献
辞
学問に対して渡るような情熱の人,私達の岡部昭二先生には平成5年3月 31日付けをもって本学を停年退官されることになりました。先生をお送りする のははなはだ残念に思いますが,これが世の習いとあらば致し方ありません。 私共は先生に対して長い間お導きいただき有難うございましたと衷心より感謝 の意を表したいと思います。 旧彦根高商には他の高商と同様に「商品学」という講座がありました。そし てその大半は化学的アプローチによる商品実験でありました。しかもこの学問 は時代の移り変りにつれて繊維,石油,食品添加物等と推移してきたように思 われます。岡部先生は正に時を得て昭和42年11月に滋賀大学経済短期大学部に 迎えられました。 岡部先生は昭和27年3月,旧制名古屋大学理学部化学科を御卒業になられま した。名大での卒業論文は「大腸菌による硝酸還元について」でありましたが, このことが機縁となって食品添加物の発色剤として使用されている亜硝酸が, 食品中にある第ニアミンと反応して強力な発癌物質であるニトロソアミンを生 成することから,ハムなどの各種食品中の亜硝酸塩や第ニアミンの定量をなさ れました。この研究は農芸化学会の機関誌に「野菜および食品中の硝酸塩をめ ぐって」となって結実しております。しかしここにいたるまでには先生は大変 な苦労をされています。当時の教官の化学実験室は高商からのあの木造校舎の 2階にあり,そこでいろいろの試薬を加える仕事をし,最終的には1階に降り て分光光度計を使って長時間の定量をしなければなりませんでした。窓外は雪 がしんしんと降り,実験・定量測定は深夜に及ぶことが多かったと聞き及んで おります。 1979年,亜硝酸塩の研究をしているベルギーの商品学会会長のF.Lox教授との協同研究のため渡伯され,帰国に際してはゲント大学学部長から感謝状と 記念メダルを授与されています。この共同研究は消費者の安全性に関する商品 研究で新聞にもとり上げられた程,高い評価を受けました。 数多くの化学的研究の成果のうちで,特に先生の会心の業績は,「唾液の中に 無視できない量の亜硝酸根が含まれている」との発見であろうと思われます。 これは当時国立衛生研究所でも同じような研究をしていましたが,先生の方が 一足早くゴールに入っておりました。 先生は研究の傍ら体を鍛えるためによくテニスをされておりました。テニス 部の部長をお引き受けになり,学生の指導;もされていて,休日などには名大, 名市大,名工大などへ学生を連れて試合に行かれました。さらにボウリングに も手を染められ,可成り良いスコアをあげられておられたようであります。 学内にあっては経済短期大学部の主事・部長を歴任され,また評議貝として も大学の行政に深く関与された先生を定年によりお送りすることに一抹の淋し さを感じますが,滋賀大学経済学会は,ここに先生の御退官を記念して学内外 にわたる21名の研究者の労作を論文集として先生に謹呈いたします。 御退官後は愈に御健康に留意され,私共の先輩としてお導きくださいますよ うお願い申し上げます。 平成4年11月