに,
レベル
6 - - 1
からなるインターペンションの6
段階を 示している.以下,それらの各レベルについて,精神遅滞児に 対する実践例を挙げながら,検討を加えるものとし
f
こい.レベル
1
:個人の再配置(il a d u i v i d n ) n o i t a c o l e r
個人の配置換えであるレベル 1のインターペンシ ョンの事例として,てんがん発作を頻発する小学校
4
年生の中度精神遅滞女児が特殊学級において対応 困難となり,養護学校に転校したも、のがあげられる (熊本大附養,7 1 9 8
)川.年間の出席回数が半分に満 たない状態から,ほとんど休まない状態へと改善さ れている.この事例においては,単なる場の配置換 えだけではなくして,より専門性をもっ学校ならぴ 教師への配置換えであったことが有効であったとい えよう.また,家庭生活が困難となり,収容施設に 入所することにより,子供,保護者ともに落ち着い た生活を送ることができるようになることも,この 例にあたる.ただし,この配置換えは,教師ならびに保護者に とって r教育・養育の中途放棄」と周囲の者に写る のではとの意識が必要以上に働き,現実化の困難な 場合が多い.こうした状況に対して r配置換えJを
レベル
1
すなわち最も初期のインターペンションと とらえるコミュニティ心理学の発想は注目すべきも のである.より望ましい展開を求めての,心身両面,さらに経済的にも余裕のある段階での「配置換え」
を,環境にフ.イツトさせる第一歩として,もっと積 極的に検討・活用すべきであろう.
レベル
2
:個人への介入(il a u d i v i d n ) n o i t n e v r e t n i
養護学校における重要な教育課題のひとつである 身辺処理の指導などが,レベル
2
の介入にあたる.筆者は排尿指導として,学校場面においてのみ遺尿 がみられた小学部
5
年生の中度精神遅滞女児に対し,Foxx
ら3 9 7 1 (
)7)の応用行動分析学に基づくトイレ ツト・トレーニングの中から乾いたパンツを強化し ていく「パンツ調べ手続き」を導入した.このこと により,学校においては全くトイレでの排尿ができ ない状態から,約5
か月の指導でトイレでの自発排 原が93.5%
に高まった(坂本,) 9 9 8 1
17).精神遅滞児に対する治療・教育は根気強い,継続 的な指導が必要ではあるが,その成果を上げるため にも教育の科学化を進めなければならないーつまり,
行動レベルでのアセスメントの実施,それに基づく 具体的な目標の設定ー指導プログラムの検討,そし
て,実践・指導,評価(アセスメント)といった指 導サイクルの確立を進めなければならないのである.
このような観点からしても,具体的な行動レベルで の行動形成や行動修正を重要なねらいとしている応 用行動分析学やコミュニティ心理学などを積極的に 導入すべきであろう.
レベル
3 : 1
群の人々への介入n o i t a l u p o p ( - r e t n i v
e n t i o n )
障害児,特に精神遅滞児をもった家族の戸惑いは はかり知れないものがある.知的な遅れがもたらす 子供の将来に対する不安は,親が現在行うべきこと さえも見えなくしてしまう.このような状況に対し て,筆者らは自閉的傾向の精神遅滞幼児を対象とし て,家庭で母親などと実施可能な言語指導プログラ ムの開発・実践を展開している(久留米幼研,
1 9
9 1 )
1九このプログラムは,親を指導者とし,こと ばを中心とした具体的な指導目標を掲げ,現在行う べきことを明示し,子供へのかかわり方を教授して いくものである.このような取り組みの中で,わが 子の姿を正確に評価できるようになり,必要以上の 不安が取り除かれ,より積極的な働きかけがなされ るようになってきている.精神遅滞児を抱える家族の不安は,このような子 供の発達への'悩みばかりではなく,親亡き後の子供 の暮らしむき,兄弟への配慮・遠慮などと次から次 にと,生じてくる.このような家族に対する「事前 指導」は必要不可欠であり,適宜行われなければな らない.そのためにも,コミュニティ心理学による インターペンションのとらえ方ように,当初から介 入すべき課題としてのとらえが肝要である.
レベル
4:
社会システムへの介入l a i c o s ( m t e s y s i
n t e r v e n t i o n )
子供にとって最も身近な社会体系としての家庭,
そのなかでもキーパーソンとなる母親は,子供にと って大きな影響力をもつものであり,その望ましい 在り方を探らなければならない.筆者らは,高等部 1年の中度精神遅滞者の身だしなみの指導において,
母親による記録用紙のチェックを指導ステップのひ とつとして組み込み,母親の変容を試みた.この中 で,対象者の洗濯なども祖母にまかせっきりの状態 から,登校時の声かけを行ったり,小まめに新しい 下着などを購入するなどかなりの変容が示された
(坂本ら,
) 8 8 9 1
川.この事例は「社会体系への介入」の中のキーパー ソンへのアプローチであるが,補助具の使用を検討 するなどといったような目標行動を達成する際の
- 68-
「許容幅の拡大」を検討したり,いろいろな指導方 法・手順などの中から,最も対象となる者に対して 適切なものを実施するといった「多様'性の拡大」な どの視点も非常に有効なアプローチであり,これか ら研究すべき緊急課題のひとつと考えられる.
レベル
5
:複数の社会体系の間への介入(i- s y s r e t n t
e r n ) n o i t n e v r e t n i
精神遅滞児に対する重要な教育課題としてソーシ ヤル・スキル
l a i c o s ( ) l l i k s
の指導がある.このソ ーシャノレ・スキルの獲得は,子供たちが養護学校な どのある一定の保護下におかれた状態から,一般社 会への参加,すなわち,ノーマリゼーションをねらったものである.特殊教育諸学校においては,
0 8 9 1
年以降,その研究数が急激に増加じており r日常生 活の指導」の指導場面を中心に,食事や会話の仕方,交通機関の利用方法などについての指導が行われて いる(坂本,
9 9 1
1) 19).養護学校などの保護の強い社会体系から保護の少 ない社会体系へと参加していくことは,精神遅滞児 教育の重要な目的のひとつであり,常に指導者の意 識下に置かれなければならない.そのためも,いろ いろな社会体系の実態をとらえ,どのようなソーシ ヤル・スキルを獲得・形成させれば,ノーマリゼー ションがより可能になるかの検討が重要である.
レベル
6
:ネットワーク介入o r k e t w ( n - n e v r e t n i t
i o n )
精神遅滞者の社会への参加が,
0 8 9 1
年の国際障害 者年を契機として,積極的に進められている.中で も注目すべきは,熊本県で展開されている精神遅滞 児・者の保護者や教師OB
などの有志による「自然 の皇J の取り組みである.これまでの収容型の施設 から,週末滞在型の施設への転換を指向するもので あり,山を買い取り,学校生活を終えた子供たちの 生活の核となり,また,家族や友達,地域の人々と・もに,週末や長期の休みを過ごせるようになってい る.
こうした取り組みは簡単に行いえるものではない が,その目指すべきひとつの姿を示しているように 思われる.また,全国各地において,精神遅滞者が 小人数のグループホームを作り,地域社会で生活を 行うような取り組みがなされるようになってきてい る(広瀬,
0 9 9 1 . ) 8 )
今後,これらのような取り組み を充実していかなければならないが,障害者を中心 とした地域社会の設計でなくとも,協住できる社会 の意図的な創造が必要である.そのためにも,コミュニティ心理学の導入が必要条件となろう.
インターペンションの研修システム
これまで,精神遅滞児に対するインターペンショ ンの在り方について述べてきたが,このようなシス テムを実際の教育現場などに導入するためには,指 導者自身の研修が必要である.インターペンション の実践ならびに研修のシステムとして,コミュニテ ィ心理学においては学校コンサルテーションのスタ イルがある(安藤,
5 8 9 1
)2).この取り組みは,直接 指導にあたるコンサルティと,その理論的援助を行 うコンサルタントからなっており,互いの協力のも とにインターペンションを進めようとするものであ り,また,コンサルティの研修を進めることもその 重要なねらいとなっている.このような学校コンサルテーションの精神遅滞児 教育における可能性について,筆者がコンサルタン トを,そして保護者,教育実習生,精神遅滞児担当 教諭をコンサルティとして行った実践事例を通して,
その有効性について検討を加えたい.
家庭教育において
精神遅滞児を持つ母親に対する行動カウンセリン グ的なアプローチとして rお母さん先生」の育成が 重要な課題となってきている(東,
2 8 9 1
,坂本ら,1 9 9 0
)
3)1.8) このような試みのひとつとして,筆者は 学級担任の保護者を対象として r子どもは変わる』(東,
) 4 ) 5 8 9 1
をテキストに用いた応用行動分析学に ついての勉強会を行った.その後に,小学部6
年生 の中度精神遅滞男児の母親に対して,夏休み中の家 庭での課題として「エプロンの腰ひもを,体後にお いて,蝶結びで結ぶ」を設定した.筆者からは蝶結 びの課題分析と指導プログラムを提供したが,実際 の運用,場面設定などの細かな点については母親に よって検討される課題とした.母親により,教具と してのエプロンの工夫,食事の片付けなどの場面設 定などが行われ,実際の指導に移ると,後手で蝶結 びがまったくできない状態から1
週間0 1
試行の練 習で可能となった(坂本,) 6 8 9 1
川 .こうした応用行動分析学に基づく指導は,子供に 遂行可能な指導プログラムの準備・修正,強化子の 検討などと,子供の現状・発達に合わせた無理のな い実践が展開されることとなる.このようなことか らも,子供と接している時間が最も長く,子供の多 くの行動の先行刺激となっている母親が専門性を身 につけていくことは非常に有効なことである.また,
母親が,教師に与えられた課題とその指導方法だけ ではなくして,各家庭の状況にあわせた指導の工
夫・応用ができるようになれば,指導の効率が上が るはずである.そのためにも,母親をコンサルティ とする研修などを積極的に展開すべきである.
教育実習において
教育実習は大学において学んだ教職に関する知見 を,教育現場に就く直前に実践化するものである.
そのため,教育実習生であってもその専門性は高度 のレベルに達しておかなければならず,ベテランの 教師と同じ働きが要求される.そのような教育実習 の一貫として,筆者はできる限りにおいて教育実習 生のとりあげた課題について,助言を与える形で指 導を進めてきた.そのような指導実践のひとつして,
ボタン留めができるにもかかわらず,外すことので きなかった小学部
4
年生の重度精神遅滞男児に対す るボタン外しめ指導がある.この指導において,筆 者はコンサルタントの関わりとして,応用行動分析 学に基づき,ボタン外しの課題分析,指導プログラ ム作成,教具作成などについての助言,資料の提供 を行い,実際の運用はコンサルティである教育実習 生に任せることとした.コンサルティにとっては,大学での知見を実地で初めて行うものではあったが,
6
日間0 1
試行で課題を達成することができた(坂本,1 9 8 5 ) . ) 4 1
教育実習の目的からしても,指導教官が事細かに 指導内容・手続きの指示するのではなくして,指導 教官の助言を生かしながら,教育実習生がオリジナ ルな指導を展開する.まさしく学校コンサルテーシ
ョンそのものである.
指導者研修において
教育活動の科学化にあたっては,その背景にある 理論の押さえを十分に行うことも必要である.しか し,繁雑な教育現場においては,そのような理論を 研修する場を容易に設定することができない.そう いった状況を打破する取り組みとして,精神遅滞児 に対して宿泊しながら短期集中指導を行う行動教育
¥ャンプが,日本行動教育研究会本部ならびに各支 部の主催により,日本各地で実施されている.この キャンプの特徴のひとつとして,一人の対象児に対 し,複数のトレーナー,スーパーパィザーでチーム を組んで指導にあたるととがあげられる.つまり,
複数の者で指導にあたることにより,また,スーパ ーパイザーのアドパィスにより,細かな点まで理論 と実践を一体化させることができるようにしている.
ただし,スーパーパイザーの役割はコンサルタン卜 に類似したものであり,コンサルティとしての複数 のトレーナーに最終的な指導の展開は任せられてい
る(坂本ら,
. ) 8 1 ) 0 9 9 1
このような指導体制にて,
2
泊3
日で5
歳の自 閉的傾向のある軽度精神遅滞男児に要求言語の受 信・発進の指導を行い,自分の欲しいものを要求で きるようになった(大友ら,) 0 9 9 1 . ) 3 1
この指導にお いて,筆者はスーパーパイザー(コンサルタント) として,指導の基本的な手続きを示しただけで,教 材・教具,強化スケジュールの検討などはトレーナ ー(コンサルティ)によって検討が加えられた.こ の営みはまさしくコンサルテーションであり,指導 者の研修においても有効な形態のひとつである.お わ り に
精神遅滞児に対するインターペンションについて,
コミュニティ心理学のインターペンションのとらえ 方を紹介しながら,その検討を進めてきた.この中 で,従来行われてきてインターペンションをおおま かではあるが,整理することができたように思われ
る.
精神遅滞児に対する治療・教育の科学化を推進す るためには,従来タブーとされがちであった「指導 の効率性」を,その必要条件としなければならない.
そのためにも,本稿で示したインターペンションの とらえ方が,精神遅滞児に対するアセスメントのな かに位置付けられることが必要と言えよう.
引 用 文 献
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元年度附属学校内地研修員研修報告書(平成
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