半導体露光装置を用いた微細周期構造を有する光学素子の開発
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(3) i. 目次. 緒論 第1章. 1 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. 3. 1.1. 緒言. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. 3. 1.2. 微細周期構造を有する光学素子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. 3. 1.3. 周期構造光学素子の搭載例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. 7. 1.4. 半導体露光装置を用いた微細加工技術 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. 9. 1.5. 結言. 第2章. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13. ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子 15. 2.1. 緒言. 2.2. 格子材料の選定および格子形状の設計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17. 2.3. ダブルパターニング技術を用いた素子加工 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24. 2.4. 光学特性評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27. 2.5. 考察. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28. 2.6. 結言. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30. 第3章. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15. 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. 31. 3.1. 緒言. 3.2. 高出力の紫外波長照射によるワイヤーグリッド偏光子の特性劣化 . . . . . . . . 32. 3.3. 表面活性化常温接合を用いた素子加工 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36. 3.4. 温度耐久性評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39. 3.5. 考察. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40. 3.6. 結言. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31.
(4) 目次. ii. 第4章. スティッチング露光を用いた大面積素子化と大面積高効率透過型回折格子. 43. 4.1. 緒言. 4.2. 格子形状の設計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45. 4.3. スティッチング露光を用いた素子加工 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48. 4.4. 光学特性評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55. 4.5. 結言. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59. 総括. 61. 謝辞. 63. 参考文献. 64. 著者発表論文. 68.
(5) 1. 緒論. Joseph von Fraunhofer(1787∼1826) が 1819 年に再発見した「回折格子」[1, 2](1785 年に David Rittenhouse によって発見されたが [3],当時は評価されることがなかった) に端を発す る微細構造光学素子は,その微細構造によってさまざまな光波制御 (強度,波面,波長,偏光な ど) を目指した多数の研究があった.その後,回折格子に加えて計算機ホログラムなどを取り扱 う回折光学 [4, 5],微小レンズや光導波路を扱う微小光学 [6, 7],誘電体周期構造を基本とする フォトニック結晶 [8, 9] やサブ波長構造素子 [10, 11],金属表面や微小金属粒子でのプラズモン 共鳴 [12, 13],微小金属共振回路によるメタマテリアル [14, 15] へと拡張されていった. 光学技術の応用分野は,光情報処理,ディスプレイ,照明,レーザー加工・プロセス,バイオ センシングなどと多岐に渡っており,空間並列性,超高速性などの光の物理的特性と屈折,回 折,干渉などの光の物理現象が駆使されている.古くはレンズやミラーなどの屈折,反射素子 に始まり,回折光学や微小光学を利用した素子も既に多くの分野で利用されている.例えば, 光信号を低損失で伝送可能な光ファイバーによる高速通信や,媒体に書き込まれた情報を光で 読み出す DVD,Blu-ray など日常生活でも広く見られる.表面プラズモン共鳴を利用したバイ オセンサーも実用化に至っている.フォトニック結晶やより短い周期のサブ波長構造素子は基 礎研究から実用化に向けた研究に変わりつつある.メタマテリアルに関しては新領域の技術で あり,具体的な応用に関してはこれから盛んになると期待される. 一方,今日の情報化社会を支える LSI の高集積化は,半導体微細加工プロセスによって実現 されてきた.Intel の創設者の一人である G. Moore が 1965 年に LSI の集積度は,1 年半で 2 倍になるという予測を提唱した.この予測は Moore の法則と呼ばれるようになり,この法則に 従って,半導体微細加工プロセスは発展し続け,現在では最小加工寸法は,20 nm にまで微細 になっている.半導体微細加工プロセスの進歩に伴って,微細周期構造を有する光学素子の実 現に向けた微細加工技術に関する研究が盛んになった.回折格子,構造性複屈折波長板,ワイ ヤーグリッド偏光子,無反射構造などがある.設計・解析技術としては,計算機の進歩に伴っ.
(6) 第 0 章 緒論. 2. て,1990 年代中頃より電磁場問題として厳密に透過率,反射率を算出することが容易になり, 現在では厳密結合波解析理論 (Rigorous Coupled Wave Analysis: RCWA) を使って解析する例 が多くなっている. 著者らのグループでは,光源に KrF エキシマレーザー (波長 248 nm) を搭載した縮小投影型 半導体露光装置を用いた微細周期構造を有する光学素子の微細加工プロセスを開発している. これまでに,近赤外波長レーザー向けの光学素子として,周期がミクロンオーダーの回折格子, サブミクロンオーダーの構造性複屈折位相板,ワイヤーグリッド偏光子といった微細周期構造 光学素子を開発し,光学調整の簡素化や装置の小型化に成功している.一方,紫外波長光源や 超短パルスなどの光の極限技術を駆使した精密加工装置の開発において,微細周期構造光学素 子を導入による高精度化,高性能化が期待できる.これらの素子を実現には,格子周期の微細 化,素子面積の大型化が重要な課題である.そこで,本研究では,微細周期構造光学素子におけ る半導体露光装置による微細加工技術の適用範囲を拡張することを目的とする.このためには, 装置の制約を超えた微細周期構造光学素子加工技術を実現する必要がある.本論文では,格子 周期の微細化,および,素子面積の大面積化のための微細加工技術を提案する.さらには,半導 体加工技術だけでなくマイクロマシニング技術を光学素子加工へ適用することを検討する.加 工プロセス開発だけではなく,新規あるいは付加価値の高い光学素子の実現を併せて検討する. 以下に本論文の構成と内容を示す. 第 1 章では,微細周期構造素子に関する概要について述べ,具体的な装置搭載例について述 べる.光学素子加工に適用する半導体微細加工技術について,露光技術を主に概説する. 第 2 章では,微細周期構造光学素子の加工微細化の手段としてダブルパターニング技術の 適用を提案する.試作対象とした微細周期構造光学素子は,深紫外波長で機能するワイヤーグ リッド偏光子であり,格子形状設計から光学性能の評価までを実施する. 第 3 章では,微細周期構造光学素子に付加価値を与える手段として,マイクロマシニング技 術である表面活性化常温接合の適用を提案する.試作対象とした微細周期構造光学素子は,高 出力の紫外光源に対して耐性の強いワイヤーグリッド偏光子であり,素子試作からその有効性 を検証する. 第 4 章では,微細周期構造光学素子の大面積化の手段としてスティッチング露光の適用を 提案する.試作対象とした微細周期構造光学素子は,フェムト秒レーザーの高出力化に有効な チャープパルス増幅器のパルス圧縮器に搭載される透過型石英回折格子であり,格子形状設計 から光学性能の評価までを実施する..
(7) 3. 第1章 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. 1.1 緒言 本章では,本研究が対象とする微細周期構造を有する光学素子とその微細加工技術について 説明する.微細周期構造によって,屈折や反射を利用した従来の光学素子 (レンズやミラー) で は実現が難しい高度な光波制御を実現することを研究の狙いとしている.1.2 節では,微細周期 構造を有する光学素子の概要を説明する.1.3 節では,微細周期構造を有する光学素子の実用例 として,格子干渉型ロータリーエンコーダーに搭載される光学素子について述べる.1.4 節で は,本研究で検討する微細加工技術の特徴を半導体露光装置を中心に述べる.. 1.2 微細周期構造を有する光学素子 !! "!"! #! "!. !!. #!. 図 1.1. 1次元周期構造格子の模式図. 図 1.1 に,本研究で対象とする微細周期構造である1次元周期構造格子の模式図を示す.光 のパラメーターとして,波長 λ,入射角 φin がある.格子形状のパラメーターとして,周期 p,.
(8) 第1章. 4. 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. 格子高さ (あるいは,溝深さ)h,格子幅 w,側壁角度 θ がある.格子幅 w については,周期 p に 対する比で定義されるデューティー比 (あるいは,フィリングファクター)f ,格子高さ h に対す る比で定義されるアスペクト比 r で表すことも多くある. 波長に比べて周期が大きい周期構造光学素子は,回折格子としてよく知られている.図 1.2. "#$%&'#()*%+,(!. "!. !!"! !!. !$%! ! #! !%. ./0(!. !. 1/0(!. -(,!. 図 1.2 回折格子による光波の回折. に透過型回折格子による光波の回折の概略を示す.波長 λ の光が回折格子に入射角 φin で入射 し,それぞれのスリットを透過した光は回折によって様々な方向に広がる.それらの出射光は, 隣り合うスリットを通った光の光路長差が波長 λ の整数倍になる方向で強め合う.このとき, 強め合う方向の出射回折角 φm は,. sin φin + sin φm = m. λ p. (1.1). を満たす.いわゆる,回折格子の式と呼ばれる式であり,m は整数で回折次数を表す.周期 p が長いと,回折光は高次まで多数存在する.周期 p が短くなるにつれて,低次の回折光だけに なり,また,その回折角は大きくなる.周期 p が波長 λ に近づくと,光の偏光によって振舞い に差が生じたり,特定の入射角や波長で特異な傾向が見られる.このような領域ではスカラー 理論では光の振舞いを表現できなくなる.一方,入射強度に対する各次数の強度の比を回折効 率と呼ぶ.スリットによって大半の光は遮られてしまうので,このような振幅変調型では回折 効率が低い.光路長差を遮光スリットを使わず屈折率差によって与える位相変調型の回折格子.
(9) 1.2 微細周期構造を有する光学素子. 5. は,高い回折効率を得られる.屈折率差は,感光材料の組成の疎密分布であったり,透明基板 の段差構造によって与えることができる. 周期 p が波長 λ に比べて短くなりすぎると,回折角 φm は,(1.1) 式において,m=0 以外に 解を持たなくなる.このような周期構造は「サブ波長構造素子」と呼ばれ,赤外領域では古く から使われてきた.サブ波長構造素子による光の基本的な振舞いは,平均的な屈折率を持つ一 様な透過媒質と見なした有効媒質理論 (Effective Medium Theory: EMT) を用いて説明できる. [10].図 1.3 のように微細周期構造に対して光が入射するとき,偏光方向により有効屈折率は異 !! !&#'%! !"#$%!. #! "!. !!. 図 1.3 サブ波長構造素子の模式図. なる.格子方向に平行な電場成分を持つ TE 偏光 (s 偏光) に対して,. nTE =. √ f n2 + (1 − f ). (1.2). となり,格子方向に垂直な電場成分を持つ TM 偏光 (p 偏光) に対して,. 1 nTM = √ f /n2 + (1 − f ). (1.3). となる.ここで,n は媒質の屈折率である.このように媒質そのものは等方性であっても,構 造の方向性によって有効屈折率の異方性が現れることを構造性複屈折 (Form Birefringence) と 呼ぶ.図 1.4 に,合成石英基板の表面レリーフ格子の場合のデューティー比に対する有効屈折 率を示す.ここで,屈折率は n=1.4527 を用いた.デューティー比 f =0 では空気だけになり, デューティー比 f =1 では合成石英だけになる.有効屈折率の値は偏光によって大きく異なり, この例ではデューティー比 f =0.55 のときに有効屈折率の差,すなわち,複屈折が最大となる. この複屈折から格子高さを調整することで,構造性複屈折位相板 [16] が実現できる.媒質が金 属の場合は,(1.2) 式,(1.3) 式において,n → n + ik に置き換えればよい.図 1.5 に,クロム.
(10) 第1章. 6. 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. 図 1.4 サブ波長石英レリーフ格子におけるデューティー比に対する有効屈折率. (a) 屈折率 (実部). (b) 消衰係数 (虚部). 図 1.5. 格子の場合のデューティー比に対する有効屈折率を示す.ここで,屈折率は n=4.2735,消衰係 数は k=3.9799 を用いた.ここで,消衰係数に注目する.TE 偏光ではデューティー比とともに 増加しているが,TM 偏光ではデューティー比が 0.5 以下ではほぼゼロのままであることが分 かる.すなわち,TM 偏光は透過するが,TE 偏光は透過しないワイヤーグリッド偏光子 (Wire. Grid Polarizer: WGP)[17] が実現できる. (1.2) 式,(1.3) 式で表した有効屈折率は,周期 p が波長 λ に比べて十分に小さいという 条件のもとで適用され,素子構造の概算に用いられる.厳密に算出するには,Maxwell 方程 式を厳密に数値解析する必要がある.厳密結合波解析法 (Rigorous Coupled Wave Analysis:. RCWA)[19, 20, 21] は,構造の周期性を使って固有モード波の条件を設定するので,計算精度 も高く,計算速度も速い特徴がある.また,サブ波長構造素子の解析に限らず,回折格子を含 めた周期構造光学素子全般の光波解析に有効である.本論文では,RCWA 法による厳密な光波 TM. 解析を実施しており,解析ツールには商用ソフトウェア DiffractMOD. Inc., Ossining, NY, USA)[22] を用いた.. (RSoft Design Group.
(11) 1.3 周期構造光学素子の搭載例. 7. 以上に示したように,微細周期構造は,媒質や周期のオーダーにより様々な光学素子として 機能することが可能で,格子形状によりその光学特性を制御できることが可能である.. 1.3 周期構造光学素子の搭載例 1.2 節で説明した光学素子を搭載した例について説明する.ロータリーエンコーダーは,産業 用精密計測機械等の多く使用されており,回転物体の角度変位情報の物理量を測定する検出器 である.光の回折,干渉,および,偏光を利用した格子干渉型ロータリーエンコーダーは,従来 の幾何光学式のロータリーエンコーダーよりはるかに高分解能の達成を可能とする.図 1.6(a). (a) 光学系 (USP958469B2 より引用). (b) 出力信号. 図 1.6 格子干渉型ロータリーエンコーダー. は,格子干渉型ロータリーエンコーダーの光学系の一例を示す [18].近赤外半導体レーザー. (LD) から射出された光は,放射状の回折格子スケール (GT) で反射,回折する.±1 次の反射 回折光は,光学軸を 90 度ずらして配置された λ/8 板 (QZ1,QZ2) を透過し,円弧状の回折格 子 (CG1,CG2) で反射,回折し,再度 λ/8 板 (QZ1,QZ2) を透過し回折格子スケール (GT) ま で戻る.ここで,λ/8 板 (QZ1,QZ2) を往復透過することで,回折格子スケール (GT) から ±1 次の反射回折光は互いに逆回りの円偏光となる.回折格子スケール (GT) で合成された光は,-1 次回折光と +1 次回折光の位相差応じて偏光面を回転させる直線偏光になる.次に,反射型 2 次元位相格子 (GT4) に入射すると,4 分割に反射回折され,透過軸がそれぞれ 45 度ずつずらし て配置された偏光子 (POL1∼POL4) を透過し,受光素子アレイ PD41,PD42,PD43,PD44.
(12) 第1章. 8. 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. で検出される.上記の構成により,検出される明暗周期信号は正弦波でありそれぞれの位相は 互いに 90 度ずれる (図 1.6(b)). ミクロンオーダーの周期構造の光学素子として,円周方向に対して周期構造を持つ反射型位 相格子である回折格子スケールと反射型円弧回折格子,2 次元周期構造を持つ反射型位相格子 である 4 分割格子がある.図 1.7 のように,回折格子スケールには,他にもクロムパターンに. (a) クロム振幅格子. (b) 石英レリーフ位相格子. 図 1.7 放射状回折格子型エンコーダースケール. よる振幅型透過回折格子スケールや石英レリーフ位相格子スケールがある.ナノオーダーの周 期構造の光学素子として,構造性複屈折による λ/8 板とワイヤーグリッド偏光子がある.λ/8. (a) 構造性複屈折位相板. 図 1.8. (b) ワイヤーグリッド偏光子. サブ波長周期構造素子の格子断面形状観察画像. 板の構造は,周期が p=260 nm,格子高さが約 h=1.5 µm の石英レリーフ構造となっている. (図 1.8(a)).ワイヤーグリッド偏光子の構造は,周期が p=260 nm,格子高さが約 h=200 nm.
(13) 1.4 半導体露光装置を用いた微細加工技術. 9. 図 1.9. 偏光子アレイ. の金属クロム格子となっている (図 1.8(b)).図 1.9 は,偏光フィルムを通して観察した画像で あり,偏光フィルムの透過軸との角度が,右下部が平行,左下部が直交,上部 2 箇所は ±45 度 になっていることが分かる. 格子干渉型ロータリーエンコーダーに微細周期構造光学素子を搭載することで光学調整の簡 素化およびシステムの小型化を達成している.以上から,微細周期構造光学素子が産業上有効 な手段であることを示した.. 1.4 半導体露光装置を用いた微細加工技術 ここでは,前節までに説明した周期構造光学素子の微細加工技術について述べる.半導体微 細加工技術が大きく進展し,加工技術が微細光学素子加工にも適用されるようになっている. 図 1.10 に示すように,微細素子加工は,成膜 → レジスト塗布 → 露光 → 現像 → エッチング. !"#$%&'(#)*$!. +*,-./%/-0!. 5%;2/04!. 12-%-$*./.%' 3-#%/04!. <.2/04!. 56,-."$*'7' +*8*9-,:*0%!. +/;/04!. 図 1.10 微細素子加工の基本工程. 32/,!.
(14) 10. 第1章. 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. → アッシング → ダイシングが基本工程である. 本研究では,直径 φ=200 mm の合成石英の透明基板 (ウエハー) を用いた.合成石英は,他 の光学ガラスと比べて,近赤外領域,可視領域の波長だけでなく,紫外領域においても非常に 透明であり光学素子の基板として適している.図 1.11 は分光エリプソメトリーによる合成石英. 図 1.11 分光エリプソメトリーによる合成石英の光学定数測定結果. の屈折率測定結果であり,この測定結果を元に光学解析,光学設計を行っている. 成膜は,化学気相成長法 (Chemical Vapor Deposition: CVD),物理気相成長法 (Physical. Vapor Deposition: PVD),塗布法,電機メッキ法といった技術に分けられるが,ここではほと んど PVD 法を採用している.PVD 法には,真空蒸着,スパッタリング,イオンプレーティン グがあるが,膜の緻密性が良好なスパッタリングを多用している.真空蒸着も,反射防止膜と いった成膜に用いている.本研究では,成膜工程は外部受託加工業者で実施している. 露光の説明の前に,先にエッチングに関して説明する.エッチングは,ウェット方式とドラ イ方式に大別することができる.ウェットエッチングではナノオーダーの制御が困難であるた め,ドライエッチングを多く用いている.ただし,1.3 節で述べたミクロンオーダーのクロムパ ターンなどではウェットエッチングで実施することもある.ドライエッチングは,真空チャン バー内においてプラズマ放電によって励起された活性種による化学反応でのエッチングと,活 性種が薄膜,あるいは,基板の表面への衝突による物理的エッチングの両方が存在する.この ようなエッチングを反応性イオンエッチング (Reactive Ion Etching: RIE) と呼ぶ.RIE は,プ ラズマの発生方式によって分類される.平行平板コンデンサによる最も簡単な装置構成の発生 プラズマは,容量結合放電プラズマ (Capacitive Couples Plasma: CCP) と呼ばれ,本研究で は,サムコ社製 RIE-10NR を用いている.高密度プラズマ発生方法のひとつとして,磁気中性.
(15) 1.4 半導体露光装置を用いた微細加工技術. 線放電プラズマ (Magnetic Neutral Loop Discharge: NLD) と呼ばれる放電方式があり,本研 究では,アルバック社製 NLD-5700 を用いている. 最後に,露光について述べる.露光は,電子ビーム描画と光露光に大別することができる. 電子ビーム描画は,マスクが不要で基板上のレジストを電子ビームで直接描画することができ ることと,非常に解像力が高いことを最大の利点とする.ただし,描画時間が非常にかかるた め,大量描画や大面積描画には向いていない.この点を補う手段として,電子ビームによる等 倍マスク投影露光という技術が研究されているが実用化にはいたっていない. 光露光は,パターンの原版としてマスクを製作し,そのマスクパターンを光で投影しウエハー 上に転写する手法である.投影方式としては,コンタクト (密着) 法,プロキシミティー (近接) 法,等倍投影法,縮小投影法とがある.コンタクト法,プロキシミティー法は,装置構成が簡単 ではあるが,解像力はミクロンオーダーである.等倍投影法では,マスクの精度の課題が大き い.半導体加工分野では,解像力,オーバーレイ精度,スループットの点から,縮小投影法によ る露光が主流である.解像力向上の観点から,光源波長が高圧水銀ランプの g 線 (λ=436 nm),. i 線 (λ=365 nm),フッ化クリプトン (KrF) エキシマレーザー (λ=248 nm) と短波長化が進み, 最先端プロセスではフッ化アルゴン (ArF) エキシマレーザー (λ=193 nm) が用いられている. 縮小投影露光装置を用いた微細構造光学素子加工は,その圧倒的なスループットにより開発か ら量産までを一気通貫で実施可能なため非常に有効な手段の一つであり,i 線光源での研究が盛 んに行われている.ArF エキシマレーザー搭載装置は,解像力の点で優れているが, フォトレ ジストの管理,プロセス不安定性,装置の維持管理の点で微細周期光学素子加工には適してい ない.そこで,本研究では,微細周期光学素子の加工に KrF エキシマレーザーを搭載した縮小 投影露光装置を採用した.また,本露光装置にコーターデベロッパー (東京エレクトロン社製. CLEAN TRACK ACT 8) がインライン接続しており,レジストの塗布および現像を行ってい る.そのため,塗布 ∼ 露光 ∼ 現像の工程間は,非常にクリーンな環境が保たれている. 図 1.12 に,KrF 半導体露光装置の構成を示す.KrF エキシマレーザーから出射される光を照 明光学系を通してレチクル (マスク) に入射する.レチクルからの透過光を縮小投影光学系を通 し,ウエハー上のフォトレジスト中にレチクル上のパターンに対応した潜像を形成する.レー ザー干渉計により高精度に制御されたステージを駆動することで,ウエハー上の位置を変えなが ら露光を繰り返す (ステップアンドリピート方式).本論文では,キヤノン社製 FPA-6000ES6a を用いている.表 1.4 に,FPA-6000ES6a の主な性能を示す.ここで,解像力は格子周期の半. 11.
(16) 第1章. 12. 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. !"#$%&'()%"$*+,%"!. -**.)(/+0(1/$120(',! 3%0('*%$+*(6/)%/0! 3%0('*%! 4"15%'0(1/$120(',! 8+9%"$+*(6/)%/0!. #1'.,$7%0%'0(1/!. 8+9%"!. :+,%"$(/0%"9%"1)%0%"!. 8+9%"$,0+6%!. 図 1.12 KrF 半導体露光装置の模式図 表 1.1 FPA-6000ES6a の主な性能. item. specification. Light source. KrF excimer laser. Wavelength. 248 nm. Wafer size. 200 mm. Resolution. 90 nm. Numerical aperture(NA). 0.86 (max). Reticle size. 6 in.. Reduction ratio. 1/4. Field size. 26 mm×33 mm. Overlay accuracy. 8 nm (silicon wafer). Throughput. 170 wph (58 shots). 分の値で定義され,90 nm である.解像力 R は,一般に Rayleigh の式によって,. R = k1. λ NA. (1.4). で表される [23].ここで,k1 はプロセスファクターと呼ばれ,フォトレジスト材料やプロセスに 関わり,0.25 以上の数値である.FPA-6000ES6a では,λ=248 nm,NA の最大値は 0.86 であ り,解像力の理論限界値は式 (1.4) に代入することで,72 nm であることが分かる.すなわち,. FPA-6000ES6a では格子周期 p=144 nm 未満の周期構造光学素子は加工不可能となる.原版で.
(17) 1.5 結言. あるレチクルには,6 インチ角のガラス基板上にウエハ上の 4 倍のサイズのクロムパターンが配 置され,縮小投影系によりウエハー上では 1/4 に縮小されたパターンが露光される.レチクル 上にさまざまなパターンを配置することができるため,1.3 節の図 1.9 のように 1 チップ上にア レイ化を可能とし,光学調整の大幅な削減に貢献できる.また,露光範囲は 26 mm × 33 mm であり,この範囲を超えた面積を持つ光学素子加工が不可能となる.このような装置的制約が, 微細周期構造光学素子の微細化,または,大面積化を制限する要因となる. 本論文では KrF 半導体露光装置を用いた微細周期構造光学素子加工の問題から,装置制約を 超えた光学素子の試作を行い実験的にその優位性を検証する.さらには,半導体加工技術だけ でなくマイクロマシニング技術が光学素子加工に適用する優位性を検証する.加工プロセス開 発において,新規,もしくは,付加価値の高い光学素子の実現を併せて検討する.第 2 章では, 微細周期構造光学素子の加工微細化の手段としてダブルパターニング技術の適用を提案する. 試作対象とした微細周期構造光学素子は,深紫外波長で機能するワイヤーグリッド偏光子であ り,格子設計から光学性能の評価までを実施した.第 3 章では,微細周期構造光学素子に付加 価値を与える手段として,マイクロマシニング技術である表面活性化常温接合の適用を提案す る.試作対象とした微細周期構造光学素子は,高出力の紫外光源に対して耐性の強いワイヤー グリッド偏光子であり,素子試作からその有効性を検証した.第 4 章では,微細周期構造光学 素子の大面積化の手段としてスティッチング露光の適用を提案する.試作対象とした微細周期 構造光学素子は,フェムト秒レーザーの高出力化に有効なチャープパルス増幅器のパルス圧縮 器に搭載される透過型石英回折格子であり,格子設計から光学性能の評価までを実施した.. 1.5 結言 本章では,微細周期構造を有する光学素子とその微細加工技術について述べた.微細周期構 造光学素子において,その周期構造のオーダーにより発現する光学現象が様々であることを述 べた.その光学現象を用いた光波制御について述べ,これまでに近赤外波長用として実現した された微細周期構造光学素子の加工例,および,装置搭載例を示した.微細周期構造の素子加工 に対して,半導体微細加工技術の適用性が高いことを示し,露光工程を半導体露光装置によっ て加工することが特徴的であることを述べた.現状の半導体露光装置を用いた微細周期構造光 学素子加工における問題点が,素子構造の微細化,素子面積の大面積であることを示した.加 工課題に対して提案した光学素子加工の優位性を検証するために,新規,もしくは,付加価値. 13.
(18) 第1章. 14. 微細周期構造を有する光学素子と微細加工技術. の高い微細周期構造光学素子を提案技術によって試作し,光学特性の評価結果により,有効な 加工技術であることを述べた..
(19) 15. 第2章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と 深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 2.1 緒言 半導体露光装置,液晶光配向照射装置,レーザー直接加工装置といったさまざまな及びレー ザ直接加工システムのような種々の光学系では,光源の波長は,より高い解像力を得るために 短波長化が進み,深紫外波長 (Deep Ultra Violet: DUV) に達している.解像力をさらに高め るために,偏光状態を制御することが提案されており,深紫外帯で機能する偏光子の需要が高 まっている [24].図 2.1 に示すように,半導体露光装置内に偏光状態を計測するユニットが搭. 図 2.1. 偏光計測ユニットを搭載した半導体露光装置 (特許第 4976670 号より引用). 載される [25].計測ユニットに偏光子が必要となる.深紫外帯用の偏光子は,グラントムソン.
(20) 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 16. プリズム (Glan Thompson) やローションプリズム (Rochon) などのプリズム型偏光子が市販さ れており入手可能である.このような偏光子は非常に高消光比ではあるが,大きく,かつ,高 価であるだけでなく,入射角の許容角が非常に小さいため,光学ユニットに搭載するには適し ていない,一方で,薄膜型の高分子偏光子は,この問題を解決するための有望な候補ではある が,深紫外波長において有効な特性を持った素子が存在しない. 波長よりも小さい周期構造を有するワイヤーグリッド偏光子は,深紫外波長においても高品 質の薄型偏光子を実現することができる可能性のある候補のひとつとして挙げられる.ワイ ヤーグリッド偏光子の研究は赤外領域用から始まった [17].その後,テラヘルツ波長 [26],赤 外波長 [27],可視光波長 [28],紫外線波長 [29],さらには,深紫外波長 [31, 30, 32] と順々に適 用範囲が拡大している.対象波長が短波長になるにつれて.より微細な格子周期,かつ,より 高いアスペクト比の金属格子が要求される.このような素子加工において,より高度なリソグ ラフィーおよび金属加工プロセスを必要とする.リソグラフィープロセスとしては,ナノイン プリントリソグラフィ [29],干渉露光 [33],電子ビーム描画 [34] などが研究されている.一方, 金属加工は,リフトオフプロセス [35],ドライエッチング [36],空間周波数倍増技術 [37] など が研究されている. アルミニウムはワイヤーグリッドの材料として最も一般的な金属材料ではあるが,深紫外波 長では偏光子としてほとんど機能しない.そこで代替材料探索の研究が行われている.金属材 料としてタングステンを用いた報告例では,消光比を 50:1(17 dB) 以上を達成している [30].半 導体材料としてシリコンを用いた報告例では消光比は 5:1(7 dB) 程度 [31] で,金属酸化物材料 として酸化チタンを用いた報告例では消光比は 15:1(12 dB) 程度 [32] と,実用化という面では 未だ到達しているとは言えない. 本章では,深紫外波長である ArF エキシマレーザー (λ=193 nm) で使用可能なワイヤーグ リッド偏光子を提案する.本提案のワイヤーグリッド偏光子によって,100:1(20 dB) 以上の高 い消光比を達成する.2.2 節では,RCWA 解析を用いて実施した深紫外波長用に適切な金属酸 化物格子材料の選定と格子形状の設計について述べる.2.3 節では,2.2 節で述べた格子形状を 形成するための微細加工プロセスを提案し,提案プロセスにしたがった実施した素子試作につ いて述べる.2.4 節では,2.3 節で述べた試作素子の光学特性測定について述べる.2.5 節では,. 2.3 節で提案したプロセスでの加工許容度について RCWA 解析を用いた考察を行う..
(21) 2.2 格子材料の選定および格子形状の設計. 17. 2.2 格子材料の選定および格子形状の設計 本節では,波長 λ=193 nm における金属酸化物ワイヤーグリッドを RCWA 解析を用いて 実施した深紫外波長用に適切な金属酸化物格子材料の選定と格子形状の決定について述べる. 図 2.2 に, 図 1.3 で示した図を再掲する.ワイヤーグリッド偏光子として機能するためには,0 $%&'()%*+,'-!*! !&#'%! !"#$%!. 3)*0,+45'()!. #! "!. !! 670/*8+1791*/0*)! !"#$%!. ./0%12'**)(+,'-!*! 図 2.2 酸化物ワイヤーグリッド偏光子の概略図. 次回折光のみが伝播し,少なくとも ±1 次回折光が発生しないような周期 p にする必要がある.. (1.1) 式で示した回折格子の式に対して,基板の屈折率を考慮すると以下のような式になる. sin φin + nsub sin φm = m. λ p. (2.1). ここで,λ は入射波長,φin は入射角,φm は回折角,m は回折次数,nsub は基板の屈折率であ る.垂直入射 (φin = 0◦ ) において,1 次回折光 (m = ±1) の伝播を避けるために,sin φ±1 が 1 よりも大きくなければならない.(2.1) 式を変形し代入すると,. ±λ/p − sin 0◦ >1 nsub λ p< . nsub. sin φ±1 =. (2.2). ここで,基板は合成石英で,波長 λ=193 nm における屈折率は,nsub =1.5609 である.周期 p は (2.2) 式に代入することで,少なくとも 120 nm 未満である必要があると分かる.本研究で は,露光解像力とオーバーレイ精度などの加工装置上の制約を考慮し周期 p=90 nm とした..
(22) 18. 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 次に,格子材料と格子幅 w を決定する.偏光計測ユニットで実用可能を想定して,消光比の 目標を 20 dB 以上とする.ここで,TM 偏光 (電場の振動方向が格子配列方向に対して平行) と. TE 偏光 (電場の振動方向が格子配列方向に対して垂直) の透過率をそれぞれ TTM ,TTE とし, 消光比は 10 log(TTM /TTE ) で定義する.金属酸化物の候補材料として酸化クロム (Cr2 O3 ),酸 化アルミニウム (Al2 O3 ),酸化タンタル (Ta2 O5 ),酸化チタン (TiO2 ) の 4 種に関して RCWA 解析を実施した.また,一般的にワイヤーグリッド偏光子の金属材料であるアルミニウム (Al) に関しても実施した. 図 2.3,図 2.4 に,格子材料が Cr2 O3 , Al2 O3 , Ta2 O5 , TiO2 , Al の周期. p=90 nm の矩形格子における,格子高さとデューティー比に対する消光比と TM 偏光透過率 の RCWA 計算結果をそれぞれ示す.ここで,デューティー比 f は,格子周期に対する格子幅 の比 w/p で定義する.RCWA 解析に用いた光学定数 n + ik は,分光エリプソメーター (SCI,. Filmtek3000) によって予め測定した値を用いた.図 2.5 に測定結果を示す.波長 λ=193 nm における光学定数は,Cr2 O3 では 2.5405 + 1.4853i,Al2 O3 では 2.9957 + 0.1198i,Ta2 O5 で は 1.7969 + 1.0974i,TiO2 では 1.4902 + 1.1057i,Al では 0.1227 + 1.9817i である.図 2.3 に 示すように,Al2 O3 格子と Al 格子が消光比は非常に低いため,波長 193 nm での偏光板に適 していないことが明確である.その他の格子材料では,格子高さが高くなるにつれて消光比は 増大する.一方,デューティー比が小さくなるにつれて TM 偏光透過率が増大する傾向がある ことが分かる.格子深さについては,我々の微細加工技術での素子製作を想定し,格子高さを. 120 nm と設定する.図 2.6 では,格子材料が各金属酸化物とアルミニウムの周期 p=90 nm, 格子高さ h=120 nm の矩形格子における,デューティー比に対する消光比と TM 偏光透過率の. RCWA 計算結果をそれぞれ示す.Cr2 O3 格子では,デューティ比が 0.3 付近において 30 dB 以 上と高い消光比が得られる.TiO2 格子では,デューティー比が 0.37 以上となると Cr2 O3 格子 より高い消光比を得られるが,一方で,TM 偏光透過率が 10% 未満と低い.Ta2 O5 格子では, デューティー比に対する TM 偏光透過率傾向は Cr2 O3 格子と類似しているが,一方で,消光比 は 20dB 未満と低い. 図 2.7,図 2.7 は,周期 p=90 nm,格子深さ h=120 nm,デューティー比 f =0.3 の矩形格子 における各格子材料での TE 偏光,TM 偏光のニアフィールド電場分布の RCWA 解析結果を示 す.消光比の特性は,TE 偏光の電場成分が格子層への滲み出し深さがどれだけ浅いかによっ て理解することができる.図 2.7(b) から分かるように,Al 格子の格子溝への滲み出し深さは 明らかに深く,一部が基板側まで達している.一方,図 2.7(a) から分かるように,Cr2 O3 の格 子溝にエバネッセント場の滲み出し深さは,Al 格子に比べて非常に浅い.換言すれば,TE 偏.
(23) 2.2 格子材料の選定および格子形状の設計. 19. (a) Cr2 O3. (b) Al2 O3. (c) Ta2 O5. (d) TiO2. (e) Al. 図 2.3 格子高さとデューティー比に対する消光比 RCWA 解析結果 (白部は消光比 50 dB 以上,黒部は消光比 0 未満).
(24) 20. 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. (a) Cr2 O3. (b) Al2 O3. (c) Ta2 O5. (d) TiO2. (e) Al. 図 2.4. 格子高さとデューティー比に対する TM 偏光透過率 RCWA 解析結果.
(25) 2.2 格子材料の選定および格子形状の設計. 21. (a) Cr2 O3. (b) Al2 O3. (c) Ta2 O5. (d) TiO2. (e) Al. 図 2.5. 分光エリプソメトリーによる光学定数測定結果. 光の透過は,Cr2 O3 格子によって強く抑制されている.Ta2 O5 と TiO2 格子の滲み出し深さは,. Al 格子と Cr2 O3 格子との間程度であり,その結果により図 2.6 で示された傾向が導かれる.ま た,図 2.7(e) からは,Al2 O3 格子は,他の金属酸化物格子とは対照的で TE 偏光は透過するこ とが分かる.表 2.1 に,各格子材料における格子周期 p=90 nm,格子深さ h=120 nm,デュー ティー比 0.3 における消光比および TM 偏光透過率の RCWA 結果を示す.本結果より,金属 酸化物の材料候補の中で酸化クロムが深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子として最も適して.
(26) 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 22. (a) 消光比. 図 2.6. (b) TM 偏光透過率. p=90 nm,h=120 nm の各格子におけるデューティー比 f に対する RCWA 解析結果. (a) Cr2 O3. (b) Al2 O3. (d) TiO2. (e) Al. (c) Ta2 O5. 図 2.7 p=90 nm,h=120 nm,f=0.3 の各格子における TE 偏光のニアフィールド電場分布の RCWA 解析結果. 表 2.1 P=90 nm,h=120 nm,f=0.3 の各格子における消光比および TM 偏光透過率の RCWA 解析結果. Extinction ratio. Transmission. Cr2 O3. 40.3 dB. 36.0%. Al2 O3. 3.84 dB. 74.8%. Ta2 O5. 16.9 dB. 41.4%. TiO2. 31.4 dB. 10.4%. Al. 4.30 dB. 46.0%.
(27) 2.2 格子材料の選定および格子形状の設計. 図 2.8. 23. (a) Cr2 O3. (b) Al2 O3. (d) TiO2. (e) Al. (c) Ta2 O5. p=90 nm,h=120 nm,f =0.3 の各格子における TM 偏光のニアフィールド電場分布の RCWA 解析結果. いることを確認した.ここで,Cr2 O3 格子の入射角特性を確認しておく.図 2.9 に,入射角に. (a) 消光比. (b) TM 偏光透過率. 図 2.9 Cr2 O3 格子における入射角に対する RCWA 解析結果. 対する RCWA 解析結果を示す.1 次回折光が発生する入射角 φin = 35.7◦ であっても,20 dB 以上の消光比を確保できていることを確認できた. 以上のことから,本節では,RCWA 解析によって,波長 193 nm における金属酸化物ワイ ヤーグリッド偏光子の最も適切な金属酸化物材料が酸化クロムであり,周期 p=90 nm,格子高 さ h=120 nm,デューティー比 f =0.3 の格子形状を加工目標とすることを示した..
(28) 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 24. 2.3 ダブルパターニング技術を用いた素子加工 本節では,2.2 節で述べた酸化クロムの微細周期構造を,半導体加工プロセス技術を基盤と したダブルパターニング技術 [38] を用いて行った加工結果を示す.1.4 節で示したように,本 研究で用いる KrF 半導体露光装置で解像する周期構造は,装置仕様で p=180 nm,理論限界の. k1 =0.25 でも p=144 nm である.ここでは,周期 p=90 nm の格子構造を加工する手段として, ダブルパターニングを採用することを提案する.. +$,-.!. /0-,!. !"#$%&'(")(%$#%*! (a) Cr2 O3 ,SiO2 成膜. (e) レジスト塗布 (2 回目). !"#$#%&'('$!. (b) レジスト塗布 (1 回目). (f) 重ね合わせ露光,現像 (2 回目). (c) 露光,現像 (1 回目). (g) SiO2 エッチング (2 回目). (d) SiO2 エッチング (1 回目). (h) Cr2 O3 エッチング. 図 2.10. ダブルパターニングによる加工工程. 図 2.10 はダブルパターニングの加工工程を示す.(a) まず最初に,120 nm の膜厚の Cr2 O3 薄膜をスパッタリングにより合成石英ウエハー上に成膜した.その後,膜厚 100 nm の SiO2 薄膜を Cr2 O3 薄膜上にスパッタリングにより成膜した.(b) 次に,膜厚 170 nm 未満のポジ型 フォトレジスト (富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 GKR-5201A) の塗布を行っ た.(c) 周期 p=720 nm のクロムパターンのレチクルを用いて,ウエハー上に周期 p=180 nm.
(29) 2.3 ダブルパターニング技術を用いた素子加工. のパターンの縮小露光,および,現像を行った.このときの露光量は,図 2.11 に示す SEM 観察 画像のように現像後の抜き幅が出来るだけ細くなるように設定した.(d) レジストパターンを. 図 2.11. 露光,現像 (1 回目) 後の断面観察 SEM 画像. マスクとして,NLD プラズマ型 RIE により SiO2 のドライエッチングを行った.ここで,エッ チング条件は,流量 10 sccm の C3 F8 と流量 2.5 sccm の O2 で,プロセス圧力は 1 Pa とした. 図 2.12 に,エッチング後の断面形状の SEM 観察画像を示す.(e) 再度フォトレジストをの塗. 図 2.12 SiO2 エッチング (1 回目) 後の断面観察 SEM 画像. 布を行った.(f) 周期 p=720 nm で (c) で用いたパターンとは,半周期ずらしたクロムパターン のレチクルを用いて,周期 p=180 nm のパターンの重ね合わせ露光,および,現像を行った. ウエハーの下地パターンとレジストパターンの重ね合わせには,重ね合わせ用マークを用いて 装置パラメーターを間接的に追い込む.しかし,図 2.13(a) のように,重ね合わせ用マークで の追い込みでは不十分である.このずれ分のシフト量をオフセットさせることで,図 2.13(b) のように,正確に重ね合わせることができる.(g) レジストパターンをマスクとして,(g) と同. 25.
(30) 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 26. (a) 重ね合わせマークのみ. (b) オフセット考慮. 図 2.13 露光,現像 (2 回目) における重ね合わせ追い込み比較. じ条件を用いて NLD プラズマ型 RIE により SiO2 のドライエッチングを行った.図 2.14 に, エッチング後の断面形状の SEM 観察画像を示す.(h) 最後に,SiO2 パターンをマスクにして,. 図 2.14 SiO2 エッチング (2 回目) 後の断面観察 SEM 画像. CCP プラズマ型 RIE により Cr2 O3 をドライエッチングした.ここで,エッチング条件は,流 量 60 sccm の Cl2 と流量 7.5 sccm の O2 と流量 38 sccm の Ar で,プロセス圧力は 2 Pa とし た.膜厚 120 nm の Cr2 O3 薄膜をエッチングするのに 960 sec の時間を要した.このときの エッチング速度は 0.125 nm/sec に相当する,このプロセスを用いて,デューティ比の異なる 2 つの Cr2 O3 格子サンプルを試作した.図 2.15 に,平均格子線幅が w=37.5 nm(デューティ比. f =0.417) と w=34.0 nm(デューティ比 f =0.378) の Cr2 O3 格子の断面形状の SEM 観察画像を 示す.SiO2 のハードマスク層は,図 ??では存在していないが,最終形状としては残したままで ある. 以上より,ダブルパターニングを用いることで,装置の露光解像力を超えた周期構造の形状.
(31) 2.4 光学特性評価. 27. (a) f =0.417. (b) f =0.378. 図 2.15 試作サンプル格子の断面形状観察画像. 加工が可能であることを確認できた.. 2.4 光学特性評価 本節では,2.3 節で試作した Cr2 O3 格子の光学特性を評価するために,内製測定装置を用い て行った波長 193 nm における TM 偏光および TE 偏光の透過率の測定結果を示す.図 2.16 に. )744/4! !"#$%&'! ,"-./!"0&'()*+! &/0/1# 234/&%5/4!. 6$%01 *3/&'-/0 '/$%478.4! +,)!. ()*! -%&'$.! ()*!. )744/4! !"#"!"$%"&'()*+! 図 2.16 透過率測定系の概略図. 測定装置の概略を示す.光源として重水素ランプ (浜松ホトニクス社製 L1835),波長抽出とし てモノクロメータ (分光計器製 VU-200),直線偏光抽出としてグラントムソンプリズム偏光子. (光学技研社製 DUVGT-08),検出器として光電子増倍管 (浜松ホトニクス社製 R374) が搭載さ れている.高デューティ比の Cr2 O3 格子では,TM 偏光透過率,TE 透過率の測定値は,それ ぞれ,18.6%,0.134% であり,その消光比は 21.4 dB となる.低デューティ比の Cr2 O3 格子で.
(32) 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 28. は,TM 偏光透過率,TE 透過率の測定値は,それぞれ,31.1%,0.423% であり,その消光比は. 18.7 dB である. 以上より,周期 p=90 nm の酸化クロム格子により,深紫外波長用のワイヤーグリッド偏光子 として機能し,その消光比は 20 dB 以上を達成可能であることを確認できた.また,金属酸化 物であるにも関わらず,文献 [30] で報告されたタングステン格子である金属ワイヤーグリッド 偏光子と比較して優れた性能を示すことができた.. 2.5 考察 2.3 節の試作結果と 2.4 節の測定結果から,ダブルパターニングによる周期 p=90 nm の酸化 クロム格子の加工が可能であることと,酸化クロム格子により深紫外波長用のワイヤーグリッ ド偏光子として機能可能であることが確認できた,ここでは,2.2 節の RCWA 解析結果と 2.4 節の測定結果との差異に関しての考察を行う.この差異は,2 回目の重ね合わせ露光時のオー バーレイ誤差による影響と,ハードマスクとして用いた SiO2 の残存による影響,さらには,酸 化クロムの光学定数が RCWA 解析で用いた値と実際に成膜した膜とでは異なっているという 影響などが考えられる. 重ね合わせ露光におけるオーバーレイ誤差の影響を確認するために,RCWA 解析を行った. 図 2.17 に,オーバーレイ誤差と Cr2 O3 エッチングの線幅誤差に対する消光比,TM 偏光透過. (a) 消光比. (b) TM 偏光透過率. 図 2.17 オーバーレイ誤差と SiO2 エッチングの線幅誤差に対する RCWA 解析結果. 率の RCWA 解析結果を示す.この結果から,オーバーレイ誤差が 10 nm 以上生じると,消光 比が著しく減少することが明らかである.これに対して,露光装置ではオーバーレイ精度が高.
(33) 2.5 考察. 29. いため,10 nm 未満に追い込むことが可能である.一方,格子線幅のエッチング許容誤差を. ±4 nm 以内に抑えることが必要であり,この許容値は達成可能である.すなわち,提案したダ ブルパターニングにおける重ね合わせ露光による加工精度では,ワイヤーグリッド偏光子の光 学特性に重大な劣化を及ぼしていないことを意味する. 次に,ハードマスクとして用いた SiO2 層残存の影響を確認する.図 2.18 に,残存する SiO2. (a) 消光比. 図 2.18. (b) TM 偏光透過率. SiO2 ハードマスクの残存に対する RCWA 解析結果. 層の線幅と膜厚に対する消光比,TM 偏光透過率の RCWA 解析結果を示す.ここで,波長. λ=193 nm における SiO2 の光学定数を nSiO2 = 1.5609 + 0i として RCWA 解析を行った.こ の結果から,残存する SiO2 の線幅および膜厚による消光比,TM 偏光透過率の変動は軽微であ ることが分かる.すなわち,SiO2 層の残存では,ワイヤーグリッド偏光子の光学特性に重大な 劣化を及ぼしていないことを意味する.. 2.15(a) の SEM 観察画像より測長した Cr2 O3 格子の寸法を用いて RCWA 解析を行った.こ こで,格子形状は矩形と近似した.図 2.19(a) に,TE 偏光のニアフィールド電場分布の計算結 果を示す.この格子寸法では,TE 偏光は,設計値に比べて僅かではあるが透過している.逆 に,図 2.19(b) に示すように,TM 偏光は Cr2 O3 格子層を透過している.ここでの TE 透過率 と TM 偏光透過率の RCWA 解析による結果は,それぞれ,0.002%,14.135% であり,消光比 は 38.2 dB である.RCWA 解析値と実測値の差異の原因は,格子形状が完全な矩形ではないこ とがまず挙げられる.さらには,RCWA 解析に用いた光学定数と実際の成膜した膜の光学定数 が異なることも挙げられる.このことは,文献 [39] において,膜厚によって光学定数が変化す.
(34) 第 2 章 ダブルパターニング技術を用いた微細化と深紫外波長用ワイヤーグリッド偏光子. 30. (a) TE 偏光. (b) TM 偏光. 図 2.19 試作 Cr2 O3 格子の測長寸法でのニアフィールド電場分布の RCWA 解析結果. ることが報告されていることから推測できる.. RCWA 解析により厳密な光学計算が可能とされているが,実際にはおおよその傾向を見通せ るに過ぎないことが課題として挙げられる.これは,格子の断面プロファイルを矩形として解 析を行っているが,素子加工において完全な矩形に加工することは実質不可能であり,その形 状の差異が無視できないためである.さらには,解析に用いる光学定数と実際に成膜した膜の 光学定数が異なるためでもある.これらの差異を補うためのひとつとして,予想される断面ブ ロファイルを多層の矩形形状による近似形状で RCWA 解析を行う必要がある.または,光学定 数を一定に制御するような成膜手法が必要があるが,これは非常に高度な研究課題となる.. 2.6 結言 本章では,半導体露光装置の解像力を超えた格子周期を持つ微細周期構造加工を可能とする ためのダブルパターニング技術を用いた微細加工について述べた.本加工技術を検証するため に,深紫外波長で機能するワイヤーグリッド偏光子を試作対象とした.深紫外波長に適した金 属酸化物格子材料として酸化クロムであることを RCWA 解析結果により示した.次にダブル パターニング技術を用いた微細加工フローを示した.提案した方法を検証するために,格子周 期 90 nm の酸化クロム格子を試作し,加工形状の観察と光学的な評価を行った.観察および評 価からは,露光装置の解像力を超えた周期構造が加工可能であることを明らかにし,また,深紫 外波長用のワイヤーグリッド偏光子として実用的な光学性能を有していることを明らかにした..
(35) 31. 第3章 表面活性化常温接合を用いた素子加工と ワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. 3.1 緒言 紫外波長の光源を搭載した装置が数多く開発され,この波長帯域で機能する光学素子におい て付加価値化が求められている.液晶光配向装置は,これまでのラビングプロセスに代わり, 液晶パネルの高精細化,高コントラスト化に非常に重要な役割を担っている.配向膜に直線偏 光した紫外線を照射することで,ラビングレス,非接触,さらには,配向方向の多分割化を可能 にした.液晶パネルの大型化に伴い,光配向膜は大面積化しており,光配向装置も大型化して いる.図 3.1 に示すように,液晶光配向装置内には,光源の高圧水銀ランプから直線偏光を抽. 図 3.1. 液晶光配向装置の模式図 (特許第 4506412 号より引用). 出する偏光照明光学系が構成されており,紫外帯域で機能する偏光子が用いられる [40].偏光.
(36) 32. 第3章. 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. 子として,多層蒸着膜,ブリュースター角を利用した偏光子があるが,決まった角度で入射す る光しか偏光することができず,それ以外の角度で入射した光は,ほとんど偏光せずに透過し てしまう.そのため,光源が発散光の場合,これらの偏光子では純度の低い偏光光になる.ま た,有機膜を利用した偏光子もあるが,紫外波長の光を長時間照射すると特性が極端に劣化す るために,工業的に使用することが難しい. 一方,ワイヤーグリッド偏光子は,入射角に対する許容度が大きい.そのため,発散光に対し ても比較的良好な直線偏光を得ることができる.格子材料の代表的な金属としては,アルミニ ウムが用いられる.有機膜の偏光子に比べ,紫外波長の光に対しての照射耐性が高いことも期 待できる.しかし,ワイヤーグリッド偏光子であっても,比較的短期間で劣化する課題がある. 本章では,高圧水銀ランプの高出力紫外波長に対して耐性の強いワイヤーグリッド偏光子を 提案する.3.2 節では,高圧水銀ランプが搭載される液晶光配向装置におけるワイヤーグリッド 偏光子の特性劣化の要因について述べ,その対策について述べる.3.3 節では,3.2 節で述べた ワイヤーグリッド偏光子の特性劣化対策に基づいた構造を形成するための微細加工プロセスを 提案し,提案プロセスを用いた素子試作について述べる.3.4 節では,3.2 節で述べた試作素子 と未対策の素子との比較評価について述べる.3.5 節では,3.2 節で述べた特性劣化の要因が,. 3.3 節で述べた提案プロセスによって除去できることを RCWA 解析を用いた考察を行う.. 3.2 高出力の紫外波長照射によるワイヤーグリッド偏光子の特性劣化 本節では,液晶光配向装置の偏光照明光学系で課題となっているワイヤーグリッド偏光子の 経時劣化の要因を模擬実験によって検証し,その劣化要因に対する対策について述べる.液晶 光配向装置で用いられる高圧水銀ランプから発生する紫外波長光は非常に高い強度を持つ.高 強度な照射によってワイヤーグリッド偏光子は強く熱されて,その基板温度は 400 度以上に達 する.そこで,基板の高温化が劣化要因と推定し,その検証実験を行った.本実験では,液晶 光配向装置での実機実験ではなく,電気炉を用いた疑似実験を行った. 液晶光配向装置で用いる光源は,水銀ランプの g 線 (λ=436 nm),あるいは i 線 (λ=365 nm) のピーク波長近傍を切り出して用いられる.このような紫外波長で機能するワイヤーグリッ ド偏光子は,一般的にアルミニウム (Al) の金属格子であり,周期は波長に比べて非常に小さ く,デューティー比も非常に小さい.ここでは,加工設備の都合上,周期 p=160 nm,格子高さ. h=100 nm のタンタル (Ta) 格子を試作し,検討対象とした.格子材料は異なっているが,金属.
(37) 3.2 高出力の紫外波長照射によるワイヤーグリッド偏光子の特性劣化. 33. 格子という面では同じであるため高温に対する影響の一般性は失われない.. Ta 格子を 3 サンプル用意し,消光比,TM 偏光透過率を分光光度計 (日本分光社製 V-7200) を用いて測定した.図 3.2 に,測定結果を示す.この測定結果より,波長 λ=240 nm で消光比. (a) 消光比. (b) TM 偏光透過率. 図 3.2 Ta 格子の消光比および TM 偏光透過率の測定結果. および TM 偏光透過率が最小ピークを示すなど各サンプルの光学特性は概ね一致していること が分かる.光学特性の一致は,格子形状が同等に加工されていると言い換えることができる. 次に,小型電気炉 (光洋サーモシステム社製 KBF794N) を用いて,温度水準を振り,6 時間 加熱した.温度水準は,150 度,300 度,450 度に設定し,サンプル 1,2,3 を分割した小片を 加熱用サンプルとして用いた.加熱後に分光光度計を用いて光学特性を測定し,測定結果を比 較した.図 3.3 に,サンプル毎の消光比と TM 偏光透過率の測定結果を示す.150 度で加熱し た後 (緑線) では,初期状態の光学特性 (黒線) と大きな変化は見られない.300 度で加熱した後. (青線) では,消光比は波長 λ=300 nm 以下では負の値を示し,TM 偏光透過率は全体的に低下 している.格子構造になんらかの変化が見られると推測できる.450 度で加熱した後 (赤線) で は,消光比は測定波長範囲のほとんどで負の値を示し,TM 偏光透過率も測定波長範囲のほと んどで大幅に増大している.以上の観察結果により,Ta 格子層において吸収という金属的な性 質が無くなっていると推測できる.すなわち,高温環境になるにつれて,熱酸化を生じやすく なり,金属酸化物に変化したと言い換えられる. この推測を実証するために,光学定数を測定した.まず,膜厚 100 nm の Ta 薄膜を石英基 板上に成膜し,分光エリプソメーター (J. A. Woollam 社製 M-2000) で測定した.その測定結 果を図 3.4 に示す.次に,Ta 薄膜付き基板を小型電気炉を用いて,加熱温度 450 度で,6 時.
(38) 34. 第3章. 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. (a) サンプル 1:消光比. (d) サンプル 1:TM 偏光透過率. (b) サンプル 2:消光比. (e) サンプル 2:TM 偏光透過率. (c) サンプル 3:消光比. (f) サンプル 3:TM 偏光透過率. 図 3.3. 加熱後の Ta 格子の消光比,TM 偏光透過率の測定結果.
(39) 3.2 高出力の紫外波長照射によるワイヤーグリッド偏光子の特性劣化. 35. (a) Ta 膜 加熱前. (b) Ta 膜 加熱後. 図 3.4. (c) Ta2 O5 ターゲットでのスパッタ膜. 分光エリプソメーターによる光学定数測定. 間加熱し,分光エリプソメーターで測定した.その測定結果を図 3.4(b) に示す.一方で,膜厚. 100 nm の酸化タンタル (Ta2 O5 ) 薄膜を成膜した石英基板上に成膜し,分光エリプソメーター で測定した.その測定結果を図 3.4(c) に示す.加熱した Ta 薄膜と Ta2 O5 薄膜の光学定数を比 較すると,ほぼ一致していることが分かる.また,波長 λ=300 nm 以上では,吸収係数がほぼ ゼロであることから,図 3.3 で示した測定結果において TM 偏光透過率が高透過率になったこ との説明がつく.以上より,高温環境によって金属格子が熱酸化され,光学性能が大きく劣化 したことを確認できた. 液晶光配向装置の偏光照明光学系で用いられるワイヤーグリッド偏光子の経時劣化を抑える ための手段について示す.劣化の原因は,高温化と酸化であると特定したので,いずれかを排 除することで劣化を抑えられると考えられる.偏光照明光学系に冷却機構を取りつけ温度上昇 を抑えることや,真空もしくは不活性気体の雰囲気とし結合する酸素を除去することなどが考 えられるが,大規模な装置改造を要することになり問題が大きい.そこで,素子単体での実現 方法として,図 3.5 に示すように,気密空間内に金属格子を埋め込むことを提案する.(a) で は,一方の透明基板にエッチングなどで凹型構造に形成し,その底面に金属格子を形成し,こ.
(40) 36. 第3章. 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. (a). (b). 図 3.5. 金属格子の埋め込み構造. の基板と他方の透明基板を密閉させている.(b) では,一方の透明基板上に金属格子を形成し, 他方の透明基板には予めエッチングなどで凹型構造に形成しておき,両基板を密閉させている. 気密空間を真空で維持することができれば,金属格子の熱酸化を抑えることが可能となり,ワ イヤーグリッド偏光子の耐久性向上の実現が可能であると考えられる.. 3.3 表面活性化常温接合を用いた素子加工 本節では,3.2 節で提案した耐久性向上の構造を,マイクロマシニング技術である表面活 性化常温接合を用いて行った加工結果を示す.表面活性化常温接合技術は,マイクロマシン. (MEMS) デバイスの封止や集積化のためのダメージの低い接合技術として注目されている.こ の接合方法としての利点として,異種物質でも熱膨張の不一致が無く残量応力の問題がないこ と,加熱・冷却時間が不要なためスループットが高いこと,加熱できないデバイスなどの接合が 可能であること,などが挙げられる.図 3.6 に,表面活性化常温接合の原理を示す.(a) 通常の 基板表面には,酸化膜や吸着膜が自然に形成されている.(b) 酸化膜や吸着膜を,10−6 以上の 高真空中で接合材料の表面にイオンビームや中性原子ビームを照射することで除去する.(c) 除 去により表面に結合手が現れ,いわゆる活性化された状態となる.(d) 活性化された表面同士を 接触させることで,瞬時に接合力が働き,強固な結合となる. 表面活性化常温接合では高真空環境で接合させるので,図 3.5 に示した構造の核となる密閉 空間を作り出せることが期待できる.ここでは,図 3.5(b) の構造を採用し,素子試作を行った. 図 3.7 は,表面活性化常温接合を用いた加工工程を示す.(a) まず最初に,105 nm の膜厚の Ta 薄膜をスパッタリングにより合成石英ウエハー上に成膜した.その後,膜厚 35 nm の SiO2 薄 膜を Ta 薄膜上にスパッタリングにより成膜した.(b) 次に,膜厚 45 nm の反射防止コーティ ング材 (日産化学社製 DUV42),膜厚 160 nm のポジ型フォトレジスト (富士フイルムエレクト.
(41) 3.3 表面活性化常温接合を用いた素子加工. 37.
(42)
(43) .
(44) .
(45) .
(46) . (a) 通常の基板表面. (b) イオンビーム照射. (c) 基板活性化. (d) 接合. 図 3.6 表面活性化常温接合. S iO. T a Quartz substrate (a) Ta,SiO2 成膜. (d) SiO2 エッチング. Photoresist. (b) レジスト塗布. (e) Ta エッチング. (c) 露光,現像. (f) 接合. 図 3.7. 表面活性化常温接合を用いた加工工程.
(47) 第3章. 38. 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. ロニクスマテリアルズ社製 GKR-5201A) の塗布を行った.(c) 周期 p=640 nm のクロムパター ンのレチクルを用いて,ウエハー上に周期 p=160 nm のパターンの縮小露光,および,現像を 行った.図 3.8 に,現像後のレジストの断面形状の SEM 観察画像を示す.(d) レジストパター. 図 3.8 露光,現像後のレジスト像の断面観察 SEM 画像. ンをマスクとして,NLD プラズマ型 RIE により SiO2 のドライエッチングを行った.ここで, エッチング条件は,流量 25 sccm の CHF3 と流量 75 sccm の Ar で,プロセス圧力は 1 Pa と した.(e) SiO2 パターンをマスクにして,NLD プラズマ型 RIE により Ta をドライエッチング した.ここで,エッチング条件は,流量 120 sccm の Cl2 で,プロセス圧力は 0.3 Pa とした. 図 3.9 に,エッチング後の断面形状の SEM 観察画像を示す.(f) 最後に,予めドライエッチン. 図 3.9 Ta エッチング後の断面観察 SEM 画像. グにより堀り込んだ合成石英ウエハーと表面活性化常温接合 (三菱重工業製 MWB-08-AX) を 用いて接合した. 以上より,表面活性化常温接合を用いることで,気密空間内に金属格子の埋め込みが可能で.
(48) 3.4 温度耐久性評価. 39. あることを確認した.. 3.4 温度耐久性評価 本節では,3.3 節で試作した埋め込み Ta 格子の高温環境での耐久性向上を評価するために, 温度環境試験を行い紫外波長における TM 偏光および TE 偏光の透過率の測定比較結果を示 す.温度環境試験条件は 450 度で 6 時間とし,提案した埋め込み Ta 格子と,比較のための剥 き出しの Ta 格子を試験サンプルとした.. (a) 剥き出し Ta 格子. (b) 埋め込み Ta 格子. 図 3.10 加熱後のワイヤグリッドの断面形状の SEM 観察像. 図 3.10 に,加熱後の Ta 格子の断面形状の SEM 観察画像を示す.図 3.9 に示す加熱前の Ta 格子の格子形状と比較して,剥き出しの Ta 格子では図 3.10(a) で示すように加熱後は大きく形 状が膨らんでいることが分かる.これは,大気中の酸素との反応が加熱により促進され.金属 酸化物に変化したことが原因である.一方,埋め込みの Ta 格子では図 3.10(b) のように加熱後 も形状に変化が見られないことが分かる.観察結果より,Ta 格子を埋め込むことで,高温環境 において耐久性に優れることを格子形状の面から確認できた. 図 3.11 に,加熱前後の Ta 格子の消光比と TM 偏光透過率の分光光度計を用いた測定結果を 示す.3.2 節でも述べたように,剥き出しの Ta 格子は加熱後にはワイヤーグリッド偏光子とし ての機能を失っている.一方で,埋め込みの Ta 格子は加熱前後で消光比,TM 偏光透過率とも に大きな変化はなくワイヤーグリッド偏光子としての機能を維持している.測定結果より,Ta 格子を埋め込むことで,高温環境において耐久性に優れることを光学性能の面から確認できた. 以上より,ワイヤーグリッド偏光子の高温における性能劣化の原因は,熱酸化であることを.
(49) 第3章. 40. 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上. (a) 消光比. 図 3.11. (b) TM 偏光透過率. 加熱前後の Ta 格子の消光比および TM 偏光透過率の測定結果. 確認し,真空密封構造により金属格子を熱酸化から保護できることを確認できた.. 3.5 考察 3.3 節の試作結果と 3.4 節の測定結果から,表面活性化常温接合によるワイヤーグリッド偏光 子の埋め込みが可能であることと,埋め込み構造により高温環境での熱酸化を抑制による耐久 性の向上が実験的に確認できた.ここでは,高温環境におけるワイヤーグリッド偏光子の劣化 が酸化によるものであることと,埋め込み構造によって酸化を抑えられることを解析的に実証 する. まず,熱酸化に関する解析結果を示す.解析に用いる格子形状は,図 3.10(a) の SEM 観察画 像が用い,熱酸化した Ta 格子層のデューティー比を 0.597,格子高さを 142 nm とし,ハード マスクの SiO2 格子層のデューティー比を 0.387,格子高さを 22 nm の矩形格子とする.光学定 数は,図 3.4(b) の値を用いている.図 3.12 に,RCWA 解析による解析結果と前節の測定結果 を示す.解析結果からはほとんどの波長範囲において消光比が負を示し,波長 λ=300 nm 付近 で大きなピークを持つ傾向があることが読み取れる.TM 偏光透過率は,波長 λ=320 nm 以上 の波長では比較的高い値を示す.実測結果は,消光比に関してピークの大きさは異なりはする が,波長 λ=300 nm 付近にピークが存在している.TM 透過率に関して波長 λ=300 nm 以下で は解析結果とは傾向が異なっているものの,長波長側は解析結果と近い結果を示している.以 上より,解析結果と実測結果はおおよそ一致していると考えられ,高温環境での熱酸化による 劣化が解析的にも確認できた..
図
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