• 検索結果がありません。

極小未熟児の心身発育発達

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "極小未熟児の心身発育発達"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

極小未熟児の心身発育発達 (2)

The Growth and development of Very

Low Birth Weight Infants(2)

Yoshiko GOTO

(Received October 31,1984)

は じ め に

 近年high risk新生児やhigh risk胎児に対する管理は,広範囲にわたる医療技術の進歩 ならびに医療スタッフによる日夜を徹しての献身的な養育の努力によって未熟児のlntact survivalはずいぶん向上してきた。しかし,一方出生直後から始まる母子関係にお』いて,

未熟児殊に極小未熟児,超未熟児は数週間および数ヵ月にわたる入院生活を余儀なくされ ることから母親とのcontactが絶たれるのが通常である。また極小未熟児,超未熟児は早 期産による出生のため,母親がまだ対象愛として十分に胎児を一個の独立した個体として 容認することが出来ない状態において子供を迎えることからも正期産成熟児の母子関係と は異なり,母子相互作用におけるattachment形成にお』いて困難さをもっているといわれ る。それ故未熟児をもつ母親がその後どのように子供を受容し適した母子相互関係を確立 していくか,このような未熟児の母親のもつ心理的課題に対して,欧米ではすでに新生児 集中治療にも両親を積極的に参加させる方向が広がりつつあるという。我国においても早 期母子接触,早期保育参加等母子相互作用に対する配慮は,今後の医療内容においてもま すます期待されていくと思われる。

 今回は極小未熟児,超未熟児の退院1ヵ月後における母子関係の様子について,子供も 1ヵ月程家庭での生活環境に適応し独自の生活リズムを形成するころであり,母親も子供 を受容し子供の個性を知りニーズに応え育児にも少しずつ自信がついてくるころでもある。

       ユ  う

そこでBroussardの考案した新生児認知検査を用いて母子間の相互作用を分析し,さらに 幼児期にいたった子供の性格傾向ならびに親の育児態度について,成熟児との比較検討を 試みた。

長崎大学教育学部家庭科教室

(2)

70 後 藤 ヨ シ 子

研 究 方 法

 対象は昭和51年から昭和56年8月までの間に長崎大学附属病院未熟児新生児室に入院し        ヨ た超未熟児を含む極小未熟児,前報と同じ対象児であるが完全な資料のえられたもの27名,

対照群として市内産科医院にて出生した成熟児57名である。なお極小未熟児で身体的後障 害を呈していた脳性マヒ,視力障害,難聴児は今回除いた(表1)。

 調査方法は,Broussardの考案した新生児認知検査の測定をもとにこれを応用し,子供の 退院後家庭で子供と生活を共にして1ヵ月程経過した頃の様子について母親に回答を求め た。もちろん未熟児は長期間にわたる入院生活をしているため,暦月齢では成熟児よりも

1〜5ヵ月は長い。幼児期における子供の性格傾向は高木・坂本式幼児児童性格診断検査 を用い母親より回答をえた。母親の育児態度については田光式親子関係診断テストを用い た。実施時期は昭和58年1月目4月である。

 なお出生体重1000g以下の超未熟児5名はAFDであり,1001〜1500gの極小未熟児22 名のうち8名はSFD,14名はAFDである。成熟児はすべてAFDである。 AFDは船        の川の在胎週数別出生時体重基準の±3/2標準偏差内のもので,SFDは一3/2標準偏 差以下のものである。

表  1 対象児

〜1000g 1001 〜 1500g 成 熟 児

AFD SFD AFD AFD

5 8 14 57

出生時体重(g)  899.8k820〜940〕  1341.3

k1050〜1500〕  1214.7

k1020〜1500〕  3216,2 k3010〜3450〕

退院時の体重(g)  26520

k2200〜3070〕  2385,9

k2050〜2812〕  2523.1 k2180〜3030〕

胎 週 数  27.6

k25〜30〕  35.9

k35〜38〕  28,4 k27〜31〕

 39.7 k39〜41〕

31〜60日 6(750) 1(71)

入院日

61〜90日 X1〜120日

1(20.0)

Q(40.0)

2(25.0) 10(71.4)

R(21.4)

121〜150日 1(20.0)

151日〜 1(20.0)

成  績

 1.乳児期における母親の子供に対する認知

 母親の子供に対するかかわり方は,子供の行動の認知のしかたによって変化するであろ う。逆に子供の行動は母親のかかわり方によって影響されるであろう。母親の認知と母子 相互作用との間に関連性をBroussardは見出している。新生児認知検査は初産児をもつ母 親には平均的な赤ん坊と自分自身の赤ん坊について認知の測定を行ったものであるが,今 回はこの測定を応用し,極小未熟児と成熟児の母親に子供の退院後家庭で共に生活をし1

ヵ月程経過したころの様子について質問した。この検査に含まれる行動上の項目は,泣き

(3)

さけぶこと,食事,よだれや吐くこと,睡眠,排泄および予告能力からなっている。

   新生児認知検査  あなたの赤ちゃん

    赤ちゃんと自宅で生活を一緒にするようになって1ヵ月のころの様子をもっともよく表わし    ていると思われるものに○をつけて下さい。

1 2 3 4 5 6

あなたの赤ちゃんは泣きさけぶことは(かなりあった・普通・少し・ない)

あなたの赤ちゃんは食事で難しい問題が(かなりあった・普通・少し・ない)

あなたの赤ちゃんはよだれや吐くことは(かなりあった・普通・少し・ない)

あはたの赤ちゃんは睡眠で難しい問題が(かなりあった・普通・少し・ない)

あなたの赤ちゃんは排せつで難しい問題が(かなりあった・普通・少し・ない)

あなたの赤ちゃんは食事や睡眠のリズムができるのに難しい問題が

(かなりあった・普通・少し・ない)

 まず泣きさけぶことは,非常にまたはかなりあったと答えている母親は,超未熟児で40

%極小未熟児のSFDで37.5%, AFDで21.4%みられ,成熟児は10.5%であった。他方 ほんの少しまたはないと答えている母親は極小未熟児のSFDが最も少なく12.5%であり,

成熟児との間に有意な傾向がみられた。

 食事では,非常にまたはかなりむずかし

       (ロ)・(二):十 い問題があったと答えている母親は,超未

熟児で60%と非常に高く,極小未熟児のS、

FDで37.5%, AFDで21.4%みられ,成

       のくニ  お 熟児はわずか5.3%であった。各群とも成熟      〔・隅・・

       〔ハ)・(⇒:辮 児との間に明らかな差異がみられた。

 よだれや吐くことでは,非常にまたはか なりあると答えている母親は,超未熟児で

      く ニ  20.0%,極小未熟児のSFDで12.5%, A       い) (⇒:+

FDで21.4%みられ,成熟児では8.9%であ った。他方ほんの少しまたはないと答えて いる母親は極小未熟児のSFDで12.5%,

AFDで28.6%であり,成熟児との間に明 らかな差異がみられた。

 睡眠では,非常にまたはかなり問題があ

       くわくニバ つたと答えている母親は,超未熟児で20%       (・){聯        (ハ)〔二):掛

極小未熟児のSFDで25.0%, AFDで

14.3%みられ,成熟児は14.0%であった。

他方ほんの少しまたはないと答えている母 親は,各群とも過半数をしめ,成熟児との 間に差異はみられなかった。

 排泄では,非常にまたはかなり問題があ ったと答えている母親は,超未熟児で20.0

%極小未熟児のSFDで12.5%, AFDで 14.3%みられ,成熟児はわずか1.8%であ った。他方ほんの少しまたはないと答えて いる母親は,成熟児では82.4%と非常に高

(の 〜10009 非常にまたはかな

@   40.0

   ,モつつ Q00

ジほんの少しまたは妙     40.0

i叩且㈲ SED 37.5 50.0 12.昼、(ロ)

ぶこ

1騨 (ノ9 AFD 21.4 .50.0 28.5

とは

(二撫児 10.5    44.0 45.5 7

〜1000g 60.0 20.0  :20.0         9 食 事

且叩1 SFD 37.5 62.5

{イ)

kロ)

ADF 21.4 35.7 42.9

〔ハ)

成熟児 .3112.3 82.4 ・層

よだ

〜1000g 20.0 40.Ol 40.0

れや吐

E甲1 SFD 12.5 75.0 =12・5:

(ロ)・

iハ)・

くこ 1駅

ADF 21.4 50.0 28.6

とは

成熟児1 8,9  19.3 71.8

〜1000g 20.0,  20.0 60.0 1001

T SFD ・25.0 ;25.OI 50.0

E騨

AFD 14.3    35.7 50.0

成熟児 14.0 ユ2.3 73.7

〜1000g 20.0 80.0

】叩1 SFD   冒P2.5  ! 62.5 25,0. 〔イ)・

且劉 AFD 14.3 57.1 ,28.6

(ロ)・

iハ)・

成熟児 18 15.8 82.4

食時

〜1GOOg /2…/ 60.0 ●●C■,@20.0    層 や睡眠

lDOi

T SFD 25.0 25.0

(イ〉・

iロ)・

のりズ

1騨 AFD ∠14.3i  35.7

50.0 ムは

成熟児 3.5 ,22.81 73.7

 十=.05くPく・10 什:Pく05 ㎡=Pく.OII

図1  母親の子供に対する認知 表2『 母親の子供に対する認知得点

絡;蹴

〜10009 1GO正 〜 1500g 成熟児

検 定

AFD(イ) SFD(ロ) AFD㈲ AFD(⇒

Range

ス均値 W準偏差

15〜21 P7.2 Q,387

15〜22 P8.0 Q,618

8〜22 P5.7 S,713

6〜22 P0.8 R,825

6−22 P2.7 S,665

{イ1・に):帯 茶鴻戟o二〕:惜 kハレ1ニヒ惜 eロレいins 惜:P<.01

(4)

72 後 藤 ヨ シ 子

く,各群との間に明らかな差異がみられた。

 食事や睡眠のリズムでは,非常にまたはかなりむずかしい問題があったと答えている母 親は,超未熟児で20.0%,極小未熟児のSFDで25.0%, AFDで14.3%みられ,成熟児 は少なく3.5%であった。他方ほんの少しまたはないと答えている母親は,極小未熟児の AFDで50.0%みられ,成熟児では71.7%と高く,超未熟児,極小未熟児のSFDとの間 に明らかな差異がみられた(図1)。

 子供と生活を共にし1ヵ月程経過したころの子供の行動に対する親の認知は,成熟児の 母親においては各項目とも問題はほんの少しまたはないと答えている肯定的な答えの頻度

は高く,他方超未熟児,極小未熟児においては非常にまたはかなりあったと答えている頻 度はより高かった。極小未熟児の中では,SFDの方がAFDよりも非常にまたはかなり 問題があったと答えている行動項目がより多くみられた(図1)。

 そこで子供の行動項目について, 非常に は5点〜 ない は1点を与え,各行動項目ごと に得点を出し合計を行った。合計得点は最低1点〜最高30点であり,得点が低いほどより望 ましい行動であることを意味している。

rangeは超未熟児で15〜21,極小未熟児のSFDで15〜22とほぼ同じ分布がみられ,極小 未熟児のAFDで8〜22,成熟児で6〜22とほぼ同じ分布であった。平均値では極小未熟 児のSFDで18.0と最も高く,次いで超未熟児の17.2,極小未熟児のAFDは15.7であり,

成熟児は10.8で最も低かった。成熟児との間に平群とも明らかな差異がみられた。しかし,

極小未熟児のSFDとAFD間には明らかな差異はみられなかった(表2)。

 2.幼児期における母親の態度

 幼児期にいたった子供に対する母親の育児態度を診断ダイヤグラフからみてみると,成 熟児を含め各群ともに消極的拒否,積極的拒否が危険(20パーセンタイル以下)準危険:

(40パーセンタイル以下)地帯にあり,さらに超未熟児の母親においては不安,溺愛に,

極小未熟児のAFDには溺愛においてみられた。成熟児の母親との比較では,超未熟児の 母親は不安,溺愛,盲従において明らかな差異がみられ,極小未熟児のSFDでは不安に,

AFDでは不安,溺愛において明らかな差異がみられた。なお超未熟児,極小未熟児の母 親は期待,厳格,干渉においては偏りはなく安全な態度であることが認められた(図2)。

 若干質問項目別にみてみると,忙しいから ねといってとりあわない,子供の欠点ばかり が目につく(消極的拒否)ちびぐずという

(積極的拒否)子供の食事や栄養にやかまし くいう (干渉)ことにおいては,超未熟児,

極小未熟児の母親と成熟児の母親との間に差 異は殆んどみられなかった。しかし成熟児の 母親に対し超未熟児の母親は,子供のできる ことでもさしずする(干渉)子供の欠点をか ばう,かぜをひかないように注意する,子供 をかって不幸な目にあわせたので気をつける

(不安)子供を目の中に入れても痛くない

、。。論。。}

 馨

雛支配講

塾.

  釣   

一  、i   ミ、1

。極隷}

_._ 漏. 鮭

鐸薪・服従・i灘

    1廿従型1      鰯愛型〕

図2  母親の子供に対する態度     (診断ダイヤグラフ)

 。1。,

曇 保

磁護

  、轟。,

(5)

100

50・

ノ!@ 、

  ごイ へ   む

ご;割器g

乃__累【二i成熟児

、      

、     

、    ,

、   ,

,ス、

;:乱1:,Pぐ10

冊:P<,01

(イ)・(二):冊

    蒼

(ロ)・(⇒:帯

    、

、      

   へ、    ノ、   ,    、

、  ノ    、

\       し、

 〆   、

(イ).(二):+ト      k\

  (イ)・(二):十\

  (ノう・(⇒:十 、 !

      y

 \

 、      、

 /

 1    、、

 ノ

・霊ll:臨

ノ済

A

,ろ.、⇒1+

㈲ (⇒:族

      1 2 3 4 5 6 1.忙しいからといってとりあわない 2.子供の欠点ばかりが目につく 3.あれだめこれだめという 4.ちびぐずと悪くいう

5.親の思いどおりにならないとしかる 6.子供の食事や着衣にやかましくいう 7.子供のできることもさしずする

8.手足の汚れや衣服の衛生にやかましくいう       図3

7  8   9  10  11  12  13  14  15

 9.子供をかって不幸な目にあわせたので気をつける  10.子供の欠点をかばう

 11.かぜをひかないように注意する

 12.子供にもっとしてやるべきことがあるようで心配  13.子供を目の中に入れてもいたくない  14.しつこくねだられると負ける  15.子供にたのまれれば何でも手伝う 母親の子供に対する態度(項目別)

(溺愛)しつこくねだられると親の方が負けてしまう(盲従)といったことにおいては頻度が 高く明らかな差異がみられた。極小未熟児のSFDでは,子供の欠点をかばう(不安)しつ こくねだられると親の方が負けてしまう(盲従)ことにおいて頻度は高く,AFDの母親で は子供をかって不幸な目にあわせたので気をつける,かぜをひかないように注意する(不安)

ことにおいて成熟児の母親との間に明らかな差異がみられた(図3)。

 3.母親からみた幼児期の子供の性格特性 母親からみた子供の性格特性を診断プロフ ィールでみてみると,要指導(10パーセンタ イル以下)および要注意(10〜30パーセンタ イル)の範囲に入る性格特性は11項目すべて においてみられず,超未熟児,極小未熟児に おいても全体的に安定した性格傾向がみられ た。しかし成熟児との比較においては,超未 熟児は攻撃・衝動的,体質的に不安定であり 明らかな差異がみられた。しかし自立性では 逆に成熟児よりも良好な傾向がみられた。極 小未熟児のSFDでは成熟児よりも情緒不安 定,自制力なし,家庭への不適応,体質的不 安定において,AFDでは情緒不安定,攻撃・

衝動的,体質的不安定において明らかな差異 がみられた(図4)。

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

8.

9,

10,

A.体質的不安定

  パーセンタイル・フ。ロフイール

    {11  {2)       〔3)       (4)

    1  10 20 30 40 50 60 70 80 90 99 顕示性が強い      顕示性なし 神  経  質      神経質ではない

情緒不安定        情緒安定

自制力なし       自制力がある

依存的        自立的

退行的       

生産的

攻撃・衝動的       温和・理性的 社会性なし      社会性がある 家庭へ不適応      家庭へ適応 学校へ不適応       学校へ適応

図4

i    …

i  l回伺:+

@  1(バ・(⇒=砦

… i畔,,+  1

P

 ; 1i1

\i

@   「

l   l〔イ)・〔⇒:+

G   1〔ハトロ;+

i\、

i , i  電 i/

i i剛⇒;+  o

1    ; 戟@   l      ■

i・・    、

 l  l(イ}・に騨

gL←H露:8i婁

=  !

●一一一弓〔イ〕、1〔旧Oq

尺一一一xに}成興児

        ま 

:ゴ只劉:駕ド 05言こll      帯   Pく.01

母親からみた子供の性格特性

(診断プロフィール)

(6)

74 後 藤 ヨ シ 子

100

50

 ごイトユ むロ

二二}:駄

施_一胤1二〕成敦児

    !     ㈲,(⇒:+  1 の・(⇒ 十   「  、      1  、      「         、   ミ          し      

  \1 、晶認

  幽…‡

のイニドう

, XE、 /・、

ノ         ノ      へ

〉ピ   

‡認く10

冊 P〈01

  (白)・(三) 卦汽  (イ)・{二).卦ト   ノ      (ロ)・(⇒:駈 れ ヘ   ノ        ミ

 \ズ     ・の仁)●帯

(ロ)・(⇒十      ・

      夫         1  2

1.かんしゃく 2.おちつきない 3.強情っぱり 4.荒っぽい遊びがすき 5.わがまま

3  4  5  6  7  8

 6.心配症  7.はずかしがる  8.友達は少ない  9.気が小さい  10.泣き虫

9 10  11  12  13  14

   11.誰かにたよろうとする    12。かぜをひきやすい    13.皮フが弱い    14.ひどくやせ型

図5  母親からみた子供の性格特性(項目別)

 若干性格項目別にみてみると,成熟児との比較において超未熟児は,おちつきがない

(自制力なし)ひどくやせ型である。極小未熟児のSFDでは,かんしゃくをおこす,お ちつきがない(自制力なし)わがまま(顕示性が強い)誰かにたよろうとする(依存性)

かぜをひきやすい,ひどくやせ型(体質的不安定)であり,AFDではかんしゃくをおこ す(自制力なし)はずかしがる(社会性なし)ひどくやせ型において明らかな差異がみら れた。幼児期における子供の性格特性は平群とも全体的に安定しているが,成熟児との比 較において,特に極小未熟児のSFDにより多くの項目において差異がみられた(図5)。

 4.乳児に対する親の認知と幼児期との関連

 子供の退院1ヵ月後にお』ける親の認知において,子供の行動項目の平均得点12.7を基準 に13以下(より望ましい行動を意味する)とそれ以上の得点とに分けて,幼児期における 子供の性格特性ならびに親の態度との関連について検討した。

超未熟児お』よび極小未熟児のSFDは合計得点15以上であり,13点以下に該当するものは みられなかった。それ故極小未熟児のAFD14名中5名(35.0%)および成熟児57名中45名

(78.0%)は得点13以下であり,得点14以上のものと比較した。その結果極小未熟児,成熟 児の13点以下のものは得点14以上のものにくらべ,幼児期における子供の性格特性および 親の態度において双方全体的により良好な傾向が見いだされた。乳児期における子供の行 動に対して親がより肯定的な認知をしている子供は,いわゆる幼児期における性格特性も

より良好であり,親自身の子供に対する育児:態度もより望ましい傾向であることから,乳 児期における母親の子供への認知は後の子供の発達や親自身の育児態度とも関連があるよ

うに思われた。

(7)

考  察

 極小未熟児,超未熟児の母子関係を考える場合,特に子供の未熟性の強い状態において は,活動性は少なく,四肢・体幹の運動や目を開けることも少なく閉じたままである。母 子関係は母と子のあらゆる感覚系を介して相互に作用しあう過程であるため,未熟児にと って母親からの語りかけや身体的接触はいっから,どのような意味をもち,子供の発達を 促していくかは,子供の身体的状態の改善,回復にあわせて考えていかなければならない。

一般に成熟児は,出生時から目で物を追い,母親の声に反応し,吸飲反射も完成していて 授乳も直接可能である。さらに母親の体しゅうやお乳のにおいをかぎわけたり,舌出しの 模倣をするなど,すばらしい能力をもち,生後から母と子の自然な相互のやりとりがなさ れている。しかし未熟児の能力は,妊娠週数からみて34週以前はどのような刺激に対して も感性的認知は必ずしも可能ではないという指摘も多くなされている。子供の状態が改善 され,呼吸も人工呼吸器の助けをかりなくなり,授乳も直接哺乳ビンから飲むことが出来 るようになる妊娠週数34〜35週ごろからは,聴覚,視覚的刺激に対し周囲に関心を示しう

まく反応できるようになるといわれている。

 竹内5)は保育器内にいる子供との対面場面では,母親の積極的な働きかけは生起しに くいが,子供が常時コツトにいて抱いて哺乳ビンで授乳可能となった状態の場面では,顔 と顔をみあわせる,子供を指先でなじるなど,いつくしむ行動が増加し,さらに沐浴など の保育場面では話しかける,指でつつく,唇や舌で音を出すなど,あやす行動が著明に増 加してくるという。そして母親は初回には不安や罪責感をあらわす危機的状況から,回を 重ねる中で次第に子供への愛着に変化し,退院前には気持に大きく余裕が生じてくるとの べている。子供への母親の早期接触の重要さを示しているといえる。

 今回は子供の1〜5ヵ月にわたる長期入院後,退院1ヵ月における極小未熟児,超未熟 児の母子関係についてBroussardの考案した新生児認知検査を母親に実施し分析を試みた。

 その結果,子供の行動項目,泣きさけぶこと,食事,よだれや吐くこと,排泄,食事や 睡眠のリズムにおいて,非常にまたはかなり問題があると答えた母親は,超未熟児,極小 未熟児の母親に多く,問題は少しまたはないと答えた,いわゆる肯定的認知は成熟児に非 常に多かった。同じ極小未熟児でもSFDはAFDよりも非常にまたはかなり問題がある と答えた行動項目がより多かった。合計得点からみた場合,得点の低い方がより望ましい 行動を意味しているが,極小未熟児のSFDが最も高く,ついで超未熟児,極小未熟児の AFDの順であり成熟児は最も低かった。子供に対する肯定的な認知は,子供の個性やニ ーズに対し母親の適切な対処を意味しており,母親は子供との相互作用に満足し報いられ ていると感じている。Broussardは順調な母子の相互作用の過程は生後1ヵ月に達する時 期までに定められるらしいとのべている。そして生後1ヵ月の子供への認知のしかたは子 供の後の発達にも関係しており,それは1ヵ月において母親に平均よりよいと認められた 子供の群の方が,認められなかった群よりも4才6ヵ月で精神病理学的症状を示すものが

より少なかったといっている。乳児に対する親の認知と幼児期との関連について,子供の 性格特性および親の育児態度からみた場合,子供の行動得点の13以下の群の方がそれ以上 の得点の群よりも幼児期における性格特性や親自身の子供に対する育児態度は全体的によ り良好であった。なお幼児期における子供の性格特性は,超未熟児,極小未熟児は全体的

(8)

76 後 藤 ヨ シ 子

に安定していたが,成熟児との比較においては若干差異がみられていた。育児態度におい ては超未熟児,極小未熟児の母親は不安,溺愛の傾向が予想されることではあるが保護i的 な態度がより強く伺われた。

 極小未熟児,超未熟児の母子関係は,早期からの長期にわたる母子分離を余儀なくされ,

分離後子供との愛着を形成することの困難さ,そして個々の子供のもつ個性とニーズを理 解し適切に対処していくことにおいて,成熟児の母親にくらべ,さらに時間が必要なのか もしれない。しかし乳児期における母親の子供に対する認知と幼児期における子供の性格 特性および母親自身の育児態度において何程かの関連性が見いだされることから,少しで も早期からの母子接触,早期母子保育の参加等望ましい母子相互作用を促進し,退院後に おいても自信をもって育児行動ができるような手助けが,今後医療内容の中に強く望まれ るところであろう。

今回の対象児は幸いにして神経学的後障害もなく健やかに成育してきている子供達である が,生存すら出来ずまた生存しえても重い脳性マヒや視力障害,てんかん等神経学的後障 害をもつことは成熟児にくらべ多いことから,極小未熟児,超未熟児の出生予防の重要さ はいうまでもない。出生時体重は生後発達の原点でもあり,また人格形成における適切な 母子相互作用の形成は重要な要因であるだけに,順調な胎児発育をもたらすよう母親自身 の適切な健康管理,周到な周生期医療,早期母子接触等の充実が強調されるところである。

結  論

 今回は極小未熟児,超未熟児の母子関係について,子供の退院後1ヵ月経過したころの 様子について,Broussardの考案した新生児認知検査を用い分析を行った。また幼児期の 子供の性格特性,親の態度について高木・坂本式幼児性格診断検査ならびに予研式親子関 係診断テストを実施し,さらに乳児期の子供に対する親の認知と幼児期との関連について 検討を加えた。対象は超未熟児を含む極小未熟児27名,対照群成熟児57名である。

 その結果,(1)子供に対する親の認知は,子供の行動項目泣きさけぶこと,食事,よだれ や吐くこと,排泄,食事や睡眠リズムにおいて非常にまたはかなり問題があると答えた 母親は超未熟児,極小未熟児に多く,問題は少しまたはないと答えた,いわゆる肯定的認 知は成熟児に多かった。行動項目の睡眠については未熟児と成熟児との間に明らかな差異 はみられなかった。極小未熟児の中ではSFDの方がAFDよりも肯定的認知の頻度はよ

り少なかった。(2)幼児期における親の態度は,成熟児の母親を含め各藩とも消極的拒否,

積極的拒否が,さらに超未熟児の母親に不安,溺愛が,極小未熟児のAFDの母親に溺愛 の態度がみられた。成熟児の母親との比較では,超未熟児の母親に不安,溺愛,盲従が,

極小未熟児のSFDの母親に不安が, AFDの母親に不安,溺愛において差異がみられた。

(3)幼児期における子供の性格特性は,超未熟児,極小未熟児ともに全体的に安定した性格 傾向がみられた。成熟児との比較では,超未熟児に攻撃・衝動的,体質的不安定がみられ たが,自立性は成熟児よりも良好であった。極小未熟児のSFDは成熟児にくらべ情緒不 安定,自制力なし,家庭への不適応,体質的不安定がみられ,AFDでは情緒不安定,攻 撃・衝動的体質的不安定が認められた。(4)乳児期の子供に対する認知と幼児期との関連に ついて,子供の行動項目の合計得点13以下のいわゆるより望ましい子供の行動を意味する

(9)

肯定的認知群の方が,それ以上の得点群よりも幼児期における子供の性格特性および親自 身の態度において全体的により良好であった。乳児期の子供に対する母親の認知は幼児期 の子供の発達,育児態度と関連があるように思われた。

参 考 文献

1)Broussard, E. R.&Hartner, M. S.:Maternal perception of the neonate as related    to development. Child psychiatry&Human Deveiop,1(1),1970.

2)Broussard, E. R. et al:初産児に対する母親の認知についての考察.障害乳幼児の   発達研究第18章J.ヘルムート編岩本 憲監訳,黎明書房,1977.

3)後藤ヨシ子:極小未熟児の心身発育発達(1)長崎大学教育学部教育科学研究報告,31,

  1984.

4)船川幡夫:在胎期間と胎児発育.日新生児誌,4(3),1968.

5)竹内 徹:極小未熟児における母子関係.周産期医学,13(12),1983.

       (昭和59年10,月31日受理)

参照

関連したドキュメント

et

 尿路結石症のうち小児期に発生するものは比較的少

 ROP に対する抗 VEGF 療法として,ラニビズマブの 国際共同治験,RAINBOW study(RAnibizumab Com- pared With Laser Therapy for the Treatment of INfants BOrn

本学級の児童は,89%の児童が「外国 語活動が好きだ」と回答しており,多く

未記入の極数は現在計画中の製品です。 極数展開のご質問は、

・少なくとも 1 か月間に 1 回以上、1 週間に 1

在宅の病児や 自宅など病院・療育施設以 通年 病児や障 在宅の病児や 障害児に遊び 外で療養している病児や障 (月2回程度) 害児の自

わが国において1999年に制定されたいわゆる児童ポルノ法 1) は、対償を供 与する等して行う児童