九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
高速な収束性を有する適応アルゴリズムとエコー キャンセラーへの応用に関する研究
木許, 雅則
九州大学システム情報情報工学
https://doi.org/10.11501/3166859
出版情報:Kyushu University, 1999, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
高速な収束性を有する適応アルゴリズムと エコーキャンセラへの応用に関する研究
2000 年 2 月
木 許 雅 則
目 次
1 序 論 l.1 背尽
3 3 l.l.1 適 応 ア ル ゴ リ ズ ム .• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 3 l.l.2 マルチチヤ不ルエコーキャンセラ .• • • • • • • • • • • • • •• 6 l.2 論 文 の 概 要 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • " 8
2 適応アルゴリズム 10
2.1 まえがき.• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 10 2.2 パ ラ メ ー タ 推 定 問 題 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 10 2.3 典型的なアルゴリズム • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 13 2.3.1 LMSアルゴリスム • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 14 2.3.2 RLSアルゴリスム • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 15 2.3.3 LMS‑Newtonアルゴリスム • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 17 2.3.4 ア フ ィ ン 射 影 ア ル ゴ リ ズ ム .• • • • • • • • • • • • • • • • • •• 18 2.4 ブ ロ ッ ク 信 号 処 理 .• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 22 2.5 適 応 ア ル ゴ リ ズ ム の 適 用 例 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 24 2.5.1 適応ノイズキャンセラ • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 24 2.5.2 自動等化器 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • •• 26 2.5.3 適応エコーキャンセラ • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 27 2.5.4 アクテイブノイズコントロール .• • • • • • • • • • • • • • • • 30
2.6 むすび 宇 31
3 準最適ステップゲインを用いた BlockLMS‑Newtonアルゴリズム 32 3.1 まえカfき.• • • • • • • • • • . • • • • • • • • • • • • . • • • • • • • •• 32 3.2 問 題 の 定 式 化 .• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 33
3.3 提案するアルゴリズム 字 会 38
3.3.1 アルゴリズムの導出 38
3.3.2 演算量の軽減 40
3.3.3 演算量の比較 ‑ ・ 43
3A 具体例 . ‑ ・ ・ 43
3.4.1 シミュレーション条件 ‑ ・ ・ ・ 43 3.4.2 シミュレーション結果 4‑‑1
3.5 む す び . ‑ ・ ・ ・ ・ ・ 47
4 全チャネルの入力情報を用いたマルチチャネルエコーキャンセリングアルゴ リス、ム
4.1 まえがき
4.2 線形結合形マルチチャネルエコーキャンセラ.
4.3 提案する手法
4.3.1 アルゴリズムの導出 4.3.2 演算量比較
6
6 8 2 2 5 7 5 5 5 6 6 6 6 4.4 J~- イ本例
4.4.1 シミュレーション条件 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 67 4.4.2 シミュレーション結果.• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 68 4.5 む す び .• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 69
5 有色信号入力時におけるステレオエコーキャンセラの係数収束特性 77 5.1 まえカすき.• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 77 5.2 LMSを用いた線形結合型ステレオエコーキャンセラ.• • • • • • • • • 78 5.3 係数誤差の収束特性 • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 80 5.4 む す び .• • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 83
6 結論 84
謝 辞 86
参考文献 87
第 1 章 序 論
現存,ディジタル信号処理は,音声,画像,通信,医用,メカトロニクス,計測 等さまざまな分野のシステムを実現する上での共通基礎技術として不可欠なもので あり,それに伴い多くの応用技術が研究されている.中でも適応信号処理はマルチ メディア,モバイルといった今後一層の発展が期待される通信系分野において高品 質な通信を行うために必要不可欠とされる技術の一つである.
本論文では適応信号処理の中核である適応アルゴリズムにおける収束速度の高速 化について検討すると共に,この応用としてマルチチャネルエコーキャンセラ構成 のためのアルゴリズムについて研究を行っている.
本章では,まず本研究を行うに至った背景について述べ,次いで、本論文の概要を 示す.
1 . 1
北同 旦泉1 . 1 . 1 適応アルゴリズム
近年,半導体技術の進歩は著しく, VL81(Very Large 8cale 1ntegration)やUL81(Ultra L81)に代表される論理ゲート数が非常に多いディジタル 1Cが開発されており,そ の集積度は今後よりいっそう高密度になると予想される [1].
ディジタル信号処理 (D8P: Digital 8ignal Processing) [2] rv [11]は音声など比較 的周波数帯域の狭い分野で利用され始めたが,その後1Cl口│協の集積度拡大に伴い, 従来実時間処理が困難であった複雑な処理(短時間での多量な乗算・加算などのディ
ジタル演算など)が可能となったことで,通信のみならず画像,情報,市iJ御などの 各種処理,さらには医学,天文学,地震学など多くの分野で適用されている [12][13].
さらに,近年におけるマルチメディア技術 [14]の発達は,ディジタル信 号処理技術 の進展に負うところが大きく,また逆にこのことがさ らにディジタル信 号処理技術 の発展をうながすことにもなっている.
ディジタル信号処理の基本的技術の例としては スペクトル分析とフィルタリン グをあげることができる.
ディジタル信号 処 理 で の 要素技 術 の aつは,従来のアナログ的手法では│木│難で あった胤波数分解能の高いスペクトル分析を高速かつ高精度で実行することである.
これは,離散フーリエ変換 (DFT:DiscreteFourier Transfonn)を高速フーリエ変換 (FFT:Fast Fourier Transform)により実行することで可能となった.
また, FFTはDFT計算だけではなく他の変換 (ウォルシュ.アダマール変換など) の高速計算にも利用可能であったり, 一二つの信 号の畳み込み演算の高速化にも適Jlj できるなど多くの応用を持つ.このため, FFTはディジタル信号処理の分野では非 常に重要な要素技術である.
また,ディジタルフィルタは画像情報処理 (パターン認識,パターン計測, I町像 修正,強調,ホログラフィなど),医療 用 断層写真,音 声・音響信号の分析・認識・合成
など実用例は多種多機である [15].
ところで上記の情報処理システムでは, 信号処理システムに要求される特'If]:は設 計の際に既知で、あると仮定している.また,設計したシステムの特性,およびシス テムの特性を規定するパラメータ値は設計値のまま固定されており,処理対象信号 などの特性によって変化することはなかった.すなわち, 上記のシステムは同定さ れた特性を持つ信号処理システムである.
これに対しシステムを設計する際,システムに要求される特性を完全に規定でき ない場合がある.例えば時間と共にシステムの特性が変動する場合などがそうであ る.このようなシステムを対象とする信号処理では,固定的な信号処理システムで は十分に対応できない.
信号処理システムの先験的情報が既知で、ない場合には,信号処理の過程で処理シス テムをある基準のもとで最適となるように逐次修正することが必要となる.信号の処 理過程で必要に応じてシステムの特性を変化させる機能を備えた信号処理を適応信号 処 理 (AdaptiveSignal Processing)と呼び,そのシステムを適応フィルタ (Adaptivc Filter)と呼ぶ.
適応フィルタは,未知システムの入力信号と 1']‑1,力信号から 未知システムのパラ メータを逐次的に推定するものであり,未知システムの出力と適応フィルタの出力 との二乗誤 差を最小にするよう適応フィルタのパラメータを更新する.
ディジタル信号処理の研究初期には,
W i e n c r
規範による干均 :乗誤差を最小とす る最適フィルタ( W i e n e rf i l t e r ) [ 1 8 ]
が確立されたが,これは信号の定常性と観測が無 限にできるという仮定に基づいており,先験的に統計的な性質が必要となる.すな わち先験的に統計的な性質が得られない場合,ウイナーフィルタはもはや最適では ない.この場合 適応フィルタが必要となる.適応フィルタは,何らかのアルゴリズムを用いて係数を修正する機能,いわば A
種の学宵機能を持つインテリジェントシステムと位置づけられる.このための係数 修正をになうアルゴリズムは一般に適応アルゴリズムと呼ばれ 適応フィルタの'1''1: 能を決定づける最も重要な部分であり,アルゴリズムの導
H J
は電要な問題のひとつ である.適応信号処理は
1 9 6 0
年Widrow
とHo
圧により研究が始められて以来,ディジタ ル通信の分野で雑音除去,自動等化などの重要な位置をr4めるようになってきた.Widrow
とH o f f
は適応スイッチング回路の研究でW i d r o w ‑ H o f f
のLMS
アルゴリズ ム( L e a s t Mean S q u a r e A l g o r i t h l n
,以下LMS
アルゴリズム)とよばれる適応アルゴリズムを提案している
[ 1 7 ] [ 1 9 ] . LMS
アルゴリズムは最急降下法に基づいたか式で、 あり, 二乗誤差を小さくするようにフィルタ係数を修正する.また推定すべきパラ メータの伺数を Nとすれば, 1 サンプルと~たりの演算量は O(N) であり,特に演算 ーが少ないことで現在もなお代表的なアルゴリズムとして用いられている.1 9 6 7
年には野田と南雲により学習同定法が提案されている[ 2 0 ] [ 2 1 ]
.学習同定法 はLMS
アルゴリズムの係数修正項をフィルタの入力ベクトルのノルムで正規化し た も の で 別 名 正 規 化LMS(NLMS: N o r m a l i z e d LMS)
アルゴリズムともよばれてい る.このアルゴリズムは演算量の点においてLMS
アルゴリズムよりやや劣るもの の収束特性や演算量などのバランスから優れた適応アルゴリズムである.両アルゴリズムは信号の統計的性質が未知の場合 あるいは推定すべきパラメー タが時間とともに変動する場合でもパラメータの推定が可能であるという特徴をイf
している. しかしながら,有色信号が人力された場合,両アルゴリズムは収束速度 が著しく劣化するという欠点をもっ.
ー方,入力信号が有色である場合でも高速な収束特性をポすアルゴリズムとして,
逐次最小て乗 法
( R e c u r s i v e L e a s t S q u a r e
,以FR L S ) [ 2 2 ] [ 2 3 ]
がある.RLS
アルゴリ ズムは現時刻までに得られた平均二乗誤差を最小にするフィルタ係数を逐次的にぇ!と めながら最適係数を解く方法である.RLS
アルゴリズムは対象となる信号の定常性 とエルゴード性の仮定の下に成り立っており,未知システムのパラメータが変動し ない場合,RLS
アルゴリズムはカルマンフィルタ( K a l m a nf i l
民r)[24]rv[26]と等価となる [27]. カルマンフィルタはウイナーフィルタにおけるパラメータ推定珂論を時 間領域内で再構築した手法であり信号の定常性を必要としないなど ウイナーフィ ルタにみられない長所を有し,これまでに多くの研究がなされている [28].RLSア ルゴリズムは lサンプル当たりの演算量はNの二乗に比例 (O(N2))するためハード ウェア化は困難で、あるが,未知パラメータが時間的に不変で、ある場合非常に良好な 収束特性を示す.このように演算量の軽減化と収束速度の高速化は一般にトレード オフの関係にあるといえる.また RLSとほぼ等価なものとして LMS‑Newtonア ルゴリズムと呼ばれるアルゴリズムもある.
ところで,適応アルゴリズムの応用に関する適用例はノイズキャンセラ,
r i
動等化 器など従米より数々報告されており [33]~[41 J,これらの応用に際しては,特に有色 信号入ノユ時でも良好な収束特性を示し,少演算量で、ハードウェア構成が容易で,か つパラメータの変動にも十‑分追従できる適応アルゴリズムが望ましい.と記の演算量の軽減と収束速度の高速化という要求を効果的に解決する手法とし てブロック適応信号処理がある.入力信号のブロック化に基礎をおくブロック適応 信号処用は,ブロック単位で最適なフィルタ係数を求める方式である.Clarkらは,
LMSアルゴリズムにブロック処理の概念を導入した BlockLMSアルゴリズム [30] を提案し,これがLMSアルゴリズムの特性をある程度維持し,かつ実行が速いこと を示している.また BlockLMSアルゴリズムは LMSアルゴリズム同様,人)]され る信号によって収束速度が劣化することから,収束速度を改脅した手法がMichcal らにより提案されている [31].
方,復数の入力信号を処理速度の高速化に利用するのではなく,収束速度のIflJ に利用したのが雛元,前川の提案した拡張された学習同定法,尾関,悔廿jが提案 したアフィン射影算法 [32]である.両手法は多次元部分空間へのl庄交射影演算に法 づいた算法であり,有色信号入力時でも高速な収束特性を得られるがRLSと同機に 1サンプル当たりに要する演算量が非常に多いという問題点がある.
以上,様々な適応アルゴリズムが提案されているが,従来法に対しては収米の更 なる高速化,演算量の軽減などいまだに多くの改善要求がある.
1 . 1 . 2 マルチチャネルエコ ーキャンセラ
近年テレビ会議システムなどに代表されるマルチチャネルシステムの開発が活発 に行われているが,これらのシステムに対しても適応アルゴリズムは有用である.
マルチチャネルシステムでは エコーの存在が重要な問題となっている.例えばマ
ルチチャネルシステムの代表的な例であるテレビ会議システムにおいてエコーが発 生した場合,エコーにより[引骨な議事進行が妨げられる.このためマルチチャネル システムに対応しうるエコー消去法は必要不可欠である.
ヒ記の要求に対して, 1985年に藤井と島田が線形結合形マルチチャネルエコーキャ ンセラ [53]を提案しており,これまでにこの構成に基づいた機々な手法が提案され ている [54][55] なかでも, LMSアルゴリズム [17]を用いた MC‑LMS (M ul tichannel Least Mean Square)アルゴリズムは,係数修正のための演算量が少なくハードウェ
ア構成が容易で、あることからjよく知られており,代表的なマルチチャネルエコーキャ ンセリングアルゴリズムの一つである [54]. しかし任意の一つのエコーパスの推定 .に着目すると, LMSで の フ ィ ル タ 係 数 更 新 は , つ の エ コ ー パ ス に 対 応 し た チ ャ ネ ルの入
J J
信号しか用いておらず,他チャネルの入力信号情報が考慮されず収束速度 が遅いという欠点がある.一方,前述の尾関らにより提案されたアフィン射影算法 [32]は,入力が単チャネ ルの場合高速な収束速度を持つが, (形式的に)マルチチャネルエコーキャンセリン グアルゴリズムとして適用した場合には,各チャネル間の人力信号の相関情報が利 用されず収束特性が劣化することが文献[56]でJ.Benesty等により指摘されている.
また,藤井等によって提案されている手法 [57]も各チャネルの人力信号電力の
l E } J i
化を行っている工夫は兄られるが基本的には形式的にマルチチャネル化されたアフィ ン射影算法の範障害であるといえる.
J.Bencsty等はこれらの欠点に対する改善策として MC‑APA(MultichanclAffine Projection Algorithm) [56]を提案している.MC‑APAは, 一つのエコーパスに対応 するエコーキャンセラの修正方向ベクトルが他チャネルの入力信号ベクトルが1反る 部分空間と直交するように係数を更新するものである. しかし,この手法は原理的 に問題点が多く,入力信号の性質により収束速度が大きく庄右されるなど,優れた 手法とはいえない.
このようにマルチチャネルエコーキャンセリングシステムでは,他チャネルの人 力信号の情報及びチャネル聞の相関情報などの人力情報を有効に利用することで良 好な収束特性が得られるアルゴリズムの開発が期待される.
線形結合型エコーキャンセラでは,各チャネルのエコーキャンセラの係数が求め るべきエコーパスのインパルス応答と一致しない, 係数の不定性"と呼ばれる問題 がある [59].適応フィルタの係数とエコーパスのインパルス応答が等しくなくても エコーは消去出来るが,エコ一パスが変動せず一定である場合でで、も入力イ信言号の特
v
が変化するだけでエコ一消去量が著しく劣化する.この問題は各チャネルの入力信
号問の強い相関が原因であり,改善手法が幾つか提案されているが根本的な解決は なされていない [55][59
卜
係数の不定性の問題に関連して平野と小池はエコーキャンセラの係数収束性を解 析的に示している [60].平野らは,入力信号を白色信号とし,エコーキャンセラの係 数更新にLY1Sアルゴリズムを用いることを仮定し解析を行っている.解析では,エ コーキャンセラの係数収束値が,入力信号の拡大共分散行列の非Jf則性により エ コーパスのインパルス応答と ー致せず人力信号の遅延,減戻の量,係数の初期似に 依存する別の値に収束することを示している. しかし 一般 に 入)J信号は,音声を代 表とする有色信号であり,白色信号を仮定した予野らの解析 [60]は 一般性に之しく,
より一般的な解析が必要である.
以
L
一般的適応アルゴリズムおよびマルチチャネルエコーキャンセラでは高速 な収束および少演算量が望まれ,またマルチチャネルエコーキャンセラでは係数の 不定性という特有の問題が生じる.本論文では, 一般的適応アルゴリズムおよびマルチチャネルエコーキャンセラに 要求される高速な収束および少演算量の実現を目的にまず,パラメータのl白:疑的距 離を評価量とした高速な収束速度をもっブロック適応アルゴリズムの提案,次に入 力信号データを有効に利用することで高速な収束速度をもっマルチチャネルエコー キャンセリングアルゴリズムの提案を行い,最後にマルチチャネルエコーキャンセ ラにおける重要な問題である係数の不定性について言及する.
1 . 2 論文の概要
第 2章では,適応信号処理の基礎であるパラメータ推定についての説明を行い,
以後の議論を行う準備として典型的な適応アルゴリズム及びブロック信号処理の説 明を行う.また適応信号処理の適用例として,適応ノイズキャンセラ,自動等化器,
適応、エコーキャンセラ,アクテイブノ イズキャンセラのモデルをJt
J v ¥
て適応信号処 理の必要性及び有効性について述べる.第 3章では,ブロック処理を適用した LMS‑Newtonアルゴリズム(以下, Block LMS‑Newtonアルゴリズム)に対して準最適ステップゲインの原理を適用した新し いアルゴリズムを提案する.Block LMS‑N ewtonアルゴリズムを合む従来の手法は,
出力誤差の二乗和が最小となるように係数を更新している.システム同定などの未 知系,推定系それぞれの係数の直接的距離を最小にすることが要求される場合では,
従来の手法は必ずしも求めるべき未知系係数から見て最適な係数修正を行つてはい
ない.本章で議論する准最適ステップゲインは,係数更新毎に推定系係数から未知 系係数への距離ベクトルを係数修正ベクトルへ射影することにより得られる.つま り,係数更新毎に未知系,推定系係数の│直後的距離に基づいた係数修正
h
・向ベクト ル上の点を決定する.また本アルゴリズムの性能を評価するために Block L:MS‑r¥ ewtonアルゴリズム 及びDinizらにより提案された可変ステ yプゲインによる手法 [50]との比較検討を 行い, ノドアルゴリズムの優位性を示す.
第4章では,線形結合形マルチチャネルエコーキャンセラに対応した高速な収*
速度を持つアルゴリズムを提案する.従来法は 一つのチャネルの係数更新に対して そのチャネルに対応した人力信号しか用いておらず他チャネルの入力信号情報及び 各チャネル聞の相互相関の情報が利用されていない.J.Benestyらによりこれらの問 題を対処した手法として MC‑APAが提案されているが,この下法は多大な演算出;
を必要とし,かつ他チャネルの入力信号ベクトルが張る空間の直っと成分しか探索し ないという問題点がある.本章で議論する子法は, 一つのチャネルの係数更新に対 して全チャネルの入力信号空間を探索することを基礎としている.また,各チャネ ル間の相関行列全てを係数修正に利用することで有色信号入)j時においても高速な 収束速度,および高い推定精度が得られる.さらに提案法は MC‑APAと比較しがJ
1/5以下の少ない演算量で実行可能である.計算機シミュレーション及び演算泣の 比較により本手法の優位性をポす.
第5章では,線形結合形エコーキャンセラの重要な問題である 係数の不定性"
の問題に関連した千野らの解析に対して,入力信号が有色信号の場介の解析を行う.
日リ節でも述べたが平野らの解析は白色信号を対象としており 入力信号が 一般に 有色信号であることを考慮するとこの解析は一般的ではない.本章では,平野らと 同じモデルの基で入力信号が有色である場合の解析を行っている.入力信号の拡大 共分散行列の非正則性が白色信号入力の場合と同様であることをぷし,係数の誤差 が一般には Oにならないことを示す.また拡大共分散行列の│倍数の上限についても 述べる.
最後に第6章では,本研究のまとめを行い,今後の課題について言及する.
第 2 章
適応アルゴリズム
2 . 1 まえがき
ノド章では,以後の議論に必要な準備を行い,適応信号処理での基従的概念である パラメータ推定について述べる.次いで基本的な適応アルゴリズム及びブロックイIi
7j"処理の概念について説明するとともに,適応信号処理の応用例として適応ノイズ キャンセラ,自動等化得,適応エコーキャンセラ アクテイブノイズキャンセラの 必要性を述べる.なお,本論文を通じて (Nxγ)の行列φをφN,n (N x 1)のベクト
ルbをbN,行列あるいはベクトルの転置をけTと表記する.
2 . 2 パラメータ推定問題
ある未知システムの入出力データから,その未知システムのパラメータを適応的 に推定する,いわゆる学習機能を持ったディジタルフィルタは適応フィルタとn乎ば れ,エコーキャンセラ,日動等化器,ノイズキャンセラ アクテイブノイズコント
ローラ等に応用されている.適応フィルタの学習機能部は適応アルゴリズムと11ヂば れ,適応フィルタの性能を決定する重要なものとして多くの手法が提案されている
[19] [20] [29] [30] [31] [32] [45] r'V [52].
本章では,まず適応フィルタの基本的概念であるパラメータ推定問題について説 明する.本論文では,
仮 定2.1 未知システムは線形FIR(有限インパルス応答:Finite Impulse Response)型で,かっその次数Nは既知である.
と仮定し議論を進める.
図2.1にパラメータ推定のモデルを示す.凶中の x(k)は時刻 kでの人jJ信 号 ,d(k)
は未知システムの出力信 号,y(k)は適応フィルタの出力信号,c(k)は出 )j誤差,,t'(k) は観測雑音を表す.適応フィルタは c(k)の情報をもとにして逐次的に適応フィルタ の係数ベクトル hN(k)を史新し,未知システムの係数ベクトル WJ¥,を推定する.す なわち,hN(k)→ WN{k→ ∞ } と す る こ と が 本 論 文 の 目 的 で あ る .
時刻 kで の 入 力 信 号 x(k){‑∞ く た く ∞ } に 対 す る 未 知 シ ス テ ム の 出 力 信 号 (以 下,所望信号と呼ぶ)d(k)は仮定 2.1により次式で与えられる.
人!‑1
d(k)
ニ 乞 州 )
• x(k ‑i) (2.1)i‑O
{D̲し,Nはインパルス応答長, ω(i)(i二 Oγ・.
,
N ‑1)は未知システムのインパルス 応答であり,x( i),ω(i)をそれぞれベクトル表現してxN(k)
全
[x(k),
x(k ‑1), .
. .,
x(k ‑N+
1)]1' (2.2) WN全
lω (0),ω(1)・ ,
1 ω(N‑1)]1' (2.3) とおくと d(k)はd(k) = WNTz
川 k )
で表せる.
方,適応、システムの人出力関係は未知システムのそれと同機に
(2.4)
人T‑1
y(k) =
L
h(i)(k)ゆ ‑
i) (2.5)i=O
AU 五 小
︐8qi 河
川 下 の
ム
玄 小
一 ア
のス
々 ノ
︑ ン
︑ レ
円HH¥I1/
イ 戸
J
改 ん
フ 山 川 づ
>
一
志 り
J K ム
・
7
適 一
F F 1のNソ一
ポ バ 川 一 九
N!? 応
+ 災 一
‑
南 同一
・時
) 7 λ
1lA
出 伏
ハU
1 J 1
i¥
l j
hり'
戸 川 伏 よ
二
h1
︑
? N
' ・1h
‑ 加 山 門 戸 川 町 (
1・
¥ j y / 2
¥ j n U 1 j
‑ L
/ /
l¥戸・︐
K / L
九 い
引 川 ド バ バ 式
ω引
ト て
h p
ム 二 従 日
= る=九
lf vv川︑﹄
ノ
れ 同 る
) μ ρ
ら 川 す 伏
. 1
い
え h義 U
る 仰 い
h
与 定 あ 式 で と
で (2.6)
(2.7)
(2.8) であれば,それぞれのシステムの出力は等しくなる.すなわち,d(k)と
ν
(k)との誤 差 e(k)をe(k)
=
d(k) ‑y(k)= 乞
{ω(i)‑h(i)(k)}x(k ‑i) (2.9)とおくと,式 (2.8)が 成 り 立 て ば
e(k)
=
0 (k三ko) (2.10)逆 に 式 (2.10)が成り立てば式(2.8)が成り立つ.
従って,未知システムのインパルス応答が有限で、,インパルス応答長が既知であ ると仮定すれば,同じ人)Jに対して完全に等しい出力を得る FIRディジタルフィル タが得られる.
ところで仮定 2.1を仮定したが,もし未知システムのインパルス応答が無限に続 く場合,同じ入)Jに対して等しい出力を得る FIRデ ィ ジ タ ル フ ィ ル タ は a般 に 伴 られない.しかしながら,インパルス応答が時間とともに減衰する 一般的システム を考慮するとインパルス応答の‑最初のN個がわかればよい場合も多く存在する.ま た , N を IJJ 能な限り大きくすることで,未知システムとの人 I~I)J 関係に非常に近い
FIRディジタルフィルタを
f
与ることカf可能である.上言己より 未知システムを FIR型と仮定した妥ヨ性が理解できょう.
問題は未知システムの係数ベクトルと FIRディジタルフィルタの係数ベクトルの 距離に関するなんらかの評価量を定義し,それを最小とするようにフィルタの係数 を調整することで未知システムに非常に近いフィルタを得ることである.このフィ ルタを適応フィルタと呼ぶ.
般 に , 係 数 修 正 の た め の ア ル ゴ リ ズ ム を 適 応 ア ル ゴ リ ズ ム と い い , 適 応 ア ル ゴ リズムを含む FIRディジタルフィルタは適応フィルタあるいは推定システムと呼ば れる.
係数修正のために使用する評価量Jはパラメータ推定の目的からいえば,未知lシス テムと推定システムのパラメータの距離を直接評価量とすることが望ましいが 般 に は 未 知 シ ス テ ム の 出 力 に 雑音が加わったものと推定システム出力との差のて来 平均値
J
=
E[{d(k)+
υ(k) ‑y(k)}2]二 E[e(k)2] (2.11)
が評価量として使用される.但し,E[.]は期待値を表す.式 (2.11)に (2.7)を代人 し,評価量Jを適応フィルタ hNに関するて次形式で、表すと
j
=
hJ v
E[XN(k)XN(k)T]hN ‑2hJ v
E[XN(k){d(k)+
υ(k)} ]十E[{d(k)
+
V(k)}2] (2.12)x(k)
「 一
未知システム W
NFIR h N ( k )
ディジタルフィルタ
適応フィルタ
凶 2.1:パラメータ推定のモデル
が得られる.評価量Jを最小にする最適係数ベクトル hN(opl)は,JをhNで、偏微分 しそれを 0とすることで得られる.すなわち,
θJ = 2ElZN(k)ZN(k)TlflN‑2EIZN(k){d(k)+U(k)}l θhN
=
0hN(opt) = E[XN(k)XN(k)T]‑l E[XN(k){d(k)
+
υ(k)} ](2.13) (2.14)
(2.15)
であり,ウイナーホッフの解とよばれる.但し ,E[XN(k)XN(k)T]の正則性を仮定し た.また,このとき入力信号x(k)と観測雑音υ(k)が無相関と仮定すれば,hN(opt) は
W
Nと一致する.しかしながら,ウイナーホッフの解を用いるには平均操作と逆行列演算が必要と なり実時間処理には不向きである.
2 . 3 典型的なアルゴリズム
本章では, 一般的に知られる典型的適応アルゴリズムを数種説明する.イLlし,以 下では雑音υ
( k )
は存在しないυ(( k ) =
0)と仮定し議論を進める.』
図 2.2:Jに関する等高線
2 . 3 . 1 LMS アルゴリズム
まず,最も代表的なアルゴリズムである
LMS
アルゴリズムについて説明する.LMS
アルゴリズムは,W i d r o w
らによって提案された瞬時日乗誤差 e(k)2を評価註 とした最急降下法に基づく手法である.以下,最急降下法について簡単に説明する.式 (2.11)のJに関する任意の hNにおける勾配ベクトルを
9N 二 2E[XN(k)XN(k)T]hN‑2E[XN(k)d(k)] (2.16)
とする.図2.2は最急降下法による
N=
2の場合のパラメータ更新のようすを係数 ベクトル hN(j)(j=
0,1,2,・ー)に関しての等高線上で示している.イ旦し, hN(j)は hNの j番目の修正値である.gN(j)は係数 hN(j)における勾配ベクトルであり,等 高線ヒの法線方向を向いている.図より,任;童の点hN(O)を初期値とすれば, hN(O)を‑gN(O)方向に移動することで hN(l)でのJをhN(O)でのJより小さくできること が分かる.すなわちJが小さくなる方向に進むことにより hN(j)を
W
Nに近づける ことができる.以上を考慮すると係数修正式はhN(j) 二 九N(j‑1) ‑μ(j)gN(j) (2.17)
となる.但しμ(j)はステップゲインと呼ばれるスカラー量である.
上記のように最急降下法ではパラメータ推定を行うために伝ひの:次統計量(人 力向己相関行列 E[XN(k)XN(k)T
, ]
及び相互相関ベクトルE[x入,r(k)d(k)])が必要であるが,これらの量を用いる場合,実時間処理には適していない.
そこで、式 (2.11)におけるヂ均操作を取り除き,瞬時自乗誤差を評価量 J(k) J(k)
=
[d(k) ‑y(k)]2hN(k)TX
川
k)XN(k)T九へ,(k)‑2hN(k)T xN(k)d(k)+
d(k)2 (2.18) として用いることで実時間処珂への対応を解決した LMSアルゴリズムが提案された.2ド価量 J(k)に対する勾配ベクトルgN(k)は式 (2.18)をhN(k)に関して偏微分す ることにより
9 N ( k )
=
2x N ( k ) X N ( k ) T h N ( k) ‑2x N ( k) d ( k )一 一2XN(k)[d(k)‑xN(k)ThN(k)]
‑2x八r(k)c(k)
で与えられる.従って LMSアルゴリズムの係数更新式は hN(k
+
1) 二 hN(k)+
μxN(k)e(k)(2.19)
(2.20)
と表される.ここでステップゲインμは入力信号により Oく μ:S;1科度の値を設定 するが, 一般的にその備は経験的に決定されるため選定法が問題となる.式 (2.20) からもわかるように, LMSアルゴリズムは演算量が少なくハードウェアの構成が符 易であるために現在でも広く利用されている.しかしながら人か信号が有色である 場合,収束速度が著しく劣化するという欠点を有している.
2 . 3 . 2 RLS アルゴリズム
入力信号が有色である場合においても比較的高速な収束速度を持つものとして RLS アルゴリズムと LMS‑Newtonアルゴリズムがある.これら 2つの手法は,基本的に 入力信号の自己相関行列の逆行列の推定値を用いて係数を修正する点に共通な特徴 を有している.両者の相違点は,入力信号の白己相関行列の推定法とフィルタ係数 修正におけるステップゲインの有無である.本節では RLSアルゴリズムを例にと
り,その導出及び諸特性について簡単に述べる.
前節で導いた式 (2.16),(2.15)をそれぞれ次式
9
人/ ‑ 2A入,'NhN‑20人fh,rv( opt) 二 AXrlNfJ入「
のように変形する.判し,
A凡N
全
E[XA,(k)xN(k)T]VN
全
E[・x,V(k)d(k)]である.ここで式 (2.21)の両辺に05ALlNを乗ずることにより次式を得る.
0.5ALlN9N=flN‑A
元
1N6Nこの結果に式 (2.22)を代入すると hN(opt) = hN ‑0.5A
f /
N9N(2.21) (2.22)
(2.23) (2.24)
(2.25)
(2.26) となる.式 (2.26)から分かるように任意の hNに対して 1回の計算で WNを求める ことができる .(但し,観測雑音が存在しない場合) しかし,式 (2.26)を実行する ためには入)J信号等の;次統計量が必要となり実時間処理が非常に凶難である.さ らにこれらの統計量も推定量しか分からないので式(2.26)は直接には使えない.そ こで,この統計量を逐次的に推定しつつ hN を少しずつ修正しながら最終的に W に収束させることが考えられる.時刻 kの時点での自己相関行列の推定値,勾配ベ クトルの推定値を AN,N(k),gN(k)とし式 (2.26)の代わりに
川 十
1)二川
)‑jANN(山 八
1(k) と修正される.(2.27)
ここで式 (2.27)における AN,N(k)‑lの計算法を求めるために行列 AN.Nの推定法 を考える.過去の信号が l
R
同程度で忘れ去られると仮定して行列 AN,N(k)を次式 で定義する.AN,N(k)
T
R 一αAN,N(k ‑1)十xN(k)XN(k)T
。 く
α<1 α(2.28) (2.29) 伺し, αは忘却係数と呼ばれる量である.式(2.28)より,十分良い AN,Nの推定値が 得られるとすると,これに次式で表される逆行列の補題 (MatrixInvcrsion Lemma)
中 一 1 . 1 A ‑1 bbT A‑1 (A
+
bbJ ) ムニ A‑1ー ャ1
+
bT A‑1b (2.30)』
をA=αA人
T J y . ( k‑
1) 、 b 二 X~\,( k )
として用いるとsN(k) 二 AN,N(k‑l)‑lXN(k) (2.31)
( A (
1̲ 1 ¥ ‑1 S N (k) S N (k) T ¥ANN(k)‑1二 一
α ¥
(AVN(ic‑1)‑‑
‑CY,α +
xN(k)T sN(k))i
(232)が得られる.これにより,AN,N(k)‑lを逆行列の計算なしで逐次的に求めることが できる.式 (2.31),式 (2.32)の 更 新 に は 初 期 値 AN,N(O)‑lが 必 要 と な る . 初 期 値 AN,N(O)‑lをここでは次式で与える.
Am(0)‑1=L N N 7 σ 2 = E[XN(k)2]
(J'‑'
σ2は人力信号電力の、
F
均 で,IN.Nは N次単位行列である.(2.33)
しかしσ2を得ることは AN.Nと同様に困難であるため,これに見合う適当な値が 必要となる.この値を Cとすると Cは,10‑5程度の定数を川いることが 一般的であ る. しかし本更新法は初期値に大きく依存するため,扱う人)J信号にLt¥じて Cの値 を変える方が望ましい.
次に式 (4.21)で必要とされる 9Nの推定値 9Nを次式で表す.
θe2
( k )
伽 (k)= ~I- ';:/¥ = ‑2e(k)xN(k) θhN(k)
以上より,式 (4.21)は最終的に
hN(k十 1)
=
hN(k)+
e(k)AN,N(k)‑lxN(k)(2.34)
(2.35)
と変形される.式(2.35)がRLSアルゴリズムにおける重み係数修正の式である.こ のように, RLSアルゴリズムは係数修正に対して入力の自己相関の逆行列を用いる ことで入力信号を白色化する作用がある.そのため有色信号入力時においても高速 な収束速度をもっ.しかしながら,O(N2)の多大な演算量 が必要であり実用的には 困難である.
2 . 3 . 3 LMS‑Newton アルゴリズム
RLSアルゴリズムで、はAN.Nの推定値を式(2.28)により定義していた.これを LMS‑
Newtonアルゴリズムでは確率近似法に基づき次式のように定義する.
AN,N(k)
=
(1 ‑s)AN,N(k ‑1)+
sXN(k)XN(k)T {Oく3
く 1} (2.36)その後の操作は前節の RLSの場合と同様に逆行列の補題を用いて ANN‑1の算出を 逆行列演算なしで逐次的に行う.係数更新式については RLSアルゴリズムとほぼ同 様であり,差異はステップゲインの付加のみである.このようなことから RLSアル
ゴリズムは LMS‑Newtonアルゴリズムの範憶とみなすこともできる.
』
2 . 3 . 4 アフィン射影アルゴリズム
2.2では,未知システムのパラメータを推定することの重要性を述べた.パラメー タ推定では,入力信号の相関度が高い場合収束特性は大きく劣化する.これに対し人 )J信号が有色の場合でも高速な収束特性を得られるアルゴリズムとして,雛元らとj
己
関らは入
J j
信号ベクトルの張る部分空間に対するl E
交 射 影 演 算 に 法 づ い た 適 応 ア ル ゴリズムを提案している [29][32].これらの幾何学的図を図 2.3,図 2.4に示す. I可限│はともに二次のアフィン(2本の入力ベクトルを月jいる)の場合を表している.r刈2.3 のアフィン射影の場合, 真値 ベ ク ト ル W̲vから入力信号ベクトル xN(k),xN(k ‑1)
の張る空間 S[X
川
k),
XN(k‑1)]へ垂直におろした点h入r(k+1)が適応フィルタの係数 となる.このとき学習│司定法の係数ベクトルは,ベクトル[ W
八・‑ hN(k)]をイlfUベクトルxN(k)に直交射影した点であり,凶より明らかにアフィン射影アルゴリズムの係 数ベクトルの方が学習│司定法のそれよりも真値ベクトル
W
Nに近いことがわかる.他 }j, 拡張された学習同定法は,まず学習同定法と同じくベクトル [WN‑hN(k)]を信ヴベクトルxN(k)に直交射影し(仮にこの点をhN(k+1)とする),次いで信号ベクト ルxN(k‑1)をxN(k)に直交化させ(このベクトルを£入r(k‑1)と置く),最後に先ほ ど直交射影した点 (hN(k+1))からベクトルxN(k‑1)上にベクトル [WN
‑h
N(k+1)] を直交射影した点を係数ベクトルとする.図 2.3,図2.4よりアフィン射影アルゴリ ズ ム と 拡 張 さ れ た 学 習 同 定 法 の 係 数 ベ ク ト ル hN(k+
1)は等しく, 2)J式 は 部 分 空 間 へ の 直 交 射 影 に 基 づ く 等 価 な ア ル ゴ リ ズ ム で あ る こ と が 分 か る . ま た , 本 論 文 で は こ れ ら の ア ル ゴ リ ズ ム を 総 称 し て APA(Affine Projection Algorithm)と呼ぶ.APAは,任志の時刻において適応フィルタの係数を修正するために過去の後数の 入)J信 号 ベ ク ト ル を 使 用 す る.APAはMoore‑Penrose地 一般 逆 行 列 Xr,N(k)Iで 衣 され
hN(k
+
1) 二 九N(k)+
Xr,N(k) ‑Ier(k) と表現できる.伺 し , 人)J状 態 行 列 Xr,N(k)をXr,N(k)
全
[xN(k‑r+
1), xN(k ‑r+
2),・ .,
xN(k)]Tと定義し,所望信号ベクトルdr(k),出力誤差ベクトル er(k)をそれぞれ
dr(k)
全
Xr,N(k)WNer(k)
全
dr(k)‑Xr,N(k )hN(k)(2.37)
(2.38)
(2.39) (2.40)
』
w
入r/ / /
S[xN(k)
,
X川
k‑1)] xN(k) hN(k)' K
N Z /
/ / / /
hN(k
+
1)学習同定法
図 2.3:アフィン射影アルゴリズムの幾何学的図
L...・
' K
N Z /
/
/
/
/
日
、
/
イ
1/
/
xN(k ‑1)
hN(k)
S[xN(k)
,
X川
k‑1)] xN(k)図 2.4:拡張された学習同定法の幾何学的図
‑
1;l
ん
vh八r(k) PN,N(k)[WN ‑hN(k)]
S[Xr,N(k)T]
図 2.5: 直交射影行列による部分空間への I~ 交射影
と定義する.ここで γはブロック長であり 1回の係数修正に用いられる入力状態 ベクトルの数である.すなわち処理はこのブロック長を 1単位として行われる.ま た,rはベクトルのサイズを超えないことを前提としているけ三 N).
ここで,行列 Xr,N(k)の列ベクトルが張る空間 S[Xr,N(k)T]へのl直交射影行列を PN,N(k)とすると,PN,N(k)は
PN,N(k)
=
Xr,N(k)T[Xr,N(k)Xr,N(k)T]‑l Xr,N(k) (2.41)で与えられる.但し,Xr,N(k)の行ベクトルは一次独立とする.図2.5に直交射影行列 による部分空間S[Xr,N(k)T]への直交射影の図を示す.また,直交射影行列 PN,N(k) をMoore‑Penrose型一般逆行列で表すと,
PN,N(k)
=
Xr,N(k) I Xr,N(k) (2.42)......... ー
h l¥: ( k) h l¥' (k
+
1) h .¥' (k+
2) h.'V (k+
3) h .¥' (k+
4) h s (k+
5)I I I I I I I I I t
k k+3 k+6
Z人(k) I xN(k
+
1)' xN(k十2)I xN(k+
3) I x.v(k+
4) I x,¥,(k+
5) hN(k+
3)BLOCK hN(k+
6)BLOCK凶 2.6:ブロ ック信号処理でのデータ運別法
となり, Moorc‑Penrose型叶支逆行列は
Xr,N(k)1 = [Xr,N(k)Xr,N(
げ]
‑1 Xr,N(げ
で表される.すなわち式(2.37)は
hN(k+1) 二 h.v(k)
+
Xr,N(kf' [Xr,N(k)Xr,N(げ]
‑1州 )と表せる.
(2.43)
(2.44)
式(2.44)より,本ノi式は 1サンプルごとに骨文逆行列の計算を繰り返さなければ ならず,ブロ ック長 γが大きくなるにつれてフィルタ係数の修正を行うための演質 量は膨大なものとなる.
2.4 ブロック信号処理
ブロック信号処理とは入力信号ベクトルと所望信号を有限個でブロック化し,そ のデータブロックごとに l回係数ベクトルを更新する方法である.ブロック信号処 理のデータの運用法を説明するために図 2.6にブロック長 γ=3の場合の例を示す.
但し,ブロック長とは lデータブロック内での信号ベクトルの個数である.
LMSなどの従来のアルゴリズムでは図2.6の上側のように 一つの人力ベクトルに 対して 1回係数ベクトルを更新する.これに対してブロック信号処理は,人)J状態、 ベクトルを次式で示すようにパ固ず、つブロック化し それぞれ 1つの入力状態行列 の形にまとめ,この行列を用いて係数ベクトルを 1恒
i
更新する.xhN(k)
全
[xN(k),xN(k+
1), xN(k+
2)]TxhN(k十3)
全
[xN(k+
3), xN(k+
4), xN(k+
5)]T. . . ̲ ー
h八,(k
+
3)BLOCK hN(k+
6)BLOCKk k+3 k+6
xN(k) 'xN(k
+ 1 )
, xN(k+ 2 )
, xN(k+ 3 )
, x,r¥.r(k+ 4 )
, xlv(k+ 5 )
hN(k
+
3)APA h川
hN(k
+
5)APAh
川
k+
6)APA関
2 . 7 : APA
のデータ運用法XnN(L)
全
[xN(k+
3(L ‑1)), xN(k+
3(L ‑1)+
1),
xN(k+
3(L ‑1)+
2)]Tつまり,係数ベクトルhN(k
+
3)BLOCKは入力ベクトルxN(k),xN(k+1), xN(k+2) により得られ,次の修正は3サンプル後であり,修正係数ベクトル hN(k十6)BLOCK は入力ベクトルxN(k+
3), xN(k+
4), xN(k+
5)によって得られる.つまりブロッ ク信号処理は入力状態ベクトルを重複させることなくァサンプルごとに係数ベクト ルを 1回更新する方式である.また,
APA
で の デ ー タ の 運 用 法 を 図2 . 7
に示す.APA
で は , ま ず 係 数 ベ ク ト ル hN(k+
3)APAは入力状態ベクトル xN(k),.'EN(k+
1),及びxN(k+
2)により求めら れる.更に時刻 k+4における修正係数ベクトルhN(k+
4)APAは入力状態ベクトル xN(k+
1), xN(k+
2), xN(k+
3)により得られる.図からわかるように, 2ノドの人 力状態ベクトル xN(k+ 1 )
, xN(k+ 2 )
が重複している.このようにAPA
は1
サン プルごとに 2本のベクトルを重複させながら係数ベクトルを修正してしぺ方式であ り,多大な演算量が必要であることが容易に理解できる.以ヒ,適応アルゴリズム のデータの運用法は, 主にこの3種類に分けられる.また,ブロ ック信号処理における入力データ行列X TN(L)の状態を詳 しく閃/示した ものを図2.8に示す.但し,hN(k
+
3)BLOCKをhN(L十1)と置いている.. . . . . ̲ ー
h N
(Lll)h .
V(L+2)
一一寸
k
k + 3
k十6xN ( k ) xN ( k +
1) z川
k十2)xN ( k +
3)xN ( k
十4) .E,¥'( k +
5)x ( k ) x ( k
十 1)x ( k +
2)x ( k +
3)x ( k
十4)x ( k +
5)x ( k ‑
1)x ( k ) x ( k +
1)x ( k +
2)x ( k
十 3)x ( k +
4)x ( k ‑
2)x ( k ‑
1)x ( k ) x ( k +
1)x ( k +
2)x ( k +
3)x ( k ‑ N + 1 ) x ( k ‑ N ) x ( k ‑ N + 1 ) x ( k ‑ N + 2 ) x ( k ‑ N + 3 ) x ( k ‑ N + 4 )
XけJLL〕 X~ ",(L‑1 1)
r,lV
凶 2.8: ブロ ック信号処聞におけるデータの運用法
2 . 5 適応アルゴリズムの適用例
現在,適応、信号処理の理論は様々な分野に利用されている.本節では,代表的な ものとして適応ノイズキャンセラ 自動等化器適応エコーキャンセラ及びアクテイ ブノイズコントロール(以下,
ANC)
を図を用いながら簡単に説明する.但し K(z), H(z), C(Z)は離散時間伝達関数を表している.2 . 5 . 1 適応ノイズキャンセラ
所望信号が雑音に埋もれているような場合,雑音の影響をできる限り少なくし,
なるべく所望信号に近い信号を得るという信号処理は応用範囲が広く,現在でも研 究が続けられている.
図2.9は適応ノイスキャンセラの基本的なモデルである.もし図 2.9のよう に雑13. だけを観測することが可能であるならば,適応ノイズキャンセラ によってかなり効 率よく所望信号だけを取り出すことが可能である.また,図 2.9は凶 2.10のよう にパ
1........ー
t ' K 一
仇一
仰十一
n
¥
・1一/
1 一vuS一
山 ヒ
. n
ムん 一
P
仔 則 一
十+ ルリ
+ ︽
ne(k) Desired signal
信号
s ( k )
出)J
Reference input
1阻んじフィルタ
H ( z )
騒音 η(k) Noise
図 2.9:適応ノイズキャンセラ
e(k)
y(k)
図 2.10:適応ノイズキャンセラにおけるパラメ ータ推定
H ( z )
二K ( z )
な ら ばk )
=倒的
‑ーーーーー
外乱
v ( k )
│ ト誕百グト
d(k)送信機
ト
図 2.11:ディジタル伝送系
ラメータ推定問題としてとらえることができる.二七入力として,所望信号s(k)と雑 音仇(k)の和,すなわち主入力信号p(k)が入かされるとする.所望信号s(k)が参照 入力に混入しない場合(雑音
n ( k )
と無相関),参照入力 η( k )
に対し適、当な線形処珂 を施し, 主入)J信 号p(め か ら 減 算 す る こ と に よ り 所 望 信 号 s(k)のみを取り出すこ とができる.この場合,推定システムの伝達関数 H(z)と未知システムの伝達関数K(z)が等しくなったとき推定システムの出力信号y(k)と主入力における雑庁ぬ(k) が等しくなり完全に雑音を消去できる.すなわち,あるシステム K(z)の構造が既知│
(FIR型と仮定)であるならば,適応フィルタ H(z)により K(z)のパラメータ(イン パルス応答)を推定することでy(k)を合(k)に近づけc(k)を最小にできる.従って,
図 2.9における K(z)のパラメータ推定が重要な意味を持つことが理解できょう.
2 . 5 . 2 自動等化器
通信を行う際,信号が受信点に到達するまでに,伝送路歪,雑音などの影響を受 ける.このよつな状況下において,信号の劣化を補償するために自動等化器が用い られる.自動等化器では実際に通信を行う前(トレーニング期間)に,先だ、って決め られているパターン,すなわちトレーニング信号を送信する.従って,この期間にお いては送信される信号が予めわかっているので,自動等化器からの出ノユ信号と, ト レーニング信号の差をとることにより 等化器の係数を調整する.図 2.11にディジ タル伝送系の図を示す. 自動等化器もノイズキャンセラ同様,パラメータ推定問題 に帰着する.そのようすを図 2.12に示す.