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学校の組織力強化を目標とした教員研修プログラムの開発

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教員養成カリキュラム開発研究センター研究年報Vol.102011

学校の組織力強化を目標とした教員研修プログラムの開発

前原健二

(教員養成カリキュラム開発研究センター)

は じ め に

本稿の目的は2009年12月から2011年3月にかけて筆者(前原)がアドバイザーとして 開発と試行に関わってきた教員研修プログラム開発の概要について報告し、あわせて開発 の過程で議論された実践的・理論的課題について改めて考察することである'。

この教員研修プログラムは株式会社コアネットが開発し、基本的には私立の小中高等学 校を顧客として提供する予定のものである。初発の時点で、この研修プログラムの特徴と して強く興味を惹かれたのは次の二つの点である。第一に、この研修プログラムが私立学 校を主たるターゲットとするものであったことである。言うまでもなく、公立学校につい ては各層の教育委員会等が様々な研修の機会を用意している。公務員としての教員には研 修の権利と義務があり、実際に相当量の法定研修及び選択的研修を受けている。対して私 立学校の教員の場合は教育基本法の規定により「絶えず研究と修養に励み、その職責の遂 行につとめなければならない」こと、「その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊 重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない」

こと、という法的要請は公立学校の教員と同様にかかってくるものの、具体的運用につい ては法的規定がない。つまり各私立学校法人の自由裁量に委ねられていると言うことがで きる。実際は、たとえば財団法人日本私学教育研究所や一般財団法人東京私立中学高等学 校協会の中の東京私学教育研究所などが体系的な研修プログラムを提供しているが、それ らは機関加盟の各私学及びその教職員にとっての機会を提供するものであって、義務的な ものではない。後に関連した議論を展開するが、私学にとってはお互いが様々な「資源」

(たとえば生徒や教員)を奪い合う競争相手であるという側面があり、また各私学が持っ ている教育の特徴、いわゆる校風や伝統の違いを踏まえても尚更に共通の研修機会の設定 は簡単ではないと考えられる2

第二に、この教員研修プログラムが特に「学校の組織力」をテーマとするものであった ことである。いわゆる「学校の自律化」の流れの中で公立学校の運営については「組織マ ネジメント」の充実が強く求められてきている。私立学校法に基づく学校法人の運営する 私学は元来独立した教育機関として自律性を有していると言える。私立学校をターゲット とした「学校の組織力」という主題の設定は、自律性を保障されてきた私立学校という教 育機関においても「組織マネジメント」に類する課題が意識されていることを示すもので あり、それ自体として教育経営論的に興味深い。また、学校運営の基本的条件において大 きな違いはあるものの、「学校の組織力」という主題からは、公立学校の研修プログラムに 対する理論的、実践的な示唆が得られると考えられる。

本稿の構成は次の通りである。「1」では本件の教員研修プログラム開発と試行の概要を 時系列的に整理する。「2」ではプログラムの初発の構想ないしコンセプトと、試行の過程

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で修正されたプログラムを比較し、相異のポイントについて考察する。「3」ではこのプロ グラムの開発に参加する中で得られた理論的、実践的な知見、論点、問題点について改め て考察する。「まとめ」では、今後の教員研修プログラム開発の理論的展望および今後の課 題を提起する。

1「学校の組織力」強化のための研修プログラム開発の概要 1-1開発の主体

この研修プログラムは株式会社コアネット(http://www.core-net.net/、コアネット教 育総合研究所とも表記、本社:神奈川県横浜市3)が商品として提供することを見込んで、

開発への協力とプログラムの試行を受け入れる東京都内の私学2校(参画校と呼称する)と ともに開発するものである。コアネットは「教育と学校経営を研究し教育実践を支援する シンクタンク&コンサルティング企業」である。資本的には小学生を対象とした私立学校 受験のための学習塾を展開する「日能研」の関連企業である4.

参画校の2校(以下A校、B校と表記する)はいずれも東京都内に法人本部を持つ私立大 学の附属校である。A校(女子校)は法人内に幼稚園から大学、専門学校を持つうちの中学・

高校である。「中」と「高」の運営は一体化している。専任教員は60名強である。B校(共 学)は法人内に幼稚園から大学までを持つうちの中学・高校である。やはり「中」と「高」

の運営は一体化している。ホームページ所載の資料によれば約2割が系列の大学へ進学、6 割弱程度が他大学へ進学する。専任教員は80名強である。A校からは3名、B校からは2 名の教員がこの研修プログラムの開発に常時参加した。ほか、他の私立中高の教員1名

(2010年度は都内大学の教職大学院へ休職派遣)が参加した。

1-2開発のスケジュール

2009年12月から2010年2月にかけて、コアネット・メンバーおよび前原研究室メンバ ーで4回、各2時間程度の準備的なミーティングを持った。おおむね学校経営をめぐるブ レーン・ストーミング的な議論に時間を費やしたが、いわゆる企業経営的な論理(と筆者 が感じるところのもの)と私学経営ないし広く学校教育との関わりをめぐって相当の考え 方の違いがあるように思われた。しかし、このスタートの時点で明らかになった認識の相 異は、開発のプロセスにとって決して障害や陸路となるものではなく、むしろ認識の深ま

りとプログラム自体の充実をもたらすものであったように思われる。

2010年3月から2011年2月にかけては毎月1回、各回3時間程度の定例のミーティン グが開催された。各回のミーティングは、①コアネットからの検討課題やプログラムのプ ロトタイプの提示、それに対する参画校メンバーおよびアドバイザー・メンバーの議論、

を中心として、②いわゆる集合研修を皮切りに試行的な研修がスタートしてからは、参観 したメンバーによるフイードバック、意見交換など、が基本的な内容であった。ミーティ ングの会場は東京学芸大学および各参画校であった。

2010年3月の「キックオフ・ミーティング」において今回開発するプログラムの全体像 がコアネットから示され、その後、変更・修正をともないつつ2010年度中に階層別の集合 スタイルの研修が3種4回(5月、8月、8月、12月)、A校におけるワークショップ型研修

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が2回(7月、12月)、B校におけるワークショップ型研修が2回(8月、12月)、実施され た。筆者を含むアドバイザー・メンバーは可能な限り参観することとした5.

2011年2月のミーティングで一応本件にかかる教員研修プログラムの開発は終了した。

本件にかかる開発、試行のプロセスと成果を踏まえた教員研修プログラムの商品化ないし 市場への提供については本稿執筆の時点(2011年2月)においては未定であるが、機会が あれば効果測定(後に論じる)の観点なども踏まえて、さらにプログラム自体の充実を図 るとともに、個々の私立学校の教育活動の改善と充実に参画したいと考えている。

2組織力強化研修プログラムの開発・試行・改善 2-1開発当初の構想

2010年3月の開発当初の時点でコアネットから今回のプログラム開発の基本的な考え方 と全体的イメージが示された(図1:原資料から若干改変して作成、以下同様)。

このプログラムの特徴は、独立した教育経営体としての私立学校の「組織」に焦点を当 てようとしているところである。したがって授業、生徒指導、校務などの具体的な職能に 関するスキルアップは含まれていない。「組織」としての学校の現状は、図中に見られるよ うに、「意思決定」「実行」「協働」などの面で課題を抱えていると捉えられている。その上 で課題を「人材開発」と「組織開発」とに一段階分節化している。

「人材開発」はいわゆる集合研修形式で実施されるものである。コアネットの顧客であ る私立学校から参加者を募り、貸会議室を会場として開催する。つまり複数の学校から、

同じキャリア属性を持つとみなされる人々に集まってもらって実施するものである。参加 のエントリーは個人的にするのではなく、学校としてエントリーして管理職(上司)から 指名された、または希望した教員が職務として参加することが想定された。「人材開発」は 三段階のキャリア属性、つまり①初任教員、②中堅教員、③リーダー教員、についてそれ ぞれ企画されていた。以下、各段階の初発プログラムについて概観する。

①「初任教員研修」は公立学校教員の初任者研修と用語としては若干重なるが、対象は 図1組織力強化プログラム」の全体像(初発のイメージ)

初任者研修:組織人の基本スタンス

:組織人教育 人材開発

中堅教員研修:組織運営への参画意識 意思決定が遊

央めても実行 リーダー研修:リーダーの役割認識

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組織デザインワークシヨップ

:ビジョンを掲げて協働するチームの形成 課題実現ワークシヨップ

:課題実行力の獲得

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私学教員の勤務の実態に即して柔軟に設定された。私学の場合は相当の年数を非常勤・常 勤の講師として勤務することが常態化していること、講師も含めて新任者の採用は不定期 的であること、定期的な異動がないことなどを踏まえて、おおむね教員としての勤務経験 5年以内程度の「若手教員」で、この種の初任教員研修を受けたことのない人が対象とさ れた。プログラムは1日(7時間見当)、目的は「組織人の基本スタンスを獲得し、学校組 織の一員としての経営参画意識と協働意識を醸成」することとされた。具体的にはほぼ午 前中に「レクチャー+ワーク」を2コマ、午後に「ケース演習」を2コマと「まとめのワ ーク+発表」という流れである。この1日7時間のメニュー構成は三種類のキャリア属性 別の集合研修に共通である。図2に各プログラムのメニューの内容を示しておく。

②「中堅教員研修」は5〜10年程度の教員経験者を対象に、「組織運営への参画意識を 獲得し、所属分掌の中核メンバーとしての自覚と責任感を醸成」することを目的とすると された。③「リーダー教員研修」は各学校の「リーダー教員」層、具体的には各種の校内 分掌の責任者またはその候補者を対象とするとされた。目的は「リーダーの役割認識を獲 得し、組織マネジメントおよび人材育成の責任者としての自覚を醸成」することとされた。

もう一つの柱として設定された「組織開発」は単一の学校を対象として、基本的に全教 員が参加して実施するワークショップ型研修であり、この研修プログラムの開発参画校で

図2キャリア属性別集合研修のメニュー構成(各7時間見当)

<①初任教員研修>特徴:経営視点、体感型、演習中心 ケース演習

① 学 校 組 織 の問題点

ケース演習

、 組 織 と し ての問題解 決

レ ク チ ャ ー

+ワーク

② 組 織 人 と は

レクチャー+

ワーク 鮮 校 経 営 の 全体像

まとめのワー ク+発表 めざす学校像 の構想と発表

<②中堅教員研修>特徴:組織視点、体感型、演習中心 ケース演習

⑲且織運営

ケース演習 醗輩指導

レ ク チ ャ ー

+ワーク

、 組 織 運 営 と

レクチャー+

ワーク 餅 I 堅 教 員 の 役割と責任

まとめのワー ク+発表 めざす組織像 の構想と発表

<③リーダー教員研修>特徴:経営視点、マネジャー視点、体感型、演習中心 ケース演習

①チーム形成

レ ク チ ャ ー

+ワーク α且織マネジ

メントとは

ケース演習 畷 題 解 決

レ ク チ ャ ー + ワーク

① リ ー ダ ー 教 員 の 役 割 と 責 任

ま と め の ワ ー ク+発表 チ ー ム ビ ジ ョ ン の 構 想 と 発 表

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あるA校、B校でそれぞれ実施することを念頭に企画されている。図1では組織開発のワ ークショップは更に「組織デザインワークショップ」と「課題実現ワークショップ」に分 節化されている。これらは選択的に実施するのではなく、前者に取り組んである程度の期 間をおいた後、後者に取り組むというワンセットのメニューであるとされた。いわゆるP DCAサイクルによる組織改善のよさを実感するためのある種の仮想的体験を用意するも のであるとも説明されていた。各ワークショップのプログラムは事前事後の活動を別にし て1.5日見当、つまり半日(=3ないし4時間)のメニュー3コマ分で構成されている(図 3参照)。事前のヒアリングでは学校経営層レベルからの学校教育ビジョン、経営のビジョ ン、組織ビジョンを聞き取り、また教員若干名からも現状の組織に対する問題意識などを 聞き取ることが予定されている。つまりひとつのワークショップに費やされる日数は1.5

日ではなく、事前ヒアリングを含めれば2日前後、事後のフオローアップまで含めれば3 ないし4日程度で構成されることになる。本体部分のワークショップ自体は三つのセッシ

ョンに分けられる。初めに全体セッションにより今次ワークシヨップの課題やゴールイメ ージを共有し、次に具体的作業がしやすいように小グループに分かれてのセッション、最 後に再び全体セッションに戻って課題に対するアクションプランを共有しワークショップ の成果を確認することになる。

図3組織開発ワークショップのメニュー構成

フ オ ロ ー

アップ、効 果 検 証 と 改善活動 事前のヒア

リ ン グ、 現 状把握

2-2改善と試行

以上のように、この研修プログラムは私立学校の現状に対して「組織力開発」という観 点からアプローチするものであり、キャリア属性別の集合研修型「人材開発」(=組織人教 育)と、個別の学校をフィールドとする「組織開発」(=学校改善のワークショップ)を柱 としていた。開発・試行のスケジュールとしては集合研修型の人材開発の部分が先行した。

以下、「人材開発」と「組織力開発」に分けて試行の具体的実施状況と事前のミーティング において提起された論点、改善点及び事後の振り返りの中での論点を示す。

2-2-1初任教員研修

「人材開発」メニューの中の①初任教員研修は2010年5月に、定例ミーティングでの検 討を経て、前記した当初プランから若干の変更を経たプログラムで実施された(会場:東 京都内貸会議室、参加18人、実質6時間、休憩1時間)。筆者は開始から終了まで参観し た 。

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参加者は事前の宿題として「私学と公立校の違い」「私学教員に求められる役割」「自校 の教育価値向上のために自分に何ができるか」の3点について考えてくるよう求められた。

プログラム冒頭にいわゆるアイスブレイクの時間を少々とり、以後5つのコマにわけて進 められた。内容を摘記する。

①「学校経営の全体像」(ワーク&レクチャー)

ワーク:私学と公立の違い、学校の「顧客」

レクチャー:首都圏私学の経営環境、経営の意味、学校の財務モデル、「顧客」観

②「組織人とは」(ワーク&レクチャー)

ワーク:「組織」であることの効用、組織人に期待される役割 レクチャー:「組織」の本質と効用、組織人に対する期待

③「学校組織の問題点」(ケース演習)

グループ討議:問題はなぜ起こるか

解説:「学校組織の弱点、元気な学校組織とは、学校組織の魅力と強み

④「組織としての問題解決」(ケース演習)

グループ討議:ケース「一体感、連帯感の乏しい職場」

解説:「なぜ?」と5回問う、一体感、組織への貢献、協働の意欲を生み出す、相互成 長

⑤「理想の学校、私のチャレンジ」(ワーク&発表)

理想の学校像、自分のチャレンジしたいことを言語化 実行宣言として発表

各セッションにおいて、「ワーク」ではまず与えられたワークシートについて個人で思考 し、そのあとグループ(4人ないし5人)で討議、一定の結論を発表する。そのあと「レ クチャー」では講師(コアネット)から関連資料が提示され、基本的な概念モデルや現状 が解説される。「ケース演習」6では、より現実的な学校運営の文脈に近い「問い」が提示 され、同様に個人思考、グループ討議へ進む。参加者は自分の勤務校の現実に即して具体 的に問題を設定し直すことが求められた。この点が、①②の「ワーク&レクチャー」との 相異である。ここでもグループ討議の内容の発表を行う。続いて講師(コアネット)によ る参考資料の説明、概念モデルの提示がある。最後の⑤「ワーク&発表」では、参加者全 員がそれぞれの職場において実現したい理想像、そこへ向けての自分のチャレンジしたい ことを考え、発表することが求められた(予定では一人1分間程度)。特に、自分自身につ いては次の一年間程度の近未来を想定した具体的な「アクションプラン」をイメージして まとめることが求められた。

一日のプログラムの終了後、主催者(コアネット)が実施したアンケートでは、参加者 からはやや時間が長いという声もあったものの、おおむね好評を得られたということであ る。筆者が参観者として気づいたこと、および後日の定例ミーティングで議論された点を いくつか挙げておく。第一に、「思考→討議→解説」という各セッションの進行についてで ある。これはいわゆる「発見学習」型と呼べるかもしれないが、十分な組織的社会化を経 ていないと想定すべき初任教員層において、若干の難しさがあるように思われた。要する

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に設定された問いやケースの文脈的意味がつかめずに的外れな方向へ思考と議論が流れる という問題である。たとえば、講師の用意した資料及び解説は、筆者の所感では、典型的 な階層的企業組織をモデル的に位置づけるものであった。そのため、「学校組織は特殊であ る」「教職員文化は遅れている」というメッセージがことさらに強調されているように思わ れた。「組織人教育」を意図したこのプログラムの本来の趣旨に照らしてみればそうしたメ ッセージは理解できる。したがってその意図はそのまま承認したとして、実際の討議の過 程では必ずしもその意図はある意味では「無防備」な初任教員層によって的確に理解され るとは言えない。だとすれば、伝達したいメッセージとしての「組織」の意味や概念モデ ルなどを先に導入し、それに即して自分の思考を振り返る流れ、つまり「誘導学習」的な スタイルもあり得たであろう。

第二に、本プログラムは「初任」というキャリア属性の私学教員を対象としていたが、

実際の参加者には初任というより中堅に近い層が含まれていた。したがって、全員が教職 について数ヶ月という前提では進行できず、小グループに分かれての議論ではグループの 中に相当の経験値の差があったようである。ただしこのことはデメリットとしてのみ位置 づけられるわけではなく、経験値の分散の大きさがグループでの議論の活性化を産むとい

う予期せざる効果も生んでいたように思われた。

第三に、参加者の満足度の内容と本プログラムの「効果」についてである。この種の研 修において比較的多く聞かれる声として、「自分の思いを話すことができた」「他校の先生 の話を聞くことができた」というものがある。これらは決して否定的に評価されるべき声 ではない。問題は、それが研修プログラムの本来の狙いなのかということである。逆に言 えば、「語り合い、聞き合う」という活動を狙いの中心においたプログラムを(それが「研 修」と呼ばれるべきかは措くとして)企画することも可能である。こうした観点からは、

本プログラムの満足度を本来的に規定すべき「効果」は、「『組織人の基本スタンス』を獲 得し、学校組織の一員としての経営参画意識と協働意識を醸成する」(当日配付資料から)

ことができたか、ということになる。そうした意味でこのプログラムが効果的であったか どうかを評価することは難しい。この効果の測定・評価は、全体のプログラムの開発の当 初から筆者らのアドバイザー・メンバーの課題の一つであった。この点については「3」で 改めて論じる。7

「人材開発」のための集合研修として企画された②中堅教員研修及び③リーダー教員研 修については紙幅の都合でここでの分析を割愛する。ひとつだけ論点を挙げておけば、「組 織視点」を重視した今次の研修プログラムにおいて、対象とした私学の教員においては学 校ごとのいわゆる「組織文化」の違いの大きさは無視できない。各私学はいわゆるマーケ ット的には競争相手であり、それぞれに固有のポジションを付与されている.教員たちもそ れを当然に意識しているはずである。集合研修におけるオープンな交流は一面ではこうし た研修の意義、魅力を高めるが、反面提供される素材のフィット感に物足りなさを感じさ せることにもなりうる。この点、公立学校の中堅以上の教員を対象とした研修以上にプロ

グラムの内容に工夫が必要とされるように思われる。

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2-2-2組織開発ワークシヨップ

本プログラムの全体構造の中で「組織」としての学校の力を高めるために企画されたの が個々の私学を対象とした「組織開発」のためのワークショップである。開発のスタート 時点ではひとつの参画校ごとに二種類のワークショップ型研修を実施することが目標とさ れていた。二種類とは、図lにも示したように、「組織デザイン」ワークショップと「課題 実現」ワークショップである。まず前者が実施され、その成果を踏まえて後者を実施する

という順序が想定されている。

実際の試行へ向けて具体化する前の2010年5月段階で、まず「組織デザイン」ワークシ ョップのコンセプトとプログラムの内容が議論された。当初プランでは、この「組織デザ イン」ワークショップは「組織ビジョンを起点とした“関係性再構築”により、『ビジョン を掲げて協働するチーム』を形成する」ことを目的とするものであり、より具体的には① 校長からの自校の組織ビジョンの提示、②教員個々による理解と納得、共有、③組織ビジ ョンの実現に向けた変革の課題を議論する、といった流れで進むとされていた。コアネッ トからは、ビジョンを持って協働して進んでいく「組織」を創るための研修の方法として は、二つの異なるベクトルがあること、ひとつは経営層ないしトップマネジメントがまず 最初に明確なビジョンを提示し、それにもとづいて他のメンバーが組織の一員としてビジ ョンへの貢献を考えるという「ビジョン浸透型」であり、もうひとつはすべてのメンバー が組織の一員として組織のビジョンを構築するプロセスを追体験する「ビジョン構築型」

であること、が示されていた。その区分に即して言えばここで当初提案されていたのは「ビ ジョン浸透型」の組織デザインワークショップということになる。

このビジョン浸透型の組織デザインワークショップのプランは参画校メンバーも交えた ミーティングでの議論を経て大幅に修正されることとなった。「かなり上から押し付けられ ている感じがする」といった意見があり、少なくとも今回の開発に参画している2校につ いてみれば望ましくないと判断されたためである。また、2010年6月の定例ミーティング までの間に「組織デザイン」ワークショップは「学校ビジョン」ワークショップと名称を 変更し、プログラムの構成も大きく変更された。

修正プログラム案では、半日のセッションを三つで1.5日間というボリュームは変更せ ずに内容が変更された。つまり三つのセッションのうちの最初の一つを「リーダーズセッ ション」として特立し、残りの二つのセッションとの間に一週間程度の時間を空けること としたほか、プログラムの内容もかなり根本的に変更された。第一に、トップマネジメン

ト=校長から学校組織のビジョンが提示された後、その共有ないし再認識を図るという「ビ ジョン浸透型」の直接的な適用を取りやめることとなった。これについては、筆者の理解 によれば、そうした意味での学校組織のビジョンは私学である以上すでに当然に教職員に よって理解されているはずだからという意味づけと、言語化できるレベルでの学校組織の ビジョンは日々の学校運営や教育実践を枠づけるほどに具体的なものではないからという 意味づけがあったようである。第二に、特立されたリーダーズセッションは学校のリーダ ー層の教員つまり各校務分掌の責任者クラス8によるセッションである。これが特立された のは、現実に組織としての学校の動かす立場のメンバーと、よりフオロワー的な立場のメ ンバーとが最初から(物理的な意味でも、比瞼的な意味でも)同一のテーブルを囲んでワ

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­クショップを行うことが有効性を欠くという指摘が参画校メンバーから出されたためで ある。

この時点までで「学校ビジョン」ワークショップはリーダーズセッション、多少日をあ けての「全体セッション+チームセッション」という構成をとることとなった。リーダー ズセッションでは校長およびリーダー層の教員により学校の現状と課題の把握、学校固有 のビジョンの確認、全体セッションへ向けて発信するメッセージないしストーリーの作成 が行われる。全体セッションでは学校のビジョンを共有するための作業を4ないし6人の 小グループで実践する。チームセッションでは各人が担当している学年、教科、校務分掌 などに分かれて現状の把握、問題の共有、原因の検討、解決策の考案と絞り込み、アクシ ョンプランの設定が行われる。このアクションプランはチームセッションの最後に各チー ムの責任者(リーダー)から発表される。

この「学校ビジョン」ワークショップは参画校であるA校及びB校で2010年夏期に実施 された。プログラム開発の観点から言えば「試行」であるが、A校及びB校のいずれにお いても正式な職務の一環としての教員研修行事として位置づけられ実施された。実施に当 たってはさらに学校ごとの仕様の変更があった(図4参照)。A校では「授業実践」に焦点 化した学校の教育方針の確認と「実践力向上に向けた具体策の検討」を目的とした「実践 力向上ワークショップ」と銘打ち、リーダーズセッション(3時間見当)の約一週間後に 全体セッションを連続した二日間(3時間十4時間)にわけて行われた。基本的な進行ない しファシリテーションはコアネットが務めた。B校では「ビジョン実現のためのシナリオ を共創し、その実現に向けて一体となって取り組む組織をつくる」ことを目的とした「ビ ジョンシナリオ共創ワークショップ」と銘打ち、リーダーズセッション(4時間見当)の 約十日後に全体セッションをやはり連続した二日間(3時間十6時間)にわけて行われた。

図4組織変革ワークショップのプログラム構成

<A校実践力向上ワークショップ>

全体ワークショップ

ビジョン実現のためのシナリオ共 リーダーズ

セッション :ビジョン実現の た め の シ ナ リ オ 共創

フ オ ロ ーア ップ :効果検証と改 創 善活動

1日目 分掌部門① 1日目 分掌部門①

2日目 分掌部門② 2日目 分掌部門② 分掌部門③ 分挙部門④

<B校ビジョンシナリオ共創ワークショップ>

全体ワークショップ

:教育基本方針の実践力向上に向けた 具体策の検討と発表

リーダーズ セッション :方針実現のため の課題設定

フ ォ ロ ーア ップ :効果検証と改 善活動

全 体 セ ッ シ ョ ン 全 体 セ ッ シ ョ ン

チ ームセ ッ シ ョ ン

幹 セ ッ シ 幹 セ ッ シ ョン 鋳斗セッシ ョン

鋳斗セッシ ョン ョン

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基本的な進行ないしファシリテーションは参画校メンバーとして開発に直接関わったB校 教員が行った。いずれの学校のワークショップにおいても、あらかじめ予定されていた学 校行事(部活動引率など)、緊急の校務などを除いて、ほぼ全員が参加したものとみられる。

以上のように今次のワークショップは最終的にほぼ「オーダーメード型」のプログラム によって実施された。事後のアンケートでは、いずれの学校においてもワークショップの 企画、内容、進行はおおむね好評だったようである。否定的な反応としては、時間が長か ったこと、傍観者的な姿勢の教員がいたことなどがあり、また具体的な教育活動の改善に つながらなければ意味がなく、それがこれから問われるという反応もあった。

筆者は2校のワークシヨップの全日程のうち4分の3程度を観察することができた。学 校固有の歴史的・地政学的文脈に通じているわけではないため学校経営上の具体的課題に ついては措くとして、ワークショップ自体の進行について参観しながら感じたこと、また のちの定例ミーティングにおいて議論されたことをいくつか挙げておく。第一に、開発に 参加した参画校メンバーの自己評価としては、いずれの学校においても事前の予期以上の 手ごたえを感じていたようであった。職員会議や学年会、教科会、各分掌ごとの会議など とは異なって、具体的に設定されたテーマに沿って自分のアイディアや疑問を付萎に書い て可視化し、ホワイトボードに張り出して整理しながら議論し共有するというワークショ

ップ形式のミーティングをする機会はなく、特にこれだけの時間を集中的に共有する場が なかったということが、今次のワークショップの充実感につながっていたと考えられる。

セッションの進行において、ふだん接点の多くない教員同士をなるべく組み合わせて小グ ループを形成するように工夫されていたことも効果的だったようである。

第二に、開発段階で挿入されたリーダーズセッションがとても有効に機能していたよう である。それは全体セッションに先立って議論すべき課題の絞り込みやビジョンの方向性 の設定ができたというプログラムの進行上の有効性に加えて、リーダーズセッションに参 加したリーダー層教員の学校経営に対する認識を強めるという面でも有効性があったとい うことである。一般に私学の場合は人的流動性が低いので、リーダー層の教員はみな勤続 10年、20年という経験者であり、しばしば学校経営の中の特定の分野(たとえば生徒指導、

教務管理など)の「専門家」として当該校内で位置づけられている。そうしたリーダー層 の教員の、いわば蓄積された経験知と日々の奮励努力によって学校組織の運営が支えられ ているというのは決して過言ではない。そうした人的な帰属性の強い業務分掌のシステム は、しかし、組織全体の見通しの悪さにもつながりかねない。そうした意味ではリーダー ズセッションのような場を設けて学校組織全体の運営という観点から議論することには大 きな価値がある。もちろん分掌分野ごとの経験知の差異が一度のセッションで解消される わけではないが、学校の組織としての機能性を左右するポイントの一つとして、リーダー 層教員というグループへの働きかけは大きな意味を持ったと考えられる。

第三に、外部の観察者の立場から見たときに、今次のワークショップはとても多義的な 意味を持っており、それゆえに評価が難しく感じられた。筆者の感触としていえば、2校 のすべてのセッションを通じて参加した教員のほとんどが熱心に、かつ楽しげにセッショ ンに取り組んでいたように思われ、このことは上にも少し触れたようにワークショップの 成果の一つと言える。一方でこのワークショップの中で合意を得て定式化された課題やア クションプランなどは学校としての正式な方針の決定ではないということが再三確認され

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てもいた。つまり正式な方針として決定されるためには改めて通常の起案・審議・決定と いうプロセスを通す必要があるということである。そこではまた別の論理、別のプランが 力を持つかもしれない。それゆえに直後のアンケートでもワークショップ自体の構成はと もかく、結論の扱いが不明であることに対する批判的な指摘も当然に出てくることになる。

明日からの学校の現実が変わらないのなら、一種の親睦行事のようなものだということで ある。この論点を敷術するならば、①「課題→セッション→アクションプラン」というワ ークショップ型のプログラムの構成の問題、②制度的にも実践的にも「慣性」が大きく、

従来のやり方を変えることが多くの企業組織よりも難しいという「学校組織」の問題、③ 小規模で流動性が低いという意味で共同体的性格の強い「私学」の特殊性という問題、④ 究極的には教員個人の属人的な資質や能力に基づいて業務が進められる「教育」という活 動の特殊性という問題、などが考慮されなければならない。

なおA校及びB校では、夏期に実施した上記のワークショップの経験と反省を踏まえて、

2010年度冬期にそれぞれ当年度2回目のワークショップ型研修が実施された。A校では「余 裕づくりワークシヨップ」と銘打ってリーダーズセッシヨン(4時間)+全体セッシヨン

(4時間)を二日間で、B校では「課題解決ワークショップ」と銘打って二日間(6時間十 3時間)で実施した9.筆者はこれらについても相当部分を参観したが、ここでは紙幅の都 合で分析を割愛する。ただし、いずれの学校においてもほぼすべての教員がこれだけの時 間をかけて新年度からの学校経営の方針を見据えたワークショップを開催するということ は、すでにそれだけでも意義のあることと言ってよいだろう。

3 考 察

3-1組織体としての学校

冒頭に記したように、筆者が本件研修プログラムの開発に興味を持った理由の一つは「私 学を対象としている」ということであった。教職員組織としての私学の特徴は人的流動性 が低いことである。つまり教員の入れ替わりが少ない。実際、今回の開発・試行に参画校 メンバーとして参加した教員はほぼ勤続20年以上の方々であった。公立学校の教職員の場 合はおおむね6年ないし10年で異動するから10、平均的に見て5年前後で教員の半数程度 が、10年でほぼ全員が入れ替わることになる。公教育の根幹を担う公立学校制度の本旨に 即して考えればそうした人事異動のシステムには十分な正当性があるが、自律した組織体 としての学校の組織力形成、組織内での人材育成などの点から見れば大いに考慮の余地が ある。学校の自律性と「学びの共同体」的性格の強調されていくならば、定期的な教員異 動制度が再検討される事態も大いに想定しうる。実際、諸外国においては公立学校の教員 について定期的な人事異動の制度がない方がむしろ一般的ですらある。こうした観点から 見ると、現時点において私学を対象としていたこの「組織力強化」のプログラムは、将来 的には「組織体としての学校」の強化を願うすべての学校のためのプログラムのモデルと

なる可能性があると言うこともできる。

今回のコアネットによる「組織力強化」プログラムはある程度の人的安定性を前提とし て構想されていた。キャリア属性別の集合研修と、学校におけるワークショップ型の研修 といういわばセット・メニューは、「個人研修と共同研修」、「校外交流と校内交流」、「事例

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学習と実践への適用」といった多層的な位置づけにおいて理解することができる。こうし た多層的な位置づけができるのも、私学が組織体としての安定的なまとまりを有している からである。要するに、帰属すべき組織に安定的なまとまりが欠けているならば、個人研 修、校外交流、事例学習には大いに意味を見いだせるとしても、それを還元し実践に適用 すべき場所がないことになるということである。

なお今次のプログラムの開発と試行においてはコアネットと参画校との間に金銭的給付 は発生していない(集合研修については、他校からの参加者と同様に参画校からの参加者 からも料金が徴収されていた)。しかし今後の実際のワークショップの発注には相当の費用

(直接的研修費十機会費用:研修参加に伴う時間的コスト)がかかる。個々の教員を集合 研修に派遣するのも校内でワークショップ型研修を実施するのも、それぞれの私学が独立 した経営体として判断する「投資」なのである。こうした意味では研修を受注する側にも 独立した企業体として料金に見合った商品を提供する「使命」が生じる。それは一般の企 業研修の分野においては当然すぎるほど当然のことであるかもしれないが、公立学校の教 員研修の分野ではそうではない。つまり公立学校教員に研修を企画、提供する教育センタ ー等は他の同種の機関と競争する立場にない、その意味では純然たる「独占企業」と言っ てよい。組織体としての学校が、自ら組織と組織のメンバーの未来のために研修への投資 を決定し、その需要に応えるべく不断に適切なプログラムの開発と提供が進められるよう な状況を構想することは、今後の日本の教員研修制度にとって有意義な理論的課題となる

ように思われる。

3-2学校経営におけるビジョンの構築

本論中で見たように、今次のプログラム開発の過程では当初提案された「組織デザイン」

ワークショップのコンセプトについて大きな修正が加えられ、そのことが結果的には試行 されたワークショップの成功につながっていたと言える。この修正の意味について改めて 若干の議論をしておきたい。

今日、学校経営ないし学校組織マネジメントの領域では学校の「ビジョン」「ミッション」

の確立は最も重要なテーマの一つとなっている。たとえば木岡一明は次のように述べてい る。「校長は、自らの学校が何を為すべきか(ミッション)を自覚し、そのミッションの遂 行に対して何が為しうるのかの展望(ビジョン)を明示的に示し、その結果に責任を負う

と観念すべきである。そして、ビジョンの実現を目指し自ら為しうることを為し、為しう るだけの組織力を解発していく。それが、学校経営の責任ある展開である。!'」

私学の場合にはもともと明確な「建学の理念」「校訓」を掲げていることが多い。本件の 参画校2校にもそれ相当の歴史とともに作られてきた「ミッション」があり、その「校風」

も社会的に認知されているように思われた。校長=トップマネジメントが教職員に対して それらの再確認と、それらに即した日々の業務の反省と改善を求める場としてワークショ

ップを使うという構成は、したがって、それなりの妥当性はあるということができる。し かしそうしたビジョン浸透型のワークショップは採用されなかった。このことからどのよ

うな示唆をくみとることができるだろうか。

冒頭にも若干述べたように、筆者の主観的な印象のレベルで言えば、今次のプログラム 開発に着手した時点では開発主体の側には強い「マーケット信仰」のようなものが感じら

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教員養成カリキュラム開発研究センター研究年報Vol.102011

図5ビジョン・現状・ギャップの関係認識の多元化・豊饒化

雑 の

埋めるべきギャップ(一元的

ʼ

れた。つまり「私学の価値は市場からの支持によって判断される」「市場の支持の得られな い企業(=私学)は不要である」「組織のミッションに従わないメンバーの存在が学校改善 を妨げるのであり、そうしたメンバーは当然に排除されるべきである」といったニュアン スが議論の端々からうかがわれた。ここでの関心はそれらの議論の当否にあるわけではな いが、試行前の段階でワークショップのメニューからはそうした色彩はほぼ払拭されてい たように思われる。

筆者には、ワークショップのプロトタイプの提案から実行に至る段階までのプログラム の修正の判断はとても興味深いものに思われた。ここには一般的な企業組織においてはト ップマネジメントが企業のビジョンを明確に示す以外のスタイルは考えにくいのに対して 学校組織ではトップマネジメントに相当する校長自身がそういうスタイルを望まないとい

う現実がある。

ビジョンと現状認識、アクションプランの関係はしばしば「ギャップとその克服」とし てイメージされる(図5参照)。一般的なビジョン浸透型のアプローチをとれば、ビジョン と現状の差異をギャップとして提示し、アクションプランを指示するのがトップマネジメ ントの役割だと言うことができるだろう。組織のメンバーに期待されるのは状況認識を内 面化してアクションプランを実行することである。それに対してビジョン構築型のアプロ ーチにおいては、現状の認識と課題化、ビジョンの定立、ギャップの認識とアクションプ ランの構想はより主体的に、そして一体的になされるのではないだろうか。別な表現を用 いれば、それは課題状況を認識するフレーム自体の意識的な問い直しを含む「省察的(反 省的)」なプロセスとなるのではないだろうか12。図5はビジョンとギャップの認識のフレ ームが多元的に問い直されていくプロセスをイメージしたものである。ビジョン・現状.

ギャップの認識は一義的.固定的なものではあり得ず、ビジョンを価値づける座標軸の取 り方によって多義的、多元的に位置づけられる。それはビジョンの豊饒化と言うこともで きるだろう。

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3-3研修の効果測定

筆者らの研究者メンバーに当初から期待された作業の一つに研修プログラムの効果測定 の方法論の策定があった。結果的に、これについてはほとんど具体的な進展がなかった。

教員研修プログラムの効果測定については、これまでの教育職員養成審議会や中央教育 審議会の答申による指摘をまつまでもなく、様々な立場から研究が進められている13.研 修直後の受講者アンケート(これは本件プログラムにおいてもすべて実施された)、再現.

再認テスト、キーワード法、一定の期間をあけての事後アンケート、職場に戻ってからの 行動変容を問うための360度評価などが様々に実施されているようである。しかし、管見 の限りでは、実践的に一定の「納得感」のある研修の効果測定のパターンを挙げることは 困難である。

研修の効果測定という議論に常につきまとうある種の不透明感は、測定における「独立 変数」と「従属変数」が固定されていないことによるものと考えられる。たとえばある研 修プログラムが受講者の職能に対して何の変容ももたらさなかったとして、それが研修プ ログラムに起因するのか受講者の内的諸事情に起因するのかを切り分けて論じることは原 理的に難しい。しかし研修プログラムの提供者と受講者が相互に独立した主体である限り は、研修の首尾・不首尾の責任の帰属は区別して論じられなければならないように思われ るのは自然なことである'4.

とはいえ、十分に練られた議論にはならないが、本件プログラムのように研修の発注側 が開発の参画校として関わるような、いわば「オーダーメード型」の研修の場合には、提 供された研修プログラムの質そのものは効果測定の議論の対象から外して考えることがで きるのではないだろうか。そこでは研修プログラムの準備自体を校内のメンバーの職能成 長の機会と捉え直すことができるからである。たとえば、本論中にも記したように、夏期 に実施したワークショップにおける進行(ファシリテーション)はA校では基本的にコア ネットが行い、B校ではB校の教員(参画校メンバー)が行った。これはおそらくB校で はワークショップ型研修の「内製化」の希望が強かったことによるものと思われるが、と もあれ本件の場合のコアネットのような外部機関をアドバイザーとして活用したオーダー メード型のワークショップを自主進行で実施するような場合には、ワークショップの成否 自体がその学校の現状と課題の一部となる。このように考えるならば、研修プログラムの 内製化による研修提供者と研修受講者の一体化というアイディアは、少なくとも「組織体

としての学校」を単位とした研修の場合には、大いに議論されてよいように思われる。

まとめ

以上、本稿では研究者の立場からアドバイザーとして関わってきた、学校の組織力開発 のための教員研修プログラムの開発と試行のプロセスについて紹介し、若干の分析を加え てきた。最後に今後の実践的・理論的な展望について述べておきたい。

まず実践的な展望としては、学校を単位とした研修活動のプロセスに今後も参画する機 会を得たいと思う。今次の研修プログラムの開発における最大のポイントが、本論中でも 述べたように、初発のプロトタイプがそれぞれの学校ごとに改訂され、最終的にはほぼオ

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­ダーメード型のプログラムとなって実行されたことであった。そうしたプロセスに数多 く立ち会うことで、学校研修に対する実践知を蓄積したいと思う。

関連して、公立学校教員を対象とした研修メニューの中に本件プログラムのようなもの がどの程度あるのか、あるいは私学を対象とした研修ではどの程度、どのような内容で実 施されているのか、といった点も実証的にデータを得たいと思う。

理論的な展望としては、上記の考察で述べた点を深めることの他に、いくつか着手した いと考えているテーマがある。簡潔に列記しておく。

①「学校の組織風土」の把握のための尺度の検討。今次の開発・試行の過程では、参画校 に関する情報は参画校メンバーからの他、校内の役職者・リーダー層教員・その他の教員 に対する面談によって収集された。ミーティングにおいては、より客観的な指標・尺度の ようなもので学校の特質を把握する方法についても議論されたが、実用には至らなかった。

研修プログラムの企画において、またいわゆる効果測定においても、そうした指標・尺度 は役に立つと思われる'5.

②学校教育活動の「個業性」の再検討。究極的に学校教育活動は「個」としての教員が独 立して担わざるをえない(ないし「担うべきだ」)といういわゆる「個業性」意識が学校の 組織力の向上にとって障害となり得るということはしばしば指摘されている16.本件プロ

グラム開発の最終ミーティングにおいても「組織の一員として教育活動に取り組む」必要 性は納得されても、それは必ずしも「授業」にまでつながらないという点が議論された。

改めて確認するまでもないかもしれないが、個業型組織の有用性と限界性の見極めは学校 の組織力の向上について大きな論点となるだろう。

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株式会社コアネット、参画校の先生方、若干の大学院生というメンバーで約1年3ヶ月 程度にわたって教員研修プログラム開発の共同作業に取り組んできたが、このプロセスの 全体が筆者にとってはとても貴重な経験であった。本稿は開発と試行のプロセスの全容を 伝えるにはほど遠いものであるが、割愛した部分については今後補完的な考察を期したい と思う。最後に、貴重な機会を与えていただいた株式会社コアネット及び参画校の先生方 に改めて感謝の意を記し、この稿を閉じることとしたい。

ʼ筆者は株式会社コアネット主任研究員嘉村賢一郎氏からアドバイザーとしての参加を打 診され、一研究者の立場で関わることにした。研究者としての立場からのアドバイザーと して、ほかに「前原研究室メンバー」という枠組みで押田貴久、松本浩欣の2名(いずれ も東京大学大学院)が参加した。研究会の開催、実際の研修の参観などすべての本件に関 わる活動において、交通費等の実費も含めて一切の給付は発生していない。アドバイザー として関わる中で得られた知見、経験については研究目的に活用することが了解された。

株式会社コアネットは本論文の内容について一切の責任を負わず、また筆者(前原)は株 式会社コアネットの提供する研修プログラムについて一切の権利義務を持たず、また責任

を負うものではない。

2財団法人私学教育研究所の実施する教員研修について、友野清文、「私立学校における教 員研修」『日本教師教育学会年報』第14号、2005年、参照。

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3なお筆者が関わったコアネットの他にも私立学校を対象とした教員研修を提供している 企業としては、株式会社ヒューマン・リンク(http:"www.humanhnk.info)などがある。

4より正確には企業グループ「日能研」を構成する「日能研関東」の子会社である。

5筆者自身は、集合研修4回中2回、参画校におけるワークシヨップ型研修計8回のうち 6回を参観した。すべての回において、筆者は講師・ファシリテーターではなく、一観察 者として参加した。

6ここで言われている「ケース演習」の本格的な展開については別途検討が必要である。

ケース・メソッドについては次の文献を参照。ルイス・B・バーンズほか、『ケース・メソ ッド教授法』(高木晴夫訳)、ダイヤモンド社、2010年。ウィリアム・エレット、『入門ケ ース・メソッド学習法』(斎藤聖美訳)、ダイヤモンド社、2010年。竹内伸一、『ケースメ ソッド教授法入門』、慶應義塾大学出版会、2010年。またケース・メソッド的な学習に対 する批判的言及として、横井敏郎・伊藤健治、「スクールリーダーシップ研修プログラムの 方法と課題」、『北海道大学大学院教育学研究院紀要』第109号、2009年、参照。

7なおコアネットによる初任教員研修は2010年8月に第2回が試行実施されたが、筆者 は参観することができなかった。

8公立学校経営の文脈では、これらはミドルリーダーと呼ばれる層に相当する。本プログ ラムの開発プロセスでは、これらは一貫して「リーダー」と呼称された。

9B校のこの2回目のワークショップは「生徒指導部」などの「部単位」の課題の絞り込 みと改善策の提示と共有に重点を置いたものであり、司会(ファシリテーター)は第1回 と同様に開発に参加している参画校メンバーの教員が務めた。第1回の「つづき」という ニュアンスで企画され、リーダーズセッションはおかず、各部のリーダー的教員による「宿 題の報告」から開始された。B校はワークショップ型研修の「内製化」を目指していたよ

うであり、そうした意味ではこのプログラムの形態の進化は興味深い。

10参照、中央教育審議会義務教育特別部会第35回.36回合同会議配付資料3(2005年9 月9日付)「人事異動対象となる同一校勤務年数について(小中学校)」

(http:"Www.mext.go.jp/b̲menu/shingi/chukyo/chukyo6/g加oku/05100301/002.htm 2011年2月26日最終閲覧)。諸外国の事情については、参照、佐藤全、若井彌一編著『教 員の人事行政』、ぎようせい、1992年。

11木岡一明、『新しい学校評価と組織マネジメント』、第一法規、2003年、27-28頁。

12参照、ドナルド・A・ショーン、『省察的実践とは何か』、柳沢昌一・三輪建二監訳、鳳 書房、2007年。

'3しばしば参照される文献として、平松陽一、『教育研修の効果測定と評価のしかた』、日 興企画、2006年。また研修の効果測定に関する実践的研究として、上西善吉、「教員研修 の在り方一研修の工夫・改善一」、『奈良県立教育研究所研究紀要』第15号、2008年。

堀内秀規ほか、「研修の効果測定一研修講座の工夫・改善に向けて」、『奈良県立教育研究 所研究紀要』第17号、2010年、参照。

14この点について、日本教育工学振興会『教員研修のPDCAサイクルモデルの研究開発』

(平成19年度文部科学省委託事業教員研修評価・改善システム開発事業報告書、2008年)

では「提供された研修内容そのものの質と、研修を受講したことによる効果の両面の測定 によって、研修提供者にとっての改善点と、研修受講者本人及び学校全体にとっての効果・

改善点を明確にすることができる」システムの開発を躯っているが、そこで提案されてい る方法によってそれが可能であるかどうか、改めて議論される必要があるように思われる。

'5組織風土と職能成長の関係構造の分析として、中原淳、『職場学習論』、東京大学出版会、

2010年、特に第5章。またcf,Bryk,A.S.,SchneideriB.,TI・ustm銑hook:Amz℃

恥"uZ℃eめr・血Zpr℃v巴me"底Newnrk,2002.

'6佐古秀一、「学校の内発的な改善力を高めるための組織開発研究」、『日本教育経営学会 紀要』第48号、2006年。

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参照

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