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小児期における音高弁別能力の発達的変化

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原著

論文

小児期における音高弁別能力の

発達的変化

北村 柚葵

1,2

北 洋輔

2

奥村 安寿子

2,3

稲垣 真澄

2

奥住 秀之

4

石川 裕司

4 概要:音高弁別能力とは,音の高さの差異を聴き取る力であり,音楽の聴取・演奏の両面で重要と なる。しかし,幼児の音高弁別能力の発達過程については,言語的な制約もあり,これまでほとん ど検討されていない。そこで本研究では,継時的に流れる 2 音の音高の変化を非言語的に表現する 方法を用いて,年中(4-5 歳)から小学校 2 年生の小児における音高弁別能力の発達的変化を検討 した。その結果,同音の同定は年中から年長にかけて向上するが,高低弁別は小学校 1-2 年生にか けて獲得されることが示された。また,2 年生では音楽経験の効果が認められ,小児の音高弁別能 力の発達には段階的な自然獲得と継続的な音楽訓練の両方が関わることが示唆された。 キーワード:音高弁別能力,高低弁別,小児,発達的変化,音楽経験

Developmental changes in pitch discrimination ability

during childhood

Yuzuki KITAMURA

1,2

, Yosuke KITA

2

, Yasuko OKUMURA

2,3

,

Masumi INAGAKI

2

, Hideyuki OKUZUMI

4

and Yuji ISHIKAWA

4

Abstract: Pitch discrimination is the ability to distinguish differences in pitch and it is important for playing musical instruments and listening to music. However, owing to the limited verbal abilities of young children, not much is known about developmental changes in pitch discrimination during childhood. Therefore, the present study examined pitch discrimination abilities in preschool and early elementary school children using non-verbal responses. It was found that an ability to recognize the same pitch improved among preschoolers (4-5 years) and kindergarteners (5-6 years), while high-low pitch discrimination 1〒 184-8501 東京都小金井市貫井北町 4-1-1 東京学芸大学大学院 教育学研究科;Graduate School of Education,

Tokyo Gakugei University, 4-1-1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo 184-8501, Japan(e-mail: yzk.kitamura@gmail. com)

2〒 187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-1 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究

部;Department of Developmental Disorders, National Institute of Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP), 4-1-1 Ogawa-Higashi, Kodaira, Tokyo 187-8553, Japan

3〒 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学 高大接続研究開発センター 追跡調査部門;University of Tokyo,

Center for Research and Development on Transition from Secondary to Higher Education, Division for Admissions Follow-up Assessment, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan

4〒 184-8501 東 京 都 小 金 井 市 貫 井 北 町 4-1-1 東 京 学 芸 大 学 教 育 学 部;Faculty of Education, Tokyo Gakugei

University, 4-1-1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo 184-8501, Japan 2018 年 9 月 13 日受稿,2019 年 2 月 2 日受理

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弁別能力とは,音の高さの差異を聴き取る力であ り,2 音が同じ/違うことを判断する異同弁別と, 2 音が違うことを判断した上で音高変化の方向性 ( 1 音目より 2 音目が高い/低い)を判断する高 低弁別の 2 つのレベルがある。これらが獲得され ると,2 音のどちらが高いか低いかの判断や,2 音が同じであることの同定ができる。音楽の演奏 時には,自分が出した音と周りの演奏者の音との 比較や,同じ高さになるように調節することが必 要であり,音高弁別能力は音楽の聴取・演奏の基 盤として非常に重要である。なお,音高弁別能力 の検討では,西洋音楽の音階上の楽音を用いる場 合と音階上にはない周波数の純音を用いる場合と があるが,ここでは両方を対象として先行研究を 概観する。 楽器の演奏や声楽,ソルフェージュ等の経験・ 訓練を経た者(音楽経験者)がより高い音高弁別 能力を示すことは,多くの先行研究で報告されて い る。例 え ば Kishon-Rabin, Amir, Vexler, & Zaltz(2001)では,音楽経験者は非音楽経験者 の約半分の周波数閾値で純音の異同弁別が可能で あり,音楽の経験年数が多い者ほど高い音高弁別 能力を有していた。また Micheyl, Delhommeau, Perrot, & Oxenham(2006)は,音楽経験者の優 位性は純音よりも複合音(複数の純音から構成さ れる音,楽音は複合音に含まれる)において顕著 であることを示している。さらに同研究では,音 楽経験がない成人に 4-8 時間の短期的な音高弁別 訓練を実施した結果,音高弁別成績が音楽経験群 と同程度となったことを報告し,音高弁別能力が かけて著しく成績が向上したことを報告した。ま た同研究では,高低弁別について,小学校 2-3 年 生で著しく成績が向上したことも報告している。 しかし,高低弁別能力について幼児を対象とした 研究はこれまでほとんど行われておらず,学齢期 よりも前の発達過程は未解明である。 その一因として,幼児の言語理解の未熟さに起 因する方法論的な制約が考えられる。高低弁別で は通常,ある音が別の音よりも「高い」か「低 い」かを回答することが求められるが(e.g., 小長 野,2007),幼児では使用する形容詞とそれらが 表す概念の対応が不十分であることが示されてい る。例えば本郷(1982)では,反意語を問う発話 課題により空間量を表す形容詞対の獲得について 検討したが,「高い/低い」を正しく回答出来た 幼児はほとんどいなかった。また,5-6 歳児に 「高い音」とはどんな音かを問うたところ,「大き い音」と回答する者が非常に多いなど,音の属性 と形容詞の対応が誤っていることも指摘されてい る(福崎,1985)。これらを踏まえると,音高に ついて幼児に「高い/低い」という言葉を使用し た言語反応を求めることは非常に難易度が高く, 実施したとしても音高弁別能力を過小評価する可 能性が高いと考えられる。 これに対し,音の高低と空間的な高低の対応に ついては,非常に早期から獲得されることが示さ れている。例えば Walker et al.(2010)は,3-4 か月の乳児に上方・下方に移動するボールの映像 と,音高が連続的に上昇・下降する音系列を同時 提示し,ボールと音の変化方向が一致する条件で

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注視時間が増加したことを報告している。また, 古浦,山内,利島(1969)では,周波数が異なる 音刺激が,0-10 の目盛りを付けた縦スケールの どこから聞こえてきたかを問うたところ,幼稚園 児では高周波数の音を空間的に高く,低周波数の 音を低く定位することが示された。これらより, 「高い/低い」という形容詞対を十分に獲得して いない幼児であっても,空間的な高低を利用した 反応方法を用いることで,高低弁別能力を適切に 評価出来ると考えられる。 そこで本研究では,音高を階段上で空間的に表 現する方法により,幼児から小学校低学年にかけ ての音高弁別,特に高低弁別能力の発達について 明らかにすることを目的とした。具体的には人形 と 3 段のミニチュア階段を用い(図 1 ),基準音 と比較音の 2 音について,両者が同じ(完全 1 度 音程)なら人形をその場( 2 段目)でジャンプさ せ(同音の同定),比較音が基準音よりも高い場 合は人形を 1 段上に,低い場合は 1 段下に移動さ せる(高低弁別)ことを求めた。なお,高低弁別 における基準音と比較音の音程(音高差)につい ては,成人を対象とした筆者らの先行研究におい て短 2 度,長 2 度,短 3 度,長 3 度を提示したと ころ,長 3 度で成績が最も良好であったことから (Kitamura et al., 2017),高低弁別は 2 音の周波 数差が大きいほど容易と考えられた。このことか ら,周波数差が大きい 2 音の高低弁別は,より低 年齢から出来る可能性が考えられたため,短 2 度, 長 2 度,短 3 度,長 3 度に完全 1 度(同音)を加 えた 5 つの音程条件を設定した。さらに音高弁別 能力は,音楽経験の量や質に影響を受けることか ら(Kishon-Rabin et al., 2001),音楽経験の有無 が音高弁別能力の発達に与える影響についても検 討した。 2 方法 2.1 参加児 保育園児 103 名(年中児 50 名,年長 53 名), 小学生 64 名( 1 年生 35 名,2 年生 29 名)の計 167 名が実験に参加した。検査中止および教示の 理解困難により年中児 21 名,年長児 8 名のデー タを分析から除外し,表 1 に示した 138 名を分析 対象とした。幼児のデータ収集は 4 月,小学生は 7 月に実施した。 図 1 音高弁別課題で使用した回答装置および回答方法。 各試行の開始時に,人形は階段の 2 段目に配置されており,音高変化に合わ せた 3 通りの動かし方を教示した。

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参加児の音楽経験については,保育園では担任 の先生および保護者から聴取し,小学校では子ど も本人にアンケートで回答してもらった。その結 果をもとに,保育園または小学校以外で楽器を習 ったことがあるか否かを分類基準とし,楽器を現 在習っている,あるいは過去に習っていた参加児 を音楽経験群,全く習ったことがない参加児を非 音楽経験群とした(表 1 )。なお,小学生 2 名 ( 1 年生 1 名,2 年生 1 名)については調査を実 施出来なかったため,音楽経験を含む分析からは 除外した。 2.2 刺激 刺 激 音 は,音 高 が 安 定 し た 電 子 ピ ア ノ 音 (YAMAHA, P-115) を, IC レ コ ー ダ ー (SONY,ICD-UX560F)で録音したもの(MP3 形 式,192kbps)を,音 声 ソ フ ト(Audacity, ver. 2.1.0.0)で編集して作成した。基準音と比 較音の 2 音を 1 組として刺激音のペアを作成し (表 2),各音の持続時間を 1000 ms(Rise/Fall 50 ms),2 音の SOA(Stimulus Onset Asynchrony) を 2000 ms とした(図 2 )。刺激音ペアの音程は, 完全 1 度(同音),短 2 度,長 2 度,短 3 度,長 3 度の 5 条件であり,完全 1 度は音高が異なる 4 種類のペア,短 2 度から長 3 度はそれぞれ 2 種類 のペアを上行形および下行形で提示した(計 20 ペア,表 2 )。ペアの提示順序は,疑似ランダム 化し,同じ音程条件の刺激音ペアの連続が生じな いようにするとともに,前のペアの比較音と次の ペアの基準音が同音にならないようにした。 刺 激 音 は,iPod touch(Apple,A1574)を ア ンプ内蔵のステレオスピーカー(YAMAHA, NX-50)に接続して提示した。スピーカーは, 参加児の正面に 30 cm の距離で設置され,音圧 レベルは 60 dB であった(図 2 )。 2.3 手続き 実験は静音環境で個別に実施し,参加児には, 刺激音ペアを聴いて,比較音が基準音よりも高い か,低いか,同じであるかを回答するように求め た。回答には,3 段のミニチュアの階段(蹴上= 30 mm,踏 み 面 =55 mm)お よ び 人 形(W=42 mm,H=42 mm,D=58 mm)を 使 用 し た(図 1 )。これらの道具は机上に置かれ,参加児は椅 子に座りながら操作した。各試行は,人形が 2 段 目に配置された状態から始まり,比較音が基準音 注)ペアの 1 音目が基準音, 2 音目が比較音である。音高弁 別課題では,比較音が基準音と比較して高いか,低いか,ま たは同じかを判断する。 完全 1 度 E4-E4 F4-F4 G4-G4 A4-A4 短 2 度 D#4-E4 G#4-A4 E4-D#4 A4-G#4 長 2 度 D4-E4 G4-A4 E4-D4 A4-G4 短 3 度 C#4-E4 F#4-A4 E4-C#4 A4-F#4 長 3 度 C4-E4 F4-A4 E4-C4 A4-F4

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よりも高い場合は人形を 3 段目に,低い場合は 1 段目に移動させ,同じ場合はその場( 2 段目)で ジャンプさせるよう教示した(図 1 )。 教示は,手続きの説明を聞いて「高い/低い」 という形容詞対を自発的に正しく使用した参加児 に対しては,それらの語を用いながら行った。そ れ以外の参加児には,基準音と比較音の提示と共 に,1 音ずつ音高変化を手の動きで示し(高い: 比較音と共に手を上げる,低い:比較音と共に手 を下げる,同じ:同じ高さで手を振る),音高の 変化方向と人形の動きの対応を説明した。 保育園児への教示では最初に,音高が変化する 条件について完全 4 度と長 3 度の刺激音ペアを提 示しながら説明し,練習試行(高い/低い,各 1 問,音程:完全 4 度,短 3 度)を実施した。2 問 とも正答した場合は次の教示に移り,誤答や教示 の理解不足があった場合は再度説明した後に別の 刺激音ペア(音程:完全 4 度,短 3 度)で練習を 行った。2 度目の練習試行も誤答であった場合は, 高低弁別は未獲得だが,異同弁別はできる可能性 があると判断し,次の説明に進んだ。続いて,基 準音と比較音が同じ条件について,刺激音のペア を提示しながら説明し,練習試行を 1 問行った。 正答ならば本試行に進み,誤答や理解不足であれ ば再度説明を行い,別の刺激音ペアで練習試行を 行った。2 度目の練習試行も誤答であった場合は, 本試行は実施したが,課題理解不足と判断して分 析からは除外した。小学生への教示では,最初に 基準音と比較音が同じ条件,次に音高が変化する 条件について説明した。練習試行の手順は,保育 園児と同様であった。なお,教示で用いた全ての ペアは本試行では提示されなかった。また,ペア 間で基準音が変化することを示すため,教示およ び練習で提示したペアは,全て基準音が異なるも のを用いた。 本試行では計 20 ペアの提示・回答を連続で行 ったが,参加児の様子に応じて短い休憩を挟んだ。 また,無回答や「分からない」という回答が 5 試 行以上連続した場合は,参加児の心理的負担を考 慮して実験を中止した。 3 結果 実験を途中で中止した参加児,および課題理解 不足であったと判断された参加児は分析から除外 した。分析対象となった参加児について各音程条 件の正答数(最大 4 )を求め,学年(年中児・年 長児・1 年生・2 年生)×音程条件(完全 1 度・ 短 2 度・長 2 度・短 3 度・長 3 度)の 2 要因分散 分析を行った。音楽経験の効果については,音楽 経験のデータが得られなかった小学生 2 名,およ び音楽経験群が 1 名だった年中児を分析から除外 し(表 1 ),学年(年長児・1 年生・2 年生)×音 程条件×音楽経験(あり・なし)の 3 要因分散分 析を行った。 さらに,誤答パターンを学年間および音程条件 間で比較するため,完全 1 度条件とその他の音程 条件(短 2 度・長 2 度・短 3 度・長 3 度)に分け て誤答分析を行った。完全 1 度における誤答は, 図 2 刺激音ペアの図と参加者とスピーカーの配置図。 刺激音ペアの刺激継続時間は 1000 ms(Rise/Fall 50 ms),SOA は 2000 ms であった。

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「高 い」と「低 い」の 2 パ タ ー ン で あ り,各 パ ターンの誤答数について,学年(年中児・年長 児・1 年生・2 年生)×誤答パターン(高い・低 い)の 2 要因分散分析を実施した。短 2 度から長 3 度における誤答は,「同じ」と「逆の変化方向 (例:高いが正答の場合に低いと答える)」の 2 パ ターンであり,4 つの音程条件の合計誤答数をパ ターンごとに集計して,学年(年中児・年長児・ 1 年生・2 年生)×誤答パターン(同じ・逆の変 化方向)の 2 要因分散分析を行った。すべての統 計解析には R(ver. 3.2.1)を用い,3 水準以上 の多重比較は Holm 法により補正した。 各学年および音程条件ごとの平均正答数を図 3 に示した。平均正答数について学年×音程条件の 2 要因分散分析を行った結果,学年の主効果(F (3, 134)=22.78,p<.001)と音程条件の主効果 (F(4, 536)=9.40,p<.001)が有意であった。 さ ら に,学 年 × 音 程 条 件 の 交 互 作 用(F (12, 536)=2.65,p<.01)が認められ,音程条件ごと に学年の単純主効果を検定したところ,全音程条 件で有意であった(ps<.001)。そこで,各音程 条件で学年の多重比較を行ったところ,完全 1 度 では年長児が年中児よりも(p<.001),1 年生が 年中児よりも(p<.001),2 年生が年中児・年長 児よりも有意に正答数が多かったが(ps<.05), 1 年生と年長児・2 年生の間に正答数の有意差は 認められなかった(ns)。短 2 度から長 3 度では, 2 年生が全音程条件で年中児・年長児よりも正答 数が多かったが(ps<.01),1 年生との差はなか った(ns)。1 年生は,短 3 度と長 3 度で年中児・ 年長児よりも有意に正答数が多く(ps<.05),長 2 度で年長児よりも有意に正答数が多かったが (p<.01),短 2 度ではどの学年とも正答数の差が なかった(ns)。また,短 3 度において年長児は 年中児よりも有意に正答数が多かったが(p< .05),その他の音程条件で差は認められなかった。 また,各学年で音程条件の多重比較を行ったと ころ,完全 1 度の正答数が年長児で短 2 度・長 2 度・短 3 度・長 3 度と比較して有意に多く,小学 2 年生で短 2 度・長 2 度と比して有意に多かった (ps<.05)。一方で,どの学年においても短 2 度 から長 3 度の音程条件間の正答数の差は認められ なかった(ns)。 図 4 は,年長児から 2 年生の平均正答数を音楽 経験群別に示したものである。平均正答数につい て学年×音程条件×音楽経験の 3 要因分散分析を 行 っ た と こ ろ,学 年 の 主 効 果(F (2, 101) = 16.51,p<.001),音 程 条 件 の 主 効 果(F (4, 図 3 各音程条件の平均正答数。 エラーバーは標準誤差を表す。

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404)=13.56,p<.001),および,音楽経験の主 効果(F(1, 101)=7.21,p<.01)が認められ, さらに学年×音楽経験の 1 次交互作用(F(2, 101)=4.02,p<.05)が認められた。また,各学 年で音楽経験の単純主効果の検定を行ったところ, 2 年生において音楽経験群が非音楽経験群よりも 有意に正答数が多かったが(p<.001),その他の 学年では有意差が認められなかった(ns)。これ らより,音楽経験の影響は小学 2 年生頃から生じ ることが分かった。 最後に,完全 1 度の誤答数について,学年×誤 答パターンの 2 要因分散分析を行ったところ,学 年の主効果(F(3, 134)=12.37,p<.001)が認 められたが,誤答パターンの主効果(F(1, 134) =1.12,ns)と学年×誤答パターンの交互作用 (F(3, 134)=0.96,ns)は認められず,完全 1 度の誤答パターンに特定の傾向および学年の影響 がないことが分かった。また,短 2 度から長 3 度 の合計誤答数について,学年×誤答パターンの 2 要因分散分析を行ったところ,学年の主効果(F (3, 134)=13.43,p<.001)と誤答パターンの主 効果(F(1, 134)=86.54,p<.001)が認められ, 学年に関係なく「同じ」よりも「逆の変化方向」 と回答する誤答の方が多いことが分かった。一方 で,学年×誤答パターンの交互作用(F(3, 134) =0.57,ns)は認められなかった。これらより, 全ての音程条件において,学年間で回答の誤答パ ターンに差異がないことが示された。 4 考察 本研究の目的は,音高を階段上で空間的に表現 する方法により,音高弁別能力の発達的変化を, 高低弁別も含めて検討することであった。また, 実験条件として提示刺激の音程を操作し,2 音間 の距離の影響についても検討した。その結果,完 全 1 度条件の成績は年中児よりも年長児で高く, 年中児および年長児よりも小学 2 年生でさらに向 上した。これらより,2 音が同じことを同定する 能力は,年中から年長の年代にかけて獲得され, 小学校低学年にかけて精緻化が進むことが示され た。一方,短 2 度から長 3 度条件における高低弁 別については,2 年生が幼児(年中児・年長児) よりも成績が高く,1 年生が短 2 度以外の音程条 件において年中児および年長児よりも成績が高か った。また,年中児と年長児ではいずれの音程条 件でも平均正答数が 1 前後(回答が 3 択[高い/ 図 4 各学年における音楽経験群と非音楽経験群の平均正答数。 エラーバーは標準誤差を表す。

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は,聴覚的短期記憶の発達が考えられる。完全 1 度条件において,基準音と比較音の高さが同一で あると判断するには,基準音を短期記憶内に一定 時間保持しておく必要がある。これまでの研究で 音高の異同弁別は,聴覚的短期記憶の容量が多い 子 供 ほ ど 良 好 で あ る こ と が 示 さ れ て い る (Martinez-Castilla, Rodriguez, & Campos, 2016)。

また,聴覚的短期記憶の容量は,3-4 歳頃から 8 歳にかけて急速に増加することが示されており (Gathercole, 1999),本研究の年中児と年長児で も記憶容量に差があったと考えられる。そのため, 年中児では,比較音の提示まで基準音を保持する ことが難しく,2 音が同じ高さであることを認識 できなかった可能性がある。年中児の記憶容量と 異同弁別の関係については,今後,SOA をより 短くした刺激音ペアを用いた実験を行い,年中児 の成績が向上するという知見が得られた場合に結 論付けることができるであろう。 高 低 弁 別 の 発 達 時 期 に つ い て は,小 長 野 (2007)が小学校 2-3 年生と報告したのに対し, 本研究では年長と小学校 1-2 年の間で生じること が示唆された。実験刺激や手続きが異なるため一 概には比較出来ないが,より早い発達時期が示さ れたことには,回答方法の影響が考えられる。小 長野(2007)では,2 つの音の変化に応じて解答 用紙の「高くなった/低くなった/同じ」のいず れかに○を付ける方法が用いられている。実証的 な研究は行われていないものの,小学校低学年で も「高い/低い」という言葉と音の高低の対応が 不完全なことは,音楽教育の関係者からよく聞か 高低弁別が小学校 1-2 年生にかけて可能になる 背景としては,関連する認知機能や音楽能力の発 達が考えられる。2 音の高低関係を決定するには, 比較音の提示後に基準音を想起する必要があり, そのためには刺激音の内的な再生と復唱(リハー サル)によって忘却を防ぐ必要がある。音高を再 生する能力については,5 歳の幼児にスピーカー から流れる女声と同じ高さの音を発声するように 求めると,半音(100 cent)程度外れた音を再生 することが示されている(小長野,2006)。本研 究では,幼児に馴染みのある声ではなく,ピアノ 音が刺激音として用いられ,幼児には経験が少な い発声を伴わない内的な音の再生を行う必要があ った。これらの難しさが加わり,2 音の高低関係 が不明瞭になった可能性がある。また,記憶方略 としての自発的なリハーサルは,概ね 7 歳以降に 出現するとされており(Gathercole, 1999),それ が 1-2 年生における高低弁別の向上に寄与した可 能性がある。ただし,2 年生でも高低弁別の精度 は 同 音 の 同 定(完 全 1 度)よ り 低 く,小 長 野 (2007)では 3 年生以降も成績の向上が示されて いることから,高低弁別能力は小学校中学年以降 により正確にできるようになると思われる。 本研究ではさらに,参加児の学校外での音楽経 験と音高弁別能力の発達の関わりを検討した。そ の結果,小学校 2 年生では音楽経験児の成績が非 音楽経験児よりも高かった一方で,年長児と 1 年 生では差を認めなかった。このことから,音高弁 別能力に対する音楽経験の影響は,異同弁別のみ が獲得されている幼児の段階では生じず,高低弁

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別がある程度の水準で獲得された 2 年生の時期に ならなければ生じないことが示唆された。その理 由として,上記でも考察したように幼児から 1 年 生の時期には音高弁別の基盤となる認知機能が未 熟であるため,音楽経験があっても明瞭な向上は 生じず,それらがある程度発達した 2 年生頃から 音楽経験が影響してくることが考えられる。実際 に,認知機能が成熟している成人の音楽未経験者 では,短期間の訓練でも音高弁別能力が向上した ことが報告されている(Micheyl et al., 2006)。従 って,小児における音高弁別能力の向上は自然発 達を基盤とし,音楽経験に伴う向上はそれに付加 される形で生じることが考えられる。 ただし,小学校 2 年生は音楽経験の継続年数が 最も長かったことで,経験群における音高弁別能 力の向上が観察された可能性もある。実際に,先 行研究では成人において音楽の継続年数が長いほ ど 音 高 弁 別 能 力 が 高 い こ と が 示 さ れ て い る (Kishon-Rabin et al., 2001)。音楽経験が豊富であ ると,聴取した音や楽譜の音符が示す音を内的に 再生したり,逆に出そうとする音を聴覚的にイ メージしてから鳴らしたりする経験・訓練を多く 積んでいる。その中で,内的な音高の尺度が形 成・精緻化されていき,音高をより正確に判断す ることが出来るようになると考えられる。しかし, 本研究では音楽の継続年数に関するデータを収集 出来なかったため,音楽経験に伴う音高弁別能力 の向上が自然発達の段階と継続年数のどちらに依 存するかを結論付けることは出来ない。また,本 研究の音楽経験者/非音楽経験者の分類基準は十 分とは言えず,音楽の継続年数やジャンル,楽器 の練習時間といった詳細な音楽歴の調査も必要で ある。その上で,音楽経験者/非音楽経験者の分 類を丁寧に行い,認知発達の程度等の関連要因も 含めて検討していくことで,音高弁別能力におけ る自然発達と音楽経験の影響および両者の関係性 が明らかになると考えられる。 本研究の限界 本研究では,非言語的反応を用いたことで,音 の高さを言葉で表現することが難しい幼児や低年 齢の児童の音高弁別能力を検討することが出来た。 しかし,年中児を中心に課題を十分に理解出来な かった参加児が少なくなかったことから,課題理 解の問題を解消した方法で再度検証する必要があ る。本研究で用いた方法は,音高の変化と人形の 動かし方の対応を 3 パターン理解して記憶する必 要があるなど,低年齢の幼児にはやや負荷が高い 手続きとなった部分もあることから,今後は回答 方法や教示等を改善していく必要がある。例えば, 回答方法に関しては,刺激音ペアを流した後,初 めに「同じ/違う」の異同弁別を求め,その後, 「違う」を選んだ場合には再度刺激音ペアを提示 して「高い/低い」の高低弁別を求めるといった ような 2 段階回答方法を用いれば,選択肢が 2 つ となり,刺激音を 2 回聴取出来ることで,幼児の 記憶への負荷が小さくなると考えられる。これら の方法により,幼児の異同弁別/高低弁別の正答 率が上昇すれば,音高弁別能力の発達過程や獲得 時期について新たな結論が得られる可能性もある。 また,通常,純音の音高弁別では,2 音の弁別 に必要な弁別閾が小さいほど音高弁別能力が優れ ていると判断され,2 音の周波数差が小さいほど 音高弁別が難しいとされている(Kishon-Rabin et al., 2001; Micheyl et al., 2006)。楽音を用いた先 行研究でも,成人の音高弁別課題の成績は,短 2 度から長 3 度のうち,長 3 度が最も良好であるこ とが示されている(Kitamura et al., 2017)。しか し,本研究の参加児では,短 2 度から長 3 度の音 程条件間の成績の差が確認されず,学年間で回答 の誤り方に差異は見られなかった。その理由とし て,本研究の課題試行数の少なさが挙げられる。 成人の実験では,1 音程条件につき 18 試行であ ったのに対し(Kitamura et al., 2017),本研究で は幼児の課題負荷や集中力への考慮から,1 音程 条件につき 4 試行としたため,音程間の差を検出 できなかった可能性がある。小学校 1-2 年生なら ば,成人と同様の手続きで高低弁別を検討するこ とも可能と考えられ,それによって音程の効果も 含めた高低弁別能力の発達過程がより明らかにな

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の関連を検討したところ,音高弁別能力に対する 音楽経験の影響は,異同弁別のみが獲得されてい る幼児の段階では生じず,高低弁別がある程度の 高い水準で獲得された 2 年生の時期にならなけれ ば生じないことが示唆された。 ただし,手続きの複雑さにより課題を十分に理 解出来なかった参加児が少なくなかったことから, 課題の難しさを解消した上で再度検証する必要が ある。また,今回の研究では,小児の音楽経験に 伴う音高弁別能力の向上が自然発達の段階と継続 年数のどちらに依存するかは検討出来なかったこ とから,今後は,音高弁別能力の発達に関わる 様々な要因を考慮した更なる検討を実施していく ことが望まれる。 謝辞 本実験にご参加いただいた参加児の皆様にお礼 申し上げます。また,実験の実施に当たりご協力 いただいた先生方に心より感謝申し上げます。 文 献 福崎淳子 (1985). 幼児の音楽的能力と言語の発達に関 する研究─強さ・高さの概念について─. 日本教 育心理学会総会発表論文集, 27, 326.

Gathercole, S. E. (1999). Cognitive approaches to the development of short-term memory. Trends in cognitive sciences, 3(11), 410-419.

本郷一夫 (1982). 幼児における空間的量を表す形容詞 対の獲得について. 教育心理学研究, 30(1), 46-53. Kishon-Rabin, L., Amir, O., Vexler, Y., & Zaltz, Y.

及び「話し声」と「歌声」の使い分けの技能に着 目して─. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 2 (55), 451-460. 小長野隆太 (2007). 幼児・児童の音高弁別能力に関す る横断的調査. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 2(56), 345-352. 古浦一郎, 山内光哉, 利島保 (1969). 音の高低の空間的 定位に関する発達的検討. 心理学研究, 40, 95-98. Martinez-Castilla., P., Rodriguez, M., & Campos, R.

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参照

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