リーガルマインドを育成する社会科授業構成の研究 : 中学校社会科公民的分野を事例にして
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(2) 目次 1. 序. 第1章 社会科教育におけるリーガルマインド育成の意義 第1節 現代の生徒の法意識と人権感覚 1.現代の生徒の法意識 ・………………一………………一一一一…一一. 3. 2.現代の生徒の憲法感覚 ……一一……一一『一…・………一…・一. 7. 3.現代の生徒の人権感覚 一……・……一・一一一一…一一一・・…. 9. 第2節 市民的資質の育成とリーガルマインド 1.日本人の法意識 ・一…一……一・一一一……一…一……一…一…一一・一…. 2.市民的資質概念の再検討 t・一一一一……一一一……一一一一一……一一. 3.リーガルマインドを育成する法学習 ・一一一一……一一一・. 11 14 17. 第2章 公民的分野における法学習の分析的考察 第1節 学習指導要領における法的内容の取り扱い 1.学習指導要領の各期における法的内容の分析 2.学習指導要領における法的内容の考察 …一一一一・一一. 22 41. 第2節 教科書における法的内容の取り扱い. L教科書における法の取り扱い 2.教科書における基本的人権の取り扱い …・……一一… 3.教科書における公共の福祉の取り扱い 一一一・…一一……. 4.教科書における判例の取り扱い …一……一…一一…・… 5.まとめ……一一一一……一一・…・_____一__一一..___.._一一. 45 48 51 58. 67. 第3節 基本的人権を扱った授業実践の分析と考察 1.授業実践の分析と考察 一一一……・・一一…一……・一………一 2.まとめ・……一一一…一一・…一…一___..,_一.____.一.._一. 71 81.
(3) 第3章 リーガルマインドを育成する社会科授業構成 第1節 リーガルマインドを育成する社会科授業構成の原理 1響主題の設定 一一一一一一一一一一一一・一…一一一一一一一・一一一一一一一一一・一…一一一. 2.事例の選定 一一一……一一一…一一・一一一一一一・……一一一一……一…一・…一一一一. 3.授業過程 ………一一一一一一一一一………・・一…・……一∴……一…一…. 82 84 84. 第2節 リーガルマインドを育成する社会科授業モデル 1.小単元名 一…・一一・一一一一…一一……一…一一…一…一…………一一……一一 2.小単元の目的 …一一・…一一一一・一………一一…一一・…一…・一一……一’一一. 3.小単元の構成原理 一一……一……・一・…一…・一・………一一一一・一一………. 4.「大阪空港公害訴訟」の授業過程 一・一一…一一一一…一. 結. 98 98 98 99 一1 68.
(4)
(5) 序 1.研究の目的. 中学校の社会科教育においては、「教科書中心の講義形式の授業」が数多 く行われている1)。公民的分野の法学習において献 「∼について調べてみ. よう」という学習課題は掲げられているものの、実際は憲法の条文や資料に 照らし合わせて、確認するという形に止まっているものが多い。多様な価値 観がぶつかり合う現在の社会では、中学校学習指導要領社会・公民的分野の. 目標(4)に記述されているように、「社会的事象を確実な資料に基づいて 様々な角度から考察し、事実を正確にとらえ、公正に判断する能力」2’を育 てることが必要といえる。. また、先行研究としては、アメリカ法教育の紹介をしているもの3)、法意 識の実態と教科書・資料集の記述の分析を行っているもの4)、憲法教育を実 践していく視点と方法を考察しているもの5)、公民的分野における法教育の 意義と課題を指摘しているもの6)などがあるが、いずれも授業構成まで踏み 込んだ研究になっていない。. 以上のことから、本研究では、「法的論争問題を探求し、合理的に判断す る能力」(リーガルマインド)を育成する社会科授業構成の原理と方法を考 察することを目的とする。. 2.研究の手順と方法. 本研究は、上記の目的を達成するために、以下の手順と方法で研究を進め る。. 一1一.
(6) (1) 現代の生徒の法意識と人権感覚に関する問題点を探り、リーガルマ. インド育成の視点を明らかにする。(第1章第1節) (2) 生徒の人権感覚欠如の原因を法社会学的側面から考察し、リーガル. マインドを育成する法学習の必要性を明らかにする。(第1章第2節) (3) 学習指導要領・教科書における法的内容の取り扱いをリーガルマイ. ンド育成の視点から考察する。(第2章第1節・第2節) (4) 法学習に関わる先行授業実践をリーガルマインド育成の視点から考 察する。 (第2章第3節) (5) 以上の研究成果をふまえ、リーガルマインドを育成する社会科授業. 構成の原理を考察する。(第3章第1節) (6) リーガルマインドを育成する社会科授業構成の原理に基づいて、授. 業モデルを設計する。(第3章第2節). 《註》. 1)千石保・鐘ヶ江晴彦・佐藤郡衛r日本の中学生』日本放送出版’協会、 1987. pp. 99−101. 2)文部省r中学校指導書社会編』大阪書籍、1991、pp.155−156. 3)保坂秀夫「社会科教育におけるr法的思考』の役割について. 一J.P.シェーバーの『公的問題アプローチ』の批判的検討を通して」 『教育学研究集録』Vo1. 16、1992・12. 4)中台正弘「中学校社会科公民的分野における人権教育の改善に関する研. 究」平成2・3年度埼玉県教育委員会・長期研修教員報告、1992 5)橋本幸典「憲法教育の基礎的研究」鳴門教育大学修士論文、1987 6)江口勇治「社会科における法教育の意義と課題」 r現代社会科教育論』 帝国書院、1994. 一2一.
(7) 第■章社会科教育におけるリーガル マインド育成の意義. 本章では、現代の生徒の法意識と木権感覚に関する問題点を探り、人権感 覚欠如の原因を法社会学的側面から考察し、リーガルマインド育成の視点を 明らかにする。. 第1節. 現代の生徒の法意識と人権感覚. 本節では、現代の生徒の法意識を調査した中台正弘氏、中学生の憲法感覚 を調査した中川弘美氏、いじめの日米比較をした佐藤郡衛氏の研究を考察し、 現代の生徒の法意識と人権感覚に関する問題点を探る。. 1.現代の生徒の法意識. (1)生徒の法に対するイメージ. 中台正弘氏は1991年2月∼3月にかけて、「あなたは、『法律』とい う言葉を聞いたとき、どんな感じを受けますか。自由に書いて下さい。」と. いうアンケートを小学校5・6年生、および中学校2・3年生の生徒713 名と教師・保護者を対象に実施し、その結果を分析・考察した。D. ①分析結果. 中台氏は、アンケートの結果を次の6つのカテゴリーに分類し、その回答 を数字で示した。(表1参照). 一3一.
(8) 「束縛」=「きまりとして与えられるもの」、「守るべきもの」、「守らさ. れるもの」として法をイメージしたもの。 「保障」=人々の権利や平和などを保障する存在として法をイメージしたも. の。 「疎遠」=「自分とはあまり縁がないもの」、「難しくて分かりにくいもの」. として法をイメージしたもの。 「身近」=「毎日の生活に深く関わっているもの」、「なくてはならないも. の」として法をイメージしたもの。 「運用」=法そのものではなく、法の使われ方、在り方に対するイメージ。. 「他・NA」〒「政治」「裁判」「国会」など、および「よくわからない. (DK)」「無回答(NA)」をまとあたもの。. 表1 生徒・教師・保護者の法に対するイメージ2) 種別. 束縛. 生徒. 494. 教師 護. 合計. 保障. 75 32 38. 83 72. 649 145. 疎遠. 62 10 24 96. 身近. 18 1. 3. 22. 運用. 他・NA. 合計. 713 5 153 9 182 24 112 1048 10. 54 22 36. ②考察. まず、表1から明らかになった傾向を列挙すると以下のようになる。. ・ 生徒713人中494人が法に対して「束縛」というイメージを持って いるが、これは全体の約70%にあたる。. ・法に対して「束縛」のイメージを持っているのは、教師約54%、保護 者約40%である。 一4一.
(9) ・ 法に対して「保障」のイメージを持つ生徒は713人中75人に止まっ ており、全体の約11%と少ない。 ・ 法に対して「保障」のイメージを持っているのは、教師・保護者とも約. 21%である。. ・法に対して「疎遠」とイメージしている生徒も62人おり、全体の約9 %を占めている。. 法に対して「束縛」のイメージを持つ割合は、教師約54%、保護者約 40%に対して、生徒は約70%と圧倒的に高くなっている。また、「保障」 のイメージを持つ生徒は約11%と、保護者・教師の約半分の割合である。. 全体の80%近くの生徒が、法を「束縛」あるいは「疎遠」とイメージし ており、法を「きまりとして守らされるもの」・「きまりとして守るべきも の」、あるいは「自分とはあまり縁がないもの」・「難しくて分かりにくい もの」としてとらえている。また、「人々の権利や自由を守るもの」として. 意識している生徒は全体の10%強に過ぎず、生徒は法を「縛り付けられる 疎ましいもの」とイメージしている。. (2)生徒の法に対する見方. 次に、中台氏は、法のとらえ方として「権力規範」・「治安維持(弱い権 力規範)」・「権利規範」・「裁判規範」・「組織規範」の5つの立場を示 し、より大切な見方や考え方だと思う順に番号をつけさせた。また、賛成で きない意見には×をつけさせた。(×はいくっつけても、またつけなくても 良いとした。). そして、以下の方法で回答を点数化した。3). 1位一6点、2位=5点、3位=・4点、4位=3点、5位=・ 2点、. 無回答=1点、×=0点 なお、5つの立場を具体的に示すと、以下のようになる。. 一5一.
(10) 「権力規範」;法律は、国家を守り、国民を取り締まるためのものである。. 「治安維持」=法律は、世の中の乱れを防ぎ、国民全体が安心して生活する ためのものである。. 「権利規範」=法律は、個人の生命や財産などの権利を守るためのものであ る。. 「裁判規範」;法律は、裁判を公平に、能率よく進めるためのものである。. 「組織規範」一法律は、国家のしくみや政治の進め方を決めておくためのも のである。. ①分析結果. 中台氏による生徒・教師・保護者の回答結果の点数化と、それぞれの平均 点を示すと次表(表2)のようになる。. 表2 生徒・教師・保護者の法についての見方4) 種別. 生徒 教師. 保護者 合計. 人数. 713 153 182 1048. 権力. 治安. 権利. 裁判. 組織. 3,015. 5,027. 2,638. 2,787. 2,870. 0,850. 4,922. 4,758. 3,183. 3,346. ユ,632. 5,016. 3,758. 2,698. 2,401. 2,459. 5,010. 3,142. 2,829. 2,858. ②考察. 表2から明らかな傾向を列挙すると次のようになる。 ・ 生徒・教師・保護者とも、「治安維持」の点数が最も高い。. 一6一.
(11) ・生徒は、教師・保護者に比べて「権力規範」の点数がかなり高く、5項 目中事2位を占めている。 ・ 逆に生徒は、教師・保護者に比べて「権利規範」の点数がかなり低く、 5項目中最下位である。. 以上の3点から考察すると、法は「世の中の乱れを防ぎ、国民全体が安心 して生活するために、国民を取り締まるものであり、権利を守るためのもの ではない。」ととらえている生徒が主流を占めている。また、生徒は、教師 や保護者など大人と比較しても、法を「治安維持(弱い権力規範)」や「権 力規範」と受け身にとらえる割合が高く、「権利規範」と主体的にとらえる 割合が低い。. 2.現代の生徒の憲法感覚. 中川弘美氏は、内閣官房広報室が一般成人を対象に昭和43年2月に実施 した世論調査と同じ調査用紙を使って約500名の中学生に対して憲法感覚 の実態調査を行った。5). その結果を示すと、次表(表3)のようになる。. 表3. 憲法に対する感覚(数字は%). 感 覚 の 度 合 ① 身近なものと感じ何かにつ. 般成. 3年. 2年. 1年 男. 女. 男. 女. 男. 女. 0.0. 0.0. 1.2. 0.0. 3.6. 0.0. 5.2. 25.0. 24.3. 41.8. 32.9. 51.2. 58.7. 50.2. 40.9. 29.5. 29.0. 36.9. 34.4. 28.8. 20.1. @けて、憲法を思い出す ② 重要なものだし、自分の生. ?ノ関係があると思う ③ 重要なものらしいが、自分. 一7一.
(12) 1. の生活に関係がないと思う. ④ どんなものだかよく知らな. 34.1. 43.7. 24.4. 25.0. 7.2. 10.0. 15.4. 0.0. 2.5. 3.6. 5.2. 3.6. 2.5. 9.1. @いし、関心もない ⑤ 選べない、不明. この結果を考察すると、「① 身近なものと.感じ何かにつけて、憲法を思. い出す」という回答が一般成人5.2%に対し、1年男女・2年女・3年女と も0%である。わずかに2年男1.2%・3年男3.6%の数字が出ているが、い ずれも一般成人を下回っている。. 「① 身近なものと感じ何かにつけて、憲法を思い出す」と「② 重要な ものだし、自分の生活に関係があると思う」を合わせた割合で比較すると、. 一般成人の55.4%を上回っているのは3年女の58.7%のみで、1年男女・2. 年男女・3年男とも一般成人を下回っている。特に、1年男女の数字は一般 成人の半分以下である。. それに対し、「③ 重要なものらしいが、自分の生活には関係がないと思 う」と「④ どんなものだかよく知らないし、関心もない」を合わせた数字. で比較すると、1年男女・2年男女・3年男女とも一般成人の35.5%を上回っ ている。特に、1年男女は一般成人の2倍以上の数字になっている。 以上の点から、中学生の憲法感覚は一般成人に比べてかなり希薄だといえ る。特に、憲法学習を終えた3年生でさえ一・一一・般成人に対して低い数値しか出. ておらず、中学生の憲法学習の問題点が浮き彫りにされている。. 一8一.
(13) 3.現代の生徒の人権感覚. 佐藤郡衛氏は、日本とアメリカの中学生のいじあに対する比較を通して、 日本の生徒の人権感覚について記述している。6). 表4 いじあの対応(日・米:性別) 「いじめを見たらどうするか」 という質問に対する日本とアメリ. カの中学生の対応の違いが表4に. 50. 〔E本〕0. 男. 24.9. 女. 14.8. 28.0. 1ooO/. 彗9鴛. 蓮護:. 42.9. 1. 30.. 28.9. ,7. 3.. 〔アメリカ〕 男. 表れている。. 「止めに入る」という回答が、. 女. .6. 止め・入・. 男子ではアメリカ43.6%に対して、 日本は24.9%に過ぎない。また、. ョ奪誉等に騰鶉と涜 る. わる. (日米中学生・母親調査報告書). 女子でもアメリカ35.2%に対して、. 日本は14.8%に過ぎない。それに対して、「自分もいじめに加わる」という. 回答は、男子ではアメリカ5.2%に対して、日本は10.7%に達しており、女 子でもアメリカ2.6%に対して、日本は3.8%を占めている。. 佐藤氏によると、アメリカでのいじめが深刻になっていかない理由として、. 「小さいうちからフェア、つまり公正さをしっかり教え込まれ」たり、rr自 分の大切さ』を教え込まれ、自己主張ができるように教育を受けているため」 と指摘している。7). 日本の中学生は、アメリカの中学生と比較しても正義感や人権感覚に欠け ていると考えられる。. 4.まとめ. 一9一.
(14) 現代の生徒は、法を「権利を保障する存在」としてとらえず、「守らされ るもの」や「自分とはあまり縁がないもの」としてイメージしており、法を 受け身にとらえている。また、憲法感覚も一般成人と比較して希薄であり、 人権尊重の精神の低さが「いじめ」などの社会問題につながっている。. 学校教育においても、人権学習は中核に位置付けられる必要があり、特に 社会科の公民的分野で人権学習が中心に展開されている。しかし、今日の法 学習・人権学習は、憲法の条文を詰め込み式に暗記させる平板な学習に陥り やすく、人権感覚を育てる法学習が必要とされる。. 《註》. 1)中台正弘「中学校社会科公民的分野における人権教育の改善に関する研 究一法意識の実態と教科書・資料集の記述の分析を中心に一』上越教育大 学修士論文、1992、pp.58−59. 2)中台、同上書、巻末資料pp.41・42《資料皿》実態調査集計表(素データ). IV.生徒・教師・保護者の比較[1]法に対するイメージの表より作成し た。. 3)中台、同上書、p.102. 4)中台、同上書、p.148、設問H一三者の平均点の表より作成した。 5)中川弘美「子どもの憲法感覚についての実態」 r教育科学社会科教育』 明治図書、1971・5、p. 111. 6)佐藤郡上編r日本の中学生』日本放送出版協会、1987、pp.77−79 7)佐藤、同上書、p.78. 一10一.
(15) 第2節 市民的資質の育成とリーガルマインド. 本節では、生徒の人権感覚欠如の原因を法社会学的側面から考察し、リー ガルマインドを育成する法学習の必要性を明らかにする。. 1.日本人の法意識. (1)「権力規範」としての法. 明治維新以降、自由民権運動・国会開設の論議が華やかに展開され、日本. 人の人権意識も高まり始あた。しかし、1889年に制定された大日本帝国 憲法において人権は臣民の権利として、「天皇の恩恵によって与えられたも の」と考えられていたうえ、人権保障は「法律ノ範囲内二於テ」認められた にすぎず、法律をもってすれば自由を侵害することが可能であった。この点 について川島武宣氏は、「政府と国民との関係は権力関係そのものであり、 これが旧憲法的な法意識のあらわれであり、また旧憲法はこのような法意識 を支えまた強化したのである。」1)と指摘している。このように、旧憲法下 においては政府と国民との関係は対等の関係ではなく、上下の支配服従関係 になっており、法は「権力規範」としての性格を帯びていた。. つまり戦前型社会は、渡辺洋三氏によれば、「国家的管理・支配体制と対 立する私益の主張(これこそが権利主張である)を排除しつつ、国家的利益 と対立しない私益については、めぐみ深き天皇のおぼしめしによって、その. 体制支配にさしつかえない程度でこれを保障してあげるという家父長制的原 理」2)にもとつく社会であったといえる。. (2)「権利規範」としての法. 一11一.
(16) 川島武宣氏は、ヨーロッパの用語の伝統では、 「法」と「権利」とは同一. の社会現象をそれぞれ別の側面から観念したものに過ぎないとした上で、「権 利」と「法」を次のようにとらえている。3). 「r権利』は利益の主体に焦点をおいて『法』を観念したものであり、 『法』は、判断基準ないし社会過程に焦点をおいて『権利』を観念した ものである。」. 即ち、法は「権利規範」としての性格を有する。. 渡辺氏は、国家と国民の関係は平等・対等な関係として確立されなければ ならないとし、「権力をもたない国民の権利を保障するために、国家権力の 行使が一方的・恣意的にならないよう、これを拘束するルールを設けるとい う点に、法の核心的意義がある。」4)と指摘している。. (3)現代の日本人の法意識とその転換の必要性 わが国では、明治以来、一貫して権利社会の定着を経ることなく戦後を迎 えた。つまり、市民法的な考え方が国民に徹底しないままに日本国憲法を迎 えたのである。. 日本国憲法は、市民法的考え方に基づく市民的政治的自由(自由権的・自 然権的基本権)のみならず、社会法的考え方に基づく経済的社会的権利(社 会権的・生存権的基本権)についても基本的人権として保障している。した がって、「不徹底のままにもちこされた市民法的考え方の基礎を築くととも に、さらに社会法的考え方をも取り上げる必要があるという二重の任務」5) をもっているのである。. しかし、旧天皇制のもとではぐくまれた利益社会の構造は、戦後になって も、根本的には変わらなかった。 「戦後の近代化は、広範な各種利益共同体. を噴出させたとはいえ、それが権利社会の成長や国民の権利意識の向上につ ながらなかった」6)のである。. つまり、「日本におけるr法」の根は、市民の生活の中から市民自身の手. 一12一.
(17) によってはぐくまれ、国民生活の土壌から栄養をとって太くなった根ではな く、その生活の外側から土壌を注入し、もともとの生活の土壌とは別な土壌 の上に『おかみ』の命令として移植された根である」7)ために、法は市民に とって身近な存在でありえず、法を絶対視する「法依存主義」や法を遠ざけ ようとする「法逃避主義」という、矛盾する二つの考え方が同居している。. 渡辺氏は、権利を、「社会的正義としての公的性質をおびたものとして普 遍的に承認された利益内容」ととらえ、成立するための基礎的条件として、 以下の4点をあげている。8) ① 社会的諸個人の関係を、平等な関係として承認しあうこと(平等性) ② 諸個人相互間の、あるいは個人と国家との関係が対立関係にあるこ と(対立性). ③ 対立する当事者の一方の利益の正当性が相手方によって承認され、 その間に合意が成立すること(社会的正当性についての合意) ④ 利益を主張できる範囲や義務を負う範囲が、論理的に確定されるこ と(利益範囲の定量性). 戦後において身分制社会は解体され、平等原則をうたう日本国憲法下にお いても深刻な差別問題は根強く残っている。権利を尊重する社会は、弱者も 強者も一人の人間として平等であるという観念のうえに成り立つのであって、. 平等についての基礎観念が確立していない日本において、権利や平等の重要 性を身につける法教育の必要性が感じられる。. また、権利の不可欠な属性として一方では対立があり、他方では相互承認 という二面性がある。よって、権利を主張する人は、対立する当事者に正当 性を承認してもらうよう説得する必要がある。その結果として、対立当事者 との平和的共存のルールとして権利が確立する。. その場合、「だれが、だれに対し、どのような利益を、どのような場合に、 なぜ、どの範囲まで主張することが正当であるか」ということを論理的に根. 一13一.
(18) 拠づけなければ権利とはいえない。そのためには、利益の主張を法的権利と して請求しうる範囲を定量的かつ論理的に限界づける行動様式を人々が身に つける訓練が必要である。. 2.市民的資質概念の再検討. 学習指導要領において基本的な教科目標となっている公民的資質の概念に ついて考察し、定義づける。. (1)社会科の中心概念としての公民的資質. 平成元年度版r中学校学習指導要領「社会」』では、社会科の教科目標を 「国際社会に生きる民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な公民 的資質の基礎を養う」9)と述べ、公民的資質という用語が用いられている。. 昭和44年度版r小学校指導書 社会編』では、公民的資質について次の ように説明している。10). 「公民的資質というのは、社会生活のうえで個人に認められた権利は、 これをたいせつに行使し、互いに尊重しあわなければならないこと、ま た具体的な地域社会や国家の一員としてみずからに課せられた各種の義 務や社会的責任があることなどを知り、これらの理解に基づいて正しい 判断や行動のできる能力や意識などをさすものといえよう。したがって、 市民社会の一員としての市民、国家の成員としての国民という二つの意 味をもったことばとして理解されるべきものである。」. つまり、「公民とは、市民社会の一員としての市民と国家の成員としての 国民という二つの性格を合わせもつ概念」であり、「公民が、国家・社会の 生活の中で権利と義務・責任を理解し、正しい判断と行動のできる能力や意 識などを公民的資質」11)と呼んでいる。公民的資質は、市民的資質と国民. 一14一.
(19) 的資質を合わせもった概念といえる。. (2)公民的資質の中核としての市民的資質. 昭和23年度版r小学校 社会科 学習指導要領;補説編』では、社会科の 目標を「できるだけりっぱな公民的資質を発展させること」と述べ、次のよ うに説明している。12). 「りっぱな公民的資質ということは、その目が社会的に開かれているこ. と以上のものを含んでいます。(中略)それは、政治的、社会的、経済 的その他あらゆる不正に対して積極的に反発する心です。人間性及び民 主主義を信頼する心です。(中略)他人の権利を尊重すること、疑わし い意見や正しくない意見とたたかうことなど、総じて民主的社会の有為 な公民として必要な数多くの特性を身につけていなくてはなりません。」 ここでは、りっぱな公民的資質を「あらゆる不正に対して積極的に反発す る心」「疑わしい意見や正しくない意見とたたかう」ことと位置づけており、. 単に社会を理解するだけでなく、社会に対して積極的に働きかけていく能動 的で強靭な主体がその公民像であったといえる。. 伊東亮三氏も、「戦前のような無批判に国家に盲従する国民の育成ではな く、積極的に自分たちの属する共同社会に参加して、その社会を進歩向上さ せる公民の育成をねらう、民主社会の公民教育そのものであった。」13)と 評価している。. (3)公民的資質の中核としての国民的資質. 昭和45年度版r中学校指導書 社会編』では、公民とは「参政権をもっ て主権の行使に参加する国家構成員」であり、「国民主権の原則にふさわし い国民の資質」を公民的資質と定義づけている。そして、公民的資質の中核 として次の5点をあげている。14). (ア) 国民主権の原則にふさわしい国民になろうという自覚. 一15一.
(20) (イ) このことと深い関連があるが、自分たちが、地域社会および国. 家のにない手であるとの自覚とその発展に尽くそうとする態度 (ウ) これらの自覚に基づく政治・経済・社会・国際関係などに関す る豊かな教養 (エ) 自由・権利と社会的責任・義務についての正しい認識 (オ) この認識に基づいて権利・義務の主体者として自主的に行動す るための諸能力. また、平成元年玉出r中学校学習指導要領「社会」』公民的分野の目標 (1)でも、「個人の尊厳と人権の尊重の意義、特に自由・権利と責任・義 務の関係を広い視野から正しく認識させ、民主主義に関する理解を深めると. ともに、国民主権を担う公民として必要な基礎的教養を培う。j15)と記述 され、責任・義務の強調とともに、地域社会や国家の発展に尽くすことが重 視されている。. 高山次滑跡は、昭和23年度版r補説』の公民像が、「個人主義的自由主 義的で、近代市民社会を構成する“市民”」とすれば、昭和44年度版・学 習指導要領の公民像は、「近代市民的特性がいちじるしく弱め」られており、 「近代市民的特性を強調するものとしてr市民的資質』概念が用いられる必 然性がある」と指摘している。16). (4)社会科の目的である市民的資質の育成 「国民主権を担う公民として必要な基礎的教養」を重視する社会科は、社 会的矛盾から眼をそらし人々の協力関係を強調したり、現実の矛盾に眼をお おい、きれいごとやたてまえだけに注目したり、道徳的態度の育成をめざす 社会科に陥りやすい。. この点について、伊東氏は「現代の政治体制を肯定させ、支配階層が望ま しいと考えるよい国民を育てることに陥りがちである。国民の権利よりも義 務を、国に対する批判よりも愛情を強調する結果となりやすい。」17)と危. 一16一.
(21) 惧し、また、高山氏は、公民的資質の基礎を養う指導要領社会科のねらう学 力の本体は「国民主権を担わされ、行政主導の政策の遂行に進んで協力ある いは追従する態度・心情と社会常識であって、参加し批判し実践し自己と社. 会を革新する市民のたあの科学的で主体的な社会認識ではない」18)と批判 している。. 生徒の人権意識が希薄な現状、および利益社会に一甘んじている日本の現状. を考えると、国民的資質を公民的資質の中核に設定することは、自由や権利 を主張するよりも責任・義務を果たすことを重視する、支配者にとって都合 のよい国民を育成する危険性がある。. わが国の近代化の過程の中で自治的団体意識や主権者としての権利意識を もつ能動的な市民意識が育たず、政治権力組織である国家の一員としてのみ 国民が位置づけられてきた歴史的事情から、伊東氏は「公民という概念を用 いる場合に、市民社会の権利主体としての側面を強調することが社会科教育 を実践する上で大切なこと」19)だと指摘し、市民的資質を公民的資質の中 核に設定する必要性を述べている。. 以上のことから、本研究では市民的資質を公民的資質の中核に設定し、「社 会認識を通して市民的資質を育成する」20)ことを社会科の中心概念として 定義する。. 3.リーガルマインドを育成する法学習. 渡辺洋三氏の研究を手がかりにリーガルマインドの概念を定義し、市民的 資質の中核としてのリーガルマインド育成の具体的方策を検討する。. (1)リーガルマインドの概念 渡辺氏は、リーガルマインド育成の要件として、次の2点を指摘している。. 一17一.
(22) 一つは、常に実際の社会生活の中から起こってくる問題のうち、法律によっ て処理しなければならない問題を「法律問題」と定義づけ、実際の世の中の 具体的問題を抜きにして、ただ法律の条文をだけを突っつきまわすような学 問は「ことばの遊び」であって、法学とは言えないと述べ、「法律という窓 をとおして実際の事実を見るのではなく、実際に起こっている、あるがまま の事実をよく検討し、その中から『法律問題』を見つけてゆくことが大切な のである。」2’1)と指摘している。. もう一つは、具体的事実に即すると共に、法的思考力によって裏打ちされ た道理にかなう正常で健全な目をもつことの必要性である。道理にかなう正 常で健全な目というのは、「第三者の立場で、自らの主体的責任において結 論を出さなければならない」22)ことに特徴があり、弁護士や検察官が実現 を要求する利益・価値があらかじめ決まっているのに対し、当事者の利益・ 価値と異なる裁判官独自の判断のことである。. 裁判官独自の判断とは、どういう判断であろうか。この点について、渡辺 氏は次の2点を指摘している。 一つは、当事者双方の言い分をよく検討して、「その中からどちらの主張 が、より妥当であるかを判断すること」23)である。. もう一つは、憲法の基準にもとづいて判断することである。憲法76条に は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法 及び法律にのみ拘束される。」という規定があり、良心に従い、独立して裁 判することが必要である。裁判官の良心は人によって異なりうるものであり、 下級審と上級審の間でも判決の対立が生じる場合がある。その場合、制度的 には最上級審である最高裁判所裁判官の良心に頼って決着をつけることになっ ているが、国民大衆の生活感覚や正義感を代表した判決を出すことが大切で ある。つまり、「裁判官の良心とは、国民の良心を代表するもの」24)でな ければならない。. 以上のことからリーガルマインドとは、具体的事実から出発し、問題点を. 一18一.
(23) 緻密に分析して論理的に一つの妥当な結論を組み立てて行く能力だといえる。. (2)リーガルマインド育成の具体的方策 ①市民的資質の育成としての社会科 リーガルマインドを育成する社会科は、社会科学そのものを教えることを 目標とする社会科ではなく、社会科学とは深くかかわるが市民的資質育成と いう目標に社会科の存在理由を求める社会科である。つまり、裁判所の機構 や裁判の結果を教え込むことにとどまるのではなく、裁判を通じて思考力や 判断力の育成をはかるものである。. その際、市民として要求される規範や態度を教え込み注入するのではなく、 価値を固定せずに様々な角度から総合的に判断する能力を育成することが大 切である。. ②人間社会の恒常的な論争問題の設定 リーーガルマインドを育成する社会科は、恒常的な論争問題を設定する必要. がある。恒常的な論争問題とは、一方を立てれば他方が立たなくなるという 比較衡量の対象となる問題であり、社会的論争問題の中でも時代が変わって も続く永続的な問題のことである。「基本的人権と公共性」の論争、「基本 的人権と基本的人権」の論争などがあげられる。. 伊東氏は、社会科の授業に組み込むべき社会的論争問題は「時代が変わっ ても続く人間社会の恒常的な問題」であると指摘し、具体例として「基本的. 人権と公共の福祉」の論争をあげている。その恒常的な問題が「いま」現象 として現れたものが大阪国際空港公害訴訟であり、「基本的人権と公共の福 祉」を学習する場合の材料にすぎないとしている。25). あくまでも、大阪国際空港公害訴訟という現象的な問題を通して、「基本 的人権と公共の福祉」という基本的な問題をとらえることが大切である。. 一19一.
(24) ③判例を取り上げた人権学習 判例とは、価値と価値の対立を調整することを試みた事例であり、判決内 容を探求して行くことによって、「基本的人権と公共の福祉」のような基本 的な問題を裁判官がどのように調整し、判断を下したのか明らかになる。そ の際、対立する判決を取り上げることが必要となる。同じ事実から異なった 判決が下される過程を探求することによって、それぞれの判決が取った論理 構成が把握できる。その後、生徒が自ら判断を下すことによって、事実認識 に基づく合理的判断が行われる。. 以上の点から、リーガルマインドを次のように定義づける。. リーガルマインドとは、. 「法的論争問題を探求し、合理的に判. 断ずる能力」である。. 《註》. 1)川島武宣r日本人の法意識』岩波書店、1980、p.58 2)渡辺洋三r法を学ぶ』岩波書店、1992、p.225 3)川島、同上書、p.30. 4)渡辺洋三r法とは何か』岩波書店、1992、p.107. 5)梶哲夫rr公民的分野と改称すること』をあぐって」r教育科学社会科 教’育』明治図書、1968・9、p.10. 6)渡辺、前掲2、p.227 7)渡辺、前掲2、pp.2−3 8)渡辺、前掲2、pp.210−216. 9)文部省r中学校学習指導要領』明治図書、1989、p.23 10)文部省r小学校指導書 社会編』大阪書籍、1969、p.2. 一20一.
(25) 11)伊東亮三「公民的資質とは何か」r社会科における公民的資質の形成』 東洋館出版社、1984、p.20. 12)文部省r小学校 社会科 学習指導要領補説編』東京書籍、1948、 pp. 4−6. 13)伊東、前掲論文、p.23. 14)文部省r中学校指導書 社会編』大阪書籍、1970、pp.274−275 ’1 5)文部省、前掲9、p.37. 16)高山次嘉「『社会認識を通して市民的資質を育成する』の吟味」 r社会 科教育学研究:1』明治図書、1975、p.77 17)伊東亮三「公民的資質育成に関する問題を考える」『教育科学社会科教 育』明治図書、1978・1、p.22. 18)高山次嘉rr公民的資質の基礎』的学力像への批判」 r教育科学社会科 教育』明治図書、1979・1、p.24 19)伊東、前掲12、p.18. 20)内海巌「社会認識と市民的資質の形成」 r社会科教育学研究:1』明治 図書、1975、p.16. 21)渡辺洋三r法律学への旅立ち一リーガルマインドを求めて一』岩波書店、 1990. pp.2−4. 22)渡辺、同上書、p.183 23)渡辺、同上書、p,184 24)渡辺、同上書、p,186. 25)伊東亮三「高校新科目丁現代社会』の社会科教育学的考察」『社会科研 究』30号、ユ982、p.176. 一21一.
(26) 第2章 公民的分野における法学習の 分析白勺考察. 本章では、学習指導要領・教科書・先行授業実践をリーガルマインド育成 の視点から考察する。. 第1節 学習指導要領における法的内容の取り扱い. 本節では、中学校社会科学習指導要領第3学年の内容から法学習にかかわ る内容を取り上げ歴史的に考察する。参考のために、過去の中学校社会科学 習指導要領第3学年の内容:項目一覧表を作成した(p.44の表12)。. 1.学習指導要領の各期における法的内容の分析. (1)昭和22年度版の特色 昭和22年度版学習指導要領1)における法的内容の取り扱いを整理(表5) し、分析する。. ①法的内容の取り扱い. 表5 昭和22年瓦版における法的内容の取り扱い 単元一「われわれは、:過去の文化遺産を、どのように、うけついで来ているであ. ろうか。」 教材の排列 (五)わが国の文化的遺産は、どのように受け継がれ変化して来たであろうか。. 一22一.
(27) (4)法律や政治の諸制度にみられる変化。 (イ)立法機構と法典. 学習活動の例 (一〇)わが国の法律制度を歴史の書物によって調べ、それがどのように発達して 来たかを比べて学級に報告すること。 一単元二「(ロ)宗教は、社会生活に対して、どんな影響を与えて来たか。」 目標. (一一)信教の自由の必要とそのために過去の人々がいかに戦かって来たかを認識 すること。. 教材の排列 (四)宗教と民主主義とはどのような関係をもっているか。. (1)個人の自由と人権の尊重とに対して、ある宗教はどのような関係をもってい るか。. (3)信教の自由とはどういう意味であろうか。また、信教の自由と民主主義とは どのような関係をもっているか。 (イ)日本における信教の自由. (の民主主義と宗教 学習活動の例 (一八)信教の自由を求めて戦かった入門のうちからひとりを選んでその人につい て短い伝記を書き、それを学級で朗読すること。. (一九)なぜ信教の自由は必要なのであろうか。日本では、信教の自由はどんな発. 展をして来たか。明治憲法にも信教の自由について明記してあるが、新憲法 であらためて、これを強調しなくてはならなかった理由について討議するこ と。. 学習効果の判定 (五)生徒は、新憲法による信教の自由を正しく認識しているであろうか。学校生 活における態度や活動を観察して評定すること。 単元三「われわれの政治は、どのように行われているであろうか。」 目標. (一)新憲法の原則と諸条項とを理解させ、それを日常の生活に実践する意志を養 わせること。. (七) (中略)新憲法の原則に従って、政治の現状を、批判的に自主的に判断する. 一23一.
(28) 能力を、発展させること。. 教材の排列 (三)国民の政治生活は、どんな歴史的背景を持っているか。 (2)なぜわれわれは、新憲法を制定したか。 (イ)軍国主義と絶対主義. (の民主化の歴史的必然性 (め軍国主義の崩壊と戦争放棄 (二)国民の決意 (四)われわれは、どうして民主的な目的を、日常生活に具現したらよいか。・ (1)新憲法の原則を、どう理解したらよいか。 (イ)主権在民. (の戦争放棄 (ハ)基本的人権. 学習活動の例. (五)自分の学校に適用される国・県・その他の法令を集めて研究すること。それ らを討議して、一つ一つの規定が、学校に及ぼす影響を正確に調べてみること。. それらの法令の範囲内で、できる改良について考え、それから明らかに現在の 規則を変えた方がよいと思われる例について、考えてみること。 (九)学校の生徒は、かならず学校の規則を守るだろうか。市・区・町・村の人々. が、その市・区・町・村の規則を堅く守ることによってもたらされるいろいろ. な利益を挙げて、学級で表にすること。もし現在のわれわれを統制しているい ろいろの規則が、全部なくなったとしたら、そこに起ると思われる混乱を挙げ てみること。規則や法律はなぜ時代の変化とともに、改良され、進歩していか なくてはならないであろうか。 (二二)逮捕・拘引は、どうして行われるかを.調べること。(憲法三十二・三十四・. 三十五条参照)。罪の確証を得るたあに、拷問の方法が現在用いられている か、過去はどうであったかを調べること。被告と証人から証言を得る仕方は 他国で用いられているのと同じであろうか。(憲法三十六・三十八条参照) (三十)(中略)知事の職は、現在どうなっているか、新憲法のもとではどうなる. かという問題を、学級で討議すること。もしできれば、府県民に対する恩恵 という点から、この数年になしとげられた仕事の記録を、研究すること。新 憲法は、府県の公務員の身分に、どんな変化を与えるか。 (三四)明治憲法が、外国の影響を受けている点について調べてみること。 (例え. ば、プロシア・イギリス・合衆国・フランスなど)。 (三五)明治憲法について、特に、次の点を明らかにし、学級で討議すること。 (1)立憲君主制。 (2)代議政治組織。. (3)天皇権と三権分立。. 一24一.
(29) (4)政党政治。. (5)国民の権利と義務。. (三六)明治憲法が発布されてから、:最近に至るまでに行われたその精神に反する. 事実を、歴史的に挙げてみること。その理由を討議すること。満州事変から 太平洋戦争までの間を、特に、注意して調べること。なぜ日本はこの憲法の もとで、民主的な生活や政治に達することができなかったのか。なぜ日本は、 昭和二十一年に新憲法を制定したのであろうか。どうして明治憲法は、不十 分だったのであろうか。 (三七)新聞・週刊及び月刊雑誌、パンフレット・書物、その他の刊行物で、新憲 法の問題を取り扱ったものを学級でできるだけ集め、「新憲法発布記念学級 文庫」を作ること。特に、新聞に発表された憲法に関する記事の切り抜きを 作ること。また、文献目録を作ること。 (三八)学級内に、「新憲法研究委員会」を組織して、定期に会合して憲法の研究. とその実践について、相談すること。委員は、学校にその結果を報告し、報 告ののち、学級で自由討議をさせること。 (三九)新憲法の全文を読んで、重要だと思われる条項にしるしをっけ、学級に報. 告すること。新憲法と明治憲法とを読み合わせてみること。どちらがわかり 易くできているかを比較すること。わかり易い憲法の長所を挙げて、グルー プで討議すること。 (四十)地方で、憲法にくわしい学者か法律家か代議士を招いて、新憲法の精神に. ついて話を聞き、その後で、質疑応答をする計画を立ててみること。 (四一)委員を選んで、第九十回憲法審議議会の議事録を官報によって調べること。. 重要な点や、憲法正文によっては明らかでない箇所を、それによって確かめ ること。その結果を学級に報告して、討議すること。 (四二)現代の他の国家の憲法の研究をするために、委員を選ぶこと。個々の場合. に当たって、日本の新憲法を、他の憲法と比較してみること。 (四三)学級に憲法前文を研究する委員会を組織し、明治憲法と比較しながら、そ の重要な点を明らかにし、学級に報告して自由討議を行うこと。特に、次の 点を中心として、 (1)民主主義. (2)戦争からの解放 (3)主権在民. (四四)第一章天皇の項を研究する委員会を設け、新憲法の規定のもとにおける天. 皇と国民の関係を定義してみること。特に、「象徴」としての天皇の地位に ついて、十分研究すること。これを学級に報告して、討議すること。 (四五)第二章国民の権利及び義務の項を研究する委員会を設け、従来の憲法に比 べて、権利条項の発展したあとをたどること。新憲法の中から、権利条項と いわれる箇所を取り出すこと。おのおのの権利が、義務と責任とを同時に含 んでいる状態を図によって示すこと。自分が十分に責任を果たすことのでき る方法について、討議すること。そのような権利は、なぜ自分にとって重要 一25一.
(30) なのか。 (四:六)憲法の各章(特に、一・二・四・五・十など)を参照し、新憲法において. 規定された日本の政治の姿を、イギリス及び合衆国のそれと比較すること。 (四七)第三章戦争の放棄の項を朗読して、憲法前文と対照しながら自由討議を行 うこと。 (四八)国の憲法を模範として、試みに校務に関する根本規則を書いてみること。. この場合、国の憲法に保障された権利を、侵害しないように、注意しなけれ ばならない。. (五八)憲法の内閣に関する部分を、学級で朗読すること。グラフを用いて、内閣 と議会の関係を図解すること。各大臣の職責を明らかにした表を作ること。 学習効果の判定 (六)生徒は新憲法の重要な条項を説明できるようになったか。筆記考査によって、 吟味すること。. (七)生徒は、基本的人権の重要性、及びその内容を理解しているか。これは他の 生徒に対する生徒の行動を観察して、きめるがよい。 単元四「職業の選択に際し、また職業生活の能率をあげるために、どんな努力を しなくてはならないか。」 目標. (二)特殊目標. (8)職業の自由な選択には幾多の制限があることの理解。それらの制限がいかな るものであるかの顧慮。 教材の排列 (五)就職後の諸問題に対して、どうずればよいか。 (4)労働保護と労働問題。 (労働組合法・労働基準法等). 学習活動の例 (二)昔の職業生活. (3)江戸時代のおもな職業には、どんなものがあったか。また、その特色はどう. いう点にあったか。家業や職分ということは、当時どんな重要な意味を持って いたであろうか。「封建社会における職業」という題で討論すること。このよ うな職業上のしきたりは、明治になってどのように変化したであろうか。新憲 法第二十二条に「職業選択の自由」とあるが、これを以上の歴史的な事情にて らしてその意味を明らかにし、学級に報告すること。 (一二)職業の選択と就職. (17)青少年労働及び婦人労働を保護する立場から、政府はいかなる手段を講じて. いるか、どんな法規を施行しているか、調べること。労働基準法を調べて、労「. 一26一.
(31) 働保護について研究し、学級で討議すること。. 単元六「個人は、共同生活にうまく適合して行くにはどうしたらよいであろう か。」 目標. (二)特殊目標. (9)個人はある基本的人権を持つものだということの理解を深めること。. 教材の排列 (一)なぜわれわれは、個人の重要なことやその価値を重んじなくてはならないの であろうか。 (1)個人の本性. (ホ)個人の基本的人権. 学習活動の例 (一二)一日、すべての生徒が、他の生徒の権利を全然顧みないようなことが起こ つたなら、自由たちの学校でどんなことが起こるか、想像してみること。. 学習効果の判定 (六)生徒の示す他人の権利の尊重q念、あるいはその不足についての証拠を記し ておくこと。. ②分析. 昭和22年6月22日に公表された「学習指導要領社会科編([[)」(試 案)では、中学校第一学年(第七学年)から高等学校第一学年(第十学年) までを「一般社会科」として総合的にとらえている。. そこでは、生徒の経験を中心として学習内容を大きい問題(単元)に総合 してあり、教科内容を系統だてない問題解決学習が方法として採られている。. 法的内容は、単元一∼六のうち単元一・単元二・単元三・単元四・単元六 で扱っているが、特に、単元三「われわれの政治は、どのように行われてい るであろうか。」で中心的に扱われている。要旨の中では、「戦争を放棄し、. 基本的人権を強調した新憲法は、わが国の現状から見れば、われわれ国民の. 一27一.
(32) まじあな目的を表わし、国民の決意を反映している。われわれはこの憲法の 原則を、できるだけ早く実際に日常生活の中に生かすように、最:善をつくさ なくてはならない。」と述べている。また、それを受けた目標(三)でも、 「新憲法の原則と諸条項とを理解させ、それを日常の生活に実践する意志を. 養わせること。」と述べており、ここに示されている法学習の在り方は条文 解釈などの知識中心の学習ではなく、日常生活の経験のなかに憲法の原則を 生かすという経験的、実践的なものを目指している。. 以上の趣旨を具体化する手段として学習活動の例が示され白いる。「新憲 法発布記念学級文庫」を作ったり、「新憲法研究委員会」・一天皇の項を研 究する委員会」・「国民の権利及び義務の項を研究する委員会」を組織して 討議させるなど、民主主義社会の建設のために理解を求めるだけではなく、 直接実践することを求あている。. (2)昭和26年度版の特色 昭和26年度版学習指導要領2)における法的内容の取り扱いを整理(表6) し、分析する。. ①法的内容の取り扱い. 表6. 昭和26年度版における法的内容の取り扱い. 第1単元「われわれは民主主義を、どのように発展させてきたか1 内容. 2.民主主義のたいせつな要素としては、どのようなものが考えられるか、そし てわれわれの憲法はこれらのことについてどのようなことを定めているか。 (1)基本的人権. (2)自由、平等、協力. (3)公共の福祉. (4)問題の平和的解決など. 4,わが国の民主主義はどのように発展しつつあるか。 (3)明治憲法によってわが国の民主主義はどのような特色をもったか。. (5)新しい憲法の成立は、わが国の民主主義の発展にどのような意味をもってい るか。. 一28一.
(33) 学習活動の例. 3.民法などを調べてみて、わが国の家庭において、女性の地位がどのように改 善されたか。それが家庭生活や社会の民主化にどのように重要であるかについ て論文をかく。. 5.日本国憲法の中で基本的人権について定めてある部分を調べて、それを先生 からわかりやすく説明してもらう。. 7.「何でも自分のしたいことをするのが自由である。」と考えることははたし て正しいかどうかを討議し、これから自由・平等についての正しい考え方の結 論を得て、先生からこれに対して批評してもらう。さらに日本国憲法には自由・ 平等の精神がどのように定められているかを調べる。. 9.個人の自由と公共の福祉ということについて書いてある本を読む。. 10.暴力に訴えて問題を解決することがどうして悪いかについて討議する。また 今日では種々な社会問題の解決は、おもにどんな手段でおこなわれているかに ついて話し合う。. 3ユ.わが国の新しい憲法と明治憲法を比較して、民主的になった点を明らかにす る。. 38.新聞や雑誌の記事で、人権侵害事件としてどのようなことが取りあげられて 来たかを調べる。. 39.憲法の中で、人権について、どのようなことが定められているかを調べ、人 権の尊重がどんなにたいせつであるかについて話し合う。. 評価の例. 2.次の事項についての知識・理解はどの程度に明確になったか。またそれを有 効に利用することができるようになったか。 (2)原則・事実・特色などの例 (b)自由・平等の意義、およびその誤解されやすい点。 (c)日本国憲法に示されている民主主義の要素。 (d)民法に表わされた民主主義の要素。. 第2単元「われわれの政治は、どのように行われているか」 目標. 2.政治のしかたの歴史的発展を通して憲法の趣旨の理解。 内容. 3.われわれの憲法は現在の政治のやり方の原則について、どのように定めてい るか。. (2)主権在民の原則はどのように発展してきたか。. 一29一.
(34) 学習活動の例. 17.明治憲法(大日本帝国憲法)と日本国憲法とについて、憲法をつくったのは だれか、主権を持っているのはだれか、などを調べる。. 18.憲法の前文を読んだり、参考書を読んだりして、われわれの憲法はどんな考 えに基いてつくられているか話し合う。. 19.農地改革・財閥解体・婦人参政権・学校制度の改革・民法の改正・警察制度 の改正など、終戦後の民主的な改革だと思われることがらをあげ、それらが、 憲法の精神や原則とどのように結びついているかを調べて報告する。. 20.天皇の地位について日本国憲法が規定している条文を調べ、その条文の精神 について、昔とちがう点を話し合う。 21.「人民の、人民による、人民のための政治」・というリンカーンのことばが、 日本国憲法にはどのように生かされているか、前文について調べる。. 27.大日本帝国憲法における立法・司法・行政の三権は互にどんな関係にあった かを先生から聞き、日本国憲法における規定とどのようにちがうかを調べる。. 30.明治維新後、府や県などの地方自治はどのように発達してきたかを歴史の書 物などを参考にして調べる。そして地方自治法に基く現在のやり方は、それ以 前の政治に比べて、知事の選び方や知事と都道府県民との関係などはどのよう にちがうかを比べる。. 34.日本国憲法によれば、国会は国権の最高機関であると規定されているが、そ れはなぜか、その理由を主権在民の立場から説明する。. 36.衆議院の権限が参議院の権限よりまさっている点を憲法の条文で調べ、二院 制度の特質について話し合う。. 37.法律案の提出から法律となって公布されるまでの順序を箇条書にする。. 41.東京都に関する首都建設法のように、自分の属する地方公共団体だけに関す る法律が国会でつくられたことはないかを調べ、「一般投票権」が認められて いるわけと、それを行使する場合とを説明する。また直接請求権とどうちがう かも調べて報告する。. 57.憲法の精神を社会の人々に知らせる作文やポスターなどをつくって一般に公 表する。. 評価の例. 2.次の事項についての知識・理解はどの程度に明確になったか、またそれを有 効に利用することができるようになったか。 (2)原則・事実・特色などの例. (e)憲法制度の根本原則、および旧憲法と新憲法制度の態度の重要な違い。. 3.次のような態度・能力・技能が養われっっあるか。 (a)機会があるごとに憲法を調べようとする。. (b)国民の権利と義務について、生徒の立場においてこれを具体的に考える。 第4単元「われわれは、文化遺産を、どのように受けついでいるか.. 一30一.
(35) 内容. 4.宗教は古くから人間生活に深い関係をもっている。 (4)信教の自由と民主主義とはどんな関係があるか。. 学習活動の例. 36.次のことばの内容をよく示す歴史上の事例をあげ、信仰の自由と民主主義と の関係について話し合う。また日本国憲法には信仰の自由についてどのように 定めているかを調べてみる。 宗教裁判・破門・踏絵・殉教など。. 評価の例. 2.次の事項について知識・理解はどの程度に明確になったか、またそれをどの 程度に有効に利用することができるようになったか。 (3)事実・特色などの例. (i)世界人権宣言と日本国憲法に示された信教の自由の原則. 第5単元「われわれは、どのようにして世界の平和を守るか」 学習活動の例. 32.憲法を読み、平和について規定してある条項を選び出し、その意味について 先生から話を聞き、この精神を自分たちの日常生活に生かすには、どうしたら よいかを討議する。. 評価の例 2.次の事項についての知識・理解はどの程度明確になったか。 (2)原則・事実などの例 9.日本国憲法および教育基本法に盛られている平和精神。. ②分析. 昭和26年度版学習指導要領の中学校社会科第3学年は、「民主主義の発 展」を主題とし5っの単元で構成されている。そのうち第1単元・第2単元・. 第4単元・第5単元の4つの単元で法的内容が取り扱われているが、特に第 1単元「われわれは民主主義を、どのように発展させてきたか」と第2単元 「われわれの政治は、どのように行われているか」では法学習が中心に取り 扱われている。 一31一.
(36) 第1単元の要旨において、「学校は民主主義の生きた実習室となって、民 主主義の原理を理解し尊重して、これに基づいて実践するように新しい世代 の人々を訓練する義務がある。」と述べており、身近な社会の民主化への実. 践的努力を重んじている。方法としては、昭和22年度版と同じく単元構成 による問題解決学習が採用されている。. 目標2では、「政治のしかたの歴史的発展を通して憲法の趣旨の理解」と 記述しており、それを受けて学習活動の例では大日本帝国憲法と日本国憲法 の比較、あるいは民主主義発達の歴史的理解を通して日本国憲法の歴史的意 義を把握させようとしている。. (3)昭和30年度版の特色 昭和30年度版学習指導要領3)における法的内容の取り扱いを整理(表7) し、分析する。. ①法的内容の取り扱い 表7. 昭和30年度版における法的内容の取り扱い. (1)具体目標. 1.近代における民主主義の発展が人間性を高め、人間的幸福にあずかる人々. の範囲をだんだん広めてきたこと、民主主義の諸原則を生かすことがわれわ れの幸福に密接な関係があることを理解させ、そのために努力しようとする 熱意を養う。. (5)世の中が進歩するに従って、個人の自由や幸福が平等に守られていくもの. であるが、そのためには法や規律を守り相互扶助・社会連帯の実があがらね ばならないこと、また常に自分の属している集合全体の福祉と向上を念願し て行動するのでなければ、自分自身の幸福も得られないということについて、. 日常生活に関係のある制度や事例を通して理解させるとともに、その精神を 日常の生活に生かそうとする熱意と態度とを養う。 2.政治・経済・社会のしくみやはたらきがわれわれの生活に密接に結びつい. ていること、民主主義の実現を目ざしている今日ではそれらはどのようにな っているかについて理解させ、またどのように進あていったらよいかについ て考えさせる。 (1)日本国憲法の大要について理解させ、国や地方における現在の政治のしく. 一32一.
(37) みやはたらきについての基礎的知識の理解をもととして、われわれ国民のひ とりひとりが、政治の実際について責任を感じ、政治をよくするための知識 や態度をみがくことによって、政治がよくなるものであることに気づかせる。 6,学校・家庭および広く国家・世界の一員として望ましい生活のあり方を理 解するとともに、人間生活の意義や人生の問題などについて深く考えるよう な態度と習慣とを養う。. (1)自分の考えをはっきり述べ、その権利を主張し、個人の自由を守るととも. に、公共の立場に立って自分の責任を遂行することが民主的社会人として最 もだいじな行為であることを考えさせ、自覚ある個入の確立ということに努 力させる。. (2)内容. 1.近代民主主義の発展と人間生活 民主主義の社会は、人々が基本的人権を尊重し、人間の自由・平等・責任 について考え、公共の福祉のために人間の権利と義務を行使して、問題を平 和的に解決しようと努力することによって実現するものであり、そのたあに は、法律や規律をつくり、それを守ることがたいせつであることを理解させ る。. 2.近代における政治・経済・社会の構造と機能 日本国憲法における主権在民、基本的人権の保障、立法・行政・司法の三 権分立の民主政治の原則や、平和主義や天皇の地位などの憲法の特色につい て理解させる。. 6.生活態度と人生 民主主義的生活は個人の自由や権利を保障するものであるだけに、個人が 社会生活を正しく送るためには、深く自分の責任を感じ、自己を反省して真 に尊厳に値する自己を確立することが必要である。. ②分析. 「試案」の文字が削られた昭和30年度版学習指導要領では、. 「系統だて. て理解させる」ことが社会科の目標に述べられている。これを受けて中学校 社会科では、地理、歴史、政治・経済・社会の三分野に分けて学習させる立 場を採った。. 法的内容は内容1∼6のうち内容1・2・6で扱っているが、教育方法の 側面では今までの問題解決学習から系統学習へと論理を転換させ、学習内容 も問題単元ではなく項目で示されるようになった。 一33一.
(38) 法学習の内容については、昭和26年度版で見られたような大日本帝国憲 法との比較を通しての日本国憲法の歴史的把握などがなされておらず、日本 国憲法の本質的な理解については不十分である。また、天皇の地位について の理解が取り上げられている。. (4)昭和33年度版の特色 昭和33年度版学習指導要領4)における法的内容の取り扱いを整理(表8) し、分析する。. ①法的内容の取り扱い. 表8. 昭和33年度版における法的内容の取り扱い. 1 目 標 (1)民主主義を実現し人権を尊重することが、人間性の向上やわれわれの幸福. に密接な関係があることを理解させ、そのために努力しようとする態度を養 う。. 2 内 容 (1)近代社会と民主主義. 近代民主主義の原則. 民主主義の社会は、人々が人権を尊重し、人間の自由・平等・友愛・正義 について考え、公共の福祉のために権利と義務を行使し、寛容の精神と協調 の態度によって問題を平和的に解決しようと努力することにより、実現され るものであることを理解させる。 (2)民主政治の組織と運営. 日本国憲法と民主政治 日本国憲法の大要に触れ、国や地方の政治のしくみと働きについての理解 をもとにして、主権が国民にあることについての自覚を高める。 「日本国憲法と民主政治」については、日本国憲法は、基本的人権の尊重、. 平和主義、国民主義、三権分立、代議制、議院内閣制などの基本的な原則に 基いていることを認識させ、あわせて、天皇の憲法上の地位について理解さ せる。. (4)現代の社会生活と文化. 家族生活. 「家族生活」については、家族の社会集団としての機能を理解させ、民法 一34一.
(39) にも触れながら家族生活のあり方について考えさせる。. ②分析. 教育課程の全面改訂となった昭和33年度版学習指導要領は、文部省告示 という形で公にされ法的拘束力をもつようになった。第1学年地理的分野、. 第2学年歴史的分野、第3学年政治・経済・社会的分野と学年別の分野別学 習が確立した。生活経験主義に対して系統主義が強化され、問題解決から系 統的知識の習得に傾斜している。. 法的内容については、内容(1)∼(6)のうち内容(1)・(2)・ (4)で扱っているが、憲法をめぐる争点に触れることを避け形式的理解に とどまっている。民主主義の原則として、人権の尊重、自由・平等・友愛・. 正義、公共の福祉、寛容の精神と協調の態度、問題の平和的解決をあげてい るが、民主主義の要素に抽象的な徳目が加えられ、民主主義は個人的な心構. えを説くものになっている。また、昭和30年度版に続き、天皇の憲法上の 地位についての理解が取り上げられている。. (5)昭和44年度版の特色 昭和44年度版学習指導要領5)における法的内容の取り扱いを整理(表9) し、分析する。. ①法的内容の取り扱い. 表9. 昭和44年度版における法的内容の取り扱い. 1 目 標 (1)個人の尊厳と人権の尊重の意義、特に自由・権利と責任・義務の関係を正. しく認識させて、民主主義に関する理解を深めるとともに、国民主権をにな う公民として必要な基礎的教養をつちかう。. 2 内 容 一35一.
(40) (1)家族生活. イ 家族制度 改正前の民法のもとにおける「家」の制度、日本国憲法の制定と民法の改 正、親族・婚姻・親子・扶養・相続など現行民法の家族についての規定のあ らまし、家族の構成と形態などの学習を通して、個人の尊厳と両性の本質的 平等を原理とする現在の家族制度について理解させる。その際、戸籍や出生・ 婚姻その他の届け出の意義にも触れる。 (2)社会生活. ア 職業と生活. (中略)勤労が国民の権利であるとともに義務であることや、職業選択の 自由が保障されていることの意義についてもその理解を深め、正しい勤労観 や職業観の基礎を育てる。(中略)また、職業分化の傾向の傾向の増大、組 織化や機械化の進んだ職場の特色、労働組合の意義および労働基準法の精神 について理解させる。 (4)国民生活と政治. 日本国憲法の基本的原則、人権の尊重と法の支配、議会制と権力分立、選 挙と政党、国際政治と平和の学習を通して、すべての人が、自由で豊かな生 活をすることができるような社会や国家を建設し、さらに進んで世界の平和 と人類の福祉に貢献しようとする意欲と態度を養い、国民主権をになうにふ さわしい公民として必要な政治的教養の基礎をつちかう。 ア 日本国憲法の基本的原則. 日本国憲法が西欧近代民主政治の影響を受けていること、また大日本帝国 憲法を全面的に改正したものであることなどに触れながら、基本的人権の尊 重、国民主権および平和主義の基本的原則を理解させる。また、日本国およ び日本国民統合の象徴としての天皇の地位と天皇の国事に関する行為につい て理解させる。なお日本国憲法が国の最高法規であることの認識を深める。 イ 人権の尊重と法の支配 すべての人に自由で:豊かな生活を保障するためには、人権が尊重されなけ. ればならないことを認識させ、人権は法の支配によって保護されることを明 らかにするとともに、国民が法を守ることがたいせつであることを理解させ る。また、入権の内容については、生命・自由についての権利、政治的権利、. 社会的経済的権利などがあることを理解させる。なお、国民は不断の努力に よって自由および権利を保持しなければならないこと、また、国民はこれを 濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責 任を負っていることを理解させるとともに、人権尊重の実をあげるためには、 人間愛と寛容の精神が必要であることを考えさせ、人権に関する正しい意識 を育てる。その際、世界人権宣言にも触れ、人権についての理解を深める。. 一36一.
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