博 士 ( 理 学 ) 森 越 文 明
学 位 論 文 題 名
Collective Manipulation of Quantum Entangled States ( 量 子 エ ン タ ル グ ル ド 状 態 の 集 合 的 操 作 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
情報とはぃったい何 であるか、とぃう問は科学における基本的な問題のーつです。情報と は抽象的な概念であり、数学的な手法のみによって研究されると思われがちです。しかし実際 には、情報は実在の物理系の状態として表わされ、情報の処理はその物理系の時間発展として 記述されます。その系を支配する物理法則が、情報の性質についてある種の制約を課している ということが考えられます。したがって、情報とぃうものの本質を理解するためには、物理学 的な視点から研究することも必要となります。っまり、はじめに述べた問に答えるためには、
情報の物理学というものが必要となるわけです。
従来の情報の概念は 、異なる状態を見分けることによって何らかの知識を得るとぃうこと に関係しています。ここでいう状態とは、実際には古典物理学によって記述される系で表され る状態をいいます。(簡単な例としては、コイン投げがあげられます。コイン投げをして、表 が出る状態と裏が出る状態を見分けることによって、どちらの結果が出たかの情報が得られま す。)したがって、従来の情報の概念は、古典物理によって支配されているとぃえます。この ような情報を、古典情報と呼びます。
しかし、この世界は基本的には量子力学によって記述されるため、量子状態によって表わ された情報というもの も考えられます。通常の物理学でよく知られているように、量子系は 古典系とはまったく異 なったふるまいを示すため、量子系によって表わされる情報とぃうも のは、古典情報とはまったく違った性質を持つのではないかと期待されます。量子状態によっ て表される情報を量子情報と呼ぶのですが、近年、量子情報理論の研究が急速に発展していま す。量子情報の重要な担い手の一種に量子エンタングルド状態とぃう特殊な量子状態が存在す る ので すが 、本 研究 は 、量 子エ ンタ ン グル ド状 態の 新た な 性質 を明 らか にし ま した 。 古 典情 報 の最小 単位は、0か1を表わす1ビッ トですが、量子情報の最小単 位とぃうもの はこれをさらに拡張したものとなっています。例えば電子のスピンを考えて、スビンアップで 10)を、スピンダウン で11)を表わすことにします。そうすると、この2つの基底の任意の重 ね合わせを考えることにより、I1)〓a10)十p11) (lal2十lpl2:1)という状態をっくること ができます。これが量子情報の最小単位で、キュービットと呼ばれています。キュービットを たくさん用意して、重ね合わせ状態で表わされた量子情報に対して、ユニタリ一変換や観測操 作などを施すことによって情報処理を行うのが量子情報処理です。
量子テレポーテーションや量子計算などの量子情報処理では、、量子エンタングルド状態を うまく利用することが重要な鍵となります。量子エンタングルド状態とぃうのは、2つ以上の 系からなる合成系の特殊な量子状態で、各部分の状態の積としては表わせないような状態のこ とです。最も有名なエンタングルド状態はーあ(IOO>AB十Ill)AB)であり、この状態は、EPR のパラドックス以来、量子力学の基礎に関する研究において非常に重要なものでした。Bellの 不等式の証明などを通して、エンタングルド状態に関する多くの研究がなされてきましたが、
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量子テレポーテーション等の発見によって、エンタングルド状態が単に量子力学の奇妙な一面 を映し出すだけではなく、情報処理を行うための重要な資源として認識されるようになりまし た。それ以来、工ンタングルド状態の基礎的な性質に関する研究が数多く成されてきました。
その中でも重要な結果の1っは、エンタングルド状態を定量的に扱うための理論が作られ たことです。エンタングルド状態にもいろいろな形のものがあり、各エンタングルド状態がど の程度エンタングルしているのかを定量的に示す、エンタングルメント・メジャーとぃうもの が定式化されました。大雑把にいうと、エンタングルメントの量が多い状態の方が、量子情報 処理において有用だとぃうことです。
工ンタングルド状態を量子テレポーテーションのような量子通信などに利用する場合、エ ンタングルした2つの系は必然的に、離れた場所にいる送信者と受信者によって別々に所有さ れています。したがって、エンタングルド状態に何か変換を施そうとする場合には、両方の系 にまたがる大局的なユニタリー変換は施せません。それぞれの系に施す局所的なユニタリー 変換や観測操作と、その観測結果をお互いに伝え合うための古典的な通信が利用できるだけ です。このような局所的操作と古典通信のみを使えるとぃうことが、エンタングルド状態の基 礎的な性質を研究する際に、重要な枠組みとなります。
局所的操作と古典通信とぃう枠組みのもとで、あるエンタングルド状態を他のエンタング ルド状態に変換する場合は、エンタングルメントの量が必ず減少してしまう、とぃう事実がエ ンタングルメントの重要な性質として知られています。
本研究では、ある工夫をすることによって、エンタングルメントの減少分を部分的に回収 する方法が存在することを示し、さらにその結果から、工ンタングルメントの新たな性質を明 らかにしました。
エンタングルメントとぃうのは量子情報処理におぃて非常に重要な資源であり、できるだ け減少するのを抑えたいと考えるのは自然なことです。そこで、あるエンタングルド状態を変 換するときに、それとは別にもう1組のエンタングルド状態を用意します。そして、その2組 に対して集合的な操作をすることによって、本来行いたかった変換を行いながらも、そこで減 少 してし まったエンタングルメントをもう1組のぺアが部分的に回収できることを示しまし た。受け皿となった、もう1組のエンタングルド状態が回収したエンタングルメントは保存し ておいて、それらをたくさん集めることによって、あとでまた、テレポーテーション等に使う ことができます。
このように、工ンタングルメントの回収が可能であることがわかったわけですが、このこ とを別の視点から見ることにより、エンタングルメントの新たな基本的な性質が明らかになり ました。一方のペアが失ったェンタングルメントを、もう一方のぺアが回収するとぃうこと は、見方を変えれば、一方のペアから他方のぺアにエンタングルメントを転送するとぃうふう に見ることもできます。そのような視点で、上で述べた回収が可能であるための条件を見直す と、エンタングルメントの転送可能性が、実は、どれだけのエンタングルメントが送り出され たかではなく、受け手の方のべアがどれだけエンタングルしているかとぃうことのみに依存す ることがわかりました。これは非常に直観に反する現象であり、工ンタングルメントとぃう量 が、通常の物理量とは大きく異なる性質を持っているとぃうことです。また、エンタングルメ ン ト・メ ジャー の概念 では説 明のっかない新たな性質の存在を示したことにもなります。
以上のように、本研究では、局所的操作と古典通信の枠組みで、エンタングルメントが回 収可能であるための条件を求めました。さらにその結果として、工ンタングルメントとぃう量 が 、 通 常 の 物 理 量 と は 非 常 に 異 な る 性 質 を 持 つ こ と を 明 ら か に し ま し た 。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 石 川 健 三 副 査 教 授 河 本 昇 副 査 教 授 石 垣 壽 郎 副 査 助 教 授 中 山 隆 一 副 査 講 師 末 廣 一 彦
学位論文題名
Collective Manipulation of Quantum Entangled States ( 量 子 エ ン タ ル グ ル ド 状 態 の 集 合 的 操 作 )
近 年 量 子 力 学 の 原 理 に 基 づ き 動 く 量 子 コ ン ピ ュ ー タ ー や 量 子 情 報 が 理 論 的 に 考 察 さ れ 、 新 し い 計 算 法 や 情 報 手 段 と し て 極 め て 有 効 で あ る 可 能 性 が あ る こ と が 示 唆 さ れ て き た 。 し か し な が ら 量 子 力 学 で は 、 観 測 に 際 し て 波 東 の 収 縮 が 起 き 観 測 の 前 後 で 因 果 律 に は 従 わ な く な っ て し ま う と 通 常 考 え ら れ て い る 。 因 果 律 は す べ て の 計 算 や 論 理 に お け る 基 礎 で あ り 、 因 果 律 を 破 る 計 算 や 情 報 理 論 は 意 義 を 持 ち 得 な い 。 そ の た め 量 子 コ ン ピ ュ ー タ ー や 量 子 情 報 の 分 野 で は 量 子 力 学 の 観 測 問 題 と の 関 連 は 無 視 で き な い 深 刻 な 問 題 で あ る
。 量 子 力 学 の 観 測 問 題 か ら 、 量 子 コ ン ピ ュ ー タ ー や 量 子 情 報 の 分 野 ま で 広 範 な 範 囲 で 重 要 な 役 割 を し て い る 特 殊 な 量 子 状 態 に エ ン タ ン グ ル ド 状 態 が あ る 。 こ の 状 態 は 高 次 元 ヒ ル ベ ル ト 空 間 で べ ク ト ル の 直 積 の 線 形 結 合 か ら な る 特 殊 な 状 態 で あ り 、 興 味 深 い 多 く の 性 質 を 持 つ 有 益 な 状 態 で あ る 。 今 ま で は 、 し か し な が ら 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 の 普 遍 的 性 質 を 明 ら か に す る 研 究 は 皆 無 に 近 く 、 そ の 研 究 が 待 た れ て い た 。 本 研 究 で は 、 一 般 化 さ れ た 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 に 関 す る エ ン タ ン グ ル ド の 程 度 を 定 量 的 に 示 す エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー に つ い て 新 し い 関 係 式 を 示 し 、 エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー が 持 つ 新 し い 性 質 を 明 ら か に す る と 共 に 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 の 持 つ 普 遍 的 性 質 の ー っ を 解 明 し た 。
Nielsenに よ り 、 エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー は 局 所 的 操 作 と 古 典 的 通 信 に よ り 必 ず 減 少 す る こ と が 示 さ れ た 。 そ の た め も っ と も 有 益 で あ る 理 想 的 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 は 容 易 に 他 の そ れ ほ ど 有 益 で な い 状 態 に 変 わ っ て し ま う 可 能 性 が 大 き い 。 そ れ を 防 ぐ こ と は 至 難 な こ と で あ る 。 し か し な が ら 、 申 請 者 は 部 分 系 に 着 目 し た 時 に は 異 な っ た 様 相 を 呈 す る こ と を 見 つ け 、 部 分 系 で の エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー の 増 減 を 調 べ る こ と を 提 案 し た 。 部 分 系 で の エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー は 増 加 す る こ と が あ り 得 る の か 、 ま た そ れ は ど の よ う な 時 か 等 に つ い て は 未 知 の ま ま で あ っ た 。
本 論 文 で 申 請 者 は 量 子 系 の べ ク ト ル 空 間 を 倍 の 大 き さ に し た と き の 系 全 体 の エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー 、 並 び に 部 分 系 の エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー 両 者 の 変 化 に つ い て の 解 析 を は じ め て 行 な っ た 。 そ の 結 果 各 ベ ク ト ル 空 間 内 で の エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー の 移 動 に つ い て の 新 し い 条 件 式 、 不 等 式 を え た 。 部 分 系 の エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー は 増 加 し う る も の で あ る こ と 、 し か し そ の 移 動 は 大 き な エ ン ト ロ ピ ー の 値 を 持 つ 状 態 か ら 小 さ な エ ン ト ロ ピ ー の 値 を 持 つ 状 態 へ と 起 き る こ と を 明 ら か に し た 。 こ れ ら の 成 果 は 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 、 量 子 エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー に 対 し て の 理 解 を 深 め る だ け で な く 、 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 の 準 備 法 や そ の 操 作 法 に 対 し て 示 唆 を 与 え る も の で あ る 。 ま た 現 在 そ の 形 式 が 成 立 し つ っ あ る 量 子 情 報 理 論 に 対 し て 新 し い 普 遍 的 知 見 を 与 え る も の で あ り 、 そ の 形 成 に 重 要 な 役 割 を す る も の と 考 え ら れ る 。 こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 量 子 力 学 の 原 理 に 基 づ き 動 く 量 子 コ ン ピ ュ ー タ ー や 量 子 情 報 理 論 で 重 要 な 働 き を し て い る 量 子 エ ン タ ン グ ル ド 状 態 に 関 す る エ ン タ ン グ ル ド の 程 度 を 表 す エ ン タ ン グ ル ド エ ン ト ロ ピ ー に 関 す る 新 し い 関 係 式 を 明 ら か し た 。 こ れ は 量 子 計 算 並
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びに量子情報理論に貢婁ジ轟ところ大なるものがある。
よって著者が北海道ブ ヒ(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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