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骨組織形成を伴う多形性腺腫の1症例

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Academic year: 2021

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〔症例報告〕松本歯学32:133∼137,2006        key words:多形性腺腫一骨形成一腫瘍性筋上皮細胞

骨組織形成を伴う多形性腺腫の1症例

渡邉武寛 清水貴子 康祐國

岡 藤 範 正   栗 原 三 郎   川 上 敏 行

   1松本歯科大学 大学院 硬組織疾患病態解析学 2松本歯科大学 総合歯科医学研究所 硬組織疾患病態解析学       3松本歯科大学 歯科矯正学講座       4松本歯科大学 口腔病理学講座

A case of pleomorphic adenoma with bone formation

TAKEHIRO WATANABE TAKAKO SHIMIZU HIROKUNI KOU

NORIMASA OKAFUJI SABURO KURIHARA and TOSHIYUKI KAWAKAMI

’Hαrd・Tissue Pαthol(∼gy UniちMatsum・t・Dental University Grαduαte Sch・・1げOrα1・Medicine   2Hard・Tissue・Path・膓・gy UniちMαtsum・t・Dental University Jnstitute f・r Orα1 Science    31)epα・彦ment Of Or彦ん・伽彦ics, Mαtsum・t・Dental・Uni・erW 8cん・・1・プ1)ε功8的    4Z)epαrtment・fOrα1 Pαth・1・gy, Matsum・t・Dental・Uni・erW 8cん・・1げDentistnyy

Summary

 We reported a case of pleomorphic adenoma with bone{brmation, occurring in the chin of a34−year−old Japanese man. Histopathology showed the typical pleomorphic adenoma with bone fbmla七ion. According to the immunohistchemical examination of S−100, we dis− cussed on the origin of the bone fbrming cells. 緒 言  多形性腺腫は一般的に多彩な組織像を示すとさ れており,いわゆる間質に相当する部には粘液腫 様の変化,また骨や軟骨形成のあることは周知の 事実である.しかし,病理組織学的に典型的な骨 組織形成のあるものは極めて稀である.今回,わ れわれは,34歳,男性のオトガイ部に発生した多 形性腺腫内に骨髄様組織を伴う骨組織形成のみら れた1症例を経験したので,病理組織学的に若干 の検討を加えその概要を報告する、 症 例 患者:34歳,男性 主訴:顔面・オトガイ部の膨隆 既往歴・家族歴:特記事項なし 現病歴:約1年前,オトガイ部に膨隆が出現した が,無痛性のため放置していた.その後気になり 某病院口腔外科を受診した. 現症: 全身所見:体格は中等度で,栄養状態は良好で あった. 局所所見:オトガイ部に小結節状の大豆大腫瘤が (2006年7月14日受付;2006年8月30日受理)

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認められ,半球状に隆起していた.表面は平滑 で,その皮膚色は正常であった.なお,所属リン パ節は触知されなかった. 処置ならびに経過:炎症性の腫脹を疑い,消炎処 置として抗生剤等の投与を行い,経過を観察して いた.しかし,腫瘤に縮小傾向はなかったため, 線維腫の臨床診断のもと,摘出処置を行った.術 後の経過は良好である.

摘出物所見:摘出腫瘤は約8×6×6mm大

で,線維性被膜によって覆われていた.なお,周 囲との間に癒着はなかった.腫瘤は卵円形で充実 性を示した.なお,割面は灰白色であった.

検索方法

 摘出物は4%パラホルムアルデヒド中性緩衝固

定液にて固定した.その後,10%EDTAで脱灰

後,アルコール系列で脱水し,パラフィンに包埋 した.通法に従って,4pm厚切片を作製し検索 に供した.病理組織学的にはヘマトキシリンーエ オシン(H−E)染色の他,特殊染色としてチオ ニン・ピクリン酸染色を行った.さらにDako Envision+Kit(Dako, Glostrup, Denmark)を 用いて,免疫組織化学的染色を行った.用いた一 次抗体はRunx 2(PEBP 2(th(M−70):sc−10758 San七a Cruz Biotechnology, Inc., San七a Cruz, Califbmia, USA), Ihh(H−88:sc−13088 San七a Cmz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, Califbr− nia, USA)およびS−100(NCL−S 100 p)(NOVO, Newcastle, UK)の3種である. 結 果 病理組織学的所見:本腫瘍は線維性被膜により被 覆されていた.腫瘍は線維性組織の中に増殖する 胞巣からなり,その中央には大きな嚢胞状に拡大 した腺腔があった(図1).内部に増殖した腫瘍 細胞は,随所で腺腔を形成する腺上皮系の細胞と その外周に位置する腫瘍性筋上皮細胞との2種類 からなっていた.腺腔内には好酸性の内容物を容 れていたが,一部では内容物のみられないものも あった(図2).紡錘形細胞の増殖からなり,こ れが粗となって形成される,いわゆる粘液腫様部 もみられた.さらに,紡錘形,類円形ないし楕円 形細胞の増殖細胞は大きな腫瘍胞巣から解離し て,いわゆる間質に入り混じっていた(図3, 4).線維性被膜に近接した部に骨髄様組織を伴 う骨組織の形成が確認された(図5).しかし, その周囲には腫瘍胞巣は見当たらなかった.形成 された骨組織の概形は,周囲が皮質骨であり,内 部には骨髄様の粗な組織があった.皮質骨の内 側,すなわち骨髄様側では部位により骨芽細胞が 配していた(図6).また破骨細胞の配列する部 も認められた(図7).この骨基質の一部には, ヘマトキシリンに濃染した線状構造がみられ(図 8),これはチオニン・ピクリン酸染色によっ て,骨細管と共に明瞭に観察された(図9,10). 免疫組織化学的所見:紡錘形,類円形ないし楕円 形細胞の増殖細胞はS−100に陽性であった.腫瘍 胞巣から解離した,いわゆる間質部の紡錘形細胞 もS−100に陽性を示した(図11,12).これらの 細胞は骨組織の周辺にも認められた.さらに,骨 芽細胞と骨細胞の一部には,S−100陽性を呈する ものもあった(図13,14).なお同部位の骨芽細 胞や骨細胞は,Runx 2とIhhも陽性を呈してい た(図15,16). 病理組織学的診断:多形性腺腫 考 察  病理組織学的に多形性腺腫の典型的な所見とし ては,二層性の細胞からなる腺管形成とその周囲 にシート状の細胞増生や粘液腫様部,軟骨形成が みられる.そして緒言にも記した様に本腫瘍は一 部に骨(様)組織のみられるものが稀にあること は広く知られている1).しかし形成された骨組織 に関する病理組織像を記載しているものはほとん どない.

 われわれの渉猟し得た限りでは,Thackray

and Lucas2), Shigeishiら3),長尾4)ならびに新井 ら5)により報告されている症例など極めて少な い.今回われわれの症例では骨組織の所見を詳細 に追究できた.すなわち,多形性腺腫内に形成さ れた骨基質中における骨細胞の存在,そして今回 の骨組織の内部には骨髄様の組織があった.そし て骨芽細胞や破骨細胞の配列が確認された.さら にヘマトキシリンに濃染した線状構造物につい て,チオニン・ピクリン酸染色は骨細管と共に骨 の吸収と添加に伴って起こる改造線であることを 明瞭に示した.このことは,この骨組織が短期間 ではなく,かなり長期間にわたり本腫瘍中に存在

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松本歯学 32(2)2006

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矯・ Li 8 1 ノ 図1:摘出腫瘤の全形像.線維性被膜に覆われている(H−E染色,×7). 図2:腺上皮系細胞と腫瘍性筋上皮細胞との2種類の細胞からなる(H−E染色,×40). 図3:紡錘形,類円形ないし楕円形細胞の増殖細胞は大きな腫瘍胞巣から解離して,いわゆる間質に入り混じっている(H−E染    色,×200). 図4:紡錘形細胞の増殖からなり,これが粗となっていわゆる間質内に散在している(H−E染色,×100). 図5:図1の枠内の拡大像.線維性被膜に近接した部に骨髄様組織を伴う骨組織の形成がみられる(H−E染色,x30). 図6:図5の枠内の拡大像.その内部には骨髄様の粗な組織があり,部位により骨芽細胞(くさび印)を配している(H−E染色,    ×100). 図7:部位により破骨細胞(くさび印)の配列が認められる(H−E染色,×200). 図8:この骨基質の一部には,改造線(くさび印)があり,新生骨上に骨細胞が配列している(H−E染色,×200)

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      w      l       一        ぷ       、       ㎡      千       ‘  ρ’       う.’/        多▼”  否 o 図91改造線(くさび印)が明瞭に示される(チオニン・ピクリン酸染色,×200). 図10:骨細胞から延びる骨細管が明らかである(チオニン・ピクリン酸染色,x200). M ’ ▲ ,

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松本歯学 32(2)2006 していたことを意味するものであろう.多形性腺 腫は無痛性であることが多く,発育も緩徐なこと が多いために,本腫瘍が長期間にわたって存在 し,骨の改造現象まで引き起こしたと考えられ る.  本腫瘍中にみられる骨組織の組織発生につい て,森永6)は,軟骨組織以上に上皮性腫瘍成分と の問の連続性を見いだすことが困難であることか ら,結果として真の間質細胞の化生によって生じ た可能性を示唆している.Kusafukaら7)は異所 性の骨形成を誘導する因子として,骨芽細胞や軟 骨細胞の増殖,分化を調節するとされるTGF一β の一員である骨形成因子(BMP)が,腫瘍性筋 上皮細胞等の分化に作用しており,それら間葉系 組織の形成に関与している事を示唆している.今 回,われわれは森永6)の述べているように,上皮 性腫瘍成分との間の連続性を見いだすことに対す る助けとなる情報として,筋上皮細胞のマーカー であるS−100を免疫組織化学的に検索した.S− 100の免疫染色を行った結果,いわゆる間質内に 腫瘍胞巣から離れて増殖していた紡錘形の細胞は S−100に陽性を示し,これが腫瘍性筋上皮細胞で あることを示していた.これら陽性細胞が骨組織 周囲にまで増殖していた.骨組織中の骨細胞の一 部と骨組織の外側を取り囲んでいる骨芽細胞の一 部においても陽性反応がみられた.さらに,骨細 胞および骨芽細胞は,Runx 2とIhhを発現して いた.本症例で骨組織を形成した骨(芽)細胞の 由来が腫瘍性筋上皮細胞であることを強く示唆す るものであろう. 結 語 137  今回,われわれは34歳,男性のオトガイ部に発 生した多形性腺腫の1症例を経験し,病理組織学 的に検討した.その結果,骨髄様組織を伴う骨組 織が形成されていることを確認した.さらに免疫 組織化学的検討結果は,これが腫瘍性筋上皮細胞 の分化によって生じた可能性を強く示唆してい た. 文 献 1)石川梧朗(1982)口腔病理学II、第1版,716−  28,永末書店,東京. 2)Thackray, A. C. and Lucas, R、 B.(1983)Tumors  of the major salivary glands.16−39. Armed  Forces Institute of Pathology, Washillgton, D.  C. 3)Shigeishi H, Hayashi K, Takata T, Kuniyasu  H,Ishikawa T and Yasui W(2001)Pleomor−  phic adenoma of the parotid gland with exten−  sive bone f()rma七ion. Pa七hol Int 51:883−6. 4)長尾孝一(1986)唾液腺腫瘍の識別診断(1).病  理と臨床4:1307−11. 5)新井康仁,佐久間洋子,横澤 茂,内田 稔,  藤田裕紀,野中博子(2003)著明な骨形成を認  めた多形性腺腫の1例.日口外誌49:272−5. 6)森永正次郎(1989)唾液腺の解剖と腫瘍の組織  発生.病理と臨床7:545−59. 7)KUSafUka K, YamagUChi A, Kayan.O T and  Takemura T(2001)Immunohistochemical lo−  calization of members of七he transfbrming  growth factor(TGF)一β superfamily in normal  human saliva]ry glands and pleomorphic ade−  nomas. J Oral Pathol Med 30:413−20.

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