ア メ リ カ 契 約 法 に お け る 開 示 義 務 ( 二 ・ 完 )
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(2) 八二. 1.﹁戦略的﹂な契約関係と﹁信認的﹂な関係の区別. 早法七二巻三号︵一九九七︶. 2.基本的な前提事実の開示. 2.契約交渉における開示義務の根拠︑要件及び おわりに. 対象. 3.未取 得 情 報 の 開 示. 四.開示義務の効果 結論. 二.開示義務の根拠及び要件. 2.最近の学説の動向ー﹁法と経済学アプロ〜チ﹂対﹁権利論的再分配アプローチ﹂ー ︵1︶. これまでの史的概観から︑現行アメリカ法が︑沈黙による詐欺につき︑信認関係では﹁全ての情報の完全な開. 示﹂を求め︑かかる関係を伴わない売買等の通常な契約関係では﹁信義則及び公正な取引の合理的基準﹂の限りで. 情報の開示を求めることが明らかになった︒ここで問題なのが︑後者の︑﹁信義則及び公正な取引の合理的基準﹂. の具体的内容である︒これは︑一方で︑開示義務を全面的に否定した従来の立場を︑他方で︑前者の信認関係の如. く﹁全ての情報の完全な開示﹂まで求める立場をともに否定するものだが︑それ以上の枠づけは断念され︑結局︑. 契約関係において﹁﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄開示義務が生じるか﹂は総合判断に委ねるほかないと宣言したもの でしかなかった︒. ところが︑近時︑注目すべきことに︑この﹁総合判断﹂を︑理論的な説明に基づき明確にしようとする学説が出. 現している︒その中心が︑﹁法と経済学アプローチ﹂に依拠するクロンマンと︑それに対抗する﹁権利論的再分配.
(3) アプローチ﹂に依拠するスケッペルである︒両者の見解は︑アメリカ国内で︑第二次契約法リステイトメントのリ. ポーターたるファーンズワースをして︑﹁私がもし仮に一九七六年以後の分析︹クロンマンとスケッペルの見解⁝ ︵2︶. ︵3︶. 引用者注︺の助けを得ていたならば︑第二次契約法リステイトメントはより役立つものになり得たであろうと. 思う﹂と言わしめたほどに関心を引くものであり︑我が国において開示︵告知︶義務を考える際にも大きな示唆を. ︵5︶. 法と経済 学 ア プ ロ 〜 チ. ︵6︶. 受け得ると期待できる︒そこで︑以下︑それらを中心に︑売買等の通常の契約関係において﹁開示義務が﹃いかな ︵4︶ る場合に﹄﹃なぜ﹄生じるか﹂につき︑冗長となることを承知しつつ︑最近の学説の動向を追うことにしよう︒. ︵一︶. まず最初に︑この問題の﹁起爆剤﹂として衝撃的に登場したのが︑クロンマンの見解である︒彼は︑当時︑隆盛. の兆しのあった﹁法と経済学アプローチ﹂に基づいて開示義務の根拠及び要件の明確化を試みた︒ ︵7︶ ここで彼が依拠した﹁法と経済学アプローチ﹂とは︑詳しい説明は他の優れた論稿に委ねるが︑ごく単純化すれ. ︵10︶. ︵1 1︶. ︵1 2︶. ば︑法学の領域に経済学的手法を持ち込み︑法︵1ーアメリカのコモン・ロー︶が現実には効率性︵Φ途q窪身︶ー一般 ︵8︶ 的にはパレ1ト最適基準︑あるいは又そのコロラリーであるカルドニアHヒッタス基準を満たすことーを促進する ︵9︶ よう機能していると主張する立場︑または︑法が規範的にそう機能すべきであると主張する立場を言う︒例えば︑. 効率的契約違反︑費用低減理論︑ハンドの定式等は︑規範的主張の色合いをそれぞれ異にするが︑かかるアプロー ︵B︶. ︵14︶. ︵15︶. チの具体例である︒この﹁法と経済学アプローチ﹂は︑今日においては︑もはや法解釈の指針としてはやや色あせ. 八三. た感がするが︑当時は︑経済帝国主義に対する反発と知的好奇心とともに︑高い関心でもって迎え入れられた︒そ アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(4) 早法七二巻三号︵一九九七︶. ︵16︶. 八四. して︑既に内田貴教授が指摘するように︑かかる﹁法と経済学アプローチ﹂が価値基準とする﹁効率性﹂というも. のが︑法の領域外と伝統的な法学が考えていたところから持ちこまれたものであったため︑より一層大きな驚きを. ︵17︶. 与えたのである︒﹁法と経済学アプローチ﹂に依拠するクロンマンの見解が衝撃的に登場したと言えるのも︑この 文脈においてである︒. クロンマンは︑この﹁法と経済学アプローチ﹂に基づき︑本稿の検討対象との関連では︑﹁計画的に得られた情. 報︵8浮R簿Φξ鋤8鼠お2嘗興筥呂8︶と偶然に得られた情報︵8ω轟ξ8ρ畦富象氏曾目慧8︶との区別が︑なぜ ︵18︶. ある判決例では開示が要求され︑他の判決例では開示が要求されないのかを説明する際に有用であることを示そう. と試みる﹂︒彼の定義を引用すれば︑計画的に得られた情報とは︑﹁もし仮に当該情報が実際に産出される可能性が. ︵19︶. いかなる大きさであれ存在しなかったならば︑かかることはなかったであろう費用を︑取得するに伴う情報を意味. する﹂ものであり︑逆に︑﹁情報を得る際にかかった費用が︑いかなる場合にもーすなわち︑情報がやがて見つろ. ︵20︶. うと見つからまいとーかかったものであろう場合は︑その情報は偶然に得られたものと言うことができるであ. ろう﹂︒要は︑計画的に得られた情報と偶然に得られた情報は︑当該情報を取得するに積極的なコストがかけられ. たかどうかで区別されるのである︒以上の区別を前提とし︑クロンマンは︑﹁計画的に得られた情報﹂︑すなわち一. 定のコストが投資された結果得られた情報には開示義務が課されず︑﹁偶然に得られた情報﹂︑すなわち特に積極的 ︵21︶︵22︶. にコストをかけなくとも得られた情報には開示義務が課されると結論づけた︒それは︑彼が︑一定のコストをかけ. てまで当該情報を得ようとした者の﹁情報収集と勤勉に報いることが正当である﹂との法政策的価値判断の下︑そ. こまで努力して得た情報を法が相手方に開示するよう一方的に強制し︑その者から当該情報を利用し利益を得る機.
(5) 会を奪うことは好ましくないと感覚的に考えた表れと推測されるが︑クロンマンの見解が︑そもそも︑専ら情報を. 持ついわゆる強者の視点から︑その者に過度に開示義務が課されることがないようにすることを出発点に構成され. ている点は留意する必要がある︒彼は︑この自己の感覚的な考えを︑以下のように﹁理論武装﹂する︒. 情報は︑﹁公共財︵2霞︒碧o房︶﹂としての特性︑すなわち︑ある者が使用していても他の者が使用できなくな. るわけではないという非競合性︵一〇ぎ9Φωの・房唇巳く︶と︑対価を支払わない利用者の排除が一般に難しいという非 ︵23︶. 排他性︵言宕塗琶一蔓9霞巳琶8︶を持つ︒この二つの特性こそが︑いわゆる情報のフリーライダーの出現を許. し︑情報を産出した者に︑当該情報から生じる利益を享受することを困難ならしめるのである︒せっかく情報を産. 出してもそこから利益が上げにくいのであれば︑情報を産出しようというインセンティブは減退してしまうであろ. う︒従って︑これをこのまま放置すれば︑有用な情報の産出量が低下することは目に見えている︒そこで︑この情. 報産出のインセンティブの欠如に対する一つの規整として考案されたのが︑情報を排他的に使用する権利を当該情 ︵腿︶ 報の産出者に与えるという方策である︒その最たる例が特許制度であろう︒発明者は︑その発明を他人が対価を払. うことなく使用しないようにすることを可能ならしめる特許権という財産権が与えられて初めて︑安心して︑かつ. 積極的に有用で財産価値のある情報の結晶体たる発明を産み出すことになる︒クロンマンは︑この考え方にヒント. を受ける︒彼が︑﹁個人が情報を占有︵εω器隆9︶すること︵又はそのことに関する他のなんらかのこと︶から利益. を得るであろうということを保証する一つの効果的な方法は︑個人に︑情報そのものにおける権利1すなわち︑他. 人を情報の使用及び享有から排除するために国家の強制的な機構に訴える権利又は資格を割り当てることーであ. 八五. る︒情報を占有することの利益は︑国家が︑情報の占有者に︑法的に強行し得るなんらかの種類の財産権を授け アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(6) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 八六. て︑この占有者︵2ωω霧ω旦を情報の所有者︵o類話吋︶に変えるときにだけ︑確実なものとなる︒情報における財 ︵25︶. 産権を割り当てることは︑我々の法制度のおなじみの特徴である︒特許権のある発明と一定の営業秘密とに与えら. れる法的な保護が︑二つの明白な例である﹂と述べる点に︑それが窺えよう︒そして︑タロンマンは︑開示義務が. 課されないこと︑つまり不開示が許容されることが︑情報を専有できるという意味で上述の財産権の一種であると. ︵26︶ みなして︑﹁不開示という法的特権︵三品巴質三8鴨9き&一ω︒一8貫①︶が実質的には財産権である﹂と明言したう. え︑発明のように一定のコストをかけて産出された情報に︑この不開示という財産権を付与することで︑社会的に ︵27︶. 生産的な情報探索活動に資源を投資するインセンティブが提供されるべきであると主張する︒そうすることで︑有. 用な情報の産出が促され社会全体として増加し︑﹁効率的﹂な結果を産むと説くのである︒ただ︑あくまで︑不開. 示という財産権が与えられるのは︑﹁計画的に得られた情報﹂だけであり︑﹁偶然に得られた情報﹂は︑不開示とい. う財産権が与えられる対象からははずされる︒なぜなら︑上述の如く︑もし仮に︑積極的に一定のコストがかけら. れた情報探索活動の成果たる﹁計画的に得られた情報﹂を法が一方的に開示するよう強制できるとすれば︑誰もこ. のようなコストのかかる情報探索活動をしようとしなくなり︑結局は情報産出量の低下を招来する恐れがあるのに. 対して︑単に﹁偶然に得られた情報﹂であれば︑その産出のためにコストがかけられているわけではないので︑た. とえ法がその開示を要求したとしても︑以後かかる種類の情報の産出量が減少するとは考えられず︑従ってそもそ. もインセンティブによる規整の必要性が存在しないからである︒積極的にコストをかけて得た情報であれば︑これ. を相手方に知らせずにその不知に乗じることは︑道徳的非難の有無にかかわらず︑まさに﹁効率性﹂の観点から正. 当化され︑そうではなく︑偶然に棚ぼた式に得た情報であれば︑そうすることは許されない︒﹁計画的に得られた.
(7) 情報と偶然に得られた情報との区別は︑開示義務が当事者の一方又は他方によって主張される判決例が示すパター. ンを我々が理解するのに役立つ︒概して︑開示を要求する判決例は︑︵上で定義した意味で︶偶然に得られていそう. な情報を伴う︒他方で︑不開示を許す事件は︑概して計画的に産出されていそうな情報を伴う︒開示を要求する判. 決例は︑一つのまとまりとして捉えれば︑︹不開示という︺財産権の割り当てを︑専ら︑︵専門的知識を伸ばすこと. にであれ︑現実に情報探索をなすことにであれ︶計画的に投資したことの成果でありそうな種類の情報を有する者に ︵28︶ 限定することによって︑少なくとも分配上の効率性︵聾8豊おoま息窪︒図︶を促進する様相を呈している﹂とクロ. ンマンは主張する︒彼が︑情報の取得にコストが積極的にかけられたか否かにより︑開示義務の有無を決すること を提唱するのは以 上 の 次 第 に 依 る ︒. クロンマンは︑かかる抽象的な﹁理論武装﹂の後に︑具体的な判決例及びリステイトメントの設例に言及し︑そ. れらに自らの理論の﹁援護射撃﹂を求める︒なかでも︑彼の見解を最も説得的にかつ活々と例証するのは︑次の二. つのタイプの事例である︒すなわち︑第︸に︑地表下に貴重な鉱物資源や石油が眠る土地に関する取引に際して不 開示が伴われた事例︑第二に︑美術品等の売買に際して不開示が伴われた事例である︒. この第一の事例は︑土地の売買において︑当該土地の地表下に石油や鉱物が存在していることにつき︑一方では. 買主が﹁地質学的な調査﹂によりこれを知り︑他方では売主がこれを知らない状況で取引されたところ︑売主が︑. 買主の不開示による詐欺を理由に当該契約の取消を求める場合等である︒売主としては︑真実を知っていれば当該. 土地の真の価値を反映したより高額な価格でこれを売却したであろうにとの思いから︑買主が沈黙を手段として当. 八七. 該土地を﹁騙し取った﹂と思うのも無理はない︒ところが︑判例は︑それにもかかわらず︑かかる場合に買主は開 アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(8) 早法七二巻三号︵一九九七︶. ︵30︶. ︵29︶. 八八. 示義務を負わないと判示し︑売主の請求を棄却してきており︑このことは第二次契約法リステイトメントでも確認. されている︒それでは︑﹁なぜ﹂かかる場合に開示義務が課されないのだろうか︒この理由を︑クロンマンの見解. は提供する︒すなわち︑ここで開示されなかった情報は当該不動産の地表下に石油や鉱物が実際には存在している. という事実であるが︑この情報は﹁地質学的な調査﹂という計画的な情報探索の成果であり︑彼の表現を用いれ ︵31︶. ば︑まさに︑開示義務の課されない﹁計画的に得られた情報﹂である︒例えば︑具体的には︑︹5︺2Φ障ダω冨苧. 竃ぎ8. ゴお事件では︑買主は︑売買目的物たる石油採掘権リースの対象地域に︼五〇〇〇〇ドルの投資をした結果︑当. 該地域に有望な油井があると知りその事実を相手方に教えなかったのであり︑また︑︹6︺い簿畠 Oo江 ︵32︶. い舞<︒臼霞霧O包暁o D巳9瑛事件では︑買主は過去四年に渡って三〇〇万ドルもかけて航空調査をした結果︑売買. 目的物たる土地が莫大な量の硫黄を含んでいるということを知りその事実を相手方に教えなかったのである︒もし. 仮に︑このようなコストのかかる﹁地質学的な調査﹂の成果を独り占めにすることができず︑他人に開示しなけれ. ばならないとしたら︑当該買主は︑もはやその調査から利益を受けることはできないので二度と同様の調査をしな. くなり︑結局は︑この種の有用な情報の産出は以後著しく減少してしまうことになろう︒クロンマンは︑このよう ︵33︶ な﹁効率的﹂でない結果を防ぐために︑法は︑かかる場合に開示義務が無いと判示したと説明する︒. クロンマンの見解を説得的に例証する第二の事例は︑美術品等が︑その真の価値に気付いていない無知の所有者. から実際の価値が開示されることなく購入される場合である︒具体的には︑美術品のケースではないが︑第二次不. 法行為法リステイトメントの五五一条の設例六が挙げられる︒すなわち︑﹁Aはバイオリンの専門家である︒Aは︑. 中古の楽器が売られているBの店を偶然に訪れる︒Aはバイオリンを見つけたが︑そのバイオリンは︑Aが︑自分.
(9) の専門的な知識と経験の故に︑良好な状態の本物のストラディヴァリウスのものであると即座に認めるもので︑少. なくとも五〇〇〇〇ドルの価値がある︒そのバイオリンは一〇〇ドルで値段が付けられている︒Aは︑自らの情報. 又は自らの正体を開示することなく︑そのバイオリンをBから一〇〇ドルで買う︒AはBに対して責任はない︒﹂. という例である︒これは︑Aの不開示の責任が問われないのであるから︑開示義務はないとされるものである︒こ. こで開示されなかった情報は︑当該売買目的物が実際は途方もない価値のある名器であるという事実であるが︑こ. の情報も︑Aが費用をかけて楽器について知識を築き上げた成果であり︑やはり﹁計画的に得られた情報﹂であ. 4︶. る︒従って︑だからこそ︑﹁効率性﹂の観点から︑かかる場合には︑第一の事例で述べたところと同様に︑開示義 ︵3 務が無いとされたと︑クロンマンの見解からは説明される︒第一の事例も第二の事例も開示義務を否定するもので. あり︑ここに︑前述の如く︑クロンマンが情報を持ついわゆる強者の視点から開示義務の﹁削ぎ落とし﹂を図った 成果が再確認できる︒. 確かに︑クロンマンの見解は︑以上述べた範囲では︑開示義務の判断基準とその説明理論として優れているとも. 言える︒しかし︑彼の見解は︑実のところ︑このままだと大きな不都合に直面する︒それは︑先に紹介した︑開示. 義務の問題のリーディングケースである︹1︺い巴亀鋤≦事件さえ説明できないという致命的な不都合である︒同 ︵35︶ 事件では︑オルガンはタバコの値上がり原因たる平和条約締結のニュースを人を介して偶然に耳にするに至った︒. クロンマンの見解を素直にこれに当てはめれば︑当該情報は﹁偶然に得られた情報﹂である以上︑開示義務がある. ということになるはずである︒しかし︑現実には︑傍論という形にせよ︑連邦最高裁判所が下した判断は︑それと. 八九. は逆に︑開示義務はないというものであった︒この矛盾を回避するために︑クロンマンは︑一つの巧妙なーそして アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(10) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 九〇. 筆者には恣意的に思えるー条件を自己の見解に付すことを提言する︒すなわち︑﹁計画的に得られた情報﹂か﹁偶 ︵36︶. 然に得られた情報﹂かの認定は︑個々の事案毎に判断すべきものではなく︑具体的な事実関係を捨象して当該情報. を種類全体として見て類型的に判断すべきであると主張するのである︒かかる条件を付加する理由は︑表面的に. 7︶. は︑問題となった情報が﹁計画的に得られた情報﹂か﹁偶然に得られた情報﹂かどうかを個々の具体的事情に基づ ︵3 いて認定することは︑困難かつ﹁費用が相当なものになりそう﹂なので効率的ではないからと︑またもや経済的観 ︵38︶. 点から説明される︒しかしなぜ︑かかる事実認定だけが他の事実認定よりも判断するに費用がかかり困難なのであ. ろうか︒また︑事実認定の﹁効率性﹂を追求するために﹁類型的に﹂裁判することが果たして許されるのであろう. か︒クロンマンが︑上の条件ーつまり︑﹁計画的に得られた情報﹂か﹁偶然に得られた情報﹂かは当該情報の種類. 毎に類型的に判断すべきであるという条件1を自己の見解に付す真の理由は︑彼の言う表面的な理由とは別に︑リ. ーディングケースたる︹1︺一巴色餌≦事件と自己の見解との整合性を保つためという密かな狙いがあったからで. あろう︒クロンマンはこの巧妙な条件設定を利用して︑自己の見解が︹1︺い巴亀曽≦事件の結論を説明できるか. の如く装う︒﹁例えば︑U巴亀鋤名事件において︑関連する情報は市場の変化する状況に関するものであった︒この ︵39︶. 事件の結果は市場の状態に関する情報が︵全ての場合ではないものの︶典型的には計画的な情報探索の成果であると. いう根拠によって︑︵上述の一般的な見方からすると︶正当化できる﹂と言うのである︒彼にしてみれば︑かかる市. 場情報は︑類型的には﹁情報を捜し求めることに計画的な投資を︵例えば︑価値のある商業的﹃友好関係﹄網︵薗冨学. ︵40︶ 名○詩無く巴轟巨①8ヨ営R息巴.塗Φ&畳冨︑︶を掘り起こすことによって︶なした﹂計画的に得られた情報と想定できる とでも言うのだろ う か ︒.
(11) とにもかくにも︑このようにして自らの見解の弱点を乗り越えようとするクロンマンは︑﹁援護射撃﹂の継続を︑ ︵41︶. ︵42︶. 他の具体的な判決例及びリステイトメントの設例に再び求める︒例えば︑売買対象地の隣接地の開発予定が存在す. ること→売買目的地の価値上昇事由︶︑売買の対象となった株式を発行している会社が赤字であること→売買目的. 物の価値減少事由︶は︑この種の情報に開示義務を課せばその情報探索の意欲を減退させると言えるからこそ︑類 ︵43︶. 型的にみて﹁計画的に得られた情報﹂であり︑判決例は開示義務を課さなかったと説明される︒それとは逆に︑相 ︵44V. ︵45V. ︵46︶. 手方が購入する土地の同一性を間違って認識していることや︑売買対象たる会社が事業停止命令を受けている. こと︑売却対象の娯楽センターがガサ入れを受けたこと︑売却対象のリゾートが公道に侵入していること︑売却対 ︵47︶ 象の家の排水管が漏れていること︵目いずれも売買目的家屋の価値減少事由︶といった情報は︑コストをかけるまで. もなくそれらを売主は知っており︑類例的にみれば﹁偶然に得られた情報﹂であるからこそ︑開示義務があると判. 示されたと説明される︒そして先に見た︑白蟻の虫食い事例において近時の判決例が開示義務を課していることに. 関しては︑白蟻が巣作っているという事実は︑単にその家に居住するだけで知ることができる﹁偶然に得られた情. 報﹂であるので︑開示義務があるとする近時の判決例の流れに支持を表明する︒また︑こう解しても︑売却物の属 ︵48︶. 性を知ることは自分の健康状態を知るのと同じであるので︑開示を命じられることによる情報探索のインセンティ ブの低下はないと指摘する︒. このようにして︑クロンマンは︑前述した条件を付した下で︑自己の見解の正当性を次々と実証しようとする. が︑しかし︑ここに︑彼を悩ませる事例が再び現れる︒それは︑売買目的物に明白な職疵︵冒富旨888がある. 九一. 場合に︑売主はこの報疵の存在を買主に開示する義務があるか否かが争われる事例である︒判例は︑概して︑かか アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(12) ︵49︶. 早法七二巻三号︵一九九七︶. ︵50︶. 九二. る場合に開示義務はないと判示してきた︒例えば︑具体的には︑︹7︺09魯霧ダ腔器日○お事件では︑通気孔の. 位置︑家の周りの土地の傾斜︑及び︑庭の土壌の成分からして雨水が床下にたまるような家であることは︑買主の ハ51︶. 通常の検査により発見できた﹁明白な蝦疵﹂であると認定され︑当該蝦疵の認識が﹁両当事者が平等に入手可能な. ものである﹂以上︑買主は当該蝦疵の存在を売主に教えてもらうまでもなく自分自身で気付くべきであったので︑. 売主に開示義務はないと判示された︒残念ながら︑クロンマンの見解をこの事例にそのまま当てはめれば︑判例と. は反対の結論に至る︒すなわち︑報疵が明白︵冨富琶であれば︑類型的には︑その発見にコストがかかるとは思. えず︑﹁偶然に得られた情報﹂で︑従って開示義務が課されるはずなのである︒クロンマンは︑ここでも︑自己の. 見解の正当性を保つために切り返しを図る︒蝦疵が明白なものである以上︑売主は買主も当然にその暇疵を知って ︵52︶ いると思うし︑又そう思うことが合理的である場合には︑現に十中八九買主はそれに気付いており︑売主が買主の ︵53︶. 知っていることを二重に教えるのは︑取引費用を上昇させて好ましいことではないので売主に開示義務は課されな. いというのである︒クロンマンのこの切り返しははたして説得的だろうか︒︹7︺○昌象議事件を含め判決例で. は︑彼が主張するような取引費用に関する議論は一切見られず︑開示義務の有無の判断に際して︑専ら当該蝦疵の. 認識が両当事者にとって平等に入手可能なものであるか否かに関心が払われているだけである︒これを考えれば︑ ︵54︶. クロンマン自身︑﹁ここで提示した解釈は︑これらの判決例︵O暮呂窃事件もその一例である︶と抵触するように思 われる﹂と認めざるを得ない︒. 以上のように︑クロンマンは︑情報が偶然に得られ場合には開示義務を課し︑情報が計画的な情報探索の成果で. ある場合には開示義務を課さないという見解を︑それが成功しているどうかは別にして︑どうにかこうにか理論づ.
(13) け実証しようと試みた︒彼は︑結論として次のようにまとめる︒﹁本論文において︑私は︑契約法の一分野が社会. 的に有用な情報を計画的に捜し求めることを奨励することによって︑いかにして効率性を促進するかを︑強調して. きた︒私は︑契約法の一分野が︑かかる情報の占有者に知っていることを開示することなく他人と取引する権利を. 与えることで︑情報探索の奨励により効率性を促進する︑と論じた︒この権利は︑本質的には財産権であり︑私. ︵55︶. は︑情報が計画的で費用のかかる情報探索の成果である場合にはこの種の財産権を法は認める傾向にあるが︑情報. が偶然に得られている場合にはこの種の財産権を認めない傾向にある︑ということを示そうとしてきた﹂と︒彼が ︵56︶ 誇らしげに言うように︑果たしてこの﹁法理論は︑相当な魅力があるだろう﹂と言い切れるだろうか︒反対論者の スケッペルの見解と比べながら後に改めて検討する︒. ︵58︶. ところで︑﹁法と経済学アプローチ﹂に依拠するクロンマンの見解は︑多くの学者にインパクトを与えたし︑現 ︵57︶ に与えている︒その影響力は︑﹁法と経済学アプローチ﹂の信奉者にのみ及んだわけではなく︑又︑アメリカ国内 ︵59︶. にとどまるものでもない︒ここでは︑本稿が検討するアメリカ契約法のなかで︑クロンマンの見解に示唆を受けな. がらも独自の見解を主張するクーターロユーレンの見解を︑﹁法と経済学アプローチ﹂のもう一つの見解として︑ 以下に︑簡単にみておこう︒. クータiHユーレンは︑情報を三つのタイプに分ける︒すなわち︑まず第一に︑新たな富を増加する﹁生産的な. 事実︵質o含&奉貯︒琶﹂︑第二に︑新たな富は生み出さないで単に取引の優越性を得ることを可能ならしめる﹁再. 配分的な事実︵お9ω巳ゴ牙①貯9ω︶﹂︑第三に︑人の身体や財産に損害を与える﹁破壊的な事実︵留弩8馨巴8琶﹂. 九三. の三つである︒生産的な事実を産出した者は︑その報酬として︑当該情報を自分独りで専有することができ︑開示 アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(14) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 九四. 義務は課されないが︑それ以外の再配分的な事実や破壊的な事実を産出した者は︑新しい富が産み出されていない. ので︑不開示という報酬を与える必要はない︑と説かれる︒例えば︑新種ワクチンの発見や新航路発見︵H生産的 ︵60︶. な事実︶は︑それらの発見により増加した利益を発見者に補償するのが効率的であり︑従って開示義務は認めるべ. きではないことになる︒また︑例えば︑高速道路の建設地を事前に知ること︵一再配分的な事実︶は︑新たな富は ︵61︶. 生み出しておらず︑しかも︑それを知っている者に利益をとられまいとする相手方の防御費用は社会的に無駄であ. るので︑その者の防御姿勢を解くためにその開示が求められるべきことになる︒そして︑例えば︑薬の副作用や白 ︵62︶. 蟻が家に巣作っていること︵口破壊的な事実︶は︑開示されなければ被害が拡大するので︑やはり開示義務を認め るべきであるとされる︒. ただ︑この見解は︑筆者としても直感的には賛成できるが︑未だ理論的には煮詰められたものではないように思. われる︒なによりも︑クータiUユーレンの言う上記三つのタイプの情報の分類が可能か疑問である︒現実には︑ ︵63︶. 情報は︑三つのタイプのどれか一つにのみ当てはまるものは少なく︑むしろ︑その幾つかに跨がった性質を持つ場. 合のほうが多いであろう︒例えば︑彼自身が認めるように︑先に紹介した︹3︺09㊦事件では白蟻が巣作ってい. る事実が開示されなかったのだが︑この情報は︑破壊的な事実であることは間違いないものの︑あたかも白蟻が巣. 作っていないかのようにして当該家を売ることを可能ならしめたという意味では︑再配分的な事実でもある︒もち. ろん︑このように︑破壊的な事実か再配分的な事実かは︑そのいずれにも開示義務が課されるので︑両者の性質を. 併せ持つとしてもさほど大きな問題ではないとも言えるが︑しかし︑生産的な事実か再配分的な事実かは︑開示義. 務の有無を分かつので︑やはり重要である︒この点︑クーターHユーレンは︑例えば︑新たな富を生み出す生産的.
(15) 生産的な事実と再配分的な事実︶が混合している場合も. な事実であるはずの機織り機の発明も︑小麦栽培に適した土地の価値の上昇を見込んで投機をなす際の基礎となる 意味で︑再配分的な事実でもあるとして︑結局︑両事実︵ ︵64︶. 考えられることを認めたうえ︑かかる場合は生産的な事実と同視して開示義務を否定し︑ただ﹁﹃純粋に﹄再配分. 的な事実﹂にのみ開示義務が課されると主張する︒彼は︑こう主張することで︑区別困難との批判を甘受しつつ︑. ユーレンは︑﹁﹃純粋に﹄再配分的な事実﹂. 新たに富が生み出されたか否かにより開示義務の存否を決するという彼自身の発想は維持しようと努めるのであ る︒. しかし︑その彼の発想自体︑少なくとも︑実証性を欠く︒クーター. の例として︑この問題のリーディングケースである︹1︺一巴α冨≦事件を挙げる︒すなわち︑同事件で買主. ○茜きが開示しなかった︑タバコの値上がり原因たる戦争終結の事実は︑まさに﹁﹃純粋に﹄再配分的な事実﹂で ︵65︶. あるからこそ︑事実審裁判所の下した○おき勝訴判決が連邦最高裁判所により破棄差戻しされ︑開示義務が課さ. れなかった︑と彼は説明するのである︒だが︑既に紹介した通り︑事実審裁判所の判決が破棄差戻しされたのは︑. 買主○おきが︑沈黙を越える積極的な欺岡行為をしたか否かの審理が不十分であったためにすぎない︒それは︑. 開示義務を肯定する趣旨によるものではない︒それどころか︑同事件において︑開示義務を否定する旨の判断が︑. 傍論とはいえ︑マーシャル判事により下されていたことを想起すれば︑クーターHユーレンのように︑︹1︺い巴阜. 一鋤名事件を開示義務の肯定例として捉えることは不適切であろう︒︹1︶い蝕包鋤笥事件は︑たとえ﹁﹃純粋に﹄再配. 分的な事実﹂であっても開示義務を課す必要がない場合があることを︑むしろ逆に示唆している︒やはり︑新たに. 九五. 富が生み出されたか否かにより開示義務の存否を決するという彼自身の発想自体が再考されるべきものなのであ アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(16) る︒. 早法七二巻三号︵一九九七︶. ︵66︶. 九六. 結局︑以上を考慮すれば︑ クータiHユーレンの見解はまだ課題が多い︒ やはり︑この分野における﹁法と経済. 権利論的再分配アプローチ. 学アプローチ﹂の代表格は︑ 今のところ︑クロンマンの見解であろう︒. ︵二︶. 最近の学説のなかで忘れてはならないのが︑スケッペルの見解である︒彼女は︑前述の﹁法と経済学アプロー ︵67︶. ︵68︶. チ﹂に依拠するクロンマンの見解が公表されてからちょうど一〇年後に︑まさにそれに対抗するものとして出現. した︒彼女は︑純粋には法律畑出身でないが︑反﹁法と経済学アプローチ﹂を標榜して﹁権利論的再分配アプロ!. チ﹂に依拠しながら︑この法的問題に取り組んだ︒彼女も︑クロンマンと同様に︑﹁開示義務が﹃いかなる場合に﹄. ﹃なぜ﹄生じるか﹂を総合判断に委ねるのではなく︑それを︑何かしらの論理一貫した理論に基礎づけようと努力. を傾ける︒ただ︑このように︑彼女が︑開示義務の根拠及び要件の明確化という点でクロンマンと共通の方向に進 みながら︑彼の見解と決定的に訣別するのは︑アプローチの内容それ自体の違いに因る︒. スケッペルの依拠した﹁権利論的再分配アプローチ﹂とは︑取引上の弱者保護を﹁平等な分配状態への権利﹂の. 再分配的割り当てにより実現することを目指すアプローチである︒ここで︑予めお断りしておくべきは︑スケッペ. ルが依拠するとした﹁権利論的再分配アプローチ﹂という文言が︑実は︑彼女自身の表現によるものではないとい. う点である︒スケッペル自身は︑自己の見解を﹁契約論的︵8p霞8$践き︶アプローチ﹂に基づくと位置づけてお. り︑これを﹁権利論的再分配アプローチ﹂に基づくと述べるのは︑筆者が︑我が国における現代契約法の正当化理.
(17) ︵69﹀ 論として内田貴教授の提示したメニューに従って再構成した結果でしかない︒では︑なぜ︑﹁契約論的アプローチ﹂. という表現をそのまま用いずに︑敢えて筆者の評価である﹁権利論的再分配アプローチ﹂という表現を用いるの か︑この点の説明が求められよう︒ ︵70︶. そもそも︑契約論とは︑一般に︑﹁個人の選好から独立したいかなる決定手続きも措定することなく︑社会的選. 好ないし選択を︑全成員の選好の合致のみに基礎づける考え方﹂を言う︒このことから︑契約論が︑社会全体の. ﹁効率性﹂を志向して個人の選好を無視する﹁法と経済学アプローチ﹂の対局に位置し︑彼女の見解が﹁法と経済 ︵71︶. 学アプローチ﹂に依拠するクロンマンの見解に対抗するものであることが再確認できる︒ただ留意すべきは︑契約 ︵72︶. 論自体が︑平等主義的リベラリズムに立つロールズから︑自由主義的なりベラリズム︑いわゆるリバタリアニズム. ︵菩o洋蝕き虜B︶に立つブキャナンまで様々な者により主張されているという点である︒スケッペル自身は︑後に. みるように︑そのなかでも︑特に︑格差原理︵段δお耳實一蓉琶①︶の導入により平等主義的であるロールズの理論. に影響を受けている︒この点を意識して︑スケッペルの見解を評価する学者のなかには︑﹁契約論的アプローチ﹂ ︵73︶ という文言と﹁ロールズィアン︵知鋤旦巴き︶アプローチ﹂という文言を互換的に併記する者もいる︒本稿におい. て︑筆者がスケッペルの見解を﹁権利論的再分配アプローチ﹂に基づくものと表現し直したのも︑この︑彼女の見. 解がより平等主義的側面を持つ点を鮮明にしたかったからである︒スケッペルの見解を︑契約論という規範正当化. 方式に着目して考察するよりも︑むしろ︑その実体的な平等主義的な規範内容に着目して考察したほうが︑実定法. 上の関心に止まる本稿の叙述上適切であると判断したのである︒かかる内容を持つ契約法における思想上のアプロ. 九七. ーチは︑既に我が国では内田貴教授によって﹁権利論的再分配アプローチ﹂と名付けられており︑そこで︑筆者と アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(18) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 九八. しては︑﹁ロールズィアン︵勾毛巴ω一き︶アプローチ﹂と表現する意で︑﹁権利論的再分配アプロ⁝チ﹂と表現し直し た︒. 前提の確認がやや長くなったが︑いよいよ︑スケッペルの見解を見ていこう︒彼女は︑クロンマンと同様︑最初. に抽象的な﹁理論武装﹂を経たうえで︑次に具体的な現実の判決例による﹁援護射撃﹂を求めるという流れで論じ. る︒彼女の見解の持ち味は︑その﹁援護射撃﹂の強力さ︑つまり実証性の高さにあるが︑先に︑抽象的なーそし て︑少なくとも筆者には難解なー﹁理論武装﹂から見ることにしよう︒. スケッペルは︑ロールズ流の正義原理の正当化方法︑すなわち﹁原始状態︵o語ヨ巴8ω置9︶﹂における全当事 ︵74︶. ︵75︶. 者の合意に正義概念を基づかせるという手法を︑彼女なりのアレンジの下︑開示義務の準則という具体的なレベル. で展開する︒その結果︑開示義務の準則の正当性が︑﹁仮説的な﹂全当事者の合意という手続きを経て確保され︑. ロールズ流の平等主義的な規範的正義原理の内容が開示義務の準則に具体化されるに至る︒まず︑スケッペルは︑ ︵76︶. 開示義務の準則の内容の公正性と不偏性を担保するために︑ロールズが原始状態で想定した無知のヴェール︵<亀. o泣讐寂き8︶宜しく︑契約当事者AとBが事前には特定の場合に自分が秘密の保持者︵ω①RΦ→ぎ8包になるか又. は秘密の標的者︵ωΦR9−$お9になるのかを知ることはできないという仮説的な状態を措定する︒つまり︑Aが. Bに情報を開示しないでその無知に付け込む場合︵この時は︑Aが秘密の保持者で︑Bが秘密の標的者である︶もある. し︑逆に︑BがAに情報を開示しないでその無知に付け込む場合︵この時は︑Aが秘密の標的者で︑Bが秘密の保持 ︵77︶ 者である︶もあり︑そのどちらの場合になるかを各当事者は知らないと﹁仮定﹂するのである︒かかる仮説的な状. 況にある合理的当事者AとBは︑自らが情報の開示を受けられない秘密の標的者になる可能性を顧慮し︑開示を常.
(19) に自己は負担することなく相手方にだけ求める偏狭な私利︵葛員o≦ω&山耳R①曾︶の実現を図ろうとはせず︑両当. 事者の利害を収敏させた﹁公正かつ不偏な﹂開示義務の準則に合意するであろう︒では︑果たして︑そこで合意さ. れることになる開示義務の準則とは︑具体的にはどのようなものであろうか︒スケッペルは︑その中心的なものと. ︵78︶ して﹁情報平等アクセスの原則︵跨Φ肩ぎ︒互①98轟一餌8Φωω8営8嵯B蝕8︶﹂を挙げこれを重視する︒この原則. ︵79︶. は︑契約両当事者が平等に当該情報ヘアクセスできる限り開示義務はない︑という原則である︒スケッペルによ. ると︑かかる原則が﹁仮説的な﹂両当事者の合意の下に導出される過程は次の通りである︒そもそも︑不確実な状. 況下でとられる戦略は︑実際には︑ロールズ流の保守的戦略たるマキシミン・ルール︵ヨ9︒×冒営歪一Φ︶よりやや冒 ︵80︶. 険的︵誘ξ︶なーただ︑なぜそうなのかの説明は必ずしも説得的に展開できていないと思えるーものである︒前. 述の仮説的状況にある各当事者AとBであれば︑この戦略に従って︑自分達がこれ以上最悪な状況になりたくない ︵81︶. という最低面︵跨①ま旦1つまり︑甚大な損失︵8貫弩8露巳○ωω︶が不開示によって生じないことーが保証され. た上で︑互いに自らの持つ情報を相手方に開示しないで優位性を確保し得る賭︵彊ヨ笹①︶をすることに合意するは. ずである︒すなわち︑甚大な損失を免れることが保証されていれば︑勝つ︵H自己が先に情報を見つけて︑相手方に. これを開示しない︶か︑負ける︵U相手方が先に情報を見つけて︑自分にはこれが開示されない︶かの賭が︑各当事者に. より希望されるというのである︒その際︑その前提として︑なによりも︑賭が公平︵︷躊︶であることが必要とな. ろう︒一方に勝つ可能性が高い賭に誰も参加しないことは自明の理である︒一方当事者が先に当該情報を見つける. 可能性と︑他方当事者が先に当該情報をみつける可能性とが同一である場合にして初めて︑この賭が希望される︒. 九九. 両当事者の情報探索の出発点︵の雷註轟宕算︶が同一であること︑すなわち︑両当事者が平等に当該情報ヘアクセ アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(20) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 一〇〇. スできることが︑この賭に対する合意の必然的な含意として伴われるのである︒まさに︑このように﹁仮説的な﹂. 全当事者の合意の下に導出された︑平等に当該情報へ両当事者がアタセスできることの確保こそ︑スケッペルの言 う﹁情報平等アクセスの原則﹂である︒. この情報平等アクセスの原則は︑上で述べたように︑両当事者が平等に当該情報ヘアクセスできる場合は開示義. 務はなく︑そうでなければ開示義務がある︑というものである︒この原則を︑機能面から表現すれば︑当該情報に. 平等に接近できない者に対して︑﹁権利論的再分配アプローチ﹂の名が示す通り︑法が﹁相手方に開示を要求する. 権利﹂を割り当てるものと言えよう︒﹁相手方に開示を要求する権利﹂を情報力の弱者に再分配し︑情報へのアク. セスにつき︑他方当事者と同じレベルまで引き上げることを図るのである︒ロールズが︑格差原理の導入によっ. て︑社会制度レベルで︑黒人や女性といった社会経済的弱者の保護に配慮したように︑スケッペルも開示義務とい. う個別的な法準則のレベルで︑情報力の弱者の保護を図ることを意図したものと評価できる︒しかし︑留意すべき. は︑﹁全ての当事者が情報へ平等に﹃アクセスできる﹄であろうということを法が保証すると言うことは︑全ての. 2︶. 当事者が全ての場合に同一の情報を有するであろうということを法が保証すると言うことに等しいものでは﹃な ︵8 い﹄︒アクセスの平等性は︑情報の平等性ではない﹂と述べられている点である︒スケッペルが目指すのは︑情報. ﹁量﹂の平等化という﹁結果の平等﹂ではなく︑あくまで︑情報への﹁アクセス﹂の平等化という﹁機会の平等﹂. である︒両当事者に同一の情報探索の出発点を提供するだけで︑勝つ→自己が先に情報を見つけて︑相手方にこれ. を開示しない︶か︑負ける→相手方が先に情報を見つけて︑自分にはこれが開示されない︶かの賭は︑なお維持され ている︒.
(21) ︵83︶. スケッペルの主張によれば︑開示義務の課されない﹁両当事者が平等に当該情報ヘアクセスできる場合﹂とは︑ 以下の二つの要素からなる︒すなわち︑. ︵P︶両当事者に︑同一水準の努力をすれば当該情報を発見できる平等な可能性が存在すること︑かつ ︵q︶両当事者がかかる同一水準の努力をすることができること︑. の二つの要素である︒従って︑それとは逆に︑開示義務が課される﹁両当事者が平等には当該情報ヘアクセスでき ない場合﹂とは︑以下の二つの要素からなろう︒すなわち︑. ︵P︶両当事者に︑同︼水準の努力をしても当該情報を発見できる平等な可能性が存在しないこと︑または ︵・q︶両当事者がかかる同一水準の努力をすることができないこと︑ の二つの要素である︒. もちろん︑前者の︵P︶かつ︵q︶と後者の︵P︶または︵・q︶は︑命題の﹁否定﹂の関係にあり︑前者は平等. の可能性︵8轟一ミ&&賊ミ駐︶の有無という点で︑後者は同一水準の努力を実行する能力︵8轟一ミ憾§昌︶の有無. という点で対称をなす︒具体的には︑前者に関しては︑構造的な不平等があって︑一方当事者が当該情報へ近道す. ることのできる特別の地位︵ω冨︒芭εω置8︶に就いているか否かがポイントとして挙げられ︑後者に関しては︑ ︵84︶. 第一に︑︵i︶当該情報が深い秘密︵88零R9︑つまり一方当事者が秘密の存在さえ疑わないほど稀な︵量−. 1︶両当事者間に経済的不平等︵808巨058奏一ξ︶が存在して︑一方当 拐奉一︶ものであるか否か︑第二に︑︵・1. 事者が他方当事者よりも資源が少ないために情報探索の投資が平等にできないか否か︑第三に︑︵⁝m︶一方当事者. 一〇一. が他方当事者より知的能力・経験に劣るために当事者間に才能︵貯色芽︶の平等性が欠如しているか否か︑の三つ アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(22) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 一〇二. がポイントとして想定されている︒開示義務の存否は︑これを具体的な内容として︑﹁情報に対して平等にアクセ スできるか否か﹂により振り分けられることとなる︒. 以上が︑スケッペルの抽象的な﹁理論武装﹂である︒それでは︑次に︑この理論の﹁援護射撃﹂の役割を果たす 具体的な判決例に目を転じてみよう︒. 彼女は︑﹁初めに︑問題を簡単にするために︑二つの判決を二組紹介することにする︒各組において二つの判決. は強い類似性を示すが︑裁判所は︑それぞれに異なった判決を下した︒⁝略⁝各組の二つの判決は同一の法域で判. 示されたものである︒二つは︑合衆国連邦最高裁判所の判決であり︑他の二つはカルフォルニア州法の下で判示さ ︵85︶. ︵86︶. れたものである︒各組において︑二つの判決が下される際に従った法は同一のものなので︑異なる準則の援用に基. ︵89︶. 窯き9事件を後者の組として︑計四つを詳細に検討する︒これらの判. ︵88︶. づく相違は予期されないであろう﹂と述べて︑︹1︺﹇巴臼蝉≦事件と︹8︺ω寓o轟<.勾8一8事件を前者の組︑ ︵87︶. ︹9︺U旨のダN巴ωR事件と︹10︺宣唇①く. 決例は︑スケッペルの説く﹁情報平等アクセスの原則﹂を知るに恰好な素材なので︑筆者もここにそのまま紹介す る︒. まず︑前者の組から見てみよう︒. ︹5︺一巴色鋤≦事件の事案と判旨は︑ここで改めて繰り返す必要はあるまい︒もう一つの︹12︺ω霞o轟事件で. は︑甲会社の理事兼筆頭株主であった菊8こ①は︑合衆国政府を相手方として︑甲会社所有の土地の売却交渉に従. 事していた︒その過程で︑勾8宣①は︑最高価格での売却を目指し熱心に交渉した結果︑合衆国政府が既に申し込. んでいた価格よりも高い金額を支払うことを厭わないことに気付き︑より高値での土地の売却に成功すれば甲会社.
(23) の株は高騰すると知りつつ︑このことを秘してω霞o漏から甲会社の株を買い受けた︒後に当該土地の売却は成功. し︑案の定︑株の価格は五倍に跳ね上がった︒そこで︑ω霞○凝は︑合衆国政府が当該土地を買うことを勾8崔①. が知りながらこれを開示しなかったのは詐欺にあたるとして︑損害賠償を求めた︒確かに︑︹1︺い巴色蝉≦事件も. ︹8︺ω嘗○鑛事件も不開示の主体が員主で︑その内容が売買目的物の価値上昇原因であり︑しかも︑価値の上昇が. 契約当事者ではない合衆国政府の行為による︑という点で共通するものである︒しかし︑合衆国連邦最高裁判所. は︑︹1︺冨巨鋤名事件では︑買主に開示義務がないとの判断を傍論で示し︑︹8︺ω段○鑛事件では︑逆に︑買主. に開示義務があると異なる判決を下した︒この結論の相違はどこから生じるのだろうか︒ ︵90︶. 両事件の結論を分かつ違いは︑次の二つが﹁候補﹂として考えられる︒第一は︑︹1︺U巴色鋤≦事件では買主. O茜きが価格上昇原因たる﹁戦争終結﹂という既に存在する確実な事実を知っていたのに対して︑︹8︺ω霞o罐事. 件では︑既述の通り︑買主国8箆①は︑争点となった株の売買が当該土地の売却の前になされたため︑価格上昇原. 因たる﹁土地の売却﹂という事実を推論的にしか知らなかった︑という違いである︒第二は︑︹1︺U巴α冨妻事件. では︑買主○おきが当該情報を偶然に知ったのに対して︑︹8︺ω霞o轟事件では︑買主勾8このが当該情報を土地 ︵90a︶ 売買の契約交渉において熱心に努力した結果知ることができた︑という違いである︒. しかし︑残念ながら︑この︑第一の違いからも︑第二の違いからも︑両判決の結論の相違を説明することはでき. そうもない︒なぜなら︑第一の違いに関して言えば︑通常︑開示が要求されやすいのは︑推論的な事実よりも確実. な事実であるので︑これを当てはめると︑確実な事実を知る買主○彊きに開示義務を課さず︑推論的な事実を知. 一〇三. る買主寄風8に開示義務を課した実際の判決とは︑結局︑正反対の結論に至るからである︒そして︑第二の違い アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(24) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 一〇四. に関して言えば︑先に紹介したクロンマンの見解を試す恰好の機会が提供されるが︑その見解を当てはめると︑当. 該情報を偶然に知った買主○おきには開示義務を課さず︑一定コストをかけて情報を得た買主園8崔Φに開示義 務を課した実際の判決とは︑やはり︑正反対の結果に至るしかないからである︒. そこでスケッペルの提示するのが﹁情報平等アクセスの原則﹂である︒事実︑︹1︺い鋤壁毛事件では︑﹁情報収. 集手段が両当事者に平等に利用できる﹂ことを理由に開示義務がないと判示され︑︹8︺ωqO鑛事件では︑﹁かか. ︵1 9︶. る︹土地の︺売却に基づいて得られるであろう︑予想される利益を即8箆①と同じくらい知る者は誰もいなか ︵92︶. ︑. ︑. ︑. ︑. ︑. った﹂ことを理由に開示義務はあると判示された︒これらの判決の文言それ自体に﹁情報平等アクセスの原則﹂が. 機能していたことを窺える︒すなわち︑彼女が言うように︑前者の判決では︑戦争終結の事実は︵結果として買主. 9鵬きが先に知ることができたが︶売主い巴亀働≦も買主○おきも等しく知ることができる性質のものであり︑ま. た︑一巴亀m≦も○お讐も同じくタバコ商人であるため︑両当事者が当該情報に平等にアクセスできたからこそ開. 示義務はないとされたのに対し︑後者の判決では︑園8こ①のみが交渉当事者として当該情報を他者よりも構造的. に優位に知ることができる地位にいて︑両当事者が当該情報に平等にはアクセスできなかったからこそ開示義務が. あるとされたのである︒﹁ω霞o躍事件と一巴亀餌≦事件との違いは︑まさに︑秘密の対象である情報へ構造的によ ︵93︶ り優位にアクセスできることと︑平等にアクセスできることの違いである﹂と言う彼女の言葉は説得的である︒ 次に︑︹9︺∪旨ΦダN巴ω巽事件と︹10︺冒薯Φ<●言き象事件の組を見てみよう︒. ︹9︺U旨①事件では︑市会議員たるN巴ωRは︑自己の所有する娯楽センターに近々警察の手入れ︵邑α︶が入. ることを知りつつこれを秘して︑当該センタ⁝をU旨Φに売却した︒後に︑実際に手入れがなされ︑当該センタi.
(25) 内の店子が立ち去るに至り︑U旨oは︑その娯楽センターから得られるはずであった収益を大幅に失ったため︑売. 買目的物に手入れが近々なされることをN巴ωRが開示しなかったことは詐欺にあたるとして︑当該娯楽センター. の売買契約の取消を求めた︒一方︑︹10︺冒薯①事件では︑鋸窪舞は︑自己の所有するごみ回収事業会社を冒薯o. に譲渡したが︑その後︑当該会社が担当していた乙市のごみ回収区域は乙市の決定により︑入札で担当業者を決め. 直すことになった︒蜜薯Φは︑期待していた乙市のごみ回収区域からの収益をあてにできなくなったため︑当該区. 域の入札予定があったことを言讐象が開示しなかったのは詐欺にあたるとして︑損害賠償を求めた︒確かに︑. ︹9︺U<冨事件も︹10︺冒薯o事件も不開示の主体が売主で︑その内容が売買目的物の価値下落原因であり︑し. かも︑価値の下落が契約当事者ではないカルフォルニァ州の機関の行為による︑という点で共通するものである︒. しかし︑カルフォルニア州裁判所は︑︹9︺∪旨①事件では︑売主N巴ωRに開示義務があると判示し︑︹10︺富署①. 事件では︑逆に︑売主匡き舞に開示義務はないと傍論で判示した︒この違いはどこから生じるのであろうか︒. スケッペルの言う﹁情報平等アクセスの原則﹂は︑ここでも判決の文言自体に見出すことができる︒すなわち︑. ︹9︺U旨Φ事件では︑U旨①は売店業の専門家であるとはいえ通常の市民であるが︑﹁N巴ω巽は︑市会議員とし. ︵94︶. て︑その地位のおかげで︑これらの売店が丙警察部長により閉鎖されるかもしれないと知るのにより有利な立場. にい﹂て︑より構造的に当該情報を優位に知ることができる地位におり︑両当事者が当該情報に平等にはアクセス. できなかったからこそ開示義務があるとされたのに対して︑逆に︑︹10︺富暑Φ事件では︑乙市が当該ごみ回収区 ︵94a︶ 域を入札に出すという噂が売買時には﹁おそらく広まっていた︵冒浮①註且︶﹂ため︑同業者で独立して︵簿胃ヨ.ω. 一〇五. 一Φ鑛琶取引している冒唇Φも家き舞もそれに平等にアクセスできたからこそ開示義務はなかったとされたので アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(26) ある︒. 早法七二巻三号︵一九九七︶. 一〇六. 以上四件の判決から︑スケッペルの説く﹁情報平等アクセスの原則﹂が機能することは確認されたと思われる︒. そして︑具体的な判決例による彼女の理論の﹁援護射撃﹂はこれらに止まるものではない︒スケッペルは︑判決例 ︵95︶. ︵96︶. において開示義務の有無を決定する要因となったと思われる法的な関連事実︵一①鴉ξ邑①お耳貯9ω︶を幾つかを抽. 出し︑そのいずれも﹁情報平等アクセスの原則﹂から関連づけられると主張する流れでさらに展開する︒彼女によ. れば︑例えば︑売買契約において︑買主よりも売主に開示義務が課される場合の方がはるかに多いという点もかか る関連事実の一つとされている︒. 売主は︑例の白蟻の虫食い事例をはじめ︑売買目的物に何らかの内在的な蝦疵が存在することを知るときには当. 該事由を買主に開示するよう求められる︒そして︑さらに︑売主は︑目的物の価値に影響する外在的な事由︑例え. 7︶. ≦. ば︑前述の︹9︺U旨Φ事件のように︑売買対象たる娯楽センターに警察の手入れが入りそうであることや︑︹11︺ ︵9 内毘讐窪ダω8色Φ事件のように︑売買対象となったロッジが国立森林局により閉鎖させられそうであることも開. 示するよう求められることもある︒これに対して︑買主は︑開示を要求されることはあまりない︒︹1︺U巴色. 事件とて然り︑又︑売買対象の土地に鉱物が眠っている事実の開示が争われた︹6︺一Φぎげ○○箆竃ぎ8い痒事件 の類も︑やはり開示義務は買主に課されていない︒. 確かに︑この︑売買契約において開示義務が課されるのは買主よりも売主であるという点は︑開示義務について. 論じる学者であれば︑誰しもが言及するところであった︒例えば︑キートンは︑既に紹介した如く︑不開示者が買. 主であるか又は売主であるかという点を︑開示義務の有無を判断するファクタ!として挙げた八つのうち五つ目に.
(27) ︵98︶. 組み込んでいる︒彼は︑論文中︑買主の開示義務という項を特に設けて︑買主が開示義務を負わされることが少な. いことを認め︑結論の一つとして︑﹁買主は︑売買の対象である財産の価値に大いに影響する情報を開示するよう ︵99︶ 通常は求められないのに︑売主は︑財産の価値を大いに減少する当該財産の蝦疵を開示するよう求められる﹂と述 ︵㎜︶ べている︒また︑ホームズも︑﹁買主は︑一般に⁝売主よりも低い︵一〇薫包開示基準を守らされる﹂と明言してい る︒. しかし︑この点︑キートンやホームズの主張には︑それが﹁なぜ﹂そうなのかの理論的な説明はなかった︒キー. トンに言わせれば︑﹁判例がそうなっているのだから﹂と答えるのだろうが︑それで十分な正当化とは言えまい︒. また︑ホームズは︑この違いの正当化を︑信義則として何が重要かは人々の地位︵買主又は売主︶により異なり得 ︵m︶ ﹁なぜ﹂そう言えるのかの説明がない限り︑それとてトートロジー的な回答である︒ るということに求めたが︑. そこで︑登場するのがスケッペルの説く﹁情報平等アクセスの原則﹂である︒これにより︑理論的な説明が可能 ︵m︶. となる︒彼女は︑売主が買主よりも開示義務を負いやすいのは︑売主の方が︑自己所有物に関する情報へより容易. にアクセスできるからであると指摘する︒所有権は︑所有者たる売主に︑所有物に関する情報を発見するより高い. 可能性を一般に与える︒内在的な蝦疵︑例えば︑白蟻が巣作っていることは︑その家の所有者であれば住むだけで. 知ることができよう︒また︑例えば︑︹n︺囚巴一鴨9事件で︑当局から閉鎖を警告されていること等は︑その通知. は所有者たる売主が受けることから︑売主が買主より容易に知ることができるものである︒売主と買主では当該情. 報へのアクセスが平等でない場合が多い︒だからこそ︑より優位にアクセスできる売主は買主の不知ないし無知に. 一〇七. 乗じることが許されない︑彼女はこう説明する︒﹁情報平等アクセスの原則﹂は︑不開示者が買主か売主かという アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(28) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 関連事実の説明理論として有効である︒. 一〇八. ただ︑売主が買主よりも開示義務を負いやすいことは事実であるとしても︑しかし︑全ての売主が全ての場合に. 義務を負うわけではないし︑また︑全ての買主が全ての場合に義務を負わないわけでもない︒かつてゴールドファ. ーブは﹁その者︹牽王︺が︑︹情報を開示する︺義務を負うことは﹃滅多にない︵ご往K薯包﹄と私は結論づける︒. 私は︑売主と買主の関係の他の側に目を向け︑買主のかかる開示義務に関して問えば︑買主がかかる開示義務を負 ︵鵬︶. うことは﹃ほとんど決してない︵巴ヨ・馨器く包﹄ということに気付く︒﹃滅多にない﹄と﹃ほとんど決してない﹄. との区別は正確な区別である﹂︒と言った︒これは買主よりも売主のほうが開示義務を負うことが多いことを踏ま. えつつ︑一般的に開示義務の課されやすいと考えられる売主も実際には義務を負うことが例外的であること→. ﹁めったにない﹂︶︑逆に︑一般的には課されないと考えられる買主でも実際は開示義務を負う可能性のあること→. ﹁ほとんど決してない﹂︶を同時に表現するものであった︒今日︑彼が想定するほど開示義務が認められる場合が数 ︵姻︶ のうえで少ないわけではないが︑なお原則と例外の質的次元で考えれば︑売買契約では︑たとえ売主でも開示義務. を課されることは例外であり︑従って︑実際には開示義務を負わないことも多いし︑買主でも稀であるが開示義務. を負うこともありうる︒結局のところ︑買主よりも売主に開示義務は課されやすいということは︑判決例の事後的. な観察に基づく一般的傾向を示すものでしかない︒これをそのまま語るだけでは︑開示義務の実質的根拠を明らか にしているとは言えないこと︑もちろんである︒. しかし︑スケッペルは︑かかる点を十分に認識していた︒すなわち︑彼女の説く﹁情報平等アクセスの原則﹂. は︑一方で︑上述した如く︑売主が買主よりも開示を強制される場合が多いという一般的傾向を理論的に説明しう.
(29) るが︑他方で︑売主でも開示義務が課されないこと︑そして買主でも開示義務が課されることをも同時に説明でき. るものである︒なぜなら︑それは︑あくまで﹁両当事者が情報へ平等にアクセスできるか否か﹂で開示義務の有無. を振り分けるものだからである︒結果的に売主が買主よりも開示義務を強制される場合が多いことを説明できる. が︑しかし︑それが初めにありきではない︒アクセスが平等でなければ︑買主であれ売主であれ︑開示義務が課さ. れる︒筆者には︑この﹁両当事者が情報へ平等にアクセスできるか否か﹂による開示義務の有無の振り分けの明快 さに彼女の理論の真価が発揮されていると思われる︒ 幾つか具体的に見よう︒. まず︑開示義務が課されなかった場合を取り上げよう︒ ︵鵬︶ 例えば︑︹E︺ω巴○讐<︑ω霧訂事件では︑売買目的地の地下三フィートにガス管が埋設されていること︑︹7︺. ○簿筈器事件では水が床下にたまることを︑売主は買主に開示しなくてよいと判示されている︒これらは︑なぜ. 開示義務がないとされたのか︒その答えは︑判決文そのもの中から読み取れる︒すなわち︑︹1 2︺ω巴○讐事件で ︵溺︶. 霞窪8嘗普事件では︑. ︵塑. ︹7︺09島拐事件では当該事情は周囲の状況より﹁両当事. は︑ガス管の地役権の公示が誰しもが等しく見ることのできる郡の公的記録に登録されていて︑当該事実が︑買主. を含む﹁注意力ある者が見ることができる﹂こと︑ ︵餅︶. 者が平等に入手可能なものである﹂ことを理由とされたのである︒また︑︹13︺O一σω自<. 一〇九. 売買対象となったビールパーラーの営業を不法とする町の条例が契約交渉中に成立したことにつき︑当該条例の存 ︵m︶ 在は︑条例の内容の佳質上﹁その地域において一般に知られ議論されたことである﹂︑すなわち誰しも等しく知る ︵㎜︶ ↓塁一輿事件では︑代金の前払を要求してく ことができるものであることを理由に開示が否定され︑︹14︺○簿8. アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
(30) 早法七二巻三号︵一九九七︶. 一一〇. ︵皿︶ るような会社の財務状況が悪いことは︑当該当事者が熟練した事業者であれば﹁情報を知る手段を有していた﹂と. ︵聡︶. ︵巫︶. ︵価︶. 言えることを理由に開示が否定された︒いずれも︑両当事者は当該情報に平等にアクセスできるからこそ︑当事者 ︵m︶ 自身がその情報を知るよう求められたのである︒他にも︑錆び付いた階段が存在すること︑売買目的地が大洪水の. 生じやすいところであること︑雇用場所が雪崩の起きやすいところであること︑所有地の側を鉄道が走ること等多. くの事柄に関して開示義務が否定されている︒確かに︑不開示を許された事実の中には︑一見すると︑開示すべき. と思われるものもあろう︒しかし︑具体的な事実関係の下では︑例えば︑開示されなかった当事者もその情報に通. じた専門的な者であったり︑当該地域ではその事実が﹁噂﹂として存在し多くの人の知るところであったり︑両当. 事者が当該情報に平等にアクセスし得たとの判断を裏付ける個々の事情が内包されていることに注意すべきであ る︒. 逆に︑開示義務が課された判決例には以下のものがある︒ ︵那︶ 例えば︑︹15︺ω冒o房く・国く嘗ω事件では︑売買目的物たる家が水の供給を一日のうち半分しか受けられない状 ︵m︶ 況にあること︑︹16︺目置巨四且竃9象↓轟漢8吋09ダ国亀薯箏事件は︑売買目的地の地下に水泳プールが埋めら ︵麗︶ れていること︑そして︑︹17︺Ω壁ω費ダ↓蝉覧9事件では︑売買目的地の地下に瓦礫が埋められていることを︑売 ︵珊︶. ︵㎜︶. 主は買主に開示することが求められた︒また︑売買目的物たる家が後に崩れ落ちるほど不安定な地盤の上に立って. いること︑譲渡担保抵当権設定者の地位の引受が未払い利息を支払う責任も伴うこと︑売買目的物たる家に給水す ︵皿︶ る井戸水がバクテリアにより汚染され有害であること等が︑開示するよう売主に求められた︒これらは︑なぜ開示. 義務が課されたのだろうか︒それは︑︹葺︺Ω翌ωR事件判決の中で︑当該事実の発見が︑買主の﹁入念な注意と.
(31) ︵魏︶. 観察﹂を越えるものであると判示されたように︑一方当事者が︑他方当事者よりも情報を容易に知り得る反面︑他. 方当事者は当該情報を発見するのが困難である場合︑すなわち︑スケッペル流に言えば︑両当事者が情報へ平等に. アクセスできない場合であるからに他ならない︒だからこそ︑優位に情報へ平等にアクセスできる者に開示義務が. 課されたのである︒また︑そうであれば︑たとえ開示義務を負う可能性が一般的に低い買主であっても︑売主より. も当該情報へ優位にアクセスできる場合は︑開示義務を負うことになろう︒かかる極めて稀なケースこそ︑前述の ︹8︺ω簿o轟事件であった︒. このように︑確かに︑前述のゴールドファーブの指摘する通り︑売買契約において原則として開示義務は存在し. ないとはいえ︑しかしそうであっても︑当該情報が︑取引の一方当事者がより優位に知り得るもので︑他方当事者. が同じ程度には容易に知ることができないものであるとき︑情報を知っている当事者が当該情報を開示しなければ. ならないということは︑判決例において繰り返し現れている︒﹁契約若しくは取引の一方当事者が︑より優位な知. 識︑つまり他方当事者の公平で合理的に手の届く範囲にないもので︑かつ合理的な注意を行使しても他方当事者が. 発見できないような知識を有する場合︑又は両当事者にとって同様には利用できない知る手段を有する場合に︑そ ︵鵬︶ の一方当事者は話す﹃法的な﹄義務を負う⁝﹂のである︒. なお︑スケッペルによれば︑この﹁情報平等アクセスの原則﹂は︑以上の単なる沈黙が伴われる場合の他︑詐欺 ︵以﹀ 制度全体を説明する理論としても有用であると主張される︒すなわち︑積極的な不実表示︑秘匿︑又は半分真実が. 伴われた場合︑及び︑開示義務の一類型である︑従前になした陳述が後に不実表示となったことを当該表示者が知. 一二. りながら訂正しない場合︑それらが詐欺となることはいずれも﹁情報平等アタセスの原則﹂より説明することがで アメリカ契約法における開示義務︵二・完︶.
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