︿論説﹀
ア メ リ カ 水 法 に お け る 地 表 水 の 利 用 ル ー ル
(下)宮 暗 淳
目次
131
第一章序論
第二章ローマ法のル!ル
第一節ローマ法のルールの意義
第二節ローマ法のルールの修正
第三節修正ローマ法のルールの現状
第三章コモン・ローのルール
第一節コモン・ローのルールの意義
第二節コモン・ローのルールの修正
第三節修正コモン・ローのルールの現状
第四章合理的利用のルール
第一節合理的利用のルールの意義
第二節合理的利用のルールの現状
第五章結論 (以上︑前号)
(以上︑本号)
132
第三章コモン・ローのルール
第三節修正コモン・ローのルールの現状
一修正コモン・ローのルールの拒否
コモン・ローのルール(8日巳88①き図村三①)は︑当初より土地の開発・改良を促進するルールであると考えら
れてきた︒さらに︑地域の都市化が進展しても︑当ルールは活力を維持するであろうと予期されてきた︒しかしなが
ら︑この予期は見当違いのものであった︒多数の州は︑従前より何らかの修正を加えたコモン・ローのルールを採用
してきたが︑近時ではこの修正コモン・ローのルールを拒否する傾向が顕著である︒
ユ 一九四〇年の時点で修正コモン・ローのルールに従っていた法域は︑二二州であった︒これらの諸州の中で︑後に
ヨ 修正コモン・ローのルールを拒絶し︑他のルールに移行した法域は︑コネティカット州︑マサチュセッツ州︑ミシシッ
ヨ ハ お ピ州︑ニュージャージ州︑ニューメキシコ州︑ノースダコタ州︑ロードアイランド州︑ウェストバージニァ州および
ぬ ウィスコンシン州の九州に及んでいる︒現在では︑修正コモン・ローのルールを採用している州は︑以下の=二州で
ヨ お ぬ お あ り ある︒すなわち︑アリゾナ州︑アーカンサス州︑コロンビア特別区︑インディアナ州︑メーン州︑ミズーリ州︑モン
(18)(19)(20)(21)(盟)(器)(別)タナ州︑ネブラスカ州︑ニューヨーク州︑オクラホマ州︑サウスカロライナ州︑バージニア州︑およびワシントン州
である︒
修正コモン・ローのルールを拒否する法域が増加する近時の傾向性には︑二つの理由が考えられる︒
第一に︑コモン・ローのルールは常に土地の開発・改良を促進するわけではないという点であり︑第二に︑社会経
済状況の変化に伴い土地政策が変化し︑公共政策が多様化した点である︒具体的には︑
ゐ 政策から自然環境をできる限り保全する政策へと転換したことが挙げられる︒ 公共政策が土地開発のための
ア メ リカ水 法 に おけ る地 表 水 の利 用 ルー ル 133
二土地開発の促進
まず初めに︑コモン・ローのルールは土地の開発・改良を促進するという点について考究していく︒裁判所が︑コ
め モン●ローのルールは土地の開発・改良を促し︑ローマ法のルール(O一く一一一9ぐ弔目二一①)はそれを妨げると判断するに
は・一つの推定がなされている︒すなわち︑土地所有者が地表水の処理費用を負担しなければならない場合は︑その
土地所有者は自らの土地を開発・改良しないで現状のままにしておく蓋然性が高いという推定が成り立つのである︒
したがって︑ローマ法のルールにおいては土地所有者である開発者が地表水の処理費用を負担しなければならないの
で︑土地の開発を阻むことになり︑一方︑コモン・ローのルールにおいては開発者はかかる費用を負わなくてすむか
ら︑土地の開発を促進する結果になるというのである︒
の 一八八四年の﹀げげo暮く●凶9霧霧O騨ざG︒ひ'q・卿O・しu・図●図・は︑コモン.ローのルールがどのように土地の開
発を促進しうるかについて説示している︒鉄道敷設工事において路盤が建設されたとき︑地表水の自然な流れが阻害
され︑洪水が発生した︒それによって隣接地所有者が損害を被った︒かかる状況において︑ローマ法のルールが厳格
に適用されるならば︑鉄道会社は隣接地所有者に損害を与えないように地表水を処理するために要した費用を負担し
なければならなかったであろう︒これに対して︑コモン・ローのルールのもとにおいては鉄道会社は地表水の処理に
ついて考慮する必要はなく︑損害を被った隣接地所有者が地表水の処理費用を負担しなければならないのである︒ミ
ズーリ州最高裁判所は︑コモン・ローのルールのもとにおいては鉄道会社は地表水によって生じた何らの損害も賠償
する必要はないから︑土地の開発・改良を促進することになるであろうと明確に結論づけた︒
134
しかしながら︑かかる理由づけには問題がある︒なぜなら︑実際に損害を被った隣接地所有者の立場が無視されているからである︒洪水を引き起こして他人の土地に損害を与えることが︑果たしてその土地の開発・改良を促すこと
になるのであろうか︒農村部で生じた本件のように隣接地所有者が土地の開発・改良をなす意思を有していなかった
ならば︑コモン.ロ!のルールは土地の開発・改良を促進する結果をもたらすことになったであろう︒しかし逆に・
隣接地所有者が土地の開発.改良をなす意思を有していたり︑すでに開発・改良がなされていた場合にも︑同様なご
とが言えるかは︑疑問である︒
ハお さらに︑一九五四年の≦9算Φ誘く●Z鋤鉱8巴Uユ︿£Pぎo.についても︑﹀げぴo算判決と同じ問題点を挙げること
ができる︒本事案において被告は︑原告の所有地に隣接したところにドライブイン・シアターを建設した・被告は・
土地のくぼみに盛り土をして勾配を緩和した後に砂利を敷くことによって︑地表水が地面に自然に浸透することを妨
げた︒これにより︑多量の水が原告の土地に流れ込むことになった︒故に︑原告の土地の一部が利用できなくなり・
損害が生じた︒ウィスコンシン州最山口同裁判所は︑コモン・ローのルールを適用し︑原告は地表水によって生じた損害
の賠償についての訴訟原因を有しないと判示した︒
当該判決の結論は︑被告に土地の開発.改良を促すことになったかもしれないが︑原告にとっては自らの土地の開
発.改良を促進することにはならなかった︒つまり︑コモン・ローのルールは被告(土地所有者)の土地開発●改良
をして原告(隣接地所有者)の土地開発.改良を抑制させる結果を導いたといえよう︒したがって︑当ルールは土地
ヨの開発.改良を常に推進するとは限らないのである︒
三土地政策の変化
次に︑土地政策の変化とコモン・ローのルールの関係について言及していく︒
ア メ リカ水法 に おけ る地 表 水 の利 用 ル ール 135
多数の裁判所は︑土地開発・改良がかつてのように必要とされているかについて︑疑問をもってきた︒さらに加え
て・都市部や郊外における自然公園や湖などのような自然環境の保全に関する政策の重要性が︑認識されてきている︒
ある地域では︑依然として開発促進の土地政策が適切な場合もあれば︑できる限り多くの自然環境を保全する政策が
妥当な場合もあることは事実である︒それ故︑各地域の社会経済状況に従って土地政策は変化し︑公共政策が多様化
することは当然である︒
したがって︑土地開発の促進という特定の公共政策のみを支持するコモン・ローのルールは︑土地開発の必要性が
なくなったり・他の公共政策と矛盾するような場合は︑その効力の大部分を喪失することになる︒つまり︑当ルール
は︑社会経済状況の変化に伴う土地政策の変化および公共政策の多様化に順応しえないのである︒
かかる欠点を克服するために︑相当な注意による修正または貯水と排水に関する修正がなされているが︑当該修正
ルγルは・一定の制限された条件のもとにおいてのみ適用されるのであるから︑土地政策の変化および公共政策の多
様化に適応していくのは︑容易ではない︒
土地の開発・改良によって生じた地表水処理の経済的費用を隣接地所有者に負担させるコモン.ローのルールにつ
いては︑多数の裁判所において疑義が生じている︒
一九五六年の﹀巷のぎ品く.宰9§︒︒範認)は︑ニュ←アジ州が修正コモン・マのルルを拒絶し合理的
利用のルールに移行する理由について︑次のように説述する︒
﹁現今の集団住居建設事業は(中略)確かに社会的利益となるが︑農村部(中略)が都市または都市周辺の共同
体へと変容をとげる過程で︑あらゆる事件において地表水の排除に付随する経済的費用は︑何故︑当該事業で利益
が約された土地所有者[開発事業者]によるのではなく︑隣接地所有者によって負担されるべきであるのかについ
ハぬ て︑公平の観点から示唆を与える理由は存在しないのである︒﹂
136
土地の開発.改良に伴う地表水処理の経済的費用を隣接地所有者に一方的に負担させるコモン・ローのルールは︑
柔軟性に欠けるうえ︑都市部の土地利用は多種多様であるから︑公正な結果を導くことが困難である︒例えば︑ある
建造物を自己所有の土地に建設した場合︑隣接地所有者がこの建設によって生じた地表水処理の経済的費用を負担し
なければならないというのは︑隣接地所有者にとってあまりにも過酷である︒また︑﹀げびo算判決および≦暮8諺判決においても︑コモン.ローのルールに従って導出された結論は︑原告(隣接地所有者)にとって極めて厳しかった︒
それ故に︑諸州の裁判所において当該ルールを拒絶する傾向があらわれたといえよう︒
四修正コモン・ローのルールの堅持
前述したように︑修正コモン.ローのルールを拒絶する法域が増加する傾向にあるにもかかわらず︑依然として一
三州が修正同ル!ルを堅持している︒
以前より修正コモン.ローのルールを採用してきたミズーリ州では︑一九八〇年の切oび①詳︒・<●=Oo臥適において・
控訴裁判所は修正同ルールを再検討し︑現在では適切なルールではないと指摘した︒
本事案の詳細は︑次の通りである︒被告(被控訴人)が人工パイプを使って原告(控訴人)の土地に地表水の流れ
を変えたことにより︑原告に損害が生じた︒原告は︑被告に対して損害賠償並びに作為的差止命令(臼きα9︒8曼一昌Uロロ︒二︒昌)を訴求した︒第一審の巡回裁判所は︑原告の請求を認めなかった︒そこで︑原告は控訴するに至った︒
控訴裁判所は︑以下のように判示し︑控訴を棄却した︒
﹁人工パイプによって一つの水流(の訂①PB)に排出された地表水は︑過失なしに(惹夢o暮昌Φσq鼠88)流れが変えられたのであり︑かつその水流の自然収容能力を超過しなかったのである︒そして︑駐車場からの地表水の流
れは︑現存する低地点から発し︑現存する地表水の自然水路に至ったのであり︑・かかる行為は相当な注意(身①