136 (51) 氏名(生年月日) 本 籍 学 位 種 類 学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件
学位論文題目
論文審査委員
ハ ゼ カズ オ土師一夫(昭和17
医学博士 乙第865号 昭和62年12月11日学位規則第5条第2項該当(博士の学位論文提出者)
Signi且cance of symptomatological diagnosis and treatment of angina pectoris developing into acute myocardial infarction
(急性心筋梗塞症に進展する狭心症の症候論的診断と治療の意義) (主査)教授 広沢弘七郎 (副査)教授 高尾 篤良,教授 新田 下郎
論 文 内 容 の 要 旨
目的 急性心筋梗塞症(MI)に進展する狭心症(AP)の症 候面上の特徴と治療効果を明らかにし,梗塞発症の危 険が大きいAPを正しく診断するときに, APを不安 定狭心症(UA)とそれ以外のAPに分けることの意義 について検討する. 方法 対象は国立循環器病センターに入院した急性MI連 続310例のうち,AP病歴のあった200例(1群)と,1 群とほぼ同時期に当院に入院し,冠動脈造影検査を受 けたAP連続200例(II群)である.両群のAP病歴を 調査し,米国心臓学会のUAの診断規準(労作APの 初発または6ヵ月以上の寛解期の後の再発,安定労作APの増悪および安静APの初発が入院前3週間以内
に起こり,入院前の1週間に狭心発作がある)に合致 する例としない例に分類した.後者を非不安定狭心症 (NUA)と仮称し,その症候船上の特徴を分析した. 次に両眼のAPの治療状況を調査してその効果を判定 した.さらに,II群の冠動脈造影所見のうち,器質的 狭窄75%以上の病変枝数とスパズムの関与の有無を UA, NUAの問で比較検討した. 結果及び考察 1群とII群の狭心発作の症候論的対比の結果,病歴 が6ヵ月以内,狭心発作の既往が10回以下,入院直前 に20分以上持続する狭心発作のある例が1群に有意に 高頻度であったが,これらの特徴をもつ例は1群の 30~55%を占める程度であった.UAは1群の99例, II 群の65例にみられ,前者に多数であった.一方,狭心 発作の頻度に過多,過小がなく,安定APと診断でき た例は1群の18例,II群の29例で,両群ともに少数で あった.他の症例は入院前1週間に狭心発作がないこ とからUAと診断できない,入院4~6週間から不安 定,安静APの増悪, UAと診断できる時期を繰り返す 例など,臨床的に安定APとはいえない多彩な病像を示した.入院中にMIを発症した19例中12例がNUA
であった.これらの結果から,UAの診断はAPの全経 過を特徴づけるものではなく,入院の一時期に限って その治療を考える指針とされるべきである.1群にUAが多く,本症をMI発症の危険が大きいAPとし
て診断することは大切であるが,これのみでは不十分 といえる.梗塞前APの治療状況が調査でぎた1群の169例中
93例が無治療で,治療を受けていた76例中,狭心発作 が改善していたのは23例であった.II群の188例が冠動 脈バイパス術を含む治療により,狭心発作が消失また は改善した.1群におけるAPの治療状況は極めて不 良であった.適切な治療を受けていれば,MI発症を予 防でぎた症例が少なくないことはII群の治療結果から 明らかである. II群における冠動脈造影所見の検討では器質的狭窄 血管枝数,スパズムが関与する例の頻度はUA, NUA との間に有意差が認められず,これらの面からUAと 一800一137 NUAの病態を分類できないことが示唆された.APの 不安定化要因の究明が今後の課題である. 結語 MI発症の危険が大きいAPを正しく診断し,適切 な治療を行うためにはUAの診断規準にこだわるこ となく,個々の症例の症候論的特徴を十分に検討する ことが必要である.
論 文 審 査 の 要 旨
冠不全発作についての臨床的分類は数多くあるが,どの症例にも問題なくあてはまる整理されつく した分類法はない.いわゆる不安定狭心症なる概念も広く世界に用いられているにしては極めて雑然 たるもので,高い評価を与えるわけにはいかない.本論文は急性心筋梗塞発症例と,狭心症にとどまっ ている症例とを多様な観点から対比解析し,梗塞を発生させないためにはどのような注意が必要であ るかまで述べたもので臨床心臓病学的に価値高きものである. 主論文公表誌Signi丘cance of symptomatological diagnosis and treatment of angina pectoris developing into acute myocardial infarction
(急性心筋梗塞症に進展する狭心症の症候論的診
断と治療の意義)
Japanese Circulation Journal Vo1。47 No.4 426~431p(1983 April発行)
副論文公表誌
1) Clinical characteristics of coronary artery
spasm: electrocardiographic, hemo-
dynamic and arteriographic assessment(冠
動脈スパズムの臨床的特徴:心電図,血行動 態,冠動脈造影による検討)
Jpn Cric J 49 (1) 82~93 (1985)
2)Current status and problems in long-term management of patients undergoing coro- nary artery bypass surgery in Japan(日本
における冠動脈バイパス術施行患者の長期管 理の現状と問題点) Jpn Circ J 50 (9) 895~902 (1986) 3)Vasospastic anginaの臨床像のスペクトル 心電図と冠動脈造影の対比検討一 呼吸と循環 29(8)807~827(1981) 4)急性心筋梗塞に続発する心室中隔穿孔:13例の 心音図学的検討 臨床心音図 5(4)593~607(1975) 5)梗塞後狭心症 呼吸と循環 32(9)913~920(1984)
6)Effectiveness and limitation of the current coronary care unit in treatment of patients with complications following acute
myocardial infarction(急性心筋梗塞症の合
併症の治療における現在のCCUの効用と限
界)
Jpn Circ J 48 (7) 641~649 (1986)