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は じ め に

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Academic year: 2021

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は じ め に

本書は,材料科学を修めようとする大学生や,材料工学分野で活躍している若 手研究者を対象に,量子論に基づいて物質の電子構造を理解してもらうことを目 指して執筆したものである.

核反応を除く物質のすべての物理的・化学的性質は,その中に存在する原子核 と電子の挙動がわかれば理解できる.また通常,原子核は電子よりもずっとゆっ くりと運動しているため,原子核の位置を固定して電子の運動だけを取り扱うと いう近似を行うことができる.つまり,物質の物理的・化学的性質や挙動を理解 することと,その物質の電子状態や挙動を理解することは,全く等価である.し かし電子の振る舞いは,私たちが直感的に理解しやすいニュートンの運動方程式 に支配されるのではなく,シュレディンガー方程式によって記述される.した がって,波動関数や電子密度といった私たちに親しみがなかったものを駆使しな ければ正確に取り扱うことができない.この波動関数や電子密度を理解するに は,普通のニュートン力学の世界に生きている人には,それなりのトレーニング が必要である.しかし,この概念に慣れてしまえば,シュレディンガー方程式に よって記述される世界は,むしろ明快であることも理解できるだろう.

材料科学分野は,20 世紀後半に熱力学・統計力学に立脚して発展した.これ と並行して,物質の構造を様々な実験的手段により解析し,構造と物理的・化学 的性質とを結びつける学問体系も整備された.21 世紀に入り,計算機とその利 用技術に大きな進歩があり,物質の電子構造を,実験で得られる経験的情報なし に,第一原理計算と呼ばれる手法によって定量的に評価することが可能となっ た.この分野の進展は急速であり,第一原理計算結果を熱力学・統計力学と結び つける応用研究も盛んになってきた.先端的な材料科学研究では,第一原理計算 を活用することが不可欠といっても過言でない状況となっている.すでに 5 万件 を超える既知の無機結晶について,その電子構造や生成エネルギーなどの計算結 果がデータベース化され,研究者が利用できるようになっている.データ科学を

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活用した新物質探索や材料設計も現実のものとなりつつある.本書の企画を始め たのは 10 年以上も前であるが,そのときには想像もできなかった大きな進歩が 見られている.

本書は,京都大学工学部物理工学科材料科学コースにおいて 3 回生以上を対象 に行ってきた講義内容を基に,成書化にあたって内容を補完したものである.電 子を記述するためのシュレディンガー方程式の導出からはじめ,孤立原子,単純 分子について解説したあと,結晶の電子構造について述べた.そして最後に,第 一原理計算を材料科学へ応用するための流れについて概説した.これまでに出 版された多くの入門書は,一般的な量子力学,分子を中心に解説した量子化学 と,結晶を中心に解説した固体物理学とに分類される.本書では,原子,分子か ら結晶までを一連の流れとして記述することを目指し,さらに材料科学に応用す ることも強く意識したため,類書にない構成となった.理解の助けとするため に,とくに前半部では,例題とその解説にページを割くようにした.諸君の学習 の助けになれば幸いである.

本書の内容を深く理解するには,多くの参考書にあたることを薦める.初学者 にとって,図書館や書店で実際に手にとって,自分と相性のよい本を見つけるこ とは大事である.次ページにリストした参考書以外にも多くの優れた書物がある と思う.

本書の執筆にあたり,京都大学を中心とした多くの同僚や学生のコメントやサ ポートをいただいた.いちいちお名前を上げないが,深く感謝を申し上げたい.

また第 9 章と第 10 章に示したバンド計算と作図の労をとっていただいた東後篤 史博士と日沼洋陽博士にも謝意を表したい.

2017 年 9 月

著者を代表して

田中 功 は じ め に

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