第 3 章 表面活性化常温接合を用いた素子加工とワイヤーグリッド偏光子の耐久性向上 31
4.5 結言
対象波長λ=800 nm,格子周期p=575 nm用回折格子においては,入射角が44.08◦ のとき回折 効率が最大となり,また,入射角が40.08◦ から50.08◦とレンジで10◦と広範囲において回折効 率が90%以上となる.計算値と比較しても,ほぼ一致した結果が得られた.図4.16(b)に示す ように,対象波長λ=800 nm,格子周期p=800 nm用回折格子においては,入射角が30.0◦ の とき回折効率が最大となり,また,入射角が26.0◦ から36.0◦ とレンジで10◦と広範囲において 回折効率が90%以上となる.計算値と比較しても,ほぼ一致した結果が得られた.図4.16(c) に示すように,対象波長λ=1030 nm,格子周期p=575 nm用回折格子においては,入射角が 65.59◦のとき回折効率が最大となり,また,入射角が63.59◦ から69.59◦とレンジで6◦ と比較 的広範囲で回折効率が90%以上となる.最大効率となる入射角が2◦ ほどシフトしているが,
これは大きな問題とはならない.計算値と比較すると,ピークとなる入射角が広角側にシフト しているものの,90%以上の許容波長レンジは8◦とほぼ一致している.不一致の原因は前述と 同様で,製作した格子形状が矩形ではなく台形となった影響によると考えられる.
図4.4では,x方向において25 mm毎の回折効率を測定した結果を示している.ただし,対 象波長λ=1030 nm,格子周期p=575 nmの回折格子に関しては,測定ステージの可動範囲の 都合で端部は5 mm手前での測定になっている.どの回折格子においても,回折効率の変動は 2%以内と非常に小さく抑えられていることが分かる.これは,前述の加工形状の観察像からも 分かるように,高精度エッチングにより達成されたと導くことができる.
60 第4章 スティッチング露光を用いた大面積素子化と大面積高効率透過型回折格子
は,文献[48]や[49]における報告で,研究成果としてすでに貢献している.
総括
本論文では微細周期構造光学素子における半導体露光装置による微細加工技術の適用範囲を 拡張することを目的として,素子構造の微細化,素子面積の大面積の新たな微細加工技術の提 案,更には,マイクロマシニング技術を光学素子加工へ適用を行った.具体的な微細加工技術 として,3つの周期構造光学素子のを試作し,提案手法の検証を行った.以下,本研究で得られ た成果を章毎に総括し,今後の展望を述べる.
第1章では,微細周期構造を有する光学素子とその微細加工技術について述べた.微細周期 構造光学素子において,その周期構造のオーダーにより発現する光学現象が様々であることを 述べた.その光学現象を用いた光波制御について述べ,これまでに近赤外波長用として実現し たされた微細周期構造光学素子の加工例,および,装置搭載例を示した.微細周期構造の素子 加工に対して,半導体微細加工技術の適用性が高いことを示し,露光工程を半導体露光装置に よって加工することが特徴的であることを述べた.現状の半導体露光装置を用いた微細周期構 造光学素子加工における問題点が,素子構造の微細化,素子面積の大面積であることを示した.
加工課題に対して提案した光学素子加工の優位性を検証するために,新規,もしくは,付加価 値の高い微細周期構造光学素子を提案技術によって試作し,光学特性の評価結果により,有効 な加工技術であることを述べた.
第2章では,半導体露光装置の解像力を超えた格子周期を持つ微細周期構造加工を可能とす るためのダブルパターニング技術を用いた微細加工について述べた.本加工技術を検証するた めに,深紫外波長で機能するワイヤーグリッド偏光子を試作対象とした.深紫外波長に適した 金属酸化物格子材料として酸化クロムであることをRCWA 解析結果により示した.次にダブ ルパターニング技術を用いた微細加工手法を示した.提案した方法を検証するために,格子周
期90 nmの酸化クロム格子を試作し,加工形状の観察と光学的な評価を行った.観察および評
価からは,露光装置の解像力を超えた周期構造が加工可能であることを明らかにし,また,深紫 外波長用のワイヤーグリッド偏光子として実用的な光学性能を有していることを明らかにした.
62 総括
第3章では,マイクロマシニング技術を用いた素子加工による,微細周期構造光学素子の高付 加価値化に関して検討した.本加工技術を検証するために,非常に強い照射の紫外波長におい ても耐久性の高いワイヤーグリッド偏光子の耐環境性向上を試作対象とした.まず,ワイヤー グリッド偏光子の紫外波長照射での劣化原因が照射熱による基板高温化に伴う熱酸化であるこ とを特定した.この熱酸化を抑制する手法として,マイクロマシンニング技術である表面活性 化常温接合技術を用いたワイヤーグリッド格子層の真空封止による保護を提案した.提案した 方法を検証するために,格子周期160 nmのタンタル格子での保護構造を試作し,高温環境模擬 試験による格子形状の観察と光学的な評価を行った.観察および評価からは,表面活性化常温 接合技術によるワイヤーグリッド層の真空封止構造が加工可能であることを明らかにし,また,
その保護構造によりワイヤーグリッド偏光子の耐久性を確保できることを明らかにした.また,
本構造によりワイヤーグリッド層への直接的な接触が無くなるため,機械的な損傷に対して回 避可能という特徴が同時に付加される.
第4章では,半導体露光装置の加工領域を超えた大面積な光学素子加工を可能とするための スティッチング露光技術を用いた微細加工について述べた.本加工技術を検証するために,チ タンサファイアやイットリウム添加光ファイバーといった媒質で励起される波長で高効率とな る透過型石英回折格子の大面積化を試作対象とした.各波長での格子形状をRCWA解析を用 いて,最適値を示した.次にスティッチング露光を用いた大面積加工手法を示した.提案した 方法を検証するために,各波長の回折格子の素子面積を60 mm×180 mmにして試作し,加工 形状の観察と光学的な評価を行った.観察および評価からは,露光装置の加工面積を超えた大 面積光学素子が加工可能であることを明らかにし,また,透過型石英回折格子として実用的な 光学性能を有していることを明らかにした.
以上のように,本論文では,KrFエキシマレーザーを搭載した半導体露光装置を用いた微細 周期構造光学素子加工において,解像力や加工領域の装置制限を超えた光学素子の加工手法を 提案し,光学素子を試作,評価した.具体的な応用先は,ArFエキシマレーザー搭載の半導体 露光装置の偏光照明計測ユニット向けの偏光子,液晶光配向装置の偏光光源ユニット向けの偏 光子,高出力フェムト秒レーザーのチャープパルス増幅ユニット向けの透過型回折格子として,
最先端の各産業である.各素子の実験室レベルでの評価結果により,その有効性を確認した.
今後は実際に装置に搭載することで更なる検討課題の抽出および解決を実施する必要がある.
光学技術は今後も社会的基盤において重要な役割を担い続けると期待される.微細周期構造 光学素子が,あらゆる光学技術において実用的に用いられることを切に願っている.
謝辞
本研究は, 国立大学法人 宇都宮大学 オプティクス教育研究センターにおいて, 指導教員であ る谷田貝豊彦教授の指導の下で行われた.本研究の遂行ならびに本論文の作成にあたり, 懇切な ご指導, 研究者としての思想の教示, および挫折しそうな時には叱咤激励を賜り, 研究遂行を終 始支えて頂いた宇都宮大学 オプティクス教育研究センター 谷田貝豊彦教授に心から感謝申し上 げます.
社会人学生に理解を賜り, 激励を頂くとともに, 何度も貴重な御指摘をくださった, 宇都宮大 学 オプティクス教育研究センター 早崎芳夫教授に深く感謝申し上げます.
本論文作成にあたり, 大変ご多忙の中,本論文の審査ならびに貴重なご教示を賜りました 宇都 宮大学 谷田貝豊彦教授, 同 早崎芳夫教授, 同 白石一男教授,同 阿山みよし教授,同 大谷幸利 教授に深く感謝申し上げます.
学位取得にあたり, 大変ご多忙の中, 副専門分野の御指導を頂き, 専門分野外の貴重な教えを 賜った宇都宮大学 川田重夫教授,同 湯上登教授に深く感謝申し上げます.
また, 宇都宮大学 谷田貝研究室在籍期間中, 小生を受け入れ, 常に明るく親切に接して頂いた オプティクス教育研究センターの皆様に深く感謝申し上げます.
本研究において, ご理解とご支援を賜り, 素子製作に全面的にご協力を頂いた,キヤノン株式 会社 横山悟司氏,釼持敦志氏に深く感謝申し上げます.
パルス圧縮用回折格子の検討にあたり,貴重な御意見,ならびに,御助言を頂いた,キヤノン 株式会社 蔵本福之室長,助川隆主幹研究員,北村強氏,関敬司氏に深く感謝申し上げます.
入射同期という間柄,お互いに励まし合うことで最後まで研究を遂行することが出来たこと に対して,キヤノン株式会社 並 宇都宮大学 早崎研究室 八講学氏に深く感謝申し上げます.
最後に, 今までお世話になった全ての方々に感謝申し上げます.