九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
アーキアと真正細菌に見出された新規DNA修復酵素、
エンドヌクレアーゼQに関する研究
白石, 都
http://hdl.handle.net/2324/1807109
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
氏 名 白石 都
論 文 名 Studies on a Novel DNA Repair Enzyme, Endonuclease Q from Archaea and Bacteria
(アーキアと真正細菌に見出された新規DNA修復酵素、エンドヌク レアーゼQに関する研究)
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 石野 良純 副 査 九州大学 教授 木村 誠 副 査 九州大学 教授 角田 佳充
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
遺伝情報を担う DNA は細胞内外のストレスにより絶えず損傷を生じる。中でも塩基の脱アミノ 化は最も頻発するDNA損傷の一つである。脱アミノ化は生理的条件下の細胞内で常に生じており、
とりわけ一本鎖状態や高温環境下で生じやすい。シトシン、アデニン、グアニンが脱アミノ化を受 けたウラシル、ヒポキサンチン、キサンチンは、DNA 鎖の正常なA:T, G:C の塩基対合を変えてし まい、遺伝子変異の原因となる。遺伝情報の恒常性を保つために、脱アミノ化塩基には主として塩 基除去修復 (Base Excision Repair) が働く。ウラシルの修復機構は盛んに研究がされてきたが、他の 脱アミノ化塩基の修復研究は少ない。本論文は、塩基の脱アミノ化が促進される高温環境下に生息 する超好熱アーキアから、脱アミノ化塩基の修復に関わる新規酵素を発見し、その作用機構と本酵 素の生物界における分布について解析した。
P. furiosus の細胞抽出液中に、DNA鎖中のヒポキサンチン塩基が存在する位置の5′側を切断する
活性が存在することが分かっていたので、本論文では、細胞抽出液から各種クロマトグラフィーに よって濃縮した部分精製画分を高感度質量分析に供した。得られた候補タンパク質を順次組換えタ ンパク質として調製して活性を調べた結果、ホスホエステラーゼドメインに類似した配列を有し、
アーキアの中の近縁種でよく保存された機能未知のタンパク質 PF1551 がヒポキサンチン 5′側の切 断活性を示すことを明らかにした。また、P. furiosus と同じ科に属する Thermococcus kodakarensis のオルソログと考えられるTK0887もPF1551と同様の活性を示すことを証明した。さらに、これら タンパク質はウラシルやキサンチン、および脱塩基部位を有する DNA 鎖をも切断することを発見 した。このタンパク質は既知の修復タンパク質とは異なる性質を示し、配列上の類似性も有さない ことから、新規の酵素としてEndonuclease Q (EndoQ)と命名した。
次に、EndoQの細胞内修復経路を解明するために、EndoQと相互作用するタンパク質を探索した。
EndoQのアミノ酸配列中に、Proliferating Cell Nuclear Antigen (PCNA) との相互作用モチーフ (PIP box) 様の配列を見出したので、EndoQが、保存されたPIP boxを介してPCNA と結合すること、お よびPCNAが濃度依存的に EndoQのDNA 切断活性を促進することを、精製タンパク質を用いた実 験で証明した。また免疫沈降法により、EndoQ とPCNAが細胞内で同じ複合体に存在することも示 した。以上の結果から、PCNA を介したEndoQの効率的なDNA 修復経路モデルを提唱した。
EndoQ はアーキアの中で、超好熱菌のThermococcalesとメタン生成菌に保存されているが、一部
の真正細菌からも類似配列をコードする遺伝子を見つけた。そこで、真正細菌が活性のあるEndoQ を有することを確かめるために、Bacillus pumilus由来のEndoQ様タンパク質を調製した。その結果、
真正細菌にもアーキア由来の EndoQ と同様の活性と基質特異性を示す酵素が存在することを明ら かにした。さらに、EndoQホモログの詳細な配列解析を行い、EndoQ が一部のアーキアと、極少数 の真正細菌にのみ保存されていること、さらに分子のドメイン構成からEndoQが3つのファミリー に分類されることを発見した。
DNA修復に関与する遺伝子は遺伝情報の維持にとって重要であるにも拘わらず、生育に必須でな いものが多い。それは複数の修復機能がバックアップ機構として働くためと考えられる。好熱性ア ーキア Methanothermobacter thermautotrophicus 由来の Exonuclease III (ExoIII) がウラシルを含む DNA 鎖に対してEndoQと同様の活性を示すことが報告されていたので、ExoIIIとEndoQの両方の 配列が保存されている常温性アーキアMethanosarcina acetivorans において両者の解析を行った。そ の結果、両者は独立した修復経路に関与することが示唆されるものの、一部同じ活性を共有し、相 補的に機能しうることを提示した。
以上要するに、本論文は、新規 DNA 修復酵素の発見とその性質の詳細な解析、その修復経路モ デルの提示、そして、新規酵素の生物界での分布と、他の修復酵素との関係について述べ、生物界 における損傷塩基の修復機構の理解に重要な知見を提供したもので、分子生物学および DNA 酵素 学に寄与する価値ある業績と認める。
よって本研究者は博士(農学)の学位を得る資格を有すると認める。