原
著
〔書幅縛,、鐸護、劉1言〕
Duchenne潜門ジストロフ.イー患児に発生した
横紋筋肉腫の免疫組織化学的検討
コ ミネ小峯
オオサワ1)東京女子医科大学 小児科(主任:福山幸夫教授)
2)東京女子医科大学 病院病理科(主任:河上牧夫教授)
3}国立小児病院 血液腫瘍科(主任:田口信行医長)
マ大澤真木子1)
タ グチ田口
サトシ サイトウカ ヨ コ ヤマウチ聡1)・斎藤加代子D・山内あけみ1}
キ コ タカハシリ エ コ ァイバ モトピコ・高橋里恵子1)・相羽 元彦2)
ノブユキ フクヤマ ユキオ 信行1》3)・福山 幸夫1) イケ ヤ キ ヨ コ・池谷紀代子1)
カワカミ マキ オ・河上 牧夫2)
(受付平成4年8月12日)
Immunohistochemical Analysis of the Rhabdomyosarcoma Cells from
aDuchenne Muscular Dystrophy Patient
Satoshi KOMINE, Kayoko SAITO, Akemi YAMAUCHI, Kiyoko IKEYA,
Makiko OSAWA, Rieko TAKAHASH1, Motohiko AIBA1),
Makio KAWAK:AMIn, Nobuyuki TAGUCHI2}
and Yukio FUKUYAMA
1)Department of Pediatrics(Dlrector:Prof. Yukio FUKUYAMA) 2)Department of SurgicaI Patholqgy(Director:Pro五Makio KAWAKAMI) Tokyo Women’s Medical College 3)Division of Hematology and Oncology, NatiQnal Children’s Hospital (Chief:Dr. Nobuyuki TAGUCHI) Progressive muscular dystrophy patients also suffering from malignant tumors are so rare that there have been only five reports, comprising a total of nine such cases.We report here a 12−year・old I)uchenne muscular dystrophy patient who developed rhabdomyosarcoma, possibly originating from the vertebral column erector muscles. We compared the tumor cells from this case with those from two rhabdomyosarcoma patients w量thout underlying diseases by means of immunohist㏄hemical staining using antibodies against vimentin,muscle actin, desmin, myoglobin and dystrophin. The results were positive for vimentin, negative for muscle actin, pos孟tive for desmin, negative for myoglobin and negative for dystrophin. It was concluded that the tumor cells from this case were at the most undifferentiated stage of development among the three cases studied and that the stage corresponded to that of.myoblasts in the muscle cell development lineage. 緒 言Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)と悪性
腫瘍の合併はきわめて稀である.筋ジストロ
フィーと悪性腫瘍の合併を文献検索した限りでは
表1のような9例の報告しかない1)一5).横紋筋肉
腫を合併した症例については,1969年Miller1)が
悪性腫瘍の基礎疾患について集計した表に1例示
されているが,筋ジストロフィーの病型について
は記載されてはいない.我々は,12歳のDMDに
脊柱起立筋原発と考えられる横紋筋肉腫を合併し
表1 筋ジストロフィーに合併した悪性腫瘍の文献的検討 報 告 年 告 者 筋ジストロフィー a 型(発症年齢) 悪性腫瘍(発症年齢) 治 療 法 予 後 i死亡年齢) 1969 li王1er1) 不 明 ①横紋筋肉腫[胎児型]②小脳腫瘍
B急性白血病
不 明 不 明 1983 [津ら2}DMD
左視床腫瘍 V−Pshunt 不 明1984
jissling et a13} (30y)1imb−girdlelimb−girdle (50y) 垂?撃魔奄メ@girdle(50y) 多発性骨髄腫(30y) ス発性骨髄腫(63y) ス発性骨髄腫(69y)化学療法
サ学療法
L載なし
死亡(58y) ?S(64y) ?S(76y)1986
iohnston et a14} DMD(3y6m) 神経芽細胞腫(9m) 手 術サ学療法
記載なし1988
rvarch et a15) DMD(3y) 急性リンパ性白血病(8y)
化学療法
死亡(10y) 1992i本症例) DMD(1y6m) 横紋筋肉腫[胎児型](12y) 厲ヒ線療法
化学療法
生 簸た症例を経験した.本例の腫瘍組織を基礎疾患の
ない横紋筋肉腫と比較する目的で,頬部原発例(8
歳・女児),中耳原発例(4歳・男児)の横紋筋肉
腫とあわせて,組織学的ならびに免疫組織学的検
討を行い,筋の分化との関係について若干の考察
を加えた.症 例
左背部腫瘤を主訴として入院したDMDの12歳
男児である.処女歩行は1歳6ヵ月で,運動発達
図1 患児の背部の写真
入院時,左背部(Th8∼Th10の高さ)に4.5×5cmの腫 瘍が見られる(矢印).の遅れに気づかれ,7歳時に他院にてDMDと診
断された.当科では7歳9ヵ月から約3年間ベス
タチソ治療も行った.9歳時,右下果骨折後,10
歳時から車椅子の生活となった.現在,座位保持
可能である.12歳7ヵ月車椅子の背に左背部がすれると訴
え,直径1.5cmの腫瘤に家族が気づいた.腫瘤は
増大傾向(図1)を示したため当科受診し,入院
となった.胸部CT(図2)では,腫瘍の大きさ
3.9×3.7×4.5cmで肋骨を取り巻き胸膜への浸
潤を一部に認めた.ガリウムシンチでは取り込み
は見られなかった.三児のリンパ球由来のDNA
をcDNAプローブを用いたサザンプロット法に
図2 胸部CT
腫瘍の大きさは3.9×3.7×4.5cmである.肋骨を取り 巻き胸膜への浸潤を一部に認める.Fσmily H
雫』襲窄鱒
幽晦
kb <16.0 司響1.O 咽 7.4 ● 3.5 < 2.6礁・1・
Bg臼l
cDNA probe 8
図3 患児・家族のDNA検査
サザンプロット法.患児にはexon 49∼52の欠失と, 16kbのjunctiona星fragmentを認める.母親にも16kb のjunctional fragmentがあるため,保因者であるこ とが証明された.より分析したところ,exon 49∼52の二二が認め
られた.母親は,CKの高値(606mU/ml)とDNA
検査における16kbのjunctional fragmentの存
在により保幻出であることが証明された(図3).
方 法
筋蛋白,細胞骨格蛋白であるvimentin14)15)
(Dakopatts), muscle actinlo>(ENZO),
desminlo)14)15)(Dakopatts), myoglobin(Da−kopatts), dystrophin(国立精神神経センター小澤
鎮二郎先生より供与を受けた)に対する抗体を一
次抗体として,上記3例から得た腫瘍組織につい
てAvidin−Biotin Complex(ABC)法,
dystrophin20)は蛍光抗体法により免疫組織染色7)8) を行った.結 果
生検で得た本症例の腫瘍組織のHematoxylin−
Eosin(HE)染色では,核小体,豊富なクロマチ
ンを有する楕円形の核,わずかに好酸性の胞体を
有するsarcoma cellの増殖が認められた.各種の
筋蛋白に対する抗体を用いた免疫組織化学染色で
は,vimentin(十), muscle actin(一), desmin (十),myoglobin(一), dystrophin(一)であった(図4).病理学的には,幼若性を残存した胎児
型の横紋筋肉腫8)9)12)∼15)と診断した.他の合併疾患のない女児例(8歳)の頬部原発の横紋筋肉腫で
は,vimentin(±), muscle actin(一)細胞と(十)細胞の混在,desmin(一)細胞と(+)細胞の混
在,myoglobin(一)であった(図5).男児例(4
歳)の中耳原発の横紋筋肉腫ではvimentin(±),
muscle actin(一)細胞と(十)の細胞の混在,
desmin(一)細胞と(十)細胞の混在, myoglobin
(+)であった(図6).考 察
筋ジストロフィーと悪性腫瘍の合併例は,過去
22年間の文献検索上,報告が少なく表1のように
9例であった.このうちDMDに合併したものは
3例であった.1969年,Miller RW1)の報告が最も
古く,1960∼1966年の間に,横紋筋肉腫(胎児型),
小脳腫瘍,急性白血病の合併が3例に見られたが
筋ジストロフィーの病型は不明であった.本邦で
は,1983年深津ら2)が左視床腫瘍を合併したDMD
を最初に報告している.1986年,Johnston KMら4)
の報告例のみは,神経芽細胞腫の発症が筋ジスト
ロフィーの発症より早く認められている.この例
は生後9ヵ月に神経芽細胞腫との診断で外科的摘
出術ならびに化学療法が施行され,その後3歳6
ヵ月時にDMDを発症した.母親がDMDの二二
者であるとの記載があり,この症例はDMDの前
臨床状態において神経芽細胞腫が起こったと考え
られる.悪性腫瘍の成因と筋ジストロフィーとの関係と
しては,変性と再生を繰り返している骨格筋にお
いては,再生の過程で癌化のプロセスがスタート
し,横紋筋肉腫が発生するのではないかと考え得
る.Miller RWの1例と我々の本症例がそれであ
る.従って本症例では腫瘍細胞がどのような細胞
に由来し,再生の過程において分化の程度は如何
なるものであるかということを知ることは,癌化
のメカニズムや筋ジストロフィーの筋変性のメカ
ニズムを解明する糸口となり得ると考えた.
筋線維の発達について,胎児筋の発達と成熟筋
の再生は同じようなプロセスを取ることが知られ
Myo910bi且
Vimentin
懸灘
騨
.購
鰍離離鐵緩,難.M.Actln
.Desmin
図4 腫瘍組織の免疫組織化学染色
本症例 vimentin(+), muscle actin(一), desmin(+), myoglobin(一), dystrophin(一)であった.ている.胎児筋では予定筋芽細胞,再生筋では筋
衛星細胞が分化して筋芽細胞となる.さらに,分
裂,増殖,融合して多核の筋管細胞を形成す
る16)∼18).myosinなどの筋特有の蛋白質合成は,筋細胞の融合の開始とともに急速に増加することが
知られており,vimentin,σesminなどの細胞骨格
筋蛋白も筋の成熟により合成蓄積が盛んになる.
これらの蛋白がmyo丘brilに組み込まれ,横紋を
形成し,筋線維となる.
筋芽細胞,筋管細胞,筋線維における筋蛋白質・
細胞骨格蛋白質の発現状態16)∼18)をまとめると,図7下段の表のようになる.vimentin, muscle actin
は筋芽細胞の段階で,desminは筋管細胞の段階
で,それぞれ合成される.成熟した筋線維ではさ
らに多種の蛋白質の合成を見る.本研究では,こ
れらの蛋白質が横紋筋肉腫において,特にDMD
患児に発生した腫瘍においてどのようになってい
るかを免疫組織学的に検討した.本症例を含む胎
児型横紋筋肉腫3例の腫瘍組織の免疫組織学的検
討の結果を表にまとめた(表2).
本症例(図4)では,横紋構造がなく,免疫組
織化学染色の結果から3例中では最も未分化な段
Myo9三〇bin
舞Vimentin
獄
・玉戸三舞螺
M.Actin
図5 腫瘍組織の免疫組織化学 頬部原発例(8歳11ヵ月,女児) vlmentln(±), muscle actin(一)細胞と(+)細胞の混在, desmm(一)細胞と(+)細胞の混 在,myoglobin(一)てあった. 表2 胎児型横紋筋肉腫3例の腫瘍細胞の免疫組織学的検討 本症例 12歳7ヵ月 8歳11ヵ月女 4歳11ヵ月男 正常筋細胞 基礎疾患DMD
一 一 部 位 背部(左) 頬部(左) 中耳(右) 光顕横紋構造 一 一 十Rhabdomyosarcoma
一 十 十 cell (核 大小不同) 細胞質 狭い Vlmentln 十 ± ± 一Mactln
一∼¥
一∼¥
十 混 在 混 在 Desmln 十 一∼¥
一∼¥
十 混 在 混 在 Myoglobln 一 一 十 十 Dystrophln 一 施行せず 施行せず 十灘議
y◇9!0◎顛
Vimentin
灘慧難羅灘
灘難羅M‘Actln
図6 腫瘍組織の免疫組織化学
中耳原発例(4歳11ヵ月,男児) vimentin(±), muscle actin(一)細胞と(十)細胞の混在, desmin(一)細胞と(十)細胞の混 在,myoglobin(+)であった.階の腫瘍細胞であると判定され,筋発達の段階で
は,ほぼ輝輝細胞に相当すると考えられた.
頬部原発横紋筋肉腫の女児例(図5)では,腫
瘍細胞はvimentin弱陽性, muscle actin陰性細
胞・陽性細胞の混在,myoglobin陰性であった.
したがって中等度の分化を示し魏魏細胞に相当す
る蛋白合成段階であった.
中耳原発横紋筋肉腫の男児例(図6)では,光
顕所見で横紋構造がみられ,免疫組織化学上から
も分化した腫瘍組織と考えられ,最も分化の程度
の高い筋線維に相当する筋蛋白,細胞骨格蛋白の
合成を行っていると考えられた,
3例中,本症例が最も未分化で,生検した腫瘍
細胞を培養し,その形態を顕微鏡で観察したとこ
ろ,多核の筋管細胞を形成した16)(図8).従って
in vitroでは筋細胞に分化するpotentialityを有
していると判断できる.しかし,培養細胞は継代
できず,免疫組織化学染色は施行できなかった.
結 語
1)筋ジストPフィーに悪性腫瘍を合併する例
胎児筋の発達 予定丹羽細胞 筋芽細胞 懸盤細胞 筋線維 成熟筋の再生 筋衛星細胞
bryonal rhabdomyosarcoma 3例の腫瘍組織に
つき免疫組織化学染色を行い,結果の比較検討を
行った.3)本症例は光顕所見・免疫組織化学所見から3
例中最も未分化な腫瘍組織と考えられ,正常筋の
発達段階の筋芽細胞に相当する蛋白合成が認めら
れた.4)DMDと未分化な横紋筋肉腫発生の因果関
係は不明であった.
蛋白質 筋芽細胞 筋管細胞 筋線維*
vimentin 皿Uscle actin * des皿in myoglobin ** dystrophin 十 十 十 十 十 一/+ 十 十 十 十 図7 筋発生,再生と筋蛋白,細胞骨格筋蛋白の関係 上段:筋発生,再生と筋細胞の分化の流れ,下段: 筋芽細胞,恥丘細胞,筋線維における筋蛋白,細胞 骨格蛋白の発現. *Gomer&Lazarides6),象*Hagiwara et a120) 図8 本例の培養腫瘍細胞 位相差顕微鏡で観察すると,多核の筋管細胞を形成し ている.はきわめて稀であり,文献上現在までに9例の報
告があるのみであった.
2)基礎にDMDをもつ本症例を含むem一
本稿は福山幸夫教授小児科学教室開講25周年を記
念し,これを捧げるものである.本論文の要旨は,厚生省精神神経疾患委託費筋ジス
トロフィーの臨床病態と遺伝相談および疫学に関す
る研究班会議(1991年11月25日東京,日本都市セン
ター)で発表した.なお,本研究の研究費の一部は厚生省精神・神経疾
患研究委託費(2指一2,2指一3)によった.文 献
1)Miller RW=Childhood cancer and congenital defects=Astudy of US. death certificates during the period 1960−1966, Pediatr Res 3: 389−397, 19692)深津要,外山まり子,林みどりほか:Duchenne
型PMD患者に併発した脳腫瘍の看護.厚生省神
経疾患研究委託費,筋ジストロフィー症の療護に 関する総合的研究,昭和57年度研究報告書,297 −300,1983 3)Kissling D, Michot F:Multiple myeloma occurring in association with a preexisting neuromuscular disease(progressive muscular dystrophy), Acta Haemato172:94−104,1984 4)Johnston KM, Zoger S, Golabi M et al: Neuroblastoma in Duchenne muscular dystro− phy. Pediatrics 7811170−1171, 1986 5)Svarch E, Men6ndez A, Gonz削ez A:Du− chenne muscular dystrophy and acute lymphob− lastic leukaemia. Haematologia 21:123−124,1988
6)Gomer RH, Lazarides E;The synthesis and development of filamin in chicken skeletal muscle. Ce1】23:524−532, 19817)Lazarides E;Inte㎜ediated丘1aments:A
chemically heterogenous, developmentally regulated class of proteins. Ann Rev Biochem 51 :219−250, 1982 8)Sc叩ham R, Gilbert EF, Wilde J et aL Im一munohistochemical studies of rhabdomyosar− coma. Arch Pathol Lab Med 110:818−821,1986 9)Tsokos M:The role of immunocytochemistry in the diagnosis of rhabdomyosarcoma. Arch Pathol Lab Med 110:776イ78,1986 10)Rangdaeng S, Truong LD:Comparative im− munohistochemical staining for desmin and muscle,speci且。 actin:Astudy of 576 cases. Anat Patho196:32−45,1991 11)Brocks L, Jap PHK, Ramaekers FCS et a豆: Vimentin and desmin expression in degenerat・ ing and regenerating dystrophic murine muscle. Virchows Arch[B]61:89−96,1991 12)杉本 徹,.峯 宏,細井 創ほか:小児軟部組 織腫瘍の診断と細胞骨格蛋白(.抄).小児がん 28(2) :576, 1991 13)大植孝治,福澤正洋6草深竹志ほか:病理診断が 困難であった尾仙部原発embryonal sacronねの 1例.小児.がん 28(1):405−406,1991 14)Enzinger FM, Weiss SW l Immunohisto− chemistry of soft tissue lesions.勉Soft Tissue Tumor(Enzinger FM, Weiss SW eds)pp83−101, Mosby, St Louis(1988)