極小未熟児の心身発育発達(1)
後 藤 ヨシ子
The Growth and development of Very Low Birth Weight Infants
Yoshiko GOTO
はじめヒ
周生期,新生児医療の進歩により低出生体重児の救命率が増加しており,殊に15009以 下の極小未熟児において著しい。中でも未熟性の強い10009以下の超未熟児の新生児死亡 率も改善され,20年前ほどは90〜100%といわれたが,最近は50〜70%になり救命の可能 性はふえてきた。しかし一方救命率の向上に対し児の長期予後に対する不安は多く,家族
のみならず児の養育にあたる全てのものにとって重大な関心事である。そこで今回は,超未熟児を含む15009以下の極小未熟児の乳児期における運動発達,発 語および体重発育増加についてA:FD, SFDに分けて検討を試みた。
研究方法
対象は昭和51年1月から昭和56年8月までの間に長崎大学病院未熟児新生児室に入院し た低出生体重児1500g以下のもので身体的な後障害を伴わないもの29名,対照群として市 内産科医院にて出生した出生体重3001〜3500gの成熟児70名である。
なお出生体重10009以下の超未熟児6名のうち1名(16.7%)はSFDであり,1001〜
ユ5009の極小未熟児23名のうち8名(34.8%)はSFDである。 AFDは船川の在胎週数
別出生時体重基準1)の±2/3標準偏差内のもので,SFDは一3/2標準偏差以下のものであ
る。なお調査時期は昭和58焦1月目4月である。
成 績
1.予後に関する因子
在胎週数は出生体重が小さく,しかもS:FDよりAFDの方が短い。入院日数は10009以 下では3ヵ月から5カ月余りにおよぶ長;期のものが多く,1001〜15009ではAFDで2
ヵ月から3ヵ月が73.3%,SFDは1ヵ月から2カ月が75%をしめ, SFDの方が入院日数:
はより少ない。院内収容までの時間は,院内出生児はすべて30分以内であるが,院外出生 のため搬送時間が1時間以上であり1001〜15009に5時間以上経過のものも26.7%みられ
た。仮死状態の程度を示すApgar得点では,1分値4点以下の仮死状態の強度なものは*長崎大学教育学部家庭科教室
1000g以下の超未熟児6名中5名(83.3%)にみられ,5分値においても同じであった。
1(、01〜15009では23名中4名(17.4%)であり,そのうち1名は5分値で8点を示した。
成熟児はすべて1分値7点以上である。
生後6カ月までの栄養状態は,成熟児の62.9%が母乳であるのに対し,15009以下のも のは人工栄養が非常に多く母乳はわずか6.7%であった(表1)。
表1 予後に関する因子
人 数
出生体重(g)
在胎外数
入 院
日
数
31 〜 60日 61 〜 90日 91 〜120日 121 〜150日 151日〜
〜 1000g
AFD
SFD
5(83.3)
899.8
〔820〜940〕
27.6
〔25〜30〕
1(16.7)
800
30
1001 〜 1500g
AFD
SFD
15 (65.2) 8 (34.8)
1230.4 1341.3
〔1020〜1500〕 〔1050〜1500〕
28.4 35.9 〔27〜31〕 〔35〜38〕
1(20.0)
2 (40.0) 1 (100.0)
1(20.0)
1(20。0)
1(6.7)
11 (73.3)
3(20.0)
6(75.0)
2(25.0)
3001〜3500g
AFD
70(100.0)
3221.0
〔3010〜3460〕
39.7
〔39〜41〕
院内出生数12(4…)
4(26.7) 5(62.5)
院 内
収 容菩
讐
零
§
栄 養 方 法
〜30分
〜1時間1 〜2時間 3 〜5時間
5 〜10時間1日〜4日
1分値4点以下5分値4点以下
母 乳 混 合 人工栄養第 1 子
年令(調査時)
2(40.0)
1(20.0)
1 (20.0) 1 (100.0)
1(20.0)
4(80.0) 1(100.0)
4(80.0) 1(100.0)
2(40.0)
3 (60.0) 1 (100.0)
3(60.0)
1才糊飴血脈
4(26.7)
3(20.0)
2(13.3)
2(13.3)
3(20,0)
1(6.7)
5(62.5)
1(12.5)
2(25.0)
2(13.3)
1(6.7)
2(25.0)
2(25.0)
1(6.7)
7(46.7)
7(46.7)
1(12.5)
7(87.5)
7(46.7) 6(75.0)
1才10ヵ月〜 1才7ヵ月〜
7才3ヵ月 7才2ヵ月
44(62.9)
22(31.4)
4(5.7)
40(57.1)
1才8カ月〜
3才9ヵ月
2.乳児期の運動発達
首のすわりは10009以下のAFDで平均6.8ヵ月,修正年令でみると4.7カ月であった。
1001〜15009のAFDは平均5.5カ月,SFDは4.3カ月で,1.2ヵ月のおくれがAFDにみ
られたが,修正年令でみるとAFD 3.9ヵ月,SFDで3.8・ヵ月であり両群に差異はなかっ
た。成熟児の平均は3カ月であり1500g以下と比較すると暦年令では差異が大きく,修正
年令でみてもいずれもおくれがみられ,中でも10009以下のAFDにより強くみられた。
おすわりは10009以下のAFDで平均9.4カ,月,修正年令でみると6.5ヵ月であった。
1001〜15009のA:FDは平均8.9ヵ月, SFDは8.6ヵ月で差異はみられなかったが修正年
令でみるとAFD 6.4カ月,SFD 7.8ヵ月でありSFDの方が1.4ヵ月のおくれがみられた。成熟児の平均は6.8ヵ月
であり15009以下と比較する 月 と暦年令ではいずれの群も差 7
異がありおくれがみられる が,修正年令でみると1001〜 515009のSFDに1カ月のお くれがみられ,他のA:FDと 3 は差異がなかった。
ひとり歩きは10009以下の
AFD SFD AFD SFD AFD
AFDで平均16・8胡・修正 1・…肝 1・・1−15… l181r
年令でみると11.6カ月であっ
図1 首のすわり
た01001〜15009のAFDは
平均16.1ヵ月,SFDは14.4 ヵ月であり,SFDの方が2 11 ヵ月ほど早い。修正年令でみ
るとAFD 11.6ヵ月, SFD !o12.7ヵ月でありAFDの方が 1カ月早くなる。成熟児の平 8
均は12ヵ月であり15009以下
と比較すると暦年令ではいず れの極小未熟児も成熟児に追 いついていない。修正年令で みると1001〜15009のSFD に0.7ヵ月のおくれがみられ
たが,他のAFDとは差異はみられなかった。いずれの運 動発達も暦年令では成熟児と の差異は明らかであり極小未 熟児にややおくれがみられた
が,AFDにくらべSFDの
方が発育はやや早い,しかし 修正年令でみると,A:FDよ
りSFDの方が月令がすすむにつれ逆におくれが若干みら れてきた(図1,2,3)。
6
月
20
16
12
8
王 壬 ●
o ■ o
@一
O篠 ●■
。暦年令・修正年令
@o
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E珪 ● も o
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・暦年令
0
鋼 ・修正年令
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●
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OOoOoσ¢0
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OO
AFD SFD 1000g以下 図2 お
AFD SFD
1001〜1500g す わ りAFD
3001〜
3500g
o
。暦年令
・修正年令
oo
壬
● OO o
o 手
o ● 鴇 o
@ ●.
垂芸。
載羅
●
● ooOo
の ooOo
AFD SFD 1000g以下
AFD SFD AFD
3001〜
1001〜15009
3500g
図3 歩行開始
3.発 語
発語は10009以下のAFD
の平均は14.2ヵ月であり,修
正年令でみると9.8ヵ月であ
った。 1001〜15009のAFD
の平均は13カ月,SFDは18.5 ヵ月であり修正年令でみると
AFD 9.2ヵ月,SFD 16.1カ月であった。とくにSFDの 8名中2名は2才4ヵ月と発 語がおそいため,AFDとの
差異が大きく生 じた。成熟児 の平均は11.0ヵ月であり1500
9以下と暦年令で比較すると いずれの群もおくれが明らか であった。しかし修正年令で みると,とくにS:FDのおく
れは大きくみられるが,(図4)。
月 28
24
20
16
12
8
:
壬
。
壬
。
●
。暦年令
・修正年令
σ
む
程
●
裏
藻
驚9
AFD SFD 1000g以下
図4 発
AFD SFD AFD
3001〜
1001〜15009
3500g
語
A:FDの方が成熟児よりも2ヵ月余り早くなることが認められた
4.乳児期の体重発育
体重曲線は昭和55年厚生省発表の基準値をもとに作成したものである。在胎週数を修正 しないで暦年令のままで各児の体重をプロットした。男女児とも殊に1〜6ヵ月頃までは 10パーセンタイル以下に位置しており,中央値の50パーセソタイル値よりはるかに体重の 小さいことがうかがわれた。しかし月令がすすみ7ヵ月〜12ヵ月頃にかけて10〜50パーセ
ソタイルの中に位置するものがみられてきた。1001〜15009のAFDで15名中5名(33.3
kg 12
10
8
6
4
2
㌦1鼻 1,.・1隻
.。膣:ゑ メ や
率き
i真1;.
●属 o
90パ」一センタイル
50パーセ・タイル
q
●・
・Bパーセ・タイル
. D;
: ・
箕 寓 冥
:188臨締毫)}AFD
l188臨ll},名)}・FD
1 3 5 7 9 11 13 15月 図5 乳児期の体重発育(男児)
kg 12
10
1 3 5 7 9 11 13 15月 図6 乳児期の体重発育(女児)
lAFD
}SFD
%),S:FDで8名中2名(25%)みられた。月令に伴い体重増加量が多くなり10パーセン タイル線上に接近しつつある子供も他にもみうけられた。しかし10009以下の超未熟児は まだこの発育領域への到達にはかなりの時間が必要と思われた(図5,6)。
考 察
新生児医療にintensive careの導入によって,極小未熟児の死亡率は年と共に改善さ れ,しかも生存率のみの好成績ではなく,後障害をもたない生存への努力がなされてきて いる。予後においては,重い脳性マヒや精神発達遅滞などの中枢神経系の後障害や微細脳
障害などのsoft neurological signを呈する例が多く,1960年前半までは生存例の20〜30%にみられるとの報告が多かったが,現在ではユ500g以下の極小未熟児の神経学的後障害 は5%以下という報告がなされてきている。極小未熟児の後障害をもたない生存が可能と なりつつある一方,児の長期の発育発達に関心がよせられ,殊に1000g以下の超未熟児の
予後には不安も多く重大な関心事である。今回は超未熱児を含む15009以下の極小未熟児について乳児期における運動発達,発語
体重発育について検討を行った。藤井2)は1000g未満の超未熟児の乳児期の運動発達について考察し,首のすわり,おす わり,つかまり立ち,つたい歩き,歩行開始は修正年令を用いるとほぼ正常な発達を示し たが,対象例の中には修正年令を用いてもおくれる児がみられた。しかし神経学的異常は なく後に正常な発達をしているとのべている。また渡辺ら3)は,歩行開始期について検討 し,修正年令では正常成熟児と殆んど差異はなく極端なおくれは見出しえなかったとのべ
ている。今回の調査では極小未熟児は,首のすわり,おすわり,ひとり歩きについては暦年令で は成熟児との差異は大きいが,修正年令を用いると差異は殆んどみられなかった。ただ首 のすわりについては10009以下に修正年令を用いても若干のおくれがみられたが月令がす すむにつれ,おすわり,ひとり歩きにおいては差異はみられなくなった。1001〜15009の
A:FDとSFDの暦年令での比較ではSFDがいずれの項目においてもより早かった。し かし修正年令を用いるとAFDの方がおすわりやひとり歩きにおいては早くなりSFDの 方がややおくれる結果がみられた。発語においても同様であり,暦年令で成熟児と比較すると極小未熟児のおくれは明らか
であるが,修正年令を用いると極小未熟児のAFDの方が成熟児よりも早くなることが認 められた。しかし1001〜15009のSFDで発語が2才4ヵ月とおそい子供が2名いたが,その後の発達は順調であった。
体重発育において渡辺らは極小未熟児の身長,体重は男女共小さめであるが3歳位から 正常域に近づいていたと報告している。今回の成績において厚生省の基準値を用い,体重 をプロットした結果,男女児ともに10パーセソタイル値以下に位置しており,とても体重 は小さめであることがうかがわれた。しかし月令がすすみ7〜12ヵ月頃にかけ10〜50パー
セソタイル値の領域に達するものも1001〜15009のAFD(33。3%)SFD(25%)にみられた。月令とともに体重の増加量も大きくなり中央域に近づいていくことが予想される。
しかし10009以下の超未熟児は,1001〜15009の極小未熟児にくらべまだ中央域への到
達には時間が必要であると思われた。今後さらに追跡が必要とされるところである。また
極小未熟児の出生予防はいうまでもない。いったん中枢神経系,脳への障害が生ずれば回 復はきわめて困難であり,障害部位の神経細胞は再生せず機能回復は隣接部位の代償:をま たなければならないといわれる。母親自身の適切な健康管理,周到な周生期医療,新生児 管理による危険因子の予防が殊に望まれるところである。
結 論
今回は,極小未熟児の予後について超未熱児を含む1500g以下の極小未熟児29名,対照 群として成熟児70名について,乳児期における運動発達,発語および体重発育について
A:FD, SFDに分け分析を試みた。1)乳児期の運動発達では,首のすわり,おすわり,ひとり歩きについて,暦年令で成 熟児とくらべると発育のおくれがみられるが,修正年令を用いると差異は殆んどなかっ た。ただ首のすわりにおいて10009以下の超未熟児に修正年令を用いても若干のおくれが みられたがその後月令がすすむにつれおすわり,ひとり歩きには成熟児との差異はみられ
なかった。10019〜15009のAFDとSFDを暦年令でくらべるとSFDの発育の方が早 いが,修正年令を用いるとSFDの方が首のすわりを除きおそくなるのがみられた。
2)発語においても同様であり暦年令で成熟児とくらべるとおくれは明らかであるが,
修正年令を用いるとAFDの方が成熟児よりも2ヵ月余り早くなるのが認められた。ただ SFDに発語が2才4ヵ月とおそい子供がみられたが,その後の発達は順調であった。
3)乳児期の体重発育は,厚生省の基準値をもとにプロットした結果,極小未熟児は10 パーセソタイル値以下に位置しており,体重は小さめであることが明らかであった。しか
し7〜12ヵ月頃にかけて1001〜15009の子供に10〜50パーセンタイルに到達するものがみ られてきた。しかし1000g以下の超未熟児には中央域への到達にはまだ時間が必要である
と思われた。文 献
1)船川幡夫:在胎期間と胎児発育.日新生児誌,4(3),1968.
2)藤井とし:最:近における未熟児の遠隔成績.日新生児誌,18(1),1982.
3)渡辺 平他:青森県立中央病院未熟児センターにおける未熟児死亡率と長期予後.周産期医
学,9(11),1979.
(昭和58年10月31日受理)