原 著 〔甕女医蕪、葛63巻平醗翻員〕
極小未熟児の指さしの出現一周産期要因め影響について一
1)国立精神・神経センター精神保健研究所 精神薄弱部治療研.究室(室長 原 2)東京女子医科大学 3).東.京女子医科大学 バラ 原 母子総合医療センタ.一(主任:武田佳彦教授) 小児科(.主任:福山幸夫教授) ヒトシ ミツイシチサコ ヤマグチキヨコ 仁1)2)『.}・三石知左子2)3)・山口規.容子2)3》 仁) (受付 平成5年6月21日) Inf董uence of Perinatal Factors on tlle ApPearance of Pointing in Very Low−Birthweight I血fahts Hitosh田ARA1)2}3), Chisako MITSUISm2.)3)and Kiyoko YAMAGUCHI2)31 11Depart.m珍nt of DevelQpmental Disorders, National Institute of Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry 2Maternal and Perinatal Center, Tokyo Women’s Medical College 3}Department of Pediatrics, Tokyo Women’s Medical College Pointing is㌧one of the communication behaviors of infancy. We focus on the influence of perin3tal factors on the appearanceφf pointing.in.very low・birthweight(VLBW;Birthweight<1500 g)infants。 The subjects consisted of 86 VpBW infants without major handicaps, who were born between 1984 and 1987 and followed up tiI124 months of corrected age. We examined.the relationshiやbetween the presence/absence of pointing at 12 m6nths of corrected age a耳d the followi耳g 7 perinatal factors, i.e., b孟rthweight, gestational age, IUGR, apgar score, hypoglycemia, duration of mechanica蓋ventilation, and fetal distress。 The a:ppearance of pointing was delayed to a statistically significant extent量n the VLBW infants wi.th lower birthweights, earlier gestational age and Ionger duration of mechanical vent孟lation but not i.n those with fetal distress. Hayashi’s quantification method II was introduced to co簸firm which factor had the greatest.influence on..the appearance of.pointing. The ran:ge of standardized scores for duratiQn of mechanical ventilation, gestational age and fetal distress. were 1.398,0.364and 1.039, respectively. The duration of mechan孟cal ventilation had the most important influehce among three factors, on the appearance of pointing, and fetal distress員aαthe second strongest influenc6. We cohclude that certain peri且atal factors affecting“fetal brain maturity”have a pers.istent influence on the later development of pointing in VLBW infants. 緒 言 指さしは乳児のコミュニケーション行動のひと つである..大部分の健康乳児は,生.後11ヵ月頃よ り第2指(人差し指)・を用いて指さし.行動を開始 する,やがて乳児はコミ.bユニケーショソのために 十分な単語あるいは文を獲得するので.あるが,そ の時期まで,すなわち生後24ヵ月頃までは,指さ しが乳児のコミュニケ7ションの.主な手段とな る.指さしは,わずか12ヵ月たらずではあるが, 乳児のコミュニケーション行動の主体を.占めてい る.発達心理学者たちは指さしの出現時期に注目 している1)2).それは指さしの出現がことぽを獲得 する直前であり.,指さしが出現しない.と,ことぽ の獲得も遅れる事実が明らかになっているからで ある.指さしの遅れは自閉症児やダウン症児で指 摘されている3)4).. 我々は,指さしの出.現.時期を乳.児特に極小未.熟 児(出生体重1,500g未満)の言語発達の指標とし, 一E136一早期に言語発達の障害を発見しようと試みてい る.本研究では,いかなる周産期要因が極小未熟 児の指さしの出現に影響するかを明らかにするこ とを目的とする.すでに我々は,正期産成熟児の 指さしの出現時期と比べて,極小未熟児のそれは 遅延することを明らかにしているからである5). 対象および方法 1.対象 研究対象となる極小未熟児は,1984年10,月より 1987年12月.までに出生し,東京女子医科大学母子 総合医療センターで新生児期を管理した119例よ り選択した.この内14例は新生児期に死亡し,7 例は重度神経学的障害と診断されたため除外され た.なおこの7例の重度神経学的後障害とは,ダ ウン症候群,脳性麻痺(重度),全盲,中等度と重 度精神遅滞,難治てんかんであった.98例が追跡 対象となるが,4例は12ヵ月健診までに脱落し, 8例は健診時点で指さしに関する情報を保護者か ら十分に得られなかった.よって本研究の解析対 象は,重度神経学的後障害のない,少なくとも24 ヵ月健診まで追跡可能であった86例である. 本研究の解析対象となった極小未熟児の概要は 表1に示した.男児が42例,女児が44例で,双胎 出生の3組とひとり(1例死亡)を含んでいる. 平均出生体重は1,080g,平均在野週数は29.2週で あった.仁志田による胎児発育曲線(厚生省ハイ リスク母野管理研究班)の基準で一1.5SD以下を 不当軽量体重(SFD)児とすると, SFD児は25例 であり,残り61例は相当重量体重(AFD)児であっ た.不当重量体重児はいなかった. 2.方法 指さしの出現時期は,12ヵ月健診受診時より健 診ごとに「あなたのお子さんは指さしをします かP」と対象児の保護者へ質問してゆき,指さしが 出現しているならぽ「それはいつからですか∼」と 追加の質問をして,指さしの出現した月齢を決定 した.出産予定日によって換算した生後12ヵ月時 点(以下の月齢は修正月齢)で指さしが有るか無 いかによって解析対象の極小未熟児を二分した. 周産期要因は表2に示した7要因を評価した. 出生体重は1,000g未満と以上,在胎週数は28週未
満と以上,SFDとAFD, Apgarスコアは7点未
満と以上,低血糖(血糖値20mg/dl未満)の有無, 人工換気療法の持続が7日未満と以上,胎児仮死 (胎児心拍数のモニタリングにより,著明な徐脈, 遅発一過性徐脈,重度変動一過性徐脈,脈変動の 消失などを含む)の有無によって解析対象の極小 未熟児を二分した. 3.統計解析 統計解析は,Yatesの補正を行ったλ12検定を単 変量解析に用いた.有意差はp値が5%未満とし た.多変量解析には林の数量化II類を用いた6). 結 果 研究対象とした極小未熟児86例中46例(53.5%) は生後12ヵ月時点で指さしが出現していることが 確認された. 表2で示した7つの周産期要因と指さし行動の 表2 周産期要因の項目と区分 表1 研究対象の概要 (N=86) Male/Female Multlple P「egnancy Birthweight Gestat量onal age IUGR (Fetal growth curves for Japanese by Nishida,1985) 42/44 3pairs of twins ltwin infant 1,080±293g (420∼1,492) 29.2±3.4wks (24∼37)25SFD
(61AFD) SFD:Small−for−dates, AFD:appropriate・for−dates. Factors De丘nition Birthweight く1,000g, 1,000+g Gestational age <28wks, 28+wks IUGR <一1.5SD, (SFD/AFD) 一1,5+SD Apgar score 1−6, (5mim) 7−10 Hypoglycemia 品ヨ。憲章1・ Mechanica1 0−6days, ventilation 7+days Fetal distress Present, Absent出現の関係は表3に示した.出生体重が1,000g未 満,在神判数が28週未満,人工換気療法が7日以 上,胎児仮死が無い方が指さしの出現率の割合が 有意に劣っていた, 林の数量化II類による多変量解析では,指さし の出現の有無を目的変数に,単変:量解析で有意で あった人工換気療法,胎児仮死,在毒血数の3要 表3 指さし出現と周産期要因の関係 (N=86) Infants宙ith
Factor(N) pointingbehavior n % Birthweight <1,0009(38) 15 39.5* 1,0GO+9(48) 31 64.6 Gestational age <28wks(31) 12 38.7串 28+wks (55) 34 61.8 IUGR SFD (25) 12 48.0 AFD (61) 34 55.7 Apgar score 1−6 (19) 10 52.6 7∼10 (67) 36 53.7 Hypoglycemia 8 57.1 20+mg/dl(72) 38 52.8 Mechanical ventilation 7+days (30) 10 33.3傘 0−6days(56) 36 64.3 Fetal distress Present (30) 21 70.0* Absent (56) 25 44.6 掌p<0.05 表4 指さし出現に関与する周産期要因の判別分析 (林の数量化II類)
Factor Standardized Range of唐狽≠獅р≠窒р奄嘯?
score score Mechanical ventilation 7+days 一〇.916 1,398 0∼6days 0,482 Fetal distress Present 0,681 1.039’ Absent 一G.358 Gestational age <28回目s 一〇.234 0,364 28牽wks 0,130 因を説明変数に用いた.表4には標準化スコアと 標準化スコアの範囲を示した.標準化スコアの範 囲の大きさは人工換気療法(1.398),胎児仮死 (1.039),在胎週数(0.364)の順であった.なお 出生体重を説明変数から除いたのは,在胎回数と の相関が極めて高く,数量化II類の解析にはなじ まなかったためである6).在胎週数と出生体重を 入れ換えても,標準化スコアの範囲に大きな変化 はなかった. 考 察 極小未熟児の指さしの出現が成熟児のそれより 遅く,出現時期にいくつかの周産期要因が関与し ていることが明らかとなった.この事実を,従来 の発達心理学での研究対象となってきた健康成熟 児の指さしの出現と対比すると興味深い結果が得 られよう.すなわち,指さしの出現には,母子の 感情交流の多少や,母親自身が乳児とのコミュニ ケーションのために指さしを繁用するか,などの 環境要因ばかりでなく,脳成熟という生物学的要 因が関与していることが指摘できる点である.村 田1)によれば,指さし研究において,「指さしの模 倣説・強化説」が唱えられてきたという.母親は 乳児が指さしを開始する前より指さしを用いて応 答しようとしている点,乳児の指さしに反応して 母親がコミュニケーションを指さしで行うように なる点がその根拠である.我々の研究においては, 母親の指さしの量や母子交流の質に関する評価を 行っていないので,模倣説・強化説を否定できな いが,指さしの出現時期はより生物学的に規定さ れるという小松の主張3)を支持するものと考え る. 極小未熟児では指さしの出現が遅れることが多 いのであるが,指さしが遅れた極小未熟児のその 後の言語発達はいかようになるのであろうか.指 さしが生後12ヵ月時点で出現していなかった対象 児たちも,我々のその後の追跡研究によれぽ,す べて指さしが出現し,言語機能を獲得している. その意味では極小未熟児の指さしの出現の遅さ は,障害というより未熟と考えるべきであろう. 今後の課題として,極小未熟児の指さしの出現時 期といわゆる言語発達との関係を明らかにしてい
く必要がある. 指さしの出現に関して,発達障害という視点か らの研究は,自閉症とダウン症候群において盛ん である.共にシンボル機能の行動上の指標として の指さしの有無を評価し,指さしの意味について も,その偏りを指摘するものが多い.川崎ら4)は自 閉症児の発話と指さしの出現を比較し,自閉症児 においては健康児の出現順序と異なり,むしろ発 話(単語)が指さしより早く出現する傾向を認め ている.発達障害として重篤であれぽ,自閉症に おいてもダウン症候群においても,指さしより先 にあるいは指さし無しに言語を獲得していく例が あることが知られているのだが,我々の研究対象 である極小末熟児群においては,このような指さ し出現と発話の逆転現象は認められてはいない. やはり,極小未熟児の指さしの出現の遅れは,障 害というより未熟によるものとするのが妥当であ ろう. 周産期要因の中でも人工換気療法が長い例ほど 指さしの出現が遅れるという結果が得られた.こ の事実にはふたつの可能性が考えられる.第1は, 長期にわたる酸素投与そのものが脳成熟に負の影 響を与える,あるいは未熟肺によるガス交換の不 足で低酸素状態が続くことが脳成熟に負の影響を あたえる可能性である.第2は,長期の人工換気 を必要とする未熟肺をもつ胎児は在胎引数が短 い,つまり未熟肺というより未熟児であるためだ ろうとする可能性である.だが第2の考え方は, 林の数量化II類の解析結果からは支持しにくい. つまり,生後12ヵ月時点の指さしの有無は,在胎 週数よりも人工換気療法期間の方がより影響力を もつというのがこの解析結果の意味であるから だ.新生児期の人工換気療法が後の精神発達に及 ぼす影響については種々の議論があるが7),・指さ しを指標にしてこれらの影響を検討することも可 能であろう. 胎児仮死がある方が指さしの出現にはより有利 であるという,一見矛盾するかのような結果が得 られた.我々はここで胎児仮死の意味についてひ とつの解釈を提案したい.それは,胎児仮死は脳 障害の結果というより,脳障害の危険を示すサイ ンという見方である.胎児が子宮環境に適合でき なくなった時,その状況に反応して心拍数を変化 させる状態が胎児心拍i数のモニタリングによる胎 児仮死のサインである8).もちろん,この状態を放 置するならば胎児に障害が発生し,生命維持も難 しくなるが,胎児仮死そのものは危険を示すサイ ンに過ぎない.胎児仮死というサインを出すため には,当然,脳(センサー)と心臓(警報機)と の連絡が十分にとれていなけれぽならないだろ う.つまり,サインを示す程度の成熟が得られて いるか否かが胎児仮死の有無を左右する.後の指 さしの出現が脳成熟と関連しているとするなら ぽ,サインを示しうるほどの成熟とは,胎児脳の 成熟にほかならない.在門灯数という単純な「時 間の長さ」よりも胎児仮死をサインとして示せる ほどの脳成熟(胎内における脳発育そのものある いは生得的な脳発育)の方がより胎児の成熟を反 映しているのではなかろうか.そう考えれば,胎 児仮死のサインを示したが,適切な処置によって 脳障害を免れた極小未熟児の方が指さし出現が早 かったとする今回の研究結果に矛盾はない. 結 論 極小未熟児として出生した86例の指さしの出現 月齢を評価し,指さしの出現時期へ及ぼす周産期 要因の影響を検討した.生後12ヵ月(修正月齢) までに指さしを認めた極小未熟児は46例(53.5%) であった.長期におたる人工換気療法,胎児仮死 が無いこと,在胎週数が短いことが指さしの出現 に負の影響をあたえることが判明した.指さしと 脳成熟・脳障害の関係について考察した.極小未 熟児における胎児仮死の発生は,脳障害の結果と いうよりその危険を示すサインであり,胎児仮死 というサインを示すことがでぎる極小未熟児は一 定の脳成熟を示していると解釈でぎる.極小未熟 児の指さしは脳障害の結果というより成熟の遅れ と考えるべきと結論した. 本論文を恩師福山幸夫先生に捧げます. 本研究の一部は第1回国際周産期学会(1991年11 月,東京)にて口頭発表した,
文 献 1)村田孝次:日本の言語発達.研究.pp49−73,培風 館,東京(1984) 2)Hannan TE:An examination of spontaneous pointing in 20・to 50−month−old children. Perce− pt Mot Skills 74:651−658,1992 3)小林教之:指示行動の発達とその障害(その1) 一普通児,蒙古症,自閉的傾向児の場合一.京都 教育大紀要 53:47−71,1978 4)川崎葉子,清水康夫,小熊順子:自閉症の発話と 指さし行為の出現.発達障害研 8:296−305,1987 5)原 仁,三石知左子,山ロ規容子:極小未熟児 の指さしの発達.精神保健研 36:1−12,1987 6)柳井晴夫,高木廣文編著:多変量解析ぐンドブッ ク.現代数学社,東京(1987) 7)Robertson C]M【T, Etches PC, Goldson E et aL Eight・year scho61 performance, neurodevelop− mental, and growth outcome of neonates with bronchopulmonary dysplasia:Aqomparative study. Pediatrics 89:365−372, 1992 8). イ藤章:シンポジウム1胎児仮死および新生児 仮死:病因と病態.周産期学シンポジウム6(日本 周産期学会編)pp8−9,メジカルビュー社,東京 (1988) 一E140一