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ラット心筋梗塞後不全心でのタンパク質品質管理機構の変化に及ぼすヒストン脱アセチル化酵素 6 阻害の効果に関する研究

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Academic year: 2021

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る過程での PQC および HDAC6 の変化とそれらの関連は明らかにされていない.

そこで,本研究ではラットの心臓の左冠状動脈を結紮する(coronary artery ligation; CAL)ことで心 筋梗塞モデルを作製し,心筋梗塞後から心不全に至る過程での心筋組織の PQC および HDAC6 の変 化を把握するとともに,心筋梗塞後の HDAC6 活性の阻害が心機能に及ぼす効果について検討した.

第一章 心筋梗塞後のタンパク質品質管理機構の変化

第一章では,心筋梗塞後に慢性心不全に陥る過程での PQC の変化について検討した.まず,本研 究で作製したモデル動物の心機能を心エコー法で評価したところ,心筋梗塞後 2 週目では,梗塞巣の 形成に伴って左心室の収縮弛緩能が低下していたものの,心ポンプ機能(心臓が全身に血液を送り出 す能力)は維持されていた(代償期).一方,心筋梗塞後 8 週目では,左心室の収縮弛緩能がさらに 低下すると同時に心ポンプ機能も低下し,全身に十分な血液を送り出すことのできない状態,すなわ ち心不全に陥ったことが示された.そこで,心筋梗塞後 2 週および 8 週目の生存左心室筋での PQC の変化について検討した. まず,ストレスによって生成した変性タンパク質の修復を担う HSP の含量を測定した.HSP72, HSPB1 および HSPB5 は,HSP の中でも心臓で高発現しており,ストレスに応答してその発現量を増 加させる分子種である.心筋梗塞後 2 週目では,これらの HSP 含量は増加していた.一方,心筋梗 塞後 8 週目では,心臓が梗塞後のストレス下にあるにもかかわらず,これらの HSP 含量が増加した 状態を維持できていなかった(Figure 1A-C).次に,HSP で修復不能なレベルに損傷されたタンパク 質の分解を担うユビキチン-プロテアソーム系の変化について検討した.生存左心室筋の 26S プロテ アソーム活性を測定したところ,心筋梗塞後 2 週目では正常心臓と同様のレベルに維持されていたも のの,8 週目では低下していた.これと一致して,心筋梗塞後 8 週目の心筋組織では,ユビキチン化 タンパク質が蓄積していた(Figure 1D).続いて,プロテアソームで分解し得ない凝集タンパク質を処 理する選択的オートファジーの変化について検討した.オートファゴソームの形成には,多くのオー トファジー関連タンパク質(Atg)が関与する.選択的オートファジーでは,特定の構造物を選択的に オートファゴソームで取り囲んで分解するために,オ ートファジーレセプター sequestosome 1(SQSTM1) が必要となる.SQSTM1 は,その 403 番目のセリン 残基がリン酸化されたものが,分解基質となる凝集タ ンパク質に高親和性に結合する.心筋梗塞後 2 週目 では,オートファゴソーム形成の上流に位置する Atg1,Atg13 および Beclin 1 含量は正常心臓より増 加あるいは同様のレベルを維持していたものの,下流 に位置する Atg5 および LC3-II 含量は減少傾向を 示した.一方,心筋梗塞後 8 週目では,いずれの Atg 含 量も 2 週目 のそれらよ り減少し た.リン 酸化 SQSTM1 含量は,心筋梗塞後 2 週目で増加し,8 週 目ではさらに増加していた.これらの結果から,心筋 * # A * # B * C * D

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梗塞後 2 週目では,HSP 発現の誘導,プロテアソーム活性の維持およびオートファジーの抑制を介し て心機能を代償していたものの,8 週目では 3 つの PQC 経路すべてが破綻し,細胞内タンパク質恒 常性を維持できなくなることが,心筋梗塞後の心臓を心不全へと陥らせる一因になっていると考えら れた.

第二章 心筋梗塞後不全心での HSP 発現低下メカニズムの解明

第二章では,3 つの PQC 経路に関与することが報告されている HDAC6 の心筋梗塞後の変化を把 握するとともに,PQC 経路の中でストレスに対して最も早期に応答する細胞防御機構である HSP 発 現の変化と HDAC6 の関連について検討した.HDAC6 は細胞質に局在し,非ストレス条件下では HSP90 および熱ショック転写因子 1(heat-shock transcription factor 1; HSF1)などと複合体を形成して いる.HSP90 は,HDAC6 の基質の 1 つであり,そのアセチル化レベルでシャペロン機能が調節され ている.HSP90 のクライアントタンパク質の 1 つである HSF1 は,HSP の転写因子であり,HSP90 と 結合した状態では不活性な状態にある.ストレス曝露により細胞内に変性タンパク質が生成すると, HDAC6 がこの複合体から解離し,HSP90 がアセチル化される.これにより HSF1 も HSP90 複合体 から解離し,核へと移行することで HSP の合成が促進される.心筋梗塞後に慢性心不全へと進展する 過程での HDAC6 の変化について把握するため,心筋梗塞後 2 週および 8 週目の生存左心室筋での HDAC6 含量および活性を測定した.その結果,HDAC6 含量は心筋梗塞後 2 週目では増加していた ものの,8 週目では正常心臓と同様のレベルまで減少していた(Figure 2A).その一方で,HDAC6 脱 アセチル化酵素活性の指標となる α-tubulin のアセチル化レベルは,心筋梗塞後 2 週目で上昇してい たものの,8 週目では正常心臓と同様のレベルまで低下していた(Figure 2B).このことから,心筋梗 塞後の代償期から心不全期にかけて HDAC6 の脱アセチル化酵素活性が著しく上昇していることが示 された.これに一致して,HSP90 のアセチル化レベルも心筋梗塞後 2 週目では上昇していたものの, 8 週目ではその半分以下まで低下していた(Figure 2C).さらに心筋細胞内の HSF1 の局在変化を検 討したところ,心筋梗塞後 2 週目では HSF1 の核への集積が観察された.その一方で,心筋梗塞後 8 週目の不全心では HSF1 の核への集積は観察されず(Figure 2D),第一章での HSP 発現の低下と一致 していた.このことから,不全心での HSP 発現の低下に,HDAC6 活性の上昇による HSP90 の脱ア セチル化の亢進とそれに伴う HSF1 の HSP90 複合体からの解離および核への移行の低下が関与して いることが示された. A * # B * # C * # * 2W Sham 8W CAL 20 µm D

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第 三 章 心 筋 梗 塞 後 不 全 心 で の HSP 発 現 低 下 へ の HDAC 阻 害 薬 suberoylanilide

hydroxamic acid 投与の効果

第一章では,HSP 発現の低下が心筋梗塞後の心臓を心不全へと陥らせる誘因となることを示唆した. 第二章では,この心筋梗塞後不全心での HSP 発現低下に,代償期から心不全期にかけての HDAC6 活 性の上昇が関与することを示した.第三章では,この HDAC6 活性の上昇を抑制することで,HSP 発 現および心機能を維持できるのではないかと考え,心筋梗塞後の心筋での細胞内タンパク質恒常性が 保たれている代償期からの HDAC 阻害薬 suberoylanilide hydroxamic acid(SAHA)投与の効果につい て検討した.まず,SAHA の投与が心筋組織の HDAC6 脱アセチル化酵素活性に及ぼす効果について 検討した.術後 8 週目の CAL-SAHA 群の α-tubulin のアセチル化レベルは,CAL-Vehicle 群の約 3 倍に上昇し,SAHA の投与により HDAC6 活性が阻害されたことが示された(Figure 3B).次に,SAHA の投与が HSP90 のアセチル化レベルに及ぼす効果について検討した.術後 8 週目の CAL-Vehicle 群 の HSP90 アセチル化レベルは,Sham-Vehicle 群のそれの約半分に低下していた.一方,CAL-SAHA 群 の HSP90 アセチル化レベルは,CAL-Vehicle 群のそれの 2 倍以上となり,SAHA 投与により心筋梗 塞後 2 週目のそれと同様のレベルが維持された(Figure 3C).さらに,SAHA の投与が HSF1 の細胞 内局在に及ぼす効果について検討したところ,術後 8 週目の CAL-Vehicle 群では HSF1 の核への集 積は観察されなかった一方で,CAL-SAHA 群の生存左心室筋では HSF1 の心筋細胞核への集積が観察 された(Figure 3D).これに一致して,術後 8 週目の CAL-SAHA 群の HSP72,HSPB1 および HSPB5 含量は,CAL-Vehicle 群のそれらよりも増加あるいは増加傾向を示し,心筋梗塞後 2 週目からの HSP 発現低下が抑制された(Figure 3E-G).術後 8 週目の CAL-SAHA 群では,HSP 発現の増加と一致し てユビキチン化タンパク質の蓄積も軽減され(Figure 3H),これに並行して心機能低下が抑制された. これらの結果から,SAHA の心機能改善の作用機序のひとつとして,HDAC6 活性阻害による HSP90 のアセチル化を介した HSF1 の HSP90 複合体からの解離とそれに続く HSP 合成の誘導が関与する ことを示した. A # *# B C * # *# E F *# G * * H Vehicle Sham SAHA CAL D 20 µm

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以上, 本研究は心筋梗塞後の心筋組織での PQC の変化を明らかにするとともに,HDAC6 活性阻害 を介した HSP 発現の維持による心不全の新たな薬物療法を提示することができた.

【研究結果の掲載誌】

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論文審査の結果の要旨

心筋細胞は分裂増殖能が極めて低く、かつ様々なストレスに暴露されており、その細胞の機能 を維持するために、タンパク質の品質管理を厳格に行っている。このタンパク質の品質管理は、 タンパク質品質管理機構 (PQC) と呼ばれている。心不全は、心臓の拍出する血液量が全身組織 の血液要求量を満たすことが出来なくなった状態と定義され、心血管疾患の終末像とされる。心 不全に陥った心筋細胞では、エネルギー代謝および構造維持に関与するタンパク質の機能が低下 していることが知られているものの、心不全発症での PQC の変化については明らかにされてい ない。そこで、本研究では、心筋梗塞後心不全に陥る過程での心筋組織の PQC およびそこで中 心的な役割を果たすヒストン脱アセチル化酵素 6 (HDAC6) 変化を把握し、かつ HDAC6 阻害 の心不全治療への可能性について検討した。 第1 章では、PQC を構成する熱ショックタンパク質 (HSP) によるタンパク質修復経路、ユビ キチン-プロテアソーム系によるタンパク質分解系およびオートファジー-リソソーム系による タンパク質分解系の心筋梗塞後不全心での変化を把握した。その結果、心筋梗塞後不全心では、 タンパク質修復に重要な役割を演ずる HSP72、HSPB1 および HSPB5 の発現量が減少してお り、HSP を介したタンパク質修復能の低下が示された。心筋梗塞後不全心では、20S プロテア ソームの活性が低下し、かつユビキチン化タンパク質が増加していたことから、ユビキチン-プ ロテソーム系の活性が低下していることが示された。さらに、オートファゴソームを形成する Atg5 および LC3-II 含量が減少し、オートファジー-リソソーム系の活性も低下していること を示した。これらの結果から、心筋梗塞後不全心では、PQC によるタンパク質の機能を維持する 能力が低下していることを明らかにした。 第2 章では、3 つの PQC 経路に関与する HDAC6 の心筋梗塞後不全心での病態生理学的変化 を把握した。心筋梗塞後不全心で HDAC6 は HSP90 の脱アセチル化を促進することが示された。 HSP90 の脱アセチル化は、HSP の発現を促進させる熱ショックトランスクリプションファクタ ー 1 (HSF1) の核への移行を阻止し、HSP の発現能を低下させることから、心筋梗塞後不全心 では HDAC6 の活性化が PQC 経路の活性低下に関与することを示唆した。

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Figure 1 Changes  in left  ventricular  HSP72 (A), HSPB1 (B), HSPB5 (C)  and ubiquitinated  protein contents (D) of Sham (open columns)  and CAL rats  (closed columns)  at the 2nd (2W) and 8th (8W) weeks after the operation.
Figure 2 Changes  in left  ventricular  HDAC6 (A), acetylated α-tubulin  (B), and acetylated  HSP90 contents  (C), and nuclear  localization  of  HSF1 (D, arrowheads)  of Sham  (open columns)  and CAL rats (closed columns)  at the 2nd (2W) and 8th (8W) wee
Figure 3 Effects  of suberoylanilide hydroxamic  acid (SAHA) treatment  on changes  in left  ventricular  HDAC6 (A), acetylated  α-tubulin  (B), and  acetylated  HSP90 contents  (C), nuclear  localization  of HSF1 (D, arrowheads), and HSP72 (E), HSPB1 (F),

参照

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