公正競争阻害性の要件事実の事実上の推定の基準 化粧品の対面販売の強制
︵以上香川法学第十七巻第一号︶
第 三 章 プ ラ ン ド 内 競 争 を 実 質 的 に 制 限 す る 垂 直 的 制 限 一 公 正 競 争 阻 害 性 に つ い て
H
社会的メリット
U
ダブルマージナリゼーションの改善
9 9
② た だ 乗 り の 改 善 口 水 平 的 た だ 乗 り の 改 善 い 評 判 へ の た だ 乗 り の 改 善
③ 情 報 の 不 完 全 性 を 改 善 す る 垂 直 的 制 限 田 一 店 一 帳 合 制
・ 流 通 業 者 の 販 路 制 限
□
公正競争阻害性
① 情 報 の 不 完 全 性 を 改 善 す る 垂 直 的 制 限 に つ い て 図 近 年 の 工 業 製 品 に つ い て
第 第
早 早
コ =
目
まえがき
次
垂 直 的 制 限 に つ い て
②
論
説
二 従 来 の 考 え 方 に つ い て 口 従 来 の 議 論 口 従 来 の 考 え 方 の 問 趙 点
① 製 品 差 別 化 に つ い て
② 価 格 制 限 と 非 価 格 制 限 の 区 別 に つ い て 閻 取 引 の 目 由 の 侵 害 に つ い て
~シェアとの関係
,~ー`四 ブ ラ ン ド 間 競 争 の 促 進 に つ い て 国 著 作 物 と 再 販
大 録
︵
英
以卜
本号
︶ 三 欧 米 の 規 制 に つ い て 四 再 販 等 に 対 す る 法 適 用 第 四 章 戦 略 的 な 垂 直 的 制 限 第 五 章 専 売 制 第 六 章 自 動 車 産 業 に つ い て 第 七 章 日 本 の 独 占 禁 止 法 の 優 れ た 点
17-~4~653 (香法'98)
③ があ
る︒
② 以外の垂直的制限はこの効果はない︶︒
① メーカーが販売業者に対して課す場合もフランチャイズの場合も含んだ統一的な本稿では︑垂直的制限について︑
第三章
なお︑本稿では︑取引拒絶が自由でない
E
やドイツの選択的流通制度にとらわれることなく︑
U
業者の販売方法を制限し︑それを行う販売業者を選択して販売させる方法︵取引拒絶は自由である︶を広く選択的流
通制ということにしよう︵これは︑販売方法の制限というのと同じである︶︒
再販︑テリトリー制︑販売方法の制限︵選択的流通制︶︑
実質的に制限する垂直的制限は︑次のような社会的メリットが考えられ得る︒
再販はダブルマージナリゼーション︵二重限界性︶を改善し︑小売価格を引下げる効果がある場合がある︒︵再販
再販を含め︑上のようなブランド内競争を実質的に制限する垂直的制限は︑
販売店が重要な販売サービスをしており︑消費者がその品質︑内容がよくわからないときに︑垂直的制限はブラ
ンドを信用すれば販売サービスも含めて︑統一された品質・内容のものを購入できるようにするために重要な意味を 考え方や基準を明らかにしていきたいと考える︒ 公正競争阻害性について
一店一帳合制︑流通業者の販路制限等のブランド内競争を
プランド内競争を実質的に制限する垂直的制限
メーカー等が販売
ただ乗りを改善する効果がある場合
17‑4 ‑654 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
`ー
ー ︐
,1 ,
まず︑ダブルマージナリゼーション
ダブルマージナリゼーションの改善
の改善についてみてみよう︒
( 一 )
比較する必要がある︒ は︑ブランド内競争を実質的に制限すること
再販︑テリトリー制︑
販売方法の制限︵選択的流通制︶︑
④ ︵情報の不完全性を改善する垂直的制限︶︒
一店一帳合制︑流通業者の販路制限は︑
済効率性︵一般消費者の利益︶を増大させる︒
に制限するおそれも問題となる︶
社会的メリット
参加した事業者の利潤の合計︶
販を行うと︑
サービスに応じた価格差別の方法として用いることができる︒これは経
︵テリトリー制は寡占の戦略的行動を考えるとブランド間競争を実質的
であり︑公正競争阻害性を考える場合︑この弊害と上のような社会的メリットとを
そこで︑上にあげた社会的メリットと考えられ得ることが︑どの程度の意味を持つものであるかを順次検討しよう︒
︵二
重限
界性
︶
一般に︑取引は︑当事者間のパレート最適になるように行われる︒事業者同士の取引であれば︑
が最大になるように行われる︒ 共同利潤︵取引に
メーカーが当該ブランド需要に対して独占力︵価格を上げても需要がそれほどはなくなるわけではないこと︶
ち︑流通業者も何らかの独占力︵価格をあげても需要がそれほどはなくなるわけではないこと︶ 持つことがある
を持
を持っていると︑再 メーカーと流通業者の共同利潤を最大化するように小売価格が決定され︑小売価格が下がり︑消費者に
一店一帳合制︑流通業者の販路制限等の垂直的制限の弊害
17 4 ‑655 (香法'98)
ただし︑筆者は︑現在の日本の再販は︑上のようなメーカーと流通業者の共同利潤を最大化する再販というよりも︑
を引き上げる︒ 消費者に利益を与える︒ 価格についてみると︑かつてシカゴ学派から︑次の理由から︑再販は必ずダブルマージナリゼーションを改善し︑
小売価格を引き下げ︑消費者に利益をもたらすという議論が出された︒
川上企業︵メーカー︶が当該ブランド商品について独占力を持ち︑川下企業︵流通業者︶が競争的である場合には︑
川上企業は︑独占価格をつけて独占利潤を完全に得ることができ︑川下企業を統合したり︑再販を行う誘因がない︒
価格についてみれば︑再販を行うのは︑メーカーが当該ブランドに対して独占力を持ち︑
われるのであれば︑ダブルマージナリゼーションを改善する場合であり︑
また︑川下企業︵小売業者︶
が何らかの地域的な独占力を持ち︑再販によってダブルマージナリゼーションを改善するときであるから︑再販が行
したがって︑再販は小売価格を引き下げ︑
しか
し︑
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は︑小売業者間のブランド内競争で︑低価格が小売業者相互の客を奪い合う効果︵小
売業者同士が競争をすれば︑この外部効果のために︑ 売店の価格引き下げが他の小売店の需要を減少させる︒これを水平的な金銭的外部効果という︶が大きいならば︑小
メーカーと流通業者の共同利潤の観点からは小売業者が低過ぎ
る小売価格をつける可能性があり︑再販によりメーカーと流通業者の共同利潤を最大化するように小売価格を決定す
る場合︑再販は小売価格を引き上げる可能性があることを明らかにした︵一九八四年︶︒
メーカーと流通業者の共同利潤を最大にする再販は︑小売店の独占力が強く︑ダブルマージナリゼーションが強く
働く場合には小売価格を引き下げ︑小売店の競争で上のような低価格が顧客を奪い合う効果が強い場合には小売価格
(1 )
利益をもたらす︵卸売価格も下がる︶︒
四
17‑4 ‑656 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
( 1
)
によってメーカーと小売業者に分配され︑
メー
カーが廉売規制をしている再販はダプルマージナリゼーションを改善することでは説明できないとする見解がある︒
しかし︑ダブルマージナリゼーションを改善する再販の場合︑最大化された共同利潤はメーカーの出荷価格の調整
メーカーの出荷価格は低下し︑小売価格とメーカー出荷価格の決め方如何 では︑安売店の廉売を誘発してメーカーは安売店の廉売の規制をしなければならない場合があるから︑廉売規制をし ている再販であっても︑ダブルマージナリゼーションの改善で説明できる場合がある︒
拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号 六
0
︑六一
︑六
二頁
参照
︒
ダブルマージナリゼーションの議論は次の論文で始めて提出された︒ ダブルマージナリゼーションを改善するための再販は︑
五
メーカーが小売店の上限価格を制限するものであり︑ 再販が上限価格を設定する場合には︑ ならないこと︶
はそれ程大きいとは考えられず︑再販がダブルマージナリゼーションを改善するために行われ小売価
格を引き下げるとはほとんど考えられない︒
一般に︑ブランド内競争を実質的に制限せず︑ダブルマージナリゼーション
(4 )
の改善をするものであるから︑独占禁止法上許容されると考えられる︒
ただし︑ダブルマージナリゼーションを改善する再販は︑
現
在 ︑
日本では︑交通機関︵特に自動車︶
あると考える
ーカーと流通業者の共同利潤を最大化する再販とは異なる︶︒ 後述のように︑
メーカーが流通業者に自社製品を優先的に推奨してもらうために行うということが最も大きな理由で
︵自社製品を優先的に推奨してもらうための再販は︑
ブランド間で外部効果があるから︑上のようなメ の発達により流通業者の地域独占力︵価格を上げても顧客が大きくなく
上限価格を設定する場合に限らない︒
17‑4 657 (香法'98)
の販売サービスが無くその分安い安売店で購入すれば︑ 小売店が消費者に商品説明や展示を行い︑ 再販等のブランド内競争を実質的に制限する垂直的制限の水平的ただ乗りの改善についてみてみよう︒
次のようなただ乗りの改善に関する考え方を提示した︒
このような販売サービスを行う小売店はなくなってしまう︒ これらの販売サービスを受けた消費者が︑
一 九
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7
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8 ( 1
9 8 4 )
. 拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六一頁参照︒
米国では︑最高裁は︑一九六八年のヘラルド事件で︑上限価格を設定する再販も当然違法とした
( A
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S . 1
4 5 (
1 9 6 8
) ) が︑一九九七年のステートオイル社の事件では︑判例を変更し︑上限価格を設定する再販は合理の原則が適用
されるとした︒
川浜昇再販売価格維持規制の再検討四法学論叢一三七巻三号八頁︒
伊藤九重︑松島茂︑柳川範之﹁リベートと再販価格維持行為﹂三輪芳朗・西村清彦編﹃日本の流通﹄第五章一五一頁注一五参照
京大学出版会一九九一年︒
ただ乗りの改善
再販等のブランド内競争を実質的に制限する垂直的制限のただ乗りの改善効果は︑
まず︑①の販売店の水平的ただ乗りの改善効果について検討しよう︒
水平的ただ乗りの改善
①販売店の水平的ただ乗りの改
善効果と︑②評判に小売店がただ乗りすることを改善する効果の二種類が考えられる︒
当該店で購入せず店を出てこ
r ‑
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東
17‑4 ‑658 (香法'98)
垂直的制限について (2)(大録)
八五
年︶
︒
これ
は︑
ある小売店が提供した販売サービスによって他の小売店の売り上げが増大する水平的外効効果である︒再販
が行われれば安売店が無く︑またテリトリー制︵厳格なテリトリー制︶が行われれば他で買うことができないから︑
消費者は説明や展ホサービスを受けた小売店で購入する︒再販等の垂直的制限は︑小売店間の水平的外部効果︵ただ
乗り︶を防止し︑販売サービスを増大させる効果を持つ︒
販売店の販売サービスが対価を取ることができるならただ乗りは生じない︒再販等の垂直的制限が︑小売店の上の ような水平的外部効果︵ただ乗り︶を防止して販売サービスの増大をもたらすというのは︑考えられるとすれば︑商 品説明や展ホサービス等の簡単な商品情報提供サービスである︒ただし︑筆者は後述するように水平的ただ乗りは重
さら
に︑
B o
r k
は︑一九六七年に︑再販等の垂直的制限のただ乗り防止効果によって生まれる消費者向けサービスは︑
さらってしまう︶から再販等の垂直的制限は必ず経済効率性︵最終消費者の利益︶ ︵そうでなければ競争メーカーがサービスなしで商品を提供して顧客を
(9 )
を増大させると主張した︒
B o
r k
の議論は︑司法省や裁判所に大きな影響を与え︑垂直的制限の違法基準緩和の根拠となった︒
しか
し︑
B o
r k
の議論は︑次のような問題点がある︒
七
第一に︑再販等の垂直的制限がただ乗りを改善する効果がある場合でも︑
C o
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r
は︑次のように︑B o
r k
の議論
( 1 0 )
は︑あるメーカーの商品について消費者が同質的な選好を持っている場合しか成立しないことを明らかにした(‑九
再販等の垂直的制限がただ乗りを改善する効果があると仮定しよう︒
メーカーは当該ブランド需要に対して独占力︵価格を上げると需要がなくなるのではないこと︶を持っており︑当
価値が費用を上回っている場合のみ行われる 要ではないと考える︒
17‑4 ‑659 (香法'98)
剰と生産者余剰の合計︶を阻害するかも知れない︒ 該メーカーの商品について消費者がさまざまな選好を持っている場合︑メーカーは次の理由で︑限界的な消費者の選
限界的な消費者とは︑当該商品をその価格とほぼ等しく評価し︑品質・内容の向上とそのための価格の上昇に対し
て大きく反応し︑品質内容が向上した商品に対して支払ってもよい額が品質内容の向上に伴う価格の上昇をほんのわ
ずかでも上回れば︑購入を増やす︵下回れば購入を減らす︶消費者である︒これに対して品質内容の向上をする前の︑
当初の商品の価値を当初の価格よりかなり高く評価する消費者を限界内消費者と呼ぶ︒限界内消費者は︑品質・内容
の変化に充てるべき価格の変化に大きく反応しない︒限界内消費者は︑品質・内容の向上が追加的な費用に見合うも
のではない場合でも︑購入を減らすことはしないだろう︒したがって︑限界的な消費者の選好のみが品質・内容の向
上とそれに伴う価格の上昇によって︑
垂直的制限が水平的外部効果︵ただ乗り︶を防止し︑販売サービスを増大させる効果がある場合︑
的消費者のみに注意を向け︑限界的な消費者が追加サービスに対してその費用を上回る評価を与えその商品の購入を
増やす場合には︑
せる
だろ
う︒
メーカーの販売量や利益が増大するか否かを決めることになる︒
メーカーは︑限界内消費者の選好を無視して︑垂直的制限を課して商品情報提供サービスを増大さ
しかし︑消費者余剰は︑限界的消費者だけでなく︑限界内消費者も含めて︑
ければならないから︑上のことは︑消費者余剰全体の向上になっていないかも知れず︑また︑経済効率性︵消費者余
C o
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は ︑B o
r k
の議論は当該ブランド商品について︑販売業者のサービスに対する消費者の選好の差異を考慮
していないという欠陥があり︑当該ブランド商品について垂直的制限による販売業者のサービスに対する消費者の選
好が消費者によって差異があれば︑必ずしも︑再販等の垂直的制限が経済効率性を増大させるとは言えないことを明 好のみに注意を向ける︒
メーカーは限界
すべての消費者を考慮しな
J¥
17‑4 ‑660 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
各小売店の競争が︑
らかにした︒再販等の垂直的制限がただ乗りの防止によって販売サービスを増大させる場合であっても︑
販売サービスが不要な消費者にとっては︑販売サービスを強制されていることになり再販等の垂頂的制限はない方が
よく、販売サービスを不要と感ずる消費者が多ければ、再販等の垂直的制限は経済効率性(一般〔最終〗消費者の利
( 1 1 )
ら1 2
)
益︶を減少させる︒
ただし︑筆者は後述するように︑現代の工業製品について︑再販等の垂直的制限による水平的ただ乗りの改善効果 は重要ではなく︑再販等の垂直的制限は︑水平的ただ乗りを改善するよりは︑自社製品の優先的推奨のために行われ
第二に︑前述のダブルマージナリゼーションのところで述べたような︑小売業者の競争で︑顧客を奪い合う効果︵一
種の水平的外部効果である︶を考えれば︑このことからも
Bo rk のような垂直的制限が販売サービスを向上させ必ず経 済効率性︵最終消費者の利益︶を増大させるという議論は必ずしも正しくないということが言える︒
これについて説明しよう︒
小売店のブランド内販売サービス競争がブランド内で小売店の顧客を奪い合う効果︵ダブルマージナリゼーション
のところで説明した水平的外部効果︶が大きい場合を考えよう︒
このような外部効果を与え合うと︑
大な販売サービスが行われる︒このときに︑ るということが最も重要な理由であると考える︒
九 ︵奪い合う︶効
このような
メーカーと小売業者の共同利潤の最大化の観点からは︑過 メーカーと小売業者の共同利潤を最大化し︑小売店のサービス競争を減 少させるために︑垂直的制限が行われる︒テリトリー制︵厳格なテリトリー制︶
は︑小売店の価格競争だけでなく︑
サービス競争も制限する︒再販は︑小売店の価格競争を制限するから︑販売サービスが顧客を集める 果が強い場合︑販売サービスについて︑小売店が規模の経済性や範囲の経済性を生かそうとする
︵その分安くして需
17~4 661 (香法'98)
る︒しかし︑販売サービスがただ乗り効果と顧客を集める︵奪い合う︶効果の両方が考えられる場合には︑ 効率性︵一般消費者の利益︶を高める︒
( 1 5 )
要を増やす︶競争を阻害する︵再販がなくなればサービス競争が活発になることについては後述﹁著作物と再販﹂
争を制限する︒
︵奪
い合
の
項参照︶︒販売方法の制限は︑販売サービスが顧客を集める︵奪い合う︶効果が強い場合︑小売店の販売サービスの競
垂直的制限をした場合に比べると︑垂直的制限をしない場合は︑特定ブランド需要に対する独占力による過少な販 売サービスが改善され︑消費者にとって適正な販売サービスの水準になっている可能性がある︒この場合︑垂直的制 限をした場合の状態は︑消費者にとって販売サービスが過少となる水準が選ばれてしまい︑経済効率性︵一般消費者
の利益︶を損う︒このような場合には︑垂直的制限を違法とした方が︑むしろ︑小売店の販売サービスを高め︑経済
これは販売サービスのただ乗りがない場合を想定したが︑販売サービスのただ乗りがある場合は次のようになる︒
商品説明や展示サービス等の商品情報提供サービスは︑ただ乗りが問題となる客ばかりではなく︑このサービスに
引かれて来店し︑その店で購入する客もおり︑小売店間のブランド内競争で︑このサービスが顧客を集める う︶効果がただ乗り効果よりも大きい場合も考えられる︒このような場合は︑垂直的制限がとられれば︑この販売サ
ービスを減少させてしまう︒販売サービスがただ乗り効果ばかりであるなら︑垂直的制限は販売サービスを増大させ
らの効果が大きいかで︑垂直的制限によって販売サービスが増大したり減少したりする︒
このように小売店の販売サービスが︑ このどち
ただ乗りが考えられない場合にせよ︑考えられる場合にせよ︑顧客を集める
効果が強ければ︵ただ乗りが考えられる場合はただ乗りよりも顧客を集める効果の方が強ければ︶︑垂直的制限によっ
( 1 4 ) ( 1 5 )
て︑販売店の販売サービスが低下し︑経済効率性︵一般消費者の利益︶を損なうことがある︒
1 0
17‑4 ‑662 (香法'98)
垂 直 的 制 限 に つ い て(2)(大録)
域的独占力を持ち︑売場面積は小さく︑ 売の強制︵制度品システム︶ ただ乗り効果も︑顧客を奪い合う効果も︑ 化粧品の対面販売がただ乗り効果が強いなら︑対面販売を強制させる制度品システムのような販売方法の制限は販
売サービスを増加させる︒しかし︑前述したように︑
識を有する者を配置したり︑
肌の状態を測定するような本格的な形態︑試してみるコーナーを設ける形態︑多くのメ ーカーの商品を展示して質問があれば違いを説明する形態等さまざまな形態が考えられるが︑水平的ただ乗りが考え られない場合にせよ考えられる場合にせよ︑多様な対面販売が︑顧客を集める
りが考えられる場合にはただ乗りよりも顧客を集める効果の方が強い場合︶
についてカタログ︑説明書に書いてある程度の自社製品の簡単な説明をするように販売方法を制限しているのだとす
ると︑消費者にとって︑対面販売のサービス内容を低下させてしまうおそれがある︒
限のような垂直的制限によってこの外部効果を内部化しようとするものであるが︑筆者は︑消費者がメーカーによる
品質・内容の違いを十分把捏しているわけではない商品で︑
ると考える
のような販売方法の制限がとられるのは︑上のような販売店の水平的外部効果を内部化 しようとするためではなく︑小売価格を維持して小売マージンを引き上げ︑自社製品を優先的に推奨させるためであ
︵後述のように︑小規模小売店は︑価格を上げれば顧客がなくなってしまうわけではないという意味で地
メーカーは垂直的制限によって︑小売店の安売りを防止して小売マージンを
大きくし︑自社製品を優先的に扱ってもらうことが重要となる︶︒
一般に︑現代の工業製品については︑ブランド内競争を実質的に制限する垂直的制限は︑後述するように︑販売店 もしも︑上の論理を化粧品の対面販売
ただ乗りが多いとはいえないだろう︒対面販売には︑専門的知 いずれも︑販売店の水平的外部効果であり︑上の論理は︑販売方法の制
︵制
度品
シス
テム
︶ また︑特に小規模小売店の多い日本で︑化粧品の対面販
に︑制度品システムが︑対面販売の内容
︵奪い合う︶効果が強い場合︵ただ乗 に応用するとどうなるだろうか︒
17‑4 ‑663 (香法'98)
( 1 1 )
( 1 2 )
( 1 0 )
小売店に自社製品を優先的に推奨してもらうために行われていると考
B o
r k
の議論が正しいとは言えない第三の理由は︑
小売店に自社製品を優先的に推奨してもらうための垂直的制限
社会的メリットはなく社会的幣害が極めて大きいことである︒
であると考える︒
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10 5.
(1 96 0)
拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六三頁参照︒
Bo
rk
は︑一九六六年に産出量の制限は反競争的であり︑産出量の増大は競争促進的であるとし︑メーカーは︑再販やテリトリー
制等の垂直的制限が産出量の拡大につながり︑利潤の増大をもたらす場合にのみ︑こうした制限を課すのであるから︑この制限は競
争促進的であるとした
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373
(1 99 6)
) ︒
しかし︑この議論は︑サービスを無視しており︑上の垂直的制限を社会的余剰から評価する場合には︑サービスの拡充が商品の価
格の上昇に値するものであるか否かを判断しなければならないという批判を受けた︒この批判を受けて︑
Bo
rk
は︑一九六七年に改
説し︑メーカーは︑サービスの価値が費用を上回る場合のみ垂直的制限を課すから︑垂直的制限は必ず経済効率性を増大させると主
張した
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拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六六頁参照︒
仮に︑垂直的制限がただ乗りを防止し︑商品情報提供サービスを増大させるとすると仮定すると次のことが言える︒商品情報提供
サービスについて︑当該商品について知識のない消費者は︑この情報を高く評価し︑このことについて︑高く支払おうとする︒知識
( 9
)
( 8
)
( 7
)
よ ︑
’、1~ えることができると思われる︒ の水平的外部効果を内部化するというよりは︑
筆者
は︑
後述するように︑これが最も重要な理由
17‑4 ‑664 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
消費
者は
︑
の豊富な消費者は︑逆のことが成り立つ︒廂品情報提供サービスについて︑知識のない消費者は限界的消費者であり︑知識の豊富な
消費者は限界内消費者であると考えられる︒確立した商品について︑多数の消費者が知識が豊富で限界内消費者である場合を考えよ
う︒限界的消費者は情報サービスを望んでいるのでメーカーは︑限界内消費者の選好を無視して︑垂直的制限を課そうとする︒しか
し︑知識の豊富な限界内消費者が多ければ︑望んでいないサービスヘの支払を強制されることによる損失の方が︑限界的消費者が得 る利益よりも大きく︑垂直的制限は︑消費者余剰全体からは︑損失の方が大きく︑経済効率性を阻害する可能性が大きい︒逆に︑新 しい商品や新規参入者の場合には︑知識の豊富な消費者は多くなく︑垂直的制限は︑消費者余剰全体を増大させ︑経済効率性を増大
させる可能性が大きい
(C
om
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or
前出
論文
︶︒
( 1 3 )
これは︑コモンプールの外部効果の一っである︒コモンプールの外部不経済は︑複数の経済主体により一定の山林︑漁業水域︑道
路等が使用されるときに生ずる現象で︑ハレート最適な状態と比鮫すると過大な乱獲や使用が行われる︒
( 1 4 )
拙稿﹁垂匝的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六四頁参照︒
( 1 5 )
拙稿扇恒的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六四頁の﹁再販を違法とした方がむしろ販売サービスを高める
l
あるいは﹁再販やテリトリー制を行った方がただ乗りを防止でき販売サービスを向上させると一概に言うことはできない﹂という文
章はこのことを意味する︒
ブランド内競争を実質的に制限する垂直的制限のただ乗り防止効果は︑販売店間の水平的ただ乗りの改善と︑
八 0
年代に次のような情報の不完全性の改善の問題に拡張された︒品質がよくわからないときに︑長期的に評判を確立している小売店
︵高
級店
︶ で買おうとする︒高級店 は評判の維持に種々のコストがかかり︑仮に品質の悪い商品を販売すれば名声を損って店を維持できなくなるから︑
消費者は︑高級店で購入すれば品質が安全であると考える︒高級店で売っている商品は品質が安全であるという一種
再販等によるただ乗り効果の改善の議論は︑ へのただ乗りの改善との二つが考えられるが︑
本項
では
︑
後者の評判へのただ乗りの改善効果について検討しよう︒
口 評 判 へ の た だ 乗 り の 改 善
評判
1 7 ‑ 4 ‑‑‑665 (香法'98)
に ヽフランチャイザーやメーカーは︑価格拘束︵再販︶によって︑流通業者に正常より大きなマージン
契約
には
︑
フランチャイザーやメーカーが販売店の この考え方は次のようなものである︒ の保証作用がある︒高級店にはこのような機能がある︒このときに︑高級店で売っている商品と同じ商品が安売店で安く売っていることがわかれば︑消費者は安売店で安く購入する︒このような外部効果があると︑高級店は当該商品
( 1 6 )
︵1 7
)
はこ
れを
防止
する
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一九
八四
年︶
︶︒
を扱わなくなる︒価格拘束︵再販︶
また︑販売店の販売サービスが重要であり︑消費者にはその品質・内容がよくわからない
とき︑消費者がブランドを信用すれば︑販売店の販売サービスを含めて統一された品質・内容のものを購入できるこ
とが重要な意味を持つ場合︑次のように︑価格拘束は︑低級品を高級品と偽って売ったり︑販売サービスの手抜きを 長期的視野に立って販売サービスを手抜きせずに行おうとする小売店が︑ブランドの評判にただ乗りして販売サー
ビスを手抜きしその分安く販売するただ乗り店に対抗して価格を引き下げざるを得なくなるのであれば︑将来得られ
( 1 8 )
る利益が減って長期的視野に立って良質の販売サービスを行う商法を維持するのが難しくなる︒価格拘束は︑小売業 者の販売サービスを手抜きする行動に対してメーカーが出荷停止を行った場合に失われる将来の利益というペナルテ
( 1 9 )
︵2 0 )
ィを大きくし︑小売業者に対する販売サービスの手抜きの防止を大きくする(KLein
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(一
九八
八年
︶︶
︒ フランチャイザーやメーカーにとって望ましい販売サービスを販売業者に契約で行わせようとしても︑完全に実行
可能な形で契約で行わせることはできない︒例えば︑努力するという条項を入れても︑裁判所への証明が困難である︒
このような不完全性がある︵契約の不完備性︶︒このような場合︑
販売サービスの手抜きを観察することが可能であるなら︑継続的取引がこの困難の解決のために使われる︒このとき
︵準
レン
ト︶
してブランドの評判にただ乗りするのを防止する︒
︵情報の不完全性がある︶
一 四
17‑4‑666 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
( 1 6 )
一 五
に対するただ乗り防止効果は重要な問題であると考える︒ 善する垂直的制限は重要な意味を持つと考える︒は情報の不完全性を改善する
つの
情報の不完全性を改
果は重要である場合があると考える︒ 平的ただ乗りの改善効果は︑
評判に対するただ乗りの防止効
を与えるためには︑
ょ ︑
'~rー~
ン
を与えることができる︒販売業者が販売サービスの手抜きをした場合に︑このマージ︵準レント︶を得られなくなる︒販売サービスの手抜きをすれば取引を停止されるという脅しが有効であるために
販売業者に十分高いマージンを与えなければならない︒流通業者に販売サービスを手抜きしないインセンティブ
重要な要因であり︑
市場で決まる正常利潤よりも高いマージンを与えなければならない︒取引を継続することと停止
されることとが無差別であるようなマージンでは︑
( 2 1 )
ない
︒
販売サービスを手抜きしないインセンティブを与えることができ
筆者は︑再販等のブランド内競争を実質的に制限する垂直的制限によるただ乗りの改善効果のうち︑
その弊害に比べれば︑重要な問題ではないと考えるが︑
筆者は︑情報の不完全性のために垂直的制限をしなければ円滑な供給が行われなくなる場合︑
垂直的制限の評判︵名声︶ このような場合︑評判︵名声︶
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V o l .
1
5, p p
346‑59. .
( 1 7 )
拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六五頁参照︒
( 1 8 )
拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五
00
号六五頁参照︒
( 1 9 )
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3
1, p p
265‑97. . 取引を打切れば︑
販売店間の水
流通
業者
は︑
17‑4 ‑667 (香法'98)
限し︑手抜きがないように監視することは︑消費者がブランドを信用すれば︑ このような場合︑垂直的制限により︑
゜
ぷ ノ この代表的な場合は︑売サービスを提供し︑消費者にはその品質・内容がよくわからないときに︑垂直的制限は︑ブランドを信用すれば販 売サービスも含めて︑統一された品質・内容のものを購入できるようにするために重要な意味を持ち︑垂直的制限を
行わなければ円滑な供給が行われなくなることがある︵情報の不完全性を改善する垂直的制限︶︒
は︑非標準的な販売サービスを標準化するのに役立つ︒
一般
に︑
( 3 )
拙稿﹁垂直的制限の公正競争阻害性について﹂公正取引五00
号六六頁参照︒
契約が法的に強制可能でない場合に︑解決策の一っとして次のような継続的取引の方法がとられる︒
例えば︑労働に関する契約で︑労働者が契約どおりの丁寧な仕事をするなら継続して雇用するが︑怠ければ解雇することとする︒
この場合︑解雇されたときに被る損失が十分大きければ︑契約に関して法律による強制力が全くなくとも︑労働者に契約を守らせる
ことができる︒この種の契約は︑内容を当人同士が知っているだけでよく︑第三者にわからせる必要はない︵この意味で﹁暗黙の契
約﹂ということもある︶︒
このような議論は︑次のように︑非自発的失業の説明のためにも使われる︒労働者に怠けないインセンティブを与えるためには︑
労働市場で決定される水準よりも賃金を高くしなければならない︒したがって︑この賃金水準では働きたくとも職を得ることのでき
ない労働者︵非自発的失業︶が存在する
(S ha pi ro an d Stigl
it z
︱八
九四
年︶
︒
( 2 0 )
( 2 1 )
情報の不完全性を改善する垂直的制限
サービスは︑非標準的で︑消費者には品質・内容がよくわからないという特色がある︒販売店が重要な販
フランチャイズである︒近年の工業製品については︑
販売店の販売サービスを含めて統一さ この場合垂直的制限
フランチャイザーやメーカーが販売店の販売サービスについて販売方法を制 このようなケースは例外的な場合だろ
一 六
17‑4‑668 (香法'98)
垂 直 的 制 限 に つ い て(2)(大録)
リットが社会的デメリット
例えば︑塾の教育の方法︵生徒にどういう問題をどのようにやらせるか︶︑
料をどこから仕入れるか︑どのように品質管理するか︶︑居酒屋の調理・接客方法等について︑
ランチャイジーを拘束︵販売方法の制限︶
して役立つ︒
一 七
し︑消費者がどこのフランチャイジーの店で購入しても同じ品質・内容の 一店一帳合制・卸売業者の販路制限は︑卸売業者が販売店の販売サービスに手抜きがないかどうかの監視の手段と
一般に︑消費者にとって︑品質・内容のよくわからない非標準的な財サービスは価格が安いかどうかの判断をする ことが難しいが︑価格拘束は︑ブランドを信用すれば同一ブランド内商品で価格の高いものは品質・内容がよいだろ うというように価格を内容の指標とすることができたり︑他ブランドと比べてどちらが安いかを比較する指標とする また︑前述したように︑垂直的制限の評判に対するただ乗り防止効果は里要な意味を持つと考えられる︒
筆者は︑上のような情報の不完全性を改善するための垂直的制限は︑非価格拘束であれ価格拘束であれ︑社会的メ
︵ブランド内競争の実質的制限︶を上回っており︑独占禁止法上許容されると考える︒
一店一帳合制・流通業者の販路制限 ︑I
,
4 9̲し
一店一帳合制・流通業者の販路制限についてみてみよう︒
一店一帳合制・流通業者の販路制限は︑小売店の販売サービスの手抜きの監視にも︑小売店の価格維持のためにも︑ ことができたりして便利である︒ ものを購入できるなら︑消費者にとって便利である︒ れた品質・内容のものを購入できて便利である︒
フランチャイザーがフ ハンバーガー店の調理方法︵どんな原材
17 4~669 (香法'98)
一店一帳合制・流通業者の販路制限は︑流通市場を分断して
( 2 2 )
使わ
れる
︒
価格差別には︑供給者が︑価格は高いがサービス・品質・内容が高いものと︑価格は安いがサービス・品質・内容
( 2 3 )
が低いものを供給し︑顧客に自己選択させて価格差別を行う第二種の価格差別と︑供給者が市場を分割し︑顧客の需
( 2 4 )
要の価格弾力性に応じた価格差別を行う第三種の価格差別とが考えられる︒所得分配は別にして︑経済効率性︵一般
で考えれば︑第二種の価格差別は経済効率性を促進するのに対し︑第三種の価格差別消費者︹最終消費者︺の利益︶
は経済効率性に与える影響は一概には言えない︒
一店一帳合制・流通業者の販路制限による価格差別は︑第二種の価格差別にも第三種の価格差別にも用いられる︒
メーカーが︑高い販売サービスを行う系列販売店と︑販売サービスを行わない量販店の二つの流通経路を確保して︑
消費者に自己選択させて︑価格差別を行おうとする場合を考えよう︒これは第二種の価格差別であり︑経費︵コスト︶ まず︑このことについて検討しよう︒ 再販と同じような小売価格の維持を図ることもできる︒ ま
た ︑ 品質・内容のものを購入できることが重要な意味を持つ場合︑ 販売店が重要な販売サービスを提供し︑消費者がブランドを信用すれば販売店の販売サービスを含めて統一された
︵ブランド内競争を制限して︶価格差別を行うのにも︑ が小売店の販売サービスの手抜きの監視をすることは︑これに役立つ︒
一店一帳合・流通業者の販路制限は︑卸売業者が小売店を監視することによって再販の実行手段としても機能する︒
一店一帳合制︑流通業者の販路制限が行われれば︑明示的な再販が行わなくとも数量を調整することによって︑ 価格差別のためにも使われる︒
一店一帳合制・流通業者の販路制限を行って卸売業者
一 八
17‑4 ‑670 (香法'98)
垂直的制限について(2}(大録)
以上の価格差を設けてメーカーは消費者余剰を吸収しようとする︒卸売価格は︑系列販売店には高く︑量販店には安
くなるから︑卸売業者や量販店が系列販売店に商品を横流ししないように︑
仮に︑現実の一店一帳合制・流通業者の販路制限による価格差別が︑
格差別であれば︑経済効率性︵一般消費者の利益︶
を増進させる︒
例えば︑家電について︑系列店で販売サービスが高く︑量販店で販売サービスが低ければ︑
ビスの高低を使って顧客に自己選択させて︑上のような価格差別を行うことができる︒家電メーカーが︑系列店に高
い販売サービスを行わせ︑鼠販店に低い販売サービスを行わせることができるなら︑系列店では消費者に高く売り︵メ
ーカーの出荷価格も高くする︶︑量販店では消費者に安く売る
一 九
帳合制・流通業者の販路制限を使ってこの価格差別を行い︑消費者余剰をできるだけ多く吸収しようとする︒このよ
うな価格差別は︑需要の強さに応じた第二種の価格差別であって経済効率性を促進する︒
このように︑系列店が重要な販売サービスを行い︑量販店が行っていないなら︑
限による価格差別は︑独占禁止法上許容されるだろう︒
しかし︑家庭電器は︑修理はメーカーが行っており︑系列店でも量販店でも商品説明︑配送︑据付けのサービスを
行っていて︑系列店でも量販店でも小売店のサービスの内容は大差はない
カウントストアもあるが︑その取扱い商品は限られている︶︒ メーカーは︑販売サー
一店一帳合制・流通業者の販路制
現代の工業製品は︑系列店と量販店のような小売店の種類による販売サービスの高低で価格差別を行うのは無理で
あろ
う︒
いら
れる
︒
︵商品説明︑配送︑据付けをしないディス
︵メーカーの出荷価格も安くする︶︒
メーカーは一店 このように︑販売サービスの高低に応じた価 一店一帳合制・流通業者の販路制限が用
17‑4 ‑671 (香法'98)
ようにする︒ 価格を低くし︑系列店向けは卸価格を高くし︑ 一店一帳合制・流通業者の販路制限が価格差別に用いられるのは︑次のように第三種の価格差
消費者には探索費用をかけて価格の安い店を探す者もいるが︑共稼ぎのように時間的コストの高い人や高額所得者
すべての消費者が︑何のコストもかけずに︑すべての小売店の実売価格を知ることができれば︑消費者は低価格を
提ホする小売店で商品を買うだろう︒しかし︑商品の価格の情報を入手するには︑金銭だけでなく時間や心理的コス
トを含めた費用︵探索費用︶が必要である︒そのため︑価格情報を入手するのに必要なコストが小さい消費者と大き
い消費者の間では︑価格の分布についての情報量にギャップが生じる︒このような情報の不完全性がある市場におい
ては︑低価格で販売されていることを知らない消費者は︑高価格で︵それが高価格であるとは知らずに︶商品を買う︒
このような場合︑価格に関する情報の不完全性︵消費者の情報ギャップ︶を利用した価格差別が行われる︒
量販店は商圏が大きく探索費用をかける消費者を相手とし︑系列店は商圏が小さく探索費用をかけない消費者を相 手にしており︑
メーカーは前者の消費者には安く︑後者の消費者には高く売ろうとし︑流通市場を分割しようとする
︵ブランド内競争を制限する︶︒そのために︑メーカーは︑量販店向けと系列店向けに卸業者を分け︑量販店向けは卸
一店一帳合制・流通業者の販路制限は︑流通市場の分断をするために使うことができる
争の実質的制限︶︒このような価格差別によって︑メーカーはより大きな収入を得ようとする︒これは︑探索費用をか
けて安い店を探すかどうかで振るい分けて︑需要の価格弾力性の差による価格差別︵第三種の価格差別︶ は︑探索費用をかけずに近所の店で購入する︒ このことについて説明しよう︒ 別のためであると考えられる︒ 現代の工業製品で︑
一店一帳合制・流通業者の販路制限によって︑商品がヨコに流れない
︵ブランド内競
二
0
を行ってい
17‑4‑672 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
価格に関する情報の不完全性︵消費者の情報ギャップ︶を利用した価格差別であると考えられ︑このような価格差別
一店一帳合制・流通業者の販路制限を規制して︑
一店一帳合制・流通業者の販路制限の公正競争阻害性について全般的にみると次のようになる︒
販売店が重要な販売サービスを行っており︑消費者がブランドを信用すれば︑販売店の販売サービスを含めて統一
された品質・内容のものを購入することが重要な意味を持ち︑垂直的制限を行わなければ円滑な供給が行われなくな
る場
合︑
一店一帳合制や流通業者の販路制限は︑小売業者の販売サービスの手抜き等のブランドの評判へのただ乗り
行為の監視に使われ独占禁止法上許容されると考えられ︑
えら
れる
︒
← ょ ︑
i/~ 二種の価格差別は無理であり︑
一般
に︑
近年の工業製品は︑ った場合︑量販店のシェアが大きくなっていることから考えて︑安値の方に近づくだろうから︑価格差別ができなくなることは経済効率性︵一般消費者の利益︶
一般に︑系列店と量販店のような販売店の種類で販売店のサービスに応じて価格差別を行う第 しかし︑上のような場合︑ ると考えられる︒
この
場合
︑
一店一帳合制・流通業者の販路制限を独占禁止法違反とすれば︑流通市場の分断ができなくなり︑
メ ー
カーの流通管理はできなくなり︑価格競争が系列店まで波及し︑流通はよりオープンな流通機構へ向かうだろう︒
第三種の価格差別は︑販売量の増大をもたらすのであれば︑経済効率性︵一般消費者の利益︶
うでなければ︑経済効率性に対する影響は一概には言えない︒ を増大させるが︑そ
一店一帳合制・流通業者の販路制限を規制して価格差別ができなくなり︑同一価格にな
を増大させるだろう︒
一店一帳合制・流通業者の販路制限を使って価格差別を行っているとすれば︑
できなくなるようにした方が望ましい︒
また︑小売価格の維持のために使われても許容されると考
17~4~673 (香法'98)
競争阻害性があると考えられる事件があるので︑これについてみてみよう︒
松下エレクトロニクスに対する事件︵一九九三年三月八日勧告審決
クスが広域量販店に対し︑参考価格を下回る価格表示を行わないよう要請し︑量販店はこれを受け入れ遵守した︒こ
れは︑普通︑再販事件と把えられているが適当ではないと思う︒これは︑実売価格を拘束したものではない︒実売価
な お
︑
も︑公正競争阻害性の要件事実を事実上推定できると考える︒
審決集三九巻一頁︶では︑松下エレクトロ 現代の工業製品の販売については︑前述したようにこのような場合は例外的である︒
一店一帳合制・流通業者の販路制限は︑小売価格の維持や価格に関する情報
ギャップを利用した価格差別に使われていると考えられ︑後述のように︑社会的デメリット
的制限︶が社会的メリットを上回っており︑公正競争阻害性の要件事実が事実上推定できると考えられる︒
これまで一店一帳合制が取り上げられた事件︵日本光学工業事件︹昭和四七年六月三
0
日勧告審決︺等︶
一店一帳合制は再販の実効性確保手段として評価されているのが大部
ない︒独占禁止法は契約︵あるいはリベート等︶で縛ることだけを規制すると考えられる︒取引の簡素化等何らかの
経済的メリットがあれば︑事実上一店一帳合制が行われると考えられるから︑契約︵あるいはリベート︶
で縛
った
一
一店一帳合制・流通業者の販路制限の事件ではないが︑価格の情報の不完全性を大きくさせることに︑公正 店一帳合制を規制しても問題はないと思われる︒ 契約︵あるいはリベート等︶で縛っていなければ︑事実上︑一店一帳合制が行われていても独占禁止法違反となら 分である︒しかし︑筆者は︑一店一帳合制は︑現代の工業製品については︑一般に再販があわせて行われていなくと ずれも︑再販があわせて行われている︒また︑ 現代の工業製品については︑
一般
に︑
このような場合は前述したように︑塾︑居酒屋︑
︵ブランド内競争の実質 ハンバーガー屋等のフランチャイズがあげられる︒
で は
︑
し)
17‑4 ‑674 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
との競争に負けてしまう︒ 格は小売店と消費者の相対交渉で決定される︒量販店の広告の表示価格の拘束は再販とは異なる︒の広告の表示価格を拘束することの公正競争阻害性はどのように考えたらよいだろうか︒売価格の分布を知るために必要な探索費用を上昇させ︑安く売っている店がわからない消費者に高価格で商品を買わ
伊藤冗重﹁日本の物価はなぜ高いのか﹂第一一章参照
NTT
出版一九九五年︒拙稿﹁不当な廉売︑差別対価︑抱き合わせ販売の公正競争阻害性について﹂公正取引五二七号六五頁参照︒
拙稿﹁不当な廉売︑差別対価︑抱き合わせ販売の公正競争阻害性について﹂公正取引五二七号六三頁参照︒
メーカーが自社製品を流通させるのに︑通常は市場機能を使う
別化のない商品については︑垂直的制限を行うことはない︒
考えようとするものである︒
口 公 正 競 争 阻 害 性
( 2 2 )
( 2 3 )
( 2 4 )
せる点にあると思われる︒
この理由に対応して基準を ︵市場に任せることをしな それは︑消費者が正確な実
そんなことをすれば︑流通コストが増大して他メーカー メーカーが垂直的制限を行うのは効率的な市場機能を使わない
い︶ことの相応の理由が必要である︵そうでなければ他メーカーとの競争に負けてしまう︶︒筆者が︑垂直的制限の公
正競率阻害性の要件事実の事実上の推定の基準について︑商品特性に応じて考えるのは︑
筆者は︑垂直的制限の公正競争阻害性について︑社会的デメリットが社会的メリットを上回ることであると考える︒
︵市
場に
任せ
る︶
三
のが最も効率的であって︑製品差
メーカーが量販店
17‑4 ‑675 (香法'98)
例えば︑塾は教育︑ という性格のものではなく︑ )ット~,.
一般に︑非標準的で消費者には品質・内容がよくわからない︒垂直的制限は︑ブランドを信用すれば︑
販売サービスも含めて︑統一された品質・内容のものを購入するために行われることがある︒商品の供給に関して販
売店の販売サービスが重要な意味を持ち︑消費者がその品質・内容がよくわからないときに︑消費者がメーカーブラ
ンドやフランチャイズブランドを信用すれば︑垂直的制限により販売店の販売サービスも含めて統一された品質・内
容のものを購入できることが重要な意味を持つ︵﹁重要な意味を持つ﹂とは︑垂直的制限を行わないと円滑な供給が行
われなくなることを指す︶場合は︑価格拘束であれ非価格拘束であれ︑垂直的制限は︑社会的メリットが社会的デメ
( 2 5 )
︵ブランド内競争の実質的制限︶を上回っており︑独占禁止法違反とならない︵情報の不完全性を改善する垂
直的
制限
︶︒
垂直的制限が情報の不完全性を改善する場合の代表的なものは︑塾︑
チェーンである︒
なお︑小売店が重要な販売サービスを提供している場合の価格拘束は︑仕入れた商品を転売するときの価格の拘束
一般指定︱二項の再販売価格︵仕入れた商品を転売するときの価格︶
一般指定一三項の不当な拘束条件付取引に該当するかどうかの問題になるだろう︒
ハンバーガー店は調理や品質保持等︑居酒屋は調理・接客等の販売サービスを提供している︒
サー
ビス
は︑
①情報の不完全性を改善する垂直的制限について にまとめると︑次のように考えられる︒
の拘束ではなく︑
ハンバーガー店︑居酒屋等のフランチャイズ 再販︵価格拘束︶︑テリトリー制︵厳格なテリトリー制︶︑販売方法の制限︵選択的流通制︶︑一店一帳合制・流通業
者の販路制限等の垂直的制限の公正競争阻害性の要件事実の事実上の推定の基準について︑前節で述べたことを参考
ニ四
17‑4 ‑676 (香法'98)
垂直的制限について(2)(大録)
工業製品の操作が賭しく壊れやすく︑小売店の詳細な情報提供やアフターサービスが重要な場合には︑
販売店の販売サービスを管理し︑
質・内容のものを提供できるようにすることが重要な意味を持つ︒
垂直的制限はブランドの評判のただ乗りを防ぎ情報の不完全性を改善する︒
このように︑商品の供給に関して販売サービスが重要な意味を持つ場合︑垂直的制限によりメーカーが画一的に販
売店に販売サービスを行わせた方が規模の経済性を生かすことができ︑
現代の工業製品は︑操作も容易となり︑故障が少なくなり︑品質も向上し︑販売店の詳細な情報提供やアフターサ
ービス等の販売サービスは不要となり︑故障の修理もメーカーが行えばよい商品が一般的である︒例えば家電製品は︑
以前は︑操作も難しく壊れやすく︑小売店の詳細な情報提供やアフターサービスが重要な意味を持っていた︒しかし
現在では︑操作も簡半となり︑小売店の詳細な情報提供は必要無くなり︑ しかし近年の工業製品は異なる︒ 日本の高度成長の初期頃までの工業製品は︑ の供給が阻害されるだろう︒ 工業製品についてみると︑ これについてみてみよう︒
このような製品も多かったと思われる︒ このような場合の価棺拘束は再販とはいいづらいだろう︒
しか
し︑
うことが多く︑本項でも︑厳密に区別することなく用いることにしよう︒
近年の工業製品で︑垂直的制限が上の情報の不完全性を改善する場合に該当するのは例外的だろう︒
かつては︑操作が難しく壊れやすく︑
二五
これを行わないと円滑な商品や販売サービス
品質も低いものも多かった︒
メーカーのブランドを信用すれば︑販売店の販売サービスも含めて︑統一された品
このような場合︑
また︑商品が故障しにくくなったため︑小
一般
には
︑
ブランド内の販売店を管理する
︑
メーカーカ このような場合の価格拘束も再販とい
17‑4 ‑677 (香法'98)