ヘルニア内容が膀胱であった閉鎖孔ヘルニアに対して
腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行した 1 例
弓場 孝郁
1)山本 育男
1)谷岡 保彦
1)清川 厚子
1)冨士原正人
1)熊野 公束
2) 1) 京都ルネス病院外科 2) 喜馬病院内視鏡外科センター 今回,我々はヘルニア内容が膀胱であった閉鎖孔ヘルニアに対し腹膜外アプローチによる腹腔鏡下ヘル ニア修復術(totally extraperitoneal repair;以下,TEP 法と略記)を施行した症例を経験したので報告する. 症例は 79 歳の女性で,数週間前からの左下腹部の違和感を主訴に近医受診し,腹部 CT を施行した結果, 左閉鎖孔ヘルニアの診断で当院に紹介となった.腹部 CT で左閉鎖孔に膀胱と連続する腫瘤を認めた.逆 行性膀胱造影検査を施行すると,膀胱が体位により閉鎖孔へ迷入する閉鎖孔ヘルニアと診断した.腹腔鏡 検査で,腹腔内からも左閉鎖孔ヘルニアと診断できた.さらに,右閉鎖孔ヘルニアと左外鼠径ヘルニアも 認め TEP 法で両側のヘルニア修復術を施行した. キーワード:閉鎖孔ヘルニア,膀胱ヘルニア,腹腔鏡下ヘルニア修復術はじめに
閉鎖孔ヘルニアは高齢者のやせ形女性に好発する比較的まれな疾患で,全ヘルニア症例の 0.073~1%と 少なく,ほとんどの症例は腸閉塞の原因精査で発見されることが多い1).今回,我々はヘルニア内容が膀 胱であった閉鎖孔ヘルニアを経験したので報告する.症
例
患者:79 歳,女性 主訴:左下腹部の違和感 既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:2 週間前より左下腹部痛を訴え近医へ受診した.左閉鎖孔ヘルニアと診断し当院に紹介受診と なった. 入院時現症:身長:153 cm,体重:47.0 kg,BMI:20.1. 血液検査所見:特記すべきことなし. 腹部単純 CT 所見:左恥骨筋と外閉鎖筋の間隙に膀胱壁と連続した軟部陰影を認めた(Fig. 1). 逆行性膀胱造影検査所見:左膀胱外に涙滴状の陰影を認めた.ただ,体位により造影剤が移動し,膀胱 の一部が陥入していると考えられた(Fig. 2). 以上の所見から,膀胱の一部が陥入した還納可能な閉鎖孔ヘルニアと診断した.腸管の嵌頓ではなく, 〈2018 年 9 月 19 日受理〉別刷請求先:弓場 孝郁 〒 620-0054 福知山市末広町 4-13 京都ルネス病院外科緊急性がないと判断し待機手術とした.
手術所見:全身麻酔下,腹臥位で手術を行った.臍を縦切開し,open 法にて腹腔内へ 12 mm のトロッ カー(Fig. 3a)を挿入後,8 mmHg で気腹した.左上腹部より 5 mm のトロッカーを挿入(Fig. 3b)し頭 低位とした.骨盤内を検索すると,両側閉鎖孔ヘルニア(Fig. 4a, b)と左外鼠径ヘルニア(ヘルニア分類 I-2)(Fig. 4c)を認めた.臍部創の腹膜と腹直筋後鞘を閉鎖した後,腹直筋後壁へ 12 mm のトロッカー (Fig. 3a)を挿入し,下腹部に 2 本の 5 mm のトロッカーを腹膜前腔へ挿入後(Fig. 3c, d),さらに腹膜前 腔を展開した.両側ともに閉鎖孔へ陥入したヘルニア囊を確認した(Fig. 5a, b).ヘルニア囊の腹膜前腔 への還納は容易であった.左鼠径ヘルニアのヘルニア囊は子宮円靱帯を含め結紮,切離した.右側は鼠径 ヘルニアを認めなかったが,メッシュによる被覆を行うために子宮円靱帯は切離した.
修復は,3DMAX Light®の L サイズを使用し SORBAFIXTMで固定した(Fig. 5c).腹膜前腔を脱気し,再
Fig. 1 Abdominal CT showed a mass located in obturator foramen between the left pectineus muscle and the left obturator externus muscle (a). A mass connected with the urinary bladder (b).
Fig. 2 Retrograde cystography showed the tear drop-shaped contrast image existed out of the bladder. This one was eliminated by position change. A part of the bladder was incarcerated in the left obturator foramen.
Fig. 3 The patient was placed in a supine position. A 12 mm trocar (a) was introduced into the abdominal cavity, using an open technique, and the abdominal pressure was 8 mmHg. The left lateral trocar (b) was introduced into the abdominal cavity. (a) trocar was removed from the abdominal cavity to the extraperitoneal cavity. Two other trocars (c, d) were introduced into the extraperitoneal cavity.
度左上腹部の 5 mm のトロッカー(Fig. 3b)から気腹後に腹腔内を観察し,メッシュの圧着状態と腹膜損 傷がないことを確認し手術を終了した.
術後の経過は順調で術後第 3 病日に退院した.
Fig. 4 Laparoscopic observation demonstrated that bilateral obturator hernia (a, b) and left indirect inguinal hernia (c).
Fig. 5 Extraperitoneal cavity demonstrated bilateral obturator hernia (a, b). The hernias were reduced and polypropylene mesh was placed bilaterally covering the entire space (c).
考
察
閉鎖孔ヘルニアは,恥骨坐骨間にある閉鎖孔の上外側に閉鎖管が存在し,その閉鎖管へ腹膜が大腿内側 に脱出する疾患である2).高齢で多産のやせ形の女性では閉鎖管周囲の脂肪織減少に伴い閉鎖管が開大し やすい3).閉鎖孔ヘルニアの発生は腹膜前脂肪が閉鎖管に陥入することから始まり,次いで腹膜が脱出し ヘルニア囊を形成する.閉鎖孔ヘルニアの診断は腹部 CT が非常に有用であり,ヘルニア内容が腸管であっ た場合は,血流を評価するのに造影 CT も効果的である.本症例では腹部 CT で,閉鎖孔ヘルニアの内容 が膀胱であることは確認できたが,引き続いて行った逆行性膀胱造影では膀胱は体位変換により自然に整 復されていた.今回,腹部 CT で撮影したときに,たまたま膀胱が陥入していたことで診断できたが,陥 入していないと診断はできない.劒持ら4)の報告で,非嵌頓時の CT 所見と嵌頓時の CT 所見および正常時 の CT 所見を比較した結果,非嵌頓時であっても外閉鎖・恥骨筋間隙が拡大している症例では閉鎖孔ヘル ニアの存在を疑うとしている(外閉鎖・恥骨筋間隙の平均距離は健常者 3.8 mm 非嵌頓時 9 mm,嵌頓時 24 mm).本症例も術中の腹腔内観察で右閉鎖孔ヘルニアを認めたが,術前の CT で,再評価すると,右外閉 鎖・恥骨筋間隙が拡大していた(外閉鎖・恥骨筋間隙の距離 13.8 mm). また,閉鎖孔ヘルニアでは腹痛発作の既往が 35%にみられるとされ4),腸管が嵌頓している症例につい ては手術適応があると思われるが,腸管が嵌頓していない閉鎖孔ヘルニアの手術適応は意見が分かれると 思われる.閉鎖孔ヘルニアは高齢の女性に多く,何らかの合併症があることが多い.そのため腸管嵌頓の ない本症例などは手術的侵襲を考慮する必要がある(Table 1).閉鎖孔ヘルニアの手術を行うに当たって の利点,欠点はあるが,無症状の閉鎖孔ヘルニアであっても腸管が嵌頓する可能性があるため,本人の同 意が得られる場合は手術を行うべきであると思われる. 今回筆者らが経験した膀胱が閉鎖孔ヘルニアのヘルニア内容であった症例は非常にまれで,医学中央雑 誌で 1970 年から 2015 年の期間に「閉鎖孔ヘルニア」,「膀胱ヘルニア」のキーワードで検索した結果,本 症例が 3 例目で(会議録を除く)5)6),さらに,PubMed で 1950 年から 2015 年の期間に「obturator hernia」, 「bladder」で検索すると,1 件の報告があった7).今回のように膀胱を内容とするヘルニアは腹膜との関連により,paraperitoneal type(腹膜側型),extraperitoneal type(腹膜外型),intraperitoneal type(腹膜内型)の 3型に分類される8).本症例は腹腔内からもヘルニア門が確認でき,腹膜外アプローチでは sac は確認でき ず膀胱壁が確認できたことから paraperitoneal type であると思われる. 筆者らが検索したヘルニア内容が膀胱であった 3 例のうち 2 例は手術を行っていない5)6).実際に手術を 行っている Velásquez-López ら7)の報告では,術前に繰り返す尿路感染と排尿困難を訴えていたが,術後に 症状は改善した.本症例では術前に左下腹部の違和感を訴えており,術後には症状が消失したことから非 嵌頓閉鎖孔ヘルニアでも有症状の場合は,手術を考慮すべきと思われた.また,河野ら9)の報告では,閉 鎖孔へルニアの両側の発生は 2.7%と少ない.しかし,嵌頓する危険性が高いと思われ,嵌頓側のみでなく 反対側の閉鎖孔ヘルニアの有無を確認する必要があると報告している.腹腔鏡下手術では,対側のヘルニ アの確認も容易に行うことができるという利点がある. 閉鎖孔ヘルニアの手術方法と長所,短所については Table 2 にまとめた.修復方法として,単純閉鎖や 縫合閉鎖,骨盤内臓器の貼付,人工物での修復が報告されている10)~12).閉鎖孔ヘルニアの治療で,腹腔鏡
Table 1 The merits and demerits of surgical treatment of obturator hernia involving the urinary bladder
Merit Demerit
• The disappearance of symptoms (pain, pollakiuria, dysuria, etc.)
• Prevention of hernia incarceration
• The stress of invasive surgery*
• Post operative complications (shock, reaction to anesthesia, cardiac and pulmonary complications, hemorrhage, wound infection, mesh infection, recurrence, etc.)
下手術には腹膜外アプローチ(totally extraperitoneal repair;以下,TEP 法と略記)と,腹腔内アプローチ (transabdominal preperitoneal repair;以下,TAPP 法と略記)があるが,TAPP 法であれば腹膜切開を行う必 要がある.特にヘルニア内容が膀胱であれば膀胱損傷に必要である.TAPP 法で鼠径ヘルニアの手術を行 い膀胱が陥入した症例で膀胱損傷を来した報告もある13)14).TEP 法でも鼠径ヘルニアで膀胱損傷を来した 報告はあるが,腹膜外腔を作成するために使用する剥離用拡張バルーンで膀胱損傷を来した報告で15),当 院では剥離用拡張バルーンを使用せず剥離を行うため,膀胱損傷を来すことは少ない.本疾患に対し実際 手術を施行した Velásquez-López ら7)は,膀胱鏡の光源光を利用して後外側膀胱壁を腹腔内から確認し,腹 腔鏡下で腹膜切開をした後,コーン型のポリプロピレンメッシュを欠損部に挿入している.膀胱が嵌入し た鼠径ヘルニアの報告で,術中の膀胱損傷を防ぐ方法として,膀胱内に生理食塩水を注入する方法や,造 影検査を実施している報告がある14).本症例では,まず腹腔内観察で対側のヘルニア門,ヘルニア内容を 確認し,その後に膀胱損傷の危険性が低い TEP 法で修復を行った.閉鎖孔ヘルニアに対し TEP 法で行う 場合,Cooper 靱帯から背側に向かい鈍的に剥離を進めるだけで,容易にヘルニア門を露出できる.そのた めヘルニア内容が膀胱であった場合でも膀胱損傷を来す可能性も低いと思われる.また,もし腸管に損傷 があった症例では,TEP 法ではメッシュが腹膜外にあるため,腸管内容が漏出しているなど,高度な腹腔 内汚染がなければ,メッシュ感染のリスクは低いと考えられる.本疾患の場合,陥入している臓器が膀胱 であり,膀胱を還納するだけではヘルニア門が残存してしまい,術後に膀胱内圧がかかると,ヘルニア門 へ膀胱が再度迷入してしまうことになるため,再発する可能性がある.そのため,修復にはヘルニア門を 含め大きくメッシュを被覆する方法やヘルニア門にメッシュを充填する方法が修復に適していると思われ る.また,TEP 法は低侵襲であり,非常に有用な手術方法と思われる. 今回,我々は膀胱が陥入した閉鎖孔ヘルニアを経験した.ヘルニア内容が腸管ではない閉鎖孔ヘルニア に対する手術は意見が分かれるかもしれない.しかし,腸管が嵌頓すると腸切除を余儀なくされる場合が 多く,非嵌頓例では,低侵襲で行える腹腔鏡下手術は有用な手術方法と考えられる.また,TEP 法は,ヘ ルニア内容が膀胱である症例では膀胱損傷のリスクが低く,より安全な修復方法であると考えられた. 本論文の要旨は第 71 回日本消化器外科学会総会(2016,徳島)で発表した. 利益相反:なし
文献
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Table 2 Comparison of surgical methods for obturator bladder hernia
Merit Demerit
No procedure possibility of recurrence (recurrence rate: 7–10%) Simple closure simplicity possibility of recurrence (recurrence rate: 10%) abscess Ligation after invert simplicity possibility of recurrence (recurrence rate: 10%) Direct suture* low recurrence rate suture not possible for obturator foramen over 1 cm Organ attachment (ovary, uterus, etc.) simplicity possibility of recurrence (recurrence rate: 67%) Mesh repair (open method) low recurrence rate infection, chronic pain
Mesh repair (laparoscopic method) low recurrence rate minimally invasive
TAPP: peritoneum dissection possibility of bladder injury * Superior pubic ramus-membrana obturatoria
3) 三好 康敬,鈴江 ひとみ,坂東 儀昭.閉鎖孔ヘルニアの診断と治療.外科治療.2009;100:669–75. 4) 劒持 雅一,佐藤 嘉高,森下 紀夫,石井 博,村上 努士,常光 謙輔.CT による非嵌頓閉鎖孔ヘルニア診断の可能性 について.日本臨床外科学会雑誌.2001;62:353–7. 5) 吉川 智宏,小鹿 雅博,星川 浩一,青木 毅一,遠藤 重厚.膀胱が嵌入した閉鎖孔ヘルニアの 1 例.日本臨床外科学 会雑誌.2009;70:3724–7. 6) 尾方 信也,石川 大地,田上 誉史,片川 雅友,坂東 儀昭.膀胱が嵌入した両側閉鎖孔ヘルニアの一例.四国医学雑 誌.2012;68:63–6.
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An Obturator Hernia of the Urinary Bladder Operated Using a Laparoscopic
Totally Extraperitoneal Hernia Repair Approach
Takafumi Yuba
1), Ikuo Yamamoto
1), Yasuhiko Tanioka
1), Atsuko Kiyokawa
1),
Masato Fujiwara
1)and Kimitsuka Kumano
2)1) Department of Surgery, Kyoto Renaiss Hospital 2) Department of Laparoscopic Surgery Center, Kiba Hospital
We report a case of obturator hernia of the urinary bladder operated using a laparoscopic totally extraperitoneal approach (TEP). A 79-year-old woman had complained of left lower abdominal discomfort for a few weeks. Abdominal CT in another hospital suggested an obturator hernia of the urinary bladder. She was referred to our hospital for detailed examination. Retrograde cystography showed a part of the urinary bladder had migrated to the left obturator foramen. We laparoscopically identified a bilateral obturator and a left indirect inguinal hernia. All hernias were repaired using a TEP approach.
Key Words: obturator hernia, bladder hernia, laparoscopic hernioplasty
[Jpn J Gastroenterol Surg. 2019;52(2):125-131] Reprint requests: Takafumi Yuba Department of Surgery, Kyoto Renaiss Hospital
4-13 Suehiro-cho, Fukuchiyama, 620-0054 JAPAN
Accepted: September 19, 2018