中 小 企 業 の 生 産 性 向 上 に 資 す る 方 策 に 関 す る 調 査 研 究 報 告 書
<2008‑3>
平成21年3月
財団法人 中小 企業 総合 研究 機構
委 託 先 財団法人全 国 中 小 企 業 取 引 振 興 協 会
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring‑keirin.jp/
は じ め に
我が国の経済・社会は、世界的な資源の需給ひっ迫に加え円高局面から輸出 産業が不振に陥り、景況感の急速な悪化も懸念されております。また、米国か ら発生した世界の金融不安は、中小企業経営の前途にも不安を投げかけていま す。
こうした中、中小製造業が持ち前の柔軟性、創造性、技術力を十分に発揮し、
経営革新や新連携等に取り組むことにより、国際的優位性を維持し、また、地 域経済の重要な担い手となることが期待されています。
財団法人中小企業総合研究機構では、財団法人全国中小企業取引振興協会に 委託し「中小企業の生産性向上に資する方策に関する調査研究報告書」を取り まとめました。生産性向上に取り組み、コストや品質、社会的貢献に取り組む 企業の姿を通して、厳しい景気後退局面に難しいかじ取りや立ち向かう方策を 考察したものです。
本報告書の様々な生産性向上に取り組むヒアリング企業の事例をもとにして、
今後の企業経営や小規模企業・中小企業の事業運営支援に活用いただければ幸 いです。
最後に、本報告書の取りまとめにご尽力いただきました関係者各位並びに調
査実施に際し貴重な情報を提供いただきました企業の皆様にこころより厚くお
礼申し上げます。
目 次
Ⅰ.調査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.調査の目的... 1
2.委員会... 1
3.ヒアリング調査... 3
Ⅱ.中小企業の生産性の現状と課題 5
1.中小企業(製造業)の生産性の状況... 52.中小企業の労働生産性の低い要因... 7
3.生産性向上のためのポイント... 10
4.IT の活用推進 ... 11
Ⅲ.ヒアリング調査結果の視点 13
1.調査対象企業の概要... 132.中小製造業における生産性向上策の考察... 16
Ⅳ.ヒアリング調査結果の詳細 19
1. 調査実施企業の手法の傾向分析... 192.独自視点による特徴的手法の紹介... 22
3. 結実したものに見られる特徴... 24
4.2008年金融危機以降の情勢変化... 27
5.中小企業支援活動への要望... 28
Ⅴ.調査結果に見る生産性向上事例の分析 29
1.製造工程改善による効果達成の具体策... 302.製品開発・研究による効果達成の具体策... 33
4.人事・総務改善による効果達成の具体策... 36
5.販売・営業企画による効果達成の具体策... 39
Ⅵ.ヒアリング調査事例 45
Ⅰ.調 査 の 概 要
Ⅰ.調査の概要
1.調査の目的
少子高齢化が一層進展し、労働人口が減少していく中で、中小企業が利益を確保し、持 続的な発展を遂げていくためには、労働生産性の向上を図ることが重要である。
中小企業製造業の労働生産性(従業員一人当たりの粗付加価値額)は85年から緩やか な上昇ではあるが、大企業の水準を大きく下回り、01年以降は大企業と中小企業の格差 は拡大している。
このような状況に対応するため、政府として、生産性の向上を下請事業者にも波及させ、
中小企業全体の底上げに取り組んでおり、労働生産性の高い企業では、ITの活用、製 品の差別化等の競争優位性、人材の育成、外部資源の活用等の取組が見られる。
本調査では、生産性の向上を図り、業況を改善している中小企業の事例等を調査分析し、
中小企業が生産性向上に取組むための方策を示すことを目的とする。
2.委員会
(1)委員会の設置
本目的を達成するため、(財)全国中小企業取引振興協会(以下「全取協」という。)に「中小企 業の生産性向上に資する方策に関する調査研究委員会」を設置し、3回の委員会を開催し検討 を行い、その結果を本報告書にとりまとめた。
同委員会は、中山健氏(千葉商科大学 商経学部 教授 博士(学術)同大学院教授)を委員長 に、学識経験者及び中小企業診断士等の専門家を委員・研究員として構成した。
(2)委員名簿 (敬称略)
委 員 氏 名 所 属 ・ 役 職 名
委員長 中山 健 千葉商科大学 商経学部 教授 博士(学術)
同 大学院 教授 委 員 鷲尾 紀吉 中央学院大学 商学部 教授
委 員 小林 世治 日本大学 大学院グローバル・ビジネス研究科 准教授
委 員 青木 弘文 (社)中小企業診断協会 理事
(社)中小企業診断協会 東京支部 常任理事 委 員 瀧山 森雄 有限会社 イーアイイー 代表取締役
技術士(情報工学) 中小企業診断士
− 1 −
(3)研究員名簿 (敬称略)
研 究 員 氏 名 所 属 ・ 役 職 名
主席研究員 針生 正樹 (財)全国中小企業取引振興協会 事務局長
主任研究員 河相 雅史 かわい技術士・計量士事務所 代表
主任研究員 中嶋 淳 (株)経営管理センター 理事
(4)委員会の開催状況 下記日程で委員会を開催した。
第1回委員会
年月日 平成20年9月17日(水)
場 所 鉄鋼会館「8階会議室」(東京都中央区)
検討事項 1.事業実施概要(案)について 2.ヒアリング調査(案)について 3.報告書スケルトン(案)について 4.その他
第2回委員会
年月日 平成20年12月18日(木)
場 所 鉄鋼会館「8階会議室」(東京都中央区)
検討事項 1.ヒアリング調査結果概要について 2.報告書スケルトン(案)について 3.その他
第3回委員会
年月日 平成21年1月26(月)
場 所 鉄鋼会館「8階会議室」(東京都中央区)
検討事項 1.ヒアリング調査結果報告について 2.報告書(案)について
3.その他
− 2 −
3.ヒアリング調査
(1)ヒアリング調査名
中小企業の生産性向上に資する方策に関するヒアリング調査
(2)ヒアリング調査の目的
生産性の向上を図り、業況を改善している中小企業の事例等を調査分析し、中小企業 が生産性向上に取組むための方策について検証することを目的とする。
(3)調査期間
平成20年10月〜平成20年12月
(4)調査先選定
以下の項目により20社を選定した。
① 対象
・ITの活用、製品の差別化等の競争優位性、人材の育成、外部資源の活用等の取組 みを行って生産性向上に繋げた中小企業
・東京都内及びその近郊
② 選定方法
・都道府県等中小企業支援センター等からの推薦
・委員からの推薦
・研究員からの推薦
・文献・各種資料からの情報収集等
(5)調査方法
所定の調査票に基づき、8名の委員・主席研究員・主任研究員による対面調査
(6)調査項目
① 企業概要
② 貴社の概要、特徴(技術、営業、開発等)
③ 生産性向上に取組んだ経緯
④ 生産性向上の方法
⑤ 生産性向上の成果
⑥ 今後の計画
⑦ 受注価格の改定への対応等
⑧ 中小企業の生産性向上についての考えや支援・要望等
− 3 −
− 4 −
Ⅱ.中小企業の生産性の現状と課題
Ⅱ.中小企業の生産性の現状と課題
1.中小企業(製造業)の生産性の状況
中小企業白書の2008年版では中小企業の生産性向上について大きく取り上げている。
生産性の向上は企業が存続し発展する上で重要であるのみならず、わが国が経済成長を続 けていく上でも必要な条件となっているからである。
経 力 の
(注1) 労働生産性とは以下の式で表される。
済成長率は 経済成長率=就業者数増加率+労働生産性上昇率 で表わされ、日本の労働 人口の減少が予測されるわけであるから、持続的な経済成長のためには労働生産性(注1)
向上が不可欠となる。
労働生産性
ところで我が国の労働生産性の水準は米国の7割程度であり、G7の中では最も低く、
OECD(加盟30カ国)の平均よりも低い(図表 Ⅱ−1)。
図表 Ⅱ−1 2006年の各国労働時間当たりGDP
出所:中小企業庁「中小企業白書 2008年版」より作成 資料:OECD「Productivity Database」より中小企業庁作成
− 5 −
この図表(ギリシャを除く OECD 加盟29カ国)は①全業種・業務を対象としており、
ルクセンブルグ(富裕層が多く金融サービス業の比率が高い)やノルウェー(石油・天然ガ スの生産、輸出比率が高い)など特殊な条件の国、②設備や技術・技能のレベルが遅れてい る国、③非英語圏としてコミュニケーションに通訳、翻訳など非生産的業務を要したり、契 約の考え方など文化的に違う国などが含まれ、一律には比較できないかもしれない。さらに 為替レートの問題(たとえば、英ポンドは2006年12月末233.24円、2008年12月末130.08
円と44.2%下落)があるかもしれない。しかし、そのような事情があるとしても日本の水準
は今後我が国が経済成長を続けていく上では満足すべき状況ではないと思われる。これらの 違いには克服しやすいものとそうでないものがあるが、生産性を向上させるためにはそれら を克服するとともに知的財産の活用等それを乗り越えるための新たな方策をとっていく必要 があると思われる。
次に、我が国全体の生産性が先進国の中で20位と低い中で、中小企業の労働生産性の水 準は大企業に比べて全業種で低く、特に製造業は大企業の54.0%と非常に低い状況にあ る。
図表 Ⅱ−2 大企業と中小企業の労働生産性の水準
出所:中小企業庁「中小企業白書 2008年版」
− 6 −
また、労働生産性の伸びも製造業では中小企業は大企業に比べ低く、2003年度から2 005年度にかけての労働生産性の伸び率をみると製造業では大企業は年率3.6%伸びて いるのに対し中小企業は3.0%しか伸びていない。
図表 Ⅱ−3 労働生産性の伸び率
出所:中小企業庁「中小企業白書 2008年版」
2.中小企業の労働生産性の低い要因
労働生産性は次のように分解することができる。
【労働生産性】 【資本装備率】 【資本生産性】
= ×
資本装備率、資本生産性の大企業と中小企業の違いをみると、製造業では資本生産性は大 企業より高い(図Ⅱ−5参照)のに対し、資本装備率は47.9%と半分以下である(図表
Ⅱ−4参照)。
− 7 −
図表 Ⅱ−4 資本装備率
出所:中小企業庁「中小企業白書 2008年版」
図表 Ⅱ−5 資本生産性
出所:中小企業庁「中小企業白書 2008年版」
− 8 −
これは中小企業では既存の有形固定資産の償却が進んでいて資本生産性がよくなっている 一方、新規の投資が大企業と比べ進んでいないため資本装備率が低くなっているものと思わ れる。
企業が投資をする場合、売り上げに直接結びつき回収が可能であるということが重要な条 件であり、そのためには特定の顧客や販売が見込める市場が明確にあることが必要である。
昨今のように景気の先行きが不透明な状況では投資が控えられるのは当然として、その前 の69か月間続いた戦後最長の景気(平成14年2月〜19年10月)においても大企業の設備 投資は、平成 14 年度を底に 19 年度まで一貫して増加している。他方、中堅企業では平成 15年度が底となり16、17両年度は増加したが18年度は横ばい、19年度には早くも減少に 転じ、大企業との動きは乖離した。
この理由としては、大企業のグローバル展開の拡大による国内発注量の伸び悩みや発注企 業のM&Aの加速化による受注企業の整理・統合のような予測できない動きなどが中小企業 の設備投資を抑制させてきたものと思われる。また、たとえば金型産業などにおいては、海 外企業に対しては絶対的に製品の品質・納期などで有利な状況があったのもかかわらず、単 純な価格比較で競争入札に応じざるを得なかったり「中国価格」による指値での受注を余儀 なくされたりし、そのために設備投資や設備保守などのコストを切り詰めることによって対 応した事例もある。
したがって、資本装備率を引き上げるには設備投資を促進させる対策だけではなく、投資 意欲が出る企業環境を構築していくことも必要があるのではないだろうか。
図表 Ⅱ−6 製造業の設備投資の推移(平成10年=100)
出所:経済産業省「設備投資調査 平成12年3月〜平成20年3月」から作成
− 9 −
3.生産性向上のためのポイント
製造業の生産性を向上させるには、上記2.でみたように中小企業の設備投資インセンテ ィブがほとんどない中で資本装備率を引き上げることはかなり難しいと考えられ、分子であ る付加価値額引き上げこそがポイントとなる。
付加価値額 = 売上高 − 費用
そのためには、売上高の増加または費用の低減を考えればよいことになる。それらの対策 はいろいろ考えられるが、それぞれの企業が持っている人、モノ、カネ、情報によって効果 や実行可能性、費用等が異なり、どれを採用し実行するかは個別に検討が必要となる。
図表 Ⅱ−7 生産性向上対応項目(例)
不採算製品の見直し 製 品
新製品の開発・品揃え強化 販売数量の増加
販売価格の値上げ
不採算取引先・市場の見直し 営 業
新規取引先開拓 仕入先の見直し 購 買
仕入れ価格の値下げ交渉 生産方式の見直し
自動化機器の導入・IT の活用 品質管理の向上
製 造
原価管理の徹底
企業・製品知名度の向上 特許対策
知的財産
ISO 等の取得 IT の活用 間接費用
金融コストの低減・リースへの切り替え 出所:財団法人商工総合研究所「商工ジャーナル2008年8月号
中小企業の採算向上への取り組み」
上記以外にもたとえば新製品の開発といっても、実現するために自社の技術力や営業力を カバーするために企業間連携、産学官連携等を新たに考えることも必要になるかもしれない。
情報や技術、販売ルートなどがこれまでの取引先だけでは不十分であり、他に求めなければ ならなくなってくるからである。
− 10 −
4.ITの活用推進
生産性向上の方法としてほとんどすべての企業において何らかの社内業務に適用できる手 段がITの活用である。
最近の各種の調査(注2)をみても、インターネットの活用は中小企業においても95%
以上の企業が活用しており、生産、営業、事務処理等幅広い業務に導入されているようであ る。
他方、課題としてIT人材不足、ITリテラシー不足、初期コストが高い等があげられている。
(注2)商工中金 調査部「中小企業のIT 活用に関する調査(平成20年5月)」、
財団法人大分県産業創造機構「中小企業IT利活用状況アンケート調査」
(平成20年11月)
IT機器の価格は最近の動向をみても急激に下がっており、パソコンやサーバの活用はもと より、生産管理へのバーコードやICタグの導入も、コストに見合う以上の成果が期待できる ようになっており、ITの生産性向上への期待はすでに現実のものとなっているといえる。
図表 Ⅱ−8 IT投資やITの活用における課題
〜人材の確保とコスト負担が課題〜
出所:中小企業庁「中小企業白書 2008年版」
しかし、課題としてあげられているIT人材不足、ITリテラシー不足はITの活用を妨げ、
ITによる生産性向上を阻害するものである。経営者にはITの生産性への無限といえる可能 性への理解とそれを実現するためにIT人材の育成とITリテラシーの向上を計画的に進めら れることが期待される。
− 11 −
ITは、自社内の業務に特化して活用し生産性向上を期待して導入する場合のほか、たとえ ばCADやEDIのように取引先の生産性向上施策にリンクして自社も導入が必要となる場合 がある。取引量の多い取引先との間での利用では投資コストに見合い、自社内でも横展開し て生産性向上に寄与することが期待できる。しかし、日本では取引先によりCADやEDIの システムが異なる場合が多く、取引先ごとに導入することは受注企業側にはコスト負担とな るばかりか、場合によっては手作業と並行になったりして中途半端なシステム化になること も考えられる。
そのような不都合を解決するために、社内のIT人材、ITリテラシーが一定レベル以上あ る企業では、たとえば特定のCADシステムの指定をされても、汎用データ形式に変換する プログラムを安価に入手して変換することにより多額の投資が回避している事例も見られ、
最新のIT情報をいかに早く入手し活用して合理化、生産性の向上に取り込むこともキーで ある。しかし、このような方法は多くの中小企業にとってはまだまだ困難なように思われる。
むしろ標準化やその導入・移行のための施策が求められる。
ITが業種を問わずほぼ共通して活用できる分野として取引マッチングがある。受注企業に とっては営業費用がほとんどかけずに社名や製品名等をPRしたり、顧客を探すことができ、
発注企業にとってはより広範な地域や業種から発注先を探すことができ、インターネット時 代ならではの営業・購買手段である。相手が見えない、代金の回収方法をどうするかなどこ れまでの営業活動とは異なった課題もあることは確かであるが、そこで止まらずに、課題を 一つひとつ解決して、活用して費用対効果でかなり有効なビジネス手段となっている事例も 多い。それらの課題を解決するためのノウハウもすでに多数あり、自社に適した方法をとる ことにより、必ず効果は出るはずである。
取引マッチングシステムも業種別や地域別に対応しているシステムが種々あるが、全国ベ ースでかつ対象業種も製造業、サービス業を幅広くカバーしていて、しかも費用負担を必要 とせず、事務局が対応し、管理しているシステムの例としてビジネス・マッチング・ステー ション(略称:BMS、URL:http://biz-match-station.zenkyo.or.jp)がある。パソコン のブラウザと電子メールさえあれば利用でき、営業の生産性の向上が図れるということもI T活用のメリットである。
− 12 −
Ⅲ.ヒアリング調査結果の視点
Ⅲ.ヒアリング調査結果の視点
中小製造業では、生産性向上は企業活動の成否を決定する重大な要因である。経理活 動など製造業務以外の間接業務の内容が増え、各社ともその対応に苦慮している。また、
市場における製造業の寄与する中身は社会的貢献など、従来の中小企業の概念で必要と されなかった内容まで評価・選別の対象になる。
市況状況の変化の中で、大企業や商社などが担っていた社会的責務への担当分が製造 企業に対して「ブランド」という形で徐々に転化された結果、従来の概念の大量生産と いう形で利潤を得ていた製造中小企業は、既存の志向のみでは経営上の継続・展開が困 難になってきた。従って、中小企業では生産性向上という視点が今後必要になる。
しかし、その概念の幅はかなり広い。中小企業の経営者には、直接的利得が短期的に は明確な経営指標としての項目として出てこない上、広い視点を導入する機会もなかな か得がたい。その状態では、主納入先の意向に従った手法を自社陣容に最適化できず単 純導入するなど、対症療法的な手法にとかくなりがちで、生産性向上の重要性がいまひ とつ理解されない側面がある。さらに、中小企業を指導・支援する機関ないしはコンサ ルタントも、このシステム構築に関する所は、各企業の特性に依存する項目のため、個々 対応でしか指導内容に含められないのも現実であろう。よって、先駆的かつ規模や陣容 の類似した企業での取り組みを中小企業内で相互に実施事例として展開する活動が必要 と考える。
このためには「単発的対応のノウハウ蓄積・改廃と、陳腐化した内容の更新、技術蓄 積とその更新などの習慣付けを行う至近の対策」と共に「仕事の中でルーチン的内容の 分析と機械化を行い、単純労働から思考労働へのハイブリッド(複合)的人材活用など 根本的発想を変える長期的対策」という二面性を持った対応が必要とされる。
1.調査対象企業の概要
実績をもつ企業を中心に聴取した。ただし、製造業には企業経営上の差異が当然のこ とながらあり、各企業の持つ事業の志向を考慮しなければ比較の意味がない。
たとえば受注製造品の少量多品種生産と、製造技術を売りにする業者とは単純比較が 困難である。セールスポイントの差異を考えなければならない。その観点で分類を行っ た。
このなかで、各々の企業の業態を研究するためには、業務の形態を精査する必要があ る。そこで表Ⅲ−1(頁15)の分類を実施した。
経済性を考慮した企業経営の検討を行う場合、業務フローにおける見積もり業務・営 業業務・設計業務・製造業務・経理業務などの優先順位がおのずから異なる。それを前 提に各社は、投資内容や人材育成課題などを決定している。
更にこれらを現実の業務に継続的に反映していくには「単発的対応のノウハウの蓄積・
− 13 −
改廃と、陳腐化した内容の更新、技術蓄積とその更新などの習慣付けを行う至近の対策」
と共に「仕事の中でルーチン的内容の分析と機械化をし、単純労働から思考労働へのハ イブリッド的人材活用など根本的発想を変える長期的対策」という二面性を持った対応 が必要とされる。従って、以降この分析内容を元に解析を行っていく。
<事業の志向性>
受注開発:顧客からの概念的要求に対し専用設計を行う。
専用設計業務自体が付加価値として直接収益の対象となる。
受注製造:顧客からの要求に対し製造・納品・サービスを行う。
客先により最終納品先となるオーダー生産の形で個数を指定され、そ れに応じて納品する。
自主開発:顧客からの仕様要求を想定して製造元が商品開発を行ない、そのなか で仕様を選択してもらう。
資本投下を行って製品を独自開発し、顧客に対してはカタログ仕様か ら選定できるシステムを整える。
設計業務自体は収益の対象にならない。
自主製造:見込み生産・製造・納品・サービスを行う。
生産計画を市場動向調査結果から推定する。販売時に技術サービスが 必要なものに関しては、付帯してサービス業務(例:運転管理や製品 設置のスーパーバイザー業務・官庁申請指導)も供給する。
<事業領域>
機 械:切削加工と組立に関して技術をもち、事業を行うもの。
電気・電子:電気・電子部門の用途に用いる技術をもち、事業を行うもの。
化 学:化成処理などの化学的手法をもって事業を行うもの。
− 14 −
表 Ⅲ−1 調査した企業の事業内容の分類
事業の志向性 事業領域
社 名
(株):株式会社
(資):合資会社
(有):有限会社
所在地
受注開発
受注製造
自主開発
自主製造
機械
電気・電子
化学
1
(株)羽村金型 東京都羽村市 ○ ○ ○2
(株)コスモ計器 東京都八王子市 △ ○ ○ ○3
(株)チバダイス 東京都葛飾区 △ ○ ○ ○4
東葛工業(株) 千葉市美浜区 ○ ○ ○5
東亜潜水機(株) 東京都荒川区 △ ○ ○ ○6
(株)ミナロ 横浜市金沢区 ○ ○ ○7
(株)谷田部銘板製作所 東京都板橋区 ○ △ ○8
(株)ユウキ工業 神奈川県相模原市 ○ ○9
(資)加藤研磨製作所 東京都大田区 ○ ○10
ヱビナ電化工業(株) 東京都大田区 ○ ○11
岡田鈑金(株) 東京都大田区 ○ ○12
(有)原プレスエンジニアリング 神奈川県相模原市 ○ ○ ○13
(株)厚栄商会 神奈川県厚木市 ○ ○14
(株)マテリアル 東京都大田区 ○ ○ ○15
(株)オーエイ 神奈川県相模原市 ○ ○16
(株)セラテック 東京都あきる野市 ○ ○ ○17
(株)坂戸工作所 千葉市花見川区 ○ ○ ○18
(株)メトロール 東京都立川市 ○ ○ ○19
千代田第一工業(株) 東京都狛江市 △ ○ ○ ○20
(有)齋藤製作所 横浜市鶴見区 ○ ○計
7 15 9 6 8 10 2
注: ○:主要な事業内容・領域を示す。
△:副次的に行っている事業内容を示す。
− 15 −
2.中小製造業における生産性向上策の考察
生産性という語彙からは、需要と供給の間にある正当な価格転嫁が出来ない社会的問 題が連想される。
考えられるものとしては、日本の経済活動全体にある価格・賃金の強い下方硬直性と、
企業の社会的責任分担議論に基づいた価格・賃金の上方硬直性自体にあることが想定で きる。図表Ⅱ−1 に示した労働時間あたりGDPの指標を考えると、OECD平均値と の比較をする場合、金銭的数値的指標を唯一の評価とした場合、その傾向を見る定性的 指標に限るならば、生産性の単純比較は効果的であるが、細部の効率比較で国ごとの優 位性に一喜一憂することは、為替レートなどの排除できない要因も含んでいる。(なお、
各国とも国内でも微視的に見れば、地域的差異は見られる。)
従って、今回の検討は、事例と分析を広範囲に取得して比較材料とし、同じ社会的環 境にある中での相対的評価指標として数値は把握するべきと考える。
一般的には、生産活動に対する要素(労働・資本など)の寄与度が生産性と定義され ることが多い。この見方によれば、経営資源から付加価値を生み出す際の効率といえる。
最小の労力で最大の効果を得る、少ない労力とインプットで多くのアウトプットを生み たいという考えである。これらのことから、定義上ではこう示される。
インプット アウトプット 生産性=
このアウトプットが付加価値額として定義されるが、まずその額を単に業務上の収益 と単純にいっていいのか、のれん代などの無形資本形成を如何に考えるかによって異な ってくる。またインプットは一般的には労働投入量と定義されるがこの定義も問題であ る。労働時間・従業員数とで視点が異なる上、労働者の実労働時間(残業も含めた)と いう視点の差が厳然と生じる。これらの定義の触れがあることを前提として概念的な視 点をとる必要がある。
生産性は投資回収率という言い方もできる。この結果、生産性が高い方法ものをさら に見直すと、以下の視点での分析ができる。
より少ないコストの生産(経営者的視点)
労働の余暇を増加(労働者的視点)、勤務時間を減少(経営者的視点)
利益増加(労働者的視点・経営者的視点)
これに時間的ファクターが関係する。インプットの短期回収を意図するか、長期間に わたるインプットの高効率の回収を意図するかによって議論が異なる。更に金銭的な付 加価値を得るために、非金銭的付加価値というもの(勤務先の社会的地位・公共的認知 度によるインセンティブなど)を与えて金銭的な資産でないものを供給することにより、
より多くのアウトプット(付加価値)を得る事例も見出せる。
− 16 −
概して国際的には生産性の高い産業は比較優位に立つといえる。ただし、この生産性 というところを勤務者の賃金ベースで考えると地域間格差が問題になるため、単純に比 較できない。価格特性が地域の平均的居住者の賃金でしか取引されないサービス業では、
革新的な手法を普及するなどの懇切丁寧な対応を行うことを行った事例を除くと、なか なか生産性の向上手法は難しい側面がある。
生産性という言葉は、製造業においては量的なものに高い比重があり、直接的な利益 として出ない知的所有権にかかわるものは単純には算出しにくい。これは、製造業の業 態でサービス業的な視点が目立つ総務・営業部門にも、生産性向上が援用できる部門が 潜在しているといえよう。
生産性の指標には、何を基準にするかでいくつか種類がある。
(1)資本生産性
総資本が一定期間に生み出す付加価値の効率を示す指標である。
有形固定資産 付加価値額 資本生産性=
と定義する。
資本生産性が高い会社は、少ない設備で大きな付加価値を生み出しているという。一 般的に、資本生産性は労働生産性とトレードオフの関係であるという。例えば、産業機 械の導入で自動化を図った場合、従業員を減らすと労働生産性が上がり、設備を増やし た分だけ資本生産性が下がる。
(2)労働生産性
a 付加価値額 労働生産性=
と定義する。ここに、aは総労働時間・従業員数のいずれかである。
平均人件費の伸びがある場合(定期昇給がある場合)労働生産性の伸び率が平均人件 費の伸び率を上回る必要がある。労働力が遊ばないように資本を装備・充実すると、労 働力の回転率が上昇して労働生産性が高まる(ただし、導入の際の初期準備・初期投資 で一時的には落ちることはある)のだが、反対に資本生産性が低下する。
これは「生産性」という言葉の定義が種々あり、その運用が異なることによる。「生産 性」は社会的にも経営的にも高ければいいといわれるが、社会的ないしは経営的に効果 的な生産性という定義での相互の相関性は現段階ではあまり実証されていない。企業や 組織体の経営資本利益率などの指標との比較が試みられるが、一定の資源からどれだけ 多くの付加価値を生み出せるか、一定の付加価値をどれだけ少ない資源で生み出せるか という視点の差が区別されにくいのも一因ではないか。
国全体の労働生産性向上は、個別産業の労働生産性が高まるか、あるいは労働生産性
− 17 −
の高い産業の比重が高まれば達成される。労働生産性「上昇率」の高い産業との相対的 比較は可能だが、労働生産性上昇率の高い産業に労働力が簡単にシフトすることが雇用 流動性とのトレードオフでもあり、実際には大きな障害になる。また、労働生産性上昇 率の高いことが実績として明らかになった産業は、明らかになった時点で追加的な付加 価値の生産に必要な労働力が相対的に少なくて済む傾向も見出せるという。
図表Ⅱ−2では、非製造業部門や中小企業の労働生産性の低さが、賃金動向を見ると 強調されている。ただし、中小企業の労働生産性は製造業において労働集約的部門に偏 っているからともいえる。
労働生産性の定義、算定手法の問題もあろうが、元請企業の労働生産性に対して、下 請企業は約半分ということをいわれている。なお、これらは元請と外注企業の株の所有 有無など別の事由も関与しているといわれる。この指摘を導入すると、下請企業の労働 生産性の低さは、請ける仕事の単価の問題であり、その中で価格決定権の支配者がどち らかということに帰結する。
今回の調査対象企業のように、価格支配権がある「親会社」がない製造企業では、労 働生産性が大手企業と大きく差がないはずだが、現実には企業規模で付加価値量の多い、
少ないを支配するということが想定できる。
− 18 −
Ⅳ.ヒアリング調査結果の詳細
Ⅳ.ヒアリング調査結果の詳細
1. 調査実施企業の手法の傾向分析
生産性向上の結果は、企業の持続可能性としてあらわれる。そのため生産性向上の継 続的活動が求められる。そこで、一般的な行動の手法であるPDCAサイクルをそのツー ルとして考えある程度の具体性を持った分析を試みる。
PDCAサイクルは、業務実施のうえでサイクルを構成する次の4段階の頭文字をつな げたものである。
Plan (計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。
Do (実施・実行):計画に沿って業務を行う。
Check(点検・評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する。
Act (処置・改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする。
この 4 段階を順次行って 1 周したら、最後の Act を次のPDCA サイクルにつなげ、
螺旋を描くように一周ごとにサイクルを向上(スパイラルアップ)させて、継続的な業 務改善をする。ビジネスシーンにおいては、PDCAサイクルが「仕事の基本」を表すも のとして用いることが多い。
Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。
環境変化を行う、ないしは問題点解決のための誘引は各社ともある。その原因は、今 回聴取した内容を見てみると大きく分けて外的要因と内的要因がある。
<改善活動を行う誘因>
1. 外的要因:ユーザーからの要求仕様、受注から製造までの納期、品質管理、価格要 求などの要求が、国際的調達などが個別企業では抑えきれなくなった り、一業者・一業界団体の能力を凌駕する速度で変質したもの。
2. 内的要因:労務状況や職員構成の経年変化対応が不十分、開発技術の蓄積が不十分、
社内管理技術など生産技術研究の遅延、職員の意識変化、見積もり内容 が顧客に対しガラス張りになるなど、比較的予測可能な内容であったに も関わらず対応能力が伴わなかったり、潜在的問題の抽出に漏れがあっ たりしたもの。
− 19 −
Do(実施・実行):計画に沿って業務を行う。
指示を遂行するには以下の点に方針を絞って検討していくものと考える。
<業務改善行動の実施志向>
1. 業種・業態が対外的影響を受けやすいか受けにくいか、また実施した内容が対外的 影響を与えやすいか与えにくいか。
2. 対外的な問題を中心に対応するか、社内の問題だけの内部的対応にするか。
3. 人材育成など無形投資中心で問題を対処するか、ITなど有形投資を中心に対応す るか。
Check(点検・評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する。
Act (処置・改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする。
これらは上記実行計画内容を実務に用いた場合の解析によるもので、評価と処置の中 身をこのように解析することも提案している。(なお、PDCA サイクルはごく小さい内 容に限ったり、判断の迅速化を志向したり、迅速かつ改善の頻度を極めて上げて効果の 早期刈り取りを意図する場合 PDS サイクルという言い方で Check(点検・評価)と Act
(処置・改善)を統合した See(観察・把握)という言い方にする場合もあるため、決 してこの表現は特異なものでない。)
そして、この点検・評価・処置・改善の現実的推進方法には5つの方向性があると考 える。
<成果の評価と改善指針着手への方向策定>
1. 投資による資本財(生産手段)蓄積の増加。
2. 教育による人的資本(労働力)の質の向上。
3. 低生産部門から高生産部門などへの経営資源の再配分・調整による効率性の向上。
4. 研究開発による技術進歩。
5. 周囲環境・外部環境の整備・調整。
各々の企業にて、自分たち企業の運営に関する問題点を認識する上では、改善活動を 行う誘因・業務改善行動の実施志向・成果の評価と改善指針着手への方向策定の各要因 が複雑に関連している場合が多い。そのため、単純な組み合わせを考えても
5 3
2∩ ∩ =30 (∩は、最小公倍数をいう)
の組み合わせがあるため、かえって原因が特定しにくいことになる。
ここでは、<成果の評価と改善指針への方向策定>の内容が如何に実施内容に反映す るかを分類してみた。その解析事例を表Ⅳ−1に示した。
− 20 −
このような解析を繰り返しながら、各社とも業務を革新し、企業の活動を進めている ことになり、また、その繰り返しをルーチンとして確立した企業が、生産性向上に成功 しているようである。
表 Ⅳ−1 調査企業の着手傾向
1 2 3 4 5
社 名
(株):株式会社
(資):合資会社
(有):有限会社
生産手段蓄積
教育育成活動による労働力の質向上
経営資源再配分・労働内容の質向上 研究開発の推進 外部環境の整備
備考
1
(株)羽村金型 ○ ○2
(株)コスモ計器 ○ ○3
(株)チバダイス ○ ○ ○4
東葛工業(株) ○ ○ ○5
東亜潜水機(株) ○6
(株)ミナロ ○ ○ ○7
(株)谷田部銘板製作所 ○ ○8
(株)ユウキ工業 ○ ○9
(資)加藤研磨製作所 ○ ○10
ヱビナ電化工業(株) ○ ○ ○11
岡田鈑金(株) ○ ○ ○12
(有)原プレスエンジニアリング ○ ○ ○13
(株)厚栄商会 ○ ○ ○14
(株)マテリアル ○ ○15
(株)オーエイ ○ ○16
(株)セラテック ○ ○17
(株)坂戸工作所 ○ ○18
(株)メトロール ○ ○ ○19
千代田第一工業(株) ○ ○ ○ ○20
(有)齋藤製作所 ○ ○− 21 −
2.独自視点による特徴的手法の紹介
生産性向上という要求も前述の視点で方向性を整理することができる。
1. 製造工程改善で直接的な時間対効果を得る。
2. 製品開発・研究で高い商品価値を得ることで対価向上を図る。
3. 物流・工程管理で在庫時間や遊休時間を減少させ業務平準化を図ることで時間対 効果を得る。
4. 人事・総務業務を減少させ、動きやすくする業務フローを提案して直接的な時間 対効果を得る。ないしは個人スキルを高める間接業務を創出することで、短期的 には時間対効果・そして長期的には製品開発・研究で高い商品価値を得る。
5. 販売・営業企画を行うことによる業務開拓を行うことで、長期的に製品開発で高 い効果を得る。
ここでは、図表Ⅱ−7で示した生産性向上の対策手法をベースに、さらに多角的な判 断を試みる。この表では人材育成による等の間接的効果を排除して評価している。これ は人材の育成はすべての項目に重なるせいでもある。更にこの評価項目は直接的な成果 を見出すことが容易なものに限った分析として、効果内容の明確化をすることで、特徴 的な問題が明確になっている。
特許に関しては、基礎的な技術を追求していく中小企業の業務形態からか、間接的な 支援に注力しているため本事例調査では明確ではない。むしろ製品開発など現実的なビ ジネスシーンで勝負するものと考える。
購買業務の指針が少ないが、これは、本クラスの規模の企業では、製造原価が比較的 他の企業から見えやすいことから、どこも究極の原価構成の中でしのぎを削っているこ とが判っていることもあろう。価格差だけでの購買先選定は限界になっているところが、
大企業の手法とは色合いが異なる。購買先との関係が金銭的な問題より業者間の信頼で 成り立つ側面が多いことがあると推察する。
このように、量的な規模拡大で企業活動の継続を図る手法もある一方で、今までの経 験から改善を進めることで、独自性や他に対しての存在感を示し、いわゆるオンリーワ ン活動が多くなっている。そしてこれは、企業規模が小さいからこそ、とることができ る手法でもある。
これらは従来のものを作るという意味での純粋な意味での製造業ではなく、技術サー ビスや物流などを物品製造の付帯業務、広義の「サービス」と定義すると「サービス」
全体を取り込んでいるビジネスモデルである。付加価値を高める「創造業」というべき
「第二次産業ベースの第三次産業」というハイブリッド形態への進化、付加価値付与が 現在の製造業の変革の手法といえよう。
− 22 −
表 Ⅳ−2 調査企業の細かな指針の分析
製品 営 業 購買 製 造 知的財産 間接
社
名
︵法人名称省略︶
不採算製品の見直し
新製品の開発・品揃え強化
販売量増加
販売価格の値上げ
不採算取引先・市場の見直し 新規取引先開拓
仕入先の見直し
仕入れ価格の値下げ交渉
生産方式の見直し
自動化機器の導入・ITの活用
品質管理の向上
原価管理の徹底
企業・製品知名度の向上
特許対策
I S
等の取得 O
ITの活用
金融コストの低減
1 羽村金型 ○ ○ ○ ○ 2 コスモ計器 ○ ○ ○ 3 チバダイス ○ ○ ○ 4 東葛工業 ○ ○ ○ 5 東亜潜水機 ○ ○ 6 ミナロ ○ ○ ○ ○
7 谷田部銘板製作所 ○ ○ ○ ○ ○
8 ユウキ工業 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 9 加藤研磨製作所 ○ ○ ○ ○ 10 ヱビナ電化工業 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 11 岡田鈑金 ○ ○ ○ 12 原プレスエンジニアリング ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 13 厚栄商会 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 14 マテリアル ○ ○ ○ ○ ○ 15 オーエイ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 16 セラテック ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 17 坂戸工作所 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 18 メトロール ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 19 千代田第一工業 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 20 齋藤製作所 ○ ○ ○ ○ ○
− 23 −
3.結実したものに見られる特徴
とかく生産性向上の視点で議論すると以下のような内容が見られる。これらは便宜的 に分けたが、実施における詳細は有機的に重なっている内容である。
(1)製造工程改善による効果達成の具体方策
技術やノウハウを横展開し、IT技術を製造技術に結び付ける。ただし、技術を取り 扱う人材の効率的運用のほうが支配的といえるほど、各々の技術内容が深化・細分化さ れているため、製品群にどのように展開するかの判断を誤らない認識が必要で、また情 報過多にならない視点が望まれる。
紙図面と電子データの有機的活用に始まり、「工程管理」や「技術管理」「工程のつな ぎ」「生産管理」などをIT化によって人間の能力以上の発揮を期待する事例など、既存 の先駆的会社のノウハウをパッケージ化したツールが最近市場に出まわり、適度に使用 する工夫に長けた企業が効果を挙げている。
(2)製品開発・研究による効果達成の具体策
自社開発はいまや企業の差別化、企業存立のキーである。製品開発メインか製造技術 メインかの違いを前提で、双方とも並立することを経営資本上、選別実施している。社 外研究施設の協力を仰ぐことも多いが、今回の内容に限っては、社外にそもそも専門家 がいないからこそ、企業の存在意義が高い事例も多い。従って、他社とのコラボレーシ ョンに道を見出すとか、地域インキュベーションセンターとの付き合いが有効な場合も ある。
(3)物流・工程管理による効果達成の具体策
ITは多く使われるが、実際は職員のモラール形成など、付帯能力の問題が多い。製 造業の QCD のなかで物流・工程は管理すべき対象だが、デイリーで日々管理する行為は 人材のモチベーション維持や適材人材の選択にある。ITと人材育成を組み合わせて最 小の投資で最大の効果を見出すことが成功の鍵である。
なお、企業規模に合わせたシステムや社内機構選定などにもその要諦がある。
(4)人事・総務改善による効果達成の具体策
成果主義で社員同士の研鑽・競争を促す行為が中小企業では適合せず、むしろそうで ないことを自社の特徴にしている。大きな企業体が成果主義に偏らなければならぬ状況 下にあるからこそ、集団活動を主とする企業が存在価値を増す。
求人活動や人材養成業務に独自性をもつことを、調査企業が意図したのが非常に特徴 的である。教育投資が大手企業で減らされる傾向に対し、中小企業では金銭的に負担が 掛からない方法で実施する一方、担当者自身の担当業務の重責化を図ると言えよう。こ
− 24 −
の意味では労働集約的経営となっている。
(5)販売・営業企画による効果達成の具体策
ITによる営業活動を更に進めて、他業務の兼務(人材育成を伴う)を進めることに よって、生産性の向上に成功している。ただし、ITを前提にしつつ、人的つながりが ある新たな営業手法(ホームページの反響営業㊟や技術相談)は、各企業のノウハウに なるため、工夫が行なわれている。
㊟:反響営業:新聞・テレビ・雑誌・DM・WEB などの媒体を使って PR し、興味をもった顧客に対し てだけ、詳細説明と営業をする営業手法。質の高い反響が沢山有る場合に売上確保が図られる。
従来の専門商社とは異なるマッチングサイトの隆盛とそれを有効活用する企業、有限 責任事業組合・受注組合などを志向する企業活動が、有効に機能し始めている。これら を支援するという役割が、今後地域インキュベーションセンターや中小企業支援組織な ど、公共団体にも求められる。
上記の(1)から(5)の記載に当たっては、定性的事象を抽出したが、詳細まで示 すことは、事例研究がこの調査の趣旨とするには、そぐわない面がある。従って「Ⅴ.
調査結果に見る生産性向上事例の分析」の各項目の記載中に、事例各々の詳細検討と評 価を記載したので参考とされたい。
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑
(参考)
今回の調査では、取引先大手企業が支配的立場を利用し中小企業に対して購買条件な ど圧迫し、また元請業者が下請業者に対して支払いを不当に減額したりするなどの不公 正取引行為が実は多いのではという疑念を持っていた。
最近の研究機関提供による新聞報道では、下請取引の苦情や紛争の相談件数が 2008 年度4月〜10月(7ヵ月)で前年度の約2.7倍に達したと報じている。その中身は製造 業、建設業、情報通信業が多く、なかでも「代金回収」に関するトラブルが過半数とい う。その内、代金の不払い、契約の解釈、発注品打切などの「取引の変更」、納品後値引 要請の事例もある。
このような情勢は、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)を根拠にし た公正取引委員会の摘発も増加させ、相談機関としての「かけこみ寺」の存在価値が更 に増しているといえよう。しかし、今回の我々の調査範囲では、OEM 契約の取引条件 変更事例が散見された他は、顕著な事例はなかった。この理由は以下の理由と思われる。
今回調査した企業は、概ね自己技術能力が高いため、他社にて代替がきかない技術 など、事業内容に比類なき特徴を持った企業である。このクラスの企業は存在意義
− 25 −
が高く、取引先にとっても関係解消は製品の技術力自体を直接的に低下させる。
商慣習が各国で差異があり、その商慣習に対して対価が設定される。しかし、その 商慣習(たとえば金型の検収条件)の相違を考えずに対価設定がされるなど、認識 の違いによる障害が生じることがある。
契約時にこのようなある意味で「危険な発注元」を回避できるような環境(自己資 本増強・取引先分散・技術料の根拠を知的財産権などで明示)を創造し、これらを 前提とした営業を実施することが、優先的発注行為による被害を回避する事例もみ られる。
業界自体に収益確保が図れないなど制度疲労が蔓延している場合、公平と目される 商慣習からの逸脱と発注側企業の存立が相反条件(トレードオフ)になる場合もあ る。この場合は、業界の枠を超えた技術開発や商権拡大を図る(たとえばインター ネット取引に参画・異業種間の共同受注事業への参画・通信販売など小口受注への 対応)などのシフトができるような環境も徐々に整えられていることから、業態を 移行することも行われる。
従来の日本の企業自体は、業務内容が一時悪化しても、その企業で業務の工夫を極 めるため、技術的進歩・新規市場の創出を行い、競争力のある企業体を創出してき た。このような社会的慣習が値引きなどの対応に関して、きわめて心理的・非論理 的解決を容認させる商習慣を、業界につくった側面もある。
その構図には、すでに下請法の想定内にあった、親事業者と下請業者、大手対中小と の関係という、一方的優位性とは異なるパターンもある。それが中小企業同士にも拡大 していることである。限定された市場のなかでお互いが、経営指標である収益の仁義な き(倫理なき)食い合いをしている。従って「危険な発注元」を回避できる環境を種々 の形で企業側に持つことが、優先的発注行為自体を抑制する行動になると考える。
問題は業界自体に収益確保が図れない状況が、その業界にかかわる業務である以上免 れない事例の続出である。以前は構造変化という明確な理由なしに生じない事故と思わ れていたが、国際競争の下「制御しにくく飽和する市場」の現実がある。しかも下請法 では、資本金の区分でルールを定めているため、資本金 1000 万円以下の中小同士での 紛争事例では対処が難しい側面もある。そこで、新たな業務展開という間口を広げる行 為以外に、他業種への速やかな「転進」(進む方向を積極的に変える)行為が必要である。
そのような場合は、インキュベーションセンターや各種支援団体を活用して、外部のア ドバイスを取り込める柔軟な姿勢を経営者が持つことも必要であろう。
− 26 −
4.2008年金融危機以降の情勢変化
2008年10月6日から10月10日の週は世界の株式市場で大きく株価が下落し、暗黒 の一週間と称するメディアもあった。日経平均株価は、この時期 5 日連続で 2,661 円
(24.33%)下落した。海外の主要市場も大きく株価が下落し、新興国の株式市場では 閉鎖に追い込まれるなど、深刻な事態となった。
今回の調査においては、Ⅰ項に示したとおり、調査時期がこの世界金融危機が発生し た時期にちょうど合致した。このため調査期間中に、質問内容を見直す必要性も検討し た。
概して以下の意見に分かれている。
(1) 市場の冷え込みがあるが、それに伴う環境変化に対応する営業活動を進めて いく。
(2) 市場が冷え込んでいるが、その反面、長期的視野で見ると人材の供給が円滑 になるなど、副次的には有利な要因を見出す。
(3) 工数減少分を、普段活用できない社内整備や新規製品開発など、今後の投資 に対する先行投資に振り分ける。
ここで現在の大手企業のような問題と根本的に違う側面がある。受注企業の場合は、
基本的在庫が企業活動に必要な最小限の範囲にとどまっていることがある。また、具体 的に特殊な用途であるため、もし単純に需要が減少しても同業他社に価格上昇によって 発注が動くような要因になりにくいこと、更に、多少発注が減少しても補修部品が代わ りに出る。例えれば「余人を持って代えがたし」という存在であろう。また、在庫管理 に関しては、カンバン方式を取引先が適用するとその手法に影響されて在庫管理をおこ なう現況から、すでに在庫は限界まで減少しシェープアップしていると思われる。
そこで、現在の動向を示す主な事例は、以下のとおりである。
この時期に合わせて新規に大手企業志望者をねらうことで、中途採用の人員を増加 させ、社外業務など対応能力を拡張させ、社外への依頼業務を絞り込む。
商品開発や用途提案・社内設備や技術標準のとりまとめなどを行うなど人材をシフ トし、日ごろの業務で手をつけられなかった業務にシフトする。
従来の企業対象からインターネットによる受注営業を個人顧客に振り分け、顧客の オリジナルや特注品の要望が大量生産品のカスタマイズでは充足されていない顧客 をターゲットにし、顧客との直接交渉で製造工程を含めた作業サービスを提案する。
ただし、今後の状況によって変動があるとはいえるが、このような従来の中小企業の 概念にこだわらず、日本人の志向にあったシステムを工夫する行動は増えると考える。
− 27 −
5.中小企業支援活動への要望
今回、中小企業支援策の活用についての意見聴取もおこなった。もちろん、この種の 融資や支援を基本的に受けない姿勢を堅持することで、独自性を持つ企業も多い。
顧客による支援という形をとらず、大きな投資資本を得るには、取引銀行や信用金庫 などに相談する手法もあるが、固定資本が少なくチャレンジ性の高い企業には一定の箍 をはめられるのも現実である。その点、地元密着を旨とする中小企業で、公的な支援を なんらかの形で得ることも、大きな選択肢である。
活用をしている企業には、以下の意見がある。
● 行政の支援は、業界全体・地域全体への配慮もあり、全体的に底上げをはかるも のが多い。この結果、差別化しにくい内容・システムのため、総花的になってい る。
● 設備や建屋などの支援など、大きな規模が要求される支援に対しては非常に助か っている。
● 仕事の効率が高くなった分を今後の先行投資に振り分けようとしても、柔軟性に 乏しい面がある。
● 概してハード(設備などの資産)面、ソフトの面についても(技術指導・人材育 成)充実されているようであるが、今後は、さらに充実して欲しい。
これは業務に公益性を確保しなければならない、政府・地方自治体における手法の限 界といえる。反面、公的機関が与える評価が、対銀行折衝のほか共同受注活動や商談会 にかかわるトリガーになるほか、営業活動のお墨付きに働く側面もある。中小企業支援 策がすべて「痒いところに手が届く」サービスを志向することには困難を伴う側面があ るが、率直な意見を吸い取り、細かく繰り返し PDCA サイクルをまわすことで、ある 程度までは最適化できると考える。
公的機関が企業の財務内容・経営内容について、公的機関以外の専門家グループを外 部に持ち、「値付け」活動をおこなうことで、民間の融資活動に対し評価・格付け支援す る手法である。現在でも一部の地域でこの形に近いソフト的支援を行っており、好評と 聞く。
このほか、受注活動のためには出会いも必要であることから、インターネットの上で このような窓口や相互の相談窓口を設置する場合もある。民間でも同種の活動を行う新 たな情報ビジネスを立ち上げ成功事例も出ているが、この内容自体が新規ビジネスモデ ルの側面もあるため、定着するまでは金銭的な具体的支援と、推奨など無体的支援を行 い、徐々に後援という形に切り替え、市場における活用推奨をおこなう形にするのもひ とつであろう。
− 28 −