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高出力の紫外波長照射によるワイヤーグリッド偏光子の特性劣化

第 3 章 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上 31

3.2 高出力の紫外波長照射によるワイヤーグリッド偏光子の特性劣化

本節では,液晶光配向装置の偏光照明光学系で課題となっているワイヤーグリッド偏光子の 経時劣化の要因を模擬実験によって検証し,その劣化要因に対する対策について述べる.液晶 光配向装置で用いられる高圧水銀ランプから発生する紫外波長光は非常に高い強度を持つ.高 強度な照射によってワイヤーグリッド偏光子は強く熱されて,その基板温度は400度以上に達 する.そこで,基板の高温化が劣化要因と推定し,その検証実験を行った.本実験では,液晶 光配向装置での実機実験ではなく,電気炉を用いた疑似実験を行った.

液晶光配向装置で用いる光源は,水銀ランプのg線(λ=436 nm),あるいはi線(λ=365 nm) のピーク波長近傍を切り出して用いられる.このような紫外波長で機能するワイヤーグリッ ド偏光子は,一般的にアルミニウム(Al)の金属格子であり,周期は波長に比べて非常に小さ く,デューティー比も非常に小さい.ここでは,加工設備の都合上,周期p=160 nm,格子高さ

h=100 nmのタンタル(Ta)格子を試作し,検討対象とした.格子材料は異なっているが,金属

Ta格子を3サンプル用意し,消光比,TM偏光透過率を分光光度計(日本分光社製 V-7200) を用いて測定した.図3.2に,測定結果を示す.この測定結果より,波長λ=240 nmで消光比

(a)消光比 (b) TM偏光透過率

3.2 Ta格子の消光比およびTM偏光透過率の測定結果

およびTM偏光透過率が最小ピークを示すなど各サンプルの光学特性は概ね一致していること が分かる.光学特性の一致は,格子形状が同等に加工されていると言い換えることができる.

次に,小型電気炉(光洋サーモシステム社製KBF794N)を用いて,温度水準を振り,6時間 加熱した.温度水準は,150度,300度,450度に設定し,サンプル1,2,3を分割した小片を 加熱用サンプルとして用いた.加熱後に分光光度計を用いて光学特性を測定し,測定結果を比 較した.図 3.3に,サンプル毎の消光比とTM偏光透過率の測定結果を示す.150度で加熱し た後(緑線)では,初期状態の光学特性(黒線)と大きな変化は見られない.300度で加熱した後 (青線)では,消光比は波長λ=300 nm以下では負の値を示し,TM偏光透過率は全体的に低下 している.格子構造になんらかの変化が見られると推測できる.450度で加熱した後(赤線)で は,消光比は測定波長範囲のほとんどで負の値を示し,TM偏光透過率も測定波長範囲のほと んどで大幅に増大している.以上の観察結果により,Ta格子層において吸収という金属的な性 質が無くなっていると推測できる.すなわち,高温環境になるにつれて,熱酸化を生じやすく なり,金属酸化物に変化したと言い換えられる.

この推測を実証するために,光学定数を測定した.まず,膜厚100 nmのTa薄膜を石英基 板上に成膜し,分光エリプソメーター(J. A. Woollam社製M-2000)で測定した.その測定結 果を図 3.4 に示す.次に,Ta薄膜付き基板を小型電気炉を用いて,加熱温度 450度で,6時

34 3 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上

(a) サンプル1:消光比 (d)サンプル1TM偏光透過率

(b)サンプル2:消光比 (e)サンプル2:TM偏光透過率

(c)サンプル3:消光比 (f)サンプル3:TM偏光透過率

3.3 加熱後のTa格子の消光比,TM偏光透過率の測定結果

(a) Ta膜 加熱前

(b) Ta膜 加熱後 (c) Ta2O5ターゲットでのスパッタ膜

3.4 分光エリプソメーターによる光学定数測定

間加熱し,分光エリプソメーターで測定した.その測定結果を図 3.4(b)に示す.一方で,膜厚

100 nmの酸化タンタル(Ta2O5)薄膜を成膜した石英基板上に成膜し,分光エリプソメーター

で測定した.その測定結果を図 3.4(c)に示す.加熱したTa薄膜とTa2O5 薄膜の光学定数を比 較すると,ほぼ一致していることが分かる.また,波長λ=300 nm以上では,吸収係数がほぼ ゼロであることから,図3.3 で示した測定結果においてTM偏光透過率が高透過率になったこ との説明がつく.以上より,高温環境によって金属格子が熱酸化され,光学性能が大きく劣化 したことを確認できた.

液晶光配向装置の偏光照明光学系で用いられるワイヤーグリッド偏光子の経時劣化を抑える ための手段について示す.劣化の原因は,高温化と酸化であると特定したので,いずれかを排 除することで劣化を抑えられると考えられる.偏光照明光学系に冷却機構を取りつけ温度上昇 を抑えることや,真空もしくは不活性気体の雰囲気とし結合する酸素を除去することなどが考 えられるが,大規模な装置改造を要することになり問題が大きい.そこで,素子単体での実現 方法として,図 3.5に示すように,気密空間内に金属格子を埋め込むことを提案する.(a) で は,一方の透明基板にエッチングなどで凹型構造に形成し,その底面に金属格子を形成し,こ

36 3 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上

(a) (b)

3.5 金属格子の埋め込み構造

の基板と他方の透明基板を密閉させている.(b) では,一方の透明基板上に金属格子を形成し,

他方の透明基板には予めエッチングなどで凹型構造に形成しておき,両基板を密閉させている.

気密空間を真空で維持することができれば,金属格子の熱酸化を抑えることが可能となり,ワ イヤーグリッド偏光子の耐久性向上の実現が可能であると考えられる.

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